1985年10月。
長かった残暑もようやく日本から去り、秋風の涼しい心地よい気候となっていた。
自室のある古びたアパートの二階から、一階の管理人室へ五代裕作が訪ねてきた。
軽く手の甲でドアをノックする。

「五代です。管理人さん、いますか?」
「はい、どうぞ」

いつもの優しそうな声が聞こえ、弾む心を抑えて裕作はドアを開ける。
管理人の音無響子と知り合ってから、もうかれこれ5年も経つというのに、裕作は未だに彼女の前に来ると僅かに緊張する。
響子に、熱烈に惚れているからである。

もともとが冴えない男と評される若者であり、中学以降、女性にもてた経験はほとんどないし、またつき合ったことも同様である。
自分がそういう男だと自覚しているからなのか、裕作は女性を含めてあまり執着しないタイプだった。
その時々で片思いになる女性はいたが、声を掛けたり、まして告白することなど極めて希だった上、すべて振られている。
そのせいかどうか、振られればあっさりと諦めてしまうところがあった。

ところが、目の前にいる年上の女性──響子だけは別格だったようだ。
この5年の間、幾多の行き違いや勘違い、また意地っ張りな響子の性格や優柔不断な裕作の行動なども絡み合い、それこそ何度ぶつかりあったかわからない。
気の強い響子に横っ面を引っ叩かれたことも一度や二度ではない。
もはや決定的と思われるような衝突や意地の張り合いとなり、互いに相手を諦める、吹っ切ろうとしたことだってあった。
恋人のラインには到達せず、つき合っているとはとても言えない状況ではあったものの、それでもふたりはつかず離れず、微妙な関係を続けてきていた。
恐らく、両者にとって、その関係が多少なりとも心地よかったのかも知れない。
裕作にも響子にも、まだそこまで踏み込むだけの度胸と踏ん切りがなかったせいもある。

響子には亡夫の惣一郎の存在が大きかったし、裕作と同じく好意を寄せてくれる三鷹瞬のこともあった。
裕作もそれは同じで、恋敵である三鷹は大きかったし、そんな裕作にも恋心を抱いてくる七尾こずえや八神いぶきといった女性もいた。
響子との関係にくたびれた時などは、いっそこずえと……と考えたことだってある。

しかし、それでも裕作は響子を拭い去ることは出来なかった。
響子もそうだ。
死んでしまった惣一郎は無敵であり、それを超える男性は彼女にとってあり得ない。
加えて、裕作のライバルである三鷹だ。
生活力に家柄、ルックスと何をとっても裕作など足下にも及ばない。
朱美や一の瀬夫人などは、なぜ響子が裕作を捨てて三鷹と一緒にならないのか不思議でならないらしい。
響子も自分自身そう思わないでもないのだが、それだけ劣勢にいるにも関わらず自分に好意を寄せてくる年下の裕作が可愛くないわけがないのだ。
もともと母性の強かった響子は、裕作に対して保護本能をそそられる存在なのであった。
それに、頼りなかった浪人生時代から、裕作も多少なりとも人間的にも男としても成長はしてきている。
三鷹の競争相手と言ったらおこがましいが、そんな裕作を邪険に出来ず、ついつい面倒を見て、好感を持ってしまうのだ。
これでは裕作のことを優柔不断だと非難できる立場ではないだろう。
酔った席でだが、朱美に「あんたがはっきりしないのがいけない」と言われたこともある。
将来を考えれば三鷹を選ぶのが当たり前以前の常識だということを理解してなお、裕作を憎からず思ってしまう。
響子は気づいていなかったが、実はこの時点で裕作に軍配が上がっていたのだろう。
ここで裕作がもう一歩踏み出せば決着がつきそうだったのだが、ここからが波乱含みだった。

実家の両親に、名家のお嬢様である九条明日菜と見合いさせられたことに焦った三鷹は、響子に対して正式にプロポーズしたのである。
挙げ句、強引に三鷹に抱擁され、それを振りほどくことができなかった。
また、間の悪いことにそれを裕作に目撃されてしまったのである。
ライバルに抱擁を許していた響子を見て、裕作は彼女を諦め、自分は身を引くと宣言したのだった。

普通なら、そこで響子も裕作を見切って三鷹のもとへ行くだろうが、逆に彼女はショックを受けてしまったのである。
まさか裕作から別れを切り出されるとは思わなかったのだ(と言っても、つき合ってもいなかったのだから「別れ」も何もないのだが)。
こうした響子の心の動きを察することが出来れば、裕作は響子をすぐにでもものに出来たはずだが、そうしたことには鈍感な彼にそれを期待するのは無理だったろう。

その翌日、響子はふらりと金沢へと旅立った。
傷心旅行である。
この旅で裕作への思いに決着がつけば、三鷹のプロポーズを受ける気でいた。
しかし、こともあろうに裕作は響子を追いかけて金沢までやってきたのである。
口では決別を告げたもの、長年思い続けてきた女である。
そう簡単に吹っ切れるものではなかったのだ。

結局、ふたりの関係はここで修復および強化された。
まだ完全に三鷹を忘れ、裕作になびいたわけではなかったものの、両者の天秤は大きく裕作側に傾いたのだった。
響子の前では、いつまで経っても心なしか硬くなってしまう自分を情けなく、また腹立たしく思いながらも、響子と一緒の時間を僅かでも持てることが単純に嬉しいようだ。
裕作自身、もしかすると今、響子の心は三鷹よりも自分に向いているのではないかと思うこともあるのだが、そこで踏み出せないのが裕作の裕作たる所以だ。

「今日は何ですか?」

響子が穏やかな笑顔で裕作を迎えた。
軽やかにドアまで歩み寄ると、裕作と対峙する。

裕作はごくりと息を飲む。
まるで薄いヴェールで覆っているかのようなオーラすら感じてしまう美しさだった。
冷たい怜悧とした美貌ではなく、どちらかと言えば庶民的な美しさであり、だからこそ裕作が惹かれるのだろう。
響子の髪のあたりから、ふわりと甘い良い香りがする。
もう少し顔を近づければ息が掛かりそうな、そしてキス出来そうな距離にまで近寄る響子を、思わず抱きしめたくなる気持ちを噛み殺した。

「これ……、今月の家賃です」
「ありがとうございます。あ、五代さん、お忙しいですか?」

封筒を受け取ってぺこりと頭を下げた響子は、用を済ませて出て行こうとする裕作を軽く引き留めた。
裕作は少し驚いたが、実は容易に予想できる展開であった。
響子の部屋で一緒に過ごせるのではないかという期待も、少しはあったのである。
裕作は慌てて後ろ手でドアを閉めると、早口で言った。

「い、いいえ。今日は休みですし、あとは部屋の掃除でもしたらゴロゴロしてるだけで……」
「じゃあ……、どうぞ。あ、今、コーヒーでも煎れますから」
「すいません、お邪魔します」

響子は少し嬉しそうに微笑むと、とたとたとキッチンへ向かった。
裕作はその後ろ姿を目で追いながら、部屋の真ん中にあるテーブルの前に座った。
豆から挽いたコーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐる。

「お待たせしました。どうぞ」
「あ、いただきます」

裕作はカップを口に近づけ、ふうふうと冷ましながら慎重に黒い液体を啜った。
その様子をコーヒーの湯気の向こうから、響子が嬉しそうに眺めている。

「でも、ひさしぶりですね、こうしてお話しするの」
「え? そうですか?」
「そうですよ。だって、いつもは他の住人たちも一緒のことが多くって……」

響子はそう言って笑った。
ここの住人たちは基本的には善人ではあるが、とにかく好奇心旺盛というか、何にでも顔を突っ込んでくる。
良い意味でも悪い意味でも、濃厚な人間関係となっていた。
独り身の響子や裕作にとっては、それが有り難いことも多いが、疎ましく感じることもやはりある。
こうしてふたりの関係が発展し、さらにその先を目指そうとしている今などはよけいにそうだ。

もっとも、今では住人たちも裕作と響子の関係に好意的である。
最初のうち──つまり完全に裕作の片思いの時代には、からかう対象でしかなかったが、どうやら響子も裕作に気があるらしいとわかると、彼らの雰囲気も変化してきた。
一の瀬夫人はふたりをよくフォローするようになったし、朱美などは響子に発破を掛けるのが常になっている。
四谷氏でさえ、響子の前では裕作をいじることが減っていた。
ふたりの関係が進み始めたのも、そうした周囲の環境の変化もあるはずだ。
響子の言葉を聞いて裕作も笑った。

「ホントですね。一の瀬さんもいないんですか?」
「ええ、さっき買い物に行くと……」
「そうですか。四谷さんは相変わらず、昼間はどっか行ってますしね。望のやつは大学か。あ、朱美さんはまだ寝てるとか」
「いえ、朱美さんは朝からご出勤ですよ。何でも、茶々丸を少し改装するんだそうで、そのお手伝いだとか」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたなあ。工事が終わったら新装開店前に、内輪のお客さんを集めて宴会するんだそうです。祝い金持ってあんたも来なさいって」
「らしいですね、私も誘われました」

響子はそう返事をして、軽く足を崩した。
いつもはジーンズのことも多い響子だが、今日はワンピースを着ている。
白地に大きな花柄の、至ってカジュアルなものだが、それが響子によく似合っていた。
着るのも着ていても楽だし、上下の合いを考える必要もないので、ワンピースは好きだった。

裕作も同じである。
ジーンズでは見られない美脚を拝むことができるからだ。
もちろんジーンズは脚にぴったりとしているから、形の良い脚線美を楽しむことは出来るが、綺麗な肌は隠れてしまう。
自室にいるわけだからストッキングも着用しておらず、ナマ足を見ることが出来るわけだ。
ただ、慎み深い響子だけあって、スカート丈は膝上だ。
膝上15センチ、いや10センチでもいいからミニであれば、艶めかしい太腿も見られたろうが、さすがにそれはないようだ。
それでも、膝を崩して横座りになった響子の脚が覗けると、裕作はゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
太すぎず細すぎず、ちょうどよいふくらはぎが美しい形状を示している。
ソックスを履いていない足も綺麗だった。

すぐに裕作は脚から視線を外した。
脚を見ていることがバレたらまずいのと、あまり見ていては男性器が反応してしまうからだ。
ちょっと見ただけなのに、もう勃起しかかっているのだ。
裕作は照れ隠しのようにコーヒーを飲んでから、そっと言った。

「そうか……。今、誰もいないんですね」
「……」

裕作がそう言うと、響子も黙った。

今なら。

今なら響子に迫っても拒否されないのではないか。

裕作はきちんとプロポーズしたわけではないものの、もう思いは伝わっている。
何も難しいことではない。
響子の横に移動し、その肩を抱き、顎を持ち上げ、その唇を……。
そしてそのまま押し倒して……。

そこまで考えて、裕作は軽く頭を振ってその妄想を振り払った。
これがもし三鷹であれば、裕作が妄想した通りの行動を執ったのだろうなと思い、つい苦笑する。
裕作などは、もし響子に抗われたらどうしようと思ってしまい、それが出来ないのだが、恐らく三鷹は気にしないだろう。
強く拒否されればそれ以上何もせず、また次の機会を窺うだけである。

こうした場合、すでにすべてを許し合った間柄であればともかく、そうでないなら、まず絶対に女性は拒否するものだ。
いかに相手を憎からず思っていても同じである。
あっさり受けてしまって、身持ちの軽い女だと思われたくないということもあるだろうし、そんな安い女ではないという矜恃もある。
と言って、一度拒否したからと言って、あっさり手を引いてしまっては男として失格だ。
女性は、本気ではなかったのかという憤りと、自分には魅力がないのかと失望を感じてしまう。
多分響子もそうだろうが、もしそこで裕作が引き下がっても彼に対してそうは思わないだろう。
裕作というのがそういう男だということは彼女はよく知っていたから、もしそうなっても苦笑して許すに違いない。

「……」

実は響子も裕作とまったく同じことを考えていた。
もし、今この場で五代さんが私に迫ってきたらどうしよう。
強く断ったら、繊細な彼を傷つけてしまうかも知れない。
私は彼を嫌いではない。
彼の自分に対する強い思いほどではないかも知れないが、響子も裕作にはっきりとした好意を持っているのだ。

この期に及んで三鷹のことも気になっているのは我ながら情けないが、裕作と結ばれても響子に後悔はないだろう。
ならば、もし裕作がなけなしの勇気を絞り出して迫ってきたら、それを受け入れるべきだろうか。

そう考えたものの、響子の方も軽く頭を振った。
いや、まだだ。物には順序というものがある。
裕作から告白はされたものの、それに対して響子は明確に回答していない。ま
た、裕作は三鷹と違ってプロポーズしてきたわけでもないのだ。
響子が裕作の思いに応える言葉を口にするか、あるいは裕作が結婚を申し込んでくるようなことがあれば、その時は……。

「いいお天気ですね。窓、開けますね」

裕作に対する複雑な思いで、もやもやしかかった心をしゃっきりさせるべく、響子は立ち上がってベランダのサッシを開け放った。
その時である。

「きゃっ……!?」

響子が、突き倒されるように尻餅を突いた。

「だ、誰っ!?」
「……!!」

驚いた裕作が腰を上げかけると、黒い塊のようなものが開け放ったサッシから突如侵入してきた。
男のようだった。
男は土足のまま部屋に入り込み、ガラスが壊れるかという勢いでサッシをピシャッと閉めた。

尻餅を突いたままの響子も、膝立ちになっていた裕作も固まったまま大きく目を見開いて男を見ていた。
初めて見る男だった。
かなり大柄である。
裕作よりも頭ひとつ大きい感じだ。
安物のポロシャツとヴィンテージのジーンズ(単に古びて破れているだけかも知れないが)を履いている。
髪はぼさぼさで肌は浅黒く、目つきは異様なほどに鋭かった。

裕作は咄嗟に「強盗だ」と思った。
いつもの彼なら、一も二もなく逃げ出すところだろうが、ここではそうはいかない。
響子がいるのだ。
響子に良いところを見せようというのではない。
自分だけ逃げては響子に危害が加えられるかも知れないのだ。
喧嘩は弱く、腕力にもからっきし自信はなかったが、誰に促されることもなく裕作は男気を刺激された。

「か、管理人さんっ、逃げて!」

そう言うなり、裕作は身体を低くして男に突っ込んでいった。

「五代さんっ!」

響子はまだ尻餅を突いたまま、必死になって後ずさりしていく。
彼女を助けようと、裕作は頭から不法侵入者に突っ込んでいった。

「……っ!」

なよっとした裕作に刃向かわれ、男は少し戸惑った様子だった。
しかも、その頭突きにはそれなりの威力もあった。
喧嘩などろくにしたことのない裕作ではあったが、高校時代はラグビーをやっていたのだ。
タックルならお手の物だ。
裕作は男の腹に突っ込んでいくと、その腰を抱えるようにして壁に押しつけた。
惜しむらくは、男の後ろに壁があったことだった。
そうでなければ、さしものマッチョマンも裕作のタックルを受けて倒されていたことだろう。

裕作の攻勢もそこまでだった。
男は体勢を立て直すと裕作をがっちりと受け止め、その背中にエルボーを叩き込んだ。

「ぐうっ……!」

背骨に強烈な打撃を受け、裕作の目に火花が散った。
一瞬、呼吸すら止まる。
男の腰に回した腕の力が弱まると、そのまま突き飛ばされた。

「ぐわっっ!」

弾き飛ばされた裕作は、タンスに背中からぶち当たった。
そこは何とか踏ん張ったものの、前屈みなったところで右頬に強烈なストレートをぶちかまされる。
その衝撃で左側に吹っ飛び、今度は食器棚に顔から突っ込んでしまう。
ガシャンと大きな音をさせてガラス戸が粉砕し、中の食器が割れ、外に飛び出ていく。

「五代さんっ!」

気を失いかけた裕作だったが、響子の声で我を取り戻した。
しかし男の攻撃は緩まず、ふらついている裕作の胸ぐらを掴むと、今度は左頬にパンチを見舞った。
また目の奥で火花が飛び、一瞬意識が遠のく。
そのまま畳の上に倒れ込むと、その横っ腹を猛烈な蹴りが襲った。

「ぐっ……!」

爪先が脇腹に食い込み、裕作の身体が大きく跳ねた。

「やめて! もうやめて! 五代さんに酷いことしないでくださいっ!」

思わず響子は倒れている裕作に駆け寄り、庇うように男に立ち塞がったが、男はそれを見てさらに激情に駆られたようだった。

「きゃあっ!」

ぱぁんと乾いた音がして、響子は左頬を抑えて横に吹っ飛んだ。
平手打ちとはいえ、男の丸太のような腕から繰り出されたのだから、まるで棍棒でぶん殴られたかのような衝撃だった。
響子は半ば失神しかけて畳に伏してしまった。

「か、管理人さん……」

腹を思い切り蹴り飛ばされて呼吸の苦しい中、裕作は震える腕を響子に伸ばす。
その腕を男に掴まれ、引き摺り起こされると、裕作は鳩尾に重たいパンチを食らって、今度こそ失神してしまった。

「ご、五代さんっ、大丈夫ですか!?」

響子は、まだ平手打ちされた影響でふらつく頭を振りながら、倒れ込んでいる裕作へ懸命に近づいていく。
その響子の襟首を掴むと、男は乱暴に響子を放り投げた。

「あっ!」

調度品にはぶつからずに済んだものの、響子は背中から畳に叩きつけられた。
ボンと軽く身体が弾み、転がる。意識はあったものの、もう抵抗する気力は失われていた。

ようやく顔を持ち上げると、霞む目に男が裕作を縛り付けているのが見えた。
男は、腰のポケットに挟み込んでいたらしいロープを扱くと、ぐったりしている裕作の腕を後ろに回してリュ手首を縛り上げた。
脚も、足首と膝の付近でぐるぐるとロープを巻き付け、ほとんど動けない状態にしている。
最後には、タオルで猿ぐつわまで噛ませていた。
裕作は低く呻いたが、まだがっくりと蹲っている。

「ご……、五代、さん……」

死んではいないだろうが、心配だった。
とはいえ、響子も脳震盪寸前まで張り手を喰わされていて、まだ意識がシャンとしない。
ビンタのせいで唇か口の中が切れたのか、唇の端で僅かに血が滲んでいる。

「ひっ……!」

裕作を雁字搦めに縛り上げると、男はホッとしたように響子へ向き直った。
その獣性を剥き出しにしたかのような目に響子はおののき、本能的に恐怖を感じて後じさった。
じわじわと男が近づいてきても、まだ腰が抜けたように下半身が言うことを聞いてくれない。
膝もすっかり砕けており、ガクガクとわなないている始末だ。
響子は脅えた表情でようやく言った。

「な、何が目的なんですか……。お、お金はあまりありませんけど、あるだけあげます。だから出てって……」
「……」

カネのことを言われても、男はぴくりとも表情を動かさなかった。
もしかすると精神異常者なのかと思いゾッとしたが、よく見れば狂気じみたところはないようだ。
荒っぽい性格かも知れないが、理性がないわけではなさそうだった。
響子はようやく体勢を立て直し、這うように裕作のもとへ行こうとすると、男がその腕を掴んでねじり上げた。

「きゃああっ、いっ、痛いっ……!」

右腕をねじり上げられて、響子は悲鳴を上げた。
立ち上がろうとしていた腰がまた砕け、畳に膝を突く。
さらに背中をドンと突かれ、響子はよろよろと両腕を畳に突いて四つん這いとなった。
男はそこでまた響子の腕をねじり上げ、そのまま背中に押しつけてうつぶせにさせてしまった。

「いっ、痛い……、やめて、やめてくださいっ!」

男は響子の腕を持ったまま、動きを止めた。
手首を万力で潰されるかのような痛みを堪えながら、響子は恐る恐る振り向いてみる。
男は無言のまま、じっと響子の身体を見つめていた。
うつぶせで膝を突き、男に尻を差し出すような恥ずかしい格好を視姦するかのように見ている。
ワンピースの布地に、豊かな臀部が盛り上がっていた。
スカートの裾からは長い脚が伸び、裕作が愛して止まない白くて柔らかそうな肌が見え隠れしていた。

「……っ!!」

響子の顔から血の気が引いた。
まさかこの男は自分の身体を狙っているのだろうか。
男の粘るような視線が身体に這うのを感じ、その疑惑が確信に変わった。
響子は唇を青ざめさせた。

「ま、まさか……」
「……」
「や、やめて……それだけは許して……」

男は響子の言葉を全部聞く前に、薄い生地のスカートを大きく捲り上げた。
白いショーツと、それに包まれた豊満な尻たぶと官能的な太腿が剥き出しとなり、男の目に入る。

「いやあっ!」

一転して暴れ出した響子だったが、それを察した男によって両手は背中で後ろ手縛りにされてしまった。
縛られ、自由を奪われた両手を何とか振りほどこうともがくのだが、手首にロープが食い込むだけで、とても解けそうにない。
男の毒牙がから逃れようと、響子は足をばたつかせ、腰を左右に捩り、前へずり上がろうと懸命になっている。
しかし男は少しも慌てず、手首を縛ったロープを持ち上げてその動きを止めた。
腕が肩から抜けそうな痛みに響子は悲鳴を上げてもがいたが、男はさらに響子の背中をぐっと押して上半身を畳に押しつけてしまった。

「痛っ! ……い、いやあっ!」

男はぷりぷりと振りたくられる響子の尻を一発ひっぱたいてから、おもむろにショーツへ指をかけた。
響子が「あっ」と思う間もなく、白くて薄い布きれは太腿を滑り落ち、一気に膝まで引き下ろされていた。

「……」

響子のナマ尻が剥き出しとなり、それを見て興奮したのか、男は微かに鼻息を荒くしている。
響子の抵抗がひときわ大きくなったが、男はまた仕置きでもするかのように、大きな手のひらで二度、三度と尻たぶを平手打ちした。
ぱぁん、ぱぁんと肉を打つ乾いた音と、打たれる苦痛で響子が漏らす悲鳴が錯綜し、室内な異様な雰囲気となっている。
赤く手のひらの跡が残るのほどのビンタを食らい、響子の尻の動きも止まった。
ぴりぴりと痺れるように痛み、響子はその苦痛に呻いた。

「ひっ!?」

男は、響子の青いほどに白い肌から見え隠れする、股間の黒い繁みに目をつけると、それを指先でつまんで軽く引っ張った。ビクンと響子の背中が伸び、また悲鳴が出た。
恥毛をいじられることで、レイプされる実感が湧いてきたのか、一層に激しく抵抗する。
男は響子の抗いなど気にも留めぬように、肉づきの良い官能的な太腿に手を滑らせて、その滑らかさを愉しんでいた。
がさがさした男の手の感触に怖気が走り、響子は絶叫した。

「さ、触らないで! やめて、もうやめてっ! ……ああっ!」

男は響子から手を離すと、今度は自分のジーンズを脱ぎ始めた。
もう股間は、トランクスを突き破りそうなほどに勃起させている。
さらに下着も脱ぎ去ると、自分の男性器にツバを塗りつけ始めた。

「……っ!」

もう間違いない。
この男は響子を犯そうとしているのだ。
それが目的だったのかも知れなかった。
響子は歯の根が合わないほどに震えていた。
犯されるのは初めてだった。
性体験とて、死んだ惣一郎としかない。
しかもそれは僅か半年の間だけだったのだ。

しかも、裕作の目の前で犯されることになる。
響子はハッとした。
そうだ、気を失っているとはいえ、ここに彼がいるのだ。
裕作が気づいてくれれば助けを求められるが、そうなっても裕作がこの男に勝てるとは思えなかった。
となれば、裕作の目の前で凌辱を受けることになってしまう。
しかし、それでも助けを求めずにはいられなかった。

「ご、五代さん、五代さんっ、助けて……! あっ!」

男に腰を両手でしっかりと掴まれた。
慌てて前へ逃げようとしたが、男の手は万力のようで、響子の腰に食い込んで離さない。
必死になって腰を捩り、逃れようともがいたものの、どうにもならない。
男は終始落ち着いていて、膝を使って響子の股間を開かせ、その中心に男根を押しつけてきた。
響子は激しく身体をもがかせ、絶叫した。

「い、いやっ、だめえっ! 五代さんっ、五代さんっ、た、助けてぇっ……!」

響子の悲痛な叫び声も届かず、裕作はまだ意識を失っている。
ぐったりと横たわり、猿ぐつわされたままの顔を響子の方に向け、目をつむっていた。

「あ、いやあ!」

唾液に濡れた熱いペニスの先が、響子の媚肉を探り当てるように股間に潜り込んでいく。
先っちょが膣口に食い込むのを感じ、最後の悲鳴が響子の口から漏れたが、もはや手遅れであった。
惣一郎以外の男根が、響子の狭い穴を引き裂くかのようにめり込んでいった。

「あっ! ……っく、だめ!」

何しろ数年ぶりの性交である。久しく性器として使用していなかった膣は狭く、そして堅く引き締まっていた。
そこを抉るように、太い肉棒が潜り込んでくる。

「うあっ……!」

膣がみちみちと軋み、引き裂かれそうだ。
その苦痛もさることながら、身体の中に大きなものが埋め込まれていく異様な圧迫感に響子はもがいていた。
身体はわなわなと震え、息をするのも苦しいほどのきつさだった。

「や、やめ、て……あっ……き、きつい……だめえ……」

響子は背中に回っていた両手をぐぐっと握りしめ、その苦痛に耐えている。
時々、耐えかねたように手が開き、そしてまたぐぐっと拳を作るのを繰り返していた。
腿やふくらはぎには鳥肌が立ち、足の甲と指がぐぐっと屈まっている。
よほどきついらしい。

「……」

ペニスを貫通させると、男はホッとしたように少し力を抜いた。
それでも貫くのをやめたわけではなく、ゆっくりとだが確実に響子の中にペニスを押し込んでいく。
膣口の粘膜や襞を堅いペニスが擦り上げていく苦痛に仰け反り、響子は苦しそうに呻いた。

「あ、あう、もう入れないで……ああ、まだ入るの!? もういや、もうしないで……あっ……」

男の挿入は、響子の最奥にまで到達してようやく止まった。
子宮口に亀頭がコツンとぶつかると、響子はわなないて苦鳴を放った。
そして、身体の力が抜けていった。

「ああ……」

とうとう犯されてしまった。
惣一郎の死後、幾多の男の誘いを振り切り、守ってきた貞操が無惨にも奪われた。
響子を愛してくれ、響子の親愛を抱いていた三鷹や裕作にも許さなかった肉体が今、暴漢によって穢されたのだ。
男は、響子のいちばん奥にまで肉棒を突き通すと、ゆっくりと腰を動かしていった。

「っ……っ……っ……っ……」

ドスン、ドスンと重たい律動を受けても小さく呻くだけで、響子は無抵抗だった。
腰を突かれるたびに尻たぶが潰され、身体が揺れたが、もう何も感じなかった。
当然、快感などはなかったし、逆に苦痛もなくなっていた。
身体を奪われてしまったことで、精神までが瀕死の状態に陥ってしまったのだ。

そうした響子の反応にはあまり関心はないのか、男は自分本位に響子を犯している。
硬い肉棒を響子の腰に打ち込みながら、その背中に覆い被さっていく。
手を響子の胸に伸ばし、しばらく服の上からまさぐっていたが、そのうちワンピースを引き裂いてしまった。
ピーッと薄い布が引き千切られる音がして、大きく胸元が開いた。
男はさらにブラジャーもむしり取り、響子の乳房をナマで揉みしだく。
響子の暖かく柔らかい肌触りを愉しむかのようにゆっくりと愛撫し、とろけそうな乳房を揉み込んだ。

「……」

響子は死んだように無言になり、されるがままだった。
胸を揉まれても乳首をこねくられても、ちっとも感じない。
もちろん膣も同じだった。
もう諦めてしまったのか、今ではもう早くこの暴虐が終わることだけを願っているようだ。
堅く目を閉じて顔を伏せ、突き込まれると身体が揺さぶられるだけとなっている。
さすがに男もつまらないと思ったのか、それとも響子の膣が馴染んできたのか、男の動きがだんだんと激しくなっていく。
大きな両手で乳房を鷲掴みにして揉み込みながら、激しく、そして淫らに腰を打ち込んでいった。

「っ! ……くっ……くっ……うっ……くっ……!」

深々と鋭く突き抜かれるたびに、響子の尻が大きく揺れ、鼻腔と噛みしめた唇から、苦しげな呻き声が漏れてくる。
胸を揉む力が強すぎ、気持ち良いどころか痛いほどで、響子は苦悶の表情を浮かべている。
しかし膣の方は男根に馴れてきたのか、当初ほどのきつさや苦痛ではなくなっていた。
それに、気のせいかも知れないが、少しだけ滑りが良くなってきた気もする。
そのせいで襞や粘膜の摩擦感が少し緩和されているのだろう。

もちろんこんなものは性反応なんかではない。
このまま乾いたままで、太くて硬いものを強引に突っ込まれ、抜き差しされていては膣内が傷ついてしまう。
その防衛反応として潤滑液が分泌されているだけなのだ。
響子が男の律動と恥辱に耐えかねて、うっすらと目を開けると、すぐ目の前に裕作が倒れている。
涙に滲んでぼやける彼の顔が、心底愛しかった。
そして、その前で犯されていることに、限りない屈辱と悲恋を感じる。
その時、裕作がぴくりと動いた。

「……!」

響子は心臓が止まるかと思った。
男のピストンで畳が軽く振動し、それが裕作にも伝わっているのだ。
同時に、響子の苦鳴も裕作の覚醒を促したのかも知れない。
さっきまで裕作に助けを求めていた響子だったが、一転してそのまま目覚めて欲しくないと思うようになっている。
何しろ裕作は縛られており、自分も野卑な男に後ろから犬のように犯されている真っ最中なのだ。
ここで響子の悲鳴を聞いて裕作が意識を取り戻したとしても、どうにもならないのである。
むしろ「犯される響子」を見せつけられ、酷く傷ついてしまうに違いなかった。

(お願い五代さんっ、そ、そのまま……目を覚まさないで!)

響子はそれこそ祈るような気持ちだったが、その願いは叶わず、裕作は小さく呻きながら身体を蠢かせている。
響子は全身を強張らせて声を押さえ込んだ。
裕作には悪いが、いっそのことまた気絶させて欲しいくらいだ。
しかし犯している男は、裕作が意識を取り戻しかけていることはわかっているようだが、特に気にはしていないようだ。

「う……ううん……」

(五代さんっ……!)

響子は目をつむった。
その身体を揺さぶるように、男の突き込みは続いている。
パン、パンと肉を打つ音が響き、軽い振動が畳に伝わる。
とうとう裕作が目を覚ましてしまった。
彼の目の前に、愛しい響子の顔があった。
意外に近いところにある。
響子は這いつくばるような格好で顔を背けている。
目まで閉じていた。
裕作を心配し、その顔を覗き込むような素振りはない。

「……?」

不思議に思った裕作は、その時はじめて自分がロープで拘束されていることに気づいた。
両手首にはロープが食い込み、膝と足首の関節部分も同じように縛り上げられている。
慌てて身体を捩り、もがいたが、ほとんど芋虫状態で動きようがなかった。
あろうことか猿ぐつわまでされていて、ろくに声すら出せなかった。

「くっ……くっ……んっ……い、いやっ……」

響子の声を耳にして裕作がそっちを見ると、そこには信じられない光景が繰り広げられていた。
響子が不自然に這いつくばっていたのは、四つん這いにされて後ろから男に犯されていたからだと理解すると、裕作の目は大きく見開かれた。
そして動けぬ身体を激しく蠢かせ、出せぬ声をタオルの隙間から絞り出した。

「ぐぐっ……ぐうううっ!」
「い、いやっ、五代さん、見ないで! 今の私を見ないでっ!」

響子はそう叫んで顔を伏せ、むせび泣いた。
それを見ると、裕作は狂ったように暴れ出した。
自分が愛して止まなかった女の神聖な肉体が、粗野な男によって犯され、穢されているのだ。
無謀だろうが無茶だろうが、男に殴りかかって響子を救いたかった。
体格差や雰囲気からして、とても裕作に勝ち目はなかったろうが、死ぬ気でやるつもりだった。
ここで見て見ぬ振りをしては、とても「男」だと主張できない。
響子に顔向けが出来なかった。

しかし、身体が動いてもまず敵わなかったろうに、今の裕作は雁字搦めである。
縛られた手首を必死にもががせても皮膚が擦り剥けるだけで、堅く縛られた結び目はまったく解けそうにない。
足も同じで、ジーパンや靴下がロープに擦れるだけで、どうにもならなかった。
そもそも靴下やジーパンの生地が皮膚に食い込で跡が残るほどにきつく縛られていたのだ。
少々暴れたくらいではどうにもならない。
裕作の意識が完全に戻り、自分が犯されていることを確認したと思うと、響子も激しく男に抗い始めた。

「やめて、もういやあっ! こ、ここではいや、五代さんの前ではいやっ! 五代さんっ、助けてぇっ!」
「くっ……ぐっ……」

響子の助けの声を聞いても、目の前にいる彼女をどうにもすることが出来ない。
裕作はその無力感に打ち拉がれながらも、無駄な抵抗を繰り返していた。
男の方は、ことさら裕作に見せつけるわけでもなく、ただ淡々と響子の女性器を犯している。
突かれるたびに、重たげにたぷん、たぷんと揺れる乳房を両手で揉みしだき、響子に悲鳴を上げさせている。

「んっ……!」

男の指が何かの拍子に乳首に当たると、響子はびくりと反応した。
犯されて以来、ほとんど初めて感じる快感らしい快感だった。
響子の乳首が硬くしこりだし、反応が鋭くなったのを知ると、男はそこを責め始めた。
ぎゅうぎゅうと大きな乳房を潰すように揉み込みつつ、ぷくんと立ってきた乳首を指で潰し、こねくると、響子の背筋にぴりっと軽く甘い電気が走り抜ける。
その電流は、ジーンと胎内にまで響いてきた。
まさかこんな男に犯されて、恥ずかしい姿を晒すことはないだろうが、女体が少しずつ反応してきているのは事実だった。
裕作に見られているのに恥ずかしい、情けないと、響子は泣きたくなった。
しかし、その小さな快感も裕作に見られてしまっていることを意識したからこそのものだった。
もし響子が犯されている間中、裕作が目を覚まさなければこうはならなかったかも知れないのだ。
乳首の快感を意識し始めると、今度は膣の方まで反応してくる。
膣奥で、熱い液がじんわりと滲んでくるのがわかるのだ。
響子は戸惑い、激しく動揺した。

(ど、どうして私……、五代さんにこんな姿を見られているのにっ……!)

責めている男の方にもそれはわかったらしい。
強引に突っ込んだはずの肉棒の動きがよくなってきていたのだ。
響子の胎内の変化を感じ取ると、男の腰の動きがさらに強くなっていく。

「あ、あっ……あうっ……くっ、痛いっ……んんっ……ひっ……」

いくら堪えても込み上げてくる呻き声を抑えきることが出来ず、響子の噛みしばった唇から苦鳴が漏れてくる。
それを聞いているだけで、裕作は胸が憤怒ではち切れそうになる。

「ぐうっ……ぐっ!」

必死になって響子を励まし、男を非難して止めさせようとする言葉を吐こうとするが、猿ぐつわのせいでくぐもった音声にしかならない。

(く、くそっ……! 管理人さんがあんな目に遭っているのに、俺には何も出来ないのか!?)

縛られた腕や脚をもがかせても、硬く戒められたロープはびくともしなかった。
響子の悲鳴や苦悶する表情を見まいと、顔を背け、目をつむるのが精一杯だ。
それでも耳には響子の聞き慣れた声が入ってくる。

「ああ、もういやあっ……や、やめて……くくっ……うんっ……ひあっ!」

聞き慣れた声とはいえ、こんな苦鳴を耳にするのは初めてだ。
何しろ彼女は今、強姦されてしまっているのだ。
そう思うと、裕作の顔は知らず知らずのうちに、再び響子に向いていた。
腹這いにされた響子の後ろから、男がのしかかって犯している。
ワンピースは腰の辺りまで捲り上げられており、裕作の位置からも男の動きと、それに潰されている響子の白い臀部を目にすることが出来た。

「……」

そんな場合ではないと思いつつも、裕作はごくりと生唾を飲み込んだ。
考えてみれば、響子のこんなシーンは何度も妄想したではないか。
響子と結ばれたい、セックスしたいと思っていたのだから。
オナニーする時の材料も、ほとんどは響子だった。
グラビアなりビデオなりを使うこともあるにはあったが、そこに映っている女の子たちは裕作の脳内ですべて響子に変換されていたのだ。
さすがに響子をレイプする妄想をしたことはあまりなかったが、レイプもののビデオやエロ漫画を見て、犯される女性を響子に当てはめて興奮してしまったことは何度もあった。
それが今、実現されているのである。

大きな丸い尻を思い切り突かれ、響子が苦鳴を上げる。
襟元を破かれたワンピースからまろび出た、これも豊満な乳房が、男の手で揉みしだかれている。
水着姿から容易に想像できた豊かなサイズのバストは形も素晴らしかった。
そこに男の指が食い込み、響子の悲鳴を絞り出していた。

不覚にも、裕作の男根もズボンの中でむくむくと反応し始めていた。
裕作はもう喚くこともせず、じっとその様子を見つめるしかなかった。
ただ、裕作は劣情ばかり感じていたのではなく、その目には涙が滲んでいるから、響子への哀感や何も出来ない自分の情けなさも感じていたのだろう。

「くっ! くっ!」

男が、硬直したペニスを思い切り深くまで抉り込むと、響子は仰け反って白い喉を晒して呻いた。
快感がないわけではないが、それよりも苦痛が大きいのだ。
もともと狭かった響子の膣内は、犯される緊張と恐怖、そして内部を強く擦られる苦痛でさらに引き締まっていく。
もう貫かれて10分ほど経つが、男も響子の膣に締めつけられて、ようやく終わる気になったらしい。
深々と抉られることはなくなったが、代わりに素早く抜き差しされ、激しく尻を叩かれていく。
深度は浅いが勢いはずっと強かった。
響子はぐうっと背中を反らせて呻いた。

「んひっ! あ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ!」
「くっ! うおうっ!」

男は一声呻くと、響子の背中にのしかかったまま、両手でぎゅっと乳房を握りしめた。
最後のドスンとひときわ深くまで挿入してから、一瞬、凝固した。

「いやあ!!」

響子の絶望的な悲鳴が上がった。
逃れようとして必死に前へずり上がろうとするものの、乳房から離れた男の手ががっしりと細い腰を掴んでいた。
男は時々小さく腰を痙攣させながら、ぐいっと響子の腰を自分の腰に引き寄せ、密着させていた。

「……!!」

裕作は覚った。
響子は、あの男に射精されたのだ。
響子の膣が、見知らぬ男の汚らしい精液によって穢されてしまった。
瞬間、裕作の顔が紅潮した。頭の中は白く灼けるかのようだった。
男に対する言いようのない怒りとともに、別の感情が一気に下半身へ押し寄せてきた。
響子の中に、あの男の白い精液がいっぱいに出されている。
そのことを考えると、裕作のペニスは心ならずも下着の中で射精していた。



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