「ふう」

肩を叩きながら、ぱりっとしたスーツで身を固めた長身の男が歩いてくる。
リトルリップ・シアターの支配人であるマイケル・サニーサイドだ。
ここしばらく、遅れているSSPA開発、量産化の件でメーカーへ行ったり、度重なる降魔事件対策のため政府関係者や市警、FBIとの打ち合わせが
重なって、滅多にシアターへ来ることもなくなっていた。
この前ここに来てから、もうかれこれ二週間くらい経っている。
その間のことはほとんどラチェットとプラムに任せてあるから問題はないだろうが、これでは支配人失格だなと思っている。

そう言えば、日本の帝撃からお客も来ているらしい。
ラチェットの話だと、ふたりとも大層な美人だそうだ。
是非ともそのご尊顔を仰がせていただこうと思い、マイケルは格納庫に向かった。
こっちの華撃団のアドバイザーという意味合いもあるらしいから、いるなら格納庫か、その隣にある作戦室だろうと思ったのだ。
その時、後ろから鋭い声が掛かった。

「サニー、そこどいて!」
「え? うわ!」

マイケルを突き飛ばすように駆け抜けていったのはラチェットである。
スカートを翻して颯爽と……、ではなかった。
出撃用のコスチュームを身に着けている。
女優ラチェットではなく、紐育華撃団隊長のラチェットになっていた。
マイケルは眼鏡の位置を直しながら、慌てて後を追った。

「ま、待てラチェット! 何があったんだい!?」
「詳しく話してる暇はないの! 無事に戻ったら説明するから!」
「おい、ラチェット!」

先を走るラチェットの声が風にかき消されながら聞こえる。

「もし、私に何かあったら……」
「え?」
「後はサジータに任せるから!」
「何だって? い、いったいどういうこと……」
「出るわよ! 用意して!」

マイケルの言葉を無視して、ラチェットは整備員に叫んだ。
突然の出撃命令に驚いた整備員たちが慌てている。

「し、しかし隊長のスタアは今、メーカーで調整中ですよ」
「アイゼンクライトで出るわ! 直ちに出撃!」

途端に整備場は火事場騒ぎとなった。
ラチェットは一歩も歩を緩めず、そのままかつての愛機のハッチを開けると、コクピットに飛び込んだ。
エンジンスイッチを入れて機体を起動させ、さっと始動点検も済ませた。
モニターに映っている唖然とした支配人に叫ぶ。

「サニー! すぐにサジータのところへ行って! ついでに市警とFBIも引っ張り出して!」

────────────────────

乱暴な運転の大型トレーラーがヴォーク・シアターの前で急停車した。
ストリートを走っていた他の乗用車は事故を避けて、慌ててハンドルを切ってブレーキをかけている。
勢い余って他のクルマに突っ込んだ車両もあった。
道を歩いていた人々も驚いたようにトレーラーを見て、騒いでいた。
停車したトレーラーから、見たこともない人型の機械が降り立ったのを見て呆然としている。

玄関前に駐められた劇場──ヴォークの関係者も、びっくりしたようにそれを眺め、そして取り乱していた。
付近は騒然としている。
アイゼンクライトのラチェットが拡声器で叫んだ。

「紐育華撃団よ! 直ちに調査に入ります。責任者を出しなさい!」

ヴォークの連中──つまりマフィア──は、動揺しながらも言い返した。

「な、なんだ、おまえは! 調査って何のことだ!」

観音開きの大きなドアが開き、わらわらと中からマフィアの連中が飛び出てきた。
どいつもこいつも銃で武装している。
拳銃だけでなく、ショットガンやマシンガンを抱えているのもいた。
ただならぬ雰囲気に、遠回しで見守っていた野次馬たちは、慌てて逃げ散った。
ラチェットはそれらを目の端に捉えつつ、玄関ホールへ行く階段を昇った。
見ていた連中から通報され、市警が押っ取り刀で押しかけてくるだろう。
その前に片付けねばならない。
マイケルとサジータが市警に話をつけてくれればいいが、まだ間に合わないだろう。
ラチェットはことさら大声で叫んだ。

「紐育華撃団よ。降魔事件の捜査です!」
「コーマだと?」

マフィアどもは顔を見合わせている。
部下の連中でも、知らされている者とそうでないやつがいるのだろう。
事情を知っているらしい男が一歩前に出て言い返す。

「何のことだ! そんな化け物がどうしてここにいるんだよ」

ラチェットは鼻先で笑った。

「あら、詳しいのね。降魔が化け物だって、なぜあなたが知ってるの?」
「……」
「調べる必要がありそうね。そこをどきなさい!」
「や、やかましい! おいボブ、弁護士のダブリンを呼んで来い。あ、きさま!」

ラチェットが、連中を蹴散らすようにアイゼンクライトを前進させると、男が慌てて叫んだ。

「待てってんだよ! 華撃団だか捜査だか知らねえが、令状はあるのか? あるなら……」
「お黙りなさい! もうそんな余裕はないのよ! どかないなら強制捜査に入ります!」

そう言うが早いか、ラチェットのアイゼンクライトは豪奢な玄関ドアを叩き壊して内部に侵入した。
天井が高く廊下も広いから、霊子甲冑くらいなら楽に入って行けた。

「待て、この野郎! 構わねえ、やっちまえ!」

それを合図に、男たちは一斉に銃撃し始めた。
アイゼンクライトに銃弾が集中したが、その装甲は拳銃弾程度では傷も付かなかった。
ラチェットは、なるべく連中を殺してしまわないようにしている。
何しろ、今の時点では違法捜査なのだ。

マリアと連絡が取れなくなっただけではなく、その行方を聞き出しにいったかえでまでいなくなってしまった。
状況証拠しかないのだが、どう考えてもヴォークが絡んでいるとしか思えない。
もしふたりに何かあったら、ラチェットは帝撃に顔向けできない。
これ以上は放っておけなかった。

しかし、単なる失踪事件──それが誘拐、拉致監禁であったとしても──では、彼女は動けないのだ。
ラチェットは対降魔部隊の隊員ではあるが、警察権など持ってはいない。
情報も少なく、焦燥の日々を送るしかなかった。
そんな時、サジータからヴォークの調査報告が来たのである。
説明を聞いてラチェットはピンと来た。

これはマリア絡みだ。

何でも、ヴォークのボスはロシア系アメリカ人らしい。
というより、アメリカ国籍は取っているものの、もともとロシア人なのだ。
しかも、マリアと同じくロシア革命に関係している。
噂では、同じ部隊にいたらしかった。
おまけに、革命半ばでロシアを脱出し、渡米してきている。
その時期までマリアと重なるのである。

サジータの調査は詳細を究めていた。
マリアの紐育時代のことも調べ上げていた。
どうやら裏社会に潜んでいたらしい。
その後更正して日本へ渡り、現在となっているようだ。
そして、その際に世話になった日本人女性というのが、かえでの姉らしかった。

驚いたことに、ヴォークのボス──バレンチーノフ・ウラジミール・アレクサンドロビッチというらしい──も、同時期にマリアの所属していた組織にいたらしいのだ。
嫌な符号はここでも重なった。

マリアが、昔の仲間に呼ばれて、また何か良からぬことを企んでいる──とは、とても思えなかった。
状況から考えて、恐らくは暗い過去をネタに恐喝されているのではないか、とサジータは言った。
同じような境遇だったサジータはマリアに同情しているようだ。

恐らくはサジータの推測通りだろう。
しかし、それでは手出しできないのだ。
何しろ具体的証拠は何もない上に、やつらは市警上層部を買収している。
確実な証拠でも出ない限り警察は動かないだろう。
捜査しても、必ず手心を加えてくる。
アテにすることは出来なかった。

苛つくラチェットに、サジータは何か企んだような笑みを浮かべて追加報告した。
ヴォークにはまだ悪い噂がある。
女を使ったショウで荒稼ぎしているらしかった。
それも噂レベルだし、多かれ少なかれ他のマフィアどももやっていることである。
もしやマリアたちまでがショウに出されているのでは、と衝撃を受けながら、それでは警察は動かないとラチェットは言った。

だが、サジータの言葉はラチェットの想像を超えていた。
ヴォークは、何やら怪しげな化け物と女を絡ませる見せ物を裏でやっているというのだ。
ラチェットはハッとした。
「何をバカな」と否定できないのだ。
化け物とは降魔ではないのか。
想像するのもおぞましいが、やつらは降魔と女の交尾をショウの目玉にしているのではないか。

しかし降魔は敵対的な生物であり、人間に従うとは思えなかった。
それでも、中にはほとんど攻撃力を持たぬ降魔もいたし、かのブレント・ファーロングは降魔を率いていたではないか。
飼い慣らすことも可能なのかも知れなかった。

サジータによると、これは噂レベルでもないらしい。
彼女自身、調査の過程で、実際にそのショウを見たことがあるという男に直接話を聞いていたのだ。
サジータはラチェットに強調した。
華撃団は、こと降魔事件に関しては警察よりも優先捜査権がある。
従って、ここに本当に降魔が隠匿されているのなら、立派な大義名分である。
マリアたちの拉致監禁との関連性はわからないが、いずれにしても降魔が絡めば出撃可能なのだ。

本当に降魔を飼っていたなら問題はない。
しかし、これが空振りに終わり、ヴォークに降魔がいなかったなら、その時はラチェットが責任を取られねばならない。
決してリトルリップ・シアター全体の問題、紐育華撃団としての問題にしてはならないのだ。
あくまでラチェット個人が華撃団の名を使って乗り込んだ、ということにしなければならない。
だからこそ彼女は、支配人のマイケルにも事情を告げなかったのだし、サジータとともに出撃しなかったのだ。

(ロング・ショットよ……。確か日本語では「一か八か」って言うのよね)

ラチェットを乗せたアイゼンクライトは、全身に銃弾を浴びながらヴォークの心臓部へと突き進んでいく。

(マリア……かえで……、無事でいて!)

────────────────────

「マリア。マリア、起きたまえ」
「……」

裸の肩を揺さぶられ、マリアはぼんやりと目を開けた。
まだ全身が気怠かった。
新ドープを使われて、バレンチーノフとトッドによる気も狂うような凌辱を受け、心ならずも何度も絶頂させられた。
挙げ句、前後同時に貫かれ、サンドイッチファックの真髄をその肉体に叩き込まれた。
ふたりの精液を子宮と腸管にたっぷりと吐き出され、どちらの子を身籠もってもおかしくないほどだった。
肉体の崩壊が心の屈服まで誘発し、最後にはマリア自身が積極的に彼らのペニスを求め、射精されて気をやる有様だった。
気を失うまで犯され、全身が萎えきっている。
意識も朦朧としていた。
連続的に絶頂してしまった余韻がまだ残っている。

「マリア、ほら起きねえか!」
「あっ……!」

トッドが乱暴に髪を掴んで頭を持ち上げると、マリアはようやく身体を起こした。
横座りになるが、腕で支えないと倒れてしまいそうなほどに体力を消耗している。

「マリア、ミス藤枝だ。会いたかっただろう?」
「藤枝……、か、かえでさん?」
「そうとも。さ、ミスかえで、こっちだ」
「……」

いつの間にか連れ込まれていたらしいかえでは、うつむいて黙りこくっている。

「か……、かえで……さん……」

マリアは絶句した。
無理もなかった。
かえでは、ほぼ全裸にされていたのである。
いや、全裸というのは正確ではない。
下着は着けていたのだ。
但し、恐らくはかえで本人のものではないだろう。

かえでは、白いレースのオープン・ブラを着けさせられていた。
アンダーカップで乳房を支えているだけで、あとはストラップだけだ。
トップレスと変わらない。
そしてショーツは履いていなかった。
腰にはブラとセットらしいガーターベルトが巻かれ、そこから伸びるストラップでストッキングを吊っている。
足に履いたヒールだけは赤かったが、あとは白の配色だ。
つまり、マリアと同じスタイルにされている。
マリアは黒で、かえでが白というだけの差だ。
やはり同じように首にはチョークが巻かれ、腕にはロング・グローブを嵌めている。

「マリア……、私を見ないで、お願い……」

かえでは、今にも泣き出しそうな声で顔を覆っていた。
実際、泣いていたらしく、両手で覆った顔から嗚咽が漏れてくる。
女らしいなだらかな肩が小さく震えていた。
その恥辱的な格好を恥じているのか、それともそんな姿にさせられているという事実がつらかったのかも知れない。
救出にきたはずなのに、手もなく囚われたことも情けなかった。

マリアは、怒りよりもまずかえでに深く同情した。
女として耐えられぬほどのつらく恥ずかしい責めを受けたはずだ。
自分と同じなのだ。

「かえでさん……」
「マリア、私は……」

ふたりの美女は潤んだ瞳で見つめ合っている。
男どもが期待しているような思いを持っていたわけではあるまいが、その様子は何とも言えぬ色香が漂っていた。
バレンチーノフは、強引にでもそうさせようとしてかえでを唆した。

「さ、ミスかえで。マリアがお待ちかねだぞ」
「……」

バレンチーノフにそう言われると、かえではふらふらとよろめきながらも、マリアのベッドに近寄っていく。
そのただならぬ目にマリアは息を飲んだ。
かえでの表情は、今までマリアが見たこともないものだった。
美しいというなら美しいが、微笑みたくなるような美貌ではなく、性の歓喜を知り尽くし、さらに貪ろうという妖しさがあった。
男がその顔を見れば、有無を言わさずのしかかってきそうな、そんな表情だった。
マリアは思わず後じさりした。かえでの顔にただならぬものを感じ取ったのだ。

「か、かえでさん、まさか……」
「マリア……」

おののくマリアを見つめるかえでの瞳が哀しかった。
どうにもならぬ運命を覚りきっているかのようだ。
かえでは、マリアが座り込んでいる横に腰掛けてきた。
そして、そっと手を伸ばし、マリアの頬を撫でる。

「マリア……、もう、どうしようもないのよ。こうするしかないの……」
「かえでさん、何を言って……んっ、んんっ!?」

かえではマリアの頬を両手で挟むと、そのまま唇を奪った。
びっくりしたマリアは大きく目を見開き、かえでの肩に手を掛けて引き離そうとするが、かえではマリアの顔を押さえ込んで離さず、口を吸ってくる。

「ん、んんっ……んむ……むううっ……」

しばらくマリアは暴れていたものの、相手がかえでとあっては乱暴するわけにも行かず、次第に抵抗を収めていった。
かえでの小さく薄い舌がマリアの唇の隙間から咥内に入り込んでいく。
マリアは、初めての同性とのキスに激しく動揺している。
いかに男装の麗人とはいえ、あくまで役柄のことであって、マリアにそうした同性愛といった嗜好はない。
しばらく唇を押しつけてから、かえでがそっと口を離した。

「ごめんなさい、マリア……。でも、私、もうだめなの……」
「だ、だめって……、かえでさん、一体……」
「私だって、こんなのはイヤ。でも、イヤだからこそさっさと終わらせた方がいいわ。だからお願い、言うことを聞いて……」
「かえでさん……、あっ、んむっ」

またマリアの唇にかえでの唇が重なってきた。
その様子をバレンチーノフたちが面白そうに見物している。
カメラも回っていた。
もう撮影済みのフィルムが収められた缶ケースは1ダース以上にも上っていた。
マリアとかえでのレズシーンもこれから撮影するのであれば、さらに半ダースは撮るつもりなのだろう。
今回の撮影だけで、マリア主演のポルノが3本でも4本でも編集できそうだ。
これなら充分に元が取れ、大きな利益を生むのだろう。

「だ、だめです、かえでさんっ……あ、だめ、うんっ……!」

息継ぎで唇が離れると、たまりかねたようにマリアが止めようとしたが、かえでは構わずまた唇を吸ってきた。
かえでの舌が入ってくると、歯で噛んではいけないとマリアはつい口を開けてしまう。
そこに女の柔らかい舌が侵入してきて、マリアの舌を突き、吸い上げていく。

「んんん……んむう……じゅっ……」

唇を押しつけられ、咥内を愛撫されていくうちに、マリアの抵抗が見る見る弱まっていく。
見れば、かえではキスしながらマリアの乳房を優しく揉み上げたり、背中や脇腹をそっと撫でて愛撫している。
事前にトッドらに激しくセックスされ、意識が飛ぶほどの絶頂を何度も味わって身体が緩んでしまっていたせいか、すぐにかえでの行為に反応
してきていた。
鼻から漏れる息も熱く、唇の隙間から聞こえる呻き声にも艶が乗って来ている。

「ぷあっ……! かえでさん、もうこんなことは……あっ!」

ようやく長いキスが終わると、かえではマリアの肩に手を掛けてじっと見つめてくる。
マリアは小さく首を振りながら、これから先の行為を拒否していた。
しかしかえではためらうことなくマリアの乳房に吸い付いていった。

「ああ……、マリアのここ、もうこんなになって……」
「だめっ! かえでさん、そこだめです、あっ……!」
「くく、感じすぎてだめなのか、マリア」
「だ、黙りなさい、このっ……ああっ、かえでさん、な、舐めちゃだめ、ああっ!」

かえではこりこりになった乳首を強く吸い上げてマリアに悲鳴を上げさせると、そのまま舌を首筋まで這わせていく。
マリアは呻きながら何とか引き離そうするのだが、その抵抗は弱かった。
かえではマリアの白い首筋にいくつもキスマークをつけながら、指で乳首をこりっと摘み、優しく嬲っていく。

「マリアの胸、大きいわ……、こんなに柔らかくて……綺麗な形……」
「い、いけません、かえでさん……、こ、こんなのおかしいです……あ、ううんっ!」

かえでの細い指がマリアの大きな胸肉に食い込み、柔らかく揉みしだいていくと、マリアは「んんっ」と呻いて目をつむって顎を仰け反らせる。
堅く口を閉じているのは、ともすれば快感の喘ぎ声が出てしまいそうになっているからだろう。
かえでの愛撫に悶え喘ぎながらも、マリアの衝撃は大きかった。
あのかえでが、ここまでするとは思わなかった。
きっと、マリア自身がされたようにかえでも想像を絶するような淫らで激しい責めを受け続けたのだろう。
心身ともに屈服し、反抗心も理性も強制的な快楽によって根こそぎ奪われてしまったのだ。

「いや、かえでさん、そんな……ああう……あ、だめ……はああっ……」

かえでの愛撫にマリアの肉体は、否応もなく反応していく。
呻き声は少しずつ喘ぎ声と変わり、男心を蕩かすような甘いものになっていった。
感じてはいけない、快楽に溺れてはだめと必死になって抗うマリアは、バレンチーノフたちの目を愉しませている。
マリアのような女が最後まで快楽に抵抗するものの、最後に屈して悦楽に溺れていく情景は、男にとってこれ以上ない興奮材料だ。

「やっ、もうやめて……、かえでさん、お願いですから、あ、うむっ!」

またかえでがキスしてきた。
もごもごとふたりの頬が蠢いている。
マリアの咥内を、かえでの舌が舐め回しているのだろう。
舌を絡め、吸い上げているのもよくわかった。
もしかすると、もうマリアの方からも舌を差し出し、互いに吸い合っているかも知れない。
キスを交わしながらも、かえでは胸への愛撫を中断しなかった。
指先で軽く乳首を転がしたり、乳房全体を柔らかく揉み上げている。
トッドたちの、根元から絞り上げるような荒々しい愛撫に馴らされたマリアだが、かえでの優しい愛撫にも強く反応していた。
もうマリアの足腰に力が入らなくなってきたことを知ると、かえでの指がそっとその下半身にまで伸びていく。

「んあっ!」

マリアが鋭い悲鳴を放って顔を仰け反らせた。
かえでの指が媚肉をなぞったのだ。
その上にあるクリトリスに愛液をまぶすようにこねながら、そっと指先を膣に挿入までしてきた。

「あうっ……だめ、かえでさん、こんな……お、女同士なのにぃっ……くうっ……」
「マリア……、もうこんなに濡れて……」
「やっ、恥ずかしいっ! かえでさん、見ちゃだめです……、ああっ、指でしないで……だめえっ」
「……」

かえでがそっとマリアから離れたが、マリアはそのままベッドに倒れ込んでしまった。
まだ息を「はあはあ」と吐いている。
しどけなく拡げた脚がわずかに動き、シーツを滑っていく。

かえでが許可を求めるようにバレンチーノフの方に振り向くと、彼は小さく頷いてカメラマンに位置を移動するよう指示した。
かえでは哀しそうな顔でマリアの下半身に取り付き、その脚を大きく拡げて股間をカメラの前に晒した。
アップで撮影させてから、かえではマリアの顔を跨ぐようにして体位を変え、彼女の股間に顔を入れる。
当然、自分の恥ずかしいところもマリアの顔の真ん前にあることになる。
淡い恥毛に翳る陰部へ、かえでの舌が伸びる。

「はあうっ! か、かえでさん、そんな……いや、いいっ……!」

かえでは指で割れ目を丁寧にくつろげると、その中の襞に舌を這わせていく。
舌先を尖らせて奥の膣口を器用に押し広げ、その中へ挿入する。柔らかいものがぬるっと入り込んでくる刺激に、マリアは腿を痙攣させて喘いだ。
硬い肉棒をねじ込まれるのとはまた違う快感に戸惑い、その虜となっていく。

「あう、あうう……かえでさん、ああっ……そ、そこっ……ひっ、いいっ……」

クリトリスを舌が捉え、押しつぶすようにこねると、マリアは甲高い嬌声を放つ。
さらにそこを唇で挟んで強く吸うと、マリアの腰がぐぐっと持ち上がり、かえでの顔に押しつけられてきた。

「いやああっ、い、いっちゃいます、かえでさんっ……だめえっ!」

マリアはそう叫ぶと、ガクガクと腰を揺さぶって達した。その瞬間、膣口から愛液が勢いよく噴き出し、かえでの顔を濡らしてしまう。
かえではうっとりとした表情で顔にかかった蜜を指で拭うと、それをぺろりと舐めとる。

「マリア、すごい……。いっちゃったのね? 私の舌で……」
「ああ……」

マリアはいたたまれない羞恥で身を焦がし、脚を縮めようとしている。
だが、かえではそれを許さず、閉じかけた脚を掴んでまた開かせていく。
思うように力が入らず、マリアはなされるがままである。

「マリア……、こっちも可愛いわ……」
「あっ!」

かえでに愛されて気をやってしまったことへの複雑な感情におののいていたマリアは、また細い指が身体に這うのを感じて激しく動揺した。
かえではマリアの大きな尻たぶを押しのけるように開かせて、その底にあるアヌスを指で撫で始めたのだ。
あまりのことにマリアは唖然としてかえでを見た。

「マリア、ここもうこんなに熱いわ……、柔らかくなってる……」
「だめ! そこはだめなんです、かえでさんっ! やっ、触らないでくださいっ、汚いっ!」

指で揉みほぐしていくと、徐々にふっくらと膨らんでくる。
そこに舌を這わせていくと、それこそマリアは狂ったように叫んだ。

「ひっ!? か、かえでさんっ、な、舐めてるんですか!?」
「そうよ、マリア……。大丈夫だから、痛いようにはしないわ」
「そ、そういうことじゃなくて、だめっ……ああっ……そ、そこだめえ……ああう……」

かえでの舌が、アヌスの皺に沿うように丹念に舐め上げていくと、マリアは腰をピクピクさせて呻いた。
性器どころではなく排泄器官まで舐められ、愛されている。
バレンチーノフたちにされている時と比べ、屈辱感や汚辱感はなかったものの、逆に羞恥は数倍になった。
肛門がひくひくと蠢き、僅かながらに窄まりが緩んでくると、かえではゆっくりと指を挿入していった。
トッドの太い指に比べれば繊細だが、それでも異物感は強い。
それでいて妖しい快感を感じずにはいられず、マリアはくぐもった声で喘いだ。

「だ、め、あああ……いいあっ……そこはあっ……かえでさんの指が……お、お尻の中に……ああ……」
「……?」

かえでの指がぴたりと止まり、そっと抜き出される。
その細い指先は、ねっとりとした粘液にまみれていた。
腸液だけではなく、白濁し、どろっとした液体も混じっている。
それは開きかけたマリアのアヌスからも、とろりと垂れ落ちていた。
その匂いから、それが精液であることを知ると、かえでの表情がいかにも気の毒そうなものになっていく。

「マリア……、あなた、お尻まで……」
「やああ……、言わないで、言わないでください……」

マリアは消え入りそうな声でか細く泣いた。
肛門まで男たちに蹂躙され、そこに汚辱の液体を浴びせられたことを知られてしまった。
もう立ち直れないとマリアは思った。かえでは優しい声で言う。

「可哀想に、マリア……。でも、私もだから……」
「かえでさんも……」

マリアは涙に濡れた顔で、うつむくかえでを見つめた。
あの男どもは、かえでにまでおぞましいアナルセックスを仕掛けていたのだ。
そう言えば、劇場で見せられたポルノ・フィルムでも、かえでは前後から男に挿入されていた。
アヌスも穢されていたのだった。

かえではおぞましい記憶を振り払うかのように、マリアのそこを熱心に愛撫した。
漏れ出ている愛液を指で掬い取り、それを塗り込むようにアヌスを揉んでいる。
さらに指を根元までずぶずぶと押し込んで腸管をまさぐり、その熱さと柔らかさを確かめるように擦った。
曲げた指で少し強く擦ると、マリアはぐぐっと背中を反らせ快楽を訴える。

「いいっ……! お、お尻が痺れるっ……ひっ、ああっ……だめ、いくっ!」

マリアが肛門でも達したのを知ると、かえではそこから指を引き抜き、そこに付着した腸液と精液のミックスをマリアの豊満な臀部になすりつける。

「マリア、またいったのね……」
「あ……」

かえでは身を起こすと、ちらりとバレンチーノフに振り返った。
物言いたげな視線をすぐに理解したバレンチーノフは、にやっと笑いながらマリアの銃を手にした。
驚いたトッドが思わず止めようとする。

「ボス、何を……」
「心配するな、タマは抜いてある」

バレンチーノフはそう言いながら、かえでに大きなリボルバーを手渡した。
さらにタオルとコンドームも与えている。
何をするのかと不審げにかえでを見ていたトッドも、にやりと淫猥に笑った。

「なるほど、そういうことか」

かえでは手にした拳銃をじっと見つめると、その長い銃身の先をタオルで覆った。
タオルを銃口に被せ、銃身に巻き付けていく。
その上で、コンドームをタオルで覆われた銃口にすっとりと被せた。
そこでマリアはかえでの行為に気づいた。

「かえでさん、それ……、私の銃……」
「……そうよ。これで……」
「な、何を……ああっ!?」

かえではマリアの腿の付け根を抑えて拡げさせ、手にした銃を股間に寄せていく。
コンドームを被った銃口がマリアの媚肉にあてがわれた。
かえではそれを自分のペニスとし、マリアの愛銃でマリアを犯そうとしていたのだった。
このアイディアを出したのはもちろんバレンチーノフだったが、提案されたかえでは一瞬驚いたものの、素直に従った。
銃口の上に飛び出ているフロントサイトが、繊細な膣を傷つけないようタオルで覆い、コンドームを被せるよう勧めたのはかえでである。

「い、いや、かえでさん! そんなことしちゃ……うああっ!」

濡れそぼち、すっかりほころんでいる媚肉に銃口が潜り込み、膣口に押し当てられると、さすがにマリアも脅えたように悲鳴を上げた。
かえでは、暴れるマリアの腰を押さえ込み、タオルとコンドームに覆われたエンフィールドの銃口を膣の中に押し込んでいく。

「あっ……う、くっ……!」

もともと照星が大きめで、そこにタオルを被せているため、マリアの中に入ろうとしている銃口はかなりの太さになっていて、太さだけならトッドの
ものに劣らない。
それを無理に挿入され、マリアはそのきつさに呻いている。
しかし、かえでの手によって二度いかされていたこともあり、鋼鉄製のディルドはほとんど抵抗なくマリアの中に飲み込まれていく。

「あ、あっ……あああっ……!」

銃身が膣内に入った刺激で、マリアは全身を痙攣させている。
腰が持ち上がり、脚がわなわなと震えていた。

「かっ、かえで、さんっ、やめて! はああっ、だめ、入るっ……いやああっ!」
「もうちょっとよ、マリア……、もう少し入れるから」
「だめ、だめです、もうっ……ひあっ!」

長い銃身の中程まで入れると、軽くコツンと衝撃が来た。マリアは子宮にまで届かされたのである。
マリアは、自分の愛銃に犯されているという倒錯的な快感で、早くも悶え、喘ぎ始めていた。

「はああっ、いっ、いいっ……お、奥に来てるっ……し、子宮にまで、ああ……あ、かえでさん、だめっ、そ、そんなに突いたらっ……んひぃっ……!」

涙を流して苦悶していたマリアの表情が、妖しくとろけてきている。
苦鳴を放っていたはずの口からは、荒々しく「はあはあ」と熱い息が吐かれ、息を弾ませて甘い声を出していた。
そして、男根とは比較にならぬ硬さを持った鋼鉄の棒に対しても、膣襞は恐る恐る絡みついてきていた。

「はああっ、い、いい……あう、それは痛いっ……あ、そう、そうです、ああ……そ、そんなに風にされると私……いっ、ああう……」

もともとかえでには、こんなものを使って女を責めた経験などなかったし、そもそもそういう目的に使用するのではないものでやっているのだから、
なかなかコツが掴めない。
しかし、マリアの反応や声を聞いて強さや深さを調整し、乳房やアヌスへの愛撫やキスも交えて責め始めると、マリアはようやく愉悦に没頭していった。
銃口ディルドが抜き差しされると、周囲のコンドームにはたっぷりとマリアの蜜がまぶされてくる。
膣も、抜かれようとする銃身を引き留めるように絡みつき、粘り着くようになっていった。
子宮口をあまり強く突くと痛がるし、ヘタをすればそこを破ってしまいそうで怖かったのだが、マリアの様子を見ていると、そこを微妙な強度で突いて
やると全身を引き攣らせて喘ぎ、よがるのがわかった。
かえではマリアの状態を見ながら巧みに子宮口を責め上げ、マリアに切羽詰まった声を上げさせている。

「はっ、はううっ、いいっ……子宮が……子宮があっ……くううっ、来ちゃう! だめ、かえでさん、もう私っ……!」
「……いきそうなのね、マリア。いいわ、いっても。いきなさい、ほら」
「い、いや、そんな……あ、いく……いっちゃいますっ……ひっ、ひっ……い、いくううっっ……!」

マリアは全身をビクンビクンと数度痙攣させながら、喉が裂けそうな勢いでよがり、絶頂を告げた。
膣が思い切り収縮してバレルを食い締め、グリップをしっかり握っていたかえでの手から銃を持っていきそうなほどだった。

「っ……、はあ……はあ……ん……はあ……」

またしても激しく気をやらされ、マリアは全身から力を抜いた。
しかし、かえではまだ終わりにしてくれそうになかった。
かえでが上に乗ったシックスナインの体位のまま、マリアの顔に自分の尻を差し出す。
かえでは、まだ小さく痙攣しているマリアにそっと声を掛けた。

「こ、今度は私にもお願い……」
「かえでさん……、でも……」
「ほ、ほら、見えるでしょう? 私の……そこも熱く濡れて……は、恥ずかしい……」
「……」

消え入りそうな声でそう告げるかえでの言葉を聞き、マリアは目の前に突き出されている臀部を見つめる。
いかにも熟れた女そのものの豊潤な尻だった。
少し開いた谷間の奥には、肛門が恥ずかしそうに窄まってひくついている。
女の園は言葉通りに濡れており、マリアよりやや濃いめの黒い恥毛がしっとりと露を帯びていた。
男が見れば、即座にのしかかりたくなるような淫靡な光景なのだが、同性のマリアには無惨なものに思えてしまう。
かえでの尻がくりっ、くりっとうねり、マリアの指と舌をせがんでいるように見えた。

「お願い、マリア……。私だって恥ずかしいのよ、こんなの……でも……」
「かえでさん……」

恥辱も羞恥もあるのだが、もうどうにもならないところまで肉体が燃え盛ってしまっているのだろう。
ドープを使われ、男どもに徹底した性調教を受けたマリアにはそれがわかる。
かえでを一度燃え尽きさせて、胸と身体を灼いている淫らな劣情の炎を鎮火させるしかないだろう。
恐らくバレンチーノフたちは、そうやってマリアとかえでが互いに達した後にまた襲いかかり、男女ふたりずつの4Pでさらに辱めるに違いなかった。

それでも、ここはそうするしかなかった。
かえでの身体もマリアの身体も、のっきぴならないところまで来ているのだ。

「マリア、お願いだから……、んんっ!」

哀願すらしてきたかえでに、マリアはとうとう指を使い始める。
細く白い指が熱く濡れた媚肉をそっと愛撫していくと、かえではビクッと痙攣し、腿に鳥肌を立てている。
マリアの指が膣に押し込まれていくと、狭い穴から指が入った分だけ、どぷっと愛液が押し出されてくる。

「マ、マリア、そう、そうよ……ああっ!」

マリアの舌がぺろりとクリトリスを舐め上げると、かえでは白い喉を反り返らせて大きく喘いだ。
真っ白の肉体に黒いランジェリーを纏ったマリアと、象牙色の肌に白い下着を着けたかえでの絡みは妖艶そのもので、見ている男たちの劣情をこの上なく盛り上げていく。

「かえでさん、すごい……、こんなに濡れて……中も熱いです……」
「マリアぁっ……、くっ、いいわ……んんっ、ゆ、指を入れて……ああ、中まで……」
「わかりました……」

マリアの長い指が中程まで入り、関節を曲げて膣壁を擦っていく。
肉襞をなぞり、指を回転させて感じるポイントを探しているらしい。
かえでが鋭く喘いだり、大きく震えたりする場所を見つけると、そこを重点的に責めていった。
マリアの指が胎内で蠢くたびに、かえでの裸身がビクッと反応し、跳ね上がった。

「マリアっ……いい……いいっ……あ、もっと……もっと奥まで入れて……ああ……」
「も、もっとですか?」
「そうよ、もっと深く……出来るだけ深くまで……」
「かえでさん……」

かえでとは思えぬ淫らな言葉にマリアは唖然としたが、かえでの瞳が涙で潤んでいることを察すると、言われた通りに指を根元まで埋め込んだ。
マリアの指を根元まで飲み込んだ媚肉は、漏れ出る愛液でにちゅにちゅと淫らな音を立て続け、マリアの手のひらまで濡らしている。

「……!」

それまで蕩けた表情で、かえでの膣内を指でまさぐっていたマリアの動きが一瞬ぴたっと止まった。
しかし、すぐにまたかえでの中をかき回すように指を使い出した。
その動きはさっきとは異なり、かなり慎重のようだが、かえでの方は大きく喘ぎ、よがり続けている。

「んんっ、いっ、いいっ……、あ、そこよ、あっ……そ、そこ……わかるでしょ?」
「……」

かえでが喘ぎつつもマリアの顔を見つめると、マリアは無言で頷いた。

「ま、まだよ、もっと……もっとあるから……あああ……」
「……」

かえでは喘ぎ声を放ち続けているものの、マリアはもう何も言わなくなっていた。
それでいて、執拗にかえでの媚肉の中をかき回している。

「んうっ!」

かえでが身を震わせて「も、もうひとつ……」と言うと、マリアは指を二本にして膣内に沈め込み、内部を擦っていく。
大きく拡げた太腿をわなわなと震わせていたかえでが「ああっ!」と大きな声で呻くと、マリアの指がぬぽっとそこから抜け出た。
ぎゅっと拳が握られており、その手はびっしょりと濡れている。
かえでは息も絶え絶えに言った。

「そ、そう……、それでいいわ。こ、今度は……今度は、お、お尻も……」
「え……?」

戸惑うマリアに、トッドが野卑な声を掛ける。

「かえでは尻の穴をご所望なんだよ。ここへ来る前もな、何度も浣腸をせがまれてまいったぜ。そのヤマトナデシコは尻責めがお気に入りのようだ」
「……」
「さっさとそのうまそうなアナルを舐めてやれよ、指でも責めるんだぜ」
「……」

マリアはトッドを睨みつけたが、かえではマリアの腕を掴んでそこに導いていく。

「は、早くマリア……、お願いだから……」

かえでの目から涙が零れ、陶器のような質感を持った頬の肌を滑り落ちる。
それを見て、マリアは目をつむってかえでの双臀を割り開いた。

「ああっ」

かえでが羞恥と恥辱の声を放った。
覚悟していたとはいえ、禁断の排泄器官を間近に見られるのは辛かった。
相手が男どもの時は屈辱もあったが、マリアにされた今はそれもない。
ただし恥ずかしさは数倍である。

かえでの羞恥の源を見るのに耐えきれず、マリアは顔を背けたものの、意を決してそこを見つめる。
しかし、かえでの捨て身の行為のためにも躊躇は出来なかった。
トッドに対して恥を忍び、執拗に浣腸をねだったというのもこのためだったに違いないのだ。
今度は舌や唇の愛撫なしで、直接指を伸ばしていった。

「んっ……!」

指先が肛門に触れると、かえでは思わず身が引けたが、悲鳴を噛み殺してそのままじっとしている。
マリアの指先がぬぷりと腸内に入っても、身を震わせながらも必死になって堪え忍んでいた。
美女ふたりの絡みをにやにやと見物していたバレンチーノフたちは、この時点でマリアとかえでの様子に気がつくべきだったのだろう。
かえでの口からは喘ぎや嬌声がほとんど消え、マリアの美貌にもキリッとしたものが戻ってきていたのだ。

「んんっ!」
「くっ……!」

マリアの指がかえでの腸管をまさぐるように動き、二度ほど出入りを繰り返した。
かえでが喘ぐように「あ、あとひとつ……奥にも……ああ……」と言うと、マリアは小さく頷き、指を根元まで押し込んだ。

「んあっ!」

その深さにかえではわなないたが、マリアは構わず指先を曲げて腸管を擦り、中を確認している。
そして指を二本にしてさらにかき回すように抉ってから、ようやく腸液にまみれた指を抜き取った。

「マリア……」
「かえでさん……」

がっくりとマリアの上に横たわったかえでをそっと身体から下ろすと、マリアはベッドに置きっぱなしになっていた銃を手にした。
まだバレンチーノフたちは疑いを持っていなかった。
マリアがそれを手にしたのは、かえでが自分にしたのと同じように、銃身を擬似ペニスとしてかえでを犯すつもりなのだと思っていたからだ。
ひさびさに持つ愛銃をじっと見つめていたが、すぐにバレルを覆っていた避妊具とタオルを外した。
銃を手にしたマリアがベッドから降り立つと、さすがにトッドが反応した。

「何するつもりなんだ?」
「心配するな、弾のないガンだ」

そう返事をしたバレンチーノフの訝しげだった。
マリアの方は全裸のままスクッと立ち上がり、エンフィールドのバレルを折ってシリンダーを開放する。
マリアの手には、かえでの膣内から取り出した三発、腸管から抜き取った三発の弾丸があった。
その時、突然に建物が揺れた。

「な、なんだ?」
「!!」

バレンチーノフとトッドが浮き足立った。
まるで地震のようにズシンと響いたと思うと、派手に何かが壊れる音も聞こえた。
おまけに銃声──それもかなり激しい──まで轟いている。
ラチェットが霊子甲冑で乗り込んできたのである。

もちろんこれはマリアたちと連携していたわけではないからマリアも一瞬びくりとしたが、動揺甚だしい男どもに比べればまだ落ち着いている。
それに、これは大きなチャンスだ。
一瞬でも、彼らの気がマリアから離れている。
何事かと部屋を出ようとするトッドは目を大きく開けて仰天した。
いつの間にか弾を持っていた(トッドたちにはそう見えた)マリアが、その6発を落ち着いてシリンダーに収めていたのである。
驚いたトッドがショルダーホルスターから拳銃を抜き、バレンチーノフも慌てて帽子かけに引っかけてあったホルスターを取った。

「て、てめえ、マリア!」

トッドが仰天したようにM1911を向けると、マリアはかえでの体液で濡れた弾丸をすべて装填し終わっていた。

「マリア、銃を捨てろ!」

トッドは、ガバメントをスライドさせてチャンバーに初弾を送りながら警告した。
マリアはシリンダーを戻し、右手に持った銃をぴたりと黒人の胸板に向けている。
さっきまでの愛欲に濡れた表情は消え失せ、自信に溢れた美貌を取り戻していた。
カメラを回していたスタッフたちは、ただならぬ雰囲気に脅え、声もなくガタガタと部屋から逃げ去っていった。
カメラも撮影済みのフィルムも置き去りである。
それを見送りながらマリアが言った。

「私がこの映画の主役なんでしょう?」
「……」
「イシュタル……、イシュタルだったわね」

マリアが不敵な笑みを浮かべる。

「イシュタルは『戦神』でもあるのよ。ふふ、そういう意味では私にふさわしいのかも知れないわね」
「じゅ、銃を捨てろと言ってるんだ!」

彼らしくなく、トッドの声が少し震えている。
昔のマリアを知る彼は、マリアの銃の腕前も熟知しているのである。
銃を向け合って、マリアとまともに勝負できる者はマフィアの中にもほとんどいなかった。
況してトッドのような「専門外」では相手にならない。
そのことをよく自分がいちばんよく知っているのだ。

「撃つなら撃ちなさい。あなたが撃つまで待ってあげるわ」
「てめえ、舐めやがって……! マリアぁっ!」

トッドは喚きながらトリガーを引き絞った。
威力はあるが、反動も大きい45口径から二発マリアに向けて発射されたが、弾はいずれも逸れていった。
自分を狙った弾丸が後ろの壁にめり込んでから、マリアは一度だけ引き金を引いた。
マリアのエンフィールドも反動の大きい45口径だが、トッドと違ってマリアの狙いは1ミリもずれなかった。

「ぐっ……!」

銃弾はトッドの左胸に食い込み、そして背中から抜けていった。
後ろの壁がパッと血しぶきに染まると、トッドの巨体がその壁へ寄りかかり、そのまま横倒しとなった。
もうぴくりとも動かない。
幾分青ざめたバレンチーノフはモーゼルのハンマーを慌てて引く。

「マ、マリア……、待て!」
「イシュタルの相手になった男はね、皆、不慮の死を遂げているのよ。……トッドもそうなったわね。あなたはどうかしら?」
「く……」

女の冷たい視線に気圧されたのか、バレンチーノフは震える両手でグリップを握り、マリアに発砲した。
マリアは避けるどころか、微動だにしなかった。
9ミリ弾はマリアの頭部すれすれに飛んで行き、ブロンドの髪が数本宙に舞った。
バレンチーノフが撃たずに銃を捨て、降伏していればマリアは撃たなかったかも知れない。
例え刑務所行きとなっても、そうするべきだった。
しかし、マリアの報復と司法に脅えた彼はそれが出来なかった。

(人を撃つのはこれで最後にするわ……)

薄い硝煙の向こうで震えているバレンチーノフへ、マリアはためらいなく引き金を引いた。



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