翌日の警視庁。

「美〜和子」

背後からぽんと肩をたたかれて振り向くと、友人で交通課の宮本由美が笑って立っていた。

「本庁(こっち)はあと一週間だっけ?」
「そうね」

高木からの不器用なプロポーズを受け入れて婚約し、2人そろって上司の目暮に報告したのは
3週間前だ。
するとさすがに婚約者同士が同じ捜査課に所属しているのは差し障りがあるいうことになり、
どちらかが異動することになって、異例のことながらあらかじめ意向を聞かれた。
そこで2人で相談した結果、高木が本庁に残り、美和子は地元の所轄署に異動することを
決めたのだ。

「それで美和子、高木君との結婚式はいつなの?」

由美が興味津々といった感じで訊いてくる。

「うーん・・・・ それがまだ決まってないのよねえ」

美和子自身はとりあえず籍だけを入れ、式や披露宴のことは身の周りが落ち着いてから
ゆっくりと考えればいいと思っていた。
いや本当は高木さえよければ式や披露宴もできるだけ簡素にし、親族だけのささやかな
ものにしてもいいと思い、それを母親に相談したのだが、意外にも強硬に反対された。
何でも同じ警察官として殉職した父・正義の墓前で、母親は美和子の華燭の典は盛大に
行うと誓ったのだそうだ。
亡き父の名前まで出されては美和子も母親の意向に従うしかなく、式場などの手配も
嬉々として行う母親に任せきりにしていたのだ。

「でも美和子、本当にここから移るのに後悔はないの?」
「しょうがないわよ。どちらかが異動しなければならないんだから。
それに2人で決めたことだから後悔はないわ」
「そうかあ・・・・ でも美和子がいなくなると寂しくなるなあ」

らしくなく妙にしんみりとした口調になる由美。美和子はさりげなく話題を変えた。

「そうそう、この前どこかの所轄の交通課から本庁(うち)の特殊部隊に大抜擢された
婦警がかなりの美人だって聞いたわよ。何でも特殊部隊初の女性隊員ってことらしいけど、
由美は知ってる?」
「ああ、知ってる知ってる。墨東署の辻本さんのことね。確かに美人だけど随分やんちゃな
婦警さんで、手柄も群を抜いて多いかわりに書いた始末書の数も並じゃないって話よ」
「あら、そうなんだ。でも随分詳しいじゃない」
「そりゃあ、都内の交通課職員で彼女のことを知らない人はいないってくらいの有名人だもの。
パートナーのもう一人の婦警とのコンビでいろんな事件解決に活躍して、スーパー婦警とまで
呼ばれているくらいなんだから」
「へえ、そうなんだ」
「ほらこの前、墨東署で裏ビデオ業者の大規模な一斉摘発があったじゃない。あれにもその
スーパー婦警コンビが随分と関わっていたらしいわ」
「えっ、そうなの?」
「うん。それでその時の彼女の活躍が本庁の上層部の目に留まって今回の大抜擢につながったって
いうわけ。まあもともと蟻塚警視正や木下警部にずいぶん気に入られていたらしいけど」
「それはすごいわね」

美和子はただただ感心するばかりだ。蟻塚貴男警視正といえば「本庁の鬼」と呼ばれて恐れられ、
将来の警視総監候補と目される実力者だし、その腹心の木下かおる子警部はつい最近警部補から
警部に昇進した切れ者で、美和子にとっても目標とすべき存在だ。

「それにしても由美、よくそんなことまで知ってるわねえ・・・・」

美和子が半ばあきれたように言う。由美は通常のゴシップにも詳しいが、こうしたコアな情報にも
自分などよりずっと精通している。

「まあ私には私なりの色々と情報網があるのよ。でもその辻本さん、やんちゃで美人っていうなら、
美和子といい勝負かもね」
「何よそれ。私は始末書なんて書いたことはないわよ。減給処分はあったけど」

そこで由美が再び話題を戻した。

「それにしても美和子はとうとう結婚しちゃうし、白鳥君もあのコナン君達の担任の先生と
かなりいい感じに進展しているようだし、何かあたし一人だけ取り残されちゃった感じよね。
あーあ、こうなったらアタシも早いとこいい男をゲットして、寿退社といきますか」
「それなら千葉君なんてどう? 案外お似合いなんじゃないの」
「やめてよ美和子。私にだって選ぶ権利はあるんですからね」
「それはそうと、白鳥君とコナン君達の先生がそんなに進展してるって本当なの?」
「うん。白鳥君から積極的にアプローチをかけていて、先生の方も満更でもないようだし、
もうゴールインも近いんじゃないかなあ」
「へえ、あの白鳥君がねえ・・・・ 何か信じられないなあ。白鳥君ってそんなに積極的な
タイプだったかしら? それに白鳥君って本庁(うち)に好きな相手がいるって噂があったわよね」

白鳥が美和子に想いを寄せ、熱心なアプローチをかけていたことは本庁で知らぬ者などいなかったが、
唯一美和子本人だけはその自覚がなかった。そういうところは妙に疎いというのを通り越して
ひどく鈍感なのだ。

「美和子、あんたねえ・・・・」

由美が美和子をまじまじと見つめ、呆れたような声を上げた時、

「佐藤さん、ちょっといいですか」

白鳥が軽く手を挙げて近づいて来るのを見て、由美が微苦笑した。

「『噂をすれば影』ってね。じゃあ美和子また連絡するわ」
「うん」

立ち去る由美を見送りながら、白鳥が怪訝な顔で訊いた。

「佐藤さん、『噂をすれば』て、何か僕のことを?」

「いやいや、白鳥君は幸せ者だってことよ。コナン君達の担任の先生・・・・
えーと、そうそう、小林先生と随分と進展しているようじゃない」

白鳥は苦笑して切り返した。

「そんなことを婚約直後の人に言われても、ですね。昨日も高木君とデートだった
そうじゃないですか」
「あっ・・・・ それは」

『デート』の言葉に、昨晩の激しいセックスを赤裸々に思いだし、美和子は思わず言葉に詰まり、
慌てて話を変えた。

「で、何か私に用なの?」
「ああ、新宿の工事現場で見つかった射殺体の第一発見者の小学生にもう一度確認したいことが
あるんですが、どうも僕は子供の扱いは苦手で・・・・ 佐藤さん、ちょっとつきあって
もらえませんか?」
「ええ、いいわよ。じゃあ行きましょう」

先に立って歩き出した美和子の後姿を、ある種の感慨をもって白鳥は眺めた。
最近の美和子は一段と綺麗になったとの評判だ。それもただ綺麗になっただけではなく
女としての妖しい色香すら漂わせている。その原因が高木(おとこ)にあることは明らかだった。
おそらく昨晩のデートでも美和子は高木に抱かれたのだろう。
一糸まとわぬ姿の美和子が高木の腕の中で悶え喘ぎ、歓喜に身を震わせながら、
あられもない嬌声とともにその身を刺し貫かれる・・・・
一瞬でもそんな下世話な想像をした自分を白鳥は恥じた。

「(もう婚約してるんだから当たり前か)」

そしてふと美和子に瓜二つの自身の恋人のことを思い、今の高木と美和子を自分達に重ね合わせた。

「(僕達もそろそろ・・・・)」

その彼女──小林澄子──の26度目の誕生日が3日後に迫っていた。

「何してるの、白鳥君。おいてくわよ」

知らず知らずのうちに足を止めていた白鳥に、美和子が振り返って叫んだ。

「ああ、すいません。今行きます」

白鳥が美和子に追いつくと、美和子が訊いた。

「そういえば白鳥君、例の事件の方の進展について何か特殊捜査班から聞いてる?」

例の事件とはここ1か月ほどの間に都内で起こっている少女連続誘拐事件だ。
5歳から8歳の少女が立て続けに5人も誘拐され、未だ全員行方不明になっている。
当初は少女の人命優先を考えて警察はマスコミと協定を結び、秘密捜査を続けていたが、
身代金要求などの犯人側からのコンタクトが一切なく捜査は難航し、警察は思い切って
公開捜査に踏み切った。それ以降、マスコミなどでも大きく取り上げられてはいるものの、
いまだ有力な情報は寄せられてはおらず、相変わらず捜査は難航していた。
美和子の問いに、白鳥が苦い顔をして答えた。

「いえ、特に目新しい情報はないようですね。誘拐犯の一味がかなり若い連中であることと、
犯行に使われているのが白いワゴン車だということくらいは分かっているんですが、
何しろ誘拐後に犯人達から何の動きもないものですから・・・・」
「そう・・・・」

身代金目当ての誘拐でないとすると、いたいけな少女達を誘拐した犯人の目的は・・・・
美和子の表情が一層厳しくなった。

「こっちの事件も一刻も早く解決したいわね」

美和子は自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、白鳥と並んで警視庁を出た。


警視庁から並んで出てきた白鳥と美和子を、道路を挟んでやや離れた車中から
じっと見つめる2人の男。
一人は年の頃は40代前半、やややせぎすでスポーツ刈り、かなりの強面の男だ。
もう一人は20代後半の中性的な顔つきの優男で、茶髪の前髪の一部を紫に染めている。

「出てきたぞ」

年上の男が双眼鏡を覗きながら低い声で言った。
男は2年ほど前に警視庁組織犯罪対策部を懲戒免職となった勝俣清和だった。
彼は捜査の対象とすべき暴力団・泥山会の幹部と癒着してひそかに捜査情報を漏らし、
その見返りとして金銭を受けとっていたのだ。それが警務部による内部調査で発覚し、
辞職へと追い込まれた。
その後、食うに困った勝俣は泥山会に転がり込んだ。泥山会としても警察を辞めた
勝俣にもう利用価値などなく、当初は迷惑がっていたのだが、勝俣は次第にその中で
力をつけ、中堅幹部レベルにまでのし上がり、今まで若手組員数人を配下に置いて
泥山会が実質的に経営するファイナンスや風俗店の経営を任されるまでになっていた。
勝俣が助手席の若い男──泥山会組員の園田一臣──に双眼鏡を手渡した。

「あれがさっき話した女さ」

園田は双眼鏡を覗き込み、感嘆の声を上げた。

「へえ・・・・ こりゃあたいした上玉だ。警察(さつ)にあんないい女がいるとはねえ。
ありゃあ刑事(デカ)にしとくにはもったいないくらいだ。うちの風俗でならすぐに
一財産稼げますね」

そこでいったん言葉を切り、双眼鏡から目を外して訊いた。

「でもまさか本気であの女刑事を借金で縛ってソープ嬢に堕とすってわけじゃあ
ないんでしょ?」

園田は勝俣の下で、ファイナンスの借金で首の回らなくなった女を風俗店に堕として
借金を回収し、さらにその彼女達を管理する仕事をしている。

「ああ。そうじゃねえ」
「じゃあ、いったい何なんですか。わざわざこんなところまで連れてきて?」
「簡単な話さ。お前・・・・」

そこで勝俣は言葉を切り、園田の目を正面から見つめ、誘うような口調で言った。

「あの女を犯ってみたいと思わないか?」

園田は勝俣の顔をまじまじと見つめ返し、訊き返した。

「やるってのは・・・・ 強姦(つっこみ)ですか?」
「ああ、そうだ」
「マジ・・・・ ですか?」
「ああ、マジもマジ、大真面目さ。正確に言やあ、強姦(つっこみ)じゃなくて
輪姦(まわし)だな。俺にお前、それにサブやハチも加えて全員であいつを
犯っちまおうってわけさ」
「でも相手は刑事なんでしょ。ちょっとやばくないですか?」
「何だ、びびったのか」
「そうじゃないですけど・・・・」

園田はもう一度、その標的とされた女刑事に視線をやった。

「(ホントいい女だな・・・・)」

目鼻立ちの整った文句なしの美人だが、特に勝気そうなところが男の征服欲をそそる。
それに遠目のスーツ姿からも、そのスタイルの良さは十分に見て取れ、あのスーツの下に
隠されているであろう魅惑的な肢体を想像して思わずつばを呑み込んだ。
確かにあれだけの上玉、それも女刑事を好き放題に弄べるというのは魅力的だが、
逆に相手が刑事ゆえのリスクも大きい。その誘惑とリスクをしばらく天秤にかけていた
園田だったが、大きく息をつくと、ようやく決断したように言った。

「わかりました、犯っちゃいましょう。それであの上玉は何て言う名前なんですか?」
「佐藤美和子」
「年齢(とし)は?」
「確か今年で28だったかな」
「へえ、一番の女盛りってとこですね。それで独身? それとも結婚してるんですか?」
「結婚はしてない。だがどうやら最近同僚と婚約したらしい」

1週間ほど前、勝俣は偶然警察学校で同期だった男と再会し、そこで思いがけずに得た
情報だった。

「婚約ねえ・・・・ そんじゃもしかしてあの隣の優男がその婚約者ってわけですか」
「いや、あいつは違う。あいつは白鳥っていう鼻持ちならねえキャリアのエリート刑事さ。
婚約したのは高木っていうノンキャリの冴えない野郎だよ」
「それにしても婚約直後ってことは、今が幸せ絶頂ってところじゃないですか。
そんな女を輪姦(まわ)しちまおうなんて、勝俣さん、何かあの女に恨みでもあるんですか?」

勝俣はそれには答えずに、園田から双眼鏡を取り返すとじっと美和子を見つめた。

「(佐藤のやつ・・・・ ホント、いい女になりやがったな)」



勝俣は元々捜査一課3係強行班に所属するたたき上げの刑事だった。そしてそこへ
新人刑事として配属されてきたのが美和子だった。
そこで目暮は当時上層部からも一目置かれる優秀な刑事だった勝俣に美和子の
教育係も兼ねて2人でコンビを組ませたのだ。
美和子は入職当時から本庁の中でもかなり知られた存在だった。
何と言ってもその最大の理由は、彼女の端整な容姿によるところが大きいのだが、
殉職した父・佐藤正義警視正の跡を継ぐような形で警視庁に入職したことが、
一種の美談として語られており、そのうえ彼女が警察官としても非常に優秀だったことも
それに拍車をかけた。
そんな美和子を勝俣は厳しく指導し、刑事としてのイロハを一から叩き込むと同時に
目をかけて可愛がった。美和子もまた彼の厳しい指導に十分応えて刑事として次第に
頭角を現してきた。
そんな2人は瞬く間に名コンビとして名を馳せるようになり、いくつもの大きな事件を
解決に導く活躍を見せた。そして美和子はその活躍と美貌とが相まって隣県警察にも
ファンがいるほどの警視庁のマドンナ的存在となっていたのだ。
そんな眩いばかりの活躍を見せる彼女のことを、勝俣はいつしか指導すべき「後輩」や
コンビを組む「相棒」ではなく、一人の「女」として意識するようになっていた。
当時、勝俣は仕事面では順調だったものの、それとは裏腹に家庭生活は破たんしかかっていた。
結婚はしていたものの子供には恵まれず、その原因が妻の不妊体質にあることを知って以降、
妻との仲は冷え切って家庭内別居状態になった。当然夫婦生活も長い間ごぶさたであり、
それゆえ最も身近な存在の美和子に性的な欲望を抱くようになっていくのも自然な
成り行きといえた。
そしてコンビを組んで1年近く経ったある日、2人の活躍によって事件を解決した後、
勝俣は美和子を2人きりで呑みに誘い、さりげなく口説いてみた。
彼女が自分のことを尊敬し、憧れに近い想いを抱いていることを確信していたので簡単に
「落ちる」はずと思っていたのだ。
だが意に反して美和子にやんわりとかわされてしまい、勝俣のプライドはひどく傷ついた。
それでもあきらめきれない勝俣は、そんな気配はおくびも出さずに美和子に酒を勧め、
珍しく酔ってしまった彼女をそのままラブホテルに連れこもうとした。
しかし・・・・ 直前で美和子はそれをぴしゃりとはねのけ、こう言ったのだ。

「勝俣さんは刑事としては尊敬しています。ですが男として意識したことは一度もありません。
それを酔わせてホテルに連れ込もうなんて・・・・ あんまり私を馬鹿にしないでください!」

その数日後、恐らく美和子の口から事の顛末が知れたのだろう、目暮から急にコンビ解消を
言い渡された。さらにしばらくして勝俣は希望もしていない組織犯罪対策部に異動させられた
あげく、結局そこで不祥事を起こして警察を追われるはめになったのだ。
そしてそれを機に別居状態が続いていた妻とも別れ、なけなしの貯金も慰謝料という形で
奪われて、勝俣は文字通り何もかもを失って身一つで世間に放り出されることになった。
そのすべが美和子のせいというわけではないが、一つのきっかけになったことには違いない。
逆恨みだということは承知しつつも彼女に対する思いは可愛さ余って憎さ百倍、
愛情が憎しみと歪んだ欲情へと変化していくのにさほど時間はかからなかった。
だが警察を辞めてしまった今となっては彼女との接点などあろうはずもなく、その鬱屈たる
思いに悶々とした日々を過ごしていたのだ。
だがそんなある日、自分の身に降りかかった思いがけない出来事と、同期から彼女の婚約を
聞いて、それが一変した。
美和子と婚約したという高木渉とは直接の面識はなく、せいぜい顔を知っている程度だ。
まじめではあるが、それほど飛びぬけて優秀だとは聞いておらず平凡な印象しかない。
そんな男が美和子と婚約し、自分がとうとうモノにすることのできなかった彼女の身体を
好きなように貪り味わって刺し貫いているのだと思うと激しい嫉妬に駆られた。
そして同時にその凡庸な男の身体の下で悶え喘ぐ彼女の淫らな姿を想像して、下半身が熱く
充実してくるのを抑えきれなかった。
そうしてその悶々たる邪念はやがて淫惨な姦計へと昇華したのだ。
勝俣はもう一度美和子に目をやった。
当時から確かに美和子は美人ではあったが、それでもまだ女としてはやや生硬な印象は
拭えきれなかった。だが奇しくも園田が言うように20代後半というまさしく女盛りを迎え、
さらに愛する男との婚約という心身ともに充実の一途を迎えた彼女は、まさしく「雄」を
惹きつけてやまない「雌」へと変貌を遂げていた。
今こそ積年の想いを遂げるべき時が来た。そのためには手段を選ばない。
そしてそれが済んだら・・・・

「どうしたんすか、勝俣さん。急に黙りこくっちゃって?」

園田の声に我に返った勝俣は双眼鏡を傍らに置き、キーをひねってエンジンをかけた。
「あ、いや、何でもない。とりあえず今日は面通しだけだ。店へ戻ってサブとハチにも話そう」

                     ※

紫煙が立ち込めるソープランドの狭い事務室で、4人の男が一つのテーブルを囲むようにして
パイプ椅子に座っていた。テーブルの上には先ほど撮影された美和子と白鳥が並んで写っている
写真が置かれている。
20代中頃と思しき中肉中背の男──木島三郎──が興味津々といった感じで写真を手に取ると、
同じ歳頃のこちらはずんぐりとして背の低い男──蜂須賀幹久──もそれ覗き込んだ。

「へえ・・・・ 勝俣さん、この別嬪さん、マジに刑事なの?」

2人が顔を上げて口をそろえて言った。

「ああ、いい女だろう。なんせ警視庁のアイドルだからな。どうだ、これでお前らも少しは
犯る気になったか?」
「もちろんさ。こんな上玉を犯れるってだけでも興奮するのに、それが女刑事なんて
おまけまでついてくるんだ。そんなおいしいシチュで犯らなきゃ男じゃねえよ」

木島が舌なめずりをしながら卑猥に笑えば、

「そうそう、それに刑事には昔から痛い目に合わされてるし、『女刑事を犯る』って
シチュエーションはそそるよなあ」

蜂須賀もすかさず同調した。
園田と違い、2人は輪姦の対象が刑事だと知っても犯行に何ら躊躇することなく、
逆にそれが返って犯る気をそそってさえいるようだ。
2人は元々は園田の高校時代の後輩で、彼をリーダーとする不良仲間だった。
最初はせいぜいカツアゲ程度だった彼らの不良行為はしだいに恐喝・傷害といった具合に
エスカレートし、とうとうデート中の大学生カップルを拉致して現金を奪ったうえで、
女子大生を恋人の目の前で輪姦するという事件を起こしたのだ。
その時は被害者2人が警察に届けなかったため、事件は発覚せずに捕まらなかったのだが、
それに味をしめた彼らはさらに同様の犯行を重ね、3度目の犯行でついに警察に逮捕された。
犯行は極めて悪質だったたが、3人とも未成年だったため、全員が少年院に送られる
ことになった。
そこで矯正教育を受けた彼らは形ばかりの反省を見せて出所し、その後、泥山会と接触を
もつようになり、いつしか正式な組員になっていた。
それからしばらくはなりを潜めていたのだが、一度禁断の味を覚えてしまった彼らは自らの
欲望を抑えきれず、最近では泥山会上層部には内緒で再びその悪行に手を付けるように
なっていたのだ。

「しっかし、こんな上玉の女刑事を犯れるなんてワクワクするな」
「そうそう、想像するだけでもうあっちの方がおっ立ちまうよ」

木島と蜂須賀がにやにやと卑猥な笑みを浮かべて話していると園田が勝俣を振り返った。

「なあ勝俣さん、ただレイプするだけじゃあ面白くないし、ちょっと趣向を凝らして
みたいんだけど」
「何だよ、趣向ってのは?」

勝俣が問い返すと、園田が口の端をゆがめた。

「どうせだったらその高木っていう婚約者の目の前でこの女刑事さんを犯るってのは
どうですかね」
「へえ・・・」

勝俣はまじまじと園田を見つめた。それは自分でもひそかに考えていたことだからだ。
愛しい婚約者の目の前で、美和子の身体をとことん嬲り弄ぶ。そして必死に助けを求めて
泣き叫ぶ彼女を徹底的に蹂躙して犯しぬき、輪姦する。
あの勝気で誇り高い美和子を性奴隷へと堕としめ、凌辱しつくすにはこれ以上ない最高の
シチュエーションといえるだろう。

「いい、それいいよっ!」
「うんうん。そのシチュ最高っ!」

木島と蜂須賀も俄然乗り気のようだ。恐らく2人とも初めて輪姦(まわ)した女子大生の時の
シチュエーションを思い浮かべ、興奮を新たにしているのだろう。
勝俣は内心ほくそえんだ。もちろん彼はこの3人の悪癖を承知の上で誘いをかけたのだ。
思惑通りにのってきた3人を勝俣は見回し、にやりと笑いおどけた口調で言った。

「ようし分かった。どうせ犯るならとことん鬼畜に徹してみるか。警視庁のマドンナ・
佐藤美和子の輪姦ショーをせいぜい派手に演出してやるとしよう」

こうして美貌の女刑事は淫鬼達の非道極まる姦計の標的とされたのだった。



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