武蔵野駅に近いところに、古くて小さな雑居ビルがあった。
掲げている看板は土建屋であることを主張していたが、その仕事はほとんどしていないようだ。
時折、チンピラ風の若い男が出入りするところを見ると、暴力団事務所であることは明白だ。
その二階の事務所に百瀬はいた。
古ぼけた革張りのソファに身体を伸ばしながらニヤニヤしている。
あの夜の出来事を思い返しているのだ。
部屋にいた若い衆が、そんな兄貴分を見て声をかけた。

「百瀬さん、なんかいいことでもあってんで?」
「ああ、まあな」
「兄貴の「いいこと」ってんなら、もちろんスケのことでしょうね」
「わかるか、五十嵐?」
「そりゃもう。いぶきさんのご紹介で?」

五十嵐と呼ばれたチンピラは、いぶきを「さん」付けで呼んだ。
百瀬の女だと思っているからである。

いぶきに引き会わされた、あの響子という人妻は絶品だった。
明るく朗らかで、それでいてなんともいえない色気がある。
その美貌に加え、肉付きの良い身体がたまらなかった。
百瀬には、響子を犯した時の生々しい感覚がまだ残っている。

「人妻だ」
「若妻で?」
「若いってほどでもないな。今年で28……、いや29歳か」
「なんだ、そうですかい」

五十嵐は明らかに関心を失ったような声を出した。
こいつは年増より若い女の方が好みなのだ。
響子といぶきなら、むしろいぶきの方に魅かれるだろう。
五十嵐本人がまだ23歳なのだから、29歳の響子では「おばさん」と思っても無理はない。
百瀬もそう思ったのだろう、寝転んだまま付け加えるように言った。

「今はな、女子高生や女子大生がブームになってるが、なに、そのうち人妻だの熟女が流行る
ようになるさ」
「そうですかね」
「間違いねえ。若いだけが取り柄の、貞操観念もねえ、あっけらかんとしてるようなバカ女
なんぞすぐに廃れるさ」
「女子高生はいいですぜ。いや、最近じゃあ中学生だって……」
「おとなの女の色気はな、牝ガキのしょんべん臭え色気なんか足元にも及ばねえさ」

思わず百瀬は、響子の肢体を思いやる。
全身から匂い立つフェロモンは年齢や経験が醸し出すものだ。
若い女にもそれなりの良さはあるが、こればかりは若さではどうにもならない。

「人妻ってのはいいもんだぜ。こなれてるしな」
「そりゃあ兄貴は年増……、おっと熟女好みですもん」
「そうだがな、あの女だけはおめえだって気に入るぜ」
「いやあ、俺は……」
「まあ聞けや。その女……、響子ってんだがな、こいつは18歳の時、つまり高校を卒業した
その年に結婚してる」

相手は、響子の母校で臨時講師をしていた惣一郎である。

「18で? ちきしょう、そん時に知り合ってたかったな。だけど兄貴、18で結婚して今
29歳なら、もう11年も……」
「いや、それがそうじゃねえんだ。最初の亭主とは半年くらいで死に別れてるんだ」

亡夫・惣一郎が病死したのは、結婚してまだ一年も経っていない頃だった。

「最初の亭主ってことは再婚したんで?」
「ああ、それが今の亭主だ。だけどな、再婚してからまだやっと一年だそうだ」
「へえ」

五十嵐は目を丸くした。

「しかも、今の亭主と結婚するまではまったく男出入りがなかったらしい。再婚相手の他にも
声をかけてくる男はいたらしいがな、袖にし続けてたそうだ」
「身持ちが堅いんで?」
「だろうな。あるいは、まだそん時は死んだ前の亭主に操を立ててたのかも知れねえ。そんな
わけで、今の亭主とも結婚するまで抱かれちゃいなかったらしい。つまり」

そこで百瀬は言葉を切り、思わせぶりな表情で言った。

「つまり、男に抱かれていたのは最初の亭主の時の半年と、今の亭主と結婚してからの一年
くらいしかねえってことだ」

要するに「すれて」いないということである。
もう熟女と言っていい年齢だが、セックスの方面ではまるで初心だったのだ。
響子自身、それほどセックスに関心を示すタイプではなかったし、他の友人たちのように自慰
しなければならないほどに肉体が火照るということもなかった。
それが特別なこととも思わず、当たり前と思っていたフシもある。

それにしても、と百瀬は思う。
彼からしてみれば、響子の周りの男どもはいったい何をしていたのか不思議でならない。
あれだけの女がフリーでいるのに、放置しておくというのが信じられなかった。
それも未亡人である。
言ってみれば据え膳ではないか。
ましてやあの肉体である。

透き通るような綺麗な皮膚は、男の手にしっとりと馴染む見事な餅肌だ。
むっちりとした腿や尻、豊満な乳房。
それでいて余計な肉はどこにもついていない豊潤そのものの身体。
処女のような純情さを見せる一方で、年齢相応な性反応を見せる敏感さも併せ持っている。

無理やりにでも押し倒して、自分のものにしてやろうという男はいなかったのだろうか。
女をものにするには、そうして事実を先行させておいてからでも遅くはないのだ。
百瀬が、女性心理というものをまったく無視した思考を巡らせていると、五十嵐が言った。

「でも兄貴、その女、子持ちだって言ってませんでしたか?」
「そうだが」
「なら、もうガバガバなんじゃねえですかい? 味の方が良くねえんじゃ……」
「馬鹿野郎」

百瀬は苦笑して舎弟を嗜めた。

「女のアソコってのはそんな柔なもんじゃねえ。古びたゴムひもじゃあるまいし、子供を産ん
だくらいで緩むもんか」
「そうですかね」
「当たり前だ。確かにおめえが今言ったような俗説が世の中にゃあるがな、そんなもんは迷信
だ」

これは百瀬の言い分が正しい。
確かに赤ん坊の頭が子宮から膣を通り、膣口を拡げて出てくるわけだが、子宮口も膣口もビニ
ール紐ではないのだ。
筋肉なのである。
収縮自在なのだ。
大きなものが一度でも通ったら、もうゆるゆるになってしまうようであれば役に立たない。
そんなわけはないのである。

輪ゴムのようなものだ。
輪ゴムを太いものに巻けば確かにゴムは拡がるが、通り抜ければまた元通りだし、何度でも使
える。
それと同じだ。
新品の輪ゴムと比べれば多少緩くはなっていようが、ほとんど差はない。
輪ゴム自体が古くなっていれば収縮度は落ちるだろうが、そう何度も使わなければ大差はない
のだ。
膣だって同じだし、むしろ輪ゴムよりはよほど丈夫である。

そもそも赤ん坊にしたって、何も子宮口や膣口にはまったままじっとしているわけではない。
そうなら死んでしまうだろう。
狭いところはなるべく短時間で脱しようとするだろうし、またそうなるはずなのだ。
子供を10人も20人も産んでいれば、また話は別だろうが、3人や4人で緩くなるような
代物ではないのだ。

緩くなっているとすれば、それは加齢的なものが原因であろう。
響子の場合、熟れているとはいえまだ29歳であり、出産も一度なのだから、膣の締まりは
若い頃と変わらないはずだ。
むしろ再婚してセックスの味を思い出し、具合が良くなっているくらいだろう。
百瀬の話を聞いているうちに、だんだんと興味が出てきたのか、五十嵐も身を乗り出してきた。

「そんなに具合がいいんで?」
「そうだな。ここ数年の中じゃいちばんの大当たりだ」
「へえ……」

五十嵐は感心して腕組みした。

「兄貴がそこまで言うんじゃあ相当なもんなんでしょうね。なら、俺も一度……」
「慌てんな。まだそこまでいっちゃいねえ」
「やけに慎重なんですね。またこないだみたいに輪姦(まわし)にかければ……」
「だめだ。この前の女は、どうでもいいと思ったからそうしたんだ。今回の響子だけは別だ。
一気に追い込んで自殺でもされたら元も子もねえ」

あれだけの上玉、この先見つかるかどうかわからない。
大事に行くべきだ。
幸い、あの人妻は貞操観念が強いし、亭主の方は鈍感だ。
段階を踏んで追い込むのがいいだろう。
逃げる道を徐々に減らし、この町で暮らせなくさせ、亭主の元にいられないように追い詰めて
いく。
もう百瀬のところへいくしかないと思わせていくのだ。
五十嵐が不満そうな表情を浮かべたので、百瀬は肩を叩いて言った。

「そんなツラするな。おまえにもそのうち手伝わせてやるし、犯らせてやるさ」
「本当ですね?」
「ああ。だが、まだ少し時間がかかる。声を掛けるまでおとなしく待ってろ」

百瀬はそう言い捨てると、タバコを灰皿で押し消して立ち上がった。

────────

五代響子は、まだ先日の凌辱劇を引き摺っていた。
あんな形で犯されたことなど無論初めてだったし、それ以上に、あのヤクザ者の執念深さには
身震いがした。
あれから響子は、都合4度もの射精を受けたのだ。
男性が一夜でそこまで出来るとは思ってもみなかった。
惣一郎は一回しかしなかったし、裕作にしても、多くて2回である。
それも、滅多にあることではなかった。

ある意味それは当然で、裕作の場合、響子と同衾する時間を持てているということだけで、すで
に満足している面が強かったからだ。
いかに彼が響子に惚れていたかがわかる。
結婚前、響子に憧れていた時代、彼女を何度も想像で抱いたことはあった。
その頃ならば、裕作とて一晩で3回くらい出来たかも知れない。
だが今は違う。
響子と精神的にも愛し合っており、肉体的あるいは性的な欲求はそれによって満たされてしま
っているのである。

ところが百瀬にはそれがない。
愛などという虚ろなものを、このヤクザは頭から信じていない。
あるのは物理的な欲望のみ。
つまり響子の肉体だけなのだ。

貪るように自分の身体を凌辱した男に対し、響子は憎しみよりも恐怖を感じている。
あれではまだ自分を諦めて、あるいは飽きていないのではないか。
これからも、何度もあの男に暴行を受けるのではないか、という恐れが頭をよぎる。

いっそ夫に打ち明けようか、とも考えた。
裕作の性格からして、このケースで響子を難詰して責めたりすることはないだろう。
事故のようなものであるし、忘れるように言ってくれるに違いない。
だが、それだけに打ち明けにくかった。

妻を犯された夫の気持ちとは、どういうものなのだろうか。
少なくとも、夫の浮気を知った妻の感情とはまったく異なるものだろう。
後者は憤怒するだろうが、前者の場合、時に裕作の場合は、それは悲しむのではないだろうか。
夫の、自分に対する気持ちや思いが響子にもよくわかるだけに、それが辛かった。

これっきり百瀬が来ることがなければ、それでいい。
自分さえ黙っていれば、忘れてしまえば、それですべて丸く収まるのだ。
でも、と、響子は考える。
こうなってみると、これは最初から仕組まれていたことなのではないか。
いぶきの誘いも、実は響子が狙いのことだったということはないだろうか。

しかし、それもしっくり来ない。
いぶきであれば、裕作を目標にするはずだ。
彼を誘惑するなり、罠に嵌めるなりして、いぶきに関心を向けさせるというのならわかる。
だが、いぶきにとって響子などは裕作の付随物に過ぎず、言ってみればどうでもいい存在の
はずだ。
こんな手の込んだマネをする必要がない。
それが響子にはわからなかった。

ぼうっとそんなことを考えていると、ドアが鳴った。

「はい」

返事をして立ち上がる。
でも、今時分、誰だろう。
時計を見ると、午後の2時である。
四谷氏は出勤し、一の瀬のおばさんは賢太郎のPTAとかで学校へ出かけている。
朱美は出勤前のはずだが、まだ寝ている時間帯だ。

「奥さん」
「ひっ……」

ドアを開けると、外には具象化した悪夢が薄笑いを浮かべて立っていた。

「あ、あなた……百瀬……さん……」

つるつるに剃り上げた頭。
鋭い目つき。
右眉にある傷跡。
忘れようもないこの顔。

「3日ぶりかな」
「ひどい……こんなところまで来るなんて……」
「そうつれないこと言うなよ。お互いの汗の匂いまで知り合った仲じゃねえか」
「やめて!」

響子は激しく首を振り、無音でそう言った。
そして、恨みがましい目で男に告げる。
やはり声帯は使わず、無声で喋った。

「帰って……帰ってくださいっ……い、今さら何の用ですかっ」
「何の用だ? 言うまでもねえさ、あんたの身体が懐かしくてな」
「そんな……」

やはりそうなのだ。
この男は最初から自分の身体が目的だったのだろう。
最終的にどうするつもりなのかわからないが、まだまだ響子を嬲ってやると言っているのだ。
男はニヤつきながら言った。

「あん時ゃ良かったぜ。最初はあんなに嫌がってた奥さんが段々と抵抗しなくなって、しまい
にゃ腰振って……」
「やめて! よそに聞こえますっ!」

響子は百瀬にすがるようにして言った。
ここにいるのは二階6号室の朱美だけで、しかもまだ寝ているだろうから心配はないと思うが、
安心は出来ない。
響子は心ならずも百瀬の手首を掴み、そのまま部屋に引き入れた。
スキンヘッドのヤクザは、大仰に驚いたような表情を作った。
そしてからかうような口調で響子に言った。

「こいつはたまげた。まさか奥さんの方から誘ってくれるとはな」
「ち、違いますっ!」

美貌の人妻は噛み付くように叫んだ。

「そ、外であんなことを大声で言わないで!」
「中でならいいのかい?」
「いやっ。と、とにかくあの時のことは何も言わないで!」
「あれは悪夢。だからさっさと忘れたい。だから何も言うなってか」
「……そうです。だから、あなたももう……」
「俺にとってはいい思い出だがなあ」

百瀬はそう嘯くと、卓袱台の前に腰を下ろした。
つられるように正面に座った響子を見て、つるつるの頭を撫でる。

「だが、奥さんがそこまで言うなら、いいだろう。忘れてやるぜ」
「え……。あっ……」

響子が驚く間もなく、百瀬はさっと近寄り、彼女に抱きついた。
両手首をひねり上げ、顔を思い切り近づける。

「な、なにを……」
「あの時の思い出は忘れてやるから、今、またここで新しい思い出を作ろうぜ」
「な……」

響子は大きく目を見開いた。
それはつまり、ここでまた凌辱するということなのか。

「いっ、いやっ!!」

人妻は必死に抗った。
両手を握られ自由にならない身体を懸命によじり、動く脚を使って男の胴体を攻撃する。
近寄ってくる汚らしい唇から顔を背け、頭突きを食らわせるかのように頭を振った。
百瀬は苦笑して言った。

「これはこれは。奥さんもやるもんですな。窮鼠、猫を咬むというわけだ」
「……」
「だがね、そんな抵抗は無駄なんだよ」

脅えたようにこっちを見る響子に、百瀬は引導を渡した。

「そんなに厭なら大声出して助けを求めたらどうかね」
「……」
「俺は一向に構わねえぜ。それでサツに捕まって実刑食らっても、そんなことは慣れっこだし
な」
「……」
「ただし」

妙にドスを利かせてヤクザが続ける。

「そんなことしやがったら、俺は絶対におまえを許さねえ。ムショから出てきたら、地獄の底
まで追い回して落とし前つけてくれるからな」

ヤクザ常套の脅し文句だが、そんなことに無縁な主婦には充分な効果があった。
響子の唇から血の気が失せ、細かく震えている。
自分だけでなく、夫や春香にも害が及ぶかも知れないのだ。
何も言えなくなった響子に対し、今度は猫撫で声で言ってくる。

「それにな、大声出して助けを呼んでも、あんたの立場もまずいだろう、ええ?」
「……」

それはそうなのだ。
警察沙汰になれば、いや、そうならなかったとしても、響子は百瀬との関係を話さざるを得なく
なる。
それだけは避けたいと思っていたからこそ耐えてきたのに、それが無駄になってしまう。
百瀬はそっぽを向いて続けた。

「何なら本当に誰か呼んでもいいぜ。そん時ゃ、公開レイプショーと行こう」
「やめて!!」

この男なら本当にやりかねないと思った。
響子は絶望した。
どうあっても逃げられそうにない。
こうなれば、早く百瀬を満足させてさっさと帰らせるしか手がない。
またしても、あの恥辱と羞恥、屈辱と汚辱にまみれた時間を過ごさねばならないのかと思うと
気が遠くなる。
だが他に策がない。
あとはもう、死んだようになって耐えるしかないのだ。

この身を再び汚されることは覚悟した響子だったが、ひとつだけ決心したことがあった。
それは、決して男の望むようなことにはならない、ということだ。

舞踏会で犯された時は、動揺が激しく、また異常なシチュエーションだったせいもあったのか、
心ならずも肉体が反応してしまった。
憎い暴漢者の前で、恥ずかしい痴態を見せてしまったのだ。
ただ犯されただけならともかく、身体が応じてしまったことは、この人妻に大きなショックを
与えていた。
これほど夫を裏切ったと思わされることはなかったからである。

だからこそ、今回だけはそんな恥ずかしいことにはなりたくない。
夫を裏切れない。
何があっても感じないよう堪え続けるのだ。
石のようになっていれば、百瀬と言えども諦めるのではないだろうか。
そんな儚い思いを心に秘め、美しい人妻は身体の力を抜いた。

そんなに甘くなかったことはすぐに思い知らされた。
百瀬は持参したバッグから黒いロープを取り出したのだ。
縛られる、と思った響子は後じさった。
脅えて逃げる人妻はあっさり捕まった。
暴れられないのだから仕方がない。
ヤクザはあっというまに響子を裸に剥き上げると、手にしたロープで緊縛していった。
絞める力に容赦はなかった。
響子は裸身を縛り上げられる屈辱と、息が苦しくなるほどの強い締めつけに呻く。

「く、苦しいわ……どうして、こんなにきつく縛るの……縛らなくたって……」
「おとなしく言うことを聞くってか?」

その通りだ。
もう響子の弱みを握っているのだから、何をやっても抵抗はないはずだ。
縛り上げた女体を満足そうに見ながら百瀬が言う。

「別に奥さんの自由を奪おうと思って縛ってんじゃねえさ。これは俺の趣味だ。女を縛って
犯したいんだよ」
「そんな……」

それでもまだずりずりと逃げる響子の髪を掴み、百瀬は押し倒した。
畳の上に横たわった美女の肢体を見ていると、どんどん欲情がこみ上げてくる。
響子のような真っ白い肌には、黒や赤のロープがよく似合う。
乳房がはみ出るように上下で縛り上げていると、熟れた肉がこぼれ落ちるかのようだ。

思い切りきつく縛ってやったが、それでも百瀬なりにその身体や肌には気を使っている。
縛っているロープは、こうしたプレイ専用のものだ。
そこらの荒縄などと違い、表面が毛羽立つようなことはない。
響子の柔肌は傷をつけたくないのだ。
縄跡ならいいが、擦り傷などはつけないように縛る。
それが彼の技術であり、プライドでもあった。

ようやく観念したのか、仰向けの響子が下半身の力を抜くと、百瀬はその両脚を肩の上まで
抱え上げた。
白くたくましい太腿や、豊麗そのものの臀部が男の顔の前に晒される。
まじまじとその媚肉を眺めると、全体的に上品な造りだが、割れ目の花弁はそれなりの肉厚
を持っていた。
さすがに人妻ということだろう。
五十嵐などは、色も肉も薄目のそれが好きなのだろうが、百瀬は響子のようなこなれた肉が
好みだ。
そこに唇を寄せていった。

「あっ、やあっ……!」
「大声出すなよ。人がいるかも知れないんだろ?」
「……」

百瀬が注意を促すと、響子はたちまち口を閉じた。
もうだめだ。
悲鳴を上げることも許されず、このけだもののものになるしかないのだ。
響子が悔しそうに顔を伏せたのを見てから、百瀬はまた舐め始めた。
媚肉に口をつけると、舌先を硬く尖らせ、割れ目の間に這わせていく。
上下に滑らせ、左右にこじ開けるように舌をうねらせた。

「んっ! ……くっ……ひっ……んくっ……」

3分も責めないうちに、百瀬の舌は響子の味を感じていた。
早くも蜜が分泌されてきたのだ。

(か、感じてはだめっ……ああ、こんな……)

だめと思っても、勝手に身体が反応する。
膣をまさぐられ、愛撫される性的快感と、慎み深さや屈辱感とは別物なのだ。
性も本能だ。
いくら頑張っても徹夜をすれば眠くなるし、絶食していれば腹が減る。
それと同じである。
そうでなくとも、響子はクンニの弱かった。
裕作のそれは、さほど丁寧ではなかったが、それでも口だけで充分に感じることが出来た。

「い……やあ……あっ……やめ、あっ……あうう……」

百瀬に媚肉だけを舌で責められ続けて15分も経つだろうか。
響子の声が明らかに変化してきていた。
籠もったような熱気と、とろけるような甘さが入り交じる。

相変わらずの執拗な責めに、響子は悩乱していた。
どんなに抗っても、響子が反応してくるまでしつこく愛撫を続け、責め上げていく。
蛇のような執念深さに、人妻の性が突き崩されていく。
男の舌がクリトリスに触れ、包皮を剥くように擦られると、響子は大きく身を捩って喘いだ。

「んふっ! ……そ、それはやめ、ああっ……」
「なに、やめて欲しいのか? ウソをつくなよ、こんなに濡れてやがって」
「で、でも、あっ……そ、そんなにされたら、ああっ……こ、声が……」
「ふふ、気持ちよくってよがり声が出ちまうからやめてくれってか?」
「……」

口あぐむ響子に、百瀬はさらなる責めを加える。
とうとう舌先が皮をめくり上げ、肉芽が剥き出しにされてしまった。
そこを唇を使って思い切り吸い上げる。

「うああっ! ……くうあっ……。だ、だめ、お願いっ……あっ……」

強烈すぎる快感に思わず叫んでしまった響子は、思わず唇を噛みしめた。
そして、「だめ、お願い」から先は無声で言った。
それでも続く百瀬の舌技に喘がされ、腿は痙攣し、なめらかな白い腹部は波打っている。
声を出すまいと堪える響子の健気さを面白がって、ヤクザはその口からもっと喘ぎ声を出さ
せようと責め続けた。

「うんっ……あっ、はああっ……いっ……」

執拗なクリトリスへの責めで、響子の膣はもうびしょ濡れだった。
割れ目は鮮やかなほどに口を開け、中の尿道口と膣口をさらけ出している。
そこからは2種類の汁が零れていた。
膣からの白っぽい粘液は、もちろん愛液だろう。
粘ってきているのは、それだけ響子が感じてしまっている証だ。
もうひとつは、その上の小さな穴から出ている、さらさらで透明なそれは、尿道口から出て
いることから見ても尿なのだろう。
そういえば幾分、尿の匂いもする。
あまりの快感に、この美貌の人妻は少々失禁してしまっていたらしい。

「うひぃ!!」

響子はぐうっと腰を反らせて喘いだ。
百瀬が尖らせた舌先で、その膣を犯したのだ。
ぐうっと舌の付け根まで差し込まれ、響子は思わず両手を握りしめた。
淫らに咲き誇っている媚肉を見られ、そこを舌で犯される。
響子はその羞恥に身の置き場がない。
百瀬が媚肉に口をつけ、その蜜を啜り出すと、彼女の羞恥は極限に達した。

「やめっ……そ、そんなこと、ああっ、しちゃだめえっ……ひあっ……ああああ……」

人妻が顔を恥辱で染めると、百瀬はわざと淫らな音を立てて啜っていった。
音で響子の耳を犯すのである。
じゅるじゅると卑猥な音が耳に届くと、響子は自分の体液を百瀬に飲まれていることをイヤ
でも実感させられ、たまらなくなってくる。

「いやあ……ああうう……」

自分では抗っているつもりだった響子だが、実際には違っていた。
その腰は、まるで百瀬の口を求めているかのように押しつけられていたし、太腿はいつのま
にか彼の頭を挟み込んでいたのである。
もちろん響子が意識した動きではないが、もう肉体は抑えが利かなくなっていたのだ。
いよいよ、という段になって、突然、百瀬は口を離した。

「えっ……」

響子は驚いたように百瀬を見た。
絶対にこのまま一度はいかされると思っていたのだ。
なのにこのヤクザは中断してしまった。
どういうつもりだろう。
そんな響子の顔を見て、百瀬が嘲笑った。

「なんだ、そのツラは。もっと続けて欲しかったのか?」
「……」
「正直にそう言えば、最後までいかせてやろうじゃねえか」
「そんなこと……ありません……」

百瀬の顔が見たくないのか、それとも淫らな期待を寄せていた自分の顔を見られるのがイヤ
なのか、響子は目をつむり、顔を背けた。
その羞恥心に満ちた表情が、百瀬の下半身を充血させていく。

男は響子の両脚を自分の肩に乗せ上げたまま、さらに前へ押し倒した。
響子の長い脚が、その頭の上の畳にまで届く。
腰が畳から浮き上がるほどに上半身を曲げたが、柔軟な彼女の肢体はさほど苦しそうでもなか
った。
ただただ恥ずかしかった。
絶頂に到達するシーンは辛うじて迎えずに済んだが、このまま終わるとも思えなかった。
何をされるのかと脅えていると、とんでもないところに触ってきた。

「きゃっ……!」

それまでの性感が吹き飛ぶほどのショックだった。
百瀬の指は肛門に伸びていたのである。
響子は、慌てるというより唖然とした表情で凌辱者を見つめた。
そして言った。

「ど、どこに……」
「どこって、触られたんだからわかるだろうよ。尻の穴だよ」
「お尻の穴……って……」

信じられなかった。
この男は排泄器官をいじっているのだ。
目をぱちくりしている美女に、百瀬はうそぶいた。

「なんだそんなことも知らないのか、人妻のくせに。そういうセックスもあるんだよ、覚え
ときな」
「……」

知るわけがなかった。
ホモでもあるまいに、男女間でそんなことをするなんて。
唇をわなわなさせている人妻の顔を覗き込み、ヤクザは宣告するように言った。

「あんたにも覚えてもらうからな。尻で俺を受け入れるんだ。アナルセックスってやつだな」
「い……いやっ……」

響子は心底恐怖を感じた。
それまでの執拗な責めや絶倫ぶりも怖かったが、それはあくまでノーマルなセックスでのこと
だった。
それが今度は肛門まで犯すという。
放って置いたらこの男は、響子の身体の隅々までとことん犯すつもりなのだろう。
夫どころか、自分でも見たこともないような場所を嬲られ、犯される屈辱と背徳。
本当にこのまま気が狂ってしまいそうになる。

「ああっ、やあっ……!」

その間にも百瀬の淫らな指が響子のシークレットゾーンを責めていく。
大きく割られた尻の谷間の指が這い、その中心まで来ると、そこにあるおちょぼ口に指の腹を
あてがった。
そしてぐいぐいと押し込むように嬲り、擦り、こねくっていく。

「ああっ……く……」

恥ずかしさとむずがゆいような違和感で、響子の美貌が歪んでいく。
つい出てしまう呻きと悲鳴を噛み殺すだけでもひと苦労なのに、異様な感触で蠢く臀部を押さ
えるのは辛かった。

貞淑な人妻が、もぞもぞと豊かな尻をよじりたてる様を見て、百瀬の頬に淫らな笑みが浮かぶ。
今は恥ずかしくがったり、意外な責めで動転しているだけだが、そのうちに感じさせることに
自信は持っていた。
この歳まで性的に未熟だった響子は、百瀬に嬲られるようになって以来、急速に成長していった。
百瀬の加える責めに、最初は戸惑いながらも、徐々に受け入れ、最後には大きな快楽を得るよう
になっている。
アヌス責めにも難なく馴染んでいくに違いない。

「いや……それだけはいやです……ああ、やめて……あっ……」

抗う言葉は出てくるが、響子の顔はもう忘我に近かった。
しつこいほどに肛門周辺を嬲り続け、丹念に膣からの愛液をそこに塗り込んでいた。
百瀬の愛撫に対して痛みはなかった。
それだけに、純粋に指が与えるこそばゆさやむず痒さだけをストレートに感じていた。

「あ……あ……あああ……」

おかしな気分になってくる。
恥ずかしい気持ちは強いが、そこをいびられることが苦痛ではなくなってきているのだ。
ぬるっと指先がアヌスの中に入り込んでも気づかなかったくらいだ。
すっかり揉みほぐされ、蜜で潤っていた肛門は、百瀬の指をあっさりと飲み込んでいた。
根元まで押し込まれ、ぐいっと抉られて初めて響子は慌てた。

「なっ、なにを……」
「何を、じゃないだろ。指を入れてやったんだよ、奥さんの尻の穴にな」
「そんな……あ、ぬ、抜いてっ……あ、ああっ……」

焦った響子は、激しく尻を揺すって抵抗した。
だが、もうすっかりアヌスの中に埋没している指は、そう簡単には抜けない。
かえって、蠢いた尻のせいで中に入った指が直腸の内壁に接触してしまう。
その異様な感触に、響子は呻いた。

「ああっ……うう……」

肛門やその中から感じ取れる異様な感覚に耐えきれず、響子は必死に身体を揺すって逃げよう
とする。
しかし、上半身は縛られ腕は背中に回され、仰向けにされて両脚は肩に担がれてしまっている。
動きようがなかった。
せいぜい、もぞもぞと尻を揺らす程度だが、それをやるとかえってアヌスに潜り込んだ指の
感触をイヤというほど思い知らされてしまう。

百瀬は響子のアヌスの感触に酔っていた。
肛門の引き締めが素晴らしい上に、その内部は灼けるように熱い。
ちょっと内壁に指が触れただけでも、この美女は悩ましい呻きを上げている。
肛門に突き入れているのを人差し指から中指に替えたのも、より奥まで犯したかったからだ。

その長い指を根元まで埋め込まれ、響子は全身に汗を浮き立たせていた。
百瀬の太い指が直腸の中で蠢いている。
指先がちょんと内壁に触れるだけで、飛び上がるような刺激が脳髄を襲った。
痛いのかと思っていたがそうでもない。
異様とも奇妙ともいえる、おかしな感触だった。
その刺激は強烈で、直接神経を掴まれて揺さぶられているかのようだ。

「ううっ……ああ……」

痛みともこそばゆさとも性感とも判別のつかない感覚だった。
ただ、徐々にその感触が響子の心まで淫らに染め上げ、得も言われぬ肉悦をもたらしていた。
そう、響子は感じてきていたのだ。

「ああ、あ……いっ……んっ……ふあっ……」

百瀬の指が、ぬっ、ぬっとアヌスを出入りする。
突っ込んだまま、そこを拡げるようにグリグリとこねくりまわすと、響子は首を仰け反らせて
喘いだ。
そのまま性の泥沼に引きずり込まれそうになる。
何かしっかりとしたものにすがりつきたくなってきた。
もどかしいような、頼りないような、それでいて明らかな性感となって感じられている。
そのもどかしさは、指でなく、もっと太いもので抉られることによって解消されることを、
まだ響子は知らなかった。

「あう……」

ぬぷうっと、湿った音を立てて指が抜かれた。
響子は、霞がかかったような目で百瀬を見ていた。

「ふふ、奥さん、尻も感じるようだな」
「違い……ます……」
「誤魔化すな。まあ、いい。そのうち、奥さんが満足するまでケツを犯してやるからな」
「……いや、そんな……」
「もどかしそうだな」

ヤクザは服を脱ぎながらそう言った。
響子は百瀬の様子を見て、顔を伏せた。
これから何が起こるのか、何をされるのか、容易に想像がつく。
ズボンの上からでもはっきりわかるほどに、彼のペニスは勃起していた。
このまま済むわけがないのだ。

それに、響子自身も、ここで終わられたらたまらない。
燃え上がるだけ燃え上がらせておいて、そのままでは不完全燃焼だ。
もっとも、まだ響子はそれを口にするほどに堕ちてはいない。
身体は男を欲しがっていたが、それを抑えきる理性はあるのだ。
だから「欲しい」とは言わなかった。
だが、裸になった百瀬を見て「やめて」とも言えなかった。
腰の奥が火照ってきていた。

「さあ奥さん、仕上げだ。満足させてやるぜ」
「……」

その声を聞いて、響子は虚ろな表情を百瀬に向けた。
真ん前で仁王立ちになっているヤクザはもう素っ裸だ。
そしてその股間には、誇らしげにたくましいペニスが君臨していた。

響子はぼうとした顔でそれを見た。
舞踏会の時に犯されて、本当に壊れると思ったくらいの巨根。
その長さも胴回りも、そして硬さも、遥かに夫を上回っていた。
膣が張り裂けそうなくらいの大きさに、響子は呻き、泣き喚いた。
なのに最後に気づいた時は、性の頂点にまで達せられていた。

そして今、その肉棒を目にしても、ことさら恐怖はない。
その巨大さには畏敬さえ感じ、それを使われれば、今、響子が感じている肉の疼きを押さえ
込めるのではないか、とすら思っていた。
いやなのに、いやで仕方がないのに、どうしてここまで感じさせられてしまうのか。
凌辱者に犯されることを肯定してしまっている自分に、人妻は限りない恥辱と、夫に対する
申し訳なさを感じた。
しかし、もう身体の方はどうにもならぬほどに盛ってきてしまっている。

響子の視線に気づいたのか、百瀬がこれ見よがしにペニスを握り、ぶるぶると揺すっている。
それを見て、響子は一瞬でも百瀬を欲してしまった自分を恥じ、顔を真っ赤にして目を固く
閉じた。
百瀬の手が、盛り上がった尻に触れても、響子はビクッとなっただけで逃げなかった。
また身体を汚されるという恐れのせいか、それとも肉体が疼くのか、百瀬の手のひらに響子
の震えが伝わってくる。

「んんっ……くっ……っ……っは……」

大きな手で臀部を撫で回されると、響子は時々ビクッ、ビクッと痙攣した。
処女でもあるまいに可愛いことだ、と思いつつ、百瀬はその見事な尻を愛撫する。

「ひっ……やあっ……」

覚悟は決めていたはずなのに、百瀬の手が尻を割ってその中心に入ってくると、臀部や腿を
もじもじさせて逃げようとする。
大きく動かないのは、やはり百瀬の脅しが利いているからだろう。
アヌス責めですっかり濡れていた媚肉は、男の指でほじくられ、また新たな蜜を絞り出して
いる。
ねちゃねちゃという卑猥な水音を恥じるかのように、弄ばされる人妻は腰をよじっていや
がった。
もちろん男が許すはずもなく、執拗に指を動かし、媚肉をこねくっていく。

「あう……」

男の武骨な指がやっとそこから離れると、響子は微妙な呻き声を上げて百瀬を見た。
艶っぽさの濃いその声を発した人妻の心情はいかばかりだろう。
強姦される恐怖、不貞を夫へ詫びるへの気持ち、そしていたたまれないほどの肉の疼き。
それを見越すかのように、百瀬は熱で灼ける肉棒を、これも熱で滾る響子の膣へと押しつけて
いくのだった。




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