昭和64年。春の日差しから初夏のそれに変わりつつある皐五月。
夜11時を回っていた。
都内某所のラブホテル街にあるホテルの一室で、一組の男女がもつれ合っていた。

男−20代後半といったところだろうか。
中肉中背。
茶髪でパーマ。
色もパーマも天然らしい。
顔には若かった頃のにきび跡がまだ残っている。
一見、サラリーマン風である。

女−こちらは10代後半もしくは20代前半といったところか。
スレンダーな体型で髪は黒。
今風(1988年当時)にソバージュをかけている。
肌は白いが、化粧は濃いめ。
十分に美人と言えるだろう。
見た目、いかにも当世の女子大生という雰囲気だ。

「うっ…ううっ」
「んっ…んっ…」

女性が騎乗位で男性の上に乗っている。
男は女の下で、手を伸ばして乳房を揉んでいるが、どちらかというと女の側が積極的に見える。
自ら腰を振りながら女が言った。

「ほらほら、もっと頑張んなさいよ」

ペニスを膣で締め付けられ、男は快感で顔を歪めている。

「くっ……この!」

負けじと腰を女に突き出すようにして責め返した。

「あ……いいわ……そう、その調子」

男根が子宮に当たりだすと、ぞくぞくするような疼きが生まれくる。
揉み込まれる乳房からも官能が走り、媚肉から愛液が零れてきた。

「ん……あ、あ……い、いいわよ、いっても……」
「よ、よし……」

男はがしがしと腰を動かし、女の腰を押さえ込む。
抉るように膣を突き込むと、女は「ああっ」と背を反らせて喘いだ。
それまでも、きゅんきゅんと締まって男の肉棒を絞っていた女の膣は、この時いっそうの締め付けを
見せた。
きゅううっと締まる媚肉の襞に、男はたまらず呻いて射精した。

「く……出る!」
「あっ……」

男が射精すると、女もそれに合わせて達した。
そのまま男の上に倒れるとしばらく呼吸を整えていたが、するりと男の脇に潜り込んだ。
そしてうつぶせのまま、髪を掻き上げてタバコに火をつけた。

「……けっこう巧くなってきたじゃない」
「もっと言い方があるだろ」

男はそう言いながら上半身を起こすと、コンドームを外した。
そして同じようにうつぶせになりタバコを取り出すと口にくわえた。
女はそこにライターで火をつけてやりながら言う。

「だって、特別うまいってわけじゃないもの」

年齢の割りに、女の方が経験豊富らしい。
ちっと舌打ちすると、男はタバコの灰を落とした。

「もう、こんなもんでいいじゃないの」
「そうね、もういいかな」
「しかしなあ……」

男はタバコをもみ消した。

「そこまでしなくちゃいけないのかね」
「なによ」

女が男を睨む。

「怖じ気づいたわけ?」
「そうじゃないけどさ……」
「あんたにとっても役得じゃないのよ。何か不満なわけ?」

女も灰皿にタバコを落とした。
もみ消すのではなく、火のついた頭をだけを折った。

「やるったらやるのよ」

女の瞳が光る。

「こうでもしなきゃ……」

男は呆れたように女を見、仰向けに寝ころんだ。

「そんなにあいつがいいのかねぇ……」

女は「フン」と鼻を鳴らすと、むっくり起き上がった。

「少なくとも、あんたよりはずっとね」
「おい」

男が、ベッドから降りようとしている女の腕を掴んだ。

「なあ、もう一回どうだい? 今度こそ思いっ切りいかせてやるぜ」
「バカ言ってんじゃないわよ」

女はその腕を乱暴に振りほどくとシャワー室へ歩いて行った。
その背を男の声が追いかける。

「おい、カネの方は大丈夫なんだろうな?」

女は振り向いた。

「……ちゃんと一回ごとに手当は払うわよ。なによ、カネ、カネって…」

機嫌を損ねたような女を見て、男は肩をすくめてため息をついた。

─────────────────────

同日、同時刻。東京都練馬区。
時計坂という町にある古アパートの一室で一組の男女がもつれ合っていた。

男は五代裕作という。
この年で28歳になる保育士で、このアパート−一刻館−の管理人の夫である。
中肉中背で、見た目は冴えない男だ。

女─音無……もとい五代響子という。
一刻館の管理人を勤めており、この年の秋に30歳になる。
裕作の妻である。
肉感的な肢体の持ち主で美人で、若い頃からグラマーであったが、ますます脂が乗っているようだ。

「うっ……んっ…んっ……」
「ああ……あっ…あっ……」

裕作は響子の上で盛んに腰を振る。
裕作の動きに合わせ、響子も腰を蠢かす。
突き込んでくると、響子の膣に甘い官能が次々と生まれ、全身に性の悦びが走り出す。

「ああ……いいわ、あなた……」

響子の手が裕作の背に回り、ぎゅっと抱きしめる。
裕作も響子の白い首筋に口づけし、女の官能を煽った。
響子の表情が快感で潤んでくる。
妻の、年に似合わぬ可愛らしい喘ぎに夫も切羽詰まってくる。
それまで一定だったピストンのリズムが狂いだし、ずんずんと無秩序に響子を責めた。

「ああっ……ううんっ……」

響子は喉を反らせて、その喜悦を訴える。
膣を突いてくる夫のペニスがビクビクと痙攣し出し、亀頭部が膨れてくるのを感じて、響子は裕作の
射精が迫っていることを知った。

「い……いいわよ、あなた…」
「うん……じゃあ、いくよ」

妻の許しを得て、裕作は腰の律動を早めた。
それがまた響子の官能を刺激する。

「あっ……あ、あたしも……」
「いいよ、いって……あ、俺も……」

裕作が思い切り突き上げると、響子はぶるっと痙攣して達した。
若い頃から変わらぬ締め付けのきつさに、裕作も呻いて射精する。

「ううっ」

夫の精が膣に放射されたことを知ると、響子はその満足感でまた軽くいった。
その直後の、けぶるばかりの美しい妻に夫はそっと口づけした。
響子もそれに応え、軽く舌を交わした。
うっとりとした顔で互いを見つめ合うと、どちらともなくクスリと笑ってしまう。
まだ何となく照れくさいのだ。
初々しさが残っているのは当然で、このふたりが結婚してまだやっと一ヶ月である。
しかも身体の関係は結婚直前くらいだったから不慣れなのだ。
加えて夫も妻も、そっちの経験が極めて少ない。
冴えない裕作の方はともかくとして、美人と評判の未亡人だった響子は、幾多の誘惑にも関わらず、
前夫・惣一郎が亡くなってこの方、裕作と結ばれたその時まで、実に8年もセックスレスだったのである。
照れ屋戸惑い、羞恥があるのも当然と言えた。

響子から降りてその脇にうつぶせになった夫に、妻はそっと顔を寄せた。
結婚までに長い熟慮期間が必要だったが、裕作と結婚して良かったと思っている。
三鷹瞬に求婚されたときは随分と戸惑ったものだ。
瞬が自分に気があることは、いくら響子が鈍くても判った。
だが、その時は既に響子の心は裕作に向いていたのである。
ただ、それを口にすることが出来なかった。
裕作の方が優柔不断でなかなか切り出さなかったこともあるし、響子の誤解で裕作に他の女がいると思って
しまったこともある。
誤解に錯誤、嫉妬から来る憤怒は、響子と裕作の間に常にあったのだ。

だからこそ、瞬のプロポーズには動揺し、また折り悪くその頃に裕作にいろいろあって、それで踏ん切った
のである。
ところがそれが誤解とわかり、金沢への旅行の件もあって、ふたりの関係は修復され、同時に急速に進展した。
その後もすったもんだはあったものの、結局、収まるべきところに収まった感じだ。

今になってみると、なぜあの頃はふたりともはっきりしなかったのだろう。
裕作も、男ならきちんとけじめを付けるべきだと思う。
いや、そうではない。
やはり響子の方こそが、はっきりするべきだったのだ。
そうすれば、裕作はもちろん瞬ももっと選択肢があったろう。
自分だって早くに幸せをつかめたはずなのだ。

だが、もういい。過去のことだ。
今、響子は幸せだし、裕作もきっとそう思ってくれているはずだ。
瞬の方も、成り行きとはいえ九条明日菜と結婚し、子宝にも恵まれて、充実しているようだ。
響子は裕作の腕に顔を寄せたまま言った。

「まだ……出来ませんね」
「え? 出来ないって?」
「だから……赤ちゃん」

ふっと響子の頬が赤く染まる。
一瞬きょとんとした裕作はすぐに笑い出した。

「何です?」
「だってさ」

年下の夫は苦笑しながら言った。

「まだ結婚してひと月だよ。いくら何でも早すぎですよ」
「そうなんだけど……」

響子も笑って言った。
笑顔が優しい。

「私、歳が歳だし、出来るだけ早い方が……」
「歳って……、そうかなあ。まだ30前……痛っ!」

響子が少し拗ねたような顔で裕作の胸を抓っている。
年齢のことを言い出したのは響子の方だが、具体的に言われるのはやはり面白くないらしい。
女性心理は難しい。
とはいえ、妻は裕作よりも2歳年上だし、そろそろ三十路というのは気になるようだ。
惚れ抜いて結婚した裕作は、そんなことはまったく気にしていないが、響子の方はそうもいかないようだ。

「実家の方も……特に父がね、早く孫の顔を見せろって」
「ああ……」
「お母さん……母もね。それにあなたの実家だって早く孫は欲しいでしょう? おばあさまが元気な
うちに」
「あのばあちゃんがそうそうくたばるとは思えないけど、でも曾孫は欲しいみたい」
「でしょう?」
「でもなあ、こういうことは運もあるから。響子も俺も健康だし、そのうち出来るとは思うけど」

裕作には裕作で心配なこともある。
家計である。

今の裕作の給料と響子が管理人を務める一刻館からの家賃収入だけではさほど余裕はない。
というより、今の入居世帯数と家賃を考えれば、税金や経費を支払ってしまえばほとんどトントンくらい
であって、ここから多額の収益を望むことはまず出来ない。
実際、質素な響子がひとりで暮らすには不自由なかったが、逆に言えばその程度なのだ。
現在の経済状況で扶養が増えるというのは、かなり切実な問題になるわけだ。

もっとも、響子の方もそれは承知している。
管理人の仕事に影響がない程度に、出産後はパートに出てもいいと考えていた。
だが、それもこれも子供が出来た後のことだ。
今はまず、愛の結晶を作ることが先決になる。
裕作が聞いた。

「で、さ。今、響子は……」
「?」

夫の聞きづらそうな様子で、妻はすぐに気づいた。

「ああ、今はそう……ね、そろそろ適切な時期ってとこかな」
「じゃあ、このまましばらく頑張れば……」
「うん」

考えてみれば、裕作との行為はすべて中出しだ。
避妊していないのである。
そもそも婚前の性交渉はその一回だけだ。
そこから結婚するまで半年あったが、なんだかんだでセックスしていなかった。
あれこれ忙しくてそこまで余裕がなかったのだ。

結婚してからは、新婚旅行から現在に至るまで、すべてコンドームなしでセックスしている。
ふたりとも、ゴムに隔てられることなく互いを感じていたいという思いもあったし、やはり子供が
欲しかったからである。
響子は29歳で、今から妊娠して出産するとなれば、すぐに懐妊しても産む時には30歳になっている。
取り分け高齢出産というわけではないものの、やはり20代前半の若い女性に比べれば、いろいろ苦労は
あるかも知れない。
双方の両親が健在なうちに、ということもある。
響子がやや焦り気味になるのもわからないではない。

とは言うものの、そうそう毎晩セックスしているわけではない。
体調が今ひとつという時もあるし、裕作が仕事で疲れている時は無理強いしたくない。
裕作の方は、独身時代は響子を妄想して何度も自慰していたくらいだから、堂々と夫婦生活できる
今なら思う存分に出来る。

しかし裕作は、そう絶倫という方ではない。
響子とセックスしても、続けて何度も、ということはなかった。
新婚旅行の際、前の晩にセックスして、朝起きてからまた抱いた、ということはあったが、例外的な
ケースだ。
裕作自身、自分が思ったより淡泊なので驚いたくらいだ。
響子を思ってオナニーした時は日に二度、三度としたことはあるのに、いざ抱いてみるとそんなことは
出来なかった。

もちろん健康な男子だから人並み以上に性欲はあるし、性交は好きである。
だが、まだ彼には響子に対する遠慮がある。
あれだけ憧れて、しかも強力なライバルを蹴散らしての結婚だったから、響子を神聖視していても
おかしくはない。

夫となってからはそこまでのことはないものの、それでも年上女房ということもあって、完全に尻に
敷かれている状態である。
響子は対等のつもりらしいが、年齢的にも性格的にも、どうしたって裕作が敷かれることとなる。
だから、裕作の方が強引に押し倒してでも響子とセックスする、ということはなかった。
そうしたいという願望がないでもなかったが、そういう意味で裕作はノーマルであり、セックスは双方が
求め合ってのものだと思っている。
フィクションとしてのレイプや変態行為はもちろん興奮するのだが、あくまで絵空事だと割り切っていたのだ。

良識的だが、響子にはそれが少し物足りない。
女にも──響子にも性欲はあるのだ。
別にレイプのように犯して欲しいとか、縛り上げたりしばいたりとった過激なことをしてもらいたいと
思っているわけではない。
そんなことは全然ない。

ただ、エスプリでもいいから、たまには変わった「味付け」もいいと思っている。
例えば、着衣のまま行為に及んでしまうとか、いきなり後ろから抱きついてくるとか、そういう行為だ。
それを想像するとゾクリとする。
優しい夫との穏やかなセックスに不満はないが、飽きないためにも、たまにはそんなのもいいと思うのだ。

だが、そう思う響子よりも夫の方が若いのだ。
響子自身、裕作がまだ自分に遠慮している、気圧されている面があることはわかっている。
結婚生活を続けていくうちに裕作にも余裕が出来るだろう。
その時は、そうした「遊び」も混じってくるかも知れない。
焦ることはないのだろう。

「いずれにしても、こうやって「努力」していれば、そのうち何とかなるよ」
「ふふっ……、そうね「努力」しなくちゃ」

そう言って響子は、夫の頬に軽くキスした。

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裕作は旧友と再会し、旧交を温めていた。
酒はあまり強い方ではないが、やはりこうした席の方が気兼ねなく話せる。
そういう意味でアルコールは好きだった。

「ひさしぶりだな。式以来か?」

そう言って裕作は相手──坂本のグラスにビールを注いだ。
大学受験を失敗し、一浪した時に予備校で知り合った友人である。
受けた大学も同じで、合格したのも同じ年だ。
卒業後は合う機会は減ったものの、たまに連絡を取り合っていた。
どこがどうというわけではないが、何となく気が合って付き合いが続いている。

「だな。連絡のひとつもくれりゃあいいのに」
「そりゃお互い様だよ。おまえだって連絡してくれなかったじゃないか」
「あたりめえだよ。新婚ホヤホヤの亭主をそうそう気軽に誘い出せるもんか」
「関係ないよ、そんなこと」

裕作はそう言って笑った。
坂本であれば響子も顔見知りだし、嫉妬深い妻とはいえ、まさか坂本に会ったり連れ帰ったりして
怒るものではあるまい。

「あるさ。けっこう気ぃ使ってるんだぜ、これでも」
「無用の気遣いだよ。ま、それでもこうして連絡くれたのは嬉しかったよ」
「そう言ってくれると俺も嬉しいね」

坂本はそう言ってグラスを空けた。
すかさず裕作が注ごうとするビンを奪い取ると、逆に彼のグラスにビールを注いだ。
裕作が言った。

「そういや、おまえはまだ独身なんだな。もう27だろ? 28か?」
「悪かったな。おまえだって同い年だろうが。それに結婚してからまだ半年のくせしやがって。大差ねえさ」
「そうだけどな。でもなあ、おまえの方が女っ気はあったし、絶対に先に結婚すると思ってたがな」
「俺だってそうだ。まさか五代に先を越されるとは思わなかったよ」
「おまえ、遊びすぎなんだよ。よりどりみどり、どれにしようか迷ってるうちに逃げられちゃうんだよ」
「おまえに女のことで説教ぶたれるとは思わなかったな」

坂本は哄笑した。
裕作の方は笑い話で済ませるつもりはないようだ。

「で、今はどうだ? 誰かつき合ってる子でもいるのか?」
「まあ……、いるような、いないような」

坂本の脳裏にひとりの女が浮かび上がるが、それを口にするつもりはないらしい。

「いい加減だな、本気になれよ」
「こっちがその気でもな、相手がどうだか……」
「だからさ」

裕作はグラスを置いて坂本を見据えた。

「だから本気になれっての。腰を据えてさ。相手が根負けするくらいに粘れ。もちろん、つれない態度を
されても浮気なんて論外だぞ。ひたすら一途にだな……」
「そりゃおまえのことか?」

坂本はシニカルに言った。

「おまえが管理人さん……響子さんに惚れて以来、ものにするまで何年かかったんだ?」
「そうだな……」

友人は皮肉で言ったのだが、裕作はまともに受け取ったようだ。

「かれこれ6年……いや7年か」
「……」

呆れて言葉もない。
よくもまあ、それだけ長い期間、ひとりの女を思い続けられたものだ。
最終的に結ばれたから笑い話で済むが、ダメだったことを考えると想像を絶する。
とても俺には無理だな、と坂本は思っていた。

裕作は二枚目ではない。
気の利いた会話も出来ないし、もちろんセックスがうまいわけでもない。
難しいとか扱いにくい男ではないし、外見的にかなり劣るとか、そういうこともない。
取り立てて男性的な魅力はないのだ。
本当に平々凡々、どこにでもいるタイプなのだろう。
ひとつだけ異なっているところがあるとすれば、この辛抱強さというか一途さであろう。
確かにここまで思い込まれれば、相手の女も悪い気はすまい。
だから、響子と結婚する以前にも、裕作の周囲に女性はいたのだ。
もちろん決定的な行為に及んだり、告白する、されるというような事態はなかった。
だが、何かの拍子でそうなってもおかしくない相手はいたのだ。

ぎりぎりまで恋人候補だった七尾こずえはもちろんだが、大学の新歓コンパで知り合った白石衿子とは
ホテルへ行く寸前だった。裕作は彼女に惚れたわけではなかったが、なし崩しに関係してしまっていたら、
彼のことだからずるずるといった可能性はある。
北海道旅行で知り合った大口小夏とも、関係寸前まで言った。
そうした誘いを最終的にすべて袖にしてまで響子を想っていたのである。

今は裕作の妻である響子は、坂本も一時期憧れたことはあって、いい女なのは確かだ。
しかし、そこまで慕うほどのものだろうか。
坂本は軽く首を振った。

「俺にゃとても無理だな。そもそもまだ結婚なんてする気もない」
「でもな、もう歳も歳だぞ」
「稼げるようになってから……、ま、独立したら考えるさ」
「独立か……。そういやおまえマッサージをやるとか言ってたけど、あれ、どうした?」

坂本はほくそ笑んだ。
いつ切り出そうかと思っていたら、向こうから振ってくれた。

「資格は取ったよ。今、小さな治療院に弟子入りしてるとこさ」
「そうか、ならよかった」

そう言って微笑む裕作の顔を見て、坂本はほんの少しだけ罪悪感がしている。
この裏表のない友人は、本気で坂本のことを心配していたらしい。
少し躊躇したが、坂本が切り出した。

「それなんだけどな、ちょっと協力してくれんかな」
「協力? なんだ、それ」
「大したこっちゃないよ。俺のマッサージの練習台になってくれってことさ」
「練習台?」
「そう。俺はもうそれなりの自分の腕に自信はあるんだが、院長のじじいはまだ信用してくれなくてな。
あまり客相手に実践させてくれないんだよ」
「ふうん」
「でもな、こうしたことはやっぱ実践なんだよ。いつまでも院長の見学にサポートだけじゃな」
「そういうものかもな」
「だから、まあ、こりゃおまえだけじゃないんだが、知り合いに声掛けてやらせてもらってんだ。
だからおまえも協力してくれんか?」
「俺を揉むっての?」

裕作は吹き出した。
坂本が自分をマッサージする光景というのが想像つかないのだ。
もう考えてもギャグにしか見えない。

「おい、俺は真面目だぞ」
「わかってるよ。でもなあ……」

裕作は笑いを抑えながら言った。

「俺、あんまり肩とか凝る人じゃないんだよ。されるとむしろ痛かったりくすぐったかったりで」
「若いうちはそうさ。だから俺も、知り合いの親とか奥さんとかを紹介してもらってる」
「奥さん?」
「ああ。やっぱ、どうしたって男よりは女の方が肩凝りするものだからな。男は30前で肩凝りに
悩まされるやつは少ないが、女はもう20代から酷い人は酷いからな」
「そういえば……」

五代が思いついたように言った。

「響子がそんなこと言ってたな。最近、肩凝りが酷いって」
「だろ」

食いついた、と、坂本はにんまりした。

「ああ。もともとあれは若い頃から肩凝りしてたらしいけど、最近は特にな。もう30になるんだから
無理もないけど」
「おまえ、揉んでやったりすんの?」
「たまにはね。でも、そんなにうまくないみたいで、すぐに遠慮されるよ」

裕作は苦笑した。

「まあ、上手下手ってこともあるだろうけど、俺が仕事から帰ってきて疲れてるだろうに、そんなこと
させるのは悪いって思ってるみたい」
「響子さんらしいじゃねえか」
「だから、あれは凝ってると思う。結婚してからテニスにもあまり行かなくなっちゃったから、
運動不足ってのもあるんだろう」
「じゃあちょうどいいな。やらせてくれるか?」
「いいとも」

裕作は笑って言った。

「帰ったら響子に話しておくよ。多分、本格的にマッサージなんかされたことないだろうから、
見も知らないマッサージ師だったら嫌がるかも知れないけど、おまえだったら平気だろう」
「よろしく頼むよ。やっぱ男と女じゃ筋肉の具合も違うから、どっちも経験積んでおきたいしな」
「わかった。あ、それってどこでやるんだ? うちのアパートか?」
「それでもいいけど、設備があるからうちの治療院がいいかな。休みの時は自由に使っていいって
言われてるから」
「そうか。そうだな、アパートでマッサージ受けてる時に誰か来たら、ちょっとみっともないしな」
「そうしろよ。で、おまえはどうする? 見物でもしてるか?」

箸で冷や奴を突きながら裕作が答える。

「遠慮するよ。だいいち、そっちの休みって土日じゃないんだろ? なら俺は仕事中だよ」
「そりゃそうか」
「夜ってわけにもいかんだろうし、なら俺は行けないよ。別に大丈夫だろ、響子ひとりでも」

無論だ。
響子ひとりでないと困るのだ。
そのうち裕作の前でも、と思っているが、籠絡するまでは一対一でもないとまずい。

「俺の方はもちろん平気さ。じゃあ、奥さんによろしく言ってくれよ。俺もひさしぶりに響子さんに
会いたかったし」
「ああ。じゃあ響子の方からでも坂本んとこに電話させるから」

裕作はそう言ってビールを煽った。

─────────────────────

「あ、五代先生!」

坂本と飲んだ帰り道、ほろ酔い加減で歩いていた裕作は、突然に呼び止められた。
振り返ると、走ってきたのか、若い女が息を切らせていた。どこかで見覚えがある。
が、何しろ酔っていて頭がはっきりしない。

「あの……、どちらさまでしたっけ?」
「ひどい! 忘れちゃったんですか!?」

若い女は腰に手を当て、ぷりぷりしている。
その貌をじっと見ているうちに、ようやく思い出した。

八神だ。
裕作が大学四年の時、教育実習に行った女子校の教え子、八神いぶきだった。

「おまえ、八神か」
「そう! やっと思い出してくれた」

いぶきはにっこり微笑みかけた。
その高校の生徒の中でもとりわけ可愛く美人で、なぜか裕作を慕っていた。
一緒に来ていた教育実習の仲間にはうらやましがられたものだが、裕作にとっては「はた迷惑」で
しかなかった。
当時から彼は、響子しか見えなかったからである。

やたらと積極的、行動的な娘で、裕作や響子をたじたじにさせることもしばしばだった。
それだけにやたらと印象深い娘だったはずだが、裕作自身はすっかり忘れていた。
会っても思い出せなかったのは、彼女が高校時代の印象と異なっていたからである。
高校時代は校則もあって、メイクはほとんど出来ない。
精々が基礎化粧品を隠れて使うくらいだ。
つまり裕作としてはほとんどナチュラルメイクのイメージしかない。

それが今、目の前にいるいぶきときたら、もうしっかりと「顔を作って」いた。
女子大生ともなればそれくらい当たり前なのだろうが、裕作としては、いぶきなどは元が良いのだから
ナチュラルで充分だと思う。
もっとも、これは男の勝手な発想で、女性としてはそうもいかないのだろう。
加えて、高校時代のさっぱりしたカットに比べ、今はソバージュをかけている。
これではぱっと見でわからないのは仕方がないのかも知れなかった。

「どうしたんだ、こんなところで」
「それはあたしのセリフです。先生こそどうしたんですか、こんな時間に」
「俺は昔の友達と飲んでたんだよ。それにしてもおまえ、もう午前様になるぞ。いいのか、こんな時間
までうろついてて」
「いつまでも子供扱いしないでくださいっ。あたしもう大学生なんですから。先生の知ってた時代と
違うんです」
「それでもまだ未成年だろうが。それとその「先生」ってのはやめろよ。俺、結局、教職じゃない
んだから」
「いいの! あたしにとっては五代「先生」なんだから」

いぶきはそう言って裕作の手を握った。

「ね、先生、せっかく会えたんだし、飲みに行こ!」
「馬鹿。おまえ、未成年……」
「堅苦しいこと言わないでよ。大体、五代先生だって大学に入った頃は未成年だったでしょ? 
それに浪人時代にだってお酒飲んだでしょうに」
「それは、まあな。でも俺は男だけどおまえは……」
「あーー、男女差別! 許せなーい!」
「……おまえ、酔ってんのか?」
「少し飲んでるけど、まだ全然! ね、先生、行こーよー」
「だめだよ。おまえんとこの親父さん、厳しそうだったじゃないか。門限ないのか?」
「一人暮らしですよーだ。大学受かったら、ご褒美で一人暮らしさせてくれるって約束してたんだもん。
だからへーきです!」
「全然平気じゃないよ」

いぶきの言動に辟易としたのか、それとも時間が気になるのか、裕作は腕時計を見ながら顔を顰めた。
それを見とがめて元気な女子大生が言う。

「何よ、時間が気になるの? ははぁん、新婚の綺麗な奥さんがいるから?」
「わかってるなら帰してくれよ。また今度な。ほら、タクシー探してやるから」
「いや。まだ飲むんだもん」

裕作は呆れたように言った。

「勝手にしろ。俺は帰るからな」
「ひどーい! 可愛い教え子を見捨てるの!?」

いぶきは裕作の両手を握ったまま、いやいやするように腰を振った。
それから裕作を見上げて拗ねるように言った。

「いいもん。先生が行ってくれないなら、あたし、その辺の男引っかけて行っちゃうから」
「お、おい、八神……」
「心配? なら一緒に行こ。それなら安心よ」
「まったくおまえは……」

直情的なこと、強引なことはちっとも変わっていない。
男は諦めたように首を振った。

「わかったよ。それじゃ喫茶店にでも入ろう」
「お酒!」
「なら行かないぞ。どうする?」
「んーー、じゃああたしの知ってるバーにしましょ。そこ、コーヒーとかソフトドリンクもあるから」
「バーじゃ意味ないだろ……。仕方ない、そこに行くけど酒はだめだぞ。少なくとも、俺はもう飲まん」
「わかりましたよ。さ、行きましょ」
「わかったから、そう引っ張るな。そこで電話させろよ」
「奥さんに?」
「そうだよ」

いぶきの瞳が僅かに忌ま忌ましさを湛えたが、裕作は気づかなかったようだ。
女は何事もなかったかのように、にっこり笑って答えた。

「もー、あつあつね。はいはい、電話でもなんでもしていいから。さ、行くぞ−!」

怪気炎を上げる女子大生を、裕作は少しうんざりして見ていた。

─────────────────────

「ん……、んんっ」

息苦しさを感じ、裕作は目を覚ました。
まだ頭が朦朧としている。
飲み過ぎである。
結局あの後、いぶきの馴染みの店だというバーに連れて行かれ、無理に勧められるままにまた飲んで
しまったのである。
もちろん断った。
最初は断ったものの、何度も何度も「飲んで」と言われ、渋々口にしたのだ。
「もう一口」「もう一杯だけ」と、いいだけ飲まされた挙げ句、とうとうカウンターで正体をなくして
しまったのだ。
男のくせに情けないとも思ったが、もともとそう酒が強い体質ではなかったのだから致し方あるまい。

そもそもいぶきの方に最初から姦計があったようで、あまり酒に詳しくない裕作に、やたら強い、
そのくせ口当たりの良いカクテルを飲ませたのだった。
裕作はもう、そこで何を話したのかも記憶にない。
頭痛こそしなかったものの、視界がぐるぐると回り、身体中火照って暑くて仕方なかったことは憶えている。
そして、そのまま意識がなくなったのだ。
気がつくと、目の前にいぶきの顔があった。

「ぷあっ……、や、八神っ!」

あろうことか、いぶきは寝ている裕作にのしかかってキスをしていたのだ。
びっくりしたのは裕作は、滑稽なほどに戸惑っていた。

「お、おまえ! おまえ何をして……んむっ!」

その口に、またいぶきの唇が覆い被さってくる。
仰天する裕作の咥内に女の柔らかく甘い舌が侵入してくる。
僅かにラム酒の香りがする舌が男の口に入り込んでいた。
だが、若い女の甘い香りのする柔らかい唇を心地よく感じる心の余裕などどこにもなかった。
なぜこんなことになっているのだ。
ここはどこだ。

「やめろ!」
「ん……、無粋ね、先生」
「先生じゃないだろ! ここはどこだよ! おまえ何やってるんだ!」
「なにって、キスでしょ。あたしと五代先生のファーストキッス」
「馬鹿なこと言うな!」
「場所はラブホテル。先生が気を失ってる間に連れ込んだの」
「な……、ふ、ふざけるな!」
「そんなに怒らないでよ。大体、裸でそんなこと言っても全然怖くないよ」
「な、何だと!?」
「男の人ってやっぱ重いよ。服を脱がせるの大変だったもん」

そう言われて気がついた。
全裸だった。
しかもその状態で手足が拘束されている。
両手を革手錠で繋がれ、頭上で固定されていた。
両脚は45度くらいに開脚させられている。
その状態で裸なのだ。
よくポルノ小説などで、そんな風に縛られた女の話があるが、まさか男の自分がそんな目に遭うとは
思いもしなかった。
いぶきが悪戯っぽく微笑んでいる。

「……もっとも、五代先生は教育実習の時っから全然迫力とかなかったけどね」
「ふざけてる場合か!? 八神、これはいったい何のマネだ!」
「ああら、ふざけてないもの。あたし本気よ」
「ほ、本気っておまえ……、なに考えてるんだ、八神!」
「だめ」

いぶきは裕作の胸に跨りながら、そっと言った。
人差し指で裕作の唇をちょんと押さえ、その口を封じる。

「『八神』なんてイヤ。『いぶき』って呼んで」
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ! いいからどけ、俺を解けってば!」
「だーめ。だって先生、暴れるし」
「当たり前だろうが! こんなことされておまえ……」
「うふ。でもあんまり力入らないでしょ? 先生、だいぶ酔っぱらってたもの」

それはそうなのだ。
今も、あまりのことに激怒した裕作だったが、まだ頭が回るし、くらくらするのは変わらないのだ。
目の前にいるいぶきの顔が二重三重に見えているくらいだ。
そう言えば、だんだんと気持ち悪くなってきた。
敏感にそれに気づいたいぶきが言った。

「あらあら先生、もしかして吐きそう? でも我慢してね、終わるまでは」
「お、終わるまでって……何が」
「鈍いの? ……まあ、先生は鈍そうだけど」
「余計なお世話だ。早く解きなさい。何するか知らんが、さっさとして解いてくれ」
「わかってるわよ。じゃ、覚悟はいい?」
「か、覚悟……?」
「ホントに鈍ーい。ま、いいや。じゃ、続きするね」
「続き? あ、おい、八神!」

いぶきは淫靡な若い魔女のような微笑を浮かべつつ、裕作の胸にキスする。
舌を伸ばし、小さな男の乳首をちろちろと舐め、もう片方の乳首も指で軽く扱いている。
その鮮烈な感覚に、思わず裕作は奥歯を噛みしめる。

「くっ……!」
「気持ちいい? うふふ、男の人もここは感じるのよね」
「や、がみっ……よせ、やめろ! ば、馬鹿なことは……ううっ!」
「男の人の感じてる声も可愛いわ。ここはどう?」

いぶきは、まるで年下の少年を愛撫するかのように、年上の男に指と舌を這わせていった。
裕作の方はまったく混乱している。
何がどうなっているのかわからない。
どうしてこんなことになっているのかわからない。
いぶきが蹲るようにして股間に顔を近づけると、裕作は大きく取り乱した。

「バ、バカっ、八神っ。おまえ、何を……」
「決まってるでしょ、フェラよ」
「ふぇ……」
「フェ・ラ・チ・オ。知ってるでしょ、先生だって」
「バカ、やめろ!」
「でも、もう途中までしたもん。先生が気を失ってる間に」
「な……んだと……?」
「だから、ほら。もうこんなになってるじゃない」

そう言われて裕作は唖然とした。
いぶきが手にしている自分のペニスが勃起している。
いぶきは客観的に見れば確かに可愛い娘だったし、美人でもあるだろう。
しかし裕作にその気はない。教え子だった時代から今まで、まるでそんなつもりはないのだ。
もし、裕作に響子という存在がなければまた違ったかも知れないが、それにしてもいぶきはタイプが
合わないだろう。
なのに男根が勃起しているのは、裕作が酔いつぶれている間にいぶきが愛撫していたせいらしい。
失神していても物理的に肉体愛撫されれば反応してしまうのかと、男の生理に驚きもしたが、今は
それどころではない。
いぶきをそれをうっとりとして掴み、しごいている。

「あ、すご……、少しずつまたおっきくなってってる……」
「やめろ、おまえっ」

いぶきは顔を赤らめて、裕作の勃起した男根を指で突いている。
ツンと亀頭を突かれると、裕作の背筋にような快感は走り抜ける。
亀頭の割れ目からは、とろりとした透明な液体が滲んできた。

「やめ、あっ……よせ、八神っ……お、おまえ、どうかしてるぞっ……くっ」
「うふふ、強がっちゃって……。可愛いとこあるのね、先生」
「おとなをからかうな! やめろっ……」

小悪魔は肉棒を操りながら妖しく微笑んだ。
こうなってはどちらが年上かわからない。
リードし、主導権を握っているのは明らかにいぶきの方だ。

「せ、先生もして……。あたしの……あそこに……」

いぶきはそう言って「69」の形になる。
目の前にいきなり女の股間を突き出された裕作は思わず顔を背けた。
いぶきも半裸だった。
ブラもショーツも身につけていない。
ガーターベルトに吊られたストッキングのみだ。

教え子の、剥き出しの女陰を向けられたが、もと教師見習いは顔を逸らし、目をつぶってそれを避ける。
一瞬覗いたいぶきの媚肉は、もう淡い陰毛に露が宿っていたようにも見えた。
いくら酔っているとはいえ、もとの教え子……いや、響子以外の女を愛撫するなど出来ようはずもなかった。
それは裕作の気の弱さということもあるが、それ以上に、ようやくにして手に入れた想い人のことを
思ったからだ。

それがわかるのだろう。
いぶきの微笑にヒビが入る。

(この人……、この期に及んでまだ「あの女」のことを考えてるの……?)

いぶきの女としてのプライドに傷が付く。
可愛い女、美人というものは、そのほとんどの場合、自分の器量を正確に把握しているものだ。
自分が美人と言われ、男を虜にする魅力を持っていることはわかっているのである。
それを自信や自意識過剰になるタイプもいれば、わかっているからこそ控え目になる女もいる。
いぶきは典型的な前者であり、響子は確実に後者なのであった。
いぶきは一瞬だけ裕作を睨みつけると、挑むように彼のペニスをくわえていく。
ルージュを濃く引いた真っ赤な唇が大きく開き、その男根を咥内に沈めていく。

「うあっ……!」

女の熱い咥内粘膜を感じ、思わず裕作が呻く。
それを尻目に、いぶきはわざと淫らな音をさせながらしゃぶっていった。

「思い知らせてやるんだから……、先生にもあの女にも」
「な……なんのことだ……あっ」
「……なんでもないわ。愉しみましょう、セ・ン・セ」
「よ、よせ……」
「んんっ……ん、んちゅっ……んふっ……ん、じゅぶっ……んっ、んっ……」

これもわざとなのだろう、淫らに首をうねらせながら裕作のペニスを唾液まみれにしていく。
舌を巧みに使い、その男根をさらに硬く、大きくさせようとしていた。
時折、妖しく光らせた目で裕作を見ている。その裕作は苦しげに呻き、顔を真っ赤にして息んでいた。

「ふふ……、いいのね、先生。気持ち良いんでしょ?」
「違う、よせ……もうやめろ、八神っ……」
「やせ我慢しちゃって……、ほら、ここをこう舐めてあげると……んっ、れろっ……ちゅっ……」
「うあっ……」

徐々に露わになる裕作の反応に気をよくしたいぶきは、ごくりと喉を鳴らしてから、また彼のペニスを
口に含んだ。

「ん、んぶっ、ちゅっ……んむっ……んぐ……ちゅううっ……」

いぶきにしては珍しく、懸命に肉棒を愛撫していた。
彼女はその美貌と、経験を活かした技巧で、さほど熱心に愛撫せずとも男を充分にその気にさせる能力を
持っている。それだけに自分がのめり込むようなことは滅多になかったのだ。
だが今は、やっと裕作をものにしたせいか、夢中になって口唇愛撫していた。
カリ首を舌先で削り、裏筋にねっとりと舌を這わせ、彼女に比べれば圧倒的に性体験の足らぬ男を
手玉にとっていく。

「んっ……、あ、こんなになってる……ふふ、また少し大きくなったわ。けっこう硬いし……。
なかなかいいもの持ってるじゃない、先生」

そうは言ったものの、実はそれほどでもなかった。
短小というわけでもなく、少なくともいぶきの経験上は極めて平均的なものだろう。
勃起した全長で15センチくらいだろうか。
裕作のペニスはびくびくと反応し、硬くなるだけ硬くなっている。
そろそろ限界いっぱいまで勃起したということらしい。
それでもいぶきは許すことなく、丹念に裕作のものを舐めしゃぶった。

「んっ……んふ……おふっ……ん、んぐ……んむうっ……ちゅっ……ちゅぶぶっ……」

裕作のものを片時も離そうとはしなかった。
我慢できずに溢れてくるカウパー液も舐めとり、そのすべてを口に収めていた。
ねっとりと熱い舌でねぶり、唾液を塗りつけるようにして肉棒の根本から先まで愛撫する。
口を大きく開けてくわえ込み、唇で男根の根もとを締め付けることも忘れない。
敏感な部分ばかり狙って這ってくる舌の柔らかさ、奥までくわえ込む喉の感触は、裕作に鋭い性的快感を
与え続けている。

「くうっ……あ、もうよせ……おい八神っ……!」
「うふふ、可愛い声。そんなに気持ち良いの? じゃもっとしてあげる。んっ、じゅぶっ……」
「うああっ……」

再びくわえ込まれたペニスには、ところどころいぶきのつけたルージュの跡が残っている。
それを舐め取るように舌がサオをしゃぶっていた。
男根全部を口に含み、それを唾液の音をさせながら引き出し、また飲み込んでいく。
カリにさしかかると、そこで前後の動きを止め、唇を窄めてカリの根もとを絞り上げた。
その間にも器用に動く舌が、亀頭やカリ、裏筋を舐め回し、カウパーと唾液を塗り込んでいった。

「んっ、んむっ……ぐっ……ん、んふ……んむう……じゅっ……じゅぶぶっ……」
「おっ、おっ……やめ、ろ……やめろ、八神っ……も、もう……」
「んあっ……、あ……、もう限界? 出そうなの、先生?」
「う、うるさいっ……もうよすんだ」
「いや。正直に言わないんだもの。んじゅじゅっ……」
「くっ……!」

裕作は誤魔化したが、もう射精寸前なのは明らかだった。
亀頭を舌で押さえつけるように愛撫していると、突然に裕作の腰がガクガクと動き出した。
仰向けに固定されて動けない身体をもどかしそうに跳ねさせ、盛んに腰を上下させている。
もう無意識下で射精したくてしようがないのだ。
理性の上では、そんなことはとんでもないと思っているのだが、もう彼の肉体はそんなものは何の効力も
ないくらいに高ぶっていた。

「やめろ、八神っ……そ、そんなことされたらっ……!」
「んんーーっ、んうっ……」

出していい、とでもいうように、いぶきは何度も頷いた。
そんなことは出来ないとばかりに力み返る裕作だったが、生理的射精欲にはどうしようもなかった。
再び、いぶきの柔らかい舌の裏粘膜が、今にも射精しそうに膨れあがった亀頭の上を押さえ込んでくる。
その心地よい強さとぬめぬめした感触に、男の限界線引は突破された。

「くぉっ……!」
「んんっ……!」

いぶきの小さな舌を押し上げるようにして、裕作のペニスから精液が勢いよく噴き上がった。
舌をはね除けるようにして射精された粘液は、女の咥内に隅々まで行き渡った。

「んっ……んくっ……くっ……ごくっ……」

いぶきは顔をしかめてそれを飲み下していく。
もともと彼女は口に出されるのは好きではない。
何となく蔑まれているような気がするからだ。
まるで女の口を便器代わりにされている感じがしてイヤだったのだ。
だが相手が裕作なら話は別だ。
猛烈な異臭に表情を歪めながらも、愛する男の子種を飲み込んでいった。

「んっ……んっ……ぷあっ……」

いぶきが口を離すと、裕作のペニスがぽろりとこぼれ落ちた。
女の口を名残惜しむかのように、亀頭の先から精液をだらりと滴らせている。
いぶきは、口に残った白濁液を無理に全部飲み込んでしまった。

「んくっ……あ、はあっ……や、やっぱあんまりおいしくないわね、これ……」

苦いというか臭いというか、いずれにしても飲むものではないのだ。
喉に絡むいがらっぽい男汁が気色悪い。
射精を終えて我に返った裕作は、怒りを込めていぶきに言った。

「おまえっ……なんてことするんだよ!」
「……」
「こ、こんなことする女の子だったのか!?」
「何よ、今さら」
「何だと?」
「あんただって……五代先生だって、してもらったことあるんでしょうに。あの女に……」
「あの女……? きょ、響子のことか? あ、当たり前だ、俺の……」
「女房なんだから? ふん」

いぶきは挑戦的な目で裕作を睨みつけた。

「どっちがよかったの?」
「なに?」
「だから、あたしと奥さんとどっちがよかったか聞いてるのよ」
「何をバカなっ……」

裕作にとってはそれどころではない。
こんなことは妻にバレたらえらいことだ。
いや、それ以前に、こうなることは裕作自身が望んでいない。

正直に言えば、響子よりはいぶきの方が巧かっただろう。
響子は惣一郎亡き後、裕作と結婚するまではほぼセックスレスだったのだから仕方がないし、彼女自身、
そうセックスにこだわりのある女ではないからだ。
だが、そういう問題ではない。
好きでもない女にこんなことをされて、黙っていられるはずもなかった。
裕作がそう言うと、いぶきはビクンと反応した。

「……好きでもない……女……。先生、あたしのこと嫌いなの……?」
「い、いや、それは……」

一転して裕作は言葉に詰まった。
別に八神いぶきという娘が嫌いなわけではない。
彼女なりに自分のことを好いてくれていたのはわかる。
可愛い女の子に慕われたら、憎く思うはずはないのだ。
だがそれはあくまで知人友人という意味合いであり、恋人や妻ということではない。

七尾こずえの場合、響子に振られていたならもしかしたら結婚したかも知れない。
だがいぶきに対してそういう感情を抱いたことはまったくないのだ。
やや狼狽えていた裕作は、そのまま思ったことをいぶきに言ってしまった。
それを聞いたいぶきは、また態度を変えた。

「そう……。そうなの。先生、あたしのことを好きじゃないんだ……」
「だ、だからそれは……恋人とか、そういう意味の話であって、八神個人が嫌いなわけじゃ……」
「じゃあ好きなの!?」
「嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけど、俺には妻がいるって……」
「それナシで! いなかったとしたらどう?」
「それは……」

裕作は少し考えたが、またすぐに言った。

「……やっぱ同じだよ。八神をそういう風には思えない」
「……」
「誤解しないで欲しいけど、八神は可愛いと思うよ。思うけど、それは恋愛感情とは違うんだよ」
「……」
「八神……」
「やっぱり……」
「……?」
「やっぱりあの女が……、あの女がいるからそういうこと言うのね、先生」
「お、おまえ、何を言って……」
「そんなこと言えないようにしてあげるから!」
「お、おい、おまえ、また!」

眦を決したいぶきが、また裕作の男根にむしゃぶりつく。
萎えかかったペニスに吸い付くと、それこそ技巧を尽くしてまた奮い立たせようとする。
指も使ってサオの裏筋をこそぐようにくすぐる。
舌は集中して亀頭とカリを責めていた。

「くああっ……!」

裕作が情けない声を上げる。
女が、くわえたペニスを思い切り吸い上げたのだ。
尿道に残っていた精液の残滓を吸い取られる快感に、思わず腰が持ち上がる。

「んっ、んじゅるるるっ……うんっ……んぐ……んぶぶっ……じゅぶぶぶっ……」

いぶきは、右手でペニスを支え持ち、左手のひらを使って、裕作の腰骨や腹の辺りを軽く撫でて愛撫
している。
ゾクゾクするようなくすぐったさが、男に新たな快感を呼び起こした。
男根先端の鋭敏な部分には常に舌が這っている。
かぶり気味だった包皮を舌先で器用に剥き上げ、つるりとした亀頭を剥き出しにさせて盛んに舌でねぶっていた。
味わったことのない快楽に、裕作の肉棒はまた力強さを取り戻してくる。

「おっ……い、いい加減にしろ、うっ……」
「ぷあっ……先生、気持ち良いのね? いい声で喘いでる」
「バカっ、八神、もうよせ! うあっ……」

裕作の叱責など聞く耳持たぬとばかりに、いぶきの唇と舌は肉棒を万遍なく舐め回す。
いぶきの透明な唾液でねとねとになった裕作のペニスが淫らに濡れ光り、喜悦でびくびくと震えだした。
もう亀頭の先からは精液混じりのカウパーが滲み出ている。
それを舐め取るようにいぶきの舌が蠢いた。

「うふふ……、いやらしい五代先生。またいきそうなんでしょ? ふふ、出したいの?」
「くっ……お、おまえのせいだろう!」
「あら、愛してる女じゃなくても、こうされれば出ちゃうの? ふん、男なんてみんなそうよね」
「やめろ……くっ……もう、あっ……」

19歳の女子大生は、反り返った男根をうっとりと眺めてから、それを指でしごく。
ぐぐっと反応したペニスがまた少し大きくなったような気がする。
それから「ふふっ」と声に出して妖艶に笑ってから、おもむろに裕作の腰に跨った。
裕作が慌てる。

「ま、まさかおまえっ……!」
「ご明察。……ってか、こうなったらこれしかないじゃない」
「八神っ! おまえ、自分が何してるのかわかってるのか!?」
「もっちろん。あたし、五代先生とセックス……いいえ、五代先生を犯そうとしてるのよ」
「バカ、やめろ!!」

いぶきは落ち着いて裕作の肉棒を右手で握るとそれを垂直に立たせ、すでに濡れてきていた自分の媚肉に
そっとあてがう。
ビクビクと震えた熱い男根を見据え、その上にそっと腰を下ろしていく。

「くっ……! あ、先生のが……五代先生のがっ……は、入って、くるっ……!」

ずずっと押し入ってくる硬い肉棒の感覚に、いぶきは身を震わせている。
ゆっくりと腰を沈めていく。
腰を痙攣させながらいぶきが喘ぐ。

「うっ……く……ま、まだよ……まだ入る……ああっ!」

とうとう、裕作の腰の上にぺたんと尻を落とした。
足の指が屈んだり開いたりを繰り返している。

「入っ……た……ぜ、全部……ああ……ご、五代先生のが全部……」
「うっ……ああ……」

いぶきはペニスに突き通される快感に、裕作は男根を熱くきつい膣に締め付けられる快美に呻いている。
下腹部にいぶきの丸く柔らかい尻たぶが当たっていた。

「あ、あう……や、やった……あたし、五代先生と……」
「や、八神っ……」
「くっ……け、けっこう奥まで来てる……あ……」

子宮を突くほどでないものの、思ったよりも深いところまで突き刺さっている。
異常な状況でのセックスに、仕掛けたいぶきも仕掛けられた裕作も異様な興奮に包まれていた。

「はああっ……!」

熱く荒い息を吐きつつ、ソバージュのかかった軽い髪を振り乱しつつ、いぶきは自分から腰を使っていく。
裕作の方は動けないのだから仕方がないが、男が動いてもいぶきはこうしただろう。

「あ、あうっ!」

わなわなと震える真っ赤な唇から、鋭く熱い吐息が漏れると同時に、裕作を深く飲み込んだ媚肉がきゅっと
収縮した。

「あ……、ああ……あたし……今、いっちゃった……軽くだけど……」

三年越しの願いが叶った女は、自分がリードしているにも関わらず、いきなり達してしまった。
いぶきにしては考えられないことだった。
それでも満足するつもりは毛頭ないらしく、再び腰を使い始める。

「んっ……はああっ……ま、まだまだ……んっ……いいわ……」

女の膣は、それ自体意志を持った生き物のように収縮し、熱くねっとりと男根に絡みついていく。
気をやる前よりも一層に熱く滾り、とろとろと熱い愛液を分泌してきていた。
喘ぎながらもいぶきは、裕作の胸板に両手を突き、腰を弾ませるようにして騎乗位で犯していく。
そう、まさに彼女は裕作を犯していた。

犯されている裕作の方も、いぶきの媚肉がもたらす快感からは逃れられない。
こんなことをしてまずいという気持ちは当然強いが、そんなことはすりつぶされてしまうような甘美さが
あった。
妻の響子への背徳、教育実習とはいえ一次は教え子だった娘と関係してしまった迂闊さが、彼をおののかせる。
それでも、強い酒による酩酊と異様な環境での行為が、男の生理を必要以上に昂揚させてしまっていた。
裕作は、つい腰を突き上げてしまいそうになるのを必死に堪え、理性を保とうとしていたが、上に乗って
腰を振るいぶきはお構いなく喘いでいる。

「あっ……いい……くっ……せ、先生も……五代先生も動いてっ……いいっ……」
「そんなことが出来るかっ……うっ……八神、どけっ……うあっ」

裕作が懸命に止めさせようとするもの、女はよじった腰を何度も弾ませている。
腰が跳ねるごとにゆさゆさと揺れる乳房をいぶきは自分で掴み、揉み立てていた。
乳首を捏ねるように転がし、指を柔らかい肉塊に食い込ませて愛撫している。
裕作の胸に突いた左手は、ぎゅっと拳を作っていた。

「いいっ……ああ、いいわっ……も、もっと……もっと突いて!」

突いて、と、言いつつ、いぶきは自分で腰を上下させている。
裕作は動けないのだから無理もないが、それでも彼の腰ももどかしそうにうねっている。
どうやら、やはり突き上げたいらしい。
オスとしての本能だろう。

「気持ち良いわ……ああ、いいっ……どうしてこんなに……先生っ……五代先生っ……!」

いぶきは、整った美貌をとろけさせ、だらしなく淫らな表情を恥ずかしげもなく晒していた。
髪を振り乱し、盛んに自らの快楽を口にしている。

「いいっ……おまんこ、いいっ……先生のペニスがあたしのオマンコにぃっ……いっ……気持ち良いいいっ……」

喘ぎよがるいぶきの甲高い淫声に、裕作の男根も限界までいってしまう。
もう腰を止めようと思ってもどうにもならず、いぶきに座り込まれたまま、彼女ごと持ち上げるようにして
腰を突き上げてしまっていた。

「くっ……もうだめだ、八神っ……お、俺はっ……」
「あ、あ、いくの? 先生、いくの!?」
「だ、だめだ、出る……どけ、どくんだっ……で、出ちまうっ」
「い、いいわ、出して! あたしの中にぃっ……!」
「バカ野郎、何言ってんだっ……あ、く、くそっ……だ、だめだぁっ!」

もはやマグマのような男の性欲を抑えきれず、裕作は僅かに動く腰を突き上げていぶきの中を抉ろうとする。
裕作の方からの動きに、いぶきはひとたまりもなく頂点に達した。

「あ、あたしもっ……いっくうっ!」
「くあっ!」

いぶきが絶頂し、その膣の猛烈な収縮に耐えきれず、裕作もいかされた。
腰にぶるるっと大きく震えが走り、熱い塊が尿道を通って鈴口から噴き上がってきた。
勢いよく放たれた精液が、いぶきの胎内にまき散らされた。
想い人の熱い精液を存分に膣内に受け、女子大生はぶるっと大きく裸身を痙攣させて呻いた。

「はああっ、でっ、出てるっ……お腹の奥……ああ、五代先生のが……いい……」

射精されている間中、裕作に跨って痙攣していたいぶきは、発作が終わると、そのままくたっと彼の胸に
倒れてきた。
胸を通していぶきの頬に裕作の鼓動が響いている。
ちらりと見上げた裕作の顔は茫然自失であり、まだ現状が信じられないような顔だ。
いぶきはその顔を眺めつつ、長い舌を伸ばして、また裕作の乳首を舐め始めていた。



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