今日は安治の休日らしい。
朝から買い出しに出かけているが、帰ってくればまた日がな一日犯されるセックス漬けの日になるのだろう。
かえではため息をついた。
今頃、帝撃はどうなっているだろうか。
心配しているだろうか。
ここに来てどれくらい経つだろう。

かえでにはもう、あまり日付の感覚がなくなっていた。
失踪した当初は懸命に探そうとしただろうが、これだけ日が経てば、もうかえではいないものとして組織は動いているかも知れない。
それでも、大神だけはかえでを必死に探しているに違いなかった。

そんなことを考えながらかえでがぼんやりと天井を見つめていると、いくつも荷物を抱えた安治が戻ってきた。
当座の食料品や日用品、そしてかえでを責めるためのいやらしい道具もあることだろう。
遠い目をしていたかえでに気づいたのか、安治が思わせぶりに言った。

「やっぱり帝撃のことが気になりますか」
「……」
「無理もない、もう一ヶ月になりますものね」

安治から顔を逸らしたかえでの顎を掴み、正面を向かせてから安治が言う。

「そう言えば昨日、食堂で花組の連中が次の公演のことを話してましたよ」
「次の……?」
「ええ。次回公演は「大尉の娘」ですから、その次ってことでしょうね。まだ演目は決まってませんから、何をやりたいかって話題でした」
「……」

そうか、もうそろそろ次回公演の稽古に入る頃だ。
いったい自分は、こんなところで何をしているのだろう。
かえでの心に虚しい風が通り抜ける。

「何か、すみれが「白鳥の湖」をやりたい、みたいなことを言ってましたね。バレエでも見たんですかね」
「そう……」
「でもまあ、あれを厳密にやろうとしたら、とても帝撃……というか、舞台でやるなんて無理でしょうけど」
「え……?」
「あれは深読みしようとすればいくらでも深く掘り下げられる話でしょう。だいたい、攫われたオデット姫は、どう考えたって悪魔のロットバルトに犯されていたに決まってます」
「……」
「それに、王子の元へ送られた身代わりのオディールだって、きっと王子と関係したことでしょう。何しろ王妃に選んだわけですから。当然オディールも、悪魔のような性技を尽くして王子を誘惑したはずです。どうです? そんなもの、やれっこありません。猥褻だってことで当局に逮捕されますよ」
「何を勝手な……。バレエの原作にだって、そんな描写や表現はないわ。いかにもあなたらしい下劣な思考よ」

かえでは吐き捨てるように言った。
罵言を吐かれても、安治は機嫌を損ねることもなく、納得したように何度も頷いた。

「……なるほど、そうかも知れませんね。では、童話はどうです?」
「童話?」
「ええ。アイリスがね、今度は童話をやりたい、白雪姫がいいって言い出したんですね」「白雪姫……」
「そう。ご存じですよね、白雪姫」

グリム童話の白雪姫なら知っている。
ナルシスト気味な王妃は常日頃、魔法の鏡に「この世でいちばん美しい者は誰か」と問い、鏡が「それはあなた、王妃さまです」と答えるのを聞いて満足していた。
ところが、継子である白雪姫が育ってくると、鏡はその問いに対して「白雪姫です」と回答するようになる。
プライドの高い王妃はそれに我慢出来ず、子飼いの猟師を呼び出して白雪姫を森に捨てるように言いつける。
途方に暮れていた白雪姫を、森で暮らしていた七人の小人たちが救い、一緒に暮らすようになる。
白雪姫はいなくなったと思った王妃は、再び鏡へ「この世で最も美しい人は誰かと」と問うものの、あろうことか鏡はまたしても「白雪姫」と答えるのだ。

まだ白雪姫は生きていることを知り、激怒した王妃は繰り返し白雪姫殺害を企てるものの失敗してしまう。
そして毒リンゴを食べさせることで、とうとう白雪姫の息の根を止めることに成功した。
事切れた白雪姫を見て嘆き悲しんだ小人たちは、その遺体をガラスの棺に収める。
そこへ偶然通りかかった王子が白雪姫を見初め、死んでいても構わないからと言ってその遺体を引き取る。
城へ連れ帰った王子は、白雪姫を儚んでその唇にキスをすると、姫は奇跡的に蘇る。
大喜びの王子と白雪姫は結婚し、幸せな生活を送るが、計略を図って白雪姫を陥れた王妃は、天罰で落雷を受け、崖から落ちてしまう。

話者や本によって多少の違いはあろうが、大体はこんな感じだったはずだ。
今では日本の子供たちにもお馴染みのストーリーである。
かえでがそう話すと、これも納得いったように安治は頷いて見せた。

「そんなところでしょうね。でも、それってだいぶ脚色されてるんですよ」
「え……?」
「子供向けになってるんです。グリム兄弟が採集したもとの話は、もっと現実的でどぎついんですね。まず、白雪姫を虐めていたのは継母ってことになってますが、これは実母だったんだそうです。つまり白雪姫は、実の母親から虐待されていたんですね」
「……」
「そして、猟師に姫を森へ捨ててくるよう言いつけるくだりですが、これも実は捨ててくるんじゃなくて「殺して来い」と言ったんです。しかも、その証拠として肝……肝臓ですね。それを取って来いとまで指示した」

日本に広まっている話とは随分違う。
かなり生々しい話である。

「でもねえ、猟師だって人の子だし、男性だ。綺麗で愛らしい少女の白雪姫を不憫に思ってしまったんですね。いかにカネを積まれても、こんな子を惨たらしい目に遭わせることなんか出来ない、と」
「……」
「そこで猟師はこの姫を助けることにした。助けると言っても連れ帰るわけにはいかない。仕方なく姫を森へ放置し、持ってくるよう命じられた肝は、イノシシを撃ち殺してその肝臓を持ち帰ることで誤魔化すんです。それを見せると王妃はすっかり信用して、大喜びでその肝臓を調理して食べたと言うんですな。ここまでくると、さすがに悪趣味だ」

まったくである。
カニバリズムの要素まで含んでいることになる。
美人の一部を食べてそれにあやかろうというのか、それとも成り代わろうとしたのか。
雄弁になった安治は、かえでが嫌悪の表情を示していることにも気づかず話し続けた。

「一方、白雪姫の方は小人たちに助けられた……ことになってる」
「……それも違うと言うの?」
「いや、助けられたのは事実ですよ。しかし白雪姫を救ったのは善良な七人の小人たちなんかじゃない。森に隠れていた犯罪者集団……殺し屋だったというんです」
「殺し屋ですって?」
「ええ、そうです。捜査の手から逃れていたんですね。彼らは助ける条件として、自分たちと一緒に暮らし、身の回りのことをするというのを条件として出したんです。無論、姫に断る選択肢などなく、やむを得ずそれを承諾する」
「……」
「この時点でもうおわかりでしょう? 相手は七人の荒くれ者たちだ。そこに無力で美しい姫君がいる。どうなるのか、火を見るよりも明らかです」

粗暴な男たちの慰み者になった、というのだろう。

「そして王妃は、鏡への問いかけにより姫がまた生存していることを知ってしまう。きっと、はらわたが煮えくりかえる思いだったでしょうね。もう部下は当てにならない。自分で殺しに行こうと思うわけです。最初は物売りに化けて、腰紐を売ると言って、その紐で白雪姫を括り殺す。しかしこれは失敗する。すぐに帰ってきた七人によって蘇生させられ、生き返った。家事をこなし、夜のお相手にもなる。美しい上、彼らにとって嫁のような存在だ。放って置くわけがない」

このあたりで、かえでにはもう聞き続けるのがつらくなってきている。
そんな真相があったなんて知らなかったし、出来ることなら知りたくもなかった。

「またしても失敗したことを知った王妃は、なおも白雪姫を殺しに来る。また物売りに化けて姫の元へ訪れ、今度は櫛を売りつける。言うまでもなくこの櫛には毒が塗ってあって、それを姫の頭に突き刺したわけだ」
「……」
「しかしこの企ても失敗に終わる。これも犯罪者どもに救われ、解毒されて助けられた。二度も助けてやったんだ、その身体でたんまりと礼をしろと連中は言ったことでしょうね」
「……」
「三度しくじった王妃は、性懲りもなく姫殺害を企む。何でこうまで執拗なんでしょうね。王妃にとっては、白雪姫は森から出さえしなければ死んだも同然なんですけどね。よっぽど矜恃を傷つけられたってことなんでしょう。でも、それだってすべて鏡の主観なのだし、仮に事実だったとしても姫はこれっぽっちも悪くない。でもまあ、当人はそんなことわからない。わかってればこんなことはせんでしょう。逆恨みってのはそういうもんです。ま、それはともかく王妃は四度目の殺人を計画する。今度は毒殺だ。毒入りリンゴを食わせてしまった。しかし姫も無警戒に過ぎますね。過去、物売りに二度も殺されかけたのに、また騙されることになる。そして今度こそ死んでしまった」

かえではもう二の句も継げず、黙って安治の話を聞いていた。

「さすがに犯罪者どもも今度ばかりは蘇生できず、諦めて姫を棺桶に入れてしまう。そこに通りかかったのが王子様ってわけだ。七人が「もう死んでいる。死体だ」と言っても、死体でいいから譲ってくれと言う。美しい姫が綺麗なガラスの棺に収められていたのだから見とれてしまうのもわからないではないが、それにしたって死んでいる女を引き取りますかね、普通」

通常の感覚なら、いくら美人でも死体を貰い受けたいとは思わないだろう。

「この王子、屍姦趣味というか願望があったんじゃないですかね。つまりこの人、白雪姫の死体を愛でたいと思ったのかも知れませんね。事実、王子は白雪姫にキスして目覚めさせた、生き返らせたってことになってますが、これも実のところ屍姦したんじゃないか、と。眠れる森の美女も多分同じでしょう」
「……」
「どうです? とても舞台で演じられるような内応じゃないですね。挙げ句、物語の締めで悪役の王妃は死んでしまいますが、これも本当は崖から落ちたんじゃなくて、真っ赤に熱せられた鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊らされた、とあります。まあ、こいつがやってきた悪事の数々を思えば仕方ないとも言えますが、それにしたって残虐なオチです」
「……それが本当なら、多少脚色して童話にしたっておかしくはないわ。物事すべてをありのままに伝えるばかりが良いこととは限らない」

かえではようやく言葉を返した。
安治は笑顔で答える。

「ええ、そうです。逆に言えば、すべからく物事には裏がある、ってこともでありますね。桃太郎、知ってますよね? あれだって、川から流れてきた大きな桃をおじいさんが拾ってきて、おばあさんがそれを割ったら桃太郎が生まれてきたってことになってます。でも本当はね、大きな桃を包丁で割っても、種の代わりに男の子がいた、なんてことはなかったんです」
「え……」

知らなかった。
日本古来の昔話のはずだが、これも脚色されていたのだろうか。

「で、おじいさんとおばあさんはその桃を食べたんだそうです。まあ、普通そうでしょうね。ところが、桃を食べたふたりはすっかり若返ってしまったんです。つまりその桃、若返りの妙薬だったんですね。そして、若さを取り戻したおじいさんとおばあさんの間に生まれた子供が桃太郎だったんです。わかります? 桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんが何十年ぶりかでセックスして、その結果、桃太郎が出来たってことですよ」
「それが何なの! あ、あなたという人は……何でもかんでも、そんな……淫らなことに結びつけて……」
「だってそれが事実なんですから。物事にはすべて裏がある。人も同じですよ。毅然かつ清楚ぶってるかえでさんだって、きっとその本性は淫らな性癖を持っていると僕は思ってる。はしたないことを口にし、恥辱的な責めを受けることで悦んでしまうような……」
「やめて……!」

かえでは弱々しく頭を振った。
本当におかしくなりそうだ。
安治の話によって洗脳されてしまうほどに精神は脆くないが、身体の方は崩壊寸前である。

毎日毎日、日に何度もセックスされ、終いには気を失っても起こされ、また犯される。
しかもシメはいつも膣内射精だった。
肛門を犯された時は腸内射精だし、気まぐれで顔にかけられることもあったが、いくらかえでが哀願しても大体は中出しされてしまうのだ。
かえでは、犯されて望まぬ絶頂をさせられるたびに少しずつ気力は萎え、そして胎内に熱い男の精を感じ取るたびに一歩ずつ堕とされていく気がした。
いつまでこの性地獄が続くのだろう。
あとどれだけ堪え忍べるのか自信がなかった。
かえでは、今にも泣きそうな声で安治に言った。

「どうすれば……」
「ん? 何です?」
「どうすればいいの! 私はもう、こんなことには耐えられないわ!」
「ほう。それで?」
「……もう……やめて」
「……」
「もう許して。あなたことは黙ってるから……あなたに害は及ばないようにするから……もう帰して……」

そう言ってかえでは顔を伏せ、肩を震わせた。
泣いているのかも知れない。
安治は黙ってかえでに近づき、その肩に手を乗せて答えた。

「……そうですね。じゃあ……こうしましょう」
「……?」

泣き濡れた美貌を上げたかえでに、安治が告げる。

「かえでさんもだいぶ男の味を覚えた……というか、セックスに馴れてきたようですし……」
「そんな……私はそんなのじゃない……」
「でもねえ、僕に抱かれている時は……」
「だ、抱かれてなんかいないわ!」

かえでは強い調子で反論した。
切れ長の目に力が入っている。

「あれは「抱かれた」なんてものじゃないわよ。あれは……」
「犯されただけ、と?」
「そ、そうよ!」

安治はうんうんと数度頷いた。

「そうですね、まさにそこですよ」
「な……にを言ってるの……?」
「もうあなたと数え切れないほどセックスしてきましたけど、そこが不満だったんです」
「不満て……」
「同意というか、愛し合うセックスじゃなかったです」
「当たり前でしょう」

かえでは吐き捨てるように言った。
無理矢理に拉致監禁して縛り付け、凌辱三昧だったのだ。
愛し合うも何もあったものではない。
そもそもかえでは、安治など何とも思っていなかったのだ。
安治はかえでの顔を覗き込んで微笑んだ。

「だから。今度は愛し合ってみましょう」
「何をバカな……! そんなこと出来るわけが……」
「もしそうしてくれたら……考えてもいいですよ」
「……え?」

かえでは唖然として安治を見つめた。
つまり、そのセックスで最後にしてくれる、それが終われば帝撃へ帰してくれるというのだろうか。

そんなことが信用出来るだろうか。
今の今まで、かえでの肉体を貪り続け、執着してきた男なのだ。
それが簡単にかえでを手放すとは思えない。
しかし安治は、かえでの予想外のことを口にする。

「……いつまでもこうしておくわけにもいきませんしね」
「……」
「そうでしょう? 僕はあなたにいつまで居てもらっても構いませんけど……」
「私はいや!」
「でしょう? なら、適当なところで日常に戻らなければなりません。名残惜しいですけど、あなたの心が僕に向いてくれないのであれば諦めるしかない」
「……」

俄には信じがたいものの、かえでとしてはもはやこれに縋るしかなかった。
女士官は、念押しするように聞いた。

「本当に……」
「……」
「本当に……そ、その……あなたと……」
「ええ。僕と愛し合うようなセックスとしてくれたら、解放も考えます。ただ条件がある」
「な……なに……?」
「さっきかえでさんも言ってくれましたが、帝撃に戻っても僕のことは……」
「わ、わかってるわ。あなたのことは決して口外しない。降魔か何かに拐かされて、何とか逃げ帰ったとか言っておくから……」
「そうですね、そうしてくれれば……」

心なしか安治の表情に邪悪な笑みが浮かんだように思えたが、最後の希望に縋るかえではそれに気づく心的余裕もなかった。
安治も、最終確認のようにかえでに聞く。

「いいですか、ちゃんと「愛し合う」んですよ。僕が一方的に犯す、というのはなしです。あなたの方からも、僕と積極的にセックスしてください。いいですね?」
「……」

かえでは困惑したように口ごもった。
本当にこの男は約束を守るだろうか。
いいだけかえでに奉仕させて、結局逃がさないということはないだろうか。
心配ではあったが、これを拒否したら最後、安治の口から「逃がしてやる」とは二度と言わないかも知れない。
それに、かえでの方が一生懸命に尽くせば、この男だって人間だ、情にほだされてくれる可能性もある。

安治自身の保身ということもある。
確かにこのままにしておくことは難しいだろうし、万が一かえでが自力で逃げ出してしまえば、その時は身の破滅なのだ。
妥協案として今回の趣向を思いついたのかも知れない。

だが、本当にそんなことを言ってしまっていいのか。
もちろん「無理矢理に」言わされるのだ。かえでの本心ではない。
しかし、かえでは今の自分の身体が「堕ちかかっている」ことをほぼ正確に把握している。
この状況下で、例えウソとはいえそんなことを口にしてしまったら、その言葉に引き摺られるように心まで取り込まれてしまう気がする。
かえでが黙り込んでしまうと、安治は少し苛ついたように言った。

「何を黙ってるんです。それともやめますか? いつまでもここにいたいんですか?」
「い、いやっ……」

かえでは髪を振り乱すほどに強く首を振った。

「じゃあ、言いなさい。僕と愛し合うようなセックスをします、と」
「……わ、わかったわ」

かえでは意を決し、顔を伏せた。
安治はそれも許さず、きちんと顔を見て言え、と指示する。
かえでは顔を上げ、わなわな震える唇を鞭打って、屈辱の言葉を告げた。

「わ、私は……」
「私は?」

膝の上の拳をきゅっと握りしめる。

「私は……あ、あなたと……溝口さんと……あ、愛し合うような……せ、セックスをします……ああ……」
「うん、ちょっと言い方を変えましょうか。「私、藤枝かえでは、溝口さんと愛し合います。思い切りセックスして、恥ずかしいくらい何度もいかせてください」と言ってください」
「っ……!」

あまりのことに、かえでの身体が瘧に掛かったように震えた。
しかしもう、ここまで来てはどうしようもない。
言いなりになったように、かえでははっきりと言った。

「私……藤枝かえでは……溝口さんと愛し合います……。思い切り……思い切りセックスして……ああ……は、恥ずかしいくらい何度もいかせてください……」
「よし。それから、僕の言うことは何でも肯定すること」
「……」
「出来ませんか? お芝居でいいんですよ、僕の言うことを鸚鵡返しに繰り返したり、頷いてくれればそれでいい。雰囲気作りです」
「わ……わかったわ……」
「じゃ次。これは大事です。いいですか、気をやりそうになったら、あるいはいってしまったら必ず「いく」と言って下さい。それと気持ち良かったら、ちゃんと「いい」と言うんです。わかりましたか?」
「……」

かえでは悔しそうに、辛そうに小さく頷いた。
この恥辱の時間さえ過ぎれば解放されるのだ。
心の拠り所はそこしかない。

「いいでしょう、合格です」
「ああ……」

かえでは、羞恥と恥辱で首筋まで真っ赤に染めて項垂れている。
その前で安治は下着を下ろし、仁王立ちとなった。
目の前に隆々としたペニスを突きつけられ、かえではハッとして顔を背けた。
やはり、どうしても嫌悪感は抜けきらない。
安治の声が冷酷に響く。

「何をしてるんです。愛し合うんでしょう?」
「……」
「今だけ僕たちは夫婦のようになるんです。夫の性器を見られない、というんですか?」
「……」
「早くして。あなたも一人前の女なんですから、こういう時、どうすればいいかわかってるでしょう」

男はフェラチオを望んでいるのだ。
まずはかえでの口と手で、このたくましくも醜悪な肉塊に奉仕しろ、と言っているのである。

意外だが、これまで安治はかえでの口を求めたことはなかった。
嫌がるかえでに無理矢理キスだけは何度もしたが、ペニスを咥えさせたことはなかったのだ。
かえでの媚肉と肛門の具合があまりに良くて、その二穴にばかり執着したからである。

一方のかえでは、大神相手に何度かしてあげたことがある。
フェラチオは女性の側が男性を責めるほとんど唯一の方法だったこともあり、お姉さんぶりたかったかえでが恥ずかしがる大神を見てクスクス笑いながら愛撫したものだった。
その奉仕をこの男にしなければならない。
イヤでも被虐感が湧き起こってくる。

「早くしろ」と言わんばかりにペニスを押しつけられると、かえでは仕方なく突き出されたものに手を触れた。
犯された時も思ったが、かなりのサイズである。
大神よりも二回りは太そうなそれを、指の先でゆるゆると撫でていく。
安治のものは、それだけの刺激でも亀頭がググッと膨らんでかえでを圧倒する。

(すごい……。なんて熱いのかしら……それに、か、硬くて……ああ、また太くなってる……)

かえでは、差し出された肉棒を顔を背けながら愛撫していたが、安治に頭を掴まれ正面に向けさせられる。
その際、かえでの鼻息が亀頭に掛かると、またそこがグッと大きく反り返った。

「そろそろ口に……」
「ん……」

かえでは、大きく反り返った肉茎を咥えようと、そっと口を開いた。
恐る恐る舌先を伸ばし、ちょんと軽く舐めてから思い切って安治を口に含んだ。

「んっ……」

かえでが顔を顰める。
やはり大きい。
亀頭を飲み込む時、唇の端が切れそうになったほどだ。
かえでが肉棒を頬張ると、その先が咥内粘膜に触れてまた大きくなり、ビクビクと痙攣する。
毒を食らわば皿までとばかりに、かえでは口の中いっぱいに膨れあがった団席に舌を這わせ、唇でしごいた。

「ん、んぐ……んむ……ちゅっ……んむ、んむ、んんんっ……んく……ちゅっ……んふっ……んむ……んん……」

意識しているわけではないが、淫らな音を立てながら懸命にしゃぶっていく。
興奮した安治が腰を動かし、喉奥を突かれて涙が滲んできたものの、それでも健気に愛撫を続けた。
喉を突かれるほど深くまで飲み込んでから、唇で擦りながらゆっくりと根元まで引き抜く。
口から出てくる赤黒いそれは、かえでの唾液でねっとりと光り輝いている。

「うっ、うぐ……うん、うん……んく……むうっ……んっ、んぶっ、んちゅっ……んく……」

時折、かえでの白い喉が上下するのは、口に溜まった唾液と安治のカウパーを飲み込んでいるためだ。
顔を前後に動かして唇と舌で擦るだけでなく、根元を細い指で強くしごいている。
顔が安治の腰にくっつくほどに深く受け入れると、生臭さに吐き気がしてきた。
それでも安治が後頭部を押しているから離れることも出来なかった。
唇でカリ首を強く締めつけ、亀頭の先に尖らせた舌先で突っつくように刺激していく。
大神の場合も、ここをせめてやるとたまらず射精したものだ。
早く終わらせたかったかえでは、そこをぐりぐりとこそぐように抉った。

たまらず安治が呻き、下半身を突っ張らせるようにして腰を突き入れる。
いくら我慢しても堪えきれず、精液混じりのカウパーがどぷっと放たれた。

「くっ、かえでさん、それいいよっ……で、出る、まず口に出しますよ!」
「んむ……」

否定することは許されないかえでは、目を堅く閉じたままコクコクと頷いて見せた。
その従順な姿勢に安治の征服欲が刺激され、亀頭がさらに膨らみ硬くなったかと思うと、一気に射精してきた。

「出るっ……!」

安治はかえでの髪に指を絡ませるように、その頭を押さえ込んだ。

(ああ……、く、来る……)

咥内を穢されることを覚悟したかえでは、咄嗟に舌の裏で亀頭を覆い隠した。
出来るだけ口の中に精液が広がらないようにしているのだ。
しかし安治の射精は凄まじく、かえでの小さな舌を弾き飛ばすように精液が噴出し、たちまち口中に飛び散った。

「ぐうっ……ぐ……んん……んく……ごくっ……ごく……んんん……」

溢れるほどに射精されてはどうにもならず、かえでは必死になって安治の精液を嚥下した。
白い喉が小さく動き、禁断の白濁液を受け入れていく。
飲みきれない精液が唇の端から零れだし、つうっと粘るようにシーツへ垂れていた。
射精の間中、彫像のように固まっていた安治がやっとかえでの口から引き抜くと、かえでは男を突き飛ばすようにして横座りになった。

「ぐっ……げほげほっ……ごほっ……苦くて生臭いわ、それにすごく濃い……こ、こんな……の、飲みきれない……」

喉に絡むいがらっぽい粘液が気持ち悪かった。
胃が気持ち悪くなるほどに飲まされたのに、かえでの顔は青ざめるどころかむしろ朱が差してきている。
大量の男の汚液を受け入れたことで、肉体的にも精神的にも昂揚してしまっているのだ。

「じゃあ本番だ」
「きゃあっ……」

唇に滲む白い液を拭う余裕も与えず、安治はかえでを押し倒した。
かえでも抵抗せず、素直にベッドに身を横たえる。
かえではまた顔を背け、安治の顔を見ないようにするのだが、叱責されて仕方なく前を向いた。
劣情に支配された男の醜い顔が視界に入ってくる。
安治は巧みに膝を使ってかえでの腿を割り開き、そこに入り込む。
腕を伸ばし、ふるふると震えている豊かな乳房をぎゅっと握った。

「くっ……!」

かえでが仰け反ると、安治は既に尖り始めていた乳首を指で捻る。

「なんだ、もう乳首が硬いですね」
「……」
「欲しいですか?」

強く乳房を掴まれ、乳首を指で弾かれる。
かえでは小さく喘ぎを洩らし、喉を鳴らした。
ピクンピクンと腰が蠢き、腿をもじつかせている。
「言うことには素直に従え」という指示を守り、かえでは屈辱を飲み込みながら囁くように言った。

「……欲しいわ」

今し方、かえでの口で激しく射精したばかりなのに、安治の男根は早くもそそり立つように勃起していた。
いったいこの男の精力はどうなっているのだろうと脅えながらも、かえでは安治に媚びる演技を続ける。
すうっと腰を持ち上げ、硬くなっているペニスに股間を押しつけた。
もう濡れてしまっていることを覚られる恥ずかしさに顔を染めながらも、媚肉にぶつかるペニスのたくましさに困惑する。

(ああ……、も、もうこんなに……どうして……)

熱いものが膣口に押し当てられる。

「ああ……」
「さあ言って。入れて下さい、あなたのおちんちんを私のオマンコに入れてってね」
「っ……」
「早く」

安治は、何度も恥辱的な言葉を言わせることで、かえでから卑猥なことを口にすることへの抵抗を薄め、取り払おうとしていた。
その効果もあって、かえでから淫らな言葉への感覚が麻痺し始めている。

「い……入れてください……あなたの……お、おちん、ちんを……私の、お、お……オマンコに入れて……ああ……」
「いいでしょう、さ、どうぞ」
「ああっ!」

濡れてひくついていた膣穴に亀頭の先が潜り込み、かえでの腰がピクンと反応する。
そのまま強引にねじ込まれ、かえでの中にたくましいものが割り入っていく。
カリが通り抜ける時は、かえではその太さに目を剥いたものの、そこが通り過ぎると、ずぶずぶとあっさり膣内に飲み込んでいった。

「んんっ……あっ、あっ……く……んんん〜〜っ……かはっ!」

ズンと子宮口にまで届かされると、かえでは白い首筋を仰け反らせて全身を硬直させた。
もしかすると、軽い絶頂にまで到達したのかも知れない。
その証拠に、かえでは喉を反らせたままピクピクと痙攣し続け、膣圧が強まってペニスを締めつけている。

「……どうです、僕のは」
「ん……ああ……ふ、太い……わ……か、硬いし……あうっ、奥まで来てる……」
「ふふ、僕も素晴らしい気持ちですよ。かえでさんのオマンコは最高だ」
「そ、そんな恥ずかしいこと言わないで……あぐっ、深い……んあ……」

何度味わっても、その圧迫感はすごいとかえでは思った。
挿入されただけで息が詰まりそうになる。
それが子宮口にまで届くと、どうにも堪えようがなく、熱い吐息と淫らな音色の声が洩れ出てしまう。
こんな大きなものが次第に自分の中で自在に動くようになるのが、我ながら不思議だった。

簡単に性に翻弄されてしまう自分が情けない。
こんな男と「同意で」セックスしなければならいことが悔しかった。
しかし断れない条件である。
それに、もうイヤと言うほど何度も凌辱されたのだ。
今さら……という気持ちもあった。
どうせ避けられぬことであれば、いっそ「今だけ」安治とのセックスにのめり込んでしまえばいい、大神では味わえなかった官能を愉しめばいいのだ。
そう思わないこともなかったが、潔癖なかえでには無理な話だった。
しかし、それが崩れ去るのは、呆気ないほどに早かった。

「動きますよ」
「あっ、あっ……うあっ!」

長大なものが力強く動いてくると、悲鳴を上げずにいられない。
女らしく盛り上がった肉厚の割れ目が、太いものを挿入されてさらに膨れあがっている。そこへ男が、自分の体重を乗せるようにグイッと腰を叩きつけていく。

「ふわっ! そんな強くっ……いっ……うあっ……あ、あんっ……いあっ……ああっ……あうっ、いっ、あっ、あっ、あっ、いああっ……!」

どうやって演技で「感じたふり」をしようかと思っていたはずなのに、犯され始めると口から勝手にいやらしい喘ぎ声が出てくる。
腰を捻りつつ、内部深くまで抉り込むように貫かれ、かえでの裸身がビクッとわななく。

安治はかえでの左右の手首をベッドに押さえつける。
上半身は動けず、かえでは下半身のみをいやらしく蠢かせていた。
そこに安治の肉茎がズンと子宮口を突き、なぞり上げるように擦ってくる。
たちまちかえでは大きく喘ぎ、激しい反応を見せた。

「やっ、すご……やああっ、いっ、いいっ……!」

感じてくると声が上擦り、素直に「いい」と口にするようになっている。
子宮口が弱点というのは早い時期からわかっていたこともあり、安治はそこを執拗に責めるようになっていた。
大きく腰を使って奥まで突き上げ、抜く時はカリで思い切り膣襞を擦り上げる。
激しい動きでそれを繰り返すと、あっという間にかえではいきそうになってしまう。

「あっ、ねえっ……あ、もうっ……いっ……!」
「いくんですか? なら……」
「やっ、そんな……」

どうしても絶頂を告げるのは恥ずかしかった。
屈したと自ら認めることになるからである。
無論、それを許すような男ではない。
安治は動きを緩め、深度も浅くゆるゆるとかき回している。
かえではもどかしそうに、切なそうに腰をうねらせ、濡れた瞳で安治に続きを求めている。
安治はかえでに気をやらせることなく、それでいて醒ますこともないよう、ゆっくりとピストンを続けていた。

「ふふ……」
「ああっ……む、胸が……」

乳房を荒々しく揉まれ、かえでは眉間を寄せて悩ましく喘ぐ。
白い肢体を小さく跳ねさせ、胸と乳首からの快楽を敏感に受け止めていた。
立った乳首の根元を擦り上げると、「ああっ!」と叫ぶように喘いで、胸を安治の手に押しつけるように反らせる。
たぷたぷと乱暴に揉みたてられ、乳房が淫らに形を変えていく。

「んんっ、いい……いいわ……ああ……」

執拗に乳首を責められ、かえでは髪を舞わせるように何度も顔を左右に打ち振った。
硬く腫れ上がった乳首を、真上からグッと胸肉に押し込むようにしてやると、ガクンガクンを仰け反り、背中をたわませてよがり続ける。
反らせた背筋に電流が走り、痛いほどに嬲られている乳首がビンビンと疼いた。
思わず手を伸ばし、乳房を虐める安治の腕を掴んでいる。

「ちっ……乳首っ……ああ、そこばっかり……いいっ……うんっ……いいっ……あううっ……」

かえでのしなやかな肢体が弓なりに仰け反り、綺麗な富士額に浮いた汗にセットした髪がへばりついている。
安治は正座になって少し腰を上げると、かえでの腰を抱え持って自分の腿の上に乗せた。
そのまま腰同士を密着させ、下から突き上げるように激しいストロークで責め上げる。
ベッドのスプリングがギシギシと軋み、かえでの尻が安治の上で跳ねている。

「ふああっ、いっ、いいっ……」
「そんなにいいんですか」
「ああ、いい……気持ち良いっ……!」

かえではもう否定も出来ず、何度も首を縦に振って夢中で肯定した。
抜き差しが激しく強くなっていくと、かえでは満足に呼吸も出来なくなり、身悶えも露わとなる。
安治も、セックスに没頭し始めたかえでの痴態に昂揚し、大きく腰を使って深くまで打ち込む。
とろとろに熱くとろけた胎内をひっかき回すように肉棒を動かし、内部をこねくる。

「あっ、あっ、い、いい……ううんっ、いいっ……ひあっ……だ、だめ、あ、もう……くうっ!」

かえでの臀部が安治の膝上でガクンと大きく跳ねた。
瞬間、ペニスを咥えた膣がきゅうっと強く収縮し、蜜がしぶく。
女体は弓なりとなり、胸を突き出すような姿勢で全身を硬直させ、痙攣してから、がっくりとまた安治の上に落ちていく。
安治は、荒く呼吸をするかえでの乳房をぎゅっと掴んで咎めるように言った。

「いったんですか」
「ああ……わ、私……」
「いく時は「いく」といいなさい。そう言ったでしょう」
「あ……で、でも……」

とてもそんな余裕はなかったのだ。
かえで自身、訳のわからぬうちに達してしまったのである。
しかし安治は許さず、「約束を破った」として、一層に激しく犯してきた。
いかされたばかりの胎内と膣口が、太く硬い男根で思い切り擦られ、抉られ、悲鳴を上げる。

「うああっ、だめっ……やあっ、まだだめっ……い、いったばっかりなのにぃっ……少し休ませ……ああっ……!」

余韻を味わうヒマも与えられず、再びかえでは追い上げられていく。
声はまた切羽詰まったものとなり、上擦っている。
安治は速度を少し落とし、その分、出来るだけ深くまで貫いた。
子宮口に亀頭がぶつかり、なおも持ち上げてくる感覚にかえでは目を剥いた。

(こ、こんな深いっ……大神くんじゃ届かないところまで来てるっ……!)

香しい汗にまみれた女体が痙攣し、背は反ったままである。
突き上げるたびにぶるん、ぶるんと乳房が大きく何度も揺れ動いた。
覆い被さった安治が、目の前にある蠱惑的な胸にむしゃぶりつく。
ちゅううっと強く吸い上げ、ぷくんと立った乳首に歯を立てる。
手や指で責められるのとはまた違った感覚に、かえでは鋭く反応した。

「んああっ! そっ、そこ……ああっ!」

乳房に指を立てて強く揉まれ、盛り上がった乳輪を吸われ、乳首をクッと歯で噛まれる。
そのどれもが、かえでに愉悦を与え、確実に喜悦へと導いていく。
濡れ切った股間からは、一層に強くかえでの匂いが漂い始める。

「だめえっ、お、おっぱい……やあっ、いくうっ!」

絶叫とともに、かえでの媚肉が思い切り締まって安治を締めつけた。
かえでは背が折れそうなほどに反らせ、右手で安治の腕に爪を立て、左手はシーツを握りしめている。
ガクンガクンと二度ほど跳ねてから、かえでの肢体からまた力が抜けた。
安治は挿入したまま、そっとかえでを膝から下ろし、机に置いてある電話機を引き寄せた。
大きな木製の本体にはマイクのついた通話装置がついており、耳に当てる受話器は本体から伸びる黒いケーブルで繋がっている。

電話が発明されると、数年の間に日本でも実用化されている。
既に明治時代末期には、公衆電話が運用されているのだ。
この便利な装置は急速に普及し、1899年には全国の電話加入者数が1万人になった。
そして、その10年後には入者数が10倍に増加している。
とはいえ、何しろ高価な代物であり、あくまで公的な利用面が強かった。
帝撃や軍でも運用しているが、一般個人宅で電話がある家はほとんどなかった。
安治はその数少ない個人加入者だ。
ぐったりして、過呼吸気味で苦しそうに息継ぎをしているかえでを見ながら、安治は取っ手を持って本体を持ち上げ、耳に受話器を当てて帝撃を呼び出した。

「……大神はいるか」

安治はかえでの顔をちらりと見ながらそう言った。
かえでは安治を気にしている様子もなく、激しかった絶頂の余韻を今さらながら味わっているようだ。
時折、身体がピクッと痙攣し、物憂げそうに腕が小さく動く程度である。
いつもより抑え気味の、低い声で送話器に告げる。

「だから大神だ。帝国海軍少尉の大神一郎がそこにいるはずだ。なに? 私のことなどどうでもよい。いいから大神少尉を呼び出すんだ。彼にそう言えばわかる」

大神の身分が海軍少尉であることは知られていない。
だからこそ電話に出た藤井かすみも訝しんだわけだが、同時に大神の個人情報を知っているのは関係者だけである。
何か事情があると思ったのか、電話口のかすみは「少しお待ち下さい」とだけ告げて、いったん電話から離れた。
怪しんだかすみが、米田あたりに知らせたら厄介だなと安治は舌打ちしたが、それは杞憂に終わる。
数分を待たずして大神が出たのだ。

「大神か?」
『……大神少尉です』
「部屋に誰かいるか?」
『いいえ。取り次いでくれたかすみくん……いえ、事務員は退室してくれました』
「そうか。では、よく聞いていろ」
『な、何をです? あなたは一体……』

大神に全部喋らせず、電話本体──通話機をベッドに置いたまま、安治はまたかえでを犯し始めた。

「ああっ……、も、もう許して……いいっ!」

安治は仰向けのかえでに覆い被さると、またその手をベッドに押さえつける。
貫くかえでの胎内は、とても平温とは思えないほどに熱く滾っていた。
いった余韻なのか、小刻みに痙攣していてもなお、ペニスに絡みついてくる。
数度の絶頂で疲れ切っているはずなのに、かえでの肉体はすぐに反応していく。
安治が重く深くまで貫き、乳房を揉みしだくたびに、かえでの甲高い嬌声が室内に響き渡る。

「はああっ、いあっ……き、気持ち良いっ……どうしてこんなに……くうっ、いいっ!」
反り返った硬いペニスが、何度も何度もかえでの膣内を抉り込む。
子宮の他にも、ヘソのすぐ下あたりの裏側を擦ってやると、気をやらんばかりに絶叫し、膣が締まる。

「んんんっ、いいっ……あ、あ、また……またいっちゃうわっ……」
「いいさ、何でもいくがいい」

安治は腰を使いながら、本体通話口をかえでの顔付近まで持っていく。
かえでの動きでベッドが軋み、本体が軽く弾んでいるが、ノイズ混じりだろうがその音声は伝わっているはずだ。
盛んに締めつける媚肉の素晴らしさと、すっかり官能に浸りだしたかえでの痴態や美貌を見るにつけ、さすがに安治も限界を感じてくる。
その瞬間だけは、あの男に聞かせなければならぬ。
安治は腰を叩きつけるようにしてかえでの最奥まで貫き、子宮全体を持ち上げ、揺さぶった。

「そんな激しいっ……つ、強すぎるわっ……んああっ、ふ、深い、深すぎるぅっ……」
「こんな奥までは初めてか、かえで」
「ああっ、は、初めてよ……大神くんには無理……ああっ、いいいっ!」

かえではその声を最愛の男に聞かれているとも知らず、身も心も性の愉悦に捧げており、紅潮させた全身をわななかせている。
恥ずかし気もなく大声で喘ぎ、快感を口にした。

大神がかえでの上に被さり、豊かな乳房を胸で潰す。
そして腰を使いながら、そっとその耳元で何事か囁いた。
かえでは一瞬ピクンとしたものの、すぐに喜悦の美貌を歪ませ、その言葉を言った。

「ああ……、いいわ……、大神くんよりいい……ずっといいの……あああ……」

安治が何事か呟く。
かえではすぐに反応した。

「そ、そうよ、ああ……あの人よりも……あなたの方がずっとたくましくて大きくて……私、どうにかなりそうよ……ん、んむっ」

安治は思わず、その口に吸い付いた。
恍惚ととろけているかえでの美貌を間近に見たら、男なら誰でもそうしたろう。
舌を絡ませ合い、思う存分に吸わせ、唾液を交換する。
安治が吸うと、かえでも「お返し」とばかりに彼の舌を強く吸った。
キスを終えると、安治は受話器を耳に当てる。
案の定、大神の叫ぶ声がした。

『か、かえでさんっ……何を……何をしてるんだ!? そこはどこです!? その男は誰なんだ!』

大神のことなど知らぬかえでは、まるで彼に返事をするかのように喘ぎながら言った。

「ああ……せ、セックス……いいっ……あう、太いっ……あ、そんな奥までっ……あうう、子宮まで来てる……す、すご……ああっ」

こうまではっきり言われては、いかに鈍い大神と言えども、かえでが男とセックスを愉しんでいることくらい理解出来るだろう。
安治はにやつきながら、今度はかえでをいかせ、自分もいこうと激しく責め出す。

「ああっ、来るっ……すごいの、来ますっ……や、いく……またいってしまう……ああっ」

口中の唾液を安治に吸い取られたはずなのに、かえでの口元からはまた新たな唾液が伝い零れている。
膣もさらなる快楽──仕上げの射精を求めるべく、貪欲なまでに肉棒を締めつけていた。
今度は、わざと大神に聞かせるように安治は言った。

「さあ、いくぜ。一緒にいくんだ」
「ああっ、は、はいっ……も、いきそうよっ……」
「もう少し待て。中に出すぞ、いいんだな?」
「な、中は……」

かえでに残った僅かの燃え残りの理性が、返事を押しとどめている。
口に射精されたことを思い出して、かえでは戦慄した。
あんな濃いものをたっぷり出されたらどうなるのか。
妊娠だけはしてはならない。
いくら快楽に取り込まれても、この男の子種で孕むようなことはあってはならない。
しかしそんなものは、男の愛撫と激しい律動でたちまち燃え尽きてしまった。

「中に……」

かえでは歯を食いしばっていたが、ついに屈服した。

「中に……出しても、いい……」

しかし安治は冷酷に、さらに追い詰めるようなことを命令した。

「『中に出してもいい』じゃない。出して、だろ?」
「ああ……、そ、そうです……中に出して……」
「とうとう言ったな、くく。本当にいいのか? あんなに何度も中出ししたんだ、妊娠してしまうかも知れんぞ?」

そう言ってから、安治は素早くかえでの耳元で囁く。かえではコクッと頷いて、喘ぎ喘ぎ言った。

「い、いいの……ああ……に、妊娠させて……あなたのせ、精液で妊娠させて欲しい……」
「……」
「私の中でいっぱい射精して……ああ……な、何度でも……何度でも孕ませて……」

かえでの言葉を聞くと、安治の興奮も最大にまで高まった。
かえでの手を握りながら、その腰が衝撃で浮くほどに強く、
そして深くまで抉る。子宮口を何度も叩かれ、そこが口を開けているのがわかる。
かえでの裸身がぐううっと思い切り反り返る。
腰を安治に押しつけ、かえでの方からなるべく深く繋がろうとしていた。

「いけ! いくんだ、かえで!」
「ひっ、ひぃぃっ! い、いく……いくっ……だめっ……ああ、もうっ……うああっ、い、いきますっ!!」

大きく仰け反り、かえでは後頭部で上半身を支えた。
握られた安治の手を、強くぎゅっと握り返している。
爪先が外側に反り返り、内側に屈まり、そしてまた反り返った。

「くっ……、か、かえで、孕め! 孕むんだっ!」

かえでが絶頂したのを確認すると、安治も劣情を破裂させてその胎内に激しい迸りを放った。
びゅるるっと精液が子宮口に当たり、僅かに開いた子宮口から内部へ飛び込んでいく。
安治の熱く、濃い精液を子宮口と子宮内で同時に味わい、かえでは狂ったかのような嬌声を放った。

「んっはあああっ! 出てるっ……私の中に、くうっ、いっぱい精液っ……いく……いく!」

かえでの求めに応じて安治の精液が膣内に放出されていく。
びゅくっ、どぷっ、どくっと断続的に射精の発作が繰り返されると、そのたびにかえでの裸身がうねり、痙攣した。

「あうう、まだ出てる……す、すごい、こんなたくさん……ああ、どうしよう……本当に妊娠してしまう……いい……あっ、ま、またいく……ううんっ!」

存分に射精の快感を味わうと、かえでは握りしめていた安治の手を離し、くたっと力を抜いた。
それでも膣だけは射精が続いている間中、収縮を続けて絞り取っている。

ようやく安治がペニスを引き抜くと、かえではまた全身をわななかせ、軽くいった。
激しく胸を上下させ、官能の波に身を任せている。
肉棒が抜き去られた膣口はだらしなく開いたままで、内部から安治とかえでの粘液が混じったものを逆流させていた。

安治はおもむろに受信機を耳に当てる。
何も聞こえないが、切ってはいないようだ。
よくよく耳を澄ませると、息を飲んでいる雰囲気が伝わってきた。
怒るか、ショックを受けて切っていると思っていた安治は少し意外に思ったが、犯されるかえでの喘ぎやよがり声を聞かされて、切るに切れなかったのかも知れない。
まだ繋がっているなら好都合だ。
ここでダメ押しすることにした。まだ快楽の余韻で、肢体をビクッ、ビクッと痙攣させているかえでの髪を掴んで顔を持ち上げ、側にある機械に顔を向けさせた。

「……」

かえでがうっすらと目を開けると、目の前に木製の箱がある。
そこから黒い小さなラッパ口がついていた。

「……電話……」
「ええ。相手は誰だと思います?」
「……」
「……大神ですよ」
「え……」

唖然としたかえでが首を曲げ、驚いたように安治の顔を見る。
安治は頬を歪ませて嗤った。

「大神です。さっきからずっと繋がってますよ」
「そんな……」

官能の色を兆していたかえでの顔色が一変した。
唇が青ざめ、わななく。

聞かれていた。

さっきまでの行為のすべてを聞かれていたのだ。
セックスに溺れ、けだものじみたよがり声や、熱く蕩けるような喘ぎ声もすべてだ。
絶頂させられた瞬間の声も、安治の精液をせがむのも、みんな大神に聞かれてしまった。
しかも「妊娠させて」とまで口走ったのである。
自分がどれだけ淫蕩な女なのか、自ら晒してしまったことになる。
目の前が真っ暗になるということを、かえでは身を以て実感していた。
まるで物理的に視力を失ったかのように、周囲から光が消えていく。

「いっ……いやああああっっっ……!! おっ、大神くんっ、大神くんっ! 許して!」

かえでは、喉が張り裂けるほどに絶叫した。

───────────────────

五ヶ月が経過した。
藤枝かえでは、相変わらず溝口安治宅に囚われている。

多少、状況は変わっている。
監禁というより軟禁になった。
安治が縛ってセックスしたい時を除けば、拘束はほぼ解かれている。
ただ、ほとんど着衣は許されず、全裸でいることが多いため、外出は不可能であった。

それでも、安治がいない時を狙えば、逃げられないことはなかった。
しかし彼女は逃げ出さなかった。
「愛し合うセックス」の演技中、電話口で大神に知られてしまった。
どう言い繕おうが、かえでが他の男に抱かれて嬌声を放ち、気をやっていたことだけは事実である。
芝居だ、騙されたのだと主張しても、百人が百人信じてはくれないだろう。
大神一郎の元へはもちろん、とても帝撃にも戻れない。
その状態で軍務に復帰することも不可能だ。
もう半年近くも音沙汰なしで、軍務放棄しているのである。
姉のあやめも死んでおり、もうかえでには帰るところがなかったのだ。

ただ、かえでに自殺するという発想だけはなかった。
姉が死を持って花組を護ろうとしたのを知っているだけに、安易な死を否定していたからだ。
どこにも行くところはないが、少なくともここには居場所がある。
安治はかえでに暴力を振るったり、邪険に扱ったりすることはなかった。
本当に愛しているのか不明だったし、彼の愛情がどのようなものかわからないのだが、大事にはされていると思う。
セックスに於いては、無理矢理に犯されたり、虐められたりすることはあったものの、安治なりに線は引いているらしく、ケガをしかねないようなプレイや、本当にかえでが精神的におかしくなってしまいそうな行為はしないでくれていた。
そして何より、おぞましいことにかえで自身が、安治の変態的な責めや倒錯的なセックスを受け入れ、強い快楽を得るようになってしまっていたのだった。
藤枝かえでは「堕ちた」のである。

ぼんやりと窓から外の景色を眺めていたかえでは、ドアが開く音を聞いて振り返った。

「帰ったの……」
「ただいま」

さすがに「お帰りなさい」とは言わないものの、素直に安治を出迎えるようになってきている。
安治は鞄を置くと、手早く着替えながら言った。

「……今日は何かありましたか?」
「別に……」
「ちゃんと食事はしてるでしょうね?」

一応、気遣いはしてくれているらしい。
かえでは返事こそしなかったが、複雑な心境になる。
安治は「今晩は僕が作りますよ」と言いながら、買ってきた食材を並べる。

「そう言えば最近、あんまり帝撃のことを言わなくなりましたね。もう未練もないですか」
「そうじゃないけど……」
「もし責任を感じていたり心配しているなら、その必要はなさそうですよ」
「……どういうこと?」
「ええ。あなたの後任の副司令が決まって、もう配属されてますよ」
「っ……」

かえではハッとして顔を上げた。

「誰が……」
「さあ、詳しいことは知りません。名前は……いいえ、あなたが知る必要もないでしょう。でも、あなたと同じく陸軍の若い将校のようでしたよ。やっぱり女性です。花組を始め、若い女性相手の仕事ですから、どうしてもそうなるんでしょう。支配人や花組の連中ともうまくやってるようです」

安治は、出来るだけ素っ気なく言った。
かえでは何だか酷く寂しく、そして哀しかった。
自分の居場所がなくなっていく不安定さが怖い。
項垂れるかえでをちらりと見て、安治は続ける。

「それと……もう興味もないかも知れませんが、大神ですがね」
「……」

かえでは無言で俯いたままだ。

「どうやら、最近はさくらと良い雰囲気のようですね」
「さくらと……」
「はい。ま、もともとさくらの方は大神のことが好きだったようですけどね。あなたがいたから諦めていたんじゃないですか? そこに、あなたを失って憔悴していた大神に接近していった……って、感じですかね。僕にはちょっと理解できないが、お似合いじゃないですか? あの男にはあの程度の小便臭い小娘がお似合いですよ」

今までのかえでなら、大神やさくらを悪し様に言われれば、カッとして反論していたところだろう。
しかし今の彼女は、もうそういう気力すら失われていた。
縋るものは、この男しかいない。そう思い込んでいたのだった。
気の強かった女性が悄然としている姿を見て、安治の獣欲がムラムラとこみ上げてくる。
ここまで堕としたと思うと、この上ない満足感があった。

「かえでさん……」

たまらず安治はかえでに近寄っていく。
かえでは反射的に身を引いたものの、すぐに絡め取られてしまう。
顎を持ち上げられ、唇を奪われる。
キスされながら、より豊かに膨れあがった乳房を優しく揉み上げた。

「ああ……」

すぐに感じ始めた。
だが、安治の手がそっとお腹を撫でると、咄嗟にその手を払い除ける。

「ふふ……、もう母親の自覚が出てきたんですか。どうです、もう胎動はありますか?」

かえでは懐妊していたのだった。
かえでが、帝撃復帰と大神との復縁を諦めた最大の理由がこれだったのである。
あれだけ何度も犯され、膣内射精を繰り返されていては、遅かれ早かれこうなることは覚悟していた。
しかも、この男の射精量はかなり多く、しかも精液は濃厚だった。
健康体のかえでが孕まないはずもないのだった。

錯覚なのだろうが、かえでは自分が受精した時のことを覚えている。
大神に繋がった電話の前で激しく絶頂されられた時である。
あの時は、連続セックスと終わることのない絶頂によって子宮口が緩んでしまっていて、そこへモロに射精を受けたのだ。
子宮内に放たれる精液をはっきりと感じ取っていた。
そこで「妊娠してしまった」という実感を強く持ったのだった。

妊娠と知った時は衝撃だった。
二ヶ月生理がないのを訝しんだ安治が、帝都では尻尾を掴まれる可能性があるとして、わざわざ埼玉の産院までかえでを連れて行って確認したのである。
妊娠二ヶ月と診断された。
ここで安治は、産むか堕ろすかの判断をかえでに一任した。
もし堕ろすとなれば、何度でも孕ませる愉しみが出来るし、産むのであれば「自分の子をかえでが出産する」という、まさに夫の感覚が味わえるのだ。

かえでは産む決心をした。
どうあれ、かえでの子であること間違いないし、お腹にいる子には何の罪もないのだ。
その命を奪う権利はないと思った。
これが、あの浮浪者たちによる輪姦のように、一度限りのレイプであれば、また違った気持ちになったろうが、安治とは半年近くも関係を結ばされ、そのセックスを受け入れてしまっていたので、堕胎する気にもなれなかったのだ。

かえでに振り払われたものの、安治はその身体をしつこく擦り、撫でまわした。
妊娠五ヶ月になる女体は、いくらかふくよかになり始めている。
特に乳房は目立って大きくなった。
しつこいほどのセックスで乳房を愛撫し続けたこともあるだろうが、やはり妊娠したせいであろう。

そして何より、お腹が膨らみ始めているのだ。
滑らかでなだらかだったかえでの腹部は、うっすらと盛り上がり、肌も這ってきている。
このことも、かえでに「妊婦」という自覚を強く持たせている。
そのように妊娠の徴候はいくつもあるのだが、乳首や乳輪が黒ずんだり、色素が溜まるようなことないようだった。
妊娠すると、シミやソバカスも出来やすいらしいのだが、かえでの肌は白く綺麗なままだ。

「やっ……んんっ……だめ、そこ……あっ……か、感じ過ぎて……いっ!」

乳房が大きくなるだけでなく、乳首も敏感になるらしい。
チクチクするような刺激があったり、外部からの刺激を感じやすくなるのだ。
もともとそこが感じやすかったのが、一層に強く快感を得るようになっていた。
胸だけではない。
妊娠してからというもの、身体中の肌がより鋭敏になった気がしてならなかった。

「はあっ……ああ……いっ……いい……んう……はああっ……」

かえではしなだれ、背中を安治にもたれかかって身を預けている。
乳房を揉み続け、乳首を愛撫する安治の腕を手で掴むような格好になっているが、力は入っておらず、ほとんど添えられているだけだ。
それどころか、もう片方の手は安治の股間へ伸び、早くも硬くなってきている男性器をまさぐっている。
安治はかえでの顔を上に向け、もう一度激しくキスしてから、ベッドへ静かに横たえた。

「……」

かえではもう、すっかり犯される覚悟を決めていて、目を閉じたまま動かない。
いや、むしろ「抱かれたい」「犯されたい」と思っているのかも知れなかった。
自分のいない帝撃が機能し始めている。
もう自分など必要とされていないのだ。
その寂しさと喪失感を紛らわすため、安治の身体を求めているのだった。

「いいですね?」
「あ……、で、でも……お腹の……」
「もう平気でしょう。先生も言っていたじゃないですか、そろそろ夜の生活もいいですよ、と」
「……」
「悪阻もなくなったでしょう?」

最初は酷かったが、四ヶ月目になったあたりからだいぶ楽になっていたと思う。

「ならいいでしょう。ね?」
「……」

かえでは了承したように顔を伏せ、力を抜いた。
そっとお腹を撫でていた安治の手が下へ滑り、陰毛を愛撫しながら割れ目に指先を潜り込ませていく。

「ああ……」

かえでは細い喉首を晒して軽く仰け反り、きゅっと手を握りしめる。
安治は乳房を揉みながら、膝で股間を割り開く。
股間の中心は早くも割れて開いていた。心なしか露も宿っているようだ。

「ああ……いい……」

乳房をゆっくりと揉み込む安治の手を掴みながら、かえでは内腿の皮膚を引き攣らせた。
安治はなおも乳房を責め、たぷたぷと揉みながら乳首を口で吸った。

「うんっ……!」

鋭い快感にかえでが呻く。いつしかその腕は安治の背に回っていた。
安治はお腹を潰さないよう慎重にかえでの上に覆い被さり、そのまま腰を押し込んだ。
濡れていた膣は、安治のペニスをぬるっとばかりに飲み込む。
もう、この男根にすっかり馴れてしまっている。
膣いっぱいに広がる硬い感覚。太くて軋むほどだが、愛液のお陰で楽に動く。

「ん……ああ、いい……うんっ、ふ、太いっ……あう……」

安治の方も、今までとは違う快感を愉しんでいた。
妊娠して子宮が膨らんだせいなのか、内部がいっそうに窮屈になっている。
男根が押し潰されそうな感覚で、細長いチューブか何かに挿入したような感じがした。
ただチューブのように無機質ではなく、内部は熱くとろけており、襞が盛んに絡みついてくる。

かえでも積極的にセックスの快感を愉しんでいた。
安治にしがみつき、より深い挿入を望んでいる。
あまり深いのは胎児に影響を与えると思うのに、どうしても奥に欲しくなってくる。
安治もそれを承知で、以前ほど激しい責めはないものの、可能な限り深くまで貫き、胎児の宿る子宮を小突くように突き込んだ。
犯され続け、セックス漬けの生活だったせいか、かえでは簡単にいけるようになっていた。
体調にもよるが、繋がって五分もしないうちにいかされたこともある。
一晩中犯さ抜き、夜明けまでに数え切れないほど絶頂させられ、半死半生になるまで責められることも珍しくなかった。

「ああ……か、感じます……いいっ……も、もっと、ああ……」

かえで自ら腰を使い、尻を持ち上げるようにして安治にくっつこうとする。
彼の手が胸から離れると、自分で乳房を揉みしだき、指を食い込ませる有様だった。

「やあっ、いく……い、いってしまいます……ああ、もう……もう……」
「いっていい。僕もいこう」
「い、いく……我慢できないっ……あ、早く……早くっ……!」
「出すぞっ」
「うんっ……!!」

その瞬間、安治はかえでの口を強く吸った。
舌を絡ませ、咥内をまさぐりながら、胎内にたっぷりと射精した。
射精される快感をすっかり覚え込んだかえでは、精液を浴びる感覚で続けざまに絶頂する。
精液が子宮口に当たり、内部に染みこんでいる気がした。

(ああ……、も、もう……私は……)

かえでは、安治の背に爪を立て、強く抱きしめていた。


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