媚肉に熱いものがあてがわれると、夏実とは思えぬ悲鳴が出た。
セックスの経験はあるとはいえ、強引に犯されるのは初めてなのだから無理もなか
った。
しかも凌辱しようとしているのは、虫酸が走るほどに嫌なストーカー野郎だ。
夏実のそこは、牛尾の愛撫が若干あったものの、とても潤っているとは言えない
状態だ。
加えて牛尾に対する嫌悪感が強く、抵抗心が根強く残っている。

「こっ、このっ、やめろ、入れるな! やだ、よせっ!」

もう膣穴にペニスの先がくっついているのに、なおも夏実は諦めず激しく抵抗した。
その気力や威勢の良さに、牛尾の方も感心する。
だが、これも最初だけだ。
何度も身体を重ねていれば、いかに夏実と言えどもこちらの気持ちが伝わるはずだ。
牛尾はそう信じ込んでいた。

「もう覚悟を決めてくださいよ、処女じゃないんでしょ?」
「だからって関係ないわよ、嫌なもんは嫌なの! あ、あ……んんっ!?」

肉棒がとうとう割れ目をこじ開け、膣に侵入を試みてきた。
その瞬間、夏実は思わず息をのんだ。
牛尾の淫らな欲望がストレートに現れたかのようなペニスは灼熱化していた。
それが強引に肉襞を割って夏実の中へ押し入ってきた。
肉棒が進んでいくごとに、夏実の膣内が押し広げられていく。
紛れもなく男根の感触だった。

「ひうっ! や、め……くあっ……!」

レイプされる夏実だけでなく、犯す牛尾の方も真っ赤な顔をしていた。
夏実の中はきちきちだった。
思ったよりずっと膣内が狭い。
挿入するのに苦労するくらいだ。
牛尾のペニスのサイズを考慮しても、夏実のそこは狭隘だった。きついのは濡れて
いないせいばかりではないだろう。

「くっ……きついな……」
「き、きついのはこっちよ……あっ……ぬ、抜いてっ……、あううっ!」

ようやく亀頭部が貫通すると、夏実はそこが裂けたのではないかと思った。
もっとも太いところを飲み込んだ膣口は、今にも引き裂かれそうなくらいにぴりぴり
とした痛みがあった。

「いっ……たいっ……。や……こ、こんなのやあっ……」
「我慢して、くださいっ……もう少し……もう少しで全部入りますからっ」
「い、入れなくて、ああっ、いいのよっ……抜いてって、あぐっ、言ってる、くう
っ、でしょっ!」

少しずつ挿入していっているのだが、まだペニス全長の半分ほどだ。
それでも、奥へと進めるたびに、夏実は全身を震わせて堪えている。
痛いのだ。
愛液が不十分なのと、夏実が嫌がって身体に余分な力を入れているからだろう。
それでも、ようやく夏実と関係出来ることに昂ぶっている牛尾には、彼女を気遣う
余裕はない。
夏実の膣が馴染んでくるのを待たずして、腰をぐっと進めてきた。

「う、あ……ぐぐっ……」

センチ刻み、ミリ刻みで、太いものが内部に入ってくるのがわかる。
その苦痛と圧迫感に、夏実は歯を食いしばって耐えた。
なおも奥へと侵入する肉茎の恐ろしさに、気丈な婦警も苦しげに呻く。

「ああ、ま、まだなの……あ……、まだ入ってくるう……」

最奥にコツンと当たった。
夏実はビクッと背中を反らせて悲鳴を上げた。

「ひぃっ!」
「お、いちばん奥ですね。そうか、ここが辻本さんの子宮かあ……」
「い、いた、い……、あっ……痛いわよっ……そ、そこあんまり突かないで……
くっ……」

痛がっているということは、この年上の女性は、まだ子宮を突き上げられる快感を
知らないらしい。
その素晴らしいポロポーションの割りに、まだ経験が浅いのだろう。
つき合っているらしい男も、どうせ粗チンで早漏に違いない。
だったら自分が、この夏実の肉体を開発し、仕込んでやればいいのだ。
そうすれば自ずと辻本夏実は牛尾の女となるだろう。
男性本位の偏見を抱きつつ、牛尾は少し余裕が出た。
もし夏実が経験豊富で、こちらがバカにされるようなことがあったら、かなりショ
ックだったはずだ。
そうならないように、牛尾は風俗で経験を積み、自分なりにセックスへの自信を
つけるようにはなっていた。
だが、いざ夏実を前にしたら、その自信もどうなるかわからない。
夏実の反応を見るにつけ、そうした不安は徐々に消えていった。
ゆっくりと腰を使い出した。

「まだ痛いですか? 徐々に馴らしていきますよ、子宮で感じるようにしてあげます」
「そ、んなこといらないわよっ……ぐっ……、い、いいから、さっさと抜いて、あっ、
う、動くなってばっ!」

男の腰の律動を感じ、夏実はまた身体を反らせた。
子宮口をな直になぞられたのも痛かったが、それ以前に極太のものを無理にねじ込
まれていたのだから、彼女の狭い膣道が悲鳴を上げているのだ。
牛尾の方もそれはわかっているらしく、夏実の身体にあまり無理がかからないよう
に、取り敢えずは深いピストンは避け、浅いところを馴らすように出し入れして
いった。
それでも膣の締め付けはかなりのものだ。膣口がめいっぱい開かされているから、
そこがきついのは当然だろうが、膣内もかなり締めてくる。
あまり濡れていないし、男根の太さに襞も脅えたように縮こまっているから余計にだ。

「あ、あくっ……はっ……う、ごく、あっ……動かないでって、あうっ、言ってる
でしょっ……やめ、て……はああっ……」

両脚を抱えられて、リズミカルに貫かれている夏実の口からは、まだ快楽を訴える声
は出てこない。
この状況で、しかもひさしぶりのセックスで、おまけに東海林より大きそうなもので
犯されているのだから無理もない。
牛尾としては、このまま男の力──自分の優位性を思い知らせるように犯すのも手だ
と思っていたが、最後まで抵抗されてまったく反応してくれないというのも寂しい。
そこで、牛尾のものをくわえこまされた割れ目の頂点に鎮座している肉芽をいびって
やった。
少しでも夏実を濡れさせる、感応させるためだ。

「あっ、あっ、そ、そこっ……バ、バカ、どこを触って……うくっ!」
「どこって、カマトトぶってるんですか? クリトリスに決まってるでしょう、辻本
さんのクリトリス」

男の太く短い指は意外と器用に動いて、夏実の陰毛をかき分けるように滑っていく。
そして性神経が集中している敏感な肉豆を優しく、そしていやらしく撫でるように
刺激する。

「やめ、やめろぉっ……あひっ……」

時々、奇声じみた声になるのは、夏実が反応しているからだ。
ただ、その刺激があまりに強いので、快感というよりはびりっと痺れるような感覚に
なっている。
そのせいか、まだまだ苦痛の色が濃い。
もう少し濡れて、蜜が出てくれれば、それをまぶして愛撫できるのだが、まだ出て
こない。
牛尾は右手でクリトリスを刺激しながら、左手を胸へと伸ばしていく。
制服とブラの生地を通して、乳首が立っているのが判る。
そこを中指と親指で、少し強く潰すようにしてこね回してやった。

「んひぃっ……バカ、やめっ……ああっ……あ、あんたっ……」
「何です?」
「んくっ……触るなっ……あ……こ、こんなことして……こんなこと、あっ……
して、どうなるか、ああっ、わ、わかってんでしょうねっ!?」
「さあ。まあ普通は強姦すれば逮捕ですよね」
「ったりまえよっ。あんたもそうなるっ、あっ……」
「ならないと思いますね。理由は最後に教えてあげます」
「ふ、ふざけてないで、もうやめ……くうあっ……」

男の腰の動きが止まっていた。
そのせいで膣への痛みが薄れている。
それはよかったのだが、指は以前と動いている。
クリトリスを中心とした媚肉や、服の上から乳房を愛撫されているのは続行中だ。

「あ……あ……、んんっ……よ、せ……あっ……はあっ……んううっ……」

執拗なまでのクリトリスと乳首への愛撫が続き、いつしか呻き声に熱く、甘い色が
混じってきたことが、夏実にもわかった。

(あ……、熱い……身体が熱くなってきてる……)

こねくられる乳首はビンビンに勃起している。
これは感じていることもあるが、指で嬲られているせいだろう。
クリトリスが反応しているのも同じ原因のはずだ。
ただ、膣の内部が熱を帯び始め、潤ってきたことが怖かった。

(ま、まさかあたし……感じてる……? 違うわ、これは中が傷つかないように
濡れてきてるだけ……)

夏実は、膣の奥から分泌液が滲んできたこともわかった。
まったく感じていないとは言い切れなかったものの、これはやはり身体の防衛機構
が働いているだけだろう。
だが、このことが牛尾にバレれば、この男は喜々として「夏実が感じている」と
誤解するに違いない。
案の定、男が嬉しそうに言った。

「辻本さん、オマンコ熱くなってきましたね」
「しっ、知らないっ……」
「中も、ほうら少し濡れてきましたよ。愛液が出てきた」
「くっ……うるさいっ……」

やはり勘違いしている。
牛尾はそう信じて、また腰を動かしてきた。

「ほうら、ずいぶんと中の滑りがよくなってきましたよ。辻本さんも、その気に
なってくれたんですね」
「だっ、誰が「その気」になったのよっ、あんたなんかと! ああっ……」

牛尾は乳首を押し込むようにして左手のひらを回転させ、夏実の大きな乳房をこねた。
さらにクリトリスの根元をきゅっとつまんでやると、夏実の媚肉も同じようにきゅっ
と締まった。

「あはあっ……!」

ギクンと身体をうねらせ、美人婦警の口から艶のある媚声が漏れた。
夏実も自分の出した声に驚いたのか、「あっ」という顔をしている。

「色っぽい、可愛らしい喘ぎ声ですね」
「喘いでなんかいないわよ、このバカっ……んんっ……」

自分でも恥ずかしい声だったと思って、夏実は唇を噛んだ。
牛尾を罵ることも出来なくなるが、またあんな声を出して悔しい思いをするよりは
マシだ。
しかし、噛んだ唇からは、少しずつ堪えようもない声が漏れ出るのが止まらない。
牛尾は腰を軽く打ち込みつつ、乳首と膣への愛撫をやめないのだ。

「んんっ……んくっ……うっ……ぐうっ……」
「無理して我慢しないでいいですよ。気持ちよくなってきたんでしょうに」
「う、るさ……んっ……くっ……う、はあっ……はっ……やっ……」
「でも、そうやって気持ちいいのを我慢している顔も萌えるなあ」
「気持ちよくなんか……くあっ……」
「素直じゃないなあ。そんな子にはお仕置きだ、ほら」
「うああっ!!」

浅く緩く律動していた牛尾が、突如、ぐいっと奥まで貫いてきた。
子宮口を小突かれ、その苦痛で夏実は大きく仰け反って悲鳴を上げた。

「バ、バカ、いきなりっ……!」
「びっくりした? じゃあ今度深くする時は前もって言いますね」
「そ、そういうことじゃなくて、あっ……ぬ、抜けって言ってんのよ……うくっ
……」

夏実の息遣いが少しずつ荒くなってきている。
痛みや屈辱もあるだろうが、他の妖しい要因も混じっているのだ。
それを認めたくないから、夏実は必要以上に全身に力を込め、奥歯がぎりっと音が
するまで噛みしめた。
そんな夏実の決意を嘲笑うかのように、牛尾は動きを強くしていく。
夏実の腰をぐっと引き寄せて、肉棒を最奥にぶつける。

「くあっ!」
「まだ痛いですか? そろそろ慣れてくださいよ。じゃないと辛いだけですから」

牛尾はそう言って、ピストンの速度を上げていく。
さっきよりも勢いのついた怒張が、夏実の膣口を拡げ、膣道を擦り、子宮を突き
上げる。
よほど痛いのか、夏実は食いしばっていた唇を開け、肉の凶器の暴走に悶えていく。

「うああっ……くうあっ……ひっ……そ、そんなに動かないでっ……ひあっ……
はああっ……!」
「くく、どうしました辻本さん。生意気な口調が消えましたね」

男は腰を強く使いながら、両手で乳房を揉み込んだ。
痛がる中にも快楽を与えたいと思ったからだ。
しかし夏実にとって、それは愛撫になっていない。
膣が引き裂かれ、子宮がひりひりするような痛みに加え、胸まで潰される。
女の生理を考えず、ただ強く揉まれても痛いだけである。

「どうです、僕のセックスは。なかなかいいでしょう?」
「うっ、ごくな、痛いっ……いいわけが、あっ、ないでしょっ……!」
「なかなか頑固ですね。なら」
「ひぃあっ……!」

牛尾はさらに激しく貫いていった。
深いところはまだ感じないようだが、浅い箇所を抉ったりすると、たまに性感帯に
当たるらしく、艶っぽい声が出ることもある。
その場所を探り、憶えながら、突き上げを繰り返していった。
まだ充分に感じていないだろうが、牛尾の方がそろそろ出したくなってきていた。
何のかんの言っても、憧れ、恋い焦がれていた夏実と、形はともあれ肌を重ねて
いるのだ。

「あっ……、つ、辻本さん、もう出そうだ……」
「い、いやっ……」
「さい、最初はかけますよ!」
「か、かけるって……あ、いやあっ!!」

その瞬間、牛尾は呻きながらペニスを夏実から引き抜き、大急ぎで彼女の顔の前
まで持っていく。
驚いた夏実が避ける暇もなく、ペニスからは濃厚な精液が噴出した。

びしゅっ。
「きゃあ!」

びゅぶぶっ。
「汚いっ!」

びゅるるっ。
「やめて!」

びゅくくっ。
「いやあっ!」

びゅるっ、びゅるっ。
びゅっ。

牛尾は、慌てて顔を背けようとする夏実の髪を左手で掴み、右手でペニスをしごい
ていく。
射精が続く限り夏実の顔を固定し、その美貌を汚していった。

「ど、どこにかけてんのよ! き、汚いものを突きつけないで! きゃああっ」

全部出終わると、今度はペニスの先が夏実の頬を擦っていく。
濃い白濁液が肉棒で伸ばされ、夏実の顔中に拡げられた。
精液にまみれた夏実の顔を見るのは牛尾が初めてだろう。
そもそも彼女は、こうやって顔にかけられたことだってないはずだ。
自分の精液を浴びた夏実の顔を見ていると、牛尾の肉棒にまた力が籠もってくる。

「綺麗だ……、綺麗ですよ、その顔」
「んなわけないでしょ! は、早くこの汚いのを拭いて!」

ようやく自由になった顔を振りたくり、夏実は絶叫した。
どろどろした粘液の感触が気色悪い。
生臭さは容赦なく鼻腔に侵入し、夏実は吐き気がした。

「やっぱり本物に出すと違うなあ」

牛尾の方は、そう言ってポスターを見つめている。
よく見ると、夏実や美幸の顔の付近、あるいは胸のあたりの紙質がごわごわと変質
している。
自慰をした時に、そこへ射精していたらしい。
そのことに気づいた夏実は、本当に吐きそうになった。

「あ……」

堅く目を瞑っていると、頬に冷たい感触がある。
目を開くと、牛尾が夏実の頭を膝に載せ、その顔を絞ったタオルで拭いているらしい。

「……気持ちいいですか?」
「……」

汚液で穢れた顔を清められているのだから気持ちはいいが、そのことを口にする
つもりはなかった。
元はと言えば牛尾が汚したのだから。
それでも、少し火照った顔を冷たいタオルで拭き取られていくのは心地よい。
だから夏実は何も言わず、顔を預けていた。
ようやく綺麗に拭き終わったのか、牛尾がタオルを畳んで机に置いたのを見て夏実
が言った。

「もう……」
「……は?」
「もう、いいでしょ」
「……」
「もう満足したんでしょ。だったら解いてよ」
「解いたら……、どうするんです?」
「どうもこうもないわ。帰るのよ」
「帰るだけ? 僕は? 逮捕しないんですか?」
「……」

それも考えた。
だが、ここでそのことを主張すれば、牛尾は夏実を解放しないのではないか。
だからそれは口にしない方がいい。
それに、夏実はこのことを公にしたくはなかった。
牛尾を暴行の現行犯あるいは容疑者で簡単だが、それには夏実の証言が必要となる。
つまり、夏実がこの部屋で牛尾によってどのように犯されたのかを証言しなければ
ならない。
最近はこの手の事情聴取には婦人警察官が担当するのが普通だから、以前よりは
マシだろうが、どっちにしろ恥ずかしい経験を自分の口から話さなければならない
のだ。
夏実は、自分がその立場になって、初めてそのつらさがわかった。
牛尾を告発すれば、夏実がこの男に蹂躙されたことを美幸に、同僚に、課長にも
知られてしまう。
任地が違うから直接は伝わらないだろうが、東海林にも知られるだろう。
そんなことは嫌だった。
そうした気持ちが牛尾を野放しにすることになるとしても、夏実には──女性には
耐え難かった。

「……しないわよ」
「……」
「このことは忘れる。だから解いて」
「……忘れる?」

牛尾はふらりと立ち上がった。

「僕は忘れませんよ」
「え……」
「僕と辻本さんは結ばれたんだ。そのことは忘れない」
「む、結ばれたって、人聞きの悪いこと言わないで!」
「だから……」
「ちょ、ちょっと、あんた……」
「だから、まだ離しませんよ」
「あんた……、まさか、また……や、いやあっ!」

また犯されると思って狼狽える夏実の両肩を押さえ込み、牛尾はのしかかっていった。
夏実の性器にペニスを何度か這わせると窪みを見つけ、そこへまた挿入していく。

「あ、いや、うむうっ……!」

またあの圧迫感が襲ってくる。
一度貫通されているせいか、さっきほどのきつさはない。
だが無理に犯されることに変わりはない。
射精したばかりなのに、まだ太いままの肉が膣を擦って奥へと入り込んでいくおぞ
ましさに、夏実は震えた。
しかし膣内部は、さきほどとは状況が変わっている。
少しは蜜が滲んでいたし、牛尾の出したカウパーもけっこうな量だったらしく、
中はぬらついていた。
牛尾は案外とスムーズに肉棒を律動させることが出来た。

「あ、はあっ……い、いやよ、もう……くっ……やめてっ……ああ……」

嫌がっているのは相変わらずだが、どことなく抵抗力が落ちている感じがする。
一度犯され、男の精液を顔で受けてしまったことで、夏実の気力が少し挫けかけて
いるのだ。
どうせもう一度は犯されたのだから、というあきらめと、これ以上は嫌だという抗い
が、夏実の中でせめぎ合っている。

一方の牛尾は「まだまだ」である。
これでおしまいなど、そんなもったいないことは出来ない。
苦悶する美しい婦警の身体に腰を打ち付け、さらに激しく夏実を揺さぶっていく。

「うくっ……いやあ……はっ……も、いやっ……やめて、しないでっ……ひいっ……」

自分が達したわけではないが、男を絶頂させてしまった衝撃がある。
そのことや犯された疲労もあって、夏実の身体から力が抜け、今や牛尾に揺さぶら
れるに任せている。

「あああ……いや……、ああ、いや……あっ……」

夏実の抵抗が薄れ、抗い、反発する元気の良い声もなくなってきた。
そんな苦悩する婦警の美貌を見ているだけで、牛尾はまた爆発しそうになる。

「ああ、辻本さん、すみません……。ぼ、僕、また……」
「ひっ……!」

それを聞いて夏実はわなないた。

「やっ……、もう出さないでよっ」
「顔射は一度でいいですよ。だから今度は中に……」
「バ、バカッ、余計に悪いでしょうが! ああっ……」
「ああ、もうだめだっ」
「やめろ、よせ、あああっ……!?」

びゅるるっ、と、膣内にまたあの感触が降りかかってきた。
ねっとりとした濃度の高い精液が胎内にまき散らされていく。
夏実は釣られたばかりの魚のように暴れ出す。

「いや、いや、いやああっ……、な、何で中に出すのよっ……。は、離れて!
抜きなさいよっ!」
「ああ、辻本さん……」

夏実の悲鳴などまったく影響がないように、牛尾は陶酔して膣内に射精していた。
出し終えると、また続けて腰を使い出す。
一向に勃起が収まらない。

「まだいいですよね、辻本さん」
「いやよっ、もうやめてぇっ!」

地元でも評判の美人婦警の悲鳴が、誰もいないマンションの6階に響いていた。

───────────────────

「……ん」

夏実は目が覚めた。
窓から明かりが洩れている。ということは夜が明けたのだろう。ここはどこだろう。
夏実は、まだぼんやりしている頭で考えていた。

(あたし……、どうしたんだろう……)

署で牛尾の住所を調べ、そのまま部屋に乗り込んだはずだ。

「あっ……」

思い出した。
靄が掛かっていた意識が現実に引き戻される。
牛尾のマンションに行ったはいいが、そこでスタンガンと麻酔を使われて身体の
自由を奪われた。
そこで……。

「あ、起きましたか、辻本さん」
「あ、あんた……!」

牛尾の声が後ろから聞こえる。
男の体温が制服を通して背中に感じられて気持ち悪かった。
後ろから抱きつかれている。
そして、まだ股間に違和感がある。
夏実はハッとしてもがいた。
また牛尾のペニスが性器に挿入されている。
その状態で牛尾が後ろから夏実を揺さぶっていたのだ。
スプーンを二枚重ねたような背面位で犯されていたのだった。

「よく眠れましたか、僕の腕の中で」
「冗談じゃないわよっ。あんたまたあたしを……」
「また、じゃないですよ。夕べからずっとです」
「何ですって!?」

牛尾はあれからずっと夏実を犯し続けていたのだった。
夏実は男が二度目の射精をし、三度目も胎内に出されたところで気を失ってしまって
いた。
絶頂したからではない。
絶望を感じていたのだ。
いつになったら解放されるのかと気疲れしていたし、何度も連続して犯されて身体も
まいってしまっていたのだ。
それまでの憤激と興奮もあって、張り詰めていた緊張の糸が切れ、気力が途切れて
しまったらしい。
そこから彼女には昨夜の記憶がなかった。
だが、まさか朝まで凌辱され続けていたとは思わなかった。
ネクタイは半ば外されており、スカートも制服も皺だらけだ。

「ああもう何回辻本さんの中に出したかなあ」
「こ、この……」
「辻本さんだってよくなっていたでしょう? だって、最後にはけっこう悩ましい
声で喘いでいましたよ」
「ウソッ……ウソ言わないで!」

夏実はそう叫んで首を振った。
そんなこと信じたくもなかった。
こんな最低の男に犯されて感じてしまい、喘ぎ悶えるなどあり得ない。
夏実が失神したのをいいことに、牛尾が作り話をしているだけだ。

「ウソじゃありませんよ。へとへとになりながら「ああ……」なんてさ。ま、
「いっちゃう!」とまでは言ってませんでしたけど」
「あ、当たり前でしょ! 誰があんたなんかで……」

夏実はそう反論しながらも、ショックを受けていた。
そう言われれば、肉体的な疲労と精神的なダメージで朦朧としている中、牛尾の
愛撫を受けて身悶えていたような記憶もある。
声も出したかも知れない。
夢と現実の狭間で、肉体が異常な快楽を得ていたような気もした。

それにしても、この男の夏実に対する執念というか執着心は恐ろしいほどだ。
ただ犯しただけでなく、一晩中抱き続け、片時も離さないとは思わなかった。
夏実が気を失っていた時、たまには休んだのだろうが、休息以外はずっと彼女の
身体を弄んでいたのだ。

「ああもう……もういい加減にしてよ! うんざりするわよっ。いつまでこんな
ことを……」
「僕が満足するまでですよ」
「だからいつになったら満足するってのよ。あ、朝までするなんて……」
「そうだなあ、辻本さんがもっと感じてくれて、そっちから求めてくるようになる
まで、かな」

そんなことがあるわけもなかった。
仮に本気で牛尾がそう思っているのなら、永久に解放されないことになる。

「バカ言ってないでもうやめて! いつまでもこんなことしてたら……」
「冗談ですよ。今日の夕方には解放します、取り敢えずね」
「夕方……?」
「ええ。辻本さん、今日は非番なんでしょう?」
「……!」

そんなことまで知っているのか。
警察官個人の予定など、民間人は知り得ようもないのだ。
夏実にしろ美幸にしろ、そう言ったことは、会う予定のある友人知人くらいにしか
話さない。
いったいどこからこの男は情報を取っているのだろう。
牛尾は腰を使いながら言った。

「だから夕方で帰っていいですよ。じゃないと小早川さんも心配するでしょうしね」
「もう心配してるわよ! 今頃、署に捜索依頼を……」
「またまた。辻本さん、ここに来る時「今晩は浅草の実家へ泊まる」って言ってた
じゃないですか。なら今日も実家で過ごすのかなって、小早川さんも思うんじゃ
ないですか」
「……」

話が洩れている。
署内の情報もプライベートの話も知れている。
誰か情報提供者でもいるのだろうか。

「だから安心してそれまではセックスできるわけですよ」
「あたしはしたくないって言ってるでしょうが! もうやめて、離して!」
「朝になったらまた元気になりましたね。夕べみたいに喘いでくださいよ」
「ふ、ふざけないで! あっ、やめろ、気持ち悪いっ……!」

牛尾が後ろから夏実に抱きついてくる。
夏実は全身の皮膚で鳥肌が立つ思いだ。
大嫌いな男に抱きしめられるくらいなら、芋虫を腕に這わせる方がまだ我慢できる
気がする。
その大嫌いな男は後ろから両手を前に回し、夏実の胸をいじっていた。
いつの間にか制服のボタンが外され、ブラジャーも片方のカップが外れて乳房が
露わになっている。
見られていないのが救いだが、牛尾の手がその乳房を揉みしだいていた。

「ひっ!」

横向きに寝ている夏実の顔の上に、牛尾の脂ぎった顔が乗っかってきた。
寒気がして、ざあっと首筋に鳥肌が立った。
牛尾は唇を尖らせて夏実のうなじや白い首筋に吸い付いてくる。
舌を伸ばし、肩のラインから首、顎まで舐め上げていた。
そのナメクジが這ったような感触がたまらなかった。

「な、舐めるな、きたないっ……! 臭いのよ、あんたの口はっ!」

口では反発しながらも、夏実は身体の変化を感じ取っていた。
意識下になかったとはいえ、一晩中犯され、愛撫され続けていたのである。
肉体の方は、すっかり快楽を受け入れていたのだ。
敏感になっていた。

「あっ……さ、触るな……あくっ……」

男の汗ばんだ手指が、ワシワシと胸を揉んでくる。
ブラの上から揉まれる右胸はともかく、直に肌を触られてこねくられる左の乳房が
たまらない。
指が柔らかい肉に食い込み、揉み込んでいる。
知らず知らずのうちに屹立した乳首が、指でピンと弾かれると、夏実の頭に電気が
走る。

「くっ!」
「お、やっぱり乳首が感じますか」
「ち、違う、やめっ……!」

夏実の反応に喜んで、牛尾はそこばかり責めてきた。
乳首をこねくられると、その刺激で身体がうねってしまう。
きゅっとつねられると思わず喘ぎ、ガクンと首が仰け反る。
そこにまた牛尾の舌が這いずり回った。
夏実の柔肌に汗が浮いてきている。
膣肉も男のペニスに応え、盛んに締め付けるようになっていた。

「だ、だめっ……ああ、そんな……む、胸はやめてよっ……ああっ……」

夏実の意識がまた虚ろになってくる。
疲労や眠気が抜けきっていないのと、肉体的な快感が大きくなってきたのだ。
それを振り払うかのように激しく頭を振りたくるのだが、牛尾の責めは一向に弱ま
らなかった。
時間をかけて存分に愛撫され、牛尾の身体に馴染まされていた夏実の肉体は、徐々
に快楽に対する耐性が薄れてきていた。

「ああもう……もういやよ……やめて……あっ……はあっ……」
「いやってことないでしょう。辻本さんのオマンコ、ほらこんなに締めてきている」
「そんな……ことないっ……ああっ……」

男のペニスが夏実の媚肉を惨いまでに突き上げていく。
浅いところばかり責められた昨夜と違い、いつしか深いところまで入り込んでいる。
なのに媚肉は、牛尾の肉棒を拒否するどころか、悦んでくわえこんでしまっていた。
彼女の意志はともかく、膣はもう牛尾を覚え込んでしまったようだった。

「んっ、んくっ……あ、ああっ……」

夏実の声が切羽詰まってきた。敏感にそれを覚った牛尾が聞く。

「あ、いきそうなんですか?」
「ウソッ……違うわよっ……あああっ……」

ひくひくと収縮し始めた夏実の膣を味わいながら、牛尾はさらに強く貫いた。
腰を打ち付ける速度を速めると、夏実の声が甲高くなる。
勝手に臀部がうねり、男を誘っている。

「ああっ……い、いや、こんな……ひっ……あ、もうっ……くううっ!」

その瞬間だけは晒したくなかったのか、夏実は血が出るほどに唇を噛みしめた。
身体ががくがくっと大きく波打って痙攣する。

「……いったんですね」
「ち、違う……」
「いってないんですか」
「あ、当たり前、よ……誰があんたなんかで……」
「そうですか、ならいってもらうまでやりますよ」
「い、いやよっ!」

いったばかりでまだぷるぷる震えている臀部に、牛尾の腰がぶち当てられる。
両手で揉まれる乳房は、ブラのカップが両方とも外され、好き放題に揉まれていた。
責めるほどに貫くほどに、夏実の膣は牛尾の肉棒に絡みつき、襞も蠢いている。
まだ精神的に嫌っているのに、媚肉は貪欲に牛尾のペニスを求めていた。
一向に萎えないペニスが、夏実の膣内を引っかき回し、得も知れぬ快感を与え続け
ている。

「ああ、もういい加減にしてよ……か、身体がおかしくなるわっ……」
「大丈夫ですよ、辻本さんの体力なら」
「い、いやだってばっ……あうっ……」
「お、そろそろまたいきそうだ」
「ひっ……!」

それを聞いて夏実の全身が強張った。
牛尾の言葉の意味がわかったのだ。
見る見るうちに夏実の美貌が青ざめていく。
中出しするつもりなのだ。
そう言えば、夕べも二回目からもう中に出されていた。
とすると、いったい何度胎内に射精されてしまったのだろうか。
男のペニスが激しく動いても昨日ほどの苦痛ではないのは、そのサイズに馴れた
とか、夏実の愛液が多くなったとかそういうことではなく、牛尾の精液が膣いっ
ぱいに放出されたからではないのか。
それを思うと目眩がする。

「あんたっ……またあたしの中に……」
「出すつもりですよ。もう夕べから何回も出してるじゃないですか」
「ばかぁっ!!」

牛尾は夏実の腰を両手で掴んで抱き込んだ。
ぐっと深くまで挿入され、夏実は激しく身体を揺すって嫌がる。

「やめろ、出すなっ……もういやよっ……」

それ以上の抵抗は出来なかった。
度重なる凌辱、しかも寝ている間も犯され続けたことで、本当に身体がまいって
しまっている。
思うように力が入らなかった。
牛尾はそれをいいことに、夏実の胎内をかき回すようにペニスを抉り込んだ。
夏実の、膣内射精を恐れる悲鳴が噴き上がる。

「いきますよっ!」
「いやっ……だめ、いやよ!」

牛尾は腰の後ろに熱を感じ、腰に力を込めた。
これで何度目の射精になるのか数えもしなかったが、何度出しても精力が衰えない。
自分でも強い方だとは思っていたが、ここまではとは思わなかった。
それもこれも夏実と本当にセックスしているからに違いない。
生涯最高の興奮が牛尾を突き動かしているのだ。
足の裏から下腹部に向けて、急速に射精感が高まってくる。
夏実もそれを感じ取っているのか、萎える身体を叱咤して揺り動かした。

「ああ、いやあっ……だ、出さないでっ……!」
「くっ……!」

夏実が全身に力を入れたことが、かえって災いした。
膣も締まってしまい、その瞬間、牛尾は呻いて放出した。
暴発して噴き出された精液が、どくどくどくっと夏実の膣内に注ぎ込まれた。

「いっ、いやあああああっっ……!!」

確実に胎内に流れ込んでくる精液の熱さを感じ、夏実は絶叫した。

───────────────────

「……」

美幸が夏実の食欲に呆れている。
いや、美幸にとって夏実の大食いは見慣れたものだ。
ともに生活するようになってしばらく経つのだ。
夏実には、良い意味で遠慮がないし、気取ったりするようなタイプではないから、
食べる時には食べる。
但し、その食欲が人並み外れているのだ。
割り箸をくわえたまま、こっちを見ている美幸に、夏実が言った。

「何してんの? 食べないの?」
「食べてるけど……」
「そお? あ、ほらこれ焦げてるよ」

夏実はそう言いながら、ほどよく焦げ目の入ったカルビを一切れ、美幸のタレ皿に
載せてやる。
同時に自分の取り皿にもカルビとハラミを載せ、タレをたっぷりとつけて口に運ん
でいる。
その肉を頬張ったまま、通りかかったウェイトレスに追加注文をする。

「あ、すいません、タン塩を3皿と……、あとトントロ3皿!」
「はあ……」

女の子の店員も、呆気にとられたような顔をして注文を受けていた。
もうこれで追加注文はどれくらいになるだろう。
若い女性ふたりの客で、これだけ食べるケースは希だ。
しかも、オーダーした品の7割は夏実が食べていた。

「……」

美幸は、夏実がとってくれた肉を口に入れると、空いたところにタマネギや椎茸、
ピーマンを置いた。
夏実は肉ばかり食べるような偏食ではないのだが、どうもここのところ肉類が多く
なっている気がする。
まるで肉食動物のような貪欲さで食事をするのだ。
ハラミを口に放り込み、焼けてしんなりしたピーマンを咀嚼し、それを流し込む
ようにしてジョッキの生ビールを飲み干した。

そう言えば、もう夏実はジョッキで3つ目である。
彼女は大食漢(女性なのだから大食「漢」とは言わないかも知れないが)で酒好き
ではあるが、好きなだけで強くはない。
日本酒ならグラス一杯、ビールならジョッキをひとつ空ければほろ酔いになって
しまうし、翌日は二日酔いだ。
それは本人もわかっているらしく、飲むことは飲むのだが、たしなむ程度でいつも
やめていた。

それがここ最近、羽目を外したように飲んでいる。
といってアルコールが強くなって悪酔いしなくなったのかと言えばそんなことも
なく、トイレで吐いたり、二日酔いで唸っているところを美幸も何度か見ている。
そのたびに無茶飲みしないよう忠告するのだが、夏実は「身体が欲するんだから
いいのよ」と言って聞かなかった。
まあ、肝臓を悪くするほど飲むわけではないし、美幸にも言い出せない何か辛い
ことでもあったのかも知れないと思っていた。
彼女たちは親友ではあるが、互いのプライバシーは考慮し合っている。
もっとも、夏実は何とか美幸と中嶋をくっつけようと努力しているが、これも美幸
にとってはプライバシー侵害と言えるのかも知れない。
夏実は一向にそう思ってないし、美幸も夏実の気持ちはわかるから邪険にしていない
だけだ。

だが、そう考えると美幸は夏実に相談することも多いのだが、夏実から美幸に来る
ことは少ない気がする。
一緒に暮らす時、冗談めかして夏実のことを「ボディガード」と言ったことがある。
夏実はそれを意識して、美幸には弱いところを見せたくないのかも知れなかった。
美幸にとっては複雑だった。
心配かけたくないと思ってくれているのだろうし、美幸の方も、相談されても解決
できるとは限らない。
とはいえ、話を聞くことくらいは出来るのだから、相談くらいはして欲しい。

思い返してみれば、最近の夏実は少しおかしかった。
どこがどうと具体的には言えない。別に怒りっぽくなったとか涙もろくなったとか、
そういうことはない。
仕事ぶりも変わらないし、マンションに帰ってもいつも通りだ。
ただ時々、元気がなかったりため息をついていることがある。
夏実だって人間だから疲れもするのだろうし、以前からそういうことはあったが、
単に美幸が気づかなかっただけかも知れないのだ。

だがやはり、少し違うように思える。
夏実の食欲は驚くに値しないが、美幸の目には、それがやけ食いのように見えるのだ。
美幸とてストレス発散で、甘いものをたくさん食べてしまうことはある。
むしゃくしゃすることがあればやけ食いすることもあるだろう。
しかしここのところ、夏実の食事は常にそうだった気がするのだ。
あれだけの食事量と摂っていれば肥満一直線のような気もするが、夏実の方はちっとも
気にしていない。
太らない体質に自信があるらしい。

「美幸ってば」
「あ、なに?」

考え事を中断されて、おさげの婦警が我に返った。

「「なに?」じゃないわよ。あんた、おかしいわよ」
「え、そうかな」
「そうよ、ぼーっとしちゃって。ちっとも食べてないじゃないの」
「それは……」

夏実が食べ過ぎるからだ。
夏実と比べれば、どんな人間も小食に見えるだろう。
そう言うと夏実は言い返した。

「そんなことないわよ。あたしはいつもこんなもんよ」

それはそうなのだ。
だが、口ではうまく言えないが、何かが違うと思う。
突然、夏実が食事の手を休め、美幸の顔を覗き込んだ。

「……もしかして、また何かあった?」
「え? 何かって……」
「だから、あの牛尾っていう変態野郎よ。イタ電してきたとかさ……」

それはなかった。
盗撮していた牛尾をミニパトで追っかけて捕まえ、夏実が平手打ちを食らわせて以来、
おかしな電話や悪戯はなくなっていた。
だから美幸の方は、もうあんな不愉快な男のことは半ば忘れていたのだ。
そう思って気がついた。
自分のところには何もないが、もしかしたら夏実には何かしているのではないだろうか。

「私の方は何もないけど……。夏実、もしかしたら……」

微かに夏実の手にした割り箸が震えたような気がした。
しかし何事もなかったかのように、豪傑婦警が言い放った。

「やめてよ、あんたじゃあるまいし。もしあのバカがあたしんとこに顔出したら、
今度こそ突き出してやるわよ」
「……」
「何よ、その顔。本当よ。もしあたしが何かされて、それでおとなしく黙ってると
思う?」

その時、追加オーダーしたトントロとタン塩が運ばれてきた。

「ほら、食べなさいよ」

夏実はそう言って、またビールを煽った。
美幸は夏実が強がっているだけのように見えて仕方がなかった。

「……よし」
「ん? 食べる気になった?」
「……」

調べてみる気になったのだ。
今までは、あんなことは忘れたいと思い、思い出さないようにしていた。
だが、夏実の僅かな変調はあの事件以来のような気がする。
美幸のカンが「何かある」と囁いていた。



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