珊瑚が村に戻ったのは夜になってからだった。
さすがに心配になっていたかごめが、犬夜叉や弥勒と一緒に隣村まで迎えに行こうとした矢先に
帰ってきたのだ。

戻ってきた珊瑚を見てびっくりした。
着物は着ていたが、髪は乱れ、なぜか草履も履いていなかった。
当然、足も泥や埃にまみれている。
驚いたかごめが駆け寄り、何があったのか尋ねたが、珊瑚の方は至って普通に答えた。

「ごめんね、心配しちゃった?」
「そりゃしたわよ、遅いんだもん……。でも、それよりその格好……」
「ひどいよね、泥まみれだもん」

笑顔で言い訳する珊瑚に弥勒も訊いた。

「いったいどうしたというのです。転んだだけじゃそこまでは……」
「違うの。実は野盗に……」

珊瑚が言うには、ならず者どもに襲われたらしい。
相手は五人ほどのグループで、珊瑚が医者から帰る途中に襲撃してきたのだそうだ。

「え!?」
「それでさ、しくじっちゃって、やつらに捕まっちゃったんだ」
「へ、平気だったの!?」

連中は、珊瑚から財布を奪うと、そのままアジトまで連れ帰ったらしい。
女郎屋にでも売り飛ばそうとしたようだ。
やつらが酒を飲み、だいぶ酔ってきたところで珊瑚が反撃に出たという。
それまで珊瑚は部屋の隅で縛られていたのだが、いい加減に縛ったようで、すぐに解けたのだ
そうだ。
もともと珊瑚は縄抜けもマスターしている。
しっかり縛らなければ、少々縛り上げられた程度なら何とかなるらしい。
それで野盗どもを叩きのめし、自分の財布を取り戻してから逃げてきたのだそうだ。
草履は捕まった時に鼻緒が切れてしまったらしい。

かごめがいたわるように言った。

「そうなんだ……。たいへんだったね、やっぱり一緒に行った方がよかった。ごめんね」
「そんな、かごめちゃんが謝ることじゃないよ、気にしないで」
「……」

弥勒は黙って珊瑚とかごめの会話を聞いている。
その視線に気づいたのか、珊瑚はちくんと胸の痛みを感じた。
気づかってくれている仲間にウソをついたからだ。
珊瑚は振り払うように頭を振り、若い僧の方を向いて言った。

「法師さまも、そんな顔しないで。無事だったんだから」

珊瑚はにこにこして言った。
それからおもむろに上へ上がり、着替えと洗面道具を持って土間へ戻ってくる。

「かごめちゃん、悪いけどあたしこれからお風呂使わせてもらうね」
「あ、うん、そうした方がいいよ。さっきあたし入ったばっかりだからまだお湯あったかいと
思う」
「うん、ありがと」

風呂がなかった時代だが、かごめのたっての希望で風呂場を作ったのである。
弥勒と犬夜叉がその手間を負う予定だったが、村人たちの好意で彼らが突貫工事で作ってくれた。
普段、この村が妖怪どもに襲われた時、犬夜叉たちに助けられているということもあって、工事を
買って出てくれたのだ。
小さな小屋で、着替えの小部屋と浴室には木製の浴槽のみというシンプルなものだったが、必要
充分であった。

手桶と着替え、そしてかごめが持ってきた石鹸やシャンプーを持って珊瑚が浴室に向かうと、
弥勒とかごめがその姿を見送った。
かごめがぽつんと言う。

「……弥勒さま、どう思う?」
「どうですかね」
「珊瑚ちゃんが、そう簡単に捕まっちゃうもんかな……?」

確かに、いかに珊瑚が丸腰だったとはいえ相手は人間だ。
普段の珊瑚なら簡単に叩きのめすだろうし、そうでなくてもその場から逃げ去ることくらい
朝飯前だったろう。
とはいえ、珊瑚は足首を痛めている。
そのための治療に行ったくらいなのだから、いつもの戦闘力を望むのは無理だろう。
だから、相手の中にかなりの手練れがいるとか、あるいは珊瑚に隙があったとか不意を突いた
とかいうのなら、不覚をとることもあるやも知れぬ。
弥勒がそう言うと、かごめは少し首を捻った。

「うーーん……。そうなのかも知んないけど、だったら珊瑚ちゃん、もっと落ち込んでない
かな……?」

珊瑚は、それなりに自分の腕に自信を持っている。
それがチンピラのような野伏に捕まったというのなら落ち込みもするだろう。

「なんか、わざと明るく振る舞ってるような気がするんだけどな……」
「そんな気もしますがね。まあ、珊瑚が言いたくないのであれば無理に聞くこともないでしょう」
「……そうだね」

* - * - * - * - * - *- * - *

かごめの心配は当たっていた。
翌朝、起き出した珊瑚は明らかに普通ではなかったのだ。

足はそうでもなかった。
昨日までひいていたビッコはほとんどない。
さすがに右脚だけで着地するとかの無理はまだ出来ないようだったが、それでも日常生活には
ほとんど影響ないほどに回復していた。

しかし、顔が火照っているようだった。
目眩でもするのか、時々しゃがみ込んでしまうことがあった。
かと思うと、当てもなくふらふらと彷徨うように歩いていることもある。
常態とは思えなかった。

「……」

かごめが心配そうに見ていると、珊瑚がまた目の前でふらついている。
少女はすぐに駆け寄って珊瑚を支えた。

「ホントに大丈夫? 珊瑚ちゃん……」
「だ、大丈夫。ごめん……」
「謝ることじゃないよ。もし体調悪いならあんまり無理しないで……」
「へ、平気よ、本当に平気だから」
「でも……」

かごめの目には、無理に笑顔を作っているようにしか見えない。
珊瑚の若々しい美顔がほんのり赤く染まっている。
それはそれで美しいと思ったが、風邪でも引いて熱があるように見える。
そう思って、持ってきた体温計で計りはしたが、平熱よりやや高いくらいで、微熱にもならない
程度だった。
それにしては触った身体が火照っているようである。

珊瑚は、仲間に心配されるのは嬉しかったが、相談できることではなかったので口をつぐんで
いた。
それでも、弥勒やかごめ、果ては犬夜叉や七宝にまで心配されてしまったため、午後になると、
奨められるままにおとなしく寝床に就いた。
とはいえ、珊瑚の「症状」はただ寝ていてどうにかなるものではなかった。
かえって悶々としてしまうのだ。

かごめに言われた通り、身体や顔が火照って仕方がない。
珊瑚自身、風邪でも引いたのかと思ったが、その熱が腹の底からわき起こってきていることに
気づいた。
火照りの原因を思い至って彼女は戦慄した。
疼いているのだ。
男が欲しくなっているのだ。
お腹というより下腹、膣付近、それも奥の方、つまり子宮近辺がかっかと熱くなっている。
それが淫らがましい肉の欲望だとわかった時、珊瑚はたまらない羞恥に襲われた。

彼女には原因がうっすらとわかってはいた。
きっとあの時の鍼だ。
足の治療を終えたあと、老医師に化けた奈落は、冷え性のツボだと言って珊瑚の腹に数本の
鍼を打った。
恐らくあの鍼が悪さしているに違いないのだ。
冷え性に効果があるとか言っていたがそうではなく、多分、性的な欲望が抑えきれないような
ツボに打ったのだろう。
なにしろ珊瑚にはその手の知識はないし、相手の医師を信用していたから、まったく無防備
だったのだ。

そういえば思い当たるフシもある。
足に打った鍼は治療後にちゃんと抜いてくれたが、その後に腹に打った鍼は、抜くどころか
珊瑚の身体に埋め込んでしまったではないか。
あの時はそんなことを考える余裕もなかったが、帰ってからそれに気づき、自分の腹をまさぐって
みたものの、どこに打たれたのか憶えていない。
おおよそこのあたりというのはわかるが、仮に刺した場所がわかったところで抜きようがない
だろう。

かごめはともかく、弥勒なり楓なりに事情を話せば、何とか抜いてくれる算段をしてくれる
可能性もあった。
しかし珊瑚は、奈落に襲われたことすら言えなかった。
もちろん、その肉体を凌辱され、あまつさえ絶頂を感じてしまったのだから言いようもない。
しかし、相手がその辺の破落戸や妖怪ならともかく、奈落なのだ。
珊瑚はもちろん、犬夜叉もかごめも、そして弥勒だって奈落を仕留めるために頑張っているの
である。
その奈落に磊落されたとはどうしても言えなかった。

もっとも、これは珊瑚自身気づかないふりをしているが、もし本当に「奈落憎し」であれば
どうだろう。
恥ずかしさを堪えてでも犯されたことを告白し、かつ奈落の居場所を教えて退治に向かうべき
ではなかったろうか。
なのに珊瑚にはそれが出来なかった。
彼女はその理由を深く追求したくなかった。

かごめらの好意で布団の中に入りはしたが、そんなことで抑えきれるものではなかった。
むしろ「寝る」という行為がセックスを連想させ、珊瑚を余計に切ない思いに駆り立ててしまう
のだった。
何とか夕方までは耐えた。
夕餉もみんなと普通に摂れた。
しかし、それが限界だった。

「……くっ……」

夜、そろそろ寝床へ行こうかという時刻になって、珊瑚はどうにも我慢できなくなった。
布団に寝ている時、しようと思えば自慰は出来た。
しかし、みんなが働いているというのに、自分ひとりが布団の中で己の性欲を処理しようと
いう行為はどうしても出来なかったのだ。
珊瑚の生真面目さが感じられるが、これでは事態は好転しない。

珊瑚は土間に降りようとして柱に手を突いたところで膝を折ってしまった。
膣からこんこんと恥ずかしい汁が漏れ、下着を汚しているのが自分でもわかる。
それどころか、いつ垂れてくるかが気になるほどだったのだ。

「!」

その時、彼女の肩に手が置かれた。
はっとして珊瑚が見上げると、見慣れた笑顔がそこにあった。
腰を屈めて珊瑚の様子を見ている弥勒が言った。

「珊瑚、あまり無理をしないことです」
「法師さま……」
「かごめさまも犬夜叉も心配しています。具合が悪いのなら遠慮なく言いなさい」
「ぐ……」
「?」
「具合が……悪いわけじゃ……ないの……」
「ではどうしたのです?」

珊瑚は潤んだ瞳で愛しい男を見つめて言った。
珊瑚は夜になるのを待っていたのだ。
暗くなれば、弥勒にこの火照りを収めてもらうことが出来るからだ。

弥勒と珊瑚は、奈落に彼女が捕まって姦計を施された事件の際、結ばれている。
珊瑚の子宮に仕込まれた傀儡を退治するために、彼の精が必要だったからだ。
互いに好き合っていながら、なかなか結ばれなかったふたりだった。
その関係が先に進むためにはこうしたアクシデントが必要だったのだろう。

以来、ふたりは何度となく関係を持っている。
とはいえ数はそう多くはないし、まして珊瑚の側から誘うことなど皆無だった。
弥勒が迫ってきても大抵は断っていた。
珊瑚としては、セックスとは愛の営みであり、子を為すための神聖な行為であると信じていた
からだ。
その点、弥勒とは一線を画している。

彼の方は、享楽のためと割り切っている。
そこまで行かずとも、男女間の有効なコミュニケーションのひとつだと理解していた。
だからこそ、珊瑚以外の女性とも閨を共にする。
珊瑚から見たら浮気以外に解釈しようがないが、少なくとも弥勒は珊瑚以外に入れ込むような
ことはなかった。

おまけに珊瑚の方は、男ならともかく女がそういう欲求を持つのは恥ずかしいことだと思って
いる。
これでは弥勒と釣り合うわけもないが、そこはそれ、両者が互いに気づかってうまくやっていた。
珊瑚が身体を許すのは、あんまり弥勒の希望を断り続けるのも悪いと思った時と、これ以上拒否し
続けたらまたぞろ弥勒が浮気すると察知した時くらいだった。
それでも、ひとたび愛し合えば、珊瑚も弥勒も深く満足し、自分の愛した相手に間違いはなかった
と安堵していた。

しかし今回だけは四の五の言っていられなかった。
珊瑚は弥勒にすがり、頬をその胸に押し当てて言った。

「抱いて……」
「は?」
「何度も言わせないで……。抱いて」

今度は若い僧が驚く番だ。
珊瑚の方から言い寄られたのは初めてである。
弥勒としては、珊瑚の方ももっと積極的になって欲しかったし、求めて欲しかった。
だが、こうして言われてみるとかなり違和感があった。
弥勒は、自分の胸にすがる少女の抱き起こし、その両肩を掴んで言った。

「どうしたというのです、珊瑚」
「……だめならいい」

珊瑚は顔を伏せ、弥勒から離れた。
彼は、少女が本気だったと覚り、今度は力強く抱きしめた。

* - * - * - * - * - *- * - *

弥勒と珊瑚は離れの部屋に行った。
かごめと犬夜叉はそれとなく察してくれたらしい。
あまり問い質しもせず、ふたりを見送った。

敷いた布団の上に弥勒が胡座をかくと、珊瑚はすぐにしなだれかかってきた。

「珍しいですね、珊瑚」
「……お願い、何も聞かないで……」
「……」
「どうにでもして……」

弥勒は股間が勢いづいてくるのを感じていた。
普段は活発で男勝りなところもある珊瑚だが、閨では恥ずかしさが先に立って、常に控えめ
だった。
その彼女が自ら求めてくるのは極めて珍しい。

珊瑚の方も、羞恥を噛み殺していた。
こんなことをして、弥勒に「淫らな女だ」と思われるのではないかと恐れてもいた。
しかし、もう彼女の性欲は抑えきれないところまで来ていた。
自分の肢体を弥勒にめちゃくちゃにして欲しいとすら思っていた。
珊瑚の裸身の奥深いところで息づいている肉体の悪魔が暴れ回っている。
昨夜、奈落に弄ばれて以来、苛立ちにも似た火照りで煮えたぎっていたのだ。
盛んに弥勒の胸に顔を擦り寄せ、熱い息を吐いている。

「……」

弥勒は合点がいかなかった。
どうも様子が変である。
今日の珊瑚は誰が見てもおかしいと気づくだろう。
いや、よくよく思い返してみると、夕べ帰ってきたときから変と言えば変だった。
彼女は気丈で、滅多なことでは弱音は吐かないし、気弱な素振りを見せることもない。
それが今晩はこうである。
男を欲することは、珊瑚にとってもっとも恥ずかしいことではないだろうか。
恋人の若い僧は、その原因を探るべく、彼女の裸身を優しく横たえた。

「ああ……」

弥勒の手を感じ、珊瑚が喘いだ。
さっと軽く身体を撫でさすっている。
腿に乳房に手を伸ばし、手のひら全体を使って擦るように愛撫した。
ときおり豊かに張った乳房の先をつまんだり、しゃぶったりすると、珊瑚はのどの奥を鳴らす
ように悲鳴をあげた。

「……!」

弥勒がそのことに気づいたのは、珊瑚の首筋を舐め上げている時だった。
純白と言ってもいい珊瑚の色白な肌に赤い染みのようなものがあるのだ。
弥勒が目を細めてよく見ると、首筋にも乳房にも、脇腹や肩口にもあった。
何だろうと考え、あることに思い至ると彼は少し青ざめた。

多分それは、口で強く吸われて出来た跡に違いない。
キスマークである。
そういえば、弥勒も珊瑚の白い肌に自らの刻印を残すようなつもりでいくつかつけてやった
ことがある。
それが首筋や二の腕などに残ると、かごめあたりに気づかれたら恥ずかしいからやめてくれと
珊瑚に怒られたこともあった。

しかし、彼はここ数日、珊瑚を抱いてはいない。
最前の性行為でそれが残ったとしても、今ではすっかり消えているはずである。
だとすればこの跡は何か。

「……」

考えるまでもない。
恐らく、昨日襲われたという野盗の仕業であろう。
珊瑚が泥まみれで帰宅したのも、それが原因かも知れない。
いや、野盗という話はどうかわからないが、珊瑚が誰かに辱められたのは間違いないのだろう。

なるほど、それで夕べは何か隠すような素振りだったのであろう。
確かに、かごめや弥勒の前で「凌辱された」とは言えないだろう。
そう考えれば、昨夜から今日にかけての珊瑚の元気のなさや様子がおかしかったことも理解
できる。
そして、普段の彼女からは想像もつかないような今宵の誘いもわかろうと言うものだ。
犯された記憶を、弥勒との行為で忘れたいと思っているのだろう。
彼は、ならず者どもに輪姦される珊瑚を想像し、彼らを憎むと同時に、傷ついた珊瑚を誠心
誠意慰めようとするのだった。

「あう……ああ……」

弥勒の想像はとんだ思い違いではあったが、そんなことは珊瑚にはわからないし、またどう
でもいいことであった。
今はただ、この肉の疼きを何とかして欲しい、と、それしか頭にない。

彼の愛撫は優しかった。
ゆっくりと乳房を揉みほぐしてくれたが、珊瑚は物足りなかった。
もっと、絞り込むように強く揉んで欲しい。
今までそんなことはなかったのに、昨日、おかしな鍼を打たれて以来、強く激しい愛撫でないと
疼きが収まらないのだ。

「あ、ああ……も、もっと、ああ……」

あさましい行為を要求する恥ずかしさと、それに反比例する肉の欲望で、彼女の身体は小刻みに
痙攣している。
女らしくふくらんだ肉丘を覆っている繊毛を、弥勒は指に絡ませて撫で回している。
そこがすでにしっとりと濡れていることを知ると、彼は徐々に指を膣に沈めていく。
男の指先が恥ずかしい肉の花弁の合わせ目に添えられ、内部に潜り込むともぞもぞと動き出した。

「ああっ……く……」

自分でもはっきりわかるくらいに蜜が零れていく。
まだ羞恥はあるのか、珊瑚は顔を赤くして下腹に力を込めた。
弥勒は姿勢を変え、仰向けにした珊瑚の股間に顔を持ってきた。
両手は伸ばし、左右の乳房を下から上へ持ち上げるように揉み上げている。

「ああっ、そこ!」

珊瑚はギクンと顔を仰け反らせ、弥勒の頭を抑えた。
弥勒の舌が、珊瑚の媚肉を舐め始めたのである。
女性経験豊かな男らしく、絶妙のテクニックでそこを舐め、吸い、舌先でつついていく。
途端に官能の歓びが噴き上がり、花芯からぐぐっと盛り上がってきた震えるような快感に、
珊瑚は全身を燃え立たせていた。
包皮からめくれ、ぷくりと小さく飛び出てきていた可愛らしい肉芽を、愛する男の唇で吸い
上げられ、弄ばされると、膣からはこぽこぽと音を立てて愛液が漏れ溢れてきた。
弥勒の指使いに、珊瑚は反り返らせた胸乳を大きく波打たせて喘いだ。

「ああ……」

弥勒が、蜜にまみれた口をいったん離すと、珊瑚のそこはすっかり充血し、やや厚ぼったく
なった感のある肉唇が引きも切らずに湧き出る蜜で艶やかな照りを見せていた。
もう我慢できなかった。
ほとんど前戯など必要ないほどに燃え上がっていた身体だ。
すぐにでもたくましい肉棒で貫いて欲しかった。
羞恥にまみれながら、珊瑚は顔を伏せて言った。

「お、お願い、法師さま……。も、もう……」
「……」
「く、ください、早く……ああ……」

淫らなことを口にしたら嫌われるとか、ふしだらと思われるとか、そうしたまともな感情は
消え失せていた。
熱く火照る疼きを何とかしたいという思いしかない。

「は、はああっ……ううん……」

珊瑚は、押し当てられた弥勒のものの熱さに呻いた。
激しい性交を期待して、胸が高鳴っていく。
弥勒は珊瑚の股を割り、深く挿入していった。
弥勒の力強さに、彼女は彼との一体感をより強く持った。
彼のものにされているという実感が増してくる。

弥勒は腰を盛んに使い、ずんずんと攻撃してきた。
一撃ごとに、気が薄れるほどの快感が頭に流れ込んでくる。
珊瑚は思わず口走った。

「あ……いい……。気持ち……いいっ……ああっ……」

いつもは、しつこく弥勒に問い詰められないと口にできない台詞だった。
しかし今は、羞恥よりも、彼に与えられている快感を訴えたかった。

「ああ、いいっ……法師さまあっ……」
「珊瑚っ……」

常になく、よがり泣き、身悶える珊瑚に、弥勒も力を込めて責め上げていく。
たくましい胸板に、グミのような感触の乳首が押し潰され、擦られると、キュンキュンと鋭い
快感が背筋を通って膣の奥深くまで届いてくる。
正確に珊瑚の弱点をピストンしてくる弥勒の腰に、彼女は堪えきれずに腰をよじりたてた。

「ああ……ああ、いいっ……あ、もっと、ああっ……」

掻い出されるように沸き上がる愉悦に、珊瑚は全身をくねらせ、喘ぎ続けた。
弥勒が腰を押しつけると、彼の陰毛が珊瑚の柔らかい花弁や勃起したクリトリスとちくちくと
刺激し、それがまた痺れるような快感となって脳裏を走る。

「あ、あうっ……うむっ……うんっ……いっ、いいっ……ああ!」

法師のひと突きひと突きに、珊瑚は反応せずにいられない。
ずん、ずんと深いところを突かれると、どう堪えても呻き声や悲鳴が出てしまう。

「ああっ……もうっ……」

珊瑚はぐぐっとこみ上げてくる感覚に腰を震わせた。
もういってしまいそうだ。
こんなに早く達したら恥ずかしいと思い、我慢しようとしたがもうどうにもならない。
思わず口から本音が出た。

「ああ、もうっ……だめっ、法師さまっ……あ、ああ、もう、いくっ……」
「も、もういきますか、珊瑚。今日はやけに早い……」
「言わないで! ああ、もう、だめっ……あ、お願いっ……」
「わかりました、おいきなさいっ」
「ああっ」

弥勒はいっそう激しく身を揺すりたて、腰を打ち込んだ。
その攻撃に、珊瑚はがくがく痙攣しながら最後に向かって駆け抜けた。
……かのように見えた。
しかし。

「さ、珊瑚っ……ううっ」
「……あ、ああ!?」

若い法師は、呻き声とともに彼女の子宮にむかって激しく射精した。
なのに珊瑚はいけなかった。
絶頂に達せなかったのだ。

こんなことはなかった。
かつては、弥勒が射精するまでに二、三度はいっていたのだ。
仕上げに射精されたときは、弥勒と同時に珊瑚も高見まで駆け上るのは常だった。
弥勒がいったのに、珊瑚が取り残されるなどということは今までなかったことなのだ。

いつもなら、弥勒に抱かれ、貫かれたら、もうそれだけでいってしまうかと思えるような
悦楽を得られた。
だが、今回それがない。

「……」

軽い疲労の息づかいをしながら、珊瑚はのしかかっている男を見た。
彼は珊瑚の胸に顔を伏せて荒い息を吐いていた。
弥勒はいつもの通り、全力で珊瑚を抱いた。
何の変わりもない。
なのに満足できない。
珊瑚にも初めての経験であった。

いつもは一度で充分満足していた。
時として二度目を行なうこともあったが、それは弥勒が欲するからであった。
戸惑う珊瑚を嘲笑うかのように、またしても新たな欲望が身体の奥底から盛り上がってきた。

「あ……」

射精を終えたばかりの半勃ちの肉棒を、珊瑚の膣が無意識に締めていく。
足りないのだ。
もっともっと抱いて欲しい。
犯して欲しかった。
こんなことを言う自分が恥ずかしくて仕方がなかったが、珊瑚は言わずにいられなかった。


     


「法師さま……」
「……はい?」
「も、もう一度……」
「……」
「もう一度、愛して……もっと抱いてください……」
「……」

事情が事情だけに、珊瑚もいつもと違うのだろう。
弥勒はそう思って、再戦を挑んだ。

「あ……ああうっ……」

二度目は、ろくな愛撫もないまま、いきなり貫かれた。
彼女がそう願ったからである。
珊瑚は、弥勒に刺し貫かれる淫靡な美貌を恥ずかしげもなく晒した。

彼の分身はもうすっかり硬く大きかった。
その大きなもので子宮を散々揺すり上げられて、珊瑚は仰け反りっぱなしになる。

「ああっ、いいっ……く、すごい、法師さまあっ……くぅああっ…っ…」

男の手が乳を揉み、尻たぶを掴んでくると、そこからも新たな快楽が生まれてくる。
舌は忙しなく珊瑚の肌を舐めていた。
そこを肉棒で責められ続けるのだ。
言いようもない快感に息をする間もない珊瑚は、だらだらをよだれすら垂らし始めていた。

若い男のたくましい責めに、首を仰け反らせ、胸を反り返らせて呻き、よがる。
たちまち腰の奥が熱くなってきた。絶頂の前触れである。

(こ、今度こそ……)

最後まで達することが出来ると、珊瑚は身を震わせた。
美少女の汗まみれの身悶えと喘ぎ声に、責めている弥勒の方もいつになく高まっていく。
さっき出したばかりなのに、もう射精欲がこみ上げてきた。

後背位で激しく珊瑚の腰を突き上げると、ぷりぷりした尻たぶが弥勒の腰に押し潰される。
しかし弾力のある尻肉はすぐに男を押し返すのだ。それを止めどなく繰り返していると、
珊瑚の手が布団をぎゅうっと握りしめてきた。
いきたいのだろうと思った弥勒はそう珊瑚に訊いた。

「またいきたいですか、珊瑚」
「ああ、はいっ……い、いきたいっ……いかせて、法師さまっ」

いつにない艶声で誘いをかける珊瑚に、弥勒も辛抱たまらなくなってきた。

「いきますよ、珊瑚っ……で、出ますっ」
「ああ、出してっ……あ、い、いくっ……」

弥勒は珊瑚の細腰を抱え込み、ぐぐっと中に押し込んでから己の欲望を解放した。
途端に飛沫出るように激しく放出された精液が珊瑚の胎内に充満する。
弥勒は腰を振って珊瑚の中に注ぎ込んでいった。

「……あ……」

ここで珊瑚も、同じように腰を震わせて絶叫し、最後まで到達したことを告げる。
いつもはそうだった。
しかし彼女の口から出てきたのは、短かったロウソクが燃え尽きるときのような萎んだ小さ
な声だった。

(こ、こんな……こんなことって……)

ここにきて珊瑚は激しく動揺した。
いけないのだ。
女の官能を極められなくなっている。

ここまで弥勒に愛されれば、数度の絶頂を得て、腰が立たないくらいにへたってしまうはずだ。
それがない。
それどころか、またしてもムラムラと妖しい艶炎が燃え上がってきているではないか。

「どうして……」

自分の身体が信じられず、呆然とした思いが口をつく。
さすがに連戦はきつかったのか、額に浮いた汗を拭いながら弥勒が尋ねた。

「……どうかしましたか、珊瑚」
「あ……」

背中に覆い被さったまま、まだ逸物を抜かずにいた弥勒が動くと、一向に冷めやらない膣に
埋め込まれた肉棒も一緒に動く。
その刺激が、またしても珊瑚を苛んでいった。

「……」

いくら何でももう言えない。
続けざまに三度も求めるなど、羞恥とか淫らだとかそういう問題ではない気がする。
もはや病的ですらあるように思えた。
原因は奈落に打たれた鍼だとわかってはいるが、そんなことはどうでもいい。
早くこの淫火を消さないと、奈落だの四魂のかけらだの言う前に、日常生活すら営めそうに
ない。
それでも、さすがに恥ずかしく、顔を背けたままで珊瑚は言った。

「ほ、法師さま……」
「?」
「もっと……」
「……」
「もっとして……ください……」

そう言いながら、少女は名残惜しそうに腰を振っていた。
珊瑚の胎内の取り残されたままの肉棒は、尻ごと揺さぶられ、膣内のあちこちにぶつかって
刺激され、むくむくと大きくなっていく。
弥勒は、しどけない、そして扇情的な珊瑚に煽られ、もう一戦する気になってきていた。
それでも珊瑚の様子が常態でないことだけはわかった。
しかし、ここは彼女が燃え尽きるまで希望通りにするしかあるまい。

「わかりました。珊瑚が満足するまでつき合いますよ」

弥勒は、バックから責めて押し潰したままの珊瑚の尻を持ち上げた。
そして彼女の、理想的にくびれた腰を掴むと一度腰を引き、反動をつけて奥まで抉り込んだ。




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