彼女は自分が淫らだと思ったことはない。
なのにこのギャップは何なのか悩んでいた。
実のところ、響子にとっては初めての本格的なセックスだったのだから、感じるのはある意味
当然である。
裕作はほとんど女性経験はなかったし、前夫の惣一郎も結婚当時はもう中年で、やはり淡泊で
あった。
そして両者ともに響子へ対する気遣いは相当なものだった。
一方的な片思い期間の長かった裕作は当然として、響子に言い寄られた形の惣一郎も同じだ。
何しろ教師と女生徒との結婚だったのだ(無論、結婚したのは響子の卒業後だったが)。
高校を出たばかりの処女が相手だったのだから、これは神経質にもなるだろう。
裕作はそこまでいかないが、惣一郎の場合、まさしく腫れ物に触るような扱いをしていた面も
ある。
それだけに響子の女としての性は、ほとんど未開発に近かったのだ。
肉体だけは年齢相応に発達し、見てくれは素晴らしいスタイルであり、感度も良好だったのだが、
相手の男性陣が引いてしまっていたため死蔵していたようなものなのだ。
そこに二谷の登場である。
そんなこととは知らぬ若者は、思いの丈を存分に響子の肉体に向けた。
悪いことに、彼は裕作たちと異なり、かなり豊富な女性経験を持ち、分不相応なほどの技巧と
女に対する優越感も持っていた。
それが遠慮なく響子の身体を襲ったのである。
もともと素質という意味では抜群だった彼女の性が、それに抗えるはずもなく、手もなく彼の
前に屈してしまったのだ。
それでも彼女は、人妻であり子供もいることを拠り所に、精神的に二谷に抵抗はしていた。
しかし、その儚い抵抗こそが、響子をより性の深淵に引き込むステップだった。
それに気づいたのは、自分の部屋で犯された時である。
あろうことか、夫の目の前で凌辱されてしまった。
裕作は眠りこけていたが、その寝顔を見せつけられながら犯されたのである。
暴れることも逃げ出すことも出来なかった。
騒げば、二谷に押さえつけられているところを見られ、不貞を知られてしまう。
逃げるといっても、素っ裸で外へ逃れるわけにもいかなかった。
結局、夫や知人に知られることを恐れた響子は、そのまま二谷の欲望を受け止めさせられた。
裕作に知られてしまう恐怖と、年下の男にいいように弄ばれる屈辱で、官能など感じるわけが
ないと思っていた。
なのに、二谷に裸身を愛撫され、媚肉を貫かれると、言いようもない快楽がわき上がった。
いくら堪えてもこみ上げてくる肉悦に身悶え、喘がされた。
夫に見られるかも知れないという恐怖がスリルに置き換わり、美貌の人妻を愉悦の海に沈めて
いた。
さらに、有り得べからざる場所−アヌスまで犯された。
それまでも二谷は執拗にアヌス責めを繰り返し、感じやすかった響子の身体は、その愛撫に
すら反応していた。
そしてあの晩、とうとう彼は響子の肛門を犯してきたのだ。
不潔、恥辱、動揺といった感情は、狭いアヌスを貫く剛棒の前にひとたまりもなかった。
初めての肛門性交だったというのに、響子は感じていたのだ。
今までも散々いびられてほぐされ、受け入れやすくなっていたとはいえ、排泄器官を犯されて
感応してしまったショックは大きかった。
そしてその日、はっきりと絶頂に達してしまっていた。
口を犯され、媚肉を貫かれ、肛門まで凌辱された。
その上で気をやってしまったのだ。
響子は心のどこかにヒビが入ったように感じていた。
二谷の方も、その日以来、響子の身体に気安さを感じてきていた。
響子という美しい人妻を官能の絶頂まで導いたことによる、男としての自信と余裕が生まれた
のだ。
そして、何としてもこの女を自分のものにしたいと、強く思うようになっていた。
今まででも、美女を抱いたことは何度もあった。
しかし彼の好みはそれなりにうるさく、しかも飽きっぽかった。
気に入ってつき合いだしても、せいぜいが3度か4度抱いてしまえば、もう捨ててしまっていた。
そしてすぐに次の女に移行する。
なにせ元が良いから、特に努力しないでも、いくらでも女は寄ってくるのだ。
それでいて二谷は、とにかく女が欲しい、というタイプではない。
美人と評判の女性でも、自分の好みと合わなければまるで関心を示さなかったし、迫られて
流されるということもなかった。
今回の響子のように、二谷の方から執着するという女はいなかったのだ。
それだけに彼は響子に拘泥した。
常に響子を監視し、機会があれば襲いかかった。
主に昼間から夕方が多かった。
四号室の四谷は、何の仕事をしているか不明だが、取り敢えず昼間はいない。
一号室は管理人室の隣だけに厄介だったが、一の瀬のおばさんも主婦だから買い物には出かける。
その隙を狙っていた。
アパートに誰もいないと確認すると、二谷は管理人室へ行って響子を犯した。
響子は「ひっ」と悲鳴を上げ、部屋を逃げ回ったが押し倒され、服を着けたまま貫かれた。
下着一枚つけない全裸にされ、肢体をロープできつく縛り上げて、窮屈な姿勢のまま突き刺さ
れる。
流し台に両手を突かされてスカートをめくられ、尻を二谷に突きだした格好にされて犯された
こともある。
どんなに抵抗しても、すべて膣内に射精された。
胎内に熱い精液に染み渡り、子宮の中にまで流れ込んでいく感覚がたまらなかった。
夫以外の精液によって汚される汚辱に、響子は嫌悪と妖しい悦楽を得ていた。
若者は、口でも肛門でも必ず中に射精した。
口に出された時も、全部飲み干さないと殴られた。
射精を終えても、ペニスに残った精液を吸い出すように命令された。
二谷は憑かれたように響子の肉体に執着した。
ある日など、予備校をさぼって一日中響子の身体を貪っていた。
朝から夕方までかけて6回も犯されたことがある。
一刻館だけでなく、ラブホテルへも何度も連れ込まれた。
そこで緊縛され、淫らな性具で弄ばされ、汗と愛液を散々搾り取られて、いやというほど気を
やらされた上で、夥しく射精された。
もう彼女は二谷の言いなりだった。
あれから一ヶ月。
響子は自分が自分でなくなったような気がしている。
自分の肉体が、二谷によって作り替えられていく実感があった。
いつでもどこでも、二谷が望むままに身体を開き、彼の肉棒を受け入れていく。
いやというほど突き込まれ、何度も快楽の絶頂まで押し上げられて、屈服の言葉を口にする。
仕上げには、たっぷりと濃い精汁を胎内に注ぎ込まれる。
肌は唾液で、身体の中は精液で、二谷の匂いが染み込んでくるようだ。
成熟してはいたが未開発だった人妻の肉体から、次々と新たな官能をほじくり出していく若者が
怖かった。
もう響子は、二谷に抵抗することはほとんどなくなっていた。
アナルを犯される時だけ抗う姿勢を見せるが、それもポーズだけのように思えた。
跪かされ、目の前に彼が仁王立ちになると、響子は諦めたような表情でファスナーに手を掛け、
指でペニスを引き出して口にくわえる。
二谷がロープを扱くと、黙って下着を取り、後ろを向いて手を合わせた。
さすがに、自分からせがんだり求めたりすることはなかったが、若者の要求を拒絶することは
なくなっていた。
「……」
響子は、出かけるために薄化粧を施し、鏡台に向かっていた。
自分の顔が自分のものでないように思えた。
ここ一ヶ月、濃厚なセックスを受け続けているためか、ゾッとするほどの妖艶さが表情に出て
いた。
禁断の関係を続けさせられていることもあって、響子は日ごとにやつれていった。
一回一回のセックスが激しく、変態的な行為も多かったから、疲労も溜まるのだろう。
「一の瀬さん……」
化粧を終え、部屋を出ると一の瀬がいた。
一の瀬は、響子の服装を見て言った。
「……またお出かけ?」
「……」
響子は少し俯いたが、すぐに作り笑いをして一の瀬に言った。
「すみません。申し訳ないですけど、また春香をお願いします」
そう言って、部屋の鍵を渡す。
一の瀬はその鍵を受け取りながらぽつんと言った。
「……また3時間くらいかい?」
「……」
響子は黙って頭を下げ、玄関に向かった。
その背におばさんが声を掛ける。
「管理人さん」
「はい」
「……もう、いい加減にしといた方が良かないかい?」
「……」
「そりゃああんたにもあんたの事情があるかも知れない。だけど五代さんが……」
「一の瀬さん」
響子が振り返って言った。
「ごめんなさい。でも……」
「でも?」
「……いえ、何でもありません。じゃあ、春香をお願いします。4時には戻ります」
「……」
響子の顔に小さく笑みが浮かんでいた。
その微笑が、なぜか一の瀬は気に掛かった。
* - * - * - * - * - *- * - *
若者はすでにホテルで待ちわびていた。
響子が部屋に入るなり、彼女に抱きついていった。
「いや……」
響子は二谷を押しのけて言った。
「おや、まだそんなことを言うんですか、奥さん」
「……」
「もうあなたの身体は僕のものだ。違いますか、奥さん」
響子はうつむきながら小さく言った。
「……慌てなくとも、ちゃんと抱かれるわ。だからシャワーを浴びさせて」
「だめだ。このまま犯してやる」
そう言って二谷は背中から抱きついた。
たっぷりした髪に顔を埋め、その甘い香りを吸う。
左手でブラウスの上から胸を揉み、右手はスカートのスリットから忍ばせて下着の上から媚肉
をいびった。
最初はいやがって身を固くしていた響子も「んんっ」と呻き、次第に肉を燃え上がらせていった。
響子は、二谷とのセックスに溺れた。
彼に対する愛情はない。
それについて響子には確信がある。
だが、それとセックスとは別物であった。
今まで裕作や前夫との間にあった肉体交渉とは何だったのかと彼女は悩んだ。
裕作と二谷のそれは、胸への愛撫ひとつとってもまるで異なった。
夫は、響子への愛情や思いやりを込めて優しく乳房を揉んだ。
舌で舐め、吸うこともあったが、基本的にはそれだけである。
ところが二谷に犯されて、同じ揉むにしても千差万別であることを思い知らされた。
裕作にされるように、柔らかく揉み込まれることもあった。
しかし逆に、苦痛を感じるほどに強く激しく揉み潰されることも多かった。
そのコントラストが絶妙だったのだ。
下乳をさするように愛撫されたかと思うと、ぎゅうぎゅうと牛の乳搾りのようにきつく揉まれる。
舐める行為にしても、乳頭の頂から円を描くように螺旋状に舌を這わされ、豊かに盛り上がった
乳房全体を舐め込まれた。
乳首への愛撫も念が入っていた。
乳輪をこねるように舐め回されると、すぐに感じて勃起する。
立った乳首が胸の隆起に舌で押し込まれるように愛撫され、響子はその甘美な感覚に呻かずに
いられない。
ぷくんと膨れた乳首には、舌だけでなく唇や歯も総動員していたぶられた。
指で嬲られるにしても種類がある。
指の腹で転がされるように愛撫されたり、クンとつまみ上げられることもあった。
引っ張り上げられた乳首をねっとりと舐められると震えが来た。
マシュマロのように柔らかかった乳房は、じんわりと揉み込まれているうちに充実した張りと
弾力を取り戻し、激しく揉みこねられて鋭い快感を響子に提供した。
そして最後には、身体同様くたくたになるほどに頼りない柔らかさに戻った。
二谷が乳房を責め終わり、乳房が彼の唾液と響子自身の汗で光り輝く頃には、響子はもう性の
八合目付近まで昇っているのだった。
胸だけでいきそうになったのは、一度や二度ではなかった。
どうして胸を揉むという同じ行為のはずなのに、夫とこうまで違うのだろうか。
どうしてこういやらしく粘っこく乳房を揉み上げることが出来るのだろうか。
響子はほとんど陶然としながら、若者の愛撫に喘いでいた。
こうして、以前からの性感帯からも、より鋭く深い快楽を導き出されたが、未知の快感もたっ
ぷりと教え込まれた。
特にたまらなかったのはアヌスだった。
無論、彼女は、そんなところをセックスの対象にするということ自体、汚らわしいと思っていた
から、激しい拒否反応を示していた。
しかし最初に触れられた時の妖しい感覚に戸惑い、管理人室に於いて裕作の目の前で肛門を犯さ
れた時には、はっきりとした快感を得ていた。
嫌がってきつく引き窄めた肛門を丹念に擦られ、じっくりと揉みほぐされていく感覚がたまら
なかった。
どう踏ん張っても、腰から力が抜けてしまうのだ。
二谷が指や唇、舌まで使ってそこを責めていくと、アヌスの奥というよりも腰の中心から次々と
熱い痺れが溢れてきた。
しっとりと柔らかくなった肛門に指やペニスが突き刺されると、響子は腹の底から喘ぎ声がこみ
上げてくるのを止められなかった。
フェラチオも本格的に覚えさせられたし、パイ擦りのようなソープ・プレイも仕込まれた。
精液は全身で受けた。
二谷は胎内へ出すことにこだわってはいたが、背中や胸、首筋にも引っ掛けられた。
口の中や顔にももちろん射精された。
響子はいやだったが、精液の味というものも覚えさせられたのである。
あらゆるセックスを教え込まれ、仕込まれていた響子は「もうこの肉体は二谷のものなのかも知
れない」と、ぼんやり考え始めていた。
10も年下の若者に支配されたという屈辱感は薄まり、性の深みに引きずり込まれていった。
この頃は、二谷も大胆になっていた。
犯した当初は、夫である裕作に禁断の関係を気づかれることを恐れ、キスマークはつけなかった。
しかし今では、まるで響子が自分の私有物である証明のように、あちこちに口の跡をつけてやっ
ていた。
白い首筋、すべらかな背中、柔らかい乳房、よく張った太腿。
ありとあらゆるところにマーキングして、響子の所有権を誇ったのである。
熟女は若者の愛撫に溺れた。
裸に剥かれ、全身を舐められて早くもいきそうになる。
それを寸止めにして、二谷は言った。
響子の乳房を揉みながらである。
「響子さん、いや奥さん。あの後、言われた通り先輩に抱かれましたか?」
「……」
「ちゃんと中に出されたでしょうね?」
「……」
響子は無言で頷いた。
「それでいいんです。前にも言ったけど、僕と先輩は血液型が同じです。どっちの子を孕んだ
ってわかりゃしませんよ」
「……」
春香が生まれて後、響子と裕作は避妊してきた。
春香がある程度育つまで次の子は待とうというのが建前だった。
しかし実際は、今の経済状況でふたりの子を育てる余裕はないという判断であった。
少なくとも響子ははっきりとその考えだった。
もともと子供好きで子煩悩だった裕作はもうひとり欲しがっていたようだが、経済事情と響子に
その気がないことで諦めていた。
しかし先日、二谷が部屋で響子を犯した翌日の晩、響子の方から裕作に「二人目が欲しい」と
言ったのである。
裕作は驚いたが、何も言わず響子の希望を受け入れ、その日からセックスのたびに膣内射精を
受けていた。
裕作は満足していたが、響子は夫に抱かれていても、二谷の時ほどの刺激がないことに絶望感
を覚えていた。
響子はうつぶせになり、膝立ちにされていた。
両手は肘で立っている。
尻を二谷の方へ思い切り突き出していた。
「あ、あう、あむむ……」
響子のアヌスには、太い性具が押し込まれていた。
丸いボールを串刺しにしたようなアナル棒だった。
先端の玉は1センチほどだが小さいが、根元の方は4センチくらいありそうだ。
初めのうちは、そうした淫らな道具で嬲られることは心底嫌がっていた響子だが、今ではすっ
かり馴染まされていた。
ぐっと押し込まれると、肛門の粘膜がアナル棒に巻き込まれて漏斗状になる。
引き出されると腸内襞がねばりついてめくれ上がった。
ボコボコしたそれで敏感なアヌスを責められると、響子は腰を振って喚きたくなる。
「ああっ! ……ああ、あああ……ひっ……あっ、んむむっ……」
いつしか響子の臀部は、二谷が操る性具の動きに合わせてうねくり出していた。
責められる肛門がカッと火が出るほどに熱くなってくる。
ビリビリと強い電流が流れるような、それでいて、もっとめちゃくちゃにほじくって欲しい
ような、切なく淫らな欲望に染まっていく。
呻き声を噛み殺すように、肩から背中にかけて喘がせている。
それでも洩れ出す自分の淫声に、響子の性が炙られていった。
次第に露わになってくる響子の反応に、二谷は目を見張る思いだった。
アナル棒を抜き差しするだけでなく、くるくると回転させる。
それも楕円状に回して、響子の肛門を拡げるようにこねくった。
「そんな、あうう……やめ、ああ……」
「ウソつくな、濡れてるくせに」
「ウソよ、ああ……ひっ、お尻、広がっちゃうぅぅ……」
もうアナル棒はすっかり腸液にまみれ、ぬとぬとになっていた。
湯気が立ちそうなその光景に、男はたまらなくなって響子に襲いかかった。
「ああっ、な、何を……」
響子は、突然感じたアヌスへの熱い刺激に呻いた。
思わず振り向いて二谷を見て愕然とした。若者は響子のアヌスを舐めていたのだ。
「そ、そんな汚いわ、あううう……ああっ……」
肛門に吸い付く二谷の唇に嫌悪の念を抱きながらも、次第に舌の動きに感応していく。
ねちょっと舌を押しつけられ、念入りにアヌスをねぶられると、響子もその感覚に囚われて
いった。
淫具によって拡げられた肛門の襞を舐め回されると、妖しく淫靡な愉悦が燃え盛っていく。
「い、いや……ああ、あ……あうう……」
いつしか響子のそこは、生き物のようにひくひくと蠢くようになっていた。
男の唾液と自身の腸液にまみれ、見るも無惨にほぐされたアヌスが疼く。
思い切り声を出して、腰を動かしたくなった。
人妻のアヌスがとろけてきたのを見やると、二谷がささやいた。
「どうだ奥さん。旦那はこんなことまでしてくれないだろう」
「あ、ああ……」
「正直に言え。肛門が感じて仕方がないんだろうが」
「あああ……」
響子の顔がカクンと縦に動いた。
初めてアナルが感じることを表明したのだ。
そこまで美貌の人妻を堕としたことに若者は感動にも似た優越を感じていた。
それでも彼は、まだ根気よく響子のアヌスを舌で責めた。
アナル棒を抜き差ししながら、めくれ上がる肛門粘膜に舌を這わせるのだ。
ぬめぬめとしたピンクの襞は、いかにも内臓といった感じがして二谷を高揚させた。
夫どころか本人すら見たこともないであろう腸の内側を自分だけが知っている。
そこを舐めて美女を喘がせている事実に、彼の鼓動は高まる一方だった。
響子が淫らな尻ダンスを踊り出し、うねうねと腰を蠢かしてアヌスの快楽を訴えると、彼は
もう一度尋ねた。
「はっきり言うんだ、響子さん。そんなに尻の穴が感じるのか? 気持ちいいのか?」
「は、はい……あうう……。た、たまんないの……」
響子は、それがどれだけ恥ずかしいことか思いやる余裕もなく、二谷の誘導通りに何度も頷
いて肯定した。
そろそろだと思った男はアナル棒を抜き去った。
響子の尻が、慌てたようにその後を追いすがり、後じさった。
抜いた淫具は、湯気が立ちそうなほどに響子の汁に汚されていた。
「もっとして欲しいだろう、奥さん」
「ああ、はい……」
カッカと燃え盛る肛門は、これで放って置かれたら狂ってしまいそうだ。
二谷は満足げに頷き、肉欲に悶える人妻に言った。
「アナルを犯して欲しいだろう」
「……」
「尻の穴を犯して欲しいと言うんだ、奥さん」
「ああ……」
拒否しようと思う気持ちは一瞬で消し飛んでいた。
このもやもやと切なさ、気が狂いそうなほどの焦燥感を晴らしてくれるなら何をされてもいい
と響子は思っていた。
口が勝手に開き、素直に淫欲を言葉にした。
「お、お願い……」
よだれを啜り上げ、熱い息を吐きながら、響子はもぞもぞとつぶやいた。
「お、お尻を……お尻の、穴を犯して……ください……」
響子はそう言うと、うずくまったまま両手をお尻に回した。
そして手を尻たぶにかけると、自ら尻をひきはだけて二谷を求めた。
とうとう思い通りに動くようになった人妻の腰を掴むと、二谷は腹にくっつきそうなほどに
勃起したものを響子の肛門に押しつけた。
「あ、ああ……」
ひきつったような呻きだったが、その声色の喜色が混じっていたことは響子にもわかっていた。
もう自分には、二谷にアヌスを貫かれて、性の頂点に達するしか道はないと自覚しているのだ。
太いものに犯される恐怖と、得も知れぬ期待感で背筋を疼かせて、響子はペニスを肛門で受けた。
「あっ、ああっ……う、うむむっ……」
じわっとアヌスが拡げられると、ずぶっと亀頭部が一気に潜り込んだ。
引き裂かれそうなその刺激で、響子はいきなりいきそうになった。
カリが潜り込むと、長いサオがずぶずぶと響子の腸内を犯していく。
硬いもので腸をこそがれる快感に子宮まで痺れ、脳天にまでズーンという感覚が襲ってくる。
「あ、あうう〜〜〜っ……」
ゆっくりと二谷が肉棒を押し込んでいる間、響子は頭を振りたくって喘ぎ続けた。
とうとう根元まで押し込み、若者の腰が尻たぶにピタンとぶつかると、響子は全身を痙攣させた。
アヌスが勝手にペニスを締めつけ、腰が回転して肛門への刺激を求めていた。
二谷は短いストロークで細かくピストンした。
太い根元で徹底的にアヌスを拡げようというのだ。
響子のそこは、もう限界のようにいっぱいに広がされていた。
「あ、ああっ……ああっ、あっ……だめ、太いっ……ああ、そんな太すぎます……あっ」
「太すぎるってことはないでしょう? もう何度もお尻を犯してるんですから」
「ああ、でも、きつい……ふ、太くてきついんです……あああ……」
「そのきついのがいいんでしょうが」
「ち、違いま……ああっ!!」
響子が返事をする前に、二谷の方が腰を回し出した。
尻穴を拡げるように、くるっくるっと腰を回転させる。
前後運動で襞がめくれるだけでなく、横にも拡げられて、響子は頭が白く灼けた。
「あああ、も、もう許して、ああっ……こ、こんな……」
許してと乞いながら、響子の腰は二谷に合わせて振られていた。
腸の深いところを突かれ、襞を抉られる感覚が快感になり、喘がずにはいられない。
一線を越えたような響子の悶えぶりに、二谷の責めにも力が入る。
両手で細腰をしっかり掴むと、思い切り律動し始めた。
凄まじい刺激に、人妻は大きく口を開けて喘ぎよがった。
「そ、そんな急にっ……ああ、だめですっ、そ、そんなに深くされたら、ああっ……ふ、深
すぎますっ、ああ、し、死ぬぅ……」
響子のよがり声に煽られるように、二谷は腰で抉っていった。
腰骨が砕けるほどの強い突き込みで、汗にぬめった乳房が突き込みで激しく揺れ動く。
腰の細かい痙攣が止まらなくなり、足の指が反り返っている。
ペニスを締め上げるアヌスの収縮も強まってきた。
「あ、あああっ!? あ、ああ、もう……もうっ……」
「ふふ、いくのか奥さん。そんなに尻でいきたいか、響子さん」
「は、はいいっ……あ、ああっ」
「そんなに尻で感じて恥ずかしくないんですか、ええ奥さん」
「あう、恥ずかしい……ああっ、恥ずかしいです……」
「それでも感じてしようがないんですね」
「そっ、そうですっ……ああっ、も、もういく、ああっ」
「よし、いきな」
「ああっ」
震える響子の腰を固定すると、尻たぶを潰す勢いで責め上げた。
二谷の攻勢が激しくなり、責めに耐えかねた肛門粘膜や腸の襞が爛れてきた。
それでも響子の脳に伝わる快感は一向に収まらず、肛門は盛んに二谷の肉棒を締めつけていった。
「ああっ、あっ……はああっ、い、いく……あ、いくっ」
「いけっ」
「あ、ううんっ……い、いっちゃうっっ……!」
喉を涸らすほどに絶叫し、響子は頂点を乗り越えた。
その瞬間、二谷の限界も超え、響子の腰を思い切り引きつけると、奥の奥で精液を一気に放出
した。
「ううんっ……」
腸の中に噴き出された粘液の激しい奔流に響子のアヌスが痙攣し、男のペニスを締めつけた。
二谷は、放ったあともクイクイと締めつけてくる響子の肛門を存分に愉しみ、かつその収縮で
ペニスを甦らせた。
再び力をため込み、大きくなっていく肉棒に響子は震えた。
アヌスを内側から拡げられていく感覚がたまらなかった。
「ああ……また、大きくなって……も、もう許して……」
それを聞いて二谷は嘲笑った。
「許すも許さんもないですよ。まだ前でしていない」
「そんな、もう充分よ……ああっ」
二谷は肉刀を響子から抜きはなった。
まさにそれは「刀」と呼びたいほどのたくましさであり、その破壊力は響子の骨身にしみていた。
今度は仰向けにされた響子の目の前で、びくびくと脈打っているペニスは凶器そのものだ。
それを目にした途端、人妻の心が戦慄した。
(あ、ああ……なんてすごいの……。こんなに大きいのがお尻に入っていたなんて……)
そういえば、口にくわえさせられた時も、顎が外れそうなほどだった。
その喉奥で、いやというほど射精されたことを思い出す。
量も人並み外れて多かった。
こんなものを入れられたら、女なら誰だっておかしくなってしまうに違いない。
そのペニスが、響子を求めるようにびくびくしている。
見つめる響子の瞳もとろんとして、媚肉も見る見る露を宿し始めた。
もう隠しようもなく、響子は二谷のペニスに欲情してきていた。
二谷も、美貌の人妻のしどけない姿に獣欲が増し、彼女の両足首を掴んで股間を大きく拡げた。
響子に一切の抵抗はなかった。
何度もピストンされ、赤く爛れたアヌスの上に、蜜で濡れ濡れになった陰毛に隠され、響子の
秘所が覗いていた。
何度見ても美しい、子持ちというのがウソのような清楚な持ち物だった。
二谷はそこに、はち切れそうなほどに膨れあがった肉棒を押しつけていった。
「んっ、んくっ……んんっ、きついっ……」
響子はその威力に首を仰け反らせた。
何度味わわされても、そのたくましさには圧倒される。
先端が媚肉に潜り込んだだけで、響子はビクンと腰を震わせた。
本能的に怖いのか、おののくように逃げようとする腰を押さえつけ、しっかりと割った脚の間に
腰を進ませ、太い肉で狭い孔を貫いていく。
ぎちぎちに拡げられた媚肉が苦しいのか、響子は大口を開けて大きく息を吐いた。
「んん、あうう……くうっ……あ、お、おっきい……ああ……」
大きなものが襞をかき分けて先へ進むごとに、響子は頭を振って黒髪を乱した。
ぬめった粘膜を押し開いて奥まで押し込むと、先にコツンと当たった。
子宮を小突かれ、響子は思わず呻いた。
「ああっ、お、奥まで……入って……ん、ああ……」
どうにか根元まで埋めきると、響子は額や首筋に汗を浮かせていた。
何度も二谷の巨根を飲み込んだというのに、その窮屈さは一向に変化なかった。
処女のような狭さきつさと、熟れた女の柔軟さを併せ持つ膣だった。
その分、響子にも苦痛と息苦しさを与えている。
二谷は埋めたまま揺さぶるような動きで、響子の胎内を確かめた。
熱く濡れたそこは、適度な弾力ときつい締めつけがあり、男を悦ばせる。
膣に入れられたものを動かされると、響子の方も一段と反応が豊かになっていく。
少しずつ女を高めるべく、二谷は動きを変えた。
前後の律動だけでなく、小さな円を描くように蠢き、媚肉を責め上げていった。
入念な愛撫と激しいアナルセックスで、もうすっかりとろけていたはずの媚肉なのに、入れて
みると快い収縮感があった。
やればやるほどよくなる名器に、男の腰に力が入った。
「ああっ……ああっ! ……ん、ああっ……いっ、いいっ……」
押しのけようとして彼の胸板に突いていた響子の手は、今では二谷の腕を掴んでいた。
その腕が、二谷が突き込んでくるたびにグッと力が入るのがわかる。
どんなに理性で拒んでいても、響子の肉体は二谷の与える性の刺激に対して素直な反応を示して
いた。
その美貌は、無理矢理に犯される女の苦悩と、否応なく感じさせられている戸惑い、そしてとろ
けそうな肉の悦楽が合わさった表情に染まっていた。
アパートにいるときは、優しげで穏和な表情を崩さない人妻が、ホテルで若者に凌辱され官能を
味わわされている。
そのギャップの大きさが、彼のサディズムを一層刺激した。
「ああ、だめぇっ……あっ、ああっ……あはあっ……いいいっ……」
「そんなによがって。夫の後輩に犯されるのがそんなにいいんですか?」
「それは……ああっ」
「こんなに乱れる響子さんを先輩にも見せてあげたいですよ。あの時、先輩を叩き起こしてから
犯してあげればよかったですね」
「いやあっ、あうっ……んっ、んんっ……ああっ……」
響子の膣が、二谷の言葉で微妙に変化する。
夫のことを言われたり、恥ずかしいことを言われたりすると、きゅんきゅんと締まるのだ。
蔑まれ、辱められることで快感を得ているのだろう。
アヌス責めで異様な反応を見せたことを考えても、響子には秘められた被虐願望があったに違
いない。
これなら、強盗のふりでもして部屋に押し入り、裕作を縛り上げて、その前で犯したり、春香が
起きている時に、見せつけるようにセックスしてやればどんな反応を見せてくれるだろうか。
二谷は淫靡な未来図を想像しほくそ笑んだ。
「あ、あふっ……ん、んくっ……ああっ、あぁぁぁっ……あ、あはっ……あああっ」
二谷は足首を離し、響子のむちむちした腿を小脇に抱えて腰を送り込んでいた。
適度な締めつけとぬるぬるした感触は、いくら突き上げてやっても厭きることがない。
尻が持ち上がるほどに突き込むと、大きな乳房がゆっさゆっさとユーモラスに上下する。
その胸肉を根元から掴み、きつく揉んでやると、人妻は白い喉を晒して喘いだ。
もう強い愛撫にもすっかり慣らされ、かえってそうでないと強い快感を得られないようにすら
なっていた。
貞淑だった人妻の精神が崩壊しかけていることに、二谷は言いようのない興奮に囚われた。
ガキくさい女学生をものにするのでは、とても得られない征服感と充実感だった。
彼は、響子を完全に堕とすべく、言葉で責めた。
「どうです響子さん、僕のものは」
「ああっ、ああ、いいっ……」
「いいですか。どんな具合にいいんです?」
「いや、そんな……ああ、恥ずかしい……あううっ……」
「言ってください。じゃないと、ほらほらほら」
「うああっっ、くぅあっ……だ、だめぇっ、そ、そんなに突いちゃあっ……!」
はっきり言わない響子に、二谷は大きく腰をグラインドさせて奥まで突き上げた。
大きな前後運動であり、しかも速度を上げた。
亀頭の先に当たる子宮を打ち砕くような勢いだった。
こんな深くまで入れられたことはない。
夫にも開発されなかった未開の領域まで犯され、次々と押し寄せる官能の暴風に巻き込まれて
いく。
響子の成熟した性は、そんな暴虐に耐えきれずたちまち音を上げた。
「じゃあ言ってください。僕のはどうですか?」
「ああっ、あああっ……く、くっ……ん、ふ、太くて、ああ……か、硬いです……ああっ」
「それで?」
「す、すごくおっきい、ああ……裂けちゃいそうです……」
「そうですか。それで響子さんは、大きいのが好きなんですね?」
「……」
無言だったが、響子の答えはわかっていた。
「大きいのが好きか」と聞かれた時、きゅうっと膣が収縮していたのだ。
だが、それをはっきりと響子の口から言わせなければ意味がない。
二谷は乳首をつねって回答を迫った。
「ほら、言って」
「いっ、痛いっ、やめてっ……」
「なら言うんですよ、ほら」
「ああっ……あ、ああ……お、おっきいのが……いいです……」
「僕のたくましいのがいいんですね」
「は、はい……二谷さんの、たくましいのが……ああっ……いいんです……」
そう言わされると、人妻の肉が一層うねってきた。
ぬっ、ぬっと抜き差しされる肉棒の動きに従い、響子の膣が蠢く。
深々と奥まで刺されるとキュッと締めつけ、抜かれる時には襞がへばりついていった。
二谷はワクワクしていた。
もうすぐこの女は堕ちる。
言いなりになる。
二谷が命じれば、アパートの廊下でもペニスをくわえるようになるはずだ。
夫の前でも尻を捧げるポーズをとる。
そこまで堕としてこそ「俺の女」だと思っていた。
もっと言わせてやる。
若者はさらに調子を上げ、人妻の膣を抉り、子宮にまで届かせた。
「だ、だめっ……ん、んああ、くぁっ、ふ、深すぎます……ああっ……奥まで、届いて、ああ
……」
「それだけですか?」
「あうう……ふ、太いのが、中で擦れて、ああ……硬すぎて、痛い……あっ……」
膣道は少女のように狭いのに、奥から蜜が溢れ出ており、ペニスはスムーズに動けている。
もう快楽を受け止めることを覚悟したのだろう、
響子の腰も二谷に合わせて前後上下に蠢くようになっていた。
二谷は、ともすれば吸い込まれていきそうになる媚肉の味わいにうっとりしながらも、響子の顔
を見据えて聞いた。
「どうです響子さん、先輩と……ご主人と比べてどっちがいいですか?」
「そ、そんなこと、ああっ……ん、んんっ……あう、いいっ」
「だからどっちがいいんですか」
「い、言えないわ、そんな……ああ……」
二谷は、響子の裸身が前後に揺れるくらいに突き上げながら、さらに聞く。
「僕のは大きいでしょう?」
「ああ、はい……お、おっきいわ……ああ……」
「大きいのがいいんでしょう? 硬いのが」
「あ、はいぃぃ……ああっ……大きいのがいいっ……」
「なら、ご主人と僕のではどっちが大きいんですか」
「……」
腰を打ち込まれる快感に痺れながらも、響子は必死に口をつぐんでいた。
それを言ってしまったらおしまいだという思いがある。
もう彼女の性感はぐずぐずに崩れてしまっており、そんな意地などすぐに崩壊するのだろうが、
響子にも女としての矜持や裕作の妻としての誇りもある。
しかし二谷の男根に馴染まされ、その威力に屈服した肉体はもろかった。
幾度も幾度も奥まで貫かれる。
重そうに揺れる乳房を揉み込まれると、食いしばった唇がたちまち開きかけてくる。
響子が肉悦にまみれ、忘我となる直前に、二谷は動きを止めた。
それどころかペニスを半ば以上抜いてしまい、響子の媚肉には亀頭部の先端部が僅かに沈むだけ
になってしまった。
それまでの、壊れてしまいそうな責めが停止されてしまい、響子は唖然とする。
すると無意識に腰がせり上がり、二谷の太いものと激しい動きを欲していた。
しかし男は、女の腰を上から押さえつけてしまい、それ以上動けなくする。
「あ……」
響子は、自ら行為を望んで腰を持ち上げてしまった羞恥に顔を染めた。
それでいて、僅かに媚肉に含まされているペニスを、秘裂が誘うように蠢いている。
割れ目の頂点にあるクリトリスもすっかり包皮が剥け、ピンクに染まってヒクヒクと震えていた。
響子は全身で二谷を欲しがっていたのだ。
身体の内側からカッカと火照ってくる。
この肉の疼きを、性の乾きを何とかして欲しかった。
「……」
どうしても視線が、膣に入りかけているペニスに向いてしまう。
少し曲がっているのは、反り返っているからだろうか。
赤黒く硬そうで、周囲にはとろっとした濁り液がまとまりついていた。
あれは自分の愛液なのだろう。
あのたくましいもので奥まで抉ってもらいたい。
「入れて欲しい、犯して欲しい」と口にするのを我慢する気力が失われつつあった。
響子の濡れた熱い目線を確認してから、二谷はぐっと腰を沈め込んだ。
ほとんど抵抗なく肉棒が響子の中に埋まっていく。
その、火が出るような凄まじい感覚に、美貌の人妻は羞じらいもなく叫んだ。
「ああっ、いいっ……!」
もっとも深いところにあった壁−子宮にぶちあたると、響子の裸身がギクンと大きく仰け反った。
カァッと火が着くような快感に、全身から汗が噴き出す。
我慢できないという風に響子が喘いだ。
「いいっ……す、すごくいいっ……あう、ああっ……んあっ、き、気持ちいいっ……あああ……」
二谷は追い打ちをかけるように恥辱の言葉を迫った。
「さあ、言うんですよ。僕のと先輩……ご主人のものでは、どっちが大きいんですか」
「い、いやっ……ああっ……」
二谷は少し驚いた。
この女の貞操観念たるや見上げたものである。
もう肉体の方は、ほぼ完全に支配下に置かれているのに、まだ理性で夫を気に掛けている。
それだけ裕作を愛しているということなのだろうか。
それが癪に障った彼は、意地悪くなおも言わせた。
響子の方は、夫への愛情と二谷の注ぎ込む暴力的な性の官能のせめぎ合いに苦しんでいた。
しかし物理的なものと精神的なもの、そして今現在、目の前にいるのは夫ではなく二谷である
ことを考えると、勝負はもう見えていた。
恥骨同士が擦れ合うほどに密着されたり、蜜が飛び散るほどに強く抉られると、肉欲の方が
理性を駆逐し始めた。
二谷は勝負を懸けた。
響子の小さな顎を掴むと、その顔に覆い被さったのだ。
「んんん!? ん、んむうっ……」
突然、唇を奪われた響子は、驚く暇もなく口を割られた。
二谷の舌がねっとりと響子の咥内を蹂躙し始めると、見開いた瞳が潤み、静かに閉じられていった。
「んん、んむ……じゅうううっ、んちゅ……ん、んんん……む、むむう……ん、んんちゅっ……」
二谷は、響子の口の中だけでなく、唇を唇で挟んだり、吸い上げたりもした。
歯茎を舐め、頬の裏にまで舌を伸ばして愛撫する。
舌の付け根付近を舌の先端でこそいだり、上顎裏の粘膜をしつこいほどに刺激した。
キスという咥内愛撫に、これだけいろいろあることを知らなかった響子は、すっかり男の舌技
に溺れていた。
「む、むむ……ちゅうっ……んちゅ、ちゅちゅ……ぷわっ……はあ、はあ、はあ、ああっ、
あむむ、んちゅ……」
呼吸のため、いったん口を離したが、
二谷はまたすぐに吸い付いた。
響子はそれがまったく当たり前のように、若い男の舌に吸い付いた。
自分の口を吸わせるだけでなく、男の舌を味わうように吸うようになっていた。
二谷がまた口を離し、そしてゆっくりと腰を動かしていった。
「ああ……」
「どうですか奥さん。言う気になりましたか」
「ああ……ああ、もう……」
長いペニスをいっぱいに使われ、ゆっくりと出し入れされて、響子の官能は燻り続けた。
焦らされているのはわかっていた。
このままこの状態のままだったら狂ってしまうのではないかとすら思った。
響子はゆっくりと口を開いた。
「あ、ああ……も、もっと……」
「……」
「お願いです、二谷さん……し、して……」
「犯して欲しいんですね?」
響子は顔を背けてうなずいた。
「お、犯して、ください、ああ……」
「ご主人と僕、どっちが大きいですか?」
「ああ……あ、あなたの方が……お、大きいです……」
響子は血を吐く思いでようやく口にした。
それを聞いた二谷は、ようやく腰を大きく使い出した。
激しい突き込みが膣を粉砕し、響子に悲鳴をあげさせる。
焦らされた性がやっと満たされ、響子の乱れ方も激しくなっていった。
二谷が突き刺すと、響子も思い切り腰を上げて、より深い箇所で受け止めようとしている。
何度も子宮口を小突かれ、人妻の悲鳴が甲高くなっていった。
「ひっ、ひぃっ……いいっ……あ、ああ、すごいっ……ああ、主人より大きいっ……いいわっ
……」
もはや、聞きもしないのに響子は感想を述べていた。
二谷はそれを聞いて、最後の一言を言わせようとした。
またしても腰の動きを緩めた。
とはいえ、今度はちゃんと律動をしている。
但し、最奥までは入れず、速度も落とした。
その動きを敏感に察した響子は、焦ったように叫んだ。
「ああ、またっ……ど、どうして……あっ」
二谷がまた覆い被さって顔の前に舌を出すと、響子は待ちかねたように自分も舌を伸ばした。
口から出したままの舌を、ふたりは宙で絡め合った。
粘度の増した唾液をまとわせ、ふたつの舌が淫らに絡みついていた。
「あむっ……ん、んんむ……む、んちゅっ……むむう……じゅううっ……」
むしろ響子の方が積極的に口づけを交わしていた。
顔を傾け合い、互いの舌が深くまで入り込めるように調整していた。
響子の口の中で舌が絡み合い、じゅるじゅると淫猥な音を響かせていった。
「ちゅちゅっ……ちゅぷ……んむ、じゅじゅっ……んっ、こく……んくっ……んくっ……」
思う存分、互いの咥内を舐め、舌を巻き付かせて愛撫しあった。
仕上げに、二谷が響子の口中の唾液を全部吸い取るように激しく吸うと、今度は逆に自分の
唾液を注ぎ込んできた。
人妻はそれをまったく躊躇せず、流し込まれた男の唾液を、喉を鳴らして飲み込んでいった。
たっぷりと二谷の唾液を飲んだ響子は、食道から胃の中まで二谷の匂いが籠もっていた。
それでも響子はまだ満足できなかった。
肝心の媚肉が燻り続けたままなのだ。
ペニスの動きは相変わらずのんびりしたものだった。
響子はその美貌を歪ませてねだった。
「ああっ……あああっ……も、もう、ああっ」
「どうしました、いきたいんですか」
響子はうなじが見えるほどに大きく何度もうなずいた。
「もっ、もう、どうにかなるっ」
人妻は喘ぎ、身体を揺さぶってよがった。
「お願い、どうにかしてっ……こ、このままじゃおかしくなるわっ……ああっ」
二谷は、生身の肉欲を剥き出しにして喘ぎ、欲しがる人妻に激しく興奮し、激しくピストンし
始めた。
変形松葉崩しのように股を密着させて奥深くまで貫き、子宮口を叩き続けた。
響子の長く美しい脚が、若者のたくましい腰に巻き付いていた。
両手は二谷の背中に回り、抱きついている。
「そんなにいきたいですか」
「もっ、もうっ……ああ、何とかしてくださいっ……ああ、いきたいっ……」
「じゃあ最後にちゃんと言ってくださいよ。僕とご主人ではどっちがいいのか。さあ!」
「ん、んんあっ……いっ、いいっ……あ、あなたの方が……二谷さんの方がおっきくて……」
「……」
「ああっ、あなたの方がいいっ……二谷さんの方がいいですっ……も、もうたまんないっ……
あああっ……」
「なら、響子さんの……奥さんのオマンコもお尻もおっぱいも、みんな僕のものなんですねっ
!?」
「ああ、はいっ……そ、そうですっ」
響子は屈服の言葉を口にした。
しかし彼女の脳裏には、もはや男に抱かれる悦びしかなかった。
清楚な人妻が今、淫蕩な熟女に生まれ変わった。
二谷の熱いものは容赦なく響子の柔らかい肉を引き裂き、抉った。
突き込みと引き抜きを限りなく繰り返し、時折、奥まで入れたまま大きく円運動される。
媚肉がさらに開かされ、膣粘膜が削り取られる感覚に、人妻はよがり続けていた。
「あ、あそこも、あなたのもの……」
「あそこじゃない、オマンコだ」
「ああ……」
「さあ」
「お……オマンコも、お尻……の穴も……ああっ、に、二谷さんの、ものですっ……」
「よく言えましたね。じゃあご褒美です」
「ああ、いいっ……奥がいいっ……き、気持ちよくて、もう……ああっ……」
響子はあまりの快感に顔を振りたくり、開きっぱなしの口からはよだれすら乱れ飛んでいた。
グイグイと子宮を押し上げられ、子宮口が根負けしたかのように開口してきていた。
響子の膣が痙攣してきている。
収縮も早く激しくなっていた。
「だっ、だめっ……!」
響子が降伏を口にした。
「もっ、もういく……ま、またいってしまいますっ……」
「いいんですよ、奥さん。さあ、いって」
「ああ、いいっ……あ、そんな激しくっ……くぅあっ、い、いきそうっ……」
完全に堕ちたと思った。
二谷はもう我慢しようがなくなった。
「響子さん、奥さんっ……じゃあ、出しますよっ」
「えっ……」
響子の顔が一瞬白ちゃけた。
それを見て二谷は、また少し嫉妬が起こる。
まだ自分に、夫以外の者に射精されることを嫌っているのか。
ならば、何が何でも中に出してやろう。
響子は泣き叫んで言った。
「二谷さん、だめっ……ああ、中はだめ、外にして!」
「何を今さら。もう何度も中出しされたでしょうに」
「で、でも……ああ、中はだめなんです、本当に……」
響子は媚肉や子宮に襲い来る、ビリビリした快感に耐えながら拒絶した。
それでも膣の襞は、二谷の精を搾り取ろうと蠢動している。
「あれから、先輩に中で射精してもらったんでしょう? だったら僕の子を孕んだってわかりゃ
しないんですよ」
「で、でもいやっ」
「でもいや、か」
若者は冷たい表情に変わり、響子に打ち込み続けた。
「奥さんがいやがろうが何だろうが、僕は中に出します。僕の赤ちゃんを産んでもらいます」
「だめですっ……あ、ああっ、いいいいっ……あ、も、もういっちゃうっ……いやあ、中は
いやあっ……あなた、あなたぁっ……」
「いきますよっ」
「だめ、いやああああっ……ああっ、いっ、いく、いきますっ……んむっ、い、いっくうう
うっ……!!」
二谷は恥毛を擦れ合わせながら、思い切り腰を突きだし、出来るだけ深くまで押し込んだ。
子宮を守る襞を押しのけ、子宮口に到達し、僅かに開いた口に先端部を押しつけると、こみ上
げてくる快感に逆らうことなく、一気に射精した。
どびゅるるっ。
どびゅっ。
どびゅびゅっ。
びゅるるっ。
びゅるっ。
びゅくっ。
びゅ、びゅくっ。
びゅっ。びゅっ。
「あああっ!? な、中で出てるっ……ああっ、い、いく!」
絶頂に達しているのに、まだ膣内射精を嫌がり、後じさって逃げようとする人妻を押さえ込み、
二谷は腰を密着させたまま射精の発作を繰り返した。
陰嚢に溜まった精液が尿道を下っていく感触がはっきりとわかる。
夥しいほどの量が響子の胎内に流し込まれていった。
二谷は腰を押しつけ、すべて射精し終わるまで響子の腰を解放しなかった。
若者のペニス内の尿道が脈打って射精されると、響子の膣が反応して肉棒を絞り上げる。
尿道にも陰嚢にも残り滓も残さない、とでも言うように、人妻の膣は強欲だった。
「ひ、ひどい……こんなに出すなんて、ああ……妊娠してしまう……」
人妻は、顔を手で覆ったまま泣き出した。
響子の膣は、たっぷりと出された二谷の精子を襞の繊毛運動で子宮の奥へと送り込んでいた。
そうでなくとも、直接子宮にペニスを押し当てられ、溢れかえるほどに射精されたのである。
二谷の元気な精子が自分の子宮で暴れ回る様子を想像し、響子は屈辱と悔恨の念で泣き伏せた。
「中に……中にたくさん出された……妊娠したら、ああ……裕作さん……」
その様子を横目で見ていた二谷は「ふん」と鼻を鳴らすと、ペニスを手で扱きながら再び響子に
挑んでいった。
響子は目を剥いた。
「な、なにを……もう終わったのに、こんなひどいことして……」
「誰が一度で終わるなんて言いました? 今日は奥さんが完全に屈服するまで犯しますよ」
「い、いやっ……」
* - * - * - * - * - *- * - *
結局、ふたりは4時間ほどホテルにいた。
いつもは2時間の予定だが、二谷が今日である程度響子を奴隷化するつもりだったからだ。
響子の肉体は、くたくたになりながらも二谷の愛撫に応えて身悶え、肉棒を何度も突き刺されて
喘ぎ、よがった。
ありとあらゆる体位で犯され、アヌスも二度三度と犯された。
口にも射精され、当然のように飲まされた。
終わった時は、口からも肛門からも媚肉からも、多すぎる精液が零れだしていた。
20分後、ふらふらしたまま着替えている響子を、ベッドに寝そべったまま見物していた二谷が
言った。
「奥さん……いや、響子。おまえはもう僕の女だな」
響子は一瞬ピクリとなり、また何事もなかったかのようにブラウスを身につけた。
その時、何か小声でつぶやいたようだったので、若者は聞き直した。
「なに?」
「……ふざけないで、って言ったのよ」
「……」
何を言われたのかわからず、二谷はきょとんとしていた。
いやというほど犯され、喘ぎ泣き、しまいには嬌声すら上げていた女の台詞ではなかった。
そして、女の言葉を理解すると、今度は腹が立ってきた。
「何です、その口の利き方は」
「……」
「先輩にこのことを言いつけますよ」
「勝手になさい」
ピシャリと響子は言った。
予想外の展開に男は動揺した。
なんだ?
何を言っているんだ、この女は?
「きょ、響子さん、あなただって僕に抱かれて感じてた。何度もいったじゃないか!」
「だから何?」
「……」
人妻は凛として言った。
「最初はあなたが強姦したのよ」
「で、でも……」
「ええ、そうよ。だんだんとあなたの手管にはまって、感じてしまったのは事実だわ」
「……」
「恥ずかしいけど、夫よりいいと言ったのも本当」
この時だけ、響子は少し顔を伏せた。
「でもね、それが何なの? 女の身体を奪えば、その女をものに出来るとでも思っていたの?」
「……」
「二谷『クン』にはまだわからないかも知れないけど、夫婦ってそういうもんじゃないわ。
セックスだけじゃない。私はあの人の妻なのよ、これがどういうことかわかる?」
二谷は、今まで性的に虐げてきた人妻に圧倒されていた。
年齢の差、いや人生の差なのかも知れない。
「私は裕作さんを愛しています」
「……」
「裕作さんも私を愛してくれている。なのに、あなたは何? あなたは私をセックスで満足させ
ただけだわ。あとは何もない。少なくとも私は、あなたに何度抱かれても、あなたから愛情なん
て感じられなかったし、私もあなたを愛せはしないわ」
「……で、でも僕も響子さんを愛しています。結婚したいと……」
「お黙りなさい」
「……」
「気安く「愛」だの「結婚」だの、言わないで欲しいわ」
着替え終わった響子は、二谷と正対した。
「あなたが私を本当に好きなのかは、私にはわかりません」
「……」
「でもね、これだけは言っておきますけど、結婚てそんな生やさしいものじゃないのよ」
若者はまったく口を挟めなかった。
「人を好きになるなんてことは簡単なの。誰にだって出来るわ。でもね、結婚というのはそれ
とはまったく別物よ。あなたにそれがわかるの?」
「……」
「結婚というのは、自分の生活に他人が入り込むことなのよ。女にとっては、人生を預けること
になるの。生半可なことじゃない」
響子は自分の雄弁さに驚いている。
こんなに説教じみたことをこれだけ話すのは、彼女の生涯初めてのことであった。
「漫画やドラマと違って、結婚て厳しいものよ。他人の人生に介入し、自分もされる。もち
ろんお金も大事。それらをすべて了承した上で「愛してる」とか「結婚する」とか言って
いるの?」
「……」
「裕作さんはね」
響子はふと遠い目になる。
「私にプロポーズしてくれるまで何年もかかったわ。私も、次第に裕作さんのことが好きに
なっていった。だから彼からの求婚を待っていたわ。でも、決して焦らせるようなことはしな
かったし、言わなかった。あの人は優柔不断に見えるけど、私との結婚を真剣に考え出して
以来、ずっと「それ」を考えていたのよ。「それ」ってわかる? 「生活」のことよ。お金が
なければ生きていけないし、食べていけない。ロマンティックじゃないと思うかも知れないけど、
それが現実だもの。あの人はね、私との生活について、ある程度の見通しが立ってからプロ
ポーズしたの。だから時間がかかったんだわ」
響子が結婚するまで裕作と肉体関係を結ばなかったのも、その辺に原因がある。
婚前交渉を持つことで、裕作の判断にバイアスを加えたくなかったのだ。
結婚を考えている女性とセックスをするということは、男性が所有権を認識すると同時に、
女性側が男性を縛る、決断を促すという効果もある。
響子は、そのどちらも避けたかったのだ。
響子はそこで初めて微笑んだ。
「あなた、そこまで考えてる?」
二谷は俯いたまま沈黙を続けた。
「これまでのあなたと私の関係を、裕作さんに言うのであればお言いなさい。でも、その前に
私の口から主人に言うつもりです」
そこまで言うと、響子はハンドバッグを持ち、ドアノブに手を掛けた。
その背中へ追いすがるように若者が呼び止めた。
「響子さん!」
「もう、これっきりにしてください」
二谷の目の前で、響子と仕切る扉が冷たい音を立てて閉まった。
* - * - * - * - * - *- * - *
二ヶ月後。
響子と裕作は、部屋で夕餉を摂っていた。
明るく振る舞ってはいるが、響子の表情は晴れない。
お腹をさすりながら、今日こそは言わなくてはと思うのだが、どうしても挫けてしまう。
裕作は、繊細そうでいて案外鈍いところもあるので、こうした機微にはあまり気づかない。
仕事の憂さを晴らすように、いろいろとよく喋った。
「そういえば、真人が出ていってもうひとつきになるんだね」
「え、あ……そ、そうね……」
ホテルでの別れの一ヶ月後、二谷は一刻館を出ていた。
表向きは、共通一次試験(当時は大学センター試験ではない)が終わったからである。
肝心の大学入試はまだだったが、区切りがついたことを理由にアパートを去っていった。
すべて不動産屋を通してのことで、響子にはとうとう会わなかった。
敷金も礼金も返還不要と言って、受け取らなかった。
「でね、あいつ、やっぱり保育士になるみたいだな」
「保育士……?」
「あれ、言ってなかったっけ。真人、子供好きなんだよ」
だから裕作と話が合ったのかも知れない。
そういえば以前、二谷は医大進学を親に勧められているものの、それに反発してわざと受験に
失敗したと聞いたことがある。
そう話すと、裕作は大きくうなずいた。
「そうなんだよ。やつはだから幼児教育をやりたかったらしいんだな」
「へえ……」
意外だった。
そこまで言うと、裕作はふと視線を落とした。
「わからないでもないけどね。あいつ、子供作れないから……」
「えっ……!?」
響子は吃驚して夫の手を掴んでしまった。
「そ、それどういうこと?」
「なんだい、急に」
「……」
裕作は不得要領な顔をして妻を見た。
そんなに噂話に熱中するタイプではなかったはずなのに。
少し、探るような目で響子を見ていたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「これは真人のプライベートな問題だから、あんまり口にしたくはないけど……。まあ、響子
だからいいか」
「……」
「……あいつね、精子無力症なんだって」
「精子……無力症?」
俯いたまま裕作は説明し始めた。
受胎させるには、精液の量というか精子の量が重要なのは言うまでもない。
しかし、ひとつひとつの精子自体の能力が最重要なのである。
いくら精子の数が多くても、その個々が奇形だったり活きが悪かったりすれば、卵子まで届か
ないからだ。
精子に元気がない主な理由はふたつある。
ひとつは、卵子の殻を破るための酵素が分泌できないということ。
もうひとつは卵子に接触出来たものの、尾が思うように動かず、中まで入れないというものだ。
どちらのケースも受精能力は低いが、二谷は後者らしい。
中学生の時、親が気づいて、自分の病院で精密検査をしたのだそうだ。
精子は通常、前進運動や旋回運動、振り子運動などを行なって卵子を目指している。
二谷の場合、その前進の運動率が極めて低く、卵子までとても届かないのだ。
「そうだったの……。でも、なんでそんなことに……生まれつき?」
「いや、麻疹(はしか)だそうだよ」
精子無力症の原因は、先天的なものと後天的なものがある。
ほとんどは先天性のものだが、彼の場合は後天性だった。
4歳の時に麻疹にかかり、予防接種をしていたにも関わらず、かなりこじらせたらしい。
40度を超える高熱が一週間以上続き、陰嚢−つまり睾丸の炎症と前立腺炎症を併発したので
ある。
前立腺炎が致命的だったらしく、そのせいで膿精液症になってしまった。
そのため精子の運動性が著しく劣ってしまったようだ。
響子は声も出なかった。
「気の毒なことにね、これは人工授精もほとんど見込みがないらしいんだ」
「……」
「精子自体に欠陥があるからね、体外受精も出来ないそうだ。これが、精子は元気なんだけど
その数が少ないというだけなら、まだ道はあるらしいんだけど」
「……」
「自分で子供が持てない分、余計に子供たちの仕事がしたかったのかもな」
「……」
すると二谷は、子供が作れない身体なのに、執拗に膣内射精にこだわり、響子に子供を産めと
迫ったということになる。
それを思うと、響子は少しだけ胸が痛んだ。
もちろん、彼にとってのその不幸が、響子に対する暴虐を肯定する要因にはならない。
そんなことを認めてしまえば、世の中はレイプだらけになる。
響子はふと思いついて夫に聞いた。
「じゃあ……二谷さんはその……結婚しても子供って絶対に……」
「出来ないだろうね。何て言うか、その、女房をいくら抱いても受胎することはないから。
ほとんど100%の確率でダメらしい」
よかった。
響子は再びお腹に手を当てて考えた。
それなら、この原因は間違いなく夫にあり、裕作のものに間違いないのだ。
妻は少し頬を染めて、年下の夫に告げた。
「あ、あの話は変わるんだけど……」
「なに?」
「今日、その、病院に行ってきて……」
「病院?」
裕作が、眉をひそめた。
「具合でも悪いの?」
「じゃなくて。ふたりめ……出来てました」
「ほ、本当に!?」
裕作が興奮して響子を引き寄せると、彼女の顔にくすぐったいような笑みが浮かんだ。
− 完 −
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