響子にはそれからの記憶が少し飛んでいる。
一刻館で男に辱められた後、半分気死してしまったようなものだった。
破かれたワンピースのまま、たくましい男の腕に抱えられたのは憶えている。
響子の体重は50キロほどしかなかったが、それでも片手で軽々と腰抱きにする男の膂力は大したものだった。
持ち上げられ、横たわる裕作を虚ろな目で見ていたこともぼんやりと記憶していた。
響子が連れ去られると知り、縛られたままで暴れ出した裕作に、男は無表情のまま何度も蹴りを入れていた。
「やめて」と何度も弱々しく懇願したのだが、男は響子の言葉を無視して、裕作が失神するまで顔や腹や背中を蹴りつけていた。
頼みの綱だった裕作が気を失い、犯されているところの一部始終をその裕作に見られてしまったこともあって、響子の抵抗力はすっかり萎えてしまったのだった。

後ろ手で縛られたままだったとはいえ足は動いたし、口にも猿ぐつわなどは嵌められていなかった。
だから、走って逃げようとすれば出来たし、大声で助けを呼ぶことも出来た。
男に追いかけられようとも、少し走れば住宅地であり、商店街もあったのだ。
まさか死んではいないだろうが、裕作のことも心配である。
しかしそうするだけの気力はすりつぶされてしまっていた。

外に駐めてあったらしいクルマの後部席に放り込まれると、そのまま男の住処まで連れて来られた。
道中、窓の外を見るどころか声を出す余裕もなかったため、どこをどうやってどこまで来たのかさっぱりわからなかった。
ただ、クルマで走っていたのは、おおよそ1時間くらいだったようにも思えた。

2階建ての低層アパートだった。
あまり新しくはないがそう古びてもおらず、適度に改修されているようだ。
男は響子を脇に抱えたまま階段を昇り、もっとも階段から離れた端っこの部屋に入った。
いわゆる1Kの部屋だが畳敷きの部屋自体は広く、10畳ほどはありそうだった。
そこに簡易キッチンとトイレと一体になったユニットバスがついている。
小さなベランダもあって、そこで洗濯物や布団が干せるようだ。

男は、万年床らしい布団の上へ響子を無造作に転がすと、ドアをロックし、窓のカーテンを引いた。
まだ夕方には早かったが、日の光を遮られて薄暗くなった室内を蛍光灯が照らしている。
布きっぱなしらしい布団からは、むせ返るようなような饐えた匂いがした。
それが男の体臭や汗の匂いだと思うと、響子は軽く吐き気すら感じた。
そのせいか少し意識がしゃっきりしたようである。
転がされた身体の上半身だけ起こし、男に詰問した。

「いったい……、あなたは何なんですか!?」
「……」
「も、目的は何なんです? 私をこのままどうしようって言うんですか! そ、それに……、あなた、いったい誰なんです!?」

それこそが響子の確認したいことだった。
こんな男は見たこともなかった。
そんな人に、こんな酷い仕打ちをされる謂われはない。
巻き添えになった裕作に申し訳ない思いでいっぱいだ。

「……ずいぶんとまとめて聞いてきたな」
「……」

初めて男が口を開いた。
錆を含んだ低い声が響子の耳に響く。
男は響子を見たまま、布団の上に胡座をかいた。

「まず最初の問いか。それと2番目の質問の答えは同じだから一緒に言っておこう」

男は両手を膝に置き、股割りするようにぐいっと力を込めて言った。

「……あんただよ」
「え?」
「だから目的はあんただ。あんたを俺のものにするためにやったことだ」
「な……」

男はややうつむいたまま、上目遣いで響子を見た。対して響子は僅かに後じさった。
この男は最初から響子を攫うことが目的だったらしい。
まさか響子を誘拐して身代金を要求するとは思えなかったし、「俺のものにする」と言っているところから見ても、響子というより響子の肉体が目的だったに
違いなかった。

響子の端正な美貌から、すぅっと血の気が引いていく。
確かに自分が美人らしいという自覚はあった。
同級生や知人、隣近所の評判を聞いてもそう思う。
スタイルも悪くない。
響子自身は、もう少し痩せたいなと思わないこともなかったが、適度に胸も腰もあり、異性にとって魅力的ではあったのだろう。
買い物先で、男のそういう視線を感じたのも二度や三度ではなかったし、三鷹や裕作ほどではないにしろ、言い寄ってきたり口説いてきた男も幾多いたのだ。
響子の記憶の中にはなかったが、その中にこの男もいたのかも知れなかった。

「最後の質問は何だったかな。そうか、俺の名前か。……あんた、俺を憶えてないのか」
「は……?」

意外そうな響子の顔を見て、男は納得したように頷いた。

「そうか、そうだろうな。あんたと顔を合わせたのは今回で二度目だからな」
「二度目……」
「そうだ。最初は、あんたと音無の結婚式の時だ」
「え……」

男は眼を細めて響子を見ている。

「わからないか? 俺は音無の高校時代の友人だよ。披露宴で招待されてたんだ」
「……」
「名前は鷹小路だ。鷹小路頼広」
「……あっ」

そう言われて響子は改めて男を見つめ、記憶力を総動員させてようやく思い出した。

そう言えばそうだ。

確かにこんな男がいたのだ。
キャンドル・サービスの時、妙に目についたので、席に戻ってから惣一郎に聞いて吹き出してしまったのを憶えている。
名前がやたら上品なのに、それに反してプロレスラーのような体格でワイルドな見た目だったので、そのギャップが可笑しかったのだ。
ただ、頼広の言うとおり、それっきり会うこともなかったのですっかり忘れていたのである。頼広が言った。

「あん時以来、俺はあんたに惚れちまった。一目惚れだな。音無のやつ、こんないい女を娶ったのかとうらやましくなったもんだ。だが、結婚しちまった
んだからしようがない。音無はいいやつだったしな、あいつからあんたを奪う気もなかったよ。俺があんたを知る前に音無と知り合ったことが不運だったと、
そう思っただけさ」
「……」
「だが、音無のやつは……あんたの前で何だが、あっさり死んじまった。ありゃあ何年前になるんだ? もう5,6年は経つのか? 確か、結婚式から半年
くらいじゃなかったか?」

新婚気分の冷めやらぬ中、夫の惣一郎は呆気なく病死した。

朝、惣一郎が元気に出勤するのを響子は見送っている。
そして午後、買い物帰りの響子に「惣一郎の死」という信じられない一報が伝えられた。
唖然とした響子は、とても信じられないまま急いで病院へ駆けつけたものの、惣一郎はすでにこの世にいなかった。
あまり活発でなく健康的とも思えなかったものの、特に病歴もなく、持病もない惣一郎が死ぬことが信じられなかった。
まさに突然死だったのだ。

響子や義父、従姉妹の郁子らが病院に到着した時には、惣一郎は故人となって病室のベッドに寝かされていた。
救急室ではなく、しかも遺体には点滴や輸血あるいは呼吸チューブもつけられていなかったから、救急車で病院に運ばれた時にはもう手の施しようが
なく、彼の死を確認することしか出来なかったのだろう。
響子はあの日のことを思い起こすと、今でも涙が滲んでくる。
男は響子から目を逸らしながら続ける。

「もちろん俺も葬儀には出席した。あんたが憶えているかどうかは知らないがな」
「……」

当然、記憶にない。
あの時は悲しくて悲しくて、頼広に限らず、弔問に来てくれた人たちの顔や、彼らがかけてくれたお悔やみの言葉など、まったく頭に残っていなかった。

「あいつには悪かったが、これはチャンスかも知れないと思ったよ。けど、惣一郎を亡くして悲しんでいるあんたを見て、ここであんたをどうにかするのは、
いくら何でも酷すぎると俺でも思ったのさ。だから諦めた。諦めたつもりだった」
「……」
「それが……、そう、あれは半年も前になるか。あんたを時計坂で見かけたんだよ。俺は埼玉に住んでいて、特別に用事がなければ滅多にこっちへは来ない。
それがこないだ、あんたを見てしまったんだ。偶然にな」

男はそう言いながら、大きめの爪切りで足の指の爪を切り始めた。
新聞紙などを敷くでもなく無造作に切り飛ばされた爪があちこちへ落ちる。

「あの頃に比べると随分とおとなっぽくなったと思ったよ。同時に女っぷりもずっと良くなった。ガキ臭さが抜けて、おとなの女になった感じだった。
ひさしぶりに見たあんたを見て、俺はもう居ても立ってもいられなくなったんだ」
「……」
「もう音無はいない。調べたところ、あんたは再婚もしていない。周囲がいくら勧めても断っていると聞いた。音無に操を立てていたのか?」
「……あ、あなたには関係ありません」
「そうか。だが俺の中では、あんたに対する思いがまた燃え上がっちまった。もう、どうにも抑えようがないくらいにな。俺にとって、あんたが初恋の相手
みたいなもんなんでな。それが、しばらく見ないうちにここまでいい女になってやがった。俺は、あんたが音無の実家が経営していたボロアパートの管理人を
やっていることも知った」
「……」
「それからは早かったよ。計画を立て、カネを貯めて、勤めも辞めた」
「え……」
「あんたをものにするには犯罪じみたことをせにゃならん。会社に迷惑はかけられんかったしな。それに、出来るだけ長くあんたといたかったから、しばらく
遊んで暮らせるだけのカネを貯めてから退職したんだ。その間は飲みに行くのもやめ、休みの時にはバイトもして、とにかく資金を作った。そして今回の計画を
実行したんだ」

響子は息を飲んだ。
見つかったのは偶然だったのに、この男はその偶然を奇貨として、行き当たりばったりではなく計画を立てて響子を拉致したのである。
そうまでして自分に執着する男に、響子は寒気を感じた。
裕作や三鷹が響子に対して執着するのとはまるで違った。
執着というよりは粘着という感じだ。
頼広は、その粘り気のある視線で響子の身体に視線を走らせながら言った。

「だから、あんたは今日から俺の花嫁ってことだ。わかったな」
「わ、わかりませんっ!」

響子も感情を爆発させた。

「そ、そんな身勝手なこと、許されません! 大体、私の意志はどうなるんですか! 私はあなたなんか好きじゃありません。大嫌いですっ。五代さんに、
あんな酷いことまでして……!」
「五代? ……あの部屋にいたヘタレ男のことか?」
「五代さんの悪口、言わないで!」
「ふうん」

男は意味深な目で響子を睨め付ける。

「そうか、あんた、あの男と出来てたのか?」
「そっ……、そんなわけありませんっ。わ、私たちはまだ……」
「『私たち』か。まだ決定的な関係ではないものの、やつを憎からず思っているってところかな。あの男の方は、あんたにベタ惚れのようだったがな」
「……」

簡単に見抜かれている。
響子は口をつぐんだが、すぐに言い返した。

「とにかく、私はあなたのものになんかなるつもりはありませんっ。早く私を解放してください! そうすれば……、そうすれば、さっきのことは黙ってて
あげます。警察にも……」
「さっきのこと? あんたが俺に犯されたってことか?」
「い、言わないで!」
「警察にも言えないだろうよ。もし訴えでもしたら、あんた警察で証言しなくちゃならない。どんな状況でどんな風に俺に犯されたのか、その時どう感じたのか、
なんてことを微に入り細に穿って捜査員に話さなきゃならないんだぞ」
「か、構いませんっ。どんな恥ずかしいこと聞かれたって、このままじゃ、私、あなたを許しませんっ。だから一刻館に帰してください、そうすれば……」
「そりゃあ無理ってもんだ。俺はあんたを離す気はないし、あんたをここから出すつもりはない。ずっと俺とここにいるんだ」
「絶対にいやですっ」
「ま、あんたは気が強いとは聞いていたから、最初はそうだろうと思うよ。じっくりと俺の女にしてやるさ」
「っ……! ち、近づかないで!」

男が迫ってきたのを見て、響子は狼狽えて後じさった。
ろくに逃げられもせず、布団から出る前に、男にのしかかられてしまう。
大男の頼広にのしかかられても、響子は最後まであがき、抵抗を続けた。
最終的には屈することとなっても、それはあくまで暴力のためであり、決して自ら望んだわけではないと言いたいがためだ。

両手は括られたままだが足は動く。
ぴったりと両脚を閉じて、絶対に男を受け入れないつもりだったが、頼広はその足首をそれぞれの手で掴むと、難なく両脚を引き裂くように左右に割った。
下着は剥ぎ取られ、破れたワンピースの下半身は男の目に晒されている。
響子は絶望の声を上げた。

「ああ……、ゆ、許して、お願い……もういやあ……」
「泣くなよ。せっかくの美人が台無しだ。とはいえ、その悲しそうな顔もなかなか良いな、美人は得だ」

そう言いながら頼広は、慌ただしくズボンのチャックを開く。
するとそこから、まさに「肉棒」と呼びたくなるような男性器がぶるんと跳ね上がるように飛び出した。

「ひっ……!」

響子はその勢いの良さに脅え、喉を鳴らした。
いかにも「響子が欲しい」と叫んでいるかのような禍々しい肉の凶器に見える。
男はさっきと同じく、たっぷりと自分のツバをペニスの先に塗り込むと、響子の股間に身体を割り込ませていく。
響子は悲鳴を上げて身体を捩る余裕も与えず、ほぼ正確に亀頭が膣口を捉え、めり込んでいった。
愛の言葉も前戯もなく、性器の結合しか頭にないようなセックスだ。

「いっあ……痛いっ……!」

まるで濡れていない媚肉であり、粘膜だ。
そこに硬くて太いものを無理に通そうというのだから当然痛いだろう。
響子は苦痛の呻き声を漏らし、押しつけられた身体をずり上げるようにして逃げ、もがいた。
太いものが確実に膣口を押し開き、中に侵入していく。
狭い響子の膣道がみちみちと軋み、押し広げられていった。

「く、くっ……い、たい……き、きつっ……ああっ!」

男は響子の身体へ強引に入り込み、潤滑液のないままに一気に挿入していった。
女の悩ましい喘ぎや、女肉の厚さ、柔らかさからくる快さは皆無だが、これぞ「強姦」という醍醐味は味わえる。

「ぐううっ……いやあ!!」

最後まで突き通されると、響子は絶望的な悲鳴を放った。
肉の刀ともいうべき男根が、準備すらしていない響子の肉を引き裂き、刺し貫いた。

「……ふうん。最初の時にも思ったが、中が何か堅いんだよ。もしかしてあんた、音無が死んでからずっと……」
「……」
「そうか。また身持ちの堅いことだな。音無は死んで、もう貞操を守る必要もなかろうに、まるで男に抱かれてなかったわけか」

(ああ……、また……また犯された……もう、だめ……)

深々と奥まで差し込まれると、響子の身体から力が抜けた。
こんなに深くまで貫かれては、もうどうしようもないと諦めたようだ。

頼広は、動かなくなった響子をそのまましばらく抱きしめて、膣内壁のぬくもりと柔らかさを味わっている。
横を向いた響子の大きな瞳から、ぽろりと涙の粒が頬を伝う。
その表情を愛おしそうに眺めながら、男はゆっくりと腰を動かしていった。

腰の突きが入ってくるたびに、響子は小さく呻いた。
もう諦観したとはいえやはり痛いらしく、頼広が腰を使うと上体をずり上げるようにして身悶えている。
男は響子の背中に手を回し、がっしりと肩の上から押さえ込んで逃がさない。

「っ……うっ……んっ……」

抑えた苦鳴を放ちながら、響子は顔を顰めてその不快さと痛みに耐えていた。
じっとして動かず、早く男の獣欲を吐き出させればそれで済む。
そう思って「人形」となって男の暴虐をやり過ごそうとしていた。

頼広の方は、それでも一向に構わなかったらしく、憧れていた響子と結ばれたという事実だけで激しく興奮している。
気が高ぶった男は、押し倒した響子の唇を求めて顔を近づけてきたが、響子はそれだけは頑強に拒絶し、顔を振りたくって避けた。
男は響子の顔を押さえ込んで強引に唇に吸い付いたが、響子は頑として応じなかった。

(き、気持ち悪いっ……!)

キスは諦めたものの、男は唇で響子の唇を挟んだり、舌で舐めたりしている。
背筋に寒気が走り、鳥肌が立った。
なおも響子が抗い、顔を背けようとすると、さすがに無理と思ったのか、男はそれ以上求めなかった。
キスのおぞましさから逃れると、響子も、もう無駄な抵抗はせず、ただ脱力していく。
頼広は、単なるダッチワイフと化した響子をそのまま犯し、激しく責め立てていった。

────────────────────

響子が翌朝目を覚ますと、ひとりっきりだった。
これが悪夢だったらと何度も思ったが、目覚めた場所は、あの男のアパートであり、イヤでも現実を意識させられた。
昨夜はあのまま犯され続け、響子はいつの間にか眠ってしまったらしい。
何度も凌辱されて心身ともに疲労困憊し、失神したというのが本当のところである。

その時のことを考えると、今さらながらゾッとする。
一体何度犯されたのだろうか。
響子の方は、絶望感と完全に気力を失ってしまい、ほとんど反応を見せない人形のようなものだったが、男はその響子を何度も貫いてきた。
響子の性体験は亡夫の惣一郎としかないのだが、その少ない経験から考えると、頼広の精力は異常なほどだった。
何度射精しても繰り返し響子の肌を貪り、愛撫し、貫いてくる。
その精力と体力の前に、響子は完全にグロッキー状態になってしまったのだ。

朝、目が覚めた時にはもう日が高く、壁に掛かった時計を見ると、もう10時を回っていた。
それでもあまり疲労が抜けた気がしないのは、恐らく朝方近くまでセックスされていたからに違いなかった。
まだ手首は後ろ手で縛られたままだ。
ロープが食い込んでいる手首も痛んだが、肩が抜けそうなほどに痛かった。
起きて初めて気がついたが、何と首輪を嵌められていた。
犬に使うものとは違い、輪っか状のものではなく幅の広い革製のものだった。
そこからチェーンが伸びて、柱の打ち込まれているらしいハーケンに繋がれているのだ。
立ち上がって動いてみると、ぎりぎりトイレに入れる程度の長さはある。

「……」

男はいなかった。
日が差しているもののカーテンが引きっぱなしのため、室内は薄暗かった。
ドアもサッシもきっちりと施錠されているようで、外からの音もほとんど聞こえない。
ただエアコンが常時利いているようで、蒸し暑かったりすることはなかった。

徐々に意識がはっきりしてくると、響子にも現状認識が可能になってくる。
男はいない。
窓もドアも施錠してあるだろうが、内鍵だろうから中からは開くはずである。
だめだったとしても、最悪の場合、窓ガラスを割って助けを求めるという手段もあった。
いや、部屋に電話が引いてあるようだから、そこから警察や一刻館に連絡してもいいのだ。
頼広がどこへ出かけたのかわからないが、確か昨日「勤めは辞めた」と言っていたから仕事ではないだろう。
買い物か何かだとすれば、そう時間はない。
響子が目覚めるよりずっと前に出かけたとすれば、すぐにでも帰ってくるかも知れないのだ。
グズグズしてはいられない。
昨日犯された際に、ほとんどボロ切れと化していたワンピースも剥ぎ取られてしまい全裸ではあったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
とにかく腕の拘束を何とかせねばならない。手が自由になれば、首輪のバックルを外して逃げられるだろう。

何かないかと響子は室内を見渡したが、手の届くところに刃物のようなものはなかった。
恐らくキッチンには包丁や果物ナイフくらいはあるだろうし、部屋の隅にある小さな机にもハサミやカッターがあるかも知れない。
しかし響子に嵌められた首輪のチェーンはそこまでの長さがなく、手を伸ばしても流し台や机まで届かなかった。

「……!」

あの大きな爪切りがあった。
男が夕べ使ったきり、畳の上に放り出したままだったようだ。
まさかそんなものでロープを切るとは思わなかったのだろう。
しかし腕では届かず、首に食い込む革に顔を顰めながら、脚を伸ばしてようやく触れられる位置だ。
響子は不自然な姿勢で右足を思い切り伸ばし、指の先に爪切りを引っかけるようにして、慎重に引き摺ってくる。
焦って蹴飛ばしでもしたらおしまいだ。
時間はないが、慎重且つ確実に引き寄せるしかない。

緊張と力の入りすぎでふくらはぎが攣りそうになり、腿の筋肉も僅かに痙攣している。
それでもようやく爪切りを引き寄せ、それを手にした時には心底ホッとした。
だが、まだ安心するには早すぎる。
これでロープを切ってからが勝負なのだ。

響子はぺたんと畳の上に座り込み、後ろ手にされた右手で爪切りを持つと、左手首に巻かれているロープに小さな刃を立ててみる。
ぷちんと小さな音がして、僅かにロープが切れたのがわかる。
しかし、まるでネズミのひと噛みのような小ささであり、これではいつになったら切断できるかわからない。
響子は途方に暮れたが、もうこれしかチャンスはなさそうである。
気を取り直して、その地道な作業に戻った。
そのうち、爪を切る刃の部分よりも、切った後を整形するヤスリの部分を使った方が効率的だとわかり、それを使ってゴシゴシとロープに傷をつけていった。

「あっ……!」

早く切ろうと焦った響子の手から、ぽろりと爪切りが落ちる。
転がった爪切りを拾い、少し息をついた。
根気よく少しずつ擦り切っていたせいか、右手の指も堅く強張り、痺れ始めている。
慌てても効率が悪いだけだと思った響子は、深呼吸してから指でロープの切れ具合を確認する。
半分ほども切れた気がする。
腕力のある男なら、ここから引き千切ることも出来たかも知れないが、女の響子にそんなハルクのような真似はできっこない。
気を取り直してから響子が再びロープを擦り始めた矢先、突然にドアノブがガチャガチャと響いた。

「……!!」

唖然と響子が玄関を見ると、頼広が帰って来たところだった。
男は右手で大きな荷物──スーパーか何かのレジ袋のようだ──を抱えたまま、ドアを後ろ手で閉めた。
それとなく異変を察した頼広は、買ってきた生活物資をテーブルに置くと、無言で響子に近寄ってきた。

「ひっ……!」

その迫力に響子は喉を鳴らし、正座したまま後じさる。
その手から爪切りが零れ落ちた。

「あっ」
「ん?」

隠そうとしたのか、響子が慌てて拾い直そうとすると、男の手が一瞬早く伸びてきてそれを拾い上げた。

「爪切り……?」

頼広は不審そうな顔で響子を見下ろすと、すぐに表情を強ばらせた。
そして響子の腕を捻り上げる。
肩から抜けそうな痛みに響子が悲鳴を上げた。

「痛いっ……!」
「あんた……、逃げようとしたのか」
「あ……、こ、これは……い、痛い……」

男は響子の腕を伸ばしたまま、背中の方向へ持ち上げた。
見ると、手首を縛っていたロープの結び目が切れかかっている。
畳の上にはロープの削りカスらしい白い粉が点々としていた。
それから爪切りに目をやると、男は響子がやろうとしていたことを察したようだった。
どちらかと言えば茫洋とした感じだった頼広の顔が見る見るうちに精悍となり、険しくなっていく。
その表情の変化に恐怖を感じ、響子は悲鳴を上げて立ち上がった。
頼広が鬼の表情で響子を問い詰める。

「逃げようとしたんだな!」
「た、助け……きゃっ!」

男から逃げようと思わず駆け出した響子だったが、すぐに行き止まった。
首輪のチェーンの届く範囲しか逃げようがなかったのだ。
男はよろけた響子に近寄り、チェーンを持って思い切り引き寄せた。

「ぐっ!」

首に革ベルトが食い込み、響子は苦鳴を上げてもがいたが、すぐに頼広に抱き寄せられてしまった。
男はチェーンを持ち上げて、響子の顔を上向かせた。
ベルトが喉に食い込み、気道が絞まっていく。

「や、めて……、苦し……」
「言え! 逃げようとしたのか!?」
「そ、そうです、あっ……当たり前でしょう……こ、こんなことして……あぐっ!」
「こいつ……」
「こんなことしてどうする気なんですか……くっ……ず、ずっとこんなことが続くと思うんですか……つ、捕まるに決まってます!」
「……そうか、そんなことを考えてるのか」
「……」

不気味に黙り込んだ頼広に、響子は不安そうな表情を向けた。
男は顔を上げ、響子をじっと見てから宣告した。

「どうやら自分の立場がよくわかってないようだな。ここはひとつ、きつい仕置きをしてやるか」
「し、仕置きって……、ああっ!」

ぱあんと肉を打つ乾いた音がした。男が平手で響子の頬を張ったのである。
その一撃だけで失神するかと思うほどの強烈なビンタだった。
響子は吹っ飛ばされて、背中からトイレのドアにぶち当たった。

「あぐっ!」

男は倒れ込んだ響子の首輪を持って立ち上がらせ、今度は右頬を張った。

「あうっ!」

続けて右頬、そして左頬と往復ビンタを見舞っている。
一発ごとに脳が攪拌されるような威力の平手を食らい、響子は悲鳴を上げている。
意外にももうあまり痛みはなかった。
最初と2発目は、目から火が出ると思うような痛みがあったが、それ以降はもう痛感が麻痺してしまったのか、顔と頭に強い衝撃はあったものの、打たれる痛みは
ほとんどない。
三発、四発と平手打ちされ、響子が脳震盪になる寸前で、ようやく頼広の暴力が止んだ。

「ううっ……」

響子はよろけ、そのまま尻餅を突いた。
殴られて息が荒く、頬には男の手形が赤くうっすらと残っていた。
唇の端が切れたようで、薄い血液が僅かに滲んでいる。
男に首輪を掴まれて顔を持ち上げられても、まともに反応できないほどにショックが大きかった。

男は殺気だった表情で響子を睨みつけると、荒々しく突き放した。畳に転がった響子には見向きもせず、ガタガタと戸棚を漁っている。
中から道具を取り出すと、腹立たしそうに響子を見ながら責めの準備を始めた。
ガチャガチャとガラスのぶつかる音や液体を注ぐ音が聞こえたが、精神的および肉体的にかなり衝撃を受けた響子はほとんど反応しなかった。

「あ……」

頼広に畳から引き起こされて四つん這いにされた時、僅かにむずかるようにもがいたが、ペシンと尻たぶを引っ叩かれてすぐにおとなしくなった。
膝立ちにされたが脚に力が入らず、すぐに崩れ落ちそうになる。男は響子の股間を開かせて安定を取り、何とか犬這いにさせた。
腕は背中で縛られたままだったから、顎と両膝の三点で身体を支えている格好だ。
しばらくぐったりしていた響子は、お尻に異様な感触を得てビクンと身体を震わせた。

「痛っ……!」

肛門に鋭い痛みを感じ、慌てて響子が振り返ると、頼広は大きな筒のようなものを抱えて、それを響子の尻に押しつけている。
その筒先か何かで肛門を突っついたらしい。

「な、何を……あう!」

狭く引き窄められていたアヌスに、冷たく硬いものがするっと貫通してきた。
異物が入り込んだと思い、慌てて括約筋を引き締め、阻もうとしたが、それはもう響子の肛門内に入り込んでしまったらしい。

「な、何してるの!? あっ、痛い!」
「……浣腸だよ」
「か……」
「知らないのか? あんたの尻の中に薬を入れてやるのさ」
「な……」

あまりのことに響子は唖然とした。
男の言っていた「仕置き」とはこのことだったらしい。
さっきの強烈な平手打ちこそそれがだと思っていた響子は激しく動揺した。
あれだけでも充分なお仕置きになるだろうに、さらに酷いことを仕掛けようとしている。

頼広は太いガラスの筒──浣腸器のノズルを響子のアヌスに突き通し、そのままゆっくりとこねくった。
ぷくりと小さく膨らんだノズルが、じんわりと響子の肛門粘膜を拡げるようにこね回し、ニチニチと粘膜の鳴る淫らな音をさせている。
響子は驚愕と恐怖に打ち震え、激しく腰を振り、前へ這い上がろうとした。

「やっ、いやあっ!」
「やめろ、動くな!」

その響子を頼広が激しく叱咤する。

「動くんじゃない。こいつはガラス製なんだ。細い嘴管があんたの尻の中に入り込んでるんだぞ。それが折れたらどうなると思う」
「……!」

もし折れでもしたら、ガラスの破片が腸内に散らばることになる。
割れた部分で肛門や腸管を鋭く傷つけることになるだろう。
よくはわからないが、深刻な事態にになるに違いない。
医者に行くしかないが、なぜこんなことになったのか、恥ずかしくて説明する気になれない。
響子は、血まみれになる自分の臀部と肛門を想像し、「ひっ」と喉を小さく鳴らして動きを止めた。
そこへすかさず、頼広が浣腸液を注入していった。
太いシリンダーが押され、粘度の高そうな液体が筒内でどろりと渦巻いて、響子のアヌスの中へ注ぎ込まれていく。

「んんっ!? あ……あ……、いやあ!」

初めての浣腸は強烈だった。
ズーンと重苦しい液体がずずっと注入されてくる肉体的な不快さに加え、こんな恥辱的なことまでされてしまったというで精神面も汚辱にまみれてしまう。
響子は尻を振り、アヌスを引き絞って何とか注入を拒もうとするのだが、そんなことではとても押しとどめられなかった。
どろりとしたグリセリンが腸管を刺激する感覚に、響子は腰を震わせて呻いた。
拒もうとする動きが控え目なのは、ガラスが割れると脅されたことが利いているからだ。
どろっとした粘液が頭の中にまで入り込んでくるようで、響子は視界が暗くなってくる。

「あ、あう、いや……、ぐぐ……あ、あむ……ううんっ!」

液体の刺激が腸管を襲うと、響子は思わず仰け反り、唇を噛みしめた美貌を持ち上げて呻いた。
頭を振りたくり、美しい黒髪がばさっと宙を舞っている。

「ど、どうして……どうしてこんな酷いことするんですか……、あ、入れないで、ううむ……」
「あんたが素直に俺の言うことに従わないからさ。あんたはもう俺のものだとわからせてやる」
「だ、誰があなたのものになんか……ひっ……うぐっ」

響子は持ち前の気丈さを発揮して、泣き叫ぶ寸前にまで追い込まれながら、必死になって涙と泣き声を堪えていた。
しかし、そんなやせ我慢も虚しく、腰を中心として響子の全身がわなわなと細かく震えてくる。

「や、やめて、もう……もう入れないで……うむ……あ、あ、気持ち悪い……へ、変な感じがする……いやよ、もう……しないで……あむ……」

断続的に浣腸液が注ぎ込まれ、響子の裸身から冷や汗が噴きだしてくる。
羞恥と恥辱、汚辱感が響子の頭と胸を灼いていく。
浣腸経験のなかった響子には、それが一層につらく感じられた。

「あ……あ……、うむ……」

浣腸液が300ccほども注ぎ込まれると、じわっと腸管におぞましい感覚が湧き起こってきた。
それが便意だと覚ると、響子は狼狽えてしまう。
一度意識してしまうと便意はますます強まり、じわじわとお腹の中を犯していくように思えた。

「も、もうやめて……ああ……」

これ以上入れられたら我慢しきれなくなる。
耐えきれなくなったらどんな結果をもたらすのかと思うと、響子の気丈さにヒビが入ってきた。

「やめて、お願い……もう……もう入れないで……ああっ」
「まだだよ。あんたがここから逃げようとしたことを反省するまでは許さない」
「そんな……」
「もう少しで500cc全部入っちまいそうだぜ」
「い、いや、そんな……」
「それ、これで終いだ」
「ひぃっ!」

100ccほどが一気に注入され、響子は背筋をぐうっと伸ばして大きく仰け反った。
気をやったようにも見えるその仕草に、頼広の男根が硬く充血していく。

「んあっ」

ノズルを引き抜かれ、響子は慌てて括約筋を引き締めた。
肛門は浣腸液に濡れ、わなわなと痙攣している。
響子は、その美貌に脂汗を滲ませて、強まる一方の便意を必死に堪えていた。

「いや……、ゆ、許して……」
「許して? 何を許して欲しいんだ?」
「くっ……」

便意の発作が高まると、思わず顔を振りたくる。
堅く閉じたまぶたと、美しい形状の睫毛が細かく震えていた。
襲いかかってくるおぞましい便意に、響子は全身を息ませて凝れ、膝をがくがくと痙攣させている。

「く、苦しい……ああ……」
「……」

男は、苦悶する響子をじっと見つめている。
その美貌が便意で悩乱するのを見ているだけで、ペニスが痛いほどに勃起してきた。
いきなり響子の尻を抱えて犯そうかとも思ったが、今はまずこの美女が崩壊する姿を見てみたかった。
その響子の顔が青ざめてきた。

「ほ……、ほどいてください……」

響子は、縛られているのは腕だけで脚は自由なのだが、そのことすら忘れて男に懇願していた。
その脚までも、もうすっかり萎えてしまっている。

「ほどいて……、お、おトイレに行かせて……」

響子は歯の根も合わなくなってきている。
さっきから腹部はぐぐっ、ぐるぐるっと不気味な音をさせていた。
腸管は便意で漲っている。内側から腸壁を苛んでいる便意は、もう限度にまで来ていた。
一刻の猶予もなさそうだった。

「早く……お願いっ……おトイレ行かせて……」
「……」

目に涙を浮かべて哀願する響子を、男は冷たい目でじっと見ている。
もしや男はこのままトイレに行かせてくれないのではないか。
そう思うと響子は戦慄した。
このままでは、この男の前で排泄という破局を晒すことになってしまう。
そんなものは、夫だった惣一郎はもちろん、他の誰にも見られたことはない。
それをこの男に見られると思うと、響子は気が遠くなった。

「ああ、お願いですっ……もう……もう我慢できませんっ」
「そうか。なら認めろ」
「な、何をですか……ううっ」
「あんたが俺の女だということを認めるんだ」
「な、何をそんな……そんなことあるわけが……あっ」

思わぬ言葉に、響子はキッとして頼広を睨みつけたが、すぐに首をすくめて呻いた。
少しでも身体を動かすと、恐ろしい便意が今にも決壊しそうになるのだ。

「い、いやよ、そんな……」
「言えよ。言えなきゃ便所はなしだ」
「そんなこと……そんなこと死んだって言えないわ……あ、早くっ……もう……もう……」
「言えなきゃそのままだ。ずっと苦しみな。そして……」
「い、言わないで! あ、あ……」

響子の身悶えと痙攣が一層に激しくなっていく。本当に便意が限界のようだった。

「お、おトイレ……おトイレにつれてって……は、早く……」

もう拘束を解かれてもトイレまで辿り着ける自信がなかった。
もうなっては、男に連れて行ってもらうしかない。
だが頼広は、トイレに連れて行くどころか、響子が自分で行くことすら許そうとしなかった。
許諾を得るには、屈辱的な言葉を吐かねばならない。
響子は死ぬ気になって堪え忍んでいたが、もうどうしようもなかった。アヌスはひくつき、時折、内側からぐぐっと盛り上がってくる有様だ。
肛門に熱を感じ、慌てて引き窄めるものの、またすぐに膨れあがっていく。
その繰り返しだった。

「頑張るじゃないか、あんた。まだ我慢したいのか?」
「い、いやです、もうだめ……」
「じゃ、言うんだな。俺の女になる、と」
「いや、そんな……わ、私は……ああっ!」

響子は肛門に刺激を感じ、驚嘆した。
頼広が響子の臀部を押し開き、そのアヌスに指をあてているのだ。
何もしないでも便意が炸裂しそうなのに、男は響子の肛門を指で擦り、大きな手のひらで苦悶する腸管を腹の上から撫で擦り、揉み込んだ。
響子は目を剥き、大きな悲鳴を上げた。

「ひあっ、いやあっ! だ、だめ、そんなことしたらっ……」
「どうなるんだ?」
「い、言えませんっ……ああ、もうだめ……が、我慢できないっ……」
「らしいな。尻の穴がひくひくしてるぜ。しかも随分熱くなってる。この内側が滾ってるのがわかるぜ」
「さ、触らないで! あ、お腹もさすっちゃだめえっ……!」
「言えよ、ほら」
「ああ……」

暴力的なまでの便意で、響子は頭が白く灼けてくる。
膝はがくがくと震え、内股になっていた。
足の指もぐぐっと屈まり、握りしめた両拳にも力が入って、指が白くなっている。

もう、どうなってもいい。
何でもいい。
この地獄の便意から解放されるなら、どんな恥ずかしいことでも言えると思った。

響子は、半ば失神しかけながら、とうとう屈服した言葉を口にした。

「あ、あなたの……あなたの女になります……」
「よし、もう一度だ。「響子はあなたのものです」と言うんだ」
「きょ、響子は……ああ……響子はあなたのものです……ううっ」

響子は、もう今何を言っているのか、よくわかってはいない。
激しい便意に責め苛まれ、ただ男に言われた通りに鸚鵡返ししているだけだ。

「もうひとつ。「どんなことでもされます。好きにして」と言え」
「ど、どんなことでもされますから……ああ、す、好きにして……」
「いいだろう」
「ああ……」

屈辱の言葉を口にさせられ、その悔しさに一瞬気位が戻った響子だったが、すぐに現実的な苦痛に支配される。

「は、早く……、もうだめです……あ、あ……も、漏れちゃいますっ……」
「わかった、わかった」
「あっ」

男はがっしりした体格にふさわしく、太い腕で響子を難なく抱え上げた。
後ろから響子の膝の下に腕を通し、赤子におしっこをさせるような恥ずかしい格好で持ち上げている。
しかし、当の響子にはそんなことを斟酌する余裕はなく、ただひたすら苦痛の塊を排泄したい一心だった。
頼広はそのまま狭いトイレに入り、洋式便器の蓋を開ける。
まだ響子は抱えられたままだ。
トイレを見ると、ようやく排泄できるとわかり、さらに便意が高まってくる。
もう一瞬でも我慢できない響子は、後ろの男を振り仰いで言った。

「は、早く……」
「していいぞ」
「何を言ってるんですっ……、早くしないと私……」
「だからしていいって言ってるんだ」
「そんな……、このままじゃ出来ませんっ……、ひ、ひとりにして!」
「だめだ」
「そんな……」
「いやならもうさせないぞ。このまま連れ帰る」

そう言って頼広がトイレから出ようとしたので、響子は喚くように言った。

「ま、待って! もう我慢できないんですっ!」
「だからしろって。但し、俺が見ている」
「そんなっ……」

響子は心底絶望した。
この男は、響子のおぞましい排泄シーンを見る気でいるのだ。
そんな姿は死んだって晒せない。
そう思うのだが、生理的苦痛はとても我慢できる代物ではなかった。
極限に達した便意に、響子の青ざめた唇がわななき、満足に呼吸もできなくなってきた。
目の前が墨を流したように暗くなってくる。
肛門が痙攣し、耐えようがなくなった便意が噴出しようとしているのを自覚した。

「ああ、もうだめ……み、見ないで……見ないでくださいっ!」
「……」
「いやあ! で、出ちゃうっ……!」

響子のアヌスがぐぐっと膨れあがったかと思うと、限界を突破した便意が激しくほとばしり出てしまった。
白く口を開けた洋式便器に、苦悶の塊が勢いよく排泄されていく。

「い、いやああああっっ……!」

響子は泣き喚いて止めようとしたものの、とても押しとどめられず、次から次へと排泄していった。
一度発作が終わっても、またすぐに肛門がわななき、ドッとばかりに排泄が続く。
永遠とも思える恥辱の時間がようやく過ぎ去り、響子のアヌスがきゅっと引き締まった。
全部絞り出してもアヌスはまだわなないていて、たらりと粘液が滴っている。
死にも勝る恥辱を味わわされた響子はぐったりと弛緩し、男の腕に全身を任せていた。

(も、もうだめ……あんなものまで見られてしまっては……)

美しい未亡人は、恥辱と屈辱の姿を見物され、もう二度と立ち直れないと思うほどのショックを受けていた。
もう泣き叫び、喚くこともなく、響子は放心状態だった。
再び布団へうつぶせに転がされても、ほとんど反応はない。
その僅かに震える尻に、頼広はまた浣腸を仕掛けてくるのだった。

「ああっ!」

肛門にノズルを突き通される感覚に、それまでぐったりとしていた活が入ったように響子は仰け反った。
弛緩していた裸身が硬直し、臀部が強張っている。
驚いたように頼広を振り返った響子が激しく抗議する。

「ど、どうしてっ!? さ、さっき終わったばっかりなのにっ!」
「あんたを完全に屈服させるためさ。それに、誰も「一度しかしない」なんて言ってないだろう」
「そんな、ひどい……、あ、あっ、入れないで!」

頼広がゆっくりとシリンダーを押し込み始めると、響子はぶるるっと大きく震えた。
ガラス同士が擦れ合う耳障りな音が微かに響き、ドクドクとグリセリンが響子の腸内へ侵入していく。
そのおぞましさと汚辱感に目眩を感じながら、響子は呻いた。

「や、やめて、もう……もう許して……あむむ……」

脅えて震え、そして悶えている響子を見ているうちに、頼広のペニスは完全に勃起していた。
美しい未亡人、それも憧れ続けていた響子の美貌が苦悶に歪む様子は、彼の性感を限りなく上昇させていく。
自然と男の手にも力が籠もってきた。
たちまち200cc、300ccまで注入され、響子の呻き声が生々しくなってくる。

「あ、あ、もういやあ……うむっ、き、きつ……ああ、お尻が、お尻が……」

浣腸と排泄で爛れてしまった肛門粘膜に、グリセリンがビリビリと沁みてくる。
すっかり綺麗になった腸内も、溶液の刺激が直接内壁と粘膜に伝わり、響子を責め苛んだ。

「あう、もういや……許して、お願い……もう苦しい……」
「反省したか? もう逃げないか?」
「に、逃げません……逃げませんから、もう……」
「よし、ならもう一度言うんだ。あんたは誰の女だ?」
「っ……。あ、あなたの……あなたの女、です……ああ……」
「もう一度。響子の身体はあなたものです、だ」
「きょ、響子の……くっ、身体は、ああっ……あなたのものですっ……! た、たまらない……ああ、もう入れないで!」

半死半生で何とかそこまで言い終えると、響子の喉が「ひっ」と鳴った。
とうとう男は全部注入し終えたのだ。
ノズルが抜かれ、響子はがっくりと顔を布団に沈めていたが、すぐに「ああっ」と叫んで震えだした。

「ううっ……く、苦しい……お腹がもう……」
「苦しいか? なら、少し紛らわせてやるか」

男はそう言って、うつぶせて潰れている響子の横乳を揉み出した。
そのうち響子が、便意による腸の痛みを和らげようと腰を持ち上げたため、余計に乳房を愛撫しやすくなっている。
汗にぬめった大きな乳房をたぷたぷと揉み込まれたが、もう響子はそれに構っている余裕はなかった。
乳首も硬くなっていたが、これも快感反応ではないだろう。

「もうだめ……が、我慢できない……」
「もうか。早いな」

腸内に何もないだけに、一度目よりも刺激はきつい。
響子は不気味に鳴るお腹をうねらせて呻き、男に哀願した。

「お、お願いです……おトイレ……またおトイレにつれてって……ああ……」

早くも響子の美貌が青ざめ、唇がわなないている。
ぶるぶると白い臀部が痙攣し、僅かに立った膝がガクガクと今にも崩れそうだ。
尻の深い谷間にあるアヌスも、ぐぐっと盛り上がり、また窄まるのを苦しげに繰り返していた。
それでも我慢しきれないようで、時折、僅かに溶液が漏れ出てくるのがわかる。

「もう無理、無理です……我慢できないっ……出る、出ちゃいますっ……だめ、もうだめ、早くぅっ!」

腸内で便意が荒れ狂い、頭の中が虚ろになってくる。
男が胸に悪戯しても反応できず、今はもう激しい便意だけが脳内を支配し、意識をジリジリと灼いていた。

「おっ、お願いです、もう出ちゃう……ああっ!」

限界だと思った頼広は、響子を抱え起こすと、またおしっこ抱っこして便器の上まで持っていった。
響子はまだ恥ずかしいのか、涙に濡れる瞳で訴えかけるように男を見上げたが、やがて諦めて悲しそうな表情になる。
もう気力が切れても、いつでも排泄できるという安心感からか、響子はまだ頑張っている。
またしてもこの男に排泄を見られる、もっとも恥ずかしい行為をつぶさに見物されるという恥辱を思い、最後の気力を振り絞っている。
しかしその努力もいくらも保たず、響子は泣き叫ぶように絶叫した。

「いやああっ! で、出るっ、見ないで、お願いっ……!」

お尻が痛くなるほどの排泄感に打ちのめされ、響子は泣き喚いた。
ドッとしぶきだした排泄物は綺麗なもので、もうほとんど便はなかった。
とはいえ、肛門から排泄しているもの、あるいはその様子を見られるという最大の恥辱がなくなるわけではない。
響子は、あとからあとから噴き出させながら、白い裸身を揉み絞るようにして泣いている。

ようやく悪夢の時間が終わり、綺麗に後始末されて、また布団に連れ戻された。
さっきは完全に放心状態だったが、今度は悲しげにすすり泣いている。
もっとも見られたくないものを見られ、お腹の中まで知られてしまった絶望感に打ち拉がれていた。
男が興味深そうにお尻の穴をいじくり回していても、抵抗する気になれない。
ただ、男の指がアヌスの粘膜を擦るように触ってくると、その刺激で尻をもぞつかせている。
指の感触というよりも、まだ滴っているグリセリンを粘膜にぬりたくられているせいで、ビリビリと痺れてくるのだ。
そのうち、別の感触がして、響子は「んっ」と呻いた。

「……なあ、あんた。こっちを可愛がられたことはあるのか?」
「……」

男がそう尋ねても響子は答えなかった。
どうもお尻の穴に何か入っているらしいことはわかる。

「どうなんだ? 音無のやつはこの尻をやったのか?」
「……あ、いやです……そ、そんなところ、触らないで……」
「答えろよ。音無は……」
「あ、あの人はそんなことはしません……ああ、いやです、し、しないで……」

男の太い指が肛門に入り込み、腸内を撫で回している。
そんなことをされればもっと痛いはずなのに、二度の浣腸と激しい排泄でそこはすっかり爛れており、緩くなっているようだ。

「ゆ、指、しないで……いや……」
「良さそうな尻だな。これなら充分できそうだ」
「あっ……」

指がそこから抜かれてホッとしていると、突然に腰を掴まれ、ぐいっと持ち上げられた。
また膝立ちにさせられたが、腕に力が入らず、顔はシーツに押しつけられたままだ。
男が後ろから迫ってくるのを感じ、響子は力なくつぶやいた。

「いや……、もういやです……。明日……、明日、抱かれますから、今日は許してください……」
「……」
「つ、疲れてしまって、もう……。せめて、少し休ませて……、おとなしく抱かれますから……」

そんな響子の顔を見て頼広も絶句してしまう。
響子の様子があまりに不憫だったからだ。
このことからも、彼は肉欲のみなら響子を奪ったのではないことがわかる。

だが、すぐに気を取り直して尻を抱えた。
止められぬと覚ると、響子は哀しそうに「ああ……」と呻いて犯される覚悟を決めた。
一度で終わるかどうかわからないが、取り敢えず射精させれば済むのだ。
尻肉が節くれ立った指で掴まれ、割り開かれる。
その奥に男のペニスが押しつけられてきた。響子はギョッとして振り返った。
頼広の肉棒は、あろうことか肛門に押し当てられ、そこを揉みほぐすように擦り上げている。

「ちょ……、ちょっと待って!」
「おとなしくしろ」
「や、だから待って! そ、そこ違いますっ」
「違わないさ。俺はあんたの尻を犯すんだ」
「な……」

響子は唖然とした。
この男は、まさかそんなところでセックスしようというのか。
ならば浣腸を何度も仕掛けてきたのも肯ける。
逃げようとした罰の意味もあったろうが、肛門性交するための準備だったのではないか。
初めから頼広は肛門を犯そうとしていたのはないだろうか。
響子の身体がビクッと震え、臀部が強張った。

「や、やめて!」

浣腸、排泄で爛れたアヌスに、硬い心棒の入った大きな肉棒がじわじわと押し込まれていく。
響子は悲鳴を上げて必死に犬這いのまま逃げようとするが、男の大きな手が腰を掴んで離さない。
頼広は落ち着いて響子を扱っている。
ググッと尻を割るかのように押し込んで響子に悲鳴を上げさせたかと思うと、スッと腰を引いて力を抜く。
響子のアヌスがひくつき、緩むと押し込み、脅えて窄められると引くのを繰り返していた。
そして肛門がいい加減ほぐれ、柔らかくなると、フッと緩んだ時を見計らって本格的に貫きにかかる。

「や、やめて、いや! そんなところ、お尻なんていやよ!」

響子の泣き声が絶叫になる。

「ひっ、ひっ! いやああっ!」

狭い穴に太いものが強引に押し入ってくる激痛に、響子は喉を反らせて悲鳴を放った。
大きくエラの張ったカリがむりむりと肛門の粘膜を拡張しねじ込まれていく。
アヌスの皺が全部拡げられ、それでも足りずになおも押し広げられる。
ミシミシと音を立てて肛門が軋んでいるような錯覚を受けた。

「いっ……たいっ……さ、裂ける……裂けちゃいますっ……!」

ただでさえ狭隘な肛門は、そこを性交渉の対象にされるという恐怖で脅え、さらに引き窄められてしまう。
それを強行に拡げにかかり、男がゆっくりと男根を沈め込んでいった。

「痛い……やめて、あっ……む、無理です、こんなの……あっ」
「大丈夫だ。俺も最初は無理かと思ったが、あんたのここ、なかなか柔軟性があるし覚えも良さそうだ。いけると思うぜ」
「そんな……無理です……痛い……」
「心配するな。本当に裂けそうだと思ったらやめるさ。俺だってあんたを壊してまで犯そうと思っちゃいない」

押しては引き、引いては押し当てるのを繰り返し、響子のアヌスが馴染んでくるのを慎重に待っている。
潜り込ませる深さを少しずつ少しずつ深くしていって、亀頭の尖った先の部分だけは、もう肛門内にめり込むまでになっていた。
そして、とうとうカリの最も張った部分が肛門にかかっていく。
響子のそこは極限にまで拡げられ、本当に引き千切られるかと思った。
丸い尻に苦痛を耐える脂汗がねっとりと浮かび、ぶるぶると震えて止まらない。

「ぐ、ぐぐ……無理です……し、死んじゃう……うむうう……んああっ!!」

その瞬間、肛門が裂けたような音がした。
錯覚だったが、響子の耳にはバリッと裂けたような音がしたように思えたのだ。
いっぱいに伸びきったアヌス粘膜が、押し込まれるペニスによってめくれ込み、腸内へ引きずり込まれている。

「あ、あうっ……ああっ……」
「よし、ここまで来れば……、もう少しだぜ」
「いや……やめて、もう……うああっ」

響子はもうロクに呼吸も出来ず、身を固くしてひたすら激痛に耐えていた。
頼広と響子の結合部は、今にも裂けんばかりに拡げられ、使い込まれているらしい男の肉棒を飲み込みつつあった。
男は逃がさないように腰を掴むと、ゆっくりと響子の尻を自分の腰へ近づけていく。

「あ……、あう……むむう……」

ぐぐっと男根が腸管に潜り込み、太いサオが肛門を拡げて擦りつけてくる。
そのまま男の下腹が響子の大きく柔らかい臀部に密着し、肉棒のすべてが響子の中に埋め込まれた。
ペニスで腸や胃が押し上げられ、響子は口から男根が飛び出てくるのではないかとすら思った。

「た……助けて……もう、ああ……い、いや……」

肉体的にも精神的にも相当なダメージを受け、響子は唇を噛みしめるが、息が苦しくなって、すぐにあうあうと口を開閉させる。
苦悶の呻き声や喘ぎ声が、合間合間にその口から漏れた。

(こ、こんな……こんなことって……し、信じられない……お、お尻を……お尻を犯されるなんて……)

「どうだ。とうとうあんたの尻まで俺のものだ」
「やめて……、ど、どうしてこんなひどいことを……あ……」
「決まってる。亭主だった音無でさえ触れたことのないあんたの秘密を知りたかったからさ。音無も手を出さなかったところを、俺が初めて犯したかったんだよ」

こんなことが普通なのだろうか。
確かに惣一郎は、奥手の響子から見ても、あまりセックスに強くはなかった。
男だから関心がなかったということもなかろうが、どちらかというと響子とのセックスに関しては「腫れ物」扱いだったようにも思う。
かなり年が離れていたこともあったし、当時まだ響子は高校卒業したてだったこともあって、気を遣っていたのだろう。
だからセックスもごくノーマルだったし、響子はそれで不足はなかった。
まさか肛門でセックスするなどという変態行為をするはずもなかったのだ。

「やっ……やあっ……う、動かないで!お願い、そのまま……いや!」

頼広がゆっくりと動き始めると、響子はたちまち悲鳴を上げた。
むちっと綺麗に張った臀部が男の下腹にぺたん、ぺたんとくっつく。
突き上げられる肛門から腸管にかけて、名状し難い苦痛と熱が伝わってくる。
男の欲情が肉棒に達し、それが響子の肛門にまで伝染してきているのだ。
張り裂けんばかりの苦痛は、何度もピストンされていくうちに次第に麻痺して感覚が薄れ、痺れとなっていく。

「あ、あう、あううっ……し、死ぬ……死んじゃう……あああ……」

ずぶっと根元まで埋め込まれると、ペニスの先が口から出てきそうな錯覚に囚われ、ずるずると引き抜かれると、腸ごと外へ引き摺り出されるような気がした。
「やめて」と哀願する響子を無視して、男はだんだんと腰を強く打ち込むようになる。
思った以上に響子のそこは性交に適していると見抜いたのだ。
そのうち、膣にも負けぬ性感帯となり、第二の性器となるに違いない。
次第に肛門凌辱に馴れ、苦悶し、悶える響子の美貌、そしてきゅっ、きゅっと膣以上に引き締めてくるアヌスの収縮に耐えきれず、男は大きく吠えて響子の
腸内に濁液を放っていた。



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