夏実は周囲を気にしながらドアをノックした。
あの時と違って昼間である。
どこで誰が見ているか気が気ではなかった。
一階の管理人室の前は、見つからないように身を屈めて素通りした。
テレビを見ていた老管理人はまったく気がつかなかったようだ。
階段を使ったこともあり、誰ともすれ違わなかった。
六階もあの時のままだ。
牛尾以外の部屋には誰もいない。

「どうぞ」

部屋の中からすぐに返事が来た。
夏実がドアを薄く開け、その隙間に身体を滑り込ませると、中には満面の笑みの牛尾
展也が待っていた。

「本当に来てくれましたね。来てくれるとは思ってたけど」
「……当たり前でしょう。あんな写真を送ってくるなんて」
「そうでしたね。ま、どうぞ」
「……」

夏実は黙って玄関を上がった。
今日も制服姿である。
牛尾は非番を選んで呼び出したのだが、やはり制服を着用してくるように要求した
のだ。

「何の用よ」

夏実はぶすっとした顔でそう言った。牛尾はその美貌を面白そうに見つめていた。
やや釣り目がちだが、ぱっちりとしているので、さほどきつい印象はない。
怒れば相当な迫力になるのだが、顔の造作自体は整っていて美形だから、それを意識
させることはあまりなかった。
むしろ、気丈そうな女性として受け取られる方が多い。
この青年も、そんな夏実の凛とした美貌に心を奪われたのだ。
牛尾は平然と答える。

「わかってるでしょうに。愛し合うんですよ、あの時みたいに」
「いやよ!」

間髪を入れずに夏実は拒絶した。
愛し合うも何も、あの時は一方的な強姦である。
それも夏実の自由を奪った上で、その身体を貪ったのだ。
思い起こすたびに、屈辱で胸が白く灼けてくる。

「いやって言われてもな。じゃあ、何でここに来たんです? どうせそうなるだろ
うってわかってたでしょ?」
「……」

それはそうなのだ。
一度、夏実の肉体に薄汚い欲望を放出した以上、また呼ばれるとすれば、同じよう
に凌辱される以外に考えつかない。
まさか「自首するから付き添ってくれ」などと言うはずもなかった。

「あんないやらしい写真をメールするから来たのよ。二度とやめて。誰に見られるか
わからないんだから」
「わかりましたよ。僕としても、辻本さんの美しいヌードを他人に見せたくはない
ですしね」
「……」
「もう携帯やパソコンにメールすることはやめます。約束しますよ」
「……データも消してよ」

送付しない口約束を取り付けても、そんなものはいつ反古にされるかわかったもの
ではない。
夏実が牛尾に肉体を提供することを拒否すれば、またそれを持ち出すかも知れない
のだ。
彼女の携帯に送るうちはまだいいが、郵送で署にでも送られたら、夏実は身の破滅
である。
もちろん彼女の責任ではないが、少なくとも今まで通り墨東署で警官をやっていく
のは難しくなるだろう。

「それはちょっとな……。けっこうたくさん撮ったし、動画も撮影したけど……」
「消去して。何ならあたしがそのパソコンをぶち壊してもいいのよ」
「それは困る」

青年はおどけたように言った。

「でもね、無駄ですよ。データはポータブルのHDDに保存してるし、それは部屋
のどこかに隠してあります。家宅捜索でもしなくちゃ出てきませんよ」
「……」
「それにオンライン・ストレージにバックアップ取ってありますから。そこへ辿り
着けてもパスワードを知らなくちゃどうしようもないでしょう」

家宅捜索も、パスワードを調べる、あるいはサービスしているオンライン管理の会社
からの協力を要請するにしても、結局、彼を逮捕して警察権力を使うしかない。
それが出来れば、夏実も最初からこんなことはせず、さっさと捜査課や生活安全課
に任せている。
そうなれば自分の恥を晒し、恥ずかしい証拠写真や動画まで押収されてしまう。
外へ洩れることはないだろうが、捜査の段階で捜査員に見られてしまうのはどうにも
ならない。
ヘタをすると──いや、まず間違いなく強姦の証拠物件として裁判所へも提出される
はずだ。
羞恥の画像をいったい何人が見ることになるのか、想像もつかない。
いかに夏実が気丈だとはいえ、いや気が強いからこそ、そしてそのことを周囲の人間
も認めているからこそ、夏実にはそんなことは耐えられそうにない。
警官を辞めることも嫌だった。
美幸や東海林との線が切れてしまう。
それで関係が終わるとは限らないが、縁遠くなることは間違いない。
何より、夏実自身の生き甲斐が失せてしまう。
やはり自力で解決するしかなかった。
半ば覚悟してきただけに、夏実はあっさりと言った。

「それで……どうすればいいわけ?」
「物わかりがいいですね」
「こんなことはさっさと終わらせたいだけよ」
「そのうちよくなりますって」
「余計なこと言わないでいいのよ。どうすればその画像を消してくれるの」
「消しはしません。ただ、絶対に外部には出さないです。約束します」
「……信用しろっての?」
「はい。こう見えてもファイル共有ソフトみたいな怪しげなものは使ってません。
ポータブルHDDを持ち歩くこともしません。僕がその気にならなければ、辻本
さんの画像は僕以外の目に触れることはないです」
「……」

牛尾の言葉は、半分は本当で半分はウソである。
ファイル共有ソフトを使ってないのは事実だから、ウィルスでも混入しない限りは
画像が流出することはないだろう。
ただ、ストレージに預けてあるバックアップが洩れる可能性はゼロではない。
ストレージを管理している会社に不心得者がいればコピーされたり流出もするかも
知れないし、パスワードが破られる可能性もなくはない。
だがそれは確率としてはかなり低いし、気にとめるほどでもないだろう。

「こんなことをいつまで繰り返すわけ? あたしはそのいやらしい画像で何度も脅迫
されて、そのたびにあんたの自由にならなくちゃいけないわけ?」
「うーん、そのうちそんなことしなくてもいいようになると思うけど。いや、そう
して見せますよ」
「どういうことよ」
「脅迫なんかしなくても、辻本さんは僕の女に……」
「やめて!」

バカバカしくてつき合っていられない。
身体を奪えば心まで奪えると、そう考えているのだろう。
話すだけ無駄だ。
さっさとこの場を終わらせて、帰って対策を練った方がいい。

「ま、毎日呼び出すとか、そこまではしませんよ。僕も大学行ってるわけだし、
辻本さんも勤務があるしね。だから、非番の時だけはそのつもりでいてくださいよ」
「……非番の時、しょっちゅういなくなったら美幸が心配するわよ」
「それもそうか。じゃあ、いっそ小早川さんも一緒に……」
「冗談じゃないわよ! いい? 絶対に美幸には手を出さないって約束して」

それだけが怖かった。
美幸は夏実のことを冗談めかして「ボディガード」と呼んだこともあるが、実際、
夏実としてはそれに近い感覚でいる。
互いの得手不得手を理解し、協力し合って仕事をし、生活してきたのだ。
だから、美幸の身の安全は自分が護ると、半ば本気で思っていた。

「わかりましたよ。その代わり……」
「……わ、わかったわよ」

まったく腹の立つ男だ。
だが夏実には逆らえない。
しかし牛尾とて、このまま夏実を監禁してしまっては命取りになるくらいはわかって
いるだろう。
時間が経てば解放せざるを得ないのだ。
それまで死んだ気になって我慢するだけだ。
どうやっとこいつを暴挙をやめさせ、どうどっちめてやろうか、と、そのことを考え
ることにした。
そうやって時間が経過するのを待てばいい。

「で?」

そう決めた夏実は、牛尾の前で腕組みして仁王立ちになった。
少しでも威圧してやるためだ。
夏実は身長163センチだが、目の前にいるチンケな若者はそれよりも背が低かった。
恐らく160センチもないだろう。
男としては小柄な方だ。
現代は女性の身長も伸びているから163センチの夏実でも、そう高い方でもない。
牛尾クラスの背なら、女性に対して劣等感もあったのだろうか。
そんなこともあって、性格に問題が出たのかも知れない。
凛とした夏実の姿に少し気圧されたのか、牛尾は後じさった。
だがすぐに余裕を取り戻し、夏実の爪先から頭まで舐めるように視線を這わせていく。

「うん、格好いいなあ」
「……」
「そうだな、じゃあ今日は脱いで下さい」
「え……」
「ほら、前は制服のまんまだったでしょう。あれはあれでよかったし、またお願い
したいところですけど、今度は辻本さんの綺麗な裸をナマで見たいです」

夏実の美貌に、屈辱でさっと赤みが走る。
こんな男の言いなりにならねばならないとは無念きわまりない。
怒りで両肩を小刻みに震わせている夏実を見ながら牛尾が言った。

「さあ。それとも僕が脱がしてあげましょうか」
「冗談じゃないわ」
「じゃあ早く」
「くっ……、わ、わかったわよっ」
「ストリッパーみたいに色っぽくお願いしますよ」
「ふんっ」

そこまでサービスする気なんかない。
嫌なことはさっさと終わらせるのが彼女の流儀だ。
どうせ穢されるなら早いうちに終わって欲しい。
肉体の穢れなど、どうということはない。
シャワーを浴びて匂いを汚れと匂いを落とせばいいのだ。
心を堅固に塞ぎ、自我を押し殺し、無の境地で抵抗する。
そして、これからの時間は「なかったこと」にすればいい。

夏実は黙って制服に手を掛けた。
チョッキを脱ぎ、ネクタイを外す。
そしてスカートのホックを外した。
するりとスカートが夏実の腿を滑って床にわだかまる。
あとはストッキングと下着だけである。
それを見て牛尾が少し驚いたように言った。

「へえ、今日はボディスーツなんだ」

ベージュのメッシュ生地で出来た上下一体型の下着だ。
夏実は、普段は下着に凝る方ではないから、ごくオーソドックスなブラとショーツ
だが、今日は牛尾の元を訪れるとあって、凌辱を警戒して脱がしにくいものを着て
きたのである。
だが、まさか自分から脱ぐ羽目になるとは思わなかった。

牛尾の目が先を促している。
夏実は男を睨みつけてから、ストッキングを脱ぎ下ろした。
そこでまた動きが止まる。
やはり恥ずかしいのだ。
加えて、牛尾に見られるという恥辱や憤怒もある。

「さ」
「うるさい」

急かされて、夏実は肩のストラップを外す。
ちらりと牛尾の方を見てから、男に背中を向けて上から下ろしていく。

「あれ、こっち向いて脱いでくれないんですか」
「前向いて脱げなんて言われてないわよ」

牛尾は苦笑した。
夏実は、ああ言えばこう言うタイプらしい。
まあ、それはそれでいい。
脱いだところでおっぱいぽろりもいいが、後ろを向いて脱ぐということは、ヒップは
牛尾の前に晒すということになる。
夏実もそれがわかっているのか、上を下ろすと左腕で胸を隠しつつ、脚を抜いて右手
でボディスーツを脱ぎ去った。
下着が床に落ちると同時に、さっと右手を拡げて臀部を隠している。

「ぬ、脱いだわよ」
「はいはい。じゃあ前を向いて」
「……」
「聞こえなかったですか?」
「……」

悔しそうに牛尾をひと睨みすると、夏実は身を屈めて正面を向いた。
相変わらず左腕で胸を押さえるように隠し、右手で股間を覆っている。
両膝を曲げて身を屈めていた。
女としての矜恃を失うまいとする健気さが、きゅっと結んだ唇に見てとれる。
だが、そんなことをしても夏実の巨乳が隠しきれるわけもなく、腕から胸の肉が大き
くはみ出していた。
股間は、手のひらを拡げているので辛うじて覆われている。
陰毛は見えないが、それでも肉感的な太腿はよく見える。
牛尾が上擦った声で指示した。

「まっすぐ立ってください」
「いやよ」
「聞こえなかったですか? 隠さないで直立してください」
「……調子に乗って」

夏実は覚悟を決めて腕を外した。
乳房と股間に外気が当たるのがわかる。
牛尾にけだものの目で見られていると思うとたまらず、こっちが目を閉じてしまう。
心の奥から、何か大事なものが抜け落ちたような気がした。
とうとう産まれたままの姿をさらしてしまったのだ。
気持ちの上では整理したつもりでも、やはり女である。
身体の震えが止まらなかった。
屈辱と羞恥で震える夏実を見ながら、牛尾は感嘆した。

「すごい……。すごい身体じゃないですか、辻本さん」
「……」
「肌も綺麗だし、スタイルも最高だ」

25歳の美しい裸身を惜しみなく晒している夏実を、牛尾はほとんど感動して見つめ
ていた。
小柄で小太りのずんぐりした牛尾の体格とは対照的な肉体だった。
上背もあり顔も小さめで脚が長い。
近代的なプロポーションの持ち主と言えた。
胸も臀部もよく張っている。
太腿もたくましいくらいに肉感的だ。
これだけグラマラスなのに、制服を着ている時は逆にスマートに見えるのは、着痩せ
するタイプだからだろうか。
肌の色は一般的ないわゆる「肌色」だろう。
しかしそれはいつも一緒にいる美幸が白すぎるのであって、夏実の方もどちらかと
言えば白い方だ。
こんな状況だからだろうか、腹部などは青白くなっている。
美幸の肌がしっとりと肌理が細かいのに対して、夏実の方は10代のような張りが
ある。
それがスタイルの良さと相まって、ぷりぷりした印象を与えていた。

「……」

牛尾は生唾を飲み込んだ。
最初は焦ってもいたし、制服のまま犯したいという長年の欲望もあって着衣のまま
抱いたので、こうして全裸を見るのは初めてだ。

立派過ぎるほどの乳房だった。
服の上から揉んだ時も大きな乳だとは思ったが、まさかここまでとは思わなかった。
何より形が美しい。
形状的にバランスがとれていて、まさに神の創造物に見える。
牛尾はでかいだけのおっぱいなど最低だと思っていた。
よく巨乳をウリにしたグラビア・アイドルやAV女優がいるが、大半はただのデブ
だと思う。
胸も確かに大きいが、比例してウェストも太く、デカ尻だ。
しかも形が悪いのが多い。
ただサイズが大きいだけのバストなど牛の乳である。
逆に、整形が見え見えのシリコンバストにもうんざりである。

対してこの辻本夏実のそれはまったく違う。
「白桃のような」とはよく言ったもので、夏実の乳房がまさにそれだった。
真っ白で重たげに、それでいて張りのある乳房だ。
ツンと上を向いた乳首と乳輪は、頼りないような鴇色で、まだ使い込まれていない
のが明白だ。

ウェストがウソのように締まっていて、そのすぐ下にはぐっと張り出した臀部が
ある。
これも全然垂れておらず、きゅっと締まって高い位置にあった。
男の官能を昂ぶらせずにはおかないような、蠱惑的な尻だった。
出来るだけ見られたくないからだろうが、両脚をぴったりと閉じている。
驚くべきことに、閉じた両脚の間にまったく隙間がない。
いわゆるO脚ではなかった。すんなりと美し伸びた健康的な脚だが、年齢相応に
肉が乗った太腿は成熟した女の色気を漂わせている。
膝小僧はつやつやなだけでなく、ゴツゴツと節くれ立っておらず、すっと伸びて
いた。
ふくらはぎも官能的な曲線を描いて、細く締まった足首へと続いていた。

放心したように夏実の美しい全裸像を眺めていた牛尾だが、股間が苦しくなって
我に返った。
込み上げてくる獣欲が、ジーンズを押し返すようにして男性器を充血させていた。
牛尾は大きく息をついた。

「ふうっ……。見とれちゃいましたよ」
「じ、じろじろ見ないで、いやらしい!」

そう抗議する夏実は牛尾を見ていない。
顔を背け、目まで閉じていた。

「美しいものをつい見てしまうのは仕方がないですよ。でもすごいグラマーなん
ですね。サイズはどれくらいあるんです?」
「な、なんでそんなこと言わなくちゃなんないのよっ」

いくら牛尾が盗撮、盗聴をして夏実たちの個人情報を不法に得ていたとはいえ、
3サイズまではわからない。
夏実に執着するこの小男は、この際、それも調べようと思った。

「そうですか。じゃあ、そのままでいてくださいね。あ、目は閉じたままでもいい
ですよ」
「……」

夏実は、何をされるのか不安だったが、言われた通り目を閉じていた。
そこに男の指示が飛ぶ。

「はい、両手を挙げてください。バンザイ」
「いやよ」
「じゃあ水平でもいいです。早く」
「……」

夏実は渋々と両手を横に伸ばした。
水平まではいかず、下方45度といったところだ。
突然、背中に冷たいものが当てられた。

「ひゃっ! 何してんのよっ」

思わず目を開け、両手を下げて胸でクロスさせた。
目の前で牛尾が不満そうな顔をしている。
手にはメジャーを持っていた。

「勝手に手を下ろさないでください。ほら、胸も隠さない」
「だから何をしてるのよ」
「見ればわかるでしょう、サイズを測るんです」
「いやよ、そんなことっ。わかったわよ、言うからやめてよ」
「だめです。3サイズなんてすぐに変わっちゃうでしょう? 僕は今のサイズが
知りたいんです」

これは言い訳で、本音は夏実の3サイズを自分の手で計測してみたかっただけだ。
仕方なく夏実は両腕のクロスを解いて、また拡げた。
目の前に牛尾がいたから、目はまた閉じていた。

「く……」

採寸用のメジャーが肌に冷たい。
牛尾の呼吸が前から聞こえるから、背中に手を回してバストサイズを測っている
らしい。
背中に回されたメジャーが、脇の下から通って乳房の横、そして乳頭に到達した。

「辻本さんは普段、乳首が少し陥没気味なんですね」
「……」
「お陰で計測しやすいですよ、えっへっへっ」

牛尾は時々いやらしい笑い声を上げながら大きな声でサイズを読んだ。
夏実の羞恥を煽るためかも知れない。

「えー……、そうですね、バストは86……87だな」
「……」
「次はウェストね、はい」
「さ、さっさと終わらせなさいよ、いつまでやってんの!」
「おやおや、辻本さんでも恥ずかしいんですか?」
「うるさい!」

怒る婦警の罵声を聞き流しながら、医学生は計測を続けた。

「ウェスト……、細いなあ。おっぱいがこんなに大きいのにウェストがこれほど
引き締まってるなんて凄いですよ」

こんな男に褒められても、ちっとも嬉しくない。
夏実は沈黙していた。

「60……もないんだ。59……いや、おまけして58!」
「……」
「最後はお尻ね」

臀部にメジャーが巻かれる。
それはいいとしても、前で数字を読んでいるから、牛尾は夏実の股間の真ん前に顔
を持ってくることになる。
間近で秘部を見られる恥辱に、夏実は歯を食いしばって耐えた。

「おー、すごい。88ですね、安産型の大きなお尻だ。形もいいし、さすがだな」
「……」

牛尾はその数値をメモ書きしながら、美しい女囚を褒め称えた。

「完璧なプロポーションじゃないですか。87の58の88ですよ。スーパーモデル
並だな。そこらのグラドルが裸足で逃げ出しそうな素晴らしい肉体です」
「大きなお世話よ。もういいでしょ、離れて」
「はいはい、これは終わりましたよ。せっかちだなあ、辻本さん」
「嫌だからよ」
「早く次に行きたいんですか? 正直なことで」
「次って……?」
「わかってるくせに」

牛尾はにんまり笑って夏実に触れた。

「い、いやよ!」

何をされるのか本能的に直感し、夏実は思わず右手で牛尾のパシッと叩いた。
もう覚悟はしていたのだが、これは反射神経のようなものだ。
理屈なしの本能的な嫌悪を感じて、牛尾をはね除けたのだ。
思わぬ抵抗を受けて、牛尾は一瞬怯んだものの、怒るでもなく不気味な笑みを浮か
べて言った。

「さすが辻本さん。この期に及んでまだ刃向かうんだね」
「……」
「いいですよ、そうこなくちゃ辻本さんらしくない。でもね……」
「な、何するの!」

牛尾は夏実の右手首を掴むと、そのままグイッと背中まで回した。
牛尾の腕力もそれなりにあったが、夏実の馬鹿力なら、これくらいふりほどくこと
は可能だったろう。だが、ヘタに牛尾を怒らせたりしたら、あの画像をばらまかれ、
あまつさえ美幸に魔手が伸びるかも知れぬ。
一瞬だけ力を入れた腕から、すっと力を抜いた。

「あまり暴れられても困るんでね」

牛尾は何食わぬ顔で夏実の両腕を背中に回させた。
彼は今回の計画を立ててから、半年を掛けてジムに通い身体を鍛えてきた。
女性とは言え現職警官を襲うのだから、それなりの準備は必要だ。
まして美幸はともかく、夏実の体力、腕力はストーキングしている最中にも何度か
目の当たりにしている。
警官だから格闘技もやっているだろうし、まともにかかってこられたら万に一つも
勝ち目はないだろう。
だから筋トレをしたのだが、所詮付け焼き刃で、到底夏実に敵うとは思わなかった。
だが、それなりに腕力はついたので、牛尾にとって大柄な夏実でも楽に抱えることは
できたし、多少の抵抗なら封じるくらいの自信もついた。

「し、縛るの?」

夏実の声が少しおののいた。
前回凌辱された時も、両腕の自由を奪われた。
抵抗は出来ないが、それでも腕が動かないのは不安になる。

「わかったわよ。何もしない、暴れないから、縛るのはやめてよ」
「だめですよ。まだ今ひとつ信用できないから」

男はそう言いながら、夏実の手首にベルトを巻いた。
手首だけでなく、前腕の半分ほどを覆うくらいの幅があった。
革の感触と匂いが夏実に伝わる。今日はロープでなく、レザー製の拘束具らしい。
恐らくSMプレイ用のものなのだろう。
写真か何かで夏実も見たことがあった。

「へ、変態……」
「え?」
「こんなものを使うなんて……、あんたやっぱり変態ね!」
「そうかな? 男なら誰だって少しは興味があると思いますけどね」

そう言って牛尾は、夏実の腕を後頭部の後ろで組ませた。よく戦争映画などで見か
ける捕虜のポーズだ。
西洋ではこれを「服従のポーズ」と呼ぶらしい。
その位置で夏実の両手首のベルトを締めた。
そこから伸びる細いベルトの先には、また他の革具がつながっている。
それを夏実の腋へ回した。

「あっ!」
「静かに。抵抗しないんでしょう?」
「こ、この……」

オープンタイプのレザーブラジャーだった。
要するに、カップの部分がそっくり抜けていて、乳房が露出するものだ。
ブラジャーの意味がないが、これも拘束具の一種らしい。

「よし、と……。辻本さん、おっぱい大きいから、出すのが大変だな。でも、あー
ー、似合う似合う」

牛尾はおどけたように手を叩いた。
夏実の白い肌に食い込む黒い革の拘束具。
豊かな乳房を括り出すように開放している黒レザー。
確かによく似合っていた。
男なら誰でも生唾を飲み込みそうな光景だ。

「次、これね」
「ちょ、ちょっとあんた、まだ……、いやっ!」
「うわっ」

牛尾が黒い拘束具を持って足首を持ったものだから、夏実はつい蹴飛ばしてしまった。
脚を開いたまま固定されるのではないかという恐怖からの行動だ。
無様に転がった男を見て「しめた」と思いはしたものの、このままでは逃げることも
できないだろう。
全裸で乳房が絞られるような奇妙な着衣なのだ。
誰かに見られれば、夏実の方が変態だと思われてしまう。
牛尾は後頭部を擦りながら近づいてきた。

「ひどいなあ、辻本さん」
「よ、寄らないで、これ以上何もしないでよっ!」
「聞き分けが悪いなあ。やっぱり拘束しないとダメだな」
「だからやめてって言ってるでしょっ」
「辻本さん、画像と小早川さんのこと、忘れてもらっちゃ困りますよ」
「……卑怯者」
「辻本さんを手に入れるなら、僕は卑怯にも卑劣にもなりますよ。さ、そこに座って」
「……」

夏実はひとしきり睨みつけたが、牛尾が鉄面皮で返してきたので、ぷいとそっぽを
向いて従った。
絨毯に腰を下ろすと、牛尾はおもむろに夏実の足首を掴んだ。

「やっ……」
「また抵抗するんですか」

夏実の動きがぴたりと止まる。
すると牛尾は、20センチくらい幅のありそうな革の帯を夏実の腿に巻いていく。
両腿に太いベルトを巻くと、それをバックルで留めた。
そこから生えている細い吊りベルトを、胸の拘束具のバックルにつないだ。

「ああっ……」

さらに恥ずかしい格好になった。
腿に巻かれたベルトは、ぐいっと上へと引き上げられてしまい、いわゆるM字開脚
した状態で固定されてしまったのだ。

「こ、こんな……、こんな格好……、あ、こら、見ないでよっ!」

夏実はそれこそ顔を真っ赤にして叫んだ。

「バ、バカバカバカッ、あんた何を撮ってんのよ!」

あろうことか、牛尾はこんな恥ずかしい格好をした夏実をデジカメで撮影していた。

「くっ……やめなさい、撮るな!」
「そうは行きませんよ。辻本さんがこんな格好を……」
「バカッ、やめろっ。あんた写真は公開しないって……」
「だから公開はしませんよ。僕の個人的なコレクションです。見るのは僕だけです
から」
「あ、あんたに見られるのがいちばん嫌なのよっ。だ、だから撮るなあっ!」

夏実は懸命に身体を揺すっているが、カチャカチャとチェーンの音が虚しく響く
だけだ。
ぱっくり開かれた股間も、括り出された乳房も、腕を上げて露わになった腋も、
すべて見られ、撮影されていた。

「ああ……」

フラッシュが光るたびに、夏実は泣きたくなった。ここまで情けなく、つらいのは
産まれて初めてだ。
あまりの屈辱と恥辱に、開かされた股間の内転筋がひくひくとわなないた。
青白いまでの鼠径部が震えている。
それを見て牛尾がからかう。

「おや珍しい。辻本さん、泣きそうな顔してますよ。ま、おてんば婦警のベソを
かいた顔も、たまに見るのは面白いけど」
「誰が泣くもんか! 最低よ、あんた!」
「まあ、そう言わずに。最高の思いをさせてあげますから」
「うひゃっ!?」

夏実は奇声を上げてしまった。
脇腹の辺りを何かが触っていったからだ。

「な、なにして……」
「これ? OAブラシ。パソコンとか液晶テレビの画面とかの埃を取るやつ」

プラスティック製の柄の先に、ふさふさとした馬の尻尾のようなものがついている。
導電性繊維のブラシだ。
ブラシと言っても、極薄のナイロンテープを細かくほぐしたような毛が無数に生えて
いる感じである。
それで、すっと身体をなぞられたのだ。
夏実はおののいた。

「そっ、そんなもの使わないで」
「嫌いですか? 使ったことあるんですか」
「な、ないわよっ」
「じゃあ食わず嫌いですよ。気持ちいいらしいから」
「いや、いやよ!」

ブラシが夏実の脇腹をすっと掃いた。

「ひゃっ!」

今度は首筋にそっと這わされる。

「ひっ!」

そして腋の下を、さっ、さっと擦られる。

「ひゃああっ!」

くすぐったいところばかり刺激され、そのたびに夏実は彼女らしからぬ悲鳴を上げた。
殴られたりする苦痛なら我慢のしようもあるが、こそばゆいのは耐えようがない。
牛尾は首から腕、脇腹、ヘソ、腿、ふくらはぎと、上から下までじっくりと責めて
いった。
そうして、夏実の反応が特に著しいところを見つけ、そこを集中的に嬲っていく。

「あ、ああああっ!」
「ひっ、やめてぇっ!」
「うううああああっっ……!」
「く、くすぐった、いひいいいっっ……!」

牛尾の責めは巧妙だった。
夏実の弱い箇所ばかり責めているのだが、それでいて、乳房や乳首、あるいは性器や
クリトリスといった、もっとも感じやすいところは素通りしていく。
その上で、夏実がくすぐったがるところをブラシで撫で上げていくのだ。

「ひぃやあっ……やめ、やめてよっ……きゃっ……そ、そこはだめ、くすぐった、
あはあああっ!」

夏実は腋の下と内腿で、特に反応した。
腋をそろそろとなぞられたり、内腿を触れるか触れないかくらいでブラッシングされ
ると、その焦れったい感覚がビンビンと体内に響いてくる。

「ああ、もうやめて、ひっ……お。お願いそれは許して!」
「……へえ」

牛尾は少し驚いて夏実を見た。夏実の方は、くすぐり責めが中断したので、ホッと
したようにがっくりと身体を崩した。

「驚いたなあ、辻本さんから「許して」なんて言葉が出るなんてさ」
「あ……」

夏実としては、そんなことを意図的に口にしたつもりはなかった。
勝手にそう口から出てしまったのだ。
それだけこの責めは、夏実にダメージを与えていた。
ぶたれたり、犯されたりするのではなく、こうした責めは彼女の想定外であったのだ。
夏実は呼吸を整えながら牛尾に言った。

「やめて……。ね、これはもうやめてよ。こんなことずっとされたら、あたし……」
「おかしくなりそう? いいなあ、夏実さんが……、うん、これから僕は夏実さんて
呼ぶよ」

そんなことはどうでもよかった。くすぐりをやめてくれれば何でもよかった。

「夏実さんがそんななよなよになるなんて想像もしなかったですよ。でも、あなたは
意志が強そうだし、きっと大丈夫ですよ」
「だ、大丈夫って……、あんたまだ……」
「ええ、続けますよ、ほら」
「きゃああ!」

再びOAブラシの洗礼が夏実を襲う。
今度は乳房の膨らみに、ちょんちょんとブラシの先をかすらせるようにして愛撫して
きた。

「くうっ!」

僅かに触れるだけなのに、乳房からびりびりと電気が走るみたいだ。
乳首がウソみたいに反応して、たちまちぷくりと立ってきた。
脇腹や乳房の周辺の皮膚が、ざあっと鳥肌を立てた。

「ひっ! だ、だめっ! ああっ!」

ブラシが乳房を、腋の下を刺激すると、夏実のお腹がぐっと持ち上がる。
反り返る。
するとそのお腹の真ん中にあるヘソがこそこそとくすぐられる。

「いやあっ……ああっ……」

あまりのくすぐったさに、勝手に腹筋に力が籠もる。
臀部にも力が入る。
括約筋がきゅっと締まるのだ。
そのうち、膣がぬめってくるのを感じていた。
いつしか分泌していた蜜が、きゅっとお尻を締めるたびに、中から滲んできていた
のだ。
徐々に若い女の香しい匂いが薄甘く漂ってくる。

「ひゃあっ、そこはいやあっ!」

夏実の裸身がガクンと弾んだ。
ブラシが右の腋の下に伸びてきたのだ。
同時に、左の腋の下には、牛尾の舌が這ってきた。
両方の腋の下を責められ、夏実はぐぐっと背を競らせて悲鳴を上げ、呻いた。
両手を後頭部で固定されているだけに、腋の下は晒されていて隠しようもない。
そこを柔らかいブラシでさわさわと忙しなく擦られ、舌を大きく使って舐め上げら
れる。
夏実の強い反応に満足したのか、牛尾が顔を上げて言った。

「いい反応ですね。そんなにここが感じるんですか」
「やあっ、いやよっ……ああ、しないでそこは……ひぃっ!」
「そんなにいいのなら、ほら」
「うひぃっ!」

ブラシは腕の裏の柔らかいところを撫でたり、脇腹をさすったりしているが、舌は
相変わらず腋の下に唾液をなすりつけていた。
牛尾がひと舐めするごとに、ずーんとした刺激が子宮にまで届く。
舐められ、責められているのは腋なのに、どうして子宮が反応するのかわからない。
腋を責められると、腰がぐっと持ち上がり、ガクガクと揺さぶられた。

「や、は……くすぐったい……はあ、はあ、はあ……。あひっ、もういやあっ!」

牛尾が少し休むとその間に夏実は呼吸を整えるのだが、すぐに責めは再開される。
夏実には訳がわからなかった。くすぐったいのに笑い出す感じではない。
腹筋が痛いほどに力が入り、ふくらはぎが攣りそうになる。
夏実の感受性豊かな肉体は、こそばゆさを性的な官能に変化させつつあった。
ふさふさの柔らかいブラシの毛が、開かれた内腿をゆっくりと上下に擦っていく。
舌には唾液をたっぷり載せて、腋の下から脇腹へ舐め下げ、そしてまたあばらや
乳房の脇を通り、腋の下の窪みまで舐め上げていった。

「あはああっ! ひっ、うあああっ! だめええっっ!」

夏実のグラマラスな肢体に、ぐぐっと力が入る。背を弓なりにし、胸を張り詰める。
両手に爪が食い込むくらいに握りしめる。
足の指まで屈まっていた。
男の舌が鋭敏な性感帯を舐めねぶるたびに、ブラシの繊細な毛が腿やその付け根を
なぞるごとに、子宮付近に突き上げてくるような痺れる刺激が襲ってくる。

「だっ、だめっ、ああっ、もうだめよっ……!」
「だめ? もしかしていっちゃうんですか、夏実さん」
「やっ……! ひっ!」

ブラシが乳首の頂点をちょんちょんと突っつくように愛撫している。
舌は夏実の陰毛周辺を舐め、ヘソの中に舌先を挿入するかのように突っ込んだ。

「ぐひぃっ!」

美しい婦警は大きく背を反らせたまま、その裸身を痙攣させる。
もう少し、あとひと押しでいきそうだ。

「あ……ああ……」

その時を見計らうかのように、ブラシと舌の刺激がすっと引いていく。
思わず夏実が牛尾を見ると、その顔がにやついている。
夏実がいきそうになったのがわかって、その手を引いたのだ。
その手口の非道さに唇を噛んだが、すぐにまた刺激が戻ってきた。

「あっ、あうっ……!」

今度はブラシも舌も首筋を舐めている。
腋や胸肉ほどで強い刺激ではないが、そこも感じてしまう。
ただ、いきそうになるほどでもなかった。
それでいて、夏実を頂点間際から下ろさないよう、焦らすように愛撫しているのだ。

「あっ……」

今度は両方とも乳房に来た。
舌は豊かに張った乳房の裾野から、直線的に乳頭めがけて舐め登っていく。
一方、ブラシの方は裾野を丸くなぞるようにして、円を描くように上を目指して
いる。
乳首に届くか届かないか、というところで、今度はまた下へと下がっていった。

ろくに触られていないのに、夏実の乳首は破裂しそうにずきずきと膨れていた。
快感で充血しきっており、痛いほどに勃起している。
今にもぴくぴくと踊り出しそうである。
今そこを舌で押しつぶされたり、指でつまんで引っ張られたら、それだけでいき
そうだ。
なのに底意地の悪い牛尾は、そうした夏実の状況がわかっているくせに、決して
乳首に強い刺激を与えようとはしなかった。

(こ、こいつ……、あたしの身体で遊んでる……!)

夏実はそう思わざるを得なかった。
もしかしたら、夏実の方から「欲しい」と言い出すまで待っているのかも知れな
かった。
いかに追い込まれようと、そんな恥知らずなことはできない。
それは屈服を意味するからだ。
死んだってそれだけは出来なかった。
あくまでこの状況は、夏実が脅されて仕方なく肉体を提供しているに過ぎないのだ。
夏実から求めてしまっては、その認識が崩れ去ってしまう。
それは夏実の崩壊をも意味していた。

「夏実さん、つらそうですね。おっぱいや腋はそんなに感じますか?」
「あっ……あ、いや……そこはもう……」
「そうですね。腋もおっぱいも存分に舐めたし……」

それを聞いて夏実はほっとした。
一瞬でも、いきそうになってしまったことを恥じた。
だが、それが甘すぎたことをわからされたのはすぐ後だった。

「ひゃああっ、どこをっ!」
「どこって足ですよ。足の裏」

牛尾の責めは上半身から下半身へと移っていた。
といっても、媚肉やアヌスは素通りだ。
ここまで夏実を追い込めば、直接そこを責めればたちまち絶頂しそうな気はしたが、
それではなかなか完全屈服しないだろう。
やはりこうした女には焦れるような責めが効きそうだ。

夏実は狼狽した。
牛尾は足の裏をブラシでくすぐるだけでなく、舌で舐めているのだ。
そんな愛撫は受けたこともないし、そもそも舐めるような場所ではない。

「バ、バカじゃないの、あんたっ。そ、そんなとこ舐めないでよ!」
「ここはけっこう感じやすい性感帯なんですよ」
「バカ言わないでよ、そんなことあるわけないでしょう!」
「でもくすぐったいでしょ? くすぐったさと快感は紙一重です。今日試してみて
わかったけど、夏実さん、くすぐったがりですよね」
「……!」

その通りだった。
子供の頃から、くすぐられるのが弱い。
中学の時、友人同士でふざけてくすぐりあっていた時、あまりにくすぐったくて涙
ぐんでしまったことがある。
相手の友人はそこまでいかなかったから、夏実の方がくすぐったがりなのだろう。

「いいことですよ。くすぐったがりってことは、つまり感じやすいってことですから」
「な、何がいいことなのよ! あたしはいやよ、ひゃっ、さ、触るな! きゃああっ、
な、舐めちゃいやあっ!」

牛尾の舌が土踏まずをぺろりと舐めると、夏実は絶叫してガクンと首を仰け反らせた。
足の裏からくる悩ましい感覚が強烈な刺激となって、夏実の膣奥を刺激する。
牛尾は、嫌がって握るように屈める夏実の足の指を強引に開かせ、その指の股をブラシ
で擦っていく。
舌も親指と人差し指の間の窪みを、抉るようにして舐めていた。

「あひぃっっ! あっ、あふああっ! きゃあっ! も、もういやあっ!」

ブラシが土踏まずを撫でる時は舌が指の股を、舌が足の裏を舐め上げる時はブラシが
指の間を担当した。
ブラシも舌も、そこの汚れをこそぎ落とすように丁寧に擦り、舐めていった。
夏実はもう、どうにも辛抱しようがなくなった。
あまりのくすぐったさ、焦れったさに、身体を右に捻り、左に捩った。
腰を反らせたり、引いたりして、そのやるせなさを身体全体で表現している。
腋の下に負けないほどのこそばゆさ、焦れったさ、そしてその奥に潜む妖しげな快感
が夏実の脳髄と膣奥を直撃する。

「う、ああっ……ひぃぃっ……やめて、やめてっ……ひゃあっ……くくくっ……う、
うむっ……かはあっ……」

連続した微妙な刺激が足裏に集中し、それが股間の奥で耐え難い刺激と痺れに変化
する。
何も入れられていないのに、まるで膣に何か挿入されて突き込まれているかのような
錯覚があった。
一時も休まずに責められて、夏実は身体から力が抜けなくなる。
ずうっと息みっぱなしだ。
もう背中は宙に浮いたままで反り続けていて、ふくらはぎや腿の痙攣がぷるぷると
いつまでも止まらない。
口からは悲鳴とも喘ぎともつかぬ絶叫が、絶えることなく噴き上がっていた。

「やああっ、もう、やはああっ……ひっ……ああっく……くひぃっ……おねが、いっ
……やめて、死んじゃうっ!」

もう完全にこそばゆさは弱い性的な快感に取って代わっている。
めまいがしそうなほどの快楽に煽られつつも、最後の頂点には達せなかった。
このまま官能の炎で蒸し焼きされるような状態が続けば、本当に死んでしまうかも
知れない。
死なないまでも発狂してしまいそうだった。

「おっ、お願いもうやめてぇっ……ひぃあっ……きゃっ……くすぐっ、あああっ
っ!」
「さすがにまいりましたか、夏実さん」
「ああ、もうまいった! まいったわよっ!」

牛尾はもう憤死寸前の夏実を見ながらそう言った。
汗にまみれた彼女からは、妖しい香りがぷんぷんとしてくる。
汗だけでなく、膣から愛液も漏れているらしい。
青年は片時も手を休めずに聞き質した。

「いきたいででしょう? いきたいなら「いかせてください」って言って欲しいなあ」
「ひゃああっ……あぐうっ……、あ、もう何でもいいからっ……お願いよ、何でも
いいから何とかしてえっ……!」
「やめて欲しいの? それともいかせて欲しいのかな?」
「どっちでもいいから、早く何とかっ……おっ、おかしくなるうっ!」

夏実がそう叫ぶと、途端にすっと攻撃の手と舌が引いていった。

「ああ……」

夏実の浮いていた背中と尻が、どすんと床に落ちた。
「はあ、はあ」と荒くて熱い呼吸が苦しそうに続いている。
少し休まないと呼吸が整わないらしい。
かれこれ30分以上もくすぐり責めを続けられ、その間まともに息が継げなかった
のだから無理もないだろう。
したことはないからわからなかったが、恐らく30分間全力疾走したのと変わら
ないのではないかと牛尾は想像した。

夏実の裸体からは、今にも湯気が立ちそうなくらいに汗が噴き出していた。
汗の粒が陶器のようななめらかな肌を滑って落ちてくる。
牛尾は手を伸ばして、革から解放された乳房を軽く揉んでみたが、夏実は何の反応
も見せなかった。
ただただ苦しい息を継いでいる。その胸も大きく上下していて、触れていると早い
鼓動が牛尾の手にしっかりと伝わってきた。

「……どうです、僕と素直に愛し合う気になりました?」
「はあ、はあ、はあ……」
「返事がないなあ」
「……れが……」
「え?」

耳をそばだてた牛尾に、信じられない言葉が返ってくる。

「誰、が、あんたなんかと……」
「……」

さすがに変態青年も驚いている。
ここまでされて、まだ抗うとは思いもしなかった。
別に言葉で断らなくとも、主導権は完全に牛尾のものだ。
嫌がろうと抵抗しようと、夏実は逃げられない。
無理押しで犯してしまってもいいのだ。
なのに、この気丈な婦警はまだ素直に暴虐者に従うつもりはないらしい。
最終的には好きにされるにしても、抵抗の意志や拒否の姿勢だけは貫くつもりのよう
だ。
それが彼女の女として、そして警官としての誇りだとか矜恃だとかなのだろう。

くだらないと牛尾は思った。
そんなものに縛られても何の得もない。
どうあがこうとも、辻本夏実はもう彼の手の内に落ちているのだ。
遅かれ早かれ、牛尾の女になるしかない運命である。
だが、それもまた一興だ。
あまりにあっさりと隷従されても醍醐味に欠ける。
それに、まず夏実を堕としてしまえば、続けて美幸を襲った時、ずっと楽なのでは
ないか。
夏実よりは美幸の方が早く堕ちそうだし、「あの夏実が堕ちた」というショックは、
美幸の心理に某かの影響を与えることは確実だ。
だから、まず時間を掛けて夏実を言いなりにする方が先決だ。

「気丈なのはけっこうですけどね、夏実さん。あんまり頑固なのはよくないなあ」
「まだわかんないの!? あたしはあんたのことが徹頭徹尾大嫌いなのよ!」
「やれやれ」

少し醒めてきたのか、夏実が調子を取り戻してきた。
牛尾は大げさに肩をすくめて見せる。

「強がらなくても、夏実さんは僕のことが好きになるんですよ。それをわからせて
あげます」
「勝手なこと言わないで!
「これ使いますよ、今度」

男が手にした金属製のものは、一見ハサミに見えた。
が、よく見るとかなり形が違っている。
シルバーに輝くそれはカモノハシの嘴のようなものがついていた。
根元にはネジのようなものがある。

「何よ、それ……」

淫らな器具に違いないと思いつつも、夏実は震える唇でそれを聞かずにはいられない。
牛尾は不気味に嘴を動かしながら答えた。

「これ? 膣鏡って言うんです。クスコって通り名の方が有名かな」
「クスコ……?」
「あ、ご存じない。そりゃそうか、性病に罹って婦人科を受診するか、妊娠して産科
で受診するかしなくちゃ、使われるわけないか」

医療器具らしい。
医学生である彼が、医大から持ち出してきたのだろうか。
夏実がそう詰問すると、牛尾は笑って首を振った。

「いいえ。これはね、アダルトショップでも売ってるんですよ。僕は通販で買いまし
たけどね。何をするものかっていうと、これでオマンコを開いてその中を覗くって
代物です」
「!!」

それを聞いて夏実はまた青ざめた。
ただ犯すだけでなく、徹底的に辱める気らしい。
既に、腋を晒してM時開脚という恥ずかしい格好で緊縛され、さっきまでくすぐり
責めで失神寸前まで悶えさせられた。
この上、さらに膣の奥まで見てやるという。
気が狂っているとしか思えなかった。
この時はじめて、夏実は牛尾の変態性に脅えた。
暴力によるものではない恐怖が美人婦警を震えさせていた。

「や……やめて……、そんなことやめてよ!」
「さ、覚悟してくださいね」
「いやいやいやあっっ!」

革ベルトを引き千切らんばかりに夏実は暴れた。
暴れたつもりだったが、レザーの拘束具ががっちりと夏実の裸体を固定している。
まったく動けないわけではなかったが、はね除けるなどとんでもなかった。

「やっ……、そ、そんなもの使わないで!」

おののく夏実の媚肉に、冷たい金属の感触がした。

「ひっ!」

夏実が喉を鳴らすと同時に、牛尾はクスコの先を膣口に潜り込ませる。
途端に、夏実の体温でクスコの表面がぼうっと白く曇った。

「い、やあっ……ひっ……」

じわりじわりと金属の嘴が膣口を割り開いていく。
ぶるぶると震えて腰を捩る夏実を嘲笑うかのように、クスコは媚肉を少しずつ押し
広げていく。

「やめて……い、いやあ……」

ゆっくりとだが確実に開かされていく。
夏実は白い首筋を晒して仰け反り、口を何度も開閉させた。
なおも牛尾が蝶ネジを調整し、夏実の媚肉が開口されていった。

「や……、い、痛い……ああ……も、もう無理よ……こ、これ以上拡げちゃ……
いや……ああ……」

夏実の媚肉がいっぱいに拡げられた。
膣が開かれているのに、なぜか息が詰まる感じがする。
膣の中に冷たい外気が流れ込み、そこが無理矢理に開かされていることがイヤと言う
ほどに実感できる。
夏実は、生きたまま解剖されているかのような錯覚を受けていた。

「うわあ、すごい。夏実さんのオマンコがいっぱいに口を開けてますよ」
「いっ、言わないで! 見ないでよ!」

夏実は本当に泣きそうになった。
ここまでの屈辱を味わわされるとは夢にも思わなかった。
同時に、牛尾を甘く見過ぎていたことを強く後悔していた。

「じっくり見せてもらいますよ」
「ばっ、ばかっ、見るな! 見るなよっ」

牛尾はこれ見よがしに、ペンライトを夏実に見せつけた。
そして、それを照らして夏実の秘密を覗き込む。
クスコの嘴が、濡れ始めている夏実の媚肉を押し広げている。
ライトの光が、膣の中を生々しく照らしていた。
甘く妖しい女の香りが、その穴からむっとするほどに漂っている。
内部は無数の襞が存在し、それが蜜で濡れていた。
夏実が身じろぎしたり呻いたりするごとに、ひくひくと蠢く。
ねっとりとした透明な愛液が、膣道にも溜まっていた。
そしていちばん奥の膣底に、秘められた夏実の子宮口が見えてきた。
薄い赤、濃いピンク色の肉の環が、これもぴくぴくとしている。
愛液が分泌して、とろりと粘液が滴っていた。
牛尾は何度も唾と息を飲んで言った。

「す、すごい……。綺麗ですよ、夏実さん。本当に処女みたいなオマンコだ……」
「み、見るなって言ってるでしょっ!」
「色も形も本当に綺麗だ。子宮なんか新鮮そのものですよ」
「いやああ……」

とうとう夏実は泣き出した。
ここまで淫らな悪戯をされては、未婚の女性には耐えられないだろう。
人によっては精神に異常を来すかも知れない。
夏実は、見られているのは膣奥なのに、心の中を覗かれているような気がした。
肉体だけでなく、心まで凌辱された。

「泣かないで、夏実さん」

そう言って牛尾は、夏実の流す涙を舐めとった。

「いっ、いやっ!」

慌てて夏実は顔を振りたくった。
この男の変態性、夏実に対する執着心に空恐ろしくなる。

「恥ずかしい思いをさせてごめんなさい。でも、僕は見たかったんだ。そのお詫び
じゃないけど、今度はいい気持ちにさせてあげます」
「やっ……! い、いらないわよっ。もうこんなのいやあっ!」

牛尾はにやりとすると、手に綿棒を持って夏実の内部を犯した。
強引に拡げられた膣口の周辺、中の襞をゆっくりと綿棒の先でまさぐっていく。
綿棒はたちまち蜜を吸い取ってどろどろになり、何本も取り替えられて膣の中を擦っ
ていった。

「あ……あ……、あああ……」

夏実は上擦ったような呻き声を上げ、腰をうねらせた。
感じるところに触れられると、びくっと腰が跳ね、腿に鳥肌が立つ。
牛尾は丹念に襞の隙間まで擦り、夏実の膣内部を探索した。
膣の天井から奥まで、ライトで照らしながら綿棒をすりつけていく。

「ひぃ!」

綿棒が子宮口に触れると、夏実は踏ん張るようにして喘いだ。
先日、牛尾のペニスで突っついた時は痛がるだけだったが、こうした柔らかい刺激
には敏感に反応するようだ。
ならば、何度もセックスして奥まで馴らしてやれば、近いうちに子宮で感じるよう
になるだろう。

「あ、あうう……やああ……あっ……」

閉じられた子宮口を周りから、愛液を拭き取るようにゆるゆるとなぞってやると、
夏実は腰をわなつかせてその感触に耐えていた。
見る見るうちに、その綿棒に襞が絡みつくようになってくる。
膣入り口は、突っ込まれたクスコを押しつぶそうとするかのように収縮してきた。
子宮口までひくひくと喘いでいる。

「ふふ、感じて感じてしようがないんですね、夏実さん」
「そんなこと、ああ、な、ない……あああ、やめて……」
「声が艶っぽくなってきてるじゃないですか。こんな細い綿棒じゃ物足りなくなって
きたでしょう?」
「ち、違う……ああ、いやなだけよ……ああ、もう……」
「ウソばかり言いますね。好きなくせに」

そう言いながら、牛尾はやっと綿棒を中から抜いた。
使い捨てた綿棒がベッドの隅に山積みとなっていた。
それを見ながら、牛尾はおもむろに服を脱いでいく。
その気配を感じ取ったのか、夏実がハッとして目を開けた。
そして思わず息を飲んだ。

「ひ……!」

目の前には、ゆらりと立っている牛尾展也がいた。
夏実と同じく全裸だった。その股間には、見るからに禍々しい肉の凶器がぶら下が
っていた。
先日レイプされた時は、あまりのことに、その最中、牛尾をあまり見もしなかった。
ここまで巨根だとは思いもしなかった。

確かに、思い起こしてみれば、確かに挿入された時は痛いほどにきつかった。
だがそれは、牛尾が指摘していた通り、夏実はひさしぶりの性交だったことが原因
だと思っていた。
それに、これも牛尾が言っていたが、夏実のそこが狭かったせいもあるだろう。
そう言えば、東海林と結ばれた時も、そんなことを言われた記憶もある。
だからだと思っていたのだが、その考えを吹っ飛ばすほどの迫力がそのペニスには
あった。

亀頭の部分は、まるで逆三角形の頭を持った毒蛇がヘルメットを被ったようにカリ
が張っており、異様な迫力があった。
長さも、30センチとは言わぬが、悠に20センチはありそうだ。
こんなに大きければ、勃起している時はもちろん萎えている時でも、ズボンの中で
かなり窮屈だろう。
太さもかなりのもので、夏実の手で掴んでも指が届かなそうなくらいだ。
夏実は、警察学校時代、悪友たちと部屋で面白半分に見ていた海外物のポルノを思い
出していた。
あれに出ていた男優も、この世のものとは思えないほどのペニスだった。
あそこまでいくとほとんどギャグで、事実、夏実たちも大笑いしながら見ていた
ものだ。
その時は「外国人の女ならともかく、自分たちにはとてもあんなものは入らない」と
思っていた。
それに匹敵するような巨大なものが、今、夏実を貫かんとしているのだ。
ゆらりと近づいてくる牛尾に、夏実は恐怖の叫び声を上げた。



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