「どうしても……この家を出るの?」

響子が哀しそうに、寂しそうにそう言った。
その隣では、やはり困ったような顔をした瞬が座っている。
彼らと対峙しているのはタムであった。

「はい。旦那さまにも、その……奥様にも、お世話になったので、勝手に出ていく
のは心苦しいのですけど」
「そんなことは気にしないでいいんだけど……」

タム少年が、三鷹家から出たいと言い出したのは、響子との情事があった一週間後
のことだった。
唐突に(少なくとも瞬たちはそう感じた)そう告げられた時、瞬は「しまった」と
思ったものだ。
いかに響子を調教するためとはいえ、少年を巻き込んだのはやはりまずかったの
だろう。

響子は何も言わなかったが、万里邑の話によると、響子はタムとセックスに及んだ
ようである。
瞬は、こういうことには鈍感というか、あまり重大視しない方だからさして気には
しなかったのだが、やはりいたたまれないと思ったのだろう。
考えてみれば当たり前で、当主の妻と不義の関係を結んだ使用人などというものは、
時代が時代なら極刑に処せられるところだ。
いや、国によっては今でもそれに近いところはある。

言い訳じみているが、瞬は、もし自分がタムの立場だったとして、さして気にしない
だろうと思っている。
本当に夫人が自分に関心を寄せているのであれば、これからもたびたび情事をお願い
するだろう。
あるいは、一時の気の迷いと思っているのであれば、それはそれでよい。
いい体験をさせてもらった、と思えばいいだけだ。

この場合問題になるのは、そのことを知った主人の考えだが、その主人たる瞬は気に
しない。
というより、万里邑と相談して、タムをけしかけたのは自分なのだから、良いも悪い
もないのだ。
余人は自分とは異なるということを深刻に考えなかったことには責任を感じている。

響子の方はといえば、本当にタムに対して申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。
仕掛けられたのはこっちだとはいえ、相手は年端も行かぬ少年である。
制御すべきは自分の方であって、決してタムではない。
タムには悪い印象になっていないと思っているが、翌日以降、顔を合わせるのはいた
たまれない、バツが悪いと思うのは当然だろう。
響子自身そうなのだから。
しかしこれは時間が解決してくれると信じていた。
タムが本気になってしまった場合は困ってしまうわけだが、これとておとな側である
響子と瞬が原因なのだ。

翌日、タムは普通に振る舞っていた。少なくとも響子にはそう思えた。
だからこそ響子も楽しかった日常を取り戻そうと、普段通りに接するよう努力して
いたのだ。
その矢先のことだった。
響子は己への罪悪感で消え入りそうになっていたが、タムは思いのほか明るそうに
言った。

「旦那さまも奥様も、そんなに悲しまないで。僕、もともとそうするつもりだった」
「もともと?」

タムは、ストリートチルドレンとしては望外の幸運に恵まれた。
親切な日本人に引き取られ、生活を保障された。
その上、学校にも通わせてくれるという。
この幸せにどっぷりと浸りながらも、これでいいのかという疑問もあったのだそうだ。

「旦那さまも奥様も、優しくしてくれる。僕、幸せ」
「そうなら、どうして……」
「でも、僕、独り立ちしたい。ずっとそう思ってた」

両親を早くに亡くし、何者にも頼らず生きてきた少年の自負であった。
そうした環境は、彼に旺盛な自立心を植え込んでいた。
このままここで暮らせば、不自由なく暮らせる。
それも悪くないが、少年はタイ人の男として独立する道を選んだのだ。

そして、これだけはふたりに言わなかったのだが、タム自身、響子に憧れ以上の
想いを抱きそうになっていた。
恩人である瞬の妻の響子を愛してしまう。
そんな背徳的なことは出来ない。
最大の裏切り行為だと思う。
もし本当に響子に恋慕するようになってしまったら、恩人たる夫の瞬を憎むよう
になってしまうかも知れないのだ。
タムは、人並み以上年齢以上の知性や常識を持った少年だが、恋愛とはそうした
ものを横に押しのけてしまうものなのだ。

しかし、響子と瞬のセックスを覗き見た次の日から、彼女を見る目が少しずつ変わ
っていってしまった。
美しい奥方という見方だけでなく、異性という目で見ていることに気づいてしまった
のだ。
これでは瞬や響子に仕えることはできない。
タムには、瞬の奸計や響子の行為に対して憤りはまったくない。
感謝とともに、むしろ悔恨の念すらあった。

少年の決意と熱意に、おとなは折れた。
瞬は言った。

「わかったよ、タム。それじゃひとつだけ僕の言うことを聞いてくれ」
「なに?」
「学校へは行きたまえ」
「学校?」

これから少年がどんな人生を歩むにせよ、学校は不可欠であろう。
せめてきちんとした教育だけは受けさせたいと瞬は思った。
そこで彼が提案したのは、寄宿舎のある学校への入学である。
もう少年が二度と路上で暮らすようなことのないようにする配慮であった。
響子も、一も二もなく賛成した。

入学に当たっての入学金、授業料、寮費などは、一切、瞬が負担すること。
その他に、生活費として月々わずかではあるが送金すること。
それを聞いたタムは驚き、謝絶した。
そこまで甘えられないと思ったのだろう。
しかし、これに関しては、瞬も響子も頑として認めなかった。
これを受けなければ家を出さないと言ってきたのである。

タムにも彼らの気持ちはわかっている。
自分に対する謝罪という意味合いもあるのだろう。
それを無碍に断るというのも、かえって旦那さまたちのためにならない。
そう判断した少年は、それを受け入れた。
タムの返事を聞いた夫妻は、一様にホッとした表情を浮かべた。
かかる費用はどれほどのことでもないのだ。
タイと日本の物価差を考えれば、最初の負担だけはそこそこだが、月々の費用は
微々たるものだ。
それくらいはさせて欲しいと、若い夫婦は思っていた。
少年は目を輝かせて言った。

「僕、おとなになったらエンジニアになりたいんです」
「エンジニアかい?」
「はい。そして将来は旦那さまの会社に勤めたい。それがタイのためにもなると
思います」
「そうか……」

タムが出立する日、瞬と響子は並んで見送った。
タクシーに乗った少年は、何度も後ろを振り返っていた。
響子は、夫の胸に頭を預けながら、クルマが見えなくなるまで見送っていた。

───────────────

「最終段階」と称され、万里邑と瞬に連れてこられたのは、以前サロンで夫人たち
に誘われた「パーティ」だった。
万里邑が来るということは、これもセックス絡みの催しに違いなかった。
それでも響子が割とすんなり参加したのは、瞬がいるということと、これまでの
万里邑の調教によって、彼女自身かなり性的に開けてきたことによる。
大麻窟での輪姦が何しろ衝撃的だったし、タムをダシにした響子からの仕掛けセッ
クスも大きかった。
さらに、万里邑の指導ではなかったが、奥村静香によるレズプレイも、響子の身体
と嗜好に新たなページを加えていた。

万里邑は直接的に指導しない時でも、その弁舌によって響子を洗脳していった。
瞬もそれに加わることもあった。
度重なる、想像を超えるセックスとそれからもたらされる至上とも言える快感。
男の肉体を受け入れた時の充足感、気をやった時の満足感は、それまでと比較に
ならなかった。
夫以外の男に膣内射精されるという、望まぬ妊娠の恐怖しかもたらさなかった行為
さえも、響子は快楽に変えていった。
夫以外の男に穢されるという屈辱、そんな男に痴態を晒すという羞恥、夫を裏切った
という背徳。
それら負の感情すべてが、響子の被虐願望を目覚めさせていった。

瞬は響子にそれがあることを見抜いたからこそ万里邑に預け、開発させたのだ。
そして今、完全とは言えぬまでも、今まではとは打って変わった妻の姿がある。
他の男を覚え、その快楽を身に染み込ませたかの如く、彼女の体つきまで変わって
いった。
もともと胸も尻も豊かだったし、それでいてすらりとした脚が魅惑的な女だった。
男の精を吸って男性ホルモンを過剰に吸収したせいか、その肢体に磨きが掛かって
いた。
豊満だった臀部には一層脂が乗って、むっちり感が増している。
腿やふくらはぎは、まだすらしとした印象が残っているものの、以前と比べれば
確かに肉が付いたようにも見える。
そして豊麗そのものだった乳房は、また少し大きくなったようだ。
柔らかさは増し、揉んでいるうちに芯が入ってくるようになった。
乳房への愛撫による快楽を、完全に身体が理解したのだ。
乳首と乳輪は、まだ初々しい色だったが、心持ち乳輪は広がり、埋没気味だった乳首
は、平常時でも顔を出すようになっていた。
肌は、透き通るような透明感が薄れたが、その分、ミルクを流し込んだような乳白色
に近づいていた。
そしてその美貌は、ますます輝きを増した。

女として成長したことを誇示するかのように、響子の美貌は際立ち、その瞳、目元
、鼻筋、耳、首筋、唇、どこをとっても男を欲情させるに相応しい美しさを醸し出
していた。
まさに瞬にとって「出し頃」であり、パーティに出しても恥ずかしくない──いや、
それどころか大いに自慢したい女となっていたのだ。

「では、私は」
「はい。あちらで?」
「ええ、拝見させていただきます」
「わかりました。では後ほど」

万里邑は瞬とそう言葉を交わし、響子に軽く目礼してその場を去った。

「あ……」

いつも場にいてくれた万里邑がいなくなり、響子はつい声を掛けたくなった。
自分を性的に追い詰め、ともすれば顔も見たくないこともあった老人だが、いざ
いなくなると心細くなった。
そんな響子の肩を抱きながら瞬が言った。

「大丈夫。今日は最後まで僕がいるから」
「はい……。でもあなた、今日は何を……」

響子はそう言って不安そうに夫を見上げたが、彼女の気持ちにあるのはそればかり
ではなかった。
今度はどんなことをされるのだろうという微かな、しかしはっきりとした期待感も
あったのである。
そんなことはないだろうが、もしこの場が本当にただのパーティで、この身体を
疼かせることが何もなかったとしたら、それはそれで響子はどこかで失望したのか
も知れなかった。

しかし見た目はごく普通の立食パーティである。
広い室内のあちこちに白いクロスを掛けられたテーブルが設置され、そこには料理
が並んでいる。
ボーイが音もなく歩き回り、冷めた料理を下げ、新しいものに替えていく。
バニースタイルのウェイトレスが、トレイにカクテルや水割りを持って配っていた。
室内の照明も明るく、不健康なところはどこにもない。
パーティ参加者を始め、サービスする従業員まで含めれば、かなりの人数がいるのだ。
いくら何でもこんなところで淫らな行為は出来ないだろう。
列席している人々も、身なりのきちんとした紳士淑女たちであった。
きょとんとしている響子に瞬が囁いた。

「どうした? 不満そうだね」
「不満だなんて……。ただ、普通のパーティのようなので」
「まだね。盛り上がるまでは君も普通にしているがいい」
「……」

瞬はそう言って、妻の元から去った。
早速に、他の女性をつかまえて親しそうに談笑を始めた。
響子は手持ち無沙汰になる前に、すぐに祥子やその夫、友人たちに囲まれて会話に
引きずり込まれた。
話題は特に性的なものではなく、ごく普通の世間話だったのが助かった。
タイの現地ネタや海外での面白い話を聞いて、響子も楽しく時を過ごした。
少々肩すかしだったが、これはこれで悪くない。
出されるお酒も料理もおいしい。
響子は勧められるままにカクテルを飲んだ。

「……」

しばらく談笑していると、ふと疲れと酔いを感じて、響子は部屋の隅にある椅子に
腰掛けた。
ふうっと吐く息がアルコールで熱い。
そこに瞬が寄ってきた。

「楽しいかい?」
「あ、はい。みなさんのお話が面白くて……」
「それはよかった。本番はこれからだからね」
「本番……ですか?」
「ああ。早くもやってるカップルもあるみたいだよ」
「?」
「気が付かなかったかい? この部屋、段々と人が減っているだろう?」

そう言えばそうだ。
話に夢中になっていて今の今まで気が付かなかったが、部屋には30人以上いた
ように思うのだが、10人以上減っているように見える。
話をしていた祥子たちもすでにいない。

「もうお帰りになったのでしょうか」
「違うよ、まだいる。ここじゃないけどね」
「と言うと……」
「あ、ほら、田原さんの奥さんも行くようだよ」

言われて見てみると、尚美が長身の男性に腰を抱かれて、嬉しそうに微笑んでいる。
ふたりは並んで部屋を出ていった。
ご主人はと思って探してみると、田原氏は、20代前半と30代後半と思しき女性に
盛んに話を振っているように見える。
響子は、妻の尚美が他の男と一緒に出ていってしまったのに、夫の田原氏は心配では
ないのだろうかと不審に思い、そう瞬に聞いた。
彼の事はこうだった。

「いいんだよ、それを田原さんも望んでいる」
「え……?」
「細かいことはこれからイヤでもわかるさ。さ、僕らも行こう」
「あ、はい……」

響子は立ち上がり、瞬に腰を抱かれながら部屋を歩み出ていった。
どこに行くのか知らないが、相手が瞬なら問題はない。
例え淫らなことをされようとも、相手は夫なのだ。
また何か刺激的なことが仕組んであるのかも知れないと、響子ははしたない想像まで
してしまうのだった。

「……!!」

その部屋に入った響子は絶句した。
もわっとするような濃厚な男女の匂いが籠もっている。
空気の密度自体が濃くなったようにも思えた。
薄い煙が漂っているのは、部屋の四隅にある燭台からのものだった。
ロウソクではなく、何かの香料を焚いているようだった。
その薄暗い照明の中で、幾組もの男女がセックスしていたのである。

「さ、響子」
「い、いやっ……!」

さすがに響子も後込みした。
まさか乱交している光景を見せられるとは思わなかったのである。
自分がしている時はわからないが、他人の性交の何と淫らで汚らしいことか。
おうおうと呻いたり、あうあうと喘ぎながら、けだもの顔負けの痴態を演じている
のだ。
不潔感を覚え、響子は思わず口を手で覆った。

「わかったかい、響子」

瞬がそう言って背中をさすると、響子はキッと瞬を睨んだ。

「な、何をわかれと言うんですか! わ、私は……こんなもの、見たくありませんっ!」
「こんなものとは酷いな」

瞬は大げさに肩をすくめた。

「きみだってセックスする時はああなるんだ。ちっともおかしなことはない」
「なりませんっ。そ、それにこういうことは人に見せたり、見たりするものでは
ないと……あっ」

響子は瞬に力強く手首を掴まれ、言葉を止めた。

「……きみは万里邑さんとしばらく行動を共にした。それでセックスの本質を少しは
垣間見たのではなかったのかい?」
「そ、それは……。でも」
「でも? でも、なんだい。きみは立派に彼の調教を受け入れ、まさに僕……いや
僕たち好みの女性になることが出来た。違うかい」
「……」
「人に見られるとか、見るとか、そんなことはどうでもいいんだ。確かに僕にはそう
いう趣味がある。だからと言ってきみにもそれをわかれとは言わない。言わないが、
気にする必要はないんだ」

瞬は響子の両肩に手を置き、その瞳を見つめながら言った。

「周りのことなんか気にしないでもいいんだ。きみはきみのしたいようにすればいい。
抱かれて感じればいいんだ。そのうち、見られる快感も覚えてくるかも知れない」
「で、でも……じゃあ、ここで私にどうしろ、と……」
「簡単なことさ」

夫はそう言って軽くウィンクした。
そのままパチンと指を鳴らすと、ひとりの男が近づいてくる。
奥村だった。

「おひさしぶりですね、奥さん」
「お、奥村さん……」
「ええ。僕と瞬は学生時代からの親友です。互いの趣味も好みもみんなわかってます
よ。それに、僕もこういうのは好きなんです」
「ああ、奥村さんまで……」
「それとね、奥さん」

奥村はそう言うと、ずいと響子に近づいてきた。

「奥さんのことも好きなんです」
「な……あ、あむっ!?」

奥村の端正な顔が近づいたかと思うと、響子の唇を塞いだ。
びっくりした響子は、目を白黒させて顔を振り、奥村を振り払った。

「な、何をなさるんですかっ!」

響子の怒った顔に苦笑しながら、奥村が瞬に言った。

「なにって……。ふう、まだ少し堅いみたいだな、瞬」
「そのようだ。ま、それくらいの方が面白いだろう。おまえに任せるよ」
「了解だ。おまえもうまくやれよ」
「ああ」

瞬と奥村が入れ替わった。
響子はすぐに夫を目で追ったが、奥村の顔を戻された。

「心配しないでも、瞬のやつもこの部屋にいますから」
「夫は、夫はどこですかっ。何をするつもりなんですかっ」
「何って、わかってるでしょう? スワッピングですよ」

言葉は知っていた。
夫婦交換とか言うやつだ。
夫婦同士が互いに納得して、他の夫婦と入れ替わってセックスする。
綺麗事で言う人もいるが、響子に言わせれば、何のことはない乱交なのだ。
響子は血の気が引いた美貌を震わせた。

「そ、それじゃあ、私は……」
「そう、僕がお相手を務めます。役不足かも知れませんが」
「い、いやっ、むむっ」

悲鳴を上げて逃げようとした響子の手首を掴み、同時に口も塞いだ。
一瞬の口づけで響子の抗議を奪った奥村は、その耳元で囁く。

「お静かに、奥さん。みんなの興を削ぐようなマネはお控え下さい。今回は、奥さん
が初参加だということを事前にみんなに知らせてありますから多めに見てもらって
ますが、あまり騒いでもらっては困ります」
「そんなこと言っても、私は何も聞いてません!」
「聞いていたら、ここへは来なかったでしょう? それでは困るんです」
「こ、困るって……こんなこと、私だって困ります!」
「万里邑さんからいろいろ指導は受けたのでしょう」
「!」

奥村は何気なく口にしたが、響子は絶句し、美貌を赤く染めた。
彼も響子が万里邑に官能的な教育を施されたことを知っているのだ。
集団レイプされたり、少年を誘惑したりしたことも知られているのだろう。
挙げ句、響子自身も性の頂点に達し、何度も何度も気をやったことさえも。
わなわなと唇を震わせる響子に、奥村は小声で言った。

「それに、僕の妻からも洗礼を受けているのでしょう? 聞きましたよ」
「……」

スカッシュの後、静香によって強引にレズを教え込まれたことも知られている。
静香のことだ、響子の身体やその感じっぷりを微に要り細に穿ち、あの美しい顔で
奥村に話したのだろう。
身を固くして縮こまっている響子の肩に手を置き、奥村が言った。

「恥ずかしがることはありません。気にすることでもない。本来、セックスとは
そうしたものなんですから。感じてしまって何度もいったのなら、それだけあなた
の身体が素晴らしいという証明じゃありませんか」
「ああ……」
「さ、もう観念して」

アルコールの酔いもあってか、響子の抵抗は弱かった。
万里邑の話によると、最初は抵抗がそれなりに激しいものの、抗いが弱くなってくれ
ば、最終的には受け入れるらしい。
奥村は、幾分面倒だが、そういうのも悪くないと思った。
妻の静香はあらゆるセックスに積極的で、それ自体は望ましいことだが、響子のよう
に羞じらいを持つのもいい。
静香も響子も、いかにも淑女然とした美女だが、妻は素振りでもいやがるポーズは
とらない。
痴女とは違うが、あまりに誰でもOK状態というのも、それはそれで興が削がれる
こともある。
たまには、こうした堅めの女もいいだろう。

響子はひどく当惑し、助けはないかとあたりをキョロキョロと見回した。
だが周囲には、いくつも設置されている大きめのベッドの上で、組んずほぐれつの
熱戦を展開している男女しかいない。
どこかに夫の瞬もいるはずだが、見あたらない。
恐らく、どこかのベッドの上で他の女を抱いているのだろう。

「きゃっ!」

絶望的になっていた美しい人妻を、奥村はひょいと抱き上げ、そのまま空いている
ベッドへと運んだ。
スプリングで軽くバウンドしたため、スカートがまくれ、ストッキングにくるまれた
美しい脚が剥き出しとなる。
慌てて響子がスカートたくして隠そうとすると、奥村がベッドに膝を立てた。
響子は、犯されるという恐怖からか、やや脅えた目で奥村を見ている。
黒くつぶらな瞳が潤んでいるのは、それなりにアルコールが回っていたからのようだ。
近づく奥村にハッとして上半身を起こし、響子は肘を使って後ずさった。
男は落ち着いて響子の肩を抑え込むように両腕をついた。
両ひざは彼女の腰を挟むようにして四つん這いとなっている。
響子は、睫毛と唇を震わせながら言った。

「ああ、お願いです、奥村さん……。こんなこと、いけません……」
「往生際が悪いですよ、奥さん。いいじゃないですか、瞬も愉しんでますよ。それ
にね、僕も奥さんをひとめ見たときから、是非抱いてみたいと思っていたんですから」
「そんな……ん、んむっ」

奥村は響子の細腰に腕を回し、身体を持ち上げて、また唇を奪った。
また口は閉じているが、その芳しい香りは味わえた。
必死に合わせた歯がかちかちと鳴っているのが初々しい。

「ぷあっ……い、いやです。あ、あむむっ……」

顔を激しく振って、何とか奥村を振りほどいた響子だったが、すぐまた口を吸われた。
吸われるごとに、響子から理性が吸い取られ、代わって妖美な疼きが送り込まれる
ような気がした。

「ん、んんっ……んんん……んむうっ……んっ……」

響子は決して咥内を許さなかったが、奥村は焦ることなく軽い口づけを繰り返した。
彼女はキスに弱いと妻の静香から聞いていたからである。
舌を小さく伸ばして柔らかい閉じた唇をつついてやると、響子は目も唇も固く閉じて
必死に顔を振りたくるのだった。

「ぷあっ……はあ、はあ……お、奥村さん、こんな……やです……やめ、むうっ」

響子の気が唇に行っている隙を捉え、奥村は薄いブラウス越しに響子の胸をぐっと
掴んだ。

「きゃっ! さ、触らないで、んぐうっ!?」

思わず悲鳴を上げて口を開いてしまった響子は、そこをつかれて口の中まで奪われた。

「むっ……んむうっ……んん……んんんっ……んっ……んんっ……」

響子は握り拳を作って、奥村の背や胸を必死になって叩いた。
そんなことには動ぜず、奥村は響子の後頭部に左手を回し、右手で背中を支えて、
彼女の顔を固定させた。
響子は目を白黒させながら、懸命に抗った。

口の中で響子の舌が、追い掛けてくる奥村の舌から逃げ回っている。
奥村は、逃げる舌は追わず、響子の咥内の粘膜を舐め回した。
歯茎や頬裏などを舌先で削るように愛撫し、強く口で吸った。
その間も、胸をやんわりと揉み上げる手は緩めない。
響子も片腕で奥村の手の暴虐を止めようとするのだが、男の力には敵わない。
下乳をすくい上げるように揉み上げていると、ふっと響子の美貌にうっとりとした
色が浮かぶことがある。
上顎の裏を舌で刺激してやると、ギクンと背中を震わせた。
嫌がりながらも、感じやすいその肢体は、肉体的には徐々に奥村を受け入れつつ
あった。
ようやく唇を離し、長かったキスを終えると、響子はとろんとした目をしていた。
身体からも力が抜けている。

「お、奥村さん……あっ」

響子の言葉が終わらぬうちに、奥村は舌を首筋に這わせた。
途中で中断された響子の言葉は、拒絶ではなかったのかも知れない。
敏感な首もとや鎖骨を唇と舌で愛撫された響子は、ぴくんと反応したものの、奥村
をはね除けようとはしなかった。
首から耳元まで舌を這わせ、耳たぶを口に含むと、響子は「くっ」と呻いて身を固く
した。
そして、その首を食べるかのように大きく口を開けて吸い付くと、「ああ……」と
濡れた声すら洩らし始めた。
今では両手で胸を揉んでいるものの、響子は振りほどいたりはしなかった。
込み上げてくる快楽を噛み殺しているのか、小さな呻き声がたまに漏れるだけだ。
奥村も、焦らすように響子の顔や胸をじっくりと柔らかく愛撫していくのだった。

「抵抗がなくなりましたね、奥さん。やっと僕に抱かれる気になりましたか?」
「そ、そんなんじゃ、ありま、せん……」
「ふふ、ぎこちない断り方ですね」
「あ……」

奥村は手を器用に滑らせながら、裾から服の中へと入っていく。
奥村は手慣れたように響子から服を剥いでいった。
無意識のうちに響子の方も協力していた。
上着を脱がせる時には背を浮かせ、最後にスカートを脚から抜き取る時にも尻を軽く
持ち上げていたのだ。
下着姿の響子を見て、奥村が感嘆した。

「すごいな。綺麗ですよ、奥さん。いや響子さんとお呼びしようかな」
「や……見ないで……見ないでください……」

消え入りそうな声でそう言うと、響子は顔を背け、両腕をクロスさせて胸を隠した。
脚も、片膝を曲げて、何とか露出面積を減らそうとしている。
真っ白い肌に、ほのかに朱が差しているのが何とも悩ましい。
そして響子にしては珍しく、黒いレースの下着を着けていることも、彼女の色白さを
際立たせていた。

響子本人は、あまり派手なアンダーには興味はなく、独身時代からも含めて、ほと
んどが薄い色のものばかりだ。
清潔感のある白がもっとも好きで、他には薄いブルーやピンクのものがあるだけだ。
瞬と結婚してから、彼の薦めもあって、こうした黒や紫といった派手なカラーのもの
や、透けそうに薄かったりレース地だったりするものも買った。
もっとも、買いはしたが、瞬に言われなければ(つまり彼とセックスする時でなけ
れば)着用はしなかったのだ。
今日それを身につけてきたのも、もちろん瞬がそうするように言ったからだ。

何人もの女を抱いてきたプレイボーイの奥村さえも感心するような肉体だった。
めりはりのあるボディラインが下着姿からくっきりと浮かび上がっている。
豊かな胸に反比例して、急激な角度でウェストが切れ込んでいるし、そこからまた
ぐっと大きく腰が張っている。
太腿や下着からはみ出た臀部、ふくらはぎなどは、今にも脂が滴りそうなほどに熟れ
きっている。
独身時代もかなりスタイルはよかったそうだが、瞬と結婚して彼のセックスに染まり、
万里邑らの薫陶を受けて、さらにその肉体が進化していたのだ。

「あっ、やめて」

奥村は、胸を隠す響子の腕を引き剥がし、その乳房をブラジャーの上から揉んだ。
ブラの布地の中で窮屈そうに膨らんでいた胸肉は、男の手でむにむにと揉まれると、
今にもブラからはみ出そうになる。
いくらか汗が浮き、しっとりと男の手に吸い付くような感触の乳房を、奥村はぐい
ぐいと揉み込んだ。

「やっ……やめて奥村さん……んっ……い、いけない……あっ……」
「本当にイヤなんですか? その割りには色っぽい声ですよ」

拒絶が本気でないのは奥村でなくともわかる。
口では抗っていながらも、両手はベッドに押しつけて固く握りしめているだけなのだ。
時折ぐっと力が籠もるのは、男の手が感じるところを揉んだからだ。
奥村の指が、ブラの上からでもはっきりとわかるほどに立っている乳首をこねると、
響子はたまりかねたように大きな声を出した。

「ひっ……そこはだめっ……あっ……」
「あまり大きな声を出すと、瞬に聞かれるよ」
「……!!」

響子は慌てて口をつぐみ、左右を見回した。
相変わらず他のカップルたちは自分たちの行為に熱中しており、響子たちに関心を
払う者はいない。

「そんなに瞬が気になりますか。少し妬けるな」
「あ、当たり前ですっ、主人なんですから……。奥村さんだって奥さんのことが、
静香さんが気になるでしょう!?」
「なると言えばなりますが、それはあなたとは違う感覚だと思いますよ。僕は、女房
の方もうまくやってるかなっていう気になり方ですから」
「そんな……」
「あなたもそうなさい。瞬だってそうですから。さ、僕らも……」
「あ、あっ……!」

奥村は、響子がもっとも感じやすい乳首周辺を集中的に責めた。
乳輪ごと指でくねくねと揉み込み、ますます勃起した乳首を手のひらで潰したり、
ブラの上から舌でつっついたりしてやる。
それだけでなく、乳房全体を大きく鷲掴みにしてわしわしとゆっくりと揉み上げたり
もした。
乳首に少しでも指や舌が触れると、乳首と響子の全身がピクンと反応し、鼻を鳴ら
して喘ぎを抑え込んだ。
もはや感じてしまっているのは隠しようもなかった。
もどかしそうに太腿をよじりあわせ、腰までくねらせているのだ。
胸ばかりでなく、大事なところも責めて欲しいと肉体が叫んでいる。

「そろそろいいね、響子さん」
「……」

響子は返事ができなかった。
奥村が何を要求しているか痛いほどわかるし、それを抗いきれない自分の肉体も
わかっていたからだ。

「あっ」

奥村が下着を脱がせた。
響子は軽く悲鳴を出しただけで逆らわなかった。
ブラをむしるように取ると、ぶるんと豊麗な乳房が顔を出した。
狭苦しい下着の中から解放され、そのサイズと美しさを誇るかのような、見事な乳房
だった。
奥村は薄いパンティの細い腰ひもの部分に指を掛けると、それを一気に引き抜いた。
その時、響子はやはり少し尻を持ち上げていた。
パンティが脱がされた時、その股間を守る布地が濡れて透けていたことを奥村は見逃
さなかった。

「……」

奥村は、腿の上を手で押さえて響子の脚をやや開かせた。
響子は羞恥を感じて目を閉じ、顔を伏せているが、男は圧倒されていた。
素晴らしい肢体だったからである。
腿の中程まであるダークブラウンのストッキングで覆われた部分が、白い身体と見事
なコントラストを作り上げている。
響子の肉体は外見以上で、服の上からも充分にグラマラスだったにも関わらず、
こうして素っ裸に剥き上げてみると、なお着痩せするタイプだったことを痛感させられる。

柔らかく盛り上がった乳房は、扁平になりそうでならない。
横になっても充分なふくらみを見せている。
股間には、本人同様に慎ましやかな陰毛がけぶっていた。
適度に濡れているせいか、毛羽立っていることもない。
男の視線を感じ取っているのか、響子は二の腕や腿、腹などに鳥肌を立てては引いていった。

「見、ないで……」
「僕がどこを見てるかわかりますか、響子さん」
「し、知りません!」
「オマンコですよ。響子さんの綺麗なオマンコ」
「く……」

あまりに淫らで露骨な発言に、響子はくっと歯を食いしばって目を閉じた。
心はともかく、もう秘所はいつでも受け入れ可能のようだった。
割れ目の上に鎮座しているクリトリスは、半分ほども包皮から顔を出している。
たまにピクリと動くのが生々しかった。やや肉厚の割れ目は、妙齢の人妻らしい色気が
濃厚に漂っているものの、入り口自体は、まるで性体験のほとんどない少女のように
控えめなのが特徴的だ。
思わず奥村は手を伸ばし、そのなめらかな腹部に手を這わせる。
ビクリと震えたものの、響子は受け入れていた。
だが、その指先が濡れた繁みにまで届くと、さすがに腰をよじった。

「やっ……!」

起き上がろうとする響子を左腕で押さえ、奥村は右手での愛撫を続行した。
濡れた毛をかき分けるようにして指を進め、わざと肉芽を避けるようにして秘裂に
這わせる。
合わさっている肉の割れ目を指で押し広げていくと、いささか充血してはいるもの
の、まだまだ美しいピンク色の肉襞が覗ける。
瞬との激しいセックスを経験し、集団レイプで荒々しく何度も犯されたのがウソの
ような慎ましやかな性器だった。
わななく襞をかき分けて膣口を表に出すと、そこはまだしっかりと口を閉じている
ようだった。
それでいて、とろみのある透明な蜜が滲み出ている。

「ゆ、許して……堪忍してください、奥村さん……ま、まだ間に合います……」
「許すも許さないも、このままじゃあ奥さんだって収まらないでしょうに」
「そ、そんなことありません!」
「強がる必要はないですよ。こんなに濡らしてて、まだまだ蜜が零れ出ているんだから」
「ああ……」

愛液が奥で分泌し、それが漏れ出ているのは響子にもわかっているのだ。
だいいち、響子は男をはね除けようとしていないのだ。
奥村はその響子の髪を掴み、やや乱暴にその顔を自分に剥かせた。
目の前に晒されたものを見せつけられ、響子は震えた。

「ひっ……!」
「どうです、僕のは。瞬のやつもでかいけど、僕のもそう悪くないはずですがね」

自慢そうに腰を振る奥村の股間には、隆々と屹立した男性器があった。
たくましそうにそそり立ったそれは、やや上へ反るように曲がっている。
太い血管を浮き立たせ、ビクビクと脈打っていた。
いかにも凶暴そうな凶器で、タム少年のものとは比較にならない。
あんな大きなもので犯されるという戦慄とともに、あれほどたくましいもので貫か
れたらどうなってしまうのだろうという期待感も裏にあった。

「あ、あ、いやあ!」

大きく拡げられた股間に割り入った奥村は、いきり立った逸物を響子の膣口に押し
当てた。
その熱さと硬さに悲鳴を上げ、ずり上がって逃げようとする響子を抑え込み、ペニス
を媚肉にぴったりと押し当てて固定すると、そのまま腰を送っていった。

「あっ、ああっ……だめっ……ひっ……んっ、んうっ……!」

響子は予想外に抵抗したが、これは無理もないだろう。夫がどこにいるかわからない。
見られているかも知れないのだ。
おまけに犯しているのは夫の友人であり、響子も好感を持っていた奥村である。
響子はいやがって腰をひねったものの、すでに亀頭が入ってしまった後となっては、
逆に挿入を手助けする動きにしかならない。
半ばまで挿入することに成功すると、夫の友人は響子の腰を両手で掴んでそのまま
奥まで貫いた。

「う、うむ……うむむっ……あ……」
「入った。全部入りましたよ、奥さん。どうですか、僕のは」
「やっ……ぬ、抜いて……き、きつい……あっ……」
「奥さんのはいい感じですよ。入り口だけでなく中もこんなに狭い。襞もペニスに
絡んできます」

今までにない挿入感に奥村は満足していた。
少女も年増の人妻も相手にしてきた彼としては、響子の膣は意外だった。
人妻らしい、ねっとりした感触かと思っていたが、そうでもない。
少女のようなきつさも併せ持っている。
まるで熟れた女の肉体に少女のきつい媚肉を与えたようなものだ。
狭いが、その分愛液がしとどに分泌されているから、決して動かしにくいことはない。

「このままじっと味わいたいところだけど、そうも行かない。動きますよ」
「やだっ! やめてっ……あ、ああっ……あなた、あなたあっ……!」

虚しく響く響子の悲鳴を打ち消すように、奥村が腰を使い出した。
よく張った腰骨を掴むと、引き寄せるようにして打ち込んでいく。
まだ動きはゆっくりだが、突き上げれば突き上げるほどに響子の媚肉は練れてくる。
ぐっと奥まで押し込んで、膣の奥まで味わい、確かめるように犯していった。

「ほう、締め付けがきつくなってきましたよ。奥さんも感じてくれてるんですね」
「ちっ、違いますっ。変なこと言わないでっ……あっ……あああっ……」
「はいはい、わかりました。では奥さんが積極的によがるようお手伝いしますよ」
「や、やめっ、あはあっ!」

犯される響子の肉体は、口とは正反対に反応していた。
奥村がゆっくりとした動きで大きく肉棒を抜き差しすると、それに媚肉が呼応して
いる。
ずぶりと根元まで突っ込むときは、締め付けがふっと緩んで奥まで導くように襞が
扇動する。
ずっと抜こうとすると、今度はきゅっと締めてくるのだ。
抜くときも差す時も同じなのは、肉襞が常にペニスへ絡みついていることだ。

美貌の人妻は明らかに快楽を得ている。
ただ、この部屋のどこかに夫がいること、そして犯している相手が夫の親友であると
いう二点が、彼女の精神をまだ理性をつなぎ止めていたのだ。
しかしこれも、他人に犯されているところを夫に見られるかも知れないという背徳感と
知人に凌辱されているという恥辱感が、彼女の倫理観を歪ませていく。

「いっ、あっ……あ、ああっ……くうっ……あ、そんな……あうっ……」
「気持ちいいならそう言ってくださいよ、奥さん」
「だ、誰が! ああっ!」

キッと響子は男を睨んだ。
その一瞬だけ肉欲が薄くなったのか、股間を圧迫される感覚に、犯されていること
を実感する。
涙と汗で濡れた美女の貌は、屈辱と羞恥に染まっている。
だが、その裏にそこはかとない被虐願望が宿っていることは確かだった。
奥村がクルマで空港へ迎えに行った時からは想像もつかないほどに、今の響子は妖艶
な美貌を晒していた。
抗いつつも感じてしまうそのギャップに戸惑う人妻の表情は、奥村の嗜虐趣味を煽って
いく。

「い、や……はああっ……うんっ、うんっ……ああっ……」

奥村の手が力を入れ、響子の胸を揉みしだいた。
乳房に食い込む指に力が籠もると、比例して響子の口から洩れる喘ぎ声も大きく
なっていく。
汗ばんだ乳房の肌が、揉み込む男の手に吸い付いていた。
むにむにと自在に揉み込まれる乳房は、その柔らかさを誇示するように、様々に
形を変えていく。
柔らかい肉の中、唯一硬い乳首は、乳房を愛撫されるごとにピクピクと蠢いた。
そして乳首自体を指や舌で愛撫されると、突き抜けるような快感が響子の脳髄
まで届く。

「あああ……いっ……ううんっ……あはっ……」

響子が徐々に喘ぎだしたのを見ると、奥村は突如ピストンを止めた。
響子が虚ろな目で彼をぼんやりと眺めている。
「なぜやめたの」という声が聞こえるかのようだ。
奥村はニヤリとすると、響子の右脚を大きく持ち上げた。

「あ、なにを……あひぃ!」

響子には何が起こったのかわからなかった。
急に景色が変わっただけでなく、膣に強烈な摩擦感が走ったのだ。
持ち上げられた右脚を、そのまま反対側に倒されたのである。
うつぶせにされたのだ。
そしてそのままぐいと腰を持ち上げられ、奥村の方に引き寄せられた。
その間、ずっと肉棒は響子の中に入ったままである。
太すぎるものが響子の胎内で軋みながら回転し、襞を巻き取るようにぐるりと一回転
したのだ。
うつぶせで顔をシーツに押しつけたまま、尻を抱え込まれている。
ビクビクと臀部が小刻みに痙攣しているのは、回された時に、その擦られる刺激で
軽く達してしまったのかも知れない。
それを見抜いた奥村がせせら笑うように言った。

「早いな、奥さん。もしかしてもういったんですか」
「ち、がい……ます……ああ……」
「でも、こんなにお尻がピクピクしてるじゃないですか。腿だって鳥肌立ってますよ」
「そ、それは……」

言葉で辱められると、肉棒が挿入されたままの媚肉がきゅうっと締まる。
万里邑の指摘通り、響子は言葉で辱めたり、恥ずかしい格好をさせたりすると、
その被虐願望が顔を出して、より感じてしまうようだ。
なるほどこれでは、和姦でも感じるだろうが、無理に犯しても快感を得てしまう
だろう。

「あ、もうやあっ!」

奥村は響子の腰を抱えると再び律動を開始した。
ぐいぐいと奥まで遠慮なく抉っている。
先端にこつこつと当たる壁のようなものがある。
子宮だろう。
そこを突かれると、響子は堪えきれずに嬌声を放った。

「やはっ! ああっ……あ、あうっ……う、ううんっ、深いっ……あ、深すぎますっ
……ひっ……」

身体はもう大悦びだ。
あと一押し、心を堕とすだけでいい。
そう判断した奥村は、ピストンをやめ、根元まで押し込んだまま腰を響子の尻に
擦りつけた。
そうして彼女の背中に覆い被さって滑らかな背中の肌触りを愉しみつつ、その可憐
な耳元で囁く。

「どうです、響子さん。いや、奥さん。僕と瞬のでは、どっちが大きいですか」
「そっ……そんなこと、知りませんっ……ああっ……」
「知らないことはないでしょう。瞬のはもう憶えているだろうし、僕のは今こうして
中にあるわけですから。ほら」
「う、動かさないでっ」

最奥まで突っ込んだまま腰を捩ると、先端が子宮口を擦り上げて、響子は悲鳴を上げた。

「ほら、言うんですよ。どっちが大きいですか」
「い、言えない……言えません!」

響子が喋るたびに膣が収縮する。
愛する夫と、今犯している男を比べさせられるという屈辱に、肉体が反応しているのだ。

「おやおや、急に締まりがまたよくなりましたよ。瞬のことでも思い出しましたか」
「言わないで! ああっ、あなたあっ……」
「そんなに瞬が恋しいですか。それじゃ仕方ないな、さあ、あっちを見て」
「え……?」

後ろから犯しながら、奥村は響子の顔を両手で軽く掴み、ぐいと右前方を見させた。
響子は、大きな瞳が零れんばかりに見開き、絶叫した。

「い、いやあああああっっ! あなた、あなたあああっ!」

そこには瞬がいた。
但しひとりではなかった。
奥村と同じように、他の女を後ろから犯していたのである。
しかもバックから貫かれているのは、奥村夫人の静香だった。

「いやいやいやあっっ! あなた、そんなことしないで! 私は……響子はここですっ!」
「落ち着け、奥さん!」
「あっ!」

奥村が後ろから軽く頬を張った。
大した強さではなかったが、ぴしゃんと音がして、響子にはそれなりにショックを与えた。
びっくりしたように奥村を振り返る響子に彼は言った。

「奥さん、落ち着いて」
「ああ……いや……もういや……」
「瞬のやつを……ご主人をよくご覧なさい」
「……」
「そしてうちの女房──静香も見てください」

言われるままに、涙に濡れた顔で熱く絡むふたりを見る。
瞬はちらちらと響子を意識してはいるものの、静香を犯す動きは止めない。
静香の方は、後ろから力強く瞬に貫かれ、その快美によがり喘いでいた。

「いいですか、奥さん。彼らは、別にあなたを貶めようとしているわけではない」
「で、でも……」
「妬けますか? 静香に夫を寝取られたと思いますか?」
「そ、そうは言いませんけど……いやです……」

奥村は響子の背中に覆い被さり、やわやわと乳房を揉みながら言った。

「それでいいんです」
「……は?」
「愛する夫が他の女を抱いている。妻が妬心を感じないわけがない」
「そ、それならなぜ……あっ……」

揉んでいる男の指が、こりっと乳首をこねると、思わず響子は声が出る。

「瞬や万里邑さんから何度も聞いたでしょう? そういう嫉妬心すらも、セックスの
スパイスになり得るんです」
「……」
「不潔だ、けがらわしい、やめて欲しい。そう思っているはずなのに、どうしたことか
身体の芯が燃えてきている」
「そ、そんなことは……」
「加えて、あなただってこうして僕に抱かれている。他の女を抱いている夫に見られ
ながら、です」
「……」
「響子さん、素直になることです。もうあなたは、こうした状況でも充分に感じら
れるようになってきているはずだ。瞬も万里邑さんも言っていたが、あなたの肉体は
素晴らしい。男の責めに応じて、鮮烈な反応をしてくれる。打てば響くとはこのことだ」
「……」
「さらに、万里邑さんから様々なシチュエーションを与えられ、精神でセックス
することも教えられた。あなたには素養がある。もう心理的にも充分に消化している
んです」

奥村はそう言いながら、ゆっくりと腰を動かし始めた。
響子は、堪えるように唇を噛んだが、すぐに半開きとなり、熱い喘ぎが漏れ出てきた。

「さあ、もう一度あのふたりを見てください」

響子がぼんやりと視線を向けると、静香は仰向けにされ、その上に瞬がのしかかって
いた。
響子の目からも、瞬のペニスが静香の媚肉を何度も抜き差ししている様子が見て
とれる。
瞬が目で何か語っているように思えた。
彼は響子を見つめながら、静香の身体を愛撫し、犯している。
静香も響子を見つめていた。

「あ……」

響子の心に何かが通じたような気がした。
肉体も、自分のものであって自分のものでないような感じがする。
響子の耳に、瞬の言葉が甦った。

──僕は、他人を通じて君を抱くんだ。

ふっとほぐれた気がした。
瞬が腰を使って静香を責めているのを見ていると、まるで自分が瞬に責められている
ような錯覚を受ける。
豊満な乳房を掴まれ、強く揉まれている静香の喘ぎぶりを見ていると、自分の乳房が
揉みしだかれているような気になった。
この境地なのか、と思った。
グループセックスの理想。
誰が誰に抱かれているのか、ということはさして重要ではなかった。
誰と寝ていても、他の誰かに抱かれているのと変わりないことが大事なのだ。
夫に抱かれながらも、まるで奥村に犯されているような感覚。
そして奥村に身体を許している最中なのに、まるで夫に愛されているかのような感覚。

何となく。
何となくだが、響子にもそれが理解できてきたような気がしていた。
表情が変化していく響子を見て、奥村は嬉しそうに言った。

「わかってくれたみたいですね。なに、そう急いですべてを理解することはないん
です。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、わかってください」
「はい……」

響子は、極めて素直に返事ができた。

「それでいいんです。さあ、わかったら僕らも愉しみましょう。瞬のやつや静香に
やきもち妬かせるくらいにね」

奥村は、響子のくびれた腰を掴むと、ぐいと自分に引き寄せ、強く腰を打ち込み
始めた。
男の腿と響子の臀部が衝突し、ぴしゃぴしゃと肉を打ち付ける音が響く。

「どうです、響子さん。いや奥さん。瞬と比べてどっちが気持ちいいですか?」
「そっ、そんなこと、言えませんっ! あうっ……」

行為を受け入れはしたものの、さすがにまだ「夫よりいい」などとは言えないの
だろう。
そんなところも男の嗜虐感を刺激する。
それでいて、夫のことを口にすると、途端に膣の締め付けがきつくなってくる。
瞬のことを言われると、肉体が勝手に反応してしまうらしい。
奥村は腰を反らせるようにして、何度も何度も響子の最奥まで突き上げる。
子宮口に近づけば近づくほどに、膣内が狭まってくるのがわかる。

「ふふ、瞬のことを言われるとオマンコが締まるんですね。いいですよ。ほら見て
みなさい、瞬もあなたを見ながら僕の妻を犯してます」
「ああっ! あ、いやっ……」
「見えるでしょう? ほら気持ち良さそうだ。あなたも気持ちいいんでしょう」
「あああ……」

ともすれば閉じようとする響子の心のうろに手を掛け、奥村が強引に押し開いていく。
心の透き間から、男の言葉が染み込み、閉じられない耳からも、夫に犯されている
他人の妻のよがり声が忍び込んでくる。

「ああ、やあ……あっ……あ、あうう……いい……」

懸命に静香を犯す瞬。
それを受け入れ、恥ずかしげもなくよがる静香。
自分をバックから貫き、子宮口まで犯しにくる奥村。
それらが渾然一体となり、響子の肢体からすべての抗いが失せた。
今、自分を貫いているたくましいペニスは、奥村のものであって瞬のものでもある。
夫が突き込んでいる膣は、静香のものであり、響子のものでもあった。
静香と瞬が荒々しく絡み合う様子が、自分と奥村のセックスと同期し、重ね合わ
さっていく。

「あああ……いっ……う、うんっ……あ、いい……あっ……」

人妻の喘ぎ声が熱くなってきた。
繰り返し突き込まれる肉棒の刺激に、腰の震えが止まらない。
喘ぐ美貌に、うっすらと靄がかかったかのように妖艶さを増していた。
さすがの奥村の声も上擦ってくる。

「くっ……よくなってきましたよ、奥さん……蜜が僕のペニスにかかってくるのが
わかる襞もいい感じに蠢いてますよ」
「ああっ……言わないで……ひっ……」

響子の腰が自分から動き出した。
奥村から与えられる悦楽に、肉体の方が火を付けられた。
響子の熟れた肉体は、その性感を解放していく。
フリーセックスの愉悦を感じつつも、相反する思いもまだある。
愛する夫に抱かれたいのに、その夫は別の女を抱いている。
自分は他の男に犯されている。
貞操の強い淑女は、その奥に抑圧された性欲を持っていた。
思い通りにならぬ性行為に乱れ、快感を覚える被虐嗜好が目覚めていく。

「やっ……はああっ……いっ、いいっ……ああ、いいっ……あなたあっ……」
「そうそう。もっともっと感じなさい。ほら」
「あっ、ああ! は、激しっ……あああっ……」

瞬のことばかり口にする響子に妬心を抱いた奥村は、彼女の尻を潰さんばかりに
腰を打ち付けていった。
容赦なく媚肉を抉り、子宮口まで貫いていく。
これでもか、これでもか、と響子の豊満な尻たぶを犯していると、響子もむちむち
した尻を奥村の方に押しつけていく。
強く突き込み、引き抜く動きを繰り返すと、今度は奥まで突っ込んだまま、ぐい
ぐいと腰を円運動させて胎内と膣口を擦り上げた。
膣を好き放題に犯され、拡げられ、抉られる動きに、響子は拳を握り、背中を仰け
反らせて喘ぎ続けた。

「ああ、いいっ……くううっ……」
「そんなによがってくれて僕も嬉しいですよ。どうです、僕のもなかなかのもの
でしょう」
「は、はいっ、いいですっ……お、奥村さんのが、いいっ……」
「何がですか。はっきり言って」

もう響子はためらわなかった。

「おっ、くむらさんのっ……ひっ……ぺっ、ペニ、スっ……あ、いいっ……」
「大きいですか」
「ああ、はいっ……」

響子はベッドに突っ伏し、シーツに顔を押さえつけたままくぐもった声で答えた。

「お、おおきい……ああ……お、夫のと同じくらい……ふ、太くて長いです……
ああっ……」
「同じくらい、か。ま、いいでしょう」

腰を振りながら奥村は苦笑した。

「それじゃ、いかせてあげますよ。奥さんもいきたいでしょう」

響子は無言で、しかしはっきりと何度も頷いた。
もう頭も媚肉も燃えるほどに高ぶり、熱くなっている。
早く埒を空けて貰わねば、おかしくなってしまいそうだ。

「では中に出しますよ。いいですね」
「あ、中は……だめ……。に、妊娠してしまったら……」
「さあ。そのときはそのときでしょうね」
「そんな……」
「何を今さら。今まで何人の男に出されてきたんですか。平気ですよ」
「ああ……」

そうだった。
タイ人たちに輪姦された時も、みんな響子の中に放ってきた。
ふらふらと立ち上がった時には、膣から滴るように男たちの精液が零れてきたのだ。
タムの時もそうだった。
あの濃い精液が、胎内にたっぷり出されたのだ。

「それに響子さんだって、中に出されなきゃ満足できないでしょう」
「そ、それは……ああ、でもだめです……あっ」

奥村は会話の間も、片時も腰を止めずに貫いていた。
両手で乳房も揉み込んでいる。
響子の性感を一時でも下げないためだ。
響子の膣は、奥村のものを締め付けている。
嫌がってそうしているのか、精液を搾り取ろうとしてそうなっているのか、響子自身
にもわからないだろう。

「ああ、お願いです、奥村さん、あっ……な、中はやめ、ああっ……あ、ああっ、
いっ……」
「ほら、いいんじゃないですか」

響子は、明らかに夫以外の精液を中に受ける恐怖を感じている。
だが、それでいてその子宮はそれを望んでいるのだ。
子宮は下がり、受胎の機会を待っている。
響子の口からも、喘ぎよがる声は止まらない。
夫以外の精を身籠もるなど、妻にとって最大の屈辱であり、虐待だろうが、悲しい
ことに響子の成熟した肉体は、それすらも快感として受け取り、反応してしまって
いた。

「ああ……ああ、もうっ……」
「いくんですか、奥さん」
「いっ、いきそうっ……」

響子は何度もガクガクと頷いた。
そのたびに黒髪が乱れ、女の香りが宙を飛ぶ。

「いっ、いくっ……いってしまいますっ……」

奥村が最後の攻勢に出る。
腰がヒップを叩く音に混じって、じゅぶじゅぶというペニスが膣に何度も突き刺さる
音までしてきた。
愛液はだらだらと溢れ、男女の腰をしとどに濡らしていく。

「い、いきますよ、響子さんっ」
「だめっ……そ、外にしてぇっ……あ、いくっ……いっ、いきますっ!!」

響子の膣がきゅううっと思い切り収縮する。
その甘美かつ強烈な締め付けに耐えきれず、奥村も呻いて射精した。

どぷぷっ。
どびゅうっ。
どびゅっ、どびゅるるっ。

奥村が思いきり奥まで肉棒を突き込み、先端に子宮口を感じ取ると、そこで込み
上げてくる射精感に我慢できず、一気に射精した。

「うああっ!! で、出てるっ……いくっ……あああ、こ、こんなにたくさん……
ま、また、いくっ!」

響子は、嫌がりながらも腰を奥村に押しつけ、なおも膣を締め上げて男の射精を
促した。
奥村は、痙攣している響子の腰をしっかりと掴み、根元までペニスを押し込んだ
まま、何度も射精した。
響子の脚の指が内側に屈まり、ぐぐっと再び締め付けてくると、そこでまた小さく
射精する。

「あ……あ……」

奥村は、ガクリと萎えて、顔を突っ伏したまま荒く息を吐く響子をまだ離さず、
その腰を持ち上げて自らの腰に押しつけている。
痺れるような射精の快感を、頭の天辺から爪先まで感じ取りながら、奥村は最後
の一滴を出し終えるまで響子に腰を密着させ続けた。

───────────────

数日後。
テニスラケットを抱えてコートへ向かう響子たちの姿があった。
瞬と響子、奥村と静香である。
屈託なく笑う響子の美貌には、曇ったところがない。
新たな世界を垣間見て、一皮剥けた女性のそれであった。
もう今では、夫はもちろん、奥村にも静香にも、何のわだかまりもなかった。
いつでもどこでも誰にでもさせるような女になったわけではない。
ただ、自分の欲望を素直に認め、無理にそれに逆らわないようになったのだ。
理性も倫理観も以前と同様にある。
我慢するべきところでは堪える。
しかし、必要以上にそうすることもなくなった。
肉体の方は、日々ますます成長を続け、瞬たちを驚かせ、悦ばせている。
響子が彼らの中心として、女神として君臨するのも近いかも知れない。



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