「けっこう仮面が捕まった!?」

SSS社員休憩室はざわめき立った。
警備員の長峰研一は唖然とした。
そんなことがあるのか、と思ったのだ。

先日の医学部事件はもちろん知っていた。
その件について、SSSの警備が甘かったのではないかと学園から抗議もあったらしい。
例によって、けっこう仮面が介入し、医療関係大学進学コースという、スパルタ学園のドル箱を
潰してしまったのである。
無論、医学部自体が悪辣な違法行為をしていたからに過ぎないのだが、けっこう仮面さえいなけ
ればあのまま無事に誤魔化せたのは確かだろう。

そういう情報はSSSにも入るし、抗議があったことも社長から直接聞いていた。
但し、医学部事件の際、不覚にもけっこう仮面が捕縛され、あまつさえ虐待されていたことまで
は伝わっていない。
それだけに、研一にはショックだった。
研一は、その一報を持ってきた同僚の森井に食ってかかるようにして聞いた。

「捕まったって、どこでだ!」
「な、なにいきり立ってんだよ、長峰」
「……」

そう言われて、研一は掴んでいた森井の制服の襟首を離した。

「で、どこでだ?」
「ああ、ここらしいぜ」
「ここ?」

森井の言葉に、横山という社員がびっくりしたように聞いた。

「どういうこったい?」
「さあな、詳しいことは知らん。ただ、ほら、学園で捕まった生徒をここまでしょっ引いて
訊問してるだろ。大方、それの救出に来たところを……」
「なるほどな」
「あるいは……」
「なんだ?」
「罠だったのかもな」
「罠?」

物知り顔でのたまう森井に、研一が聞く。

「こないだ社長が帰国してきたろ? そん時、本島に呼ばれて学園長に会ったらしいぜ。そこ
で直接、学園長から依頼されたのかも知れないな」
「……けっこう仮面捕獲を、か」
「そう。もしかしたら社長の方から言ったのかも知れないがな。ほれ、ウチが独立したがってる
ってのは知ってるだろ?」
「……」
「学園に恩を売るために、社長から申し出てけっこう仮面捕獲に乗り出したって線はあるだろうな」

事情通らしい森井の言を聞きながら、研一は顔が青ざめていくのがわかった。
そばで聞いていた横山が言う。

「それでか……」
「なんだ、何かあるのか」
「いやな、通信室のやつから聞いたんだけど、一昨日、昨日と、学園からヘリの要請が来てた
らしいぜ」
「ヘリ?」
「どうも学園長がこっちに来たがってるらしい。つーことは……」
「そうか、けっこう仮面を捕まえたから、直接取り調べたいってことか」
「まあな。けど、台風が荒れて一昨日、昨日はダメだったろ? 来るなら今日だろうな」

横山はそう言って窓の外を眺めた。
現在、午後9時。
もう真っ暗だが、天候は回復していた。
ヘタをすると上陸するかと思われたが、結局、掠っただけで通り過ぎた。
今は風もすっかり収まり、天空には月が明るく照っていた。
それを確認すると、研一は矢もたてもたまらなくなり、呆然とする同僚を後目に、席を蹴って
部屋を走り出ていた。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

スパルタ学園長、三度目の怒声が響いたのはその日の朝である。

「なんじゃと〜〜!!」

面の下の素顔も般若のようになっているに違いない。
頭巾の上からも湯気が出そうなほどであった。

「そりゃどういう意味じゃ、阿久沢!!」

一方の、電話の相手である阿久沢鋭介は、いささかウンザリしていた。
学園長の気持ちはわかるが不可抗力なのだ。

−何度も言わせるな、学園長。こっちのヘリポートが使用不能状態なんだ。
「使用不能だと? なぜじゃ、外は見事な快晴ではないか!」

学園長は振り返り、大きな窓から入る眩しいばかりの日差しに手を翳した。

−確かに台風は去った。天候は回復している。だが、ヘリポートがめちゃめちゃなんだ。昨日の
 大風で太い木が何本も倒れて、そいつがポートを塞いじまってる。それ以外にも、大小のゴミが
 一面に散乱してるんだ。別に珍しいことじゃない、台風が来ればどこだってそんなもんだろうに。
 そっちの具合だって似たようなものだろう?
「……」

確かに、学園の庭も寮庭も、樹木から吹き飛ばされた枝や葉が散らばっている。
門近くの桜が何本が傾いているとの報告も受けていた。
学園長の激情が収まったのを見計らって、阿久沢が続けた。

−おまけにヘリが一機傾いて、頭を突っ込んでる。こいつもどかさなきゃならん。船で来よう
  にも、港はもっとひどい有り様だ。繋留していたクルーザーが一隻、とも縄が千切れて桟橋
  に突っ込んじまってる。大損害だ。浜の方は何とかなるが、それにしたって漂着したゴミ
  だらけで危なくてしょうがない。オールのボートなら使えんこともないが、それで来るか?
「……」
−何度も言うが、もう一日待て。港もヘリポートもそれくらいかかる。ポートの倒木を片づけて
 ゴミを取り除き、使えるように整備するにはどうしたってそれくらいは必要だ。ヘリの撤去も
 同時にやる。そうすればセスナでもヘリでも使える。だから待つんだ。
「……」
−ヘリを倉庫に格納せずにいたのはこっちの手落ちだ。それは謝る。だから我々も全力でヘリ
 ポートの復旧に努力している。準備が出来次第、連絡するから……
「わかったわい。明日じゃ、明日の朝一番でヘリを寄こせ!」

学園長は吐き捨てるようにそう言うと、罪もない受話器を叩きつけた。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「……っう……はあ、はあ、はあ、はあ……」

けっこう仮面は早くも汗まみれになって呻いていた。
今日も膝立ちで脚を縛られている。
両手は横に拡げられ、それを天井フックで吊られていた。
相変わらず尻を突き出す姿勢である。

ヘリポートの整備のため、学園長の来るのがまる一日遅れることになった。
阿久沢にとっては願ったり叶ったりだった。
けっこう仮面の肉体は想像以上のものだった。
腿にも乳にも尻にも、見事なほどに肉と脂が乗っており、それでいて足首や腰はきゅっと締まっ
ている。

おまけに性的にも優れていて、全身至るところが敏感であった。
膣もアヌスも名器と言って良い。
挿入し、律動した時の感触がたまらなかった。
もう阿久沢は、けっこう仮面をいたぶって情報を聞き出そう、などという気持ちは消えていた。
そんなことは学園長が来てからゆっくりやればよい。
それまでは、役得とも言えるこの状況を楽しむべきだった。

そう割り切った阿久沢は、この日も浣腸していた。
二度ほど行い、排泄を眺めていた。
アナルセックスもしてやった。

阿久沢は海外留学時代に、アナルセックスの味を覚えた。
実は男もOKの両刀使いだったのである。
ホモも悪くはないと思ったが、やはり女を抱く方が良かった。
だが、ホモで覚えたのは、肛門性交の心地よさであった。

阿久沢は、入れられる方は嫌いだったが、入れる方は好きだった。
それでも、やはり女の方がよく、女でアナルを犯すのが好きだった。
昨日一度、今日も一度、けっこう仮面の肛門を犯していた。
昨日はローターで徹底的にアヌスをほぐし、快感を覚えさせた。
それでも昨日は痛がるばかりでとてもいけそうになかったが、今日はもう苦痛はあまり感じない
ようになっているみたいだった。
あと一押しで、尻でも絶頂に達することが出来るだろう。
そこまでやって、けっこう仮面を肉体的に陥落させたと思うのだった。

「い、いや……お尻はもういやです……」

香織は半泣きで言った。
どうしてこの男は、こうもお尻ばかりに興味を示すのだろう。
もちろん膣も何度も犯されたが、そっちはまだ我慢できる。
感じてしまうのはどうしようもなかったが、逆に、快楽に溺れてしまい、その時は恥辱を忘れる
ことが出来た。

しかし肛門を犯されるのは耐えられない。
うっすらと快感らしいものもあったが、それ以上に死にたくなるほどの羞恥がひどかった。
排泄器官としか思っていなかった箇所を凌辱の対象にされるというだけで、香織の頭は錯乱と
恥辱で、アヌスは阿久沢の肉棒の熱さで灼けた。
その阿久沢はしつこく香織の肛門を揉んでいた。
アヌスの皺を一本ずつなぞっていくような、執拗な嬲りだった。

「そういやがるな。これだけ柔らかくほぐれていれば、もうそれなりに快感はあるはずだぞ」
「……」

口ごもるけっこう仮面の肛門に、阿久沢はチューブを差し込んでいく。
その痛みにまた呻いた。

「痛っ、痛い! ……も、もう変なことしないで、ああっ……」
「こんな細いものが痛いものか。俺のペニスをあっさり飲み込んだくせに」
「いや、恥ずかしいっ! 言わないで……」

阿久沢はけっこう仮面をからかいながら、挿入したチューブをこねくり回して、そのアヌスを
嬲っている。
収縮性のあるそこは、早くもヒクヒクと蠢いていた。
細いチューブの元には、点滴台に吊られた容器につながっている。
イルリガートル浣腸だった。

「ひいっ……か、浣腸はやめてっ……」

前置きもなく流れ込んできた浣腸液に、香織は頭を振って呻いた。
チューブは腸の奥まで入り込んでおり、深いところでグリセリン溶液が注入されている。
香織は仰け反って喘いだ。
浣腸器で肛門近くに注入されるよりも、こうして深い箇所で入れられる方がいやだった。
溶液が腸の粘膜に染み込んでいくのが実感できてしまうのだ。
浣腸器のように勢いよく注入することは出来なかったが、ちょろちょろと流れ込んでくる感覚も
たまらなかった。

「はうう……は、入って、くる! ……ああ、入ってきちゃう……いやあ……」

たちまちけっこう仮面の全身に、ふつふつと汗が浮いてくる。
何度されても、浣腸の圧迫感だけは慣れることができないようだった。
注入されるのがいやなのか、時折アヌスがキュッと収縮しているのが阿久沢の目に入る。
尻たぶは力んで固くしこっていた。
阿久沢は、チューブを摘むと少しずつそれを出し入れしてやった。

「ひっ、それいやあっ……こ、擦れる! ああ、お尻、擦れてるっ……」
「お尻が、ではなく、尻の穴がだろうが」
「いやいやっ……しないで、それしないでくださいっ、ああっ……」

面白がって阿久沢がチューブをいじると、けっこう仮面はすぐに反応して尻が跳ねるように
うねっている。
差し込むと肛門付近が漏斗状になり、引き抜くと赤く爛れた腸壁が顔を覗かせている。
それでも、徐々にけっこう仮面自身の腸液も出てきたのか、チューブを出し入れする阿久沢の
手もスムーズに動くようになっていた。
その間、蛇口を調整して、多く流し込んだり、弱めたりを繰り返している。
そうして何度かどどっと大量に流し込むと、段々とけっこう仮面に変化が現れてきた。

「あ……あ、むむ……もう、入れないで……お尻、熱い……お尻が壊れちゃう……はうう……」

阿久沢は蛇口を全開にして流入を続けた。
いつしか香織の尻たぶから力が抜けている。
阿久沢がそこを掴んで谷間を割ると、アヌスはひくつき、まるでチューブを悦んで迎え入れて
いるかのようだった。
嫌がる素振りは明らかに消え失せ、受け入れ始めているように見えた。

「あむ、あむむ……ま、まだ入ってくる……ああ、もうお腹が……うむ……いっぱい入ってくるぅ
……んむむ……あ、熱い……ああ……」

けっこう仮面の吐息に熱が籠もり、尻が男を誘うかのようにうねりだしたのを確認すると、
阿久沢はチューブの流入量を少し抑えた。
代わりにけっこう仮面の尻を押し開き、その真ん中に自分のペニスを押しつけた。

「ひうっ……!」

その熱さに呻いた香織は、すぐに驚愕して阿久沢を振り向いた。
阿久沢はそのままアヌスに挿入してきたのだ。

「ああっ、だめっ……い、今そんなことしちゃだめぇっ……お尻、壊れるっ、ああいやあっ……」

阿久沢は、浣腸チューブを押し込んだままの肛門を肉棒で貫いた。
柔らかく、しかも腸液と浣腸液で充分に濡れていたそこは、標準を遙かに超える太いものを
ぐぐっと飲み込んでいく。
香織は目を剥いて呻いた。

「あっ、あぐぐうぅっっ……んあ、んあああ〜〜っ、は、入ってくる! ……う、うそ、お尻に
入ってきちゃうううっ……!」

阿久沢はいつも以上に慎重に埋め込んだ。
太い亀頭部を何とか潜り込ませ、長大な竿の部分も一気に送り込まず、けっこう仮面のアヌスを
堪能するようにゆっくりと沈めていった。
けっこう仮面の肛門はウソように広がって、太い肉棒をすっかり受け入れていた。

「ひ、ひぎぃ……うあ、うああ……」

香織は全身を痙攣させ、その苦痛と屈辱に耐えていた。
そこに男の大きな手が伸び、性感帯をいびっていく。
自分でもわかるほどに赤く腫れ上がったクリトリスを摘まれた時は、思わず腰を阿久沢に押し
当ててしまった。

乳房はまるで生理の時のように張り詰め、頂点の乳首もビクビク勃起し、硬くなっている。
そこを阿久沢が根元から絞るように揉み込んでいく。
乳房の付け根から絞り上げられると、下から乳首に向かって爆発しそうな快感が貫いてくる。
そして乳首を指で転がされ、つねられると、もうそれだけでいってしまいそうになった。その間
も、阿久沢は力強く腰を打ち込んできていた。

「だっ、だめっ……激しいっ……つ、強すぎますっ……お尻があっ……」

ひと突きごとに、尻たぶがひしゃげるほどの強烈なピストンで抉っていく。
もちろんその間も、一緒に中に入っているチューブからはどんどん浣腸液が注入されているのだ。
ズンと突かれ、同時に浣腸液が中にビュウッと入ってくる。
まるで律動されるたびに射精されているみたいで、香織の神経は焼き切れてしまいそうだ。
もう我慢が出来なかった。

「いっ……いいっ……」
「よし、言ったな。もっと言え」
「ああ、はい……あうっ、いいっ……お尻、すごいですっ……うああっ……」

けっこう仮面は腰を振っていた。
阿久沢の肉棒を深くまで受け入れようと、前後に揺すっていた。それと同時に、腸がグルグル
と鳴りだした。
当然のように便意も高まっていたのだ。
阿久沢は片手で乳房を揉みながら、片手でけっこう仮面の下腹を揉んだ。
絶叫が走った。

「あっ、やっ! ……お腹、さすらないでっ……お腹、苦しい……痛いんです……ああ、
いいっ……」

香織は便意の苦痛と肛門性交の快感とで揺れ動いている。
注入されながら突き込まれる快感を得ているが、このまま浣腸され続けられたらどうなって
しまうのか。
そんな香織の不安を無視し、阿久沢はさらに大きく抉っていく。

「うっ、動かないで、出ちゃう! ……もう、ああっ……い、いきそ……」

阿久沢の腰のグラインドが大きくなると、けっこう仮面の肛門の引き締めが強くなる。
こんな時に括約筋を引き締めたら激痛が走るだろうに、それすら彼女は受け入れつつあった。
アヌスを引き裂かんばかりのペニスによる苦痛と、浣腸され続ける直腸の便意による苦痛。
しかし、それを飲み込んでしまうかのような圧倒的な快楽が阿久沢のペニスにはあった。
甘美というよりは炸裂しそうなほどの激しい快感が、香織のすべてを浸蝕していく。

阿久沢は飽きもせずけっこう仮面の肛門を抉った。
腰を豊かな臀部に打ち付けると、ぬめった汗が弾ける。
腰をよじって最奥までねじ込んだと思うと、ずるりと引き出して内壁を露わにする。
そしてまたけっこう仮面が泣き喚くほど深くまで抉り込んだ。
お腹はグルグルと雷鳴のような音を響かせ、便意が高まっていることを告げている。

「ひっ、ひぃっ……お腹! ……お腹とお尻、すごいっ……あう、ああ、いいっ……」

肉体も心も阿久沢に犯され抜いた。憎んでも余りある男なのに、その阿久沢が送り込んでくる
快楽の嵐に、香織の肢体は肉悦の劫火で焼け尽くされようとしていた。
香織は初めて意識して尻を阿久沢に突きだした。
そして腰を揺すると、放って置かれている媚肉からだらだらと蜜が零れ出ていた。
今ではもう腿を伝い、膝まで到達し、レザーの上にいくつもの水たまりを作っていた。
犯されているのはアヌスなのに、どうして膣が疼き、子宮の奥から蜜が溢れてくるのかわから
なかった。
忘我となった香織は、もう悦びの声を抑えなかった。

「いいっ……ああ、いいっ……お尻……ああ、お腹がかき回されてるぅ……あ、あ、もう出そう
なのに……あうう、い、いく……いきそうっ……」

絶頂が近いからなのか、はたまたもう排泄したくてたまっているからなのか、けっこう仮面の
腸内はこれまでにないほどに熱かった。
抜き差しされると、淫らな粘液がぬぷぬぷと水音を立てて掻き出されてくる。
男の太い肉棒が腸内をかき回す快美感に狂っていた。

「もっ、もうだめっ……あうう、いく……いきそうですっ……」
「そうか、そんなにいきたいか」

阿久沢の淫猥な問いかけにも、香織は抗わず素直に答えた。
汗が飛ぶほどにガクガクと首を頷かせた。

「いきたいっ……いいっ……は、はやく、ああう……」

もう耐えきれないのか、けっこう仮面は腰をぐりぐりと阿久沢に押しつけ、円を描き出す。
そうすることでアヌスへの刺激を強め、達しようとしているのだろう。
それに応えて阿久沢は、形状が変わるほどに尻を割って、思い切り腰を密着させた。
ピストンで揺れる睾丸が媚肉にピタピタとぶち当たることさえ快感になっているようだった。
凄絶な苦悶の表情を浮かべ、悶え喘ぐけっこう仮面は、その裸身にぶるぶると小さな痙攣を
起こし始めた。
それが数秒続いたかと思うと、突然背中を反り返らせ、絶叫して果てた。

「んはあっ、いくっ……い、いきますっっ!!」

浣腸で緩んでいるはずの肛門がギュッと引き締まり、阿久沢も堪えきれなくなってけっこう仮面
の腰を掴み、思い切り奥までぶち込んで射精した。
チューブ浣腸とは異なり、勢いよく粘っこい精液を腸壁に吹き付けられ、けっこう仮面はぶるるっ
と大きく震えて再び気をやった。

「うああっ、いくっ……ま、また、いく!」

阿久沢はそのまま腰を押しつけ、射精の発作が終わるまで離さなかった。
肉棒がびゅっと射精するごとに、香織はビクッと痙攣し呻いた。

「あうう……で、出てる……濃いのがいっぱい……ああ、まだ出るの……」

朦朧としている香織に、阿久沢は両手で腹を責めてきた。
途端に忘れていた便意が激しい排泄欲を訴えてきた。
香織は激しい絶頂の余韻に酔う間もなく、苦しそうに呻いて言った。

「もうだめです……だ、出させて……出ちゃいます……」
「よし出せ。また見てやる」
「見ないで……ああっ」

阿久沢が腰を引いてペニスを抜き、同時にチューブも抜き去ると、香織は慌ててアヌスを窄めた
が間に合わず、腹痛の根源が一気に噴出した。

「いやあああ……」

もう流動物はほとんど汚れていない。
グリセリン溶液と香織自身の腸液だけだろう。
全部吐き出して、ぐったりしている香織の肛門に、またしてもチューブが押し込まれた。
香織は背筋を震わせて悲鳴をあげた。

「いやっ、もういやあっ……」
「遠慮するな。何度でも浣腸しながら犯してやる」

阿久沢はそう嘯くと、チューブ浣腸しているアヌスに再びペニスを挿入した。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

ヘリの用意が出来たとの報告を受けたのは、予定よりも早く、その日の夕方であった。
暗くなる前に飛びたいということで、学園長は取るものも取り敢えずヘリポートへ向かった。
行くのは自分ひとりである。
腹心の教頭も連れて行かない。
秘密は、人の口が少ない方がバレにくいものだ。
急ぎ足で執務室を出ていく学園長を呼び止める声があった。

「学園長」
「ん? ……夏綿先生か」

学園長は小さく舌打ちした。
教師に構っている暇はないのだ。
しかし美貌の女性教師は眦を決して歩み寄ってきた。
ただならぬ雰囲気である。
少し気圧されて、学園長は立ち止まった。

「何かね? 悪いが急いでおるのだ」
「承知しています。けっこう仮面が捕まったそうですね」
「……! なぜそれを……」
「教頭先生から聞きました。教員室で話されていましたよ、室内で歓声があがったくらいです」

余計なことを、と学園長は思った。
そんなことは正体を暴いてからでいいのだ。
教頭は教頭で、にっくきけっこう仮面が捕獲されたことで有頂天となり、つい喋ってしまった
のだろう。

「それが何かね」
「これから咎島へ行かれるのでしょう? けっこう仮面取り調べのために」
「……」
「差し出がましいですが、私も同行させてください」
「……余計なことはせんことだ、夏綿先生。これは教師が関わるべき問題ではない」

恫喝じみた言葉だったが、けい子は怯まない。

「そうは思いません。いかにけっこう仮面とはいえ女性は女性です。SSSには女性はいない
はずです。しかもここから行くのは学園長ひとり。どうやってヌードの女性を取り調べる気
なのですか?」
「……」

スパルタ学園にも風紀や綱紀のための組織がある。
ほとんど学園長の独裁体制になっているスパルタ学園では有名無実のものではあるが、建前と
して存在はしていた。
けい子はその中で、人権擁護委員を務めていた。

「確かにけっこう仮面は学園の公敵かも知れません。しかし、犯罪者だとしても人権は存在
します。それを踏みにじることは見過ごせません」
「夏綿先生、滅多なことは言わんことだ。まるでけっこう仮面の味方だと言っているように聞こ
えるぞ」
「学園長の解釈にまで介入するつもりはありません。ですが、この件は人権擁護委員として看過
できません。無論、学園長やSSSが非合法な訊問をするとは思っていませんが」
「……」
「何も取り調べに参加させろとまでは言いません。しかし、私の立場もあります。咎島へ渡り、
訊問の一部だけでも見させていただけないと納得行きません。本省への報告義務もあります」

そのことは学園長も憂慮していた。
けっこう仮面の存在は、文部科学省の一部では知られている。
学園は文科省の幹部を買収してはいるが、全員を味方につけたわけではない。
買収に応じなかった、あるいは洩れた役人たちからは、「けっこう仮面捕獲は警察と連携すること」、
「仮に独自に逮捕した場合、即座に警察へ引き渡すこと」を厳命されているのである。
ある意味当然の処置だが、これはけっこう仮面派遣元の教育施設内問題処理センターの意向でも
ある。
そのことまでは学園長も知らない。

けい子の言い分は筋が通っており、無下には出来なかった。
学園長は渋々同行を認めた。

「……いいだろう、一緒に来てもらおう。だが、わかってるだろうが夏綿先生……」
「わかっています。取り調べの……学園長のお邪魔になるようなことは致しません」
「うむ」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

長峰研一は食事のトレイを持って拷問室に向かっていた。
思った通り、見張りの警備員がふたり立っている。
そのうちひとりが研一の姿を目に留め、咎めるような視線で睨んでいた。

「……清水はどうした。これはやつの仕事だろう」
「便所だとよ。下痢気味らしいぜ、夕飯一回で俺が代わってやったんだ」

研一はここに来る前、拷問室へ食事を届けて内部を清掃する当番の清水を殴り倒してきたのだ。
拷問室で誰が責められているのかは聞いていない。
しかし清水の口調や、一昨日からの阿久沢社長の言動から察するに、間違いなくけっこう仮面が
ここに閉じこめられているはずだった。

番兵は疑いもせず、ポケットから鍵を取り出した。

「そうか。じゃあ入るか」
「なに、おまえもか?」

別に見張りが入る必要はないのだが、こうして一緒に中に入り、けっこう仮面の身体をいじって
楽しんでいるらしい。
もちろん凌辱することまでは出来なかったが、ささやかな役得といったところなのだろう。
見るからにふしだらな笑みを浮かべた番兵を無視し、研一は中に入った。

言葉がなかった。
けっこう仮面はレザー製の拘束具でぎちぎちに縛られていた。
ベッドやリノリウムの床の上には、汗とも体液ともつかぬ液体があちこちに飛び散っていた。
哀れな生贄は、股間をこちらに向け、女の秘密をすべてさらけ出す姿勢をとらされている。
研一は目を背けたが、番兵のふたりはニヤニヤしながら、汗でぬめった美女の裸体を触りまくっ
ていた。

「……」

研一は無言で彼らに近づき、ひとりの両肩を掴んだ。
きょとんとする同僚の肩を押さえ込み、そのまま鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。
警備員は声も出せず、その場に崩れ落ちた。

「な、なにを……」

呆気にとられているもうひとりに反撃の機会を与える間もなく、肩から体当たりして当て身を
喰らわせてやった。
「ぐっ」と喉で呻いた警備員が身体を「く」の字に折り曲げると、その背中に肘を叩き込んだ。
カエルが踏まれたような声を出して、ふたりめの警備員も失神した。

研一は無言のまま、けっこう仮面の拘束具を外してやった。
おぶっていこうかと思ったものの、それでは同僚に出くわしたら逃げられなくなる。
けっこう仮面の背中に腕を回し、研一は軽く頬を叩いた。

「起きろ」
「……」
「起きてくれ、おい、けっこう仮面!」
「……あ」

ようやくけっこう仮面がぼんやりと目を開けた。
状況がわかっておらず、まだ虚ろだった。
研一が活を入れる。

「しゃっきりしてくれ、けっこう仮面! ここから逃げるんだ」
「逃げ……る……?」
「早く!」

研一は、腰に力の入らない正義のヒロインを引きずるようにして部屋から出た。
一応、辺りを窺ったが誰もいない。
拷問室近辺は、警備の社員以外は基本的に立入禁止というのが幸いした。

ふたりが地下から一階へ戻った頃になると、あちこちがバタバタと騒がしかった。
地下の拷問室の異変に気づいたのだろう。
のんびりしてはいられなかった。

けっこう仮面もようやく正気に戻ってきたようだった。
ただ、よほど阿久沢のいたぶりが激しかったのか、まだ足腰がシャンとしないらしい。
時々、膝がわらってガクガクとしていた。
そんな美女の肩に手を回し、研一は外を目指していた。

「……」

香織には訳がわからなかった。
なぜSSSの警備員が助けてくれるのか。
不審に思って研一の顔をよく見ると、何のことはない、一昨日この島で香織が治療した子では
ないか。
それに気づいた香織が「あっ」と小さく声を上げたのを、研一は耳ざとく聞きつけた。

「なんだい、どうかした?」
「……」

あなたを私が手当した、とは言えなかった。
今は保健医の若月香織ではななく、けっこう仮面なのだ。

「い、いえ……」

香織は話題を変えた。

「どうして私を助けてくれるのかと思って……」
「……」

研一は一度けっこう仮面の顔をまじまじと見て、また歩みだした。
肩を支えられたけっこう仮面もよろよろとついていく。

「俺、今年で20歳なんだ」
「そう。若いのね……」

と答えて香織は気づいた。

「でも……、SSSって学卒しか採らないんじゃなかったかしら?」
「ああ、まあね。でも例外ってのはあるんだよ」
「例外?」
「うん。俺、ここの……スパルタのOBなんだよ」
「え……」

びっくりして足を止めた香織を促すように研一は腰を支えた。

「SSSは大学卒しか採用しないんだけど、研修制度ってのがあるんだ」
「研修制度?」
「高校卒業でも一定の成績を収めていて、大学進学の意志がある者は試傭員として入社させる
んだな」

学費等の経済的問題で大学進学が難しい、それでいて成績優秀で素行にも問題のない高校卒業生
に対して、SSSは入社後に進学させる制度を採っている。
18歳で入社させ、基本的な研修を行い、その社員の適性を見る。
その上で社員として的確と判断されれば、2年後に大学へ進学させるのである。

浪人は認められず、一発入学が求められるが、見事合格した暁には、入学金、寄付金、授業料の
一切はSSSが面倒を見てくれるのだ。
その間、SSSの仕事はほとんど出来ないが、曲がりなりにも社員であるから僅かながら給料も出、
これが生活費になる。
ただし、これも4年間で卒業しないと、その時点で解雇となり、各費用は全額返済を求められる。
規定で卒業すれば、学卒者と同条件の採用となり、学歴のハンディはない。

もっとも、甘い汁だけでなく厳しい条件もある。
この奨学制度を利用した社員は、その後15年間はSSSを退社できない。
15年以内で退職する場合は、前述の費用を利子込みで全額返済となるわけだ。
これは貧しい学生にも朗報であるが、同時にSSSとしても、会社に忠誠を誓う子飼いの社員を
得ることが出来るのである。
研一はその奨学生なのだ。

「そうだったの……」
「ああ。なにせスパルタ学園卒業生だからな、まったく問題なく入社できたよ」

そう言って研一は笑った。
まだ少し調子が戻っていないが、もう支えられなくとも歩けるようになった香織は、声を潜めて
聞いた。

「でも、それと私を助けるのとどんな関係があるの?」
「うん……」

いつの間にか裏口まで来ていた。
慎重に周囲を警戒したが、人気はなかった。
ふたりはゆっくりと外に踏み出した。

「あんた憶えてないかも知れないが、俺、学園にいた時、あんたに助けられたことがあるんだ」
「え……」

3年前、学園で起こった教師による暴行傷害事件だった。
粗暴な体育教師が生徒たちを欲しいままに殴り飛ばし、負傷者を多数出したのである。
学園側は黙認していた。
あまり派手に暴れられても困るが、ある程度の暴力は肯定している。
それで教師に対して、引いては学園に対して畏怖や恐怖心を持ってくれればそれでよし、という
考え方なのだ。

ところがこの教師は行き過ぎた。
全治一ヶ月という重傷者を出してしまったのだ。
当時、クラス委員をしていた研一が抗議すると、教師は狂ったように激怒し、彼を半殺しの目に
遭わせたのである。
その時、飛び込んできてくれたのがけっこう仮面だったということらしい。

「……」

学園に来たばかりの香織は、もちろん初めて聞く事件である。
恐らくけい子が解決した事件なのだろう。
研一は少し照れくさそうに言った。

「それ以来、俺はいつかけっこう仮面にちゃんと礼を言いたい、そして何か手助けしてやりたい
って思うようになったんだ」
「……」
「でもその頃、俺はまだ高校生のガキだ。何が出来るわけでもない。といって、卒業しちまったら、
恐らくもう二度とあの世島には来られないだろう」

だが、たったひとつだけ方法があった。
SSSに入社し、警備員になることだ。
当時SSSはまだ学園専用の警備会社だったし、入社すれば間違いなく学園に配属される。
教師になって学園に来るという手段もないではないが、これは難しい。
教員になったとて、学園に採用されなければ無意味だからだ。
配属先を選ぶ自由は教師にはない。
すると、手っ取り早いのはSSSだ。

「それで入社したんだ。大学を出るまで4年も待つ気はなかった。だから奨学生制度を使った」
「そうだったの……」

香織は、阿久沢に痛めつけられた心が少しずつ温まってくるのを感じた。
けい子や香織たちの活動は決して無駄にはならないのだ。
こうして芽が出てきてくれる。

「まさか、こんなに早く望みが叶うとは思わなかったけどな」

研一はそう言って笑ったが、すぐに引き締まった顔になった。
香織も同時に気づいていた。
誰か来た。

「そこにいるのは誰だ!」
「まずい、見つかった。走れるかい?」
「行きましょう!」

警備員から誰何の声が掛かると同時に、ふたりは駆け出していった。
慌てた声が追いかけてくる。

「きさまら待たんか! こら、待てぇ!」

乱れた靴音が響いた。3,4人いるらしい。

「止まれ! 発砲許可は出ている! 止まらんと撃つぞ!」

「えっ」と思って香織が振り返ったが、研一は「早く!」とその腕を引っ張った。
すると爆発するような音が響いてきた。
研一は舌打ちした。

「くそ、やつら本当に撃ってきやがる!」
「どういうことなの! SSSは銃を携帯しているの!?」
「説明は後だ、早く……ぐわっ……!」
「長峰くんっ!」

空気を切り裂くような発砲音が数発轟いたかと思うと、ふたりの足元に着弾した。
そのうちの一発が研一の身体を抉っていた。
呻きながら右手で左の脇腹を押さえ、研一がガクリと膝を着いた。
こうしてはいられない。
連中は容赦なく発砲してきている。
降伏すると言っても射殺してくるかも知れない。
彼らにとっては、その方が都合がいいだろう。
香織は研一の腋に肩を入れ、その身体を支えた。
彼が撃たれたとわかった瞬間、彼女の身体機能は完全に戻っていた。

「長峰くんっ、大丈夫!?」
「あっ、ああ……なんとか……」

香織は庭の植え込みの陰に隠れたが、ふたりを探す警備員たちの声が段々と近づいてきた。

「ここじゃまずいわ。とにかくここから離れないと……」

香織は警備員のグループがドカドカと走り去るのを確かめてから、研一を支えて森の中へ逃げ
込んでいった。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

学園長とけい子を乗せたヘリが咎島のヘリポートに到着した。
ローターが激しく回り、やかましい回転音の中、外に出ると、何だか周囲が慌ただしかった。
ふたりがヘリから降りると、SSS本社ビルの方から制服姿の警備員が駆け寄ってきた。

「?」

走りながら何か喚いているようだが、ローター音がうるさくてよく聞こえない。
学園長とけい子がポートから離れると、ヘリは再び空を舞い上がっていった。
そこに警備員が息を切らせながら近づいてきた。

「がっ、学園長!」
「なんじゃ、どうした、騒がしい。何かあったのか?」
「け、けっこう仮面が……」

その一言を聞いた学園長の眦が上がった。

「けっこうのやつがどうしたのじゃ!」
「逃げました……!」
「なんじゃと!?」

学園長は若い警備員の両肩を掴み、ガクガク揺すって問い質した。

「逃げたとはどういうことじゃ!」
「じ、自分にはよくわかりません! ただ、拷問室から逃げていた、と……」
「それで阿久沢は!!」
「社長が陣頭指揮を執って捜索にあたっています。学園長と夏綿先生は、本社ビルの方へ退避
してください、とのことです」
「……」
「けっこう仮面がどこに潜んでいるかわかりません。早くこちらへ……!」
「ぬうう……」

地団駄を踏んで唸る学園長とは裏腹に、けい子は思わずウィンクして小さく呟いた。

「ナイス、香織」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

照明が少なく、頼りになるのは月明かりのみだ。
香織の見たところ、研一の負傷は致命傷ではないようだった。
しかし盲管銃創で、弾は体内に残っているようだ。
さすがに香織にも銃創を手当したことはないし、経験があるにしても治療器具や薬もない。
研一は時々、顔をしかめる程度で、早歩きの香織に何とかついてきている。
だが出血がひどかった。
あまり動くのは良くないとわかっているが、じっとしていても人海戦術で虱潰しに森を探され
たら、いつまでも隠れていられるものではない。
これから夜に向かって暗くなっていくのは幸いだが、研一の怪我からしてゆっくりも出来な
かった。
どっちみち、この島に逃げ場はない。
脱出するしかないのだ。

「……うっ……」

研一が両ひざを着き、両手を着いた。
歩けなくなったらしい。
香織は慌てて駆け寄り、傷の辺りを見てみると、研一の制服は絞るような血にまみれていた。

「ひどいわね……。何か薬でもあるといいんだけど……」

そう言われて研一は思い出した。
けっこう仮面が怪我をしているかも知れぬと、医務室からファーストエイドキットをがめてきて
いたのだ。
それだけでは不足かも知れぬと、知識はないながら、キットのバッグに入るだけの薬剤を適当に
詰め込んでポーチに入れていた。
研一がそれを差し出すと、香織の顔がパッと明るくなった。
すぐに中身をチェックすると、傷薬用ながら血止めパウダーがあった。
応急ながら取り敢えず何とかなりそうだ。

「あとは痛み止めがあれば……」

そう呟いて漁ったが、さすがに抗生物質の類はなかった。
鎮痛剤らしいものもない。
しかし、どういうわけかモルヒネはあった。
麻薬の一種ではあるが、医薬である。
あまり頻繁に使用すると中毒になる恐れがあるが、神経を麻痺させる鎮痛剤としての効用は高い。
アンプルの首を折ると小さな針があり、それを押しつけて注射するタイプだった。

「待っててね、これで少しは楽になるから」
「でも、モルヒネじゃあ、俺、気を失うかも知れないぜ」

確かに眠くなるだろう。
しかし、このまま放っておいたら助からない。
ここは使うしかないのだ。

「そんなこと言わないで。しっかり歩きなさい、長峰くん。男の子でしょ」
「よく……俺の名前を憶えていたな」

一昨日、治療しているから憶えていたのだが、研一は3年前の事件の時に憶えてくれたと思った
らしい。
何とか立ち上がり、また歩き始めた。
眠くならないようにか、研一が話し掛けてくる。

「ところで、これからどうする気だい?」
「私も今それを考えてたの。このまま隠れていたって状況はよくならないでしょ」
「そうだな……。なら逃げるか。どうやって? どこへ? 本島じゃ意味ないぜ」
「場所はともかく、とにかくここから逃げることよ。浜へ行って船っていうのはどう?」

港も使えるようにはなっていようが、警備は厳重だろう。
それにクルーザークラスの船など、香織にはとても操船できない。
モーターボートくらいなら、クルマの運転が出来るから何とかなるだろう。
そう思って言ったのだが、研一は言下に否定した。

「そりゃダメだ」
「なぜ?」
「当然、港も浜もSSSだらけだぜ。恐らく投光器を持ち出して煌々と照らしてるよ」
「浜も?」
「もちろんだ。というより港より浜の方が厳重だよ、きっと。大型の船を使うより、小さな
ボートの方が目立たないからそっちを使うだろうと読んでいるさ。だいいち、港はそうじゃなく
ても警備員が何人もいる」
「じゃあ、どうするの?」
「……こっちだ」

研一はよろめきながら香織の先に立って歩き出した。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

その頃、けい子はSSS本社ビルの応接室にいた。
前のソファには、苦虫を噛み潰したような表情の学園長が貧乏揺すりをしていた。
相当いらいらしているようである。
そこに阿久沢が入ってきた。
学園長は立ち上がってSSSの社長に詰め寄った。

「阿久沢! きさま、この失態をどうする気じゃ!」
「失態はひどいな。まあ、社員の不始末だから社長の俺の責任ではあるが」
「社員の不始末? どういうこっちゃ」
「どうもうちの警備員のひとりが、けっこう仮面を手引きして逃げたらしい」

阿久沢は、世話係と見張りの警備員、計3名が叩きのめされていたことを説明した。
そして彼らの口から、長峰という若い警備員がけっこう仮面を逃がしたらしいと聞き出した
ことも告げた。

「何ということじゃ……。スパイがいたのか」
「いや、そうではあるまい。だが詮索は後だ。今はやつらの発見が第一だ」
「……」
「学園長たちはここで待っていてくれ。俺は司令室で指揮を執る」
「待て阿久沢、わしも行くぞ」
「……いいだろう」
「夏綿先生はここにいてくれ」
「……わかりました」

けい子は学園長の指示にうなずいて、部屋から慌ただしく出ていくふたりを見送った。
もちろんおとなしくこんなところで待っている気はない。
何とか香織の脱出を援護するのだ。
香織がうまく隠れていてくれれば、けい子がけっこう仮面となって攪乱する手もある。
隠れるのか、脱出するのか、あるいは反撃に出るのか。
それは香織に任せることにした。
今回のけい子はサポートである。
けい子は、香織の才覚に期待した。



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