「やっぱり手強いわよね。さすがに峰不二子ってとこ?」
「そうですな」
「衆人環視の状態でレイプされて。ああも堂々としているってのは、敵ながら尊敬
しちゃうかな」
アキラは、執務室でハイネと話し合っていた。
今後の不二子たちの処遇についてである。
「いっそ、お売りになってしまってはいかがですか。アンダーボスどもの意見にも
一理あります。峰不二子であれば値はつけ放題ですし、あの女をものにしたという
だけで、我々は一目置かれます」
「……」
「ルパン一味のこともあります。後々面倒になるよりは……」
「あらら、ハイネらしくもない。弱気ね」
「……」
アキラはにっこり笑って執事兼参謀を見た。
「でも、もう決めちゃったから。あの女はここで飼う。売るにしても仕込む必要は
あるじゃないの。それにこのままじゃ……」
アキラのプライドが納得しない。
ああもバカにされたことを言われ、レイプしてやったのに平然とされた。
どうにもこうにも、一度は不二子を屈服させ、恥を晒させないとアキラの自尊心は
修復しそうにない。
ハイネが提案する。
「では、手っ取り早く浣腸責めでもしますか。あれなら……」
「それも考えたけど、何か安直よねえ。まあウンチするところ見られたら、たいてい
の女は恥ずかしくって死にたくなるでしょうけど。でもなあ、浣腸されたらウンチ
するの当たり前だし。それより、あの女を徹底的に嬲ってやって、無理矢理いかさ
れるところが見たいな。あたしの前で「いく!」とか言わせるの」
「そうですか……」
ハイネは、アキラに気づかれぬように小さくため息をついた。
この聡明な美少女は、唯一の欠点──というか、良からぬ趣味を通そうという気ら
しい。
アキラは怪我の後遺症で、恐らくこのまま生涯自分で歩くことは出来ない。
脚が動かないのだから仕方がない。
つまりセックスも出来ないのだ。
もちろん、男に奉仕させる気であれば、出来ないこともないだろう。
しかし、この勝ち気な少女は、そんなセックスでは満足できないらしい。
自分が動いて主導権を取らねば意味がないと思っている。
そうでなければしない方がいい。
その結果、自分の性欲あるいは性的な興味(この年齢であれば、そうしたものに関心
を持つのは致し方ないだろう)に対する鬱憤の解消が、ああしたセックスショーを
見ることだったのである。
それも、ショー形式のものは好まず、無理に連れてきた女をレイプしたり、拷問じ
みたSMプレイで責めさせることを好んだ。
何とも困った趣味ではあるが、それ以外はたまに癇癪を破裂させることはあるもの
の、極めて冷静で頭が切れ、リーダーシップも強い。
先代が、一族の反対を押し切って強引にボスの座に座らせたこともうなずけるのだ。
ハイネにとって仕える主人は3人目で、知っている主人は6人目になるが、その誰
よりも、この日本人の少女は優れていた。
呼び出しが鳴り、ハイネは内ポケットから携帯電話を取り出した。
「私だ。どうした?」
「も、申し訳ありません、女に逃げられました!」
「……」
大声で伝えていたので、それはアキラの耳にも入ってきた。
ハイネは受話器からやや耳を離すようにしていたから、むしろアキラに内容を聞か
せるつもりだったのかも知れない。
アキラが手を差し出すと、ハイネは自分の携帯を渡した。
「あ、あたし。すぐに捕まえなさい。わかってるでしょうけど、殺しちゃダメよ。
怪我もさせないように。いいわね?」
無理難題を押しつけて、アキラは携帯を忠実な執事に放った。
「……うふふ。さすが不二子お姉さま。こう来なくちゃ面白くないわ」
────────────────────
この程度の監禁部屋を抜け出すなど、峰不二子にとってはどれほどのこともなかった。
輪姦された後、不二子はその部屋に閉じ込められた。
衆人環視の上でのレイプに耐え切り、平然とやりすごしてやったのは気分が良かった。
あの小生意気な小娘をぎゃふんと言わせたことで、少しは溜飲が下がった。
とはいえ、仕事の途中で敵に囚われたという屈辱的な事実は変わらない。
だが、まだ失敗したわけではないのだ。
あくまで途中経過であって、結果的にあのダイヤを奪ってここを無事に脱出出来れば
収支決算は大きなプラスである。
何にしろ、PMが不二子を単独で室内に監禁したのは失策だったと言えるだろう。
身動きできぬほどに雁字搦めにでもしておけばともかく、手錠程度ではとても枷には
ならない。
ルパンもそうだが、不二子にも、このくらいの状態から逃げ出すのは造作もないこと
である。
不二子は、オールヌードで椅子に座らされ、椅子の脚に両足首を縛られている。
手錠されてはいるが、腕は動く状態だ。
これでは逃げてくれと言っているようなものだ。
不二子は髪の中に隠したピンを取ると、それを曲げて手錠の鍵を難なく外した。
たっぷりの髪の中にはヘアピンが何本がセットされている。
ただそれは普通のヘアピンより細く、硬かった。
硬いのだが、指で擦って熱を加えていくと少し柔らかくなる。
そこを加工するわけだ。
その後また数分置いて冷やすと、もとの硬さを取り戻すのだ。
こんな手錠にするくらいなら指錠の方が遥かに有効だし、結束バンドを使った簡易
手錠の方がマシだろう。
不二子は手錠を外すと、足首のロープも解き、しばらく思案してから、自分の座って
いた椅子を思い切り蹴り倒した。
何事かと驚いた番兵が慌ててドアの鍵を開け、中に飛び込んでくるところを不二子の
膝が捉えた。
ひとりめの股間に膝を打ち込むと、男は声もなく失神した。
怯んだもうひとりの頬を拳で1発食わせてから、その両肩に両手を置いて抱え、これ
も膝を鳩尾に叩き込んだのである。
あっさりと警備員を叩きのめした不二子は、そのひとりから服を奪った。
さすがに素っ裸で逃げ回るわけにはいかない。
紺色のBDUを剥ぎ取って身につけ、ベルトも腰に巻き付けた。
ホルスターに入ったサイドアームの拳銃と、サブマシンガンの予備弾倉が二本ほど
ケースに入っている。
短靴を履いたところで、異常事態に気づいた他の警備員たちの声が聞こえた。
同時に、腹の底に響くような重低音の警報が船内に鳴り響く。
乱れた靴音とともに、数名の警備員が駆けてくるのが見えると、不二子はすぐにその
場を駆け去った。
────────────────────
アキラはその様子を警備室から見ていた。
そう広くない室内には、所狭しとモニタが壁にはめ込まれている。
10インチ程度のものばかりだが、真ん中のものは20インチほどの画面になって
いた。
任意に操作して、各所のカメラで撮った映像をメインに持ってこられるらしい。
逃げる不二子の映像を面白そうに見守っているアキラを見て、さすがにハイネが苦言
を呈した。
「アキラさま……、よろしいのですか、このままで」
「もっちろん」
「アキラさま、これは冗談ごとではありませんぞ。あの牝狐を甘く見てはなりま
せん」
アキラにこんな忠告めいたことを口に出来るのはハイネだけである。
アキラは美少女らしい見た目に似つかわしくないほどに──口さがない連中は、
はっきりと「可愛げがない」と言うが──頭が切れ、行動も理詰めで冷酷なほどに
冷静、しかも相当な自信家だけに、およそ他人の意見は聞かないのだ。
百戦錬磨のアンダーボスどもすら、彼女のひと睨みで歯の根も合わぬほどに震え上
がる。
有無を言わさぬ圧倒的で得体の知れぬカリスマもあった。
唯一の例外は執事のハイネだった。
公私ともにアキラは彼のサポートなしでは生きていけないこともあるし、ハイネの
有能さ、そして有用さも充分に認めているからだろう。
アキラは忠実なる秘書を振り返るとにっこり微笑んだ。
「甘くなんか見てないわ。でも、ここまで元気なおバカさんもひさしぶりだから、
何だか嬉しくって」
「アキラさま」
「……それと、あの部屋にカメラ設置してなかったのは、やっぱ失敗だったかな」
部屋に監視カメラを設置していなかったのが痛かったが、これは致し方ない。
あの部屋は女を嬲るための場所であり、そこには撮影用のビデオカメラはあるが監
視用はないのだ。
以前は監視カメラもあったのだが、警備室の連中が、その部屋で嬲られている女ばか
り見ている、という弊害があって、結局、監視カメラを外してしまったのである。
そもそも、要塞じみたこの船に捕らえられ、凌辱や拷問を加えられた上で逃げ出す
気力を持ち合わせた女などそうそういるものではない。
不二子は著しい例外だった、というだけのことである。
彼女の活躍を考えれば、この部屋に押し込んだこと自体が誤りだったということでは
あるが、それは今言っても始まるまい。
ハイネは頭を下げた。
「申し訳ありません」
「あはん、別にあなたがあたしに謝る必要ないわ。だって、あそこからカメラを外す
決定したの、あたしだもん」
「ですが……」
「まあ確かに、あの部屋で女いたぶってるのを盗み見してるやつが悪いんだけど、
よく考えれば、そういうの見たいのって男なら当たり前だしね。ま、そのことは後で
よく考えましょ。お!?」
少女が嬉しそうな声を上げた。
逃げる不二子に、遅ればせながら警備員たちが追いついてきたようだ。
戦闘服の不二子が脚を止めて後ろを振り返っている。
3名の警備員たちが不二子を追ってきていた。
それを見た不二子は前へ逃げる。
どうも武器は持っていないようだ。
倒した警備員のものを拾う暇がなかったのか。
サブマシンガンはともかく、ホルスターには短銃があるはずのに。
「あー、そっちにも追っ手がいるのにー」
アキラは画面を見ながらそうつぶやいた。
不二子はL字になった通路を右に折れると、たたらを踏んで立ち止まった。
そっちからも別の一団がサブマシンガンを手に迫ってきていたのである。
挟み撃ちにされた格好だ。
「おっ!?」
アキラの驚いたような声が上がった。
一瞬の躊躇の後、不二子はもと来た道を引き返したのだ。
当然、後ろから迫ってきていた追ってと鉢合わせする。
驚いたのは追ってきた戦闘員たちで、背を向けて逃げていたはずの女が突如目の前に
現れたのだから無理もない。
さっきの不二子と同じように吃驚してたたらを踏み、怯んでしまった。
敵の隙を強引に作った女賊は、立ち止まることなく相手に突っ込んでいく。
身を低くして先頭の敵に突っ込み、拳を鳩尾に叩き込んだ。
くぐもった苦鳴を漏らして崩れ落ちたその男の身体を支え、その後ろにいた男に押し
返すように突き飛ばした。
「うわ!」という男の悲鳴がマイクを通じてアキラにも届く。
苦もなく味方をふたりを倒した不二子に動揺したのか、残った最後の兵はパニック
したかのように、手にしたサブマシンガンをフルオートで連射した。
軽快な発射音が鳴り響き、あっという間に全弾撃ち尽くす。
焦った敵の弾が当たるはずもなく、不二子はさっと身を屈めてやり過ごした。
しかし、彼女の背後から迫っていた敵はそうはいかない。
パニック状態の味方兵からの一連射で、逆方向から挟み撃ちしようと駆けてきた4人
の警備員をすべて撃ち倒してしまった。
「ちょっと!? やるぅ!!」
アキラが楽しそうに感嘆符を口にし、身を乗り出して画面を見ている。
まるで不二子の活躍を喜んでいるかのような口ぶりだった。
そのモニタの中では、不二子が最後に残った警備員を呆気なく倒していた。
マシンガンの弾が切れたことを知り、慌てて空のマガジンを抜き、予備を装填しよ
うとしたのだが、そんな時間を不二子が与えてくれるはずもない。
サイドアームのことすら忘れた敵に、不二子は伸びやかな美脚を回転させて、その
側頭部に強烈な蹴りを食らわせていた。
吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた彼は、もうぴくりともしない。
不二子は、いくつか転がっているサブマシンガンを一丁拾うと、また駆けだして
いった。
少女はようやく画面から顔を離し、腕組みして唸っていた。
「さっすが不二子お姉さま。ウチの雑魚なんか問題にしないってか」
「……アキラさま」
「わかってるって。このまま好き勝手はさせないわよ。放っておけば損害が増える
ばっかだし、ヘタしたらマジで逃げられちゃう。ハイネ」
「はっ」
身を屈めた執事の耳元で何事か囁くと、主の少女は車椅子を押されて警備室から出て
行った。
────────────────────
不二子は身につけた装備を確認している。
ベルトには通信機代わりなのか、携帯電話を収めるケースが付いている。
調べてみると、内線機能はあるが、それ以外は市販の携帯と変わらないようだ。
アンテナもちゃんと三本たっている。
船内にも中継局があるのであろう。
不二子は携帯電話を開くとナンバーをプッシュする。
なかなか相手は出ないようで、不二子の美貌に焦りと苛立ちが浮かぶ。
「遅いっ! すぐ出てよ!」
やっと出たのか、不二子はたまりかねたように叫んだ。
「……え? そうよ、私よ! 番号が違う? だから緊急事態なのっ、わかるで
しょ? 何でもいいからすぐに……そうよ、すぐに助けに来てっ! ……ああもう
何でもいいから早くっ! 忙しいのよ、今! ……え? 違うわよ、逃げ回ってん
の! 早くして!」
不二子は怒鳴るようにそこまで言うと、携帯を両手で絞り壊した。
この携帯から通話記録を調べられて、通話相手の番号を知られないためである。
何とも一方的かつ乱暴で内容も少ない物言いだったが、あの男ならこれくらいの
情報で充分だろう。
不二子が今どこにいるのかくらいは探ってくれると期待してもいいはずだ。
不二子が壊れた携帯を通路に捨てると、すぐにわらわらと追っ手の警備員たちが
迫ってきた。
タタタッと乾いた銃声が響き、不二子の周辺でも跳弾が弾けている。
「しつっこいな、もう!」
そう言い捨てると、不二子は脇目もふらず、また駆けだしていった。
────────────────────
とにかく上へ行くのだ。
不二子はそのことばかり考えていた。
かなりの大型船だった。
前後に走り回っても仕方あるまい。
時間切れになるまで逃げていればいいならそうするが、タイムアップなどはない。
疲れて追い詰められて捕まればそれまでである。
不二子は戦闘力も高い。
銃も格闘技も心得ている。
幹部クラスはわからぬが、雑兵クラスの警備員程度なら、束になってかかってきて
も撃退できる自信はある。
しかし、だからと言ってこの船に乗っている全員を相手にするのはいささか骨だろ
うし、そんなことは無理だろう。
となれば逃げるしかない。
どこかにあるはずの無線室に飛び込んで一時的に占拠、そこからルパンに連絡を取
ろうと思ったが、それは敵の携帯電話を奪うことで解決した。
余計な手間が省けたから、その分逃げる距離が稼げる。
船なのだから、船体の下の方へ行っても意味がない。
喫水線より下に出入り口があるはずもないのだ。
もしかしたらアクアラングを備えた非常口くらいはあるかも知れないが、なかった
ら元も子もない。
確実なのは上だ。
何もブリッジにまで上がる必要はない。
甲板に出られればいいのだ。
きっと、いや絶対そこには緊急脱出用救命ボートがあるはずだ。
オールのボートだったら絶望的だが、最近は動力を持ったものも増えている。
多分、ファーストエイドパックや飲料水、携帯食料くらいは備えているだろう。
エンジン付きならしめたものだ。
不二子は階段を見つけては駆け上がっていった。
エレベータはあるが、それに乗るほど素人ではなかった。
急いではいるが、密室での移動手段は自殺行為だ。
「……!」
踊り場の壁に船内地図が貼ってあった。
不二子はその前に急停止し、ざっと目を走らせる。
どうも不二子が閉じ込められていた船室は最下層──船底だったらしく、ここから
救命艇まで行くのは一苦労だ。
しかも、ボートはブリッジ周辺に配置されているらしい。
そこまで駆け上がるまでには追いつかれるかも知れないし、敵に出くわす可能性も
高い。
思わず舌打ちした不二子だったが、その顔が喜色を取り戻す。
「ヘリコプター……!」
そうだった。
不二子はここにヘリで連れ込まれたのだった。
ならば、当然ヘリの格納庫とヘリポートがあるはずである。
そこでヘリを奪って逃げるのがもっとも速く、しかも確実な逃走手段だろう。
当然、不二子は小型機はもちろんヘリコプターのライセンスも持っている。
船内図を見ると、甲板直下に格納庫兼ヘリポートがあるらしい。
そう言えば、この船に着陸する時も、甲板が観音開きしてヘリを迎え入れていた。
管制室を抑えて甲板を開かせ、飛び立てばいいのだ。
無論、管制室も人員がいるだろうが、雑魚相手なら不二子は余裕で蹴散らせる。
その時「カンカンカン」とスチール製の階段を叩く靴音が響いてきた。
下から追いついてきたらしい。
「いたぞ!」
黒ずくめの警備員が三人ほど、階段の下で不二子を指差している。
咄嗟にその場で伏せた不二子は、踊り場に腹這いになったまま、下に向けて短機関
銃を連射した。
フルオートで20発の弾丸があっという間にばらまかれ、追っ手は「あっ」と悲鳴
を上げて蹲った。
血を流してひっくり返っているのはひとりだけだが、あとのふたりもマシンガンの
猛射に驚いて伏せている。
不二子はその隙に、また階段を駆け上がっていった。
二段飛ばしで階段を駆け上がる。
踊り場ごとにドアがあり、そこから通路に出られるようだったが、どの階もみんな
施錠してあった。
不二子が脱走したため、通路側から鍵を掛けたらしい。
4階ほども階段を駆け上がっていくと、また下の方から追いかけてくる足音が響く。
階段の手すりから顔を出して下を覗くと、2階ほど下あたりに新たな警備員たちが
駆け上ってきていた。
不二子は手すりから腕だけを出し、下に向けてMP5をまた一連射した。
さっきの射撃もそうだが当てるつもりはなく、弾幕を張って敵の足を止めるのが目的
である。
不二子は空になった弾倉を捨て、最後の予備マガジンをセットした。
今はそれどころではないと思いつつも、不二子は手にしたMP5Kをちらりと見た。
どうも新しい銃器は好みでない。
近頃はとみに機能一点張りの銃が増えていると思う。
MP5Kは確かに優れたサブマシンガンだ。
連射能力も高く、命中率も高い。
加えて30センチそこそこで小さくて、重さも2キロほどで扱いやすい。
それでも、である。
MP5にはMP40のような機能美がないと思う。
グロックにはP−08のような優美さがない。
シグにはブローニングM1910のようなコケテッシュさに欠けている。
古いと言われようとも、不二子はルガーやシュマイザー、そしてワルサーの方が好
きだった。
発展途上の面白さがある。
未だにワルサーP38を使うルパン、M29を愛用している次元も、恐らく不二子
と同じなのだろう。
洗練され尽くした最新式の銃には、人の作った機械の暖かみがないと思う。
MP40もP−08も機能美の極地だ。
だが、まだ機械的に発展途上のぎこちなさも併せ持っている。
そこがいいのだ。
同じ時期に作られた、やはり機能一点張りのサブマシンガンに、イギリスのステン
Mk2があるが、あれも機能美と言えば言えるが、あまりにも簡易的であり、量産
志向が強すぎてチープに過ぎる。
「……!!」
階段を駆ける足音がばらばらと反響して聞こえてくる。
ハッとして上を見てみると、黒い影が複数降りてくるのがわかった。
下と上から挟み撃ちだ。
「ちっ……!」
踊り場のドアノブを回すと、やはり鍵が掛かっている。
ここはいちかばちがやるしかない。
不二子はMP5を構えると、またフルオートでドアに向かって撃ち放った。
キンキンカンカンと耳障りな音をさせて、9ミリ弾がドアのロック部分に集中する。
20発全弾撃ち尽くしたが、まだ開かない。
それでもノブはとれかかっているし、鍵穴周辺はボロボロだ。
不二子はブーツの踵でドアを思い切り何度も蹴り飛ばした。
「うんっ! このっ! 開けってばっ! えいっ!」
猛烈なキックを七発浴びて、スチール製のドアは力なく隙間を空けた。
ヒンジ部分が取れかかっている。
不二子は肩からタックルしてドアをぶち破った。
転がるように通路に出ると、すぐに船内図がある。
見てみると、現在地はちょうど格納庫のフロアだった。
弾切れになったMP5Kを躊躇なくその場に捨てると、不二子は腰のグロック19
を引き抜いて走り出した。
ヘリ格納庫への指示板が貼ってある。
このまま真っ直ぐ進み、T字路を左折するようだ。
後ろからわらわらと走る音と怒号のような声が聞こえてきた。
不二子はろくに振り返りもしないまま、グロックのトリガーを絞った。
壊れたドアに着弾する9ミリ弾の音が5回ほど聞こえ、男たちの声が途切れる。
その間隙に不二子は路地を左に曲がり、とうとう格納庫に到着した。
躊躇うことなくドアを蹴り飛ばすと、呆気なくそこは開いた。
中は薄暗く、誰もいないようだ。
不二子は振り返ると、内側からドアロックを掛けた。
目を懲らすとタンデムの大型ヘリが一機、他に三機もある。
大型のはCH47のように見える。
中型の二機ははシコルスキーS76だろう。
小型の一機はOH−6らしい。チヌークは無理だろうが、S76やOH−6なら充分
に操縦できる。
小型で扱いやすいだろうからOH−6がいいだろう。
そう決めると、さっと倉庫内を見やる。
あった。
中二階に小さなプレハブのような建物がある。
きっとあれが管制室だ。
あそこで甲板開閉のコントロールが可能なはずだ。ヘリのロックもそこかも知れない。
見れば中は真っ暗で、誰もいないように見える。
しかし不二子が逃走したと言うのに、ヘリ倉庫が無人というのもおかしい気がする。
追いかける一方で、こちらにも人員を配置するのは当然だろう。
だがためらっている時間はない。
もし待ち伏せがいたら撃ち倒せばいいのだ。
そもそも待ち伏せするなら、キャットウォーク部分に兵員を配置して、不二子が倉庫
に飛び込んだ時点で撃ち殺すか、降伏勧告すればいいのだ。
それがないということは、本当に慌てていてここまで手が回っていないのかも知れな
かった。
不二子は細い階段を上り、キャットウォークのような通路を駆け抜け、管制室に飛び
込んだ。
「……!!」
途端に部屋の照明が入った。
眩いばかりの光量で、不二子の視界が一瞬真っ白になった。
「動かないで」
強烈なライトが消され、室内灯に代わった。
思わず閉じた瞼の裏がまだ真っ赤で、不二子は目を開けてもろくに視力が戻らない。
数秒してから辺りが見えてくると、不二子の前には小さな拳銃を構えた車椅子の少女
が待ち構えていた。
アキラはにっこりして言った。
「……遅かったじゃない、不二子お姉さま」
「……」
車椅子の後ろには、大きな室外用のハロゲンライトがあり、そこには執事のハイネが
無表情で立っている。
思わず後ろを振り向くと、キャットウォークを走る警備員の姿が目に入った。
万事休すである。
ここでアキラに背を向けて逃げるのは自殺行為だ。
最初に見せられた彼女の銃の腕前が、まだ脳裏に残っている。
と言ってアキラに反撃するのも不可能だ。
確かに不二子のグロックにも残弾はある。
しかしアキラのグロック26の銃口は、ぴたりと不二子の左胸に合わせてあるのだ。
腕を垂らした状態の不二子が銃を構えようとすれば、この非情な少女は躊躇なくトリ
ガーを引くだろう。
「なかなか楽しませてもらったわ。さっすが天下の峰不二子。あたしの警備員ども
なんか、足下にも及ばないのね」
「……それはどうも」
「格闘技も銃も超一流。戦うにしても相手を殺すんじゃなくって、行動不能にする
だけ。もちろん必要があれば殺すんでしょうけど、無駄な殺生はしないって感じね。
うーん、プロよね」
感心したように不二子を褒め称えるアキラだが、その銃口はちっともぶれていない。
銃を持った腕も力が抜けており、緊張している様子もない。
不二子が少しでも動けばすぐにでも引き金が引ける状態だ。
圧倒的優位に立っている相手が、焦っても怒ってもおらず冷静なのであれば、これは
勝ち目がない。
不二子は、なぜかにこっと笑って手にしたグロック19を床に落とした。
────────────────────
不二子が監禁室から引き出されたのは、脱走未遂から2日後のことである。
その不二子は、以前犯された時に使われた部屋で拘束されていた。
あの時と同じく、両手吊りで腰を後ろに突き出すような格好だった。
今回はあの時に比べればまだマシだ。
違うのは、あの時よりもずっとかっちりと固定されていた。
本当に動けないのだ。
不二子が自分の意志で動かせるのは、首と手、足首くらいであった。
あとはもう、どう身体を捻ろうが捩ろうがほとんど動きが取れない。
なぜここまで姿勢を固めさせられるのかわからない。
単に自由を奪うだけなら、ここまで念入りにする必要はないはずだ。
もちろん、身体には何も着けていない。
全裸である。
胸も媚肉も晒されている状態だ。
その様子を、アキラが面白そうに眺めている。
「……お嬢ちゃん、いくら何でも趣味が悪いわよ」
「そうね、それは自覚してるわ。でも、これを見るのはあたしとハイネとあとひとり
だけだから気にしないで」
「で? 今度は何するわけ? 生半可なレイプじゃあたしはまいらないわよ」
「そのようね」
アキラはそう言って振り向くと、ハイネに合図した。
忠実な執事はアキラに一礼して、ワゴンの上に乗った銀色の小さなケースを開けた。
金属製で鈍く光るそれは、医療品にも見える。
案の定、取り出したのは小さな注射器である。
「なあに? 予防接種でもするの?」
「残念、逆よ。ちょっと血液検査させてね」
「血液検査?」
不二子は怪訝そうにアキラを見た。
「……言っとくけど、あたしはHIVとかには感染してないわよ」
「そう願いたいわね。ま、そっちの検査もするけど、それだけじゃないわ」
「じゃ、何?」
「ひ・み・つ」
うふふ、とアキラは無邪気に笑った。
「それにしても、お姉さま。何か、焦ってる風に見えるんだけど、気のせい?」
「……!」
不二子は一瞬唖然として、不気味に笑うアキラを見つめた。
だがすぐに余裕の笑顔を取り戻す。
「あら、そんなことないわよ。こんな格好させられるのはいやだな、とは思うけど」
「そう? まあいいわ。ハイネ、早くして。終わったらランディを呼んで」
「……彼を使いますか」
「うん。それくらいじゃないと、このお姉さまは満足してくれないでしょ」
ハイネは軽く頷いて、注射器に針を着け、それを軽くアルコール消毒する。
不二子の左腕も脱脂綿で拭いた。
すーっとアルコールが蒸発する涼しい感じがした。
執事は手慣れた風に不二子の腕に針を刺すと、血液を採取していく。
50ccくらいだろうか。すぐに針を抜き、脱脂綿で押さえた。
続けてまた別の注射器を取り出した。
アンプルの首を爪で弾いて折り取り、そこから薬液を吸い上げている。
「血液検査の後は何かしら。今度こそ予防接種?」
「予防……じゃないな。むしろ逆」
「逆? なに?」
「いずれわかるわよ。そう何でも知りたがらない方がいいわ。楽しみは後に取っと
かないとね」
「残念ながら、私は先に楽しむ方なの」
「あら、趣味が合わなくて残念。でも毒とかじゃないし、身体に害はないから心配
しないで」
「訳のわからない注射されて心配しない人なんていないわよ」
その間に注射はあっさり終わっていた。
注射針を刺される痛みで少し眉を寄せていた不二子に、ハイネは言った。
「結果はすぐに出る」
「だから、何の検査なのよ」
「結果が出たら教える」
そう告げると、長身白髪の男は主の少女に深く頭を下げてから部屋を去った。
すると、入れ替わりに、あまり見栄えのしない青年が入ってきた。
身長は180くらいだろうか。
中肉というよりはやや痩せ形である。
青年は、入るなりアキラに低頭した。
少女は軽く頷いて不二子を見る。
「お姉さま、紹介するわ。ランディよ」
「……ふうん。今度のお相手はそのお兄さん?」
「そういうことになるわね」
「何度やっても同じだと思うけど」
不二子はそう答えてランディを見た。
どことなく頼りない感じがする。
女の調教師には不可欠であろう迫力がない。
ただ気になるのは、彼の股間である。
ベージュのデニムを履いていたのだが、その股間が一種異様なくらいに膨らんでいた
のだ。
絶世の美女が、全裸で磔になって寝かされているのだから、大抵の男なら興奮し、
勃起もしよう。
だが、それにしたってランディのそこは大きかった。
不二子は軽くため息をつく。
女は、ものの大きな男に突っ込まれれば感じると、この少女は思っているのだろうか。
いかにも男性的な発想であり、偏見である。
見たところ賢そうだし、ミドルティーンでPMを率いているのだから統率力を含めた
各種能力はあるのだろう。
だが、所詮は幼い少女に過ぎない。
性知識に関してはこんなものなのだろう。
不二子としては──というより女性一般としては、ただ巨根なものを挿入されたとこ
ろで、痛くて苦しいだけである。
もちろん犯す側のテクニックにもよるだろうが、20センチ超とか30センチクラス
のペニスなど、入れるだけで一苦労のはずだ。
まして、それを受け入れさせられる女は、恐怖が先に立ってしまい、感じるどころで
はない。
さすがに不二子は恐怖までは感じなかったものの、うんざりはしていた。
自分の膣はそんなガバガバではない。
あんなものを入れられたって、感じるところか苦痛なだけだ。
もしかするとアキラはそれを望んでいたのかも知れない。
もうひとつ、不二子には気がかりなこともあった。
ここに侵入する前に飲んでいた薬の効果はもう切れているはずだということだ。
とすれば、あまり凌辱を受け続けるわけにもいかなかった。
そのためにも早く脱出する必要がある。焦っているのはそのためだ。
「お姉さま、何考えてるの?」
「……別に。さっさと終わらせて欲しいってことよ」
「あらら。まだ強気ね。けっこうけっこう。ランディ、これ使って」
「は」
青年は極めて短く返事をして、少女から調味料のボトルのようなものを受け取った。
樹脂性のそれは半透明であり、中に入っている溶液も透明だ。
「なあに、それ」
「またまた。わかってるくせに。お姉さまを気持ちよくさせるお薬に決まってるじゃ
ない」
どうやら媚薬の類らしい。見たところ服用するのではなく、塗布するものだろう。
「やれやれ、そんなものを使わないと女を満足させられないわけ?」
「そ。残念ながらお姉さまの経験とテクじゃ、うちの連中では太刀打ち出来そうに
ないんだもの。仕方ないわ」
この手の薬は、そのほとんどが眉唾である。
最新科学とやらが開発したものでもインチキばかりだし、多少なりとも効き目がある
場合は、違法ドラッグが混入されているケースが多い。
昔から有名な媚薬というのもあるにはあるが、怪しげな材料を使っているものばかり
だ。
なにせ大昔は、チョコレートやタマネギなども媚薬とされていたのである。
そんなものが媚薬であるなら、今や世界各国の人間はメロメロになっていなければ
ならない。そんなことはない。
「ちょっと、それ危ないクスリじゃないんでしょうね?」
「危ない? ああ、ドラッグとかそういうこと? そんなことないから安心して。
お姉さまを薬漬けにしようなんて思ってないから。まあ……」
そう言いかけて、アキラは不二子を見て微笑んだ。
「お姉さまの心と身体がどうしても頑固だった場合は、やむを得ないってことも
あるかも知れないけど」
「……」
「だって、お姉さまがいってくれなきゃつまんないんだもの。あたしだって、それ
が見たいんだし、ユーザーだって……」
「ユーザー?」
「あ、ううん、こっちの話。でも、それは最後の手段だから。ほら、ランディ」
「は」
無口なのか、青年はそう返事して不二子の肢体に近寄っていく。
さすがに不二子も気持ち悪いのか、抗った。
「おかしなものを塗るのはやめてよ。するならさっさと普通にすればいいでしょ、
男らしくない」
「あらら、そんなこと言っても、こっちがフツーにしてもお姉さまったら感じてくれ
ないんだもの」
「それは男がヘタだからでしょ。でもいいわ、感じてあげるから、そんなもの使わ
ないでよ」
「だーめ。だってお姉さまったら経験豊富そうだし、演技で感じてるフリとかしそ
うなんだもの」
見透かしたようにアキラはそう言った。
目で合図すると、ランディは黙って頷いて不二子に近づく。
不二子が動けないながらも身構えようとすると、その顔にアイマスクを掛けてしま
った。
「ちょっと……!」
「いいじゃないの、それくらい。お姉さまだってどうせセックスする時にはお部屋
を暗くしてやるんでしょ? それとも明るいまま?」
「それとこれとは違うでしょ。とにかく目隠しされたままなんて……あ!」
ふたりの女の会話など耳に入らないとばかりに、男はボトルのキャップを取り、
中身を不二子の裸体に垂らしていく。
「くっ……! つ、冷た……」
「あらそ? でもだいじょぶよ、お姉さま。それってお肌に塗るとすぐに反応して
熱くなってくるから」
透明な粘液が不二子の胸にとろりと降りかかる。
乳首の辺りに垂れた粘液は、そのまま乳房の輪郭をなぞるようにして頂から麓へと
伝い流れていく。
男は女体にローションを垂らしつつ、それをすり込むように肌を愛撫した。
不二子の身体の上に溜まったローションを薄く塗り込むと、また別の場所に透明な
粘液を垂らし、すり込む。
首から下のほぼ全身をローションまみれにされ、不二子の裸身がぬらぬらと妖しく
輝いている。
それを興味深そうに眺めてアキラが言った。
「……へえ、すごいものね。あたしもビデオでは何回か見たけど、こうしてナマ
でローションプレイ見るのは初めてよ。なんかこう、ぞくぞくするような色気が
あるわ」
「そう? じゃ、あなたも試してみれば……っ……!」
不二子の言葉を遮るように、ランディの愛撫が始まった。
と言っても、乳房や尻を揉んだり、媚肉を触ったり、ということはしていない。
爪や指先、指の腹などでちょん、と触れるだけである。
性的な愛撫というよりは接触させているという感じだ。
ただでさえ不二子は、自分でも厄介に思うほどに敏感な柔肌の持ち主である。
彼女があまりハニー・トラップを好まないのもこの点にあった。
自分が溺れてしまっては意味がないからだ。
また、女性は誰でも、男の欲望丸出しの強すぎる愛撫よりは、触れるか触れないか
くらいの微妙で繊細なタッチの方が敏感に感じる。
ランディはまさにそれをやっているのだ。
「……」
視界を封じられた不二子は、イヤでもランディが触れてくる箇所に神経が集中して
しまう。
それが狙いでアイマスクさせられたのはわかっているが、意識がそっちへ行って
しまいのはどうしようもないだろう。
まるでマッサージ師のような繊細なタッチでランディの指が不二子の白い肌に這い
進んでいく。
オイルマッサージによるボディトリートメントのようなものだと思えばいいと開き
直った不二子だったが、必要以上に肉体は鋭敏になっている。
ローションでぬるぬるになった肌に指が滑るように撫で上げてくると、くすぐった
いような、ぞくっとするような感覚が鋭く突き抜けてきた。
これが性感マッサージというものなのかも知れない。
男は、まだ乳首やクリットといった急所を直接いじってくることはなかったが、
それでもポイント近くに触れられると思わず不二子も「くっ!」と声が漏れてしま
うこともあった。
ランディの手腕は、まさにマッサージ師のようだった。
どちらかというと細身の身体にふさわしい細い指をピアニストのように操り、女体
をまさぐっていく。
触れるか触れないかくらいのタッチがあるかと思えば、手のひら全体を広く使って
擦り上げるように肌を刺激する。
ローションでぬらついたランディの指は摩擦を感じることなく、ぬるり、するりと
滑るように不二子の肌を揉み上げ、すり込んでいった。
「……っ……ん……」
不二子は意地になって声を出すまいと堪えていた。
こそばゆいところを擦られると腹筋が捩れて笑い声が出そうになる。
心地よさや軽い快感を得ると鼻から息が漏れる。
その程度は仕方がないが、それ以上に露骨な反応はしたくなかった。
自分は目隠しされているのに、その姿を年端もいかぬ少女に観察されていることが
悔しかった。
少女は大きな黒い瞳を輝かせて興味津々と風情で見入っていたが、ランディの方は
まったく冷静だった。
ランディは不二子の身体のラインをなぞるように、指先を立てて擦っている。
すーっと指を走らせたり、とんとんと指先で軽く叩くような動きも交えていた。
そのくせ、決して肝心なところには触れず、焦らすようにその見事な女体を嬲って
いる。
「ふふ、焦れったそうねお姉さま。少しずつ腰とか動いてるわよ」
「く、くすぐったいのよ。当たり前でしょう、そんな触り方されたら」
「あらそう。じゃあ、そのおっきなおっぱいをぎゅっと絞りあげるように力一杯
揉んで欲しいのかしら?」
「いいえ、けっこうよ。そういうのは間に合ってるから」
「あはは、そうかもね。ま、そのうちおっぱいをぎゅうぎゅう牛みたいに揉みしだ
かれるから安心して。そうなる前にお姉さまの方から「お願い、強く揉んで」って
言うようになるかも知れないけど」
「お生憎さま。子供の見ている前でそんな無様なことにはならないから」
不二子はわざとアキラを怒らせるように言ったのだが、こうも立場に差があると
アキラの方もそうそう挑発には乗らないらしい。
「そう。うふふ、その強がり、いつまで続くか愉しみにしてるから。今までランディ
のボディマッサージで濡れなかった女はいないんだから。そうよね、ランディ」
アキラはくすくす笑いながらそう言うと、ランディはちらりと年少のボスを見て
小さく頷いた。
よく考えれば非礼な態度なのだが、アキラはそう気にしていないようだ。
彼の力量を認めていることに加え、この男はもともとこういう人間であって悪気は
ないと知っているからだ。
その間にも男の入念なマッサージは続いている。
指が股間を走ると、思わず不二子は脚を閉じようとするが、もちろん拡げられて
拘束されているから閉じられるものではない。
「うっ……」
ランディの指がそっと鼠径部を擦ると、びくっと不二子の腰が震え、腿に力が入る。
なおも指が進み、V字に拡げた二本の指がビキニラインをなぞってきた。
不二子はその甘い刺激に唇を噛んで堪え忍ぶ。
ランディの指は媚肉そのものや割れ目には一切触れず、その周辺のみを執拗に嬲って
きた。
(まずい……かな……)
不二子は肉体の変化を意識した。
身体が火照ってくる。
見たわけではないが、男の指が周辺を愛撫してくると、そのすぐ近くにある肉芽が
むくりと立ち上がってきた気がする。
気のせいか、膣奥が熱くなり、じゅんと潤ってきている感じがある。
不二子は括約筋を引き締め、それが膣から漏れないよう力み始めていた。
「く……」
ぞくり、とした。
男の手がいつの間にか背中に伸びており、不二子の背筋をそっと撫で上げたのだ。
すっきりと美しく通った背中の窪みの中心にランディの指が這っている。
下から上へ爪の表面を使ってなぞり上げたかと思うと、今度は指の腹で上から下へ
と這い下ろしている。
こそばゆさと心地よさの中間のような感覚を呼び起こすランディの巧みな指使いに、
不二子はグッと背中を仰け反らせた。
吊られた両手がぐっと握りしめられ、脚の指もぐぐっと屈まっている。
ぶるっと上半身が震え、豊満そのものの乳房が扇情的にゆさっと大きく揺れ動いた。
見ている者にとっては、素晴らしく妖艶な眺めだったろう。
「うふ、感じる?」
「い、言ったでしょう、くすぐったいのよ、あっ……」
「あ、聞いた? 今、お姉さま「あっ」だって。その調子よ、もっともっと色っぽい
声聞かせて」
「ホントにこの子は……う……」
なおもランディの指は魔法のように不二子から官能を引き出してくる。
自在に操られた指は背中から胸へも伸びてきた。
美しく盛り上がったその乳房は、男なら誰でも唸りを上げてむしゃぶりつきたくなる
代物だったが、ランディは呼吸ひとつ乱すこともなく機械的正確さでその外周を
なぞってくる。
乳房の形状を確認するように外側を中指の指先でそっとなぞりつつ、親指を使って
器用につんつんと膨らみを軽く突くことも忘れない。
「ああ……」
指は胸の外周を這い進み、だんだんと頂上めがけて螺旋を描くように昇っていく。
淡い色の乳輪まで届くと、今度はその周辺をなぞって不二子にくぐもった声を漏ら
させた。
ここで乳首まで責め上げれば、たまらず声を出すところだったろうが、ランディの
指は乳輪を責め立てた後は、また麓に向かって降りていった。
今にも崩れ落ちそうな不二子に比べ、余裕綽々のように見える。
一方、下半身に這っている左手の指はよく張り出したヒップをなぞっている。
形良く突き出された臀部の頂点を撫でたかと思うと、割れ目に入り込もうと蠢いて
くる。
それだけはされまいと不二子が双臀に力を入れると、ランディの指はその隙間に
挟まれてしまう。
しかしその状況を愉しむかのように、彼の指は余裕を持ってもぞもぞと動いてきた。
不二子のしなやかな筋肉と柔らかい弾力を味わいつつ、指先を使ってそこをこじ開け
てくる。
肛門にまで触られる、と不二子が覚悟すると、指はすっとそこから離れ、尻たぶの
内側を指の腹で何度も擦ってきた。
「っ……ふっ……んっ……」
歯を食いしばっている女スパイだったが、どうにもこの感触には耐えきれず、ぎり
っと強く噛んだ奥歯が軋む音と、鼻から熱い息が漏れ出てしまう。
ランディの愛撫はまさに全身に及んでおり、足の裏から足首、ふくらはぎ、膝の裏、
太腿へと続き、脚の付け根にまで到達している。
上半身も、背中やうなじ、胸、腋、鎖骨、二の腕、肩、首筋や耳たぶ、耳の穴にまで
指が入り込んで、不二子から噛み殺した呻き声を絞り出させていた。
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