三鷹響子は機上の人となっていた。
夫の赴任するタイ・バンコクへの航空便である。
三鷹瞬と五代裕作の争奪戦の結果、響子は瞬と結婚した。
結婚後、すぐに瞬が親の会社へ入社し、東南アジア進出の基点としてバンコク支店
へ赴任することとなり、妻の響子も在タイすることとなったのだ。
そこで知り合った人々との影響により、響子は以前の彼女からは思いも付かぬ
「自由な女性」へと変貌を遂げつつあった。

親しい間柄の友人たちと交わるフリー・セックスを教えられ、性に対する偏見と
閉塞感を取り払った。
性の伝道師・万里邑の存在もあり、彼女は肉体的にも精神的にも著しい成長を重ねた。
マリファナを使っての輪姦劇、少年を誘惑してのセックス、そして夫婦交換、グルー
プ・セックス。
性の深淵に触れつつあったが、それでもどろどろとした極彩色のセックスに染まり
きることもなく、初々しさと慎ましさとともに、妖美な魅力の同居する理想的な
女性となりつつあった。
淑女然とした容貌と物腰に対し、夜は艶然と微笑む娼婦のような妖しさを併せ持ち、
周囲の男のみならず、女性たちの羨望すら招いていくのだった。
持ち前の美貌とスタイル、そして人好きのする穏和な性格もあって、彼女は友人
たちの間で、徐々にその存在を際立たせていった。
男性陣の圧倒的な人気を博する響子だったが、それでいて、基本的には善人であり、
天然系なところもあるため、女性陣の受けも良かった。
何より、サロンの中での女性実力者である奥村静香の寵愛を受けているせいもあって、
彼女をやっかむ相手はほとんどいなかった。

日本では考えられなかったタイでの「あらゆる面での」自由な生活を満喫していた
響子が、突然、日本へ帰国したのは一ヶ月ほど前のことである。
身内に不幸があったのだ。
音無老人が亡くなったのである。
もう戸籍上は、響子は音無家とは何の関係もないことになっている。
20歳で最初の結婚した彼女は、千草姓だった独身時代を終えた。
結婚後は夫の音無姓を名乗っている。
ところがその後、半年ほどで夫が急逝してしまった。
以後、瞬との再婚が決まるまでの7年間は、亡夫との操を貫いて旧姓には戻さず、
音無姓で通したのだ。
響子の気晴らしも兼ねて、音無家の持っていたアパート一刻館の管理人を勤めたこと
も影響しているのかも知れない。
その間はずっと音無家から籍を抜かず、亡夫の父親ともずっと義父としてつき合って
きた。

やがて三鷹瞬と結婚が決まると、挙式の前日に千草姓へ戻し、その後は三鷹を名乗っ
ている。
従って、名実ともに、もう音無の家とは無関係なのであるが、かつての義父の死去の
報を知るに至り、響子の性格上、そのまま義理を欠くわけにはいかなかった。
事情を話すと、夫の瞬は快く許可してくれた。
響子もタイでの暮らしに慣れてきたところだが、それだけに日本へのホームシックも
あるだろうと判断したらしい。
「この際だから、ゆっくりしておいで」という夫の優しさに甘えさせてもらい、日本
へ戻ってきた。

通夜には間に合わなかったものの、葬儀には列席でした。
初七日までつき合い、名残を惜しむ郁子に手を振りながら、これでようやく一区切り
ついたような気がしていた。
これでまたタイへ帰ったら、しばらく日本へは来られないからということで、不義理
にしていた知人、友人たちとも連絡を取り、再会を楽しんだ。
もちろん響子の実家へも帰り、今回は帰国しなかった瞬の実家へも顔を出した。

そして懐かしの一刻館。
音無老人の遺言で、遺産の一部を使って大がかりなリフォームが行われることとなった
ようだ。
残っている住人は、管理人代行の一の瀬夫人一家と四谷氏、それに朱美だけだったが、
響子は彼らとも旧交を温めた。

そんなこんなで、ついついタイへ帰るのが遅れてしまった。
人の好い響子はどこでも人気者で、「あと一日、あと二日」と、あちこちに呼び出され
引っ張り回されているうちに、あれよあれよと時は流れて行った。
「もう少しくらいいいじゃないの」という母親を何とか振り切って、ようやくタイへの
航空便を取ったのが、来日してから一ヶ月も経ったあたりである。
その間、瞬には国際電話で話をしていたのだが、瞬も「ゆっくりしてこい」と言って、
タイへ戻ることを急かさなかった。

明日、飛行機に乗るという前日になって、響子はやっとゆっくり出来た。
その日は、日がな一日両親のマンションで過ごし、何もせず、誰とも会わずにのんびり
過ごしたのである。
その晩のことだった。
響子は身体の変調に気づいた。
変調と言っては大げさであるが、異変ではあった。
「欲しく」なってしまったのである。

惣一郎と死別後、孤閨を6年以上も過ごした彼女だったが、「欲しく」なったことなど
ほとんどなかった。
いや、性欲、肉欲という点では、まったくなかったと言っていい。
人恋しくて、寂しくて、男性に抱いて欲しいと思うことは何度かあった。
しかし、純粋にセックスされたいと思ったことはなかったのである。
それが今回出てしまった。
タイで夫たちによって、散々セックスを仕込まれたこともあり、肉体的に急成長した
らしいことは響子本人も自覚していた。

肉体的だけでなく、そう思うこと──つまり女性が性欲を抱くこと──は、決して悪い
ことではない。
それどころか、それが当たり前であり、我慢する必要などまったくないのだと教え込
まれた。
心理的にも、それまで響子が抱き続けていたセックスに対する不潔感、嫌悪感、倫理
観は拭い取られていた。
それでも、羞恥や背徳といった感情を捨て去ることはどうしても出来なかったが、
夫の方は、それくらいの方が新鮮で良いと言っている。

そんなこんなで響子は、肉体的あるいは精神的に余裕が出来、同時に禁欲的な生活が
続くと、はっきりとした性欲を抱くようになっていた。
そうした感情を持つことは恥ずかしいとは思うのだが、夫は「そんなことはない」と
言うし、生物である以上、それは当たり前なのだ。響子の葛藤はそこにある。
肉体的には周囲が驚くほどに開発されていったものの、内面ではまだまだ恥辱を消し
きれないアンバランスさが響子にはあった。

そしてその晩、響子は来日以来、初めて自慰をした。
道具など使わず、指で性器と乳房をいじるだけの軽いものだったが、隣の部屋で
両親が寝ているというスリルもあってか、つい声を上げそうになるほどに感じた。
寝る前に二度、そしてまだもやもやが残っていた翌朝にも一度したにも関わらず、
今ひとつすっきりしなかった。
やはり男の腕で力強く抱いてもらわねばだめなのかも知れない。
女の細い指などではなく、男らしいペニスで膣に挿入されないと満足できないの
だろう。

といって響子には、夜の街をうろついて男をハントするなどというアバンチュール
は、とても出来ない。
性的に解放されつつあった彼女ではあるが、人妻であるという意識は思いのほか
強く、瞬公認の場ならともかく、ふらふらと男を誘うようなふしだらで不謹慎な
ことは、性格的に無理であった。
飛行機は、成田の夜行便だから、まだ少し時間はあったが、どうしても他の男と
寝ることは出来なかった。
ここが日本ということもあっただろう。
おかしな行動をして、それがバレでもすれば、響子本人だけでなく、彼女や瞬の
両親にまで恥をかかせることになるからだ。
響子は、ぶすぶすと燻るように不完全燃焼の身体を抱えつつ、タイで夫に抱かれる
ことを思いながら、旅客機に乗った。

───────────────

響子は寝付かれなかった。
瞬が気を利かせて──というよりも、響子に経験させるためか、ファーストクラス
の席を取ったのだ。
タイを出発する時に渡されたチケットを見て、響子は驚いたものだ。
支店長の瞬が社用で飛行機を使うのはわかる(とはいっても、瞬は使ってもビジネス
クラスまでらしい。ファーストを使うのは、むしろプライベートなのだそうだ)。
しかし響子は完全に私人であり、プライベートで飛行機に乗るのだ。
なのにそれをファーストクラスなんぞ、贅沢が過ぎると思った。
だいたい響子は、飛行機に搭乗した経験自体少ないのだ。
独身時代、セレブでも何でもない典型的庶民であった響子は、当然のようにエコノ
ミーしか乗ったことがない。
瞬が奨めるので、せっかくだから乗ってはみたが、落ち着かないこと夥しかった。

機種はエアバスA340−600だった。
乗客数267名だが、響子の乗った便は200名いるかいないかくらいだったらしい。
このうち、エコノミーが199名、ビジネスが60名、そしてファーストが8名で
ある。
ファーストは機内二階席にシートが用意されており、広々とした室内だった。
ファーストどころかビジネスすら乗ったことのない響子にとっては、違和感バリバリ
である。
エコノミーは、シートも通路も狭くて、席を立ってトイレに行くにも周囲の客に気を
使いながらだった。
ファーストはむしろがらんとしている。
パンフレットによると、シートのピッチはエコノミーの倍以上あるのだそうだ。
ダブルベッドとは言わないが、無理をすればふたりくらい寝られそうだ。
広々としてゆっくり出来るどころか、何だか場違いな気がして、かえって落ち着かない。
こういう時、響子は自分が小市民であることを再認識して苦笑する。
行きの時は、日本でのスケジュールや音無家のことを考えていたので、あまり気に
する余裕もなかったのだが、用件をすべて終えてタイへ帰るとなると、考えることも
ないせいか、こうしたことがけっこう気になった。

何しろ、シートそのものが全然違う。
下手な安楽椅子やソファなんぞより、ずっと心地よい。
スプリングも柔らかすぎることもなく、ちょうどよく腰を支えてくれる。
何より響子が戸惑ったのは、シート付近にあるスイッチ群である。
専用モニタやシートのコントロールが主だが、レッグ、アーム、ヘッドレストの
スイッチが山ほどあった。
使わなければいいだけのことだが、何となく圧倒されてしまう。
機内サービスも過剰なほどである。
響子などは、むしろ放って置いてもらってゆっくりしたい方だから、食事以外では
ほとんどスチュワーデスは呼ばなかった。

精神的に肩が凝りそうな席ではあったが、唯一よかったのはシートがフルフラットに
なるところだ。
何でも、エコノミーでは120度くらい、ビジネスでも160度くらいなのだそうで、
完全に180度になるのはファーストだけらしい。
服を着たまま寝るということも、あまり好きでなかった響子だから、せめて身体を
真っ直ぐにして眠りたいという希望だけは叶うことになる。

そして、プライバシーを考慮したシートになっているのも有り難かった。
もともと8席しかないファーストだが、そのいずれの席も、他の席からは見えにくい
ように微妙な角度をつけられている。
故意に覗かれでもしない限り、他人の目を気にする必要はなさそうである。
おまけに今日の便で埋まっているのは、8席中4席で、半分は空いている。
2列の4席ずつという配置で、響子は先頭右側のシートだった。
隣に東洋人らしい男が座ったのは憶えている。
話をしたわけではないが、日本から乗ったのだから日本人かも知れない。
エコノミーと違って隣り合うことがないので、無理に話をしなくていいのは助かる。
あとのふたりは最後部シートの左右にいるようだ。
響子以外は全員男性の乗客だった。

出発は日本時間で午後10時だった。
それから夜食を機内で摂って、眠くなるまでビデオを見ていた響子だが、0時前には
毛布を被って横になった。

「……」

眠れなかった。
もぞもぞとシートの上で動き、何度も寝返りを打った。
原因はわかっている。
寝る前に観た映画が悪かったのだ。
見たのは洋画だったが、日本からの便ということで、吹き替え版も用意されていた。
彼女が見たのはサスペンスものではあったのだが、その内容よりも劇中にある迫真の
レイプが話題になった作品だった。
響子はそのことを知っていて、敢えてそれを見たのだった。

そのシーンになると意識してしまう。
食い入るように見ているのが周囲にバレないか気になるほどだ。
映画の中で、美人女優が着衣を破かれ、屈強な男に無惨にレイプされている。
ただ犯されるだけでなく、何度も貫かれているうちに、女の方も徐々に反応して
いってしまう、という迫真の演技が話題になったのだ。
それを見ていると、響子は女優に感情移入してしまい、まるで犯されて感じている
のが自分のような錯覚すら受けてきた。
「いけない」と思ってビデオを切り、毛布を被って寝たのである。

だが眠れなかった。
身体が男を欲していることはわかっている。
だがここは飛行機の中だ。
どうにもなるまい。
このまま眠って、起きた時にはタイに着いている。
夫に会ったら、愛してもらえばいいのだ。
そうは思うのだが、身体が火照って寝られない。
あんな映画、見なければよかったと思うのだが、後の祭りだ。

「……」

ふと気が付くと、左手が勝手に乳房をさすっている。
右手がドレスのスリットから忍び込み、下着の股間を撫でていた。
こんなところではしたないという倫理とともに、もし誰かが見ていたら、という
背徳の快楽も芽生え始め、響子は手を止めることが出来なかった。
さっき見た映画で犯されていたブロンドの女優の姿が閉じた目の裏に浮かぶ。
そしてタイで集団レイプを受けた時のことも思い起こしていた。
見知らぬ野卑な男どもに、いいように身体を弄ばれ、凌辱された。
あのことを思い出すと、今でも身体の芯がジーンと熱くなってしまう。
響子は、声だけは立てないよう注意深く、だがじっくりと自らを慰めていた。
自然と身体を横向きにして、反対側のシートにいる男に背を向けていた。

ふと気が付いた。
視線を感じるのだ。
きっとあの男が見ているに違いなかった。
航空機搭乗の際、室内に最後に入ったのは響子だった。
その時、刺さるような視線をあちこちから受けていたのだ。
彼女以外はすべて男性客だったから、それも仕方がないだろうが、響子の恰好も
男の関心を引いてやまないものだった。

響子はチャイナドレスを着ていたのだ。
パーティ用のように、背中がぱっくりと開いたようなタイプではなく、外出着と
しても着られるものだったが、それでも充分に刺激的な服装だった。
紺地に銀菊の美しい刺繍をあしらった見栄えのするものだ。
清楚な中にも艶やかさもあるデザインは、そのまま響子を表現しているかのようだ。
独身時代はあまりこうしたものは着なかったが、タイでの友人たちや夫にも勧められ、
大胆な衣装も徐々に身につけるようになっていった。
スタイルが良いから基本的に何を着ても似合うのだが、こうした身体の線がはっきり
と出るものは、また格別だった。

以前の彼女なら「恥ずかしい」という思いが先に立って、どうしてもこういうものは
着づらかったのだが、今は少し違う。
恥ずかしいという気持ちはまだあるのだが、それと同時に「見られている快感」も
味わうようになっていたのだ。
それは「私を見て」というような積極的なものではない。
見られる優越感というものは響子にはない。
決して見せようとしているわけではない。
ないのだが、見られている刺激を性的な刺激として捉えるようになっていたのである。
だから、やたらめったら脚を見せたり、肌を晒すようなことはないが、相手を誘う
手段として、それを使うことはするようになった。
もちろん誘う相手は夫であり、あるいはグループのメンバーだから問題はなかったが、
今回はどうしても抑えが利かなくなり、着て来てしまったのである。

生地がシルクで、身体にぴったりというほどではなかったものの、それでも肢体の
線がかなりはっきりと浮き出ている。
ブラで抑え込んでいるはずのバストも、窮屈そうに服地の胸を押し上げていた。
きゅっと締まったウェストから急カーブでぐっと張り出したヒップは、今にもドレスが
弾けてしまいそうだ。
そして脚。
むっちりとしていながら、ほとんど贅肉がついていない腿がすらりと伸びていた。
大きく開いたスリットからは、形良く曲線を描くふくらはぎが覗いていた。
ある意味、レオタード姿やスコート姿よりも扇情的に思えた。
響子の美脚を強調するに、これ以上の服装はなかったかも知れない。
濃いブルーのチャイナから覗く白い脚の黒いハイヒール姿は、フェチでなくとも生唾を
飲み込む色香を放っていた。

響子は、ちらりと後ろを見た。
案の定、反対側で寝ているはずの男が、目を爛々と輝かせてこちらを見ている。
小さな非常灯だけの暗い中でも、その男の目が光っているように見えた。
もう響子は止まらなかった。
いや、止められなかった。
理性も道徳心も倫理観も機能している。
なのに止められない。
こんなはしたないことをしてはいけないと理屈ではわかっているのに、どうしても
止まらなかった。

響子は男に背を向けた横向きから仰向けになった。
そして被った毛布から、すっと脚を出した。
スリットが割れ、膝からふくらはぎが露わになる。
暗い機内でも、響子の肌が仄かに白く浮き出ていた。
無意識のうちに男を誘ってしまっている。
どうすれば男がその気になるのか、響子はタイで体得していた。
もう我慢が出来なかった。
響子の肉体に燻る情欲は、もはや男根によってしか鎮められそうにない。
また横向きになった。
お尻を男に向けている。
毛布を引っ張って、臀部と脚を見せつける。

「……!!」
「騒がないで」

やはり男はやってきた。
わざと空けていたシートの隙間に、滑り込むように入ってくる。
日本語を話すところを見ると、やはり日本人のようである。
男は左手で響子の口を塞ぎ、右手でウェストを抱えてきた。
そして耳元に口を近づけて言った。

「いいですか、騒がないでくださいよ」

口調は丁寧だ。
声は落ち着いていて、若者のそれではなかった。
さすがにファーストクラスに席を取るだけあって、粗暴な人種ではないらしい。
ロングを編み上げてまとめた髪型にしていた響子の髪の匂いをくんくんと嗅いで
いる。
それだけで響子は股間が熱くなってきた。
そして、舌を伸ばしてちろりと耳を舐められるとゾクゾクして、思わず声が出て
しまいそうになった。

「い、いや……、何をなさるんですか」
「今さら純情ぶってもだめですよ。そっちから誘ってきたんじゃないですか、
奥さん。それともお嬢さんかな? あんなに大きなお尻や綺麗な脚を見せつけられ
たら、黙ってられませんよ」

男は響子の期待通りの反応を示したようだ。
それでも響子は、形ばかりに抗った。
大きく動けば他の人にもバレてしまうし、本気で抵抗しているわけではなかった。
ただ、そうやって男の行為に抵抗した挙げ句、犯されてしまうというシチュエー
ションが欲しかったのである。
そうされることが、もっとも自分を燃えさせるということを、響子は自覚していたのだ。

「あっ……むうっ」
「静かに」

男は腹部を抱えていた右手で、素早くチャイナドレスの裾を割った。
響子はその腕を払おうとしたが、すぐに左手で口を封じられた。
ドレスは、ハイネックの襟元から、右下に向かって開くようになっている。
男は、そこを引っ掛けていた花ボタンを外した。
伝統的な中国服の場合、西洋のようなボタン穴に樹脂や金属製のボタンを通す方式で
はない。
服地から出た輪になった紐に、これも布製(縫製)のボタンを引っ掛けるタイプである。
女性服(つまりチャイナドレスなど)の場合、襟元の第一ボタンには、装飾を兼ね
て華やかな花ボタンと呼ばれる大きなものを使う。
これに対し、カンフー映画でよく見るような男性服の場合は、一字ボタンと呼ばれる
紐をただ丸めたようなポッチである。
そんなもので激しい動きをしたら、ボタンが外れてしまうのではないかと思われがち
だが、これは意外にしっかりと留めることが出来るので、普通のボタンと大差ない
強度を持っている。

毛布の下で、はらりとドレスが剥がされた。
あまり動けば他の客や客室乗務員にバレてしまう。
もちろん声は出せない。
響子は無言で抵抗し、男の手から逃れようともがいた。
しかし、そんな儚い抵抗も男にとっては昂奮を増すためのスパイスにしかならない。

「んっ……」

男の手が、響子の乳房をブラジャーの上から柔らかく揉んだ。
指が乳首付近をコリコリとしごくと、鋭い性感が突き抜けて、響子はビクンと小さく
仰け反った。
見る見るうちに抵抗が弱まっていく。
男はにやりとしながら、ゆっくりとしかし確実に響子を剥いていった。
横開きになっているドレスのボタンは、襟元でひとつと、腰から膝までに四つほど
ついている。
襟元のみは飾りの大きな花ボタンだが、残りは普通の一字ボタンだ。
先ほど外された襟元に加え、残りの四つもゆっくりと外されていく。
そしてスリットの上についていた最後のボタンを外すと、男はそこから手を入れて、
響子の脚を撫で回した。
その手触りで、男は響子がストッキングをつけていないことを知った。
男はさらにいやらしそうな笑みを浮かべながら、響子のナマ脚の感触を存分に味わう。
すべすべとした触感は、まるで陶器のようだ。
口を押さえた左手を乳房の愛撫に回し、右手でふくらはぎや内腿を撫でさする。
感じるところに触られると、響子はピクリと反応し、腿にざっと鳥肌を立てた。
そんな響子の鋭敏な反応に満足しながら、男は響子を奥へと押しやった。

「ほら奥さん、もっと詰めて。私が入れない」
「や、やめて……何をなさるんですか」
「心にもないことを」
「あっ……」

響子は男に背を向けて抗ったが、男はスプーンを二本重ねたように、響子にひっつ
いた。
響子は両手を縮めて胸を守り、膝を「く」の字に曲げている。
男はその大きな丸い尻を触り、そしてくるりとドレスを捲り上げた。

「やっ……!」
「静かになさい。スチュワーデスにバレますよ。それとも見せつけてやりますか」
「……」

男の言葉を聞いて、響子はぴたりと動きを止めた。
震えているのがわかる。
恐怖もあるかも知れないが、これからこんな場所で淫らに犯されるかも知れないと
いう期待の方が大きかったろう。
だからこそ、男の指がパンティのサイドにかかり、一気にするっと脱がされても、
「あっ」と小さな悲鳴しか出さなかった。
この姿勢では完全に脱ぎ去ることは出来ず、膝にひっかかる感じになっている。
男はその下着に触れて、あることに気づいた。

「……奥さん。もう濡れてるじゃないですか」
「……!」

パンティの、股間の秘裂を守る部分の布地が透けるほどに濡れていた。
響子は恥ずかしくて顔に火が着きそうになる。
自慰した時だろうか。
それとも男に身体をまさぐられた時だろうか。
どちらにしても、女の恥ずかしい反応を、男に知られてしまったことになる。

「やっ……!」

男は、響子のブラを上へずらした。形の良い乳房がぶるんとまろび出る。
それを両手ですくい上げるように揉み上げた。
その形や重さを確かめるかのように、ゆっくりと揉む。
先端部を指でこねくれば、乳首はたちまちぷくりと膨れあがった。

「んっ……お願いです、やめて……あっ……」
「ここまで来て「やめて」はないでしょう。奥さんだって感じてることだし」
「で、でもこんなところで……うんっ……」
「じゃあ別の場所ならいいんですか?」
「そ、そういう意味じゃ……くうっ……」

突起した乳首を指先で転がされ、あるいは上から押し潰される。
硬くなったところで、爪の先でカリカリと軽く引っ掻いてやると、響子はぐぐっと
全身に力を込めて、声を上げるのを堪えていた。
乳首とともに二段になるように膨らんできた乳輪を絞るように揉んでやると、響子は
喘ぎ声を噛み殺しながら、くぐもった声を出した。

「あうっ……あっ……ど、どうしてそこばかり……ううっ……」
「そりゃあ奥さんが、ここが感じるとわかったからですよ」

そう言って男は響子の乳首を丹念に責めた。
どうして男は、女の乳首ばかりしつこく責めるのか響子には分からなかった。
響子を抱き、犯した男たちは、みな共通して乳首に執着を持って、念入りに責めた
のである。
もちろん男の興味がある場所だからだろうが、この男が述べた通り、響子が敏感に
反応する箇所だからに違いない。

「ち、乳首ばかりっ……やっ……」

乳首から走る鋭い快感と、乳房全体にわき上がるじんわりとした快感がない交ぜと
なり、人妻は熱く喘いだ。
性感が高まってくると、それを逃がそうと首を何度も振りたくる。
それでも突き抜けるような快楽が収まらず、響子は喉を反り返らせて喘ぐ。
乳房を揉んでいた右手が、今度は丸い尻に移る。
豊かに張った臀部を撫で回しながら、男は耳元で囁いた。

「奥さん、少し震えてるね。怖いのかい? それとも感じすぎるのかな?」
「んんっ……そ、そんなことっ……ありません……あっ……」
「もう欲しいんでしょう? だってほら、お尻を僕の方に突きつけてますよ」
「ち、違いまっ、くっ……すっ……」

指が尻の谷底を這い、媚肉にまで到達すると、男はそこがすっかり濡れそぼっている
ことを確認する。
恥毛はもう滲み出る愛液を吸収しきれず、滴り始めている。
響子はこれ以上の暴虐をやめさせようと腰や脚をもじもじともがかせるのだが、それが
かえって男の行為を促しているようにも見える。
尻の割れ目に侵入した指が、双臀の肉で心地よく挟まれている。
その圧力を押し返すように指を動かしてやると、響子はたまらずピクンと震えた。

「ああ、もう本当に……本当にこれ以上は……あくっ……」

響子の掠れた声が抗議するものの、男は委細構わず下半身の愛撫に集中する。
もう内腿も膣周辺も、零れ出た蜜でぐっしょりである。
ストッキングを履いていたらひどいことになっていただろう。

「これだけ濡れてれば、もういいな」
「い、いやっ……!」

その言葉に、男が何をしようとしているのか、響子は瞬時に察した。
だが、言葉だけは強がったものの、身体はもう崩壊寸前だ。
あり得ない異常なシチュエーションで犯されかかっているという状況が、彼女を
今までになく燃え立たせていた。
響子自身、普通でないくらいに感じてしまっている。
もしここで男が引き下がってしまったら、自分からねだったかも知れない。

「あ……」

ぺらりとスカートを捲り上げられ、裸の下半身が露わになったことを自覚した。
それでも響子は抗わなかった。
震えているのは、羞恥より期待の方が強い。

「じゃあいきますよ」
「だ、だめっ……やめ、やめてくださ、ああっ!」

熱い男根が尻たぶに触れる。
響子はそのまま尻を男に押しつけたい欲望を必死に堪えていた。
男はペニスの先を、響子の熱く濡れた媚肉に押し当てる。

「あ、いやっ……んんんっ……」

充分すぎるほどに濡れている響子の膣は、待ちかねたように男の肉棒を受け入れていく。
とはいえ、側位のバックスタイルであるから、響子の大きな臀部が邪魔をして、なか
なか奥まで入れられない。
それでも、ひさびさに味わう男根の感触に響子は痺れていた。

「ああ、は、入って……くる……んんっ……ああ、あ、太い……」

男のものは、それほどの巨根というわけではなかったが、響子にとってはひさびさに
味わうペニスである。
少なくとも彼女の指などよりはずっと太かった。

「んんんんっ……!」

寝そべったまま背後から肉棒が挿入された。
その感覚に、響子は思わず声が出そうになり、右手の人差し指を口に当てて必死に堪
えた。
閉じた尻たぶが邪魔だったが、潤っていた響子の膣は、熱いペニスを難なく飲み込ん
でいた。
ようやく受け入れた快感に、響子はぶるぶると腰を震わせながら、熱い息をもらした。
普通よりやや大きいくらいのサイズのペニスが後ろから、しかも豊満な響子の臀部の
上から入れられたということもあり、男がいっぱいに挿入しても、その長さの半分も
中には入らない。
それでも男に入れられた感覚は充分であり、響子は犯される快感を思い出していく。
込み上げる喘ぎを噛み殺しながら、犯される人妻は小さな声で言った。

「は、早く……済ませて……」

もう「やめて」とは言わなかった。
ここでやめられたら響子も我慢ができなくなるし、言ったところで男は決して止め
ないだろう。
ならば、さっさと欲望を放出して終わらせて欲しかった。
見られるかも知れないというスリルを味わっている響子だったが、知性も理性も
生きているから、気づかれる前に済ませてしまいたかった。
だが、それを聞いた男はにやりとして答えた。
小声というより無音声で言った。

「そりゃないでしょう奥さん、ここまで来て。それにさっさと終わったら、奥さん
だって物足りないでしょうに」
「そ、そんなことありませ、んんっ! うっ、動かないで!」

男がぐっ、ぐっと腰を突き上げてくると、たちまち響子は喉を反らせて呻いた。
できる限り深くまで貫いたが、最奥には遥か及ばない。
それでも先端で膣襞を削るように擦り上げると、響子は声にならない喘ぎ声を漏らし
始めた。

「んんっ……やっ……あっ……くっ……むむっ……」

しばらくは、横向きの後背位で犯していた男は、さすがにシートが狭すぎることに
気づいた。
これではろくにピストンも出来ない。
挿入したまま少し考えると、挿入したまま響子の腰を両手で掴み、そのまま仰向け
になった。

「え……あっ……」

響子が驚く間もなく、ふたりとも仰向けとなり、男の上に響子が乗る形となる。
撞木ぞりという体位だ。
さっきよりは腰の動きはよくなるものの、後ろから入ってることには変わりなく、
やはりペニスを存分に使うには及ばない。
挿入感は得にくいが、突き上げる挿入感だけは格段に上である。

「あ、こんな恰好……あっ……!」

初めての体位で戸惑う響子に、ようやく姿勢を落ち着かせた男は、下から突き上げて
きた。
喘ぎだした響子に、男は意地悪げな口調でささやく。

「奥さん、あんまり喘いだらバレますよ」
「……!!」

燃え上がった肉欲が一時的に低下し、響子はハッとして口を閉じた。
もし起きている乗客がいたら……、スチュワーデスが巡回に来たら……、この上
ない生き恥を晒すことになる。
響子は懸命に声を抑えようとするものの、男は嘲笑うかのように腰を突き込んで
くる。
ひと突きごとに「くっ」と堪えきれない声が朱唇から漏れ出る。
くわえた人差し指に歯を立てて必死に耐えようとすると、全身に力が入る。
当然、膣も締まり、ペニスとの摩擦感も高まってしまう。
堪えようとする決意も、男の律動で徐々に打ち壊されていった。

「お、お願い、動かっ、ないで……くっ……やっ……はああっ……」

見られるかも知れないという緊張と恐怖が、響子のマゾ資質を刺激し、羞恥を愉悦へ
と変換していく。
つい官能に溺れそうになると我に返り、指を噛みしめるのだが、すぐにまた呻きとも
喘ぎともつかぬ妖しい声が出てしまう。
白い綺麗な歯で噛んだ指は、赤く歯形がつくほどだ。

「ああっ……こんな……あっ……ひうっ……」
「そんな声を出してると気づかれますよ」

ハッとした響子は奥歯を噛みしめる。
それでも男は下から遠慮なく突き上げてきた。
気が付くと、ふたりが被った毛布がふわっ、ふわっと宙を舞っているかのように
上下していた。こんな動きをしていたら、声がなくともバレてしまう。
それに気づいた響子は、何とか男の動きを抑えようと、臀部で男の腰を押さえつけた。
しかし、そんなことをすれば、かえって挿入感は強くなり、奥まで肉棒が来てしまう。
他にどうしようもなかったとはいえ、かえって犯されていることを実感してしまった。

「ふふ、そんなに腰を私に押しつけて。気持ちいいんですね、奥さん」

口では答えず、響子は大きく顔を振りたくった。
いやがっている素振りをしていながらも、響子の反応はいや増すばかりだった。
「見られる」ということを意識すると、膣がきゅっと締まってくる。
響子の媚肉による快感に酔いながら、男はなおも責め続けた。

「だ、だめ……もう、や……あっ……はあっ……」

男の突き上げによって、響子の身体はいとも簡単に跳ね上がる。
まくりあげたスカートから剥き出しになった尻と腿の感触が心地よい。
両腕は、響子の上半身を抱えて固定しているが、同時に大きな乳房を愛撫していた。
片手では覆いきれないほどの豊満な胸肉は、男の手によってぐにゅぐにゅと自在に
形を変えさせられている。
強く揉まれ、あるいは触れるか触れないかの微妙なタッチをされ、響子は腰を踏ん
張って身悶えた。
もうすっかり硬い乳首をコリコリと擦られると、いけないとわかっていても大声で
喘ぎたくなる。
快楽を訴える喘ぎと悲鳴が、もはや抑えきれないところまで来ていた。

まずいと思った男は腰を引き、響子の腰を持ち上げていったんペニスを抜き去った。
体位のせいもあって、さほど深く刺さっていなかった肉棒は、あっさりと響子から
抜けてしまう。

「あ……」

物足りなそうな声を出した響子は、背中の男を振り返った。
その瞳は情欲に濡れ、続きをせがんでいる。
響子の熱が少し冷めるまで待とうとした男だったが、彼女が自ら腰を押しつけて
きたのには驚いた。
響子自身が尻を男にあてがい、ぐりぐりと動かしている。
臀部への刺激が欲しいというよりは、ペニスを探しているのだろう。
熱いものが尻の谷間に捉えられると、驚いたことに響子は自分の手を使ってそれを
掴み、自らの性器へと導いていった。

「あう……」

先端が潜り込み、再び膣内に男の感触を得ると、響子は安堵したように呻いた。
響子本人は、責められ、虐められているようにしか認識していないが、肉体の方は
まったく別だ。
肉棒が膣内を抉るたびに、内部からとろとろの熱い愛液が分泌されてきている。

「ああ……も、もっと……」
「正直になりましたね、奥さん」

男は響子の胸から手を離し、腰に持ち替える。
そして響子の腰を上下させて律動を始めた。

「あ、ああっ……いっ……いいっ……あああっ……」

いつしか響子の腰の動きが、男の突き込みとシンクロしてきていた。
男が突き上げると、響子は腰を押しつけて、できるだけ深い挿入を受けるようにして
いた。
響子の反応に男も昂奮し、つい突き上げが激しくなる。
ふたりとも快楽を貪るように動いていると、たまにぽろりとペニスが抜けてしまう
こともあった。
すると響子と男は、まるで示し合わせたかのように協力しあい、再び挿入し、動き
始めていた。

「ああ、いいっ……くっ……」
「お、奥さん、もう少し声を抑えて」

響子がはっきりとよがり出したために、男の方が慌てて周囲を気にする羽目になった。
周りに誰も動く影がないことを確認し、腰を打ち込んでいく。
男は次第に高ぶっていき、欲望のままに響子を貫き、犯していった。
犯されている響子の膣襞は、吸い付くようにペニスにまとわりついている。
人妻ならではの感触だったが、それでいて処女のように膣自体はきつい。
大抵の男は堪えきれないだろう。

「くっ……で、でも……いっ……あっ……くううっ……」

響子は、膣の奥が熱くなってきていることを実感した。
あまりの快感にガクガクと全身を震わせ、毛布が落ちてしまいそうだ。
シートも軋む。
作りがしっかりしているだけあってギシギシと音を立てるようなことはなかったが、
キッ、キッとどこかの金具が擦れるような微かな音が響く。
それでも構わず、肉に溺れる男女は淫らな行為に没頭していく。
響子の膣内がピクピクと痙攣してきた。
内部の収縮も強まっている。
腰を中心に、身体がぷるぷると細かく震えている。
頂点へと駆け上り始めたのだ。
それと気づいた男がささやく。

「奥さん、もういきそうなんですか」
「いっ……いきそう、ですっ……んくっ……」

響子はカクンとひとつうなずき、すぐに仰け反って「いいっ」と喘いだ。
すっかり淫欲に染まった響子は、大きな臀部を自分から振って、男に擦りつけていく。

「だ、だめですっ……あ、いきそう……いく……あっ、もうっ……」

美貌の人妻が絶頂を訴えてくると、男もたちまち上り詰めた。膣から肉棒へ伝わって
くるくる快感も凄かったが、それ以上に、美しい響子が肉悦を訴えて、喘ぎよがる
姿に我慢しきれなかったのだ。
男は限界まで堪え、もう無理と判断すると、大きく腰を何度か突き上げた。

「い、いきますよ、奥さんっ」
「あああっ……い、いくっ……私もいくっ……!」

響子は全身をぶるるっと大きく震わせて、膣肉を思い切りきゅううっと締め上げた。
響子が気をやって膣が締まった瞬間、男も呻いた。
響子の尻が窪むほどに腰を押しつけ、できるだけ深くまで入れてから、白濁液を一気
に放出した。

「やはっ……ああ……で、出てる……な、中で出すなんて……ああっ……」

どびゅどびゅと噴き上げてくる精液の熱い感触に響子は身震いした。
響子の媚肉が締まるごとに、びゅっ、びゅっと肉棒から精液が間歇的に吐き出されてくる。
響子は汗と蜜でぬるぬるした尻を震わせながら、男の射精を受け続けた。



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