翌朝、7時ちょうどに目覚めた達也はパジャマのままリビングに下りてきて玄関の鍵を開けた。
そのままリビングでテレビで朝の情報番組を何の気なしに見ていたが、時計の針が7時半を
回った頃になってさすがに不審を抱いた。

「(南のやつ、遅いな)」

確か7時過ぎには朝食を作りに来てくれると言っていたし、それにあまり遅いと彼女自身の
模試受験にも支障がありそうだ。
彼女に限って寝坊などということはありえないとは思うが、一応確認はしておこうと、
達也は中庭に降りてサンダルをつっかけ、浅倉家に足を向けたその時、小部屋のドアが
半開きになっているのに気付いた。

「(あれ?)」

南が戸締りを忘れたのだろうか。だがそんなことは今まで一度もなかったはずだ。
突然背中に何かひりつくようなものが走り、猛烈に嫌な予感がしてドアを開けた。

「南っ!」

だがそこに南の姿はなく、真っ先に目に飛び込んだのは入り口付近の泥に塗れた
足跡だらけのカーペット。それは昨晩明らかに何者かが土足でこの部屋に踏み込んだ証。

「こ、これは・・・・」

次に部屋の中に足を踏み入れた達也の目に入ったのは、床に無造作に散らばっている
カーディガンとセーター、そしてスカート。それは間違いなく昨晩南が着ていたものだ。

「な、何で・・・・」

さらにスカートの下から真っ二つに切り裂かれたブラジャーとくしゃくしゃに丸められた
ショーツを見つけて愕然とする達也。
泥だらけの足跡、散らばったカーディガン・セーター・スカート、引き裂かれた下着。
南自らが服を脱いだとは到底考えられないし、その理由もない。そうなればこの現状を
説明しうる状況は一つだけ。彼女はこの足跡の侵入者達に下着もろとも服を脱がされたのだ。
そしてその目的は・・・・ 昨晩ここで南の身に何が起こったのかを達也は瞬時に理解した。

「そ、そんな・・・・」

思わず腰が抜け尻餅つく達也。その時カーペットについた手に粘りつく気味の悪い感触。
掌を返してみれば、そこにはまだ乾ききっていない淫欲の白濁液がべっとりとついていた。

「南ぃぃぃぃぃぃっ!」

達也の絶叫が部屋中に轟いた。

                     ※

連休明けの明星学園。敏和は何食わぬ顔で登校していた。
彼らの性奴隷と化した南はいまだあの音楽スタジオでその歪んだ欲望の餌食にされ続けている。
もちろんあれから敏和自身も繰り返し南の身体を貪り、その身を犯していた。
さっと教室を見回してみるが上杉達也の姿がない。

「(上杉まで来てないってことは・・・・)」

おそらく南を拉致したことが露見したのだろう。あの部屋には自分達が侵入した痕跡は
いくらでも残っている。もちろん直接身元がばれるようなことはないだろうが、
もし警察が動き出しているとしたら相当厄介なことになる。しかし今更後には引けない。
実は登校してその辺のことを探るように天王寺に命じられていたのだ。

「(それにしても・・・・)」

目蓋を閉じれば、繰り返し刺し貫いた南の身体を脳裏にくっきりと思い浮かべることができ、
その淫猥な感触が蘇ってくる。
目に眩しいほど白い柔肌の掌に吸い付くような瑞々しい手触り、大きすぎず小さすぎない
バストの美しいフォルムとぷりぷりとした抜群の弾力、艶めかしくくびれた腰首、
ふっくらと丸みを帯びたヒップ、適度に肉の乗った大腿部、すらりと伸びた長い脚、
そして自らの分身を咥え込んで離さない蕩けるように熱い蜜壺・・・・
学校が終わったらまたあの極上の身体を好き放題に犯せるのだ。
まだ登校したばかりだというのにその時間が待ちきれず、思わず淫らな妄想をめぐらしていると、
彼の下半身は知らず知らずのうちに充血して勃起し、スラックスの股間に傍目から見ても
はっきりと分かるテントを作り上げていた。

「(やばいっ!)」

慌てて身をよじり、机に正対してイスに深く腰掛けることでそれを隠したその時、

「ちょっとアンタ、上杉先輩いる?」

と背後からぞんざいな口調で声がかかった。

「えっ?」

振り向くとそこにはやや赤味がかった髪をポニーテールにまとめた少女が一人立っていた。
襟元の学年章からするとどうやら1年生のようだ。

「(あれ、この娘、だれだっけな?)」

どこかで見た顔なのだがとっさに思い出せない敏和。

「上杉先輩、いないの?」

今度はややきつめの口調で少女が訊いた。

「えっ、あっ、ああ。上杉は今日は休みたいだな」
「そう」
「上杉に何か用かい?」

何気なく訊くと、その少女はキッと敏和をにらんだ。

「用があるから来たに決まってるでしょ!」

その勢いにたじろぐ敏和。彼女は教室を見回し、さらに訊いた。

「あれ、浅倉・・・・ 先輩もいないの?」
「えっ、ああ。2人とも休みみたいだな」

内心の動揺を悟られないように敏和は平然を装った。

「まさか2人で学校をさぼってデート? そんなわけないわよね」

苛立ったようにひとり呟く少女に改めて敏和は視線を奪われた。
ややはすっぱな口のきき方こそしているが、いかにも勝気そうなそのルックスは
南にも引けを取らず、ポニーテールがよく似合う美人だ。それに制服の上からでも
スタイルの良さは見て取れる。

「えーと、君はいったい・・・・ 名前は何ていうんだ?」

だが少女は敏和に冷たい一瞥をくれ、

「そんなことあんたには関係ないでしょ」

そう言い捨てると、すぐに立ち去って行った。

「(何だありゃ・・・・)」

呆然とそれを見送った敏和の肩をクラスメイトの北野修一がポンとたたいた。

「平野、お前いま新田と何話してたんだよ?」
「新田? あの子、新田っていうのか?」
「へっ? 何だお前、新田由加を知らないのかよ? 1年生の中じゃあ断トツの美人って
評判で上級生の中にもファンが多いらしいぜ。もっとも、ちょっとそれを鼻にかけてる
ところがあって女からは受けが悪いみたいだけどな」
「へえ・・・・ そうなのか」

それはわかる気がした。同性・異性問わずに人気のある南ですら、わずかではあるが
嫌悪する女生徒はいるのだ。新田由加はそれ以上に同性からは反発を受けそうなタイプだ。

「まったくお前はそういうことにはうといよなあ。それで、何話してたんだよ?」
「別に。何か上杉に用があったらしいけど」
「ふうん、まあ新田は野球部のマネージャーだからその関係かな」
「えっ? そうなのか?」
「ああ。それにしても浅倉といい新田といい、うちの野球部はマネージャーに恵まれて
いるよな。あれ? そういやあ今日は上杉も浅倉も来てないんだな」
「あ、ああ。そうみたいだな」

そこへ担任の教師が教室に入ってきて話が中断された。

「(新田由加ねえ。あの娘も野球部のマネージャだったのか・・・・)」

敏和の脳裏にその名前と容姿がくっきりと刻まれた。


次の休み時間。たまたま敏和は階段の踊り場で由加とばったり出くわした。

「なあ君・・・・ 新田さんっていうんだってな」

なれなれしく話しかけた敏和に由加は一瞥くれるとそっけなく言った。

「そうだけど、それが何?」
「あっ、いや、別に何ってわけじゃないんだけど・・・・」

口ごもる敏和。

「用がないんなら、勝手に呼び止めないでよ」

由加は立ち去ろうとしたが、突然足を止めて敏和を振り返り、まるで汚いものでも
見るような表情になって言った。

「あんたちょっと・・・・」
「うん? 何だよ」
「キモいんですけど」
「えっ・・・・ キ、キモイって・・・・」
「さっき、私が声をかけた時何かものすごくいやらしい顔して笑ってたし、それに・・・・
あたし知ってるんですからね」
「し、知ってるて、何がだよ」

由加は嫌悪感を隠そうともせず敏和の股間を指差して吐き捨てるように言った。

「へんなとこふくらまして・・・・ その時慌てて隠してましたよね」
「あっ!」

勃起していたことを見られていたのだ。

「朝から何いやらしいこと考えてたんですか? ホント、キモいったらありゃしない。
最低よっ」

由加はあからさまに馬鹿にした口調で言い放つと、屈辱に打ち震える敏和を尻目に踵を返して
立ち去って行った。

「(くそっ、あの女(あま)ふざけやがって・・・・)」

敏和の心に由加に対する憎悪の炎が燃え上がり、それが淫猥な欲望へと転化するのに
さほど時間はかからなかった


             ※

放課後、例の音楽スタジオに敏和が姿を現すと、旭以外の4人がそこにはいた。

「で、様子はどうだった?」

天王寺が訊く。

「学校じゃあまだ何も。だけど上杉は来ていなかったし、もしかしたらもう事件になって
いるかもしれないですね」
「それで俺達のしわざだってことも分かってるみたいなのか?」
「そこまではさすがに・・・・ でもばれていたら自分はこんなところに来ていられませんよ」
「そうか、そりゃそうだよな」
「それより浅倉は?」
「ああ、奥の部屋にいるぜ。さっきまで住吉と都島が犯ってたんだ。お前もさくっと犯ってこいよ」

敏和がうなずいて、奥の部屋へと向かおうとした時、天王寺が言葉を継いだ。

「でもなあ、さすがにあれだけ犯りまくったせいで全然反応しなくなってきやがった。
どんなに犯り方をしてもまるで抵抗しないし、泣き叫びもしやしねえ。ああいうマグロに
なっちまった女はいまいち犯り甲斐がないんだよな」

都島と住吉がそれに応じる。

「そうっすね。やっぱりもっとわんわん泣き叫んで抵抗してくれなくちゃ『レイプ』って
気分が盛り上がらないですよね」
「でも、仕方ないっすよ。あれだけ犯られまくりゃあどんな気の強い女だって大人しく
なっちまいますよ。あれでも相当もった方じゃないですか」

天王寺はソファにもたれたまま大きく伸びをした。

「そりゃそうか。でもまあ、ここいらでまたもっと別の活きのいい女がほしいところだな」

敏和がその言葉にぴたりと動きを止め、振り返った。

「活きのいい女、ですか」
「うん? 何か心当たりでもあるのかよ?」

4人が怪訝な様子で敏和を一斉に見つめた。
彼らにとって敏和の豹変ぶりはあまりに意外なことだった。
もちろん最初は一緒に南を犯させることで共犯関係を作り、警察(さつ)へのタレこみを
防ぐつもりであの場に連れて行ったのだ。そして最初こそ無様な醜態をさらしたが、
一度犯ってからは、敏和は彼らが驚くほど南に執着するようになり、おそらく犯った回数だけなら
この中でも一番多いだろう。
今では天王寺以外にはため口にすらなり、もはやとっくの昔からの仲間のような風情ですらある。
その上、新しい獲物について何か心当たりがあるらしい。

「で、どうなんだよ?」

天王寺に再度催促され、敏和の脳裏に昼間の屈辱がよみがえった。
自分を嘲笑し、罵倒したあの女を南同様に一糸まとわぬ姿にひん剥き、その身体を思う存分
いたぶり弄んで、徹底的に犯したい、いや輪姦(まわ)したい――そんな衝動に駆られた。

「まあないわけじゃないですけど・・・・」

わざとらしくもったいぶった言い方をする敏和。

「へえ、どんなやつだよ」

興味津々といった感じで4人の視線が敏和に集まる。

「浅倉も、その前にレイプしたっていう女子大生もうちの学校の野球部の元マネージャー
なんですよね?」
「ああ。だけどそれがどうした?」
「実は浅倉の後釜として野球部のマネージャーになった女がいるんですよ」

真っ先に天王寺が食いついてきた。

「じゃあそいつがその活きのいい女ってわけか・・・・ なるほどな、確かにマネージャー
3連発ってのは面白いとは思うけど、それだけじゃあな。それでそいつは可愛いのか?」
「ええ。まだ1年なんですけど、学年じゃあトップクラスの美人で、本人もそれをかなり
意識しているみたいですね。それに何しろ気が強くて、何でも合気道を習っているらしくて
以前、絡んできたヤンキー女数人を一人でのしたこともあるとか。活きがいいってことは
保証できますよ」

あの後、敏和は彼女についての情報をさりげなく北野から聞き出しており、今の情報も
それが出どころだった。

「へえ・・・・ そりゃあちょっと興味があるな。名前は何て言うんだ?」
「新田由加。1年生です」
「新田由加ねえ・・・・ それで写真とかはないのかよ?」
「あります。これです」

敏和は密かに携帯電話のカメラ機能で隠し撮りした由加の画像を天王寺に見せた。
「携帯だし、隠し撮りなんでちょっと見にくいかもしれませんけど」

天王寺は目を凝らしてそれをじっと見つめ、しばらくしてにやりと笑った。

「なるほどな、ちょっと気が強そうだがなかなか可愛いいじゃねえか。それに高1ならもう
十分女の身体になってるだろうし、こういう勝気そうな女を滅茶苦茶にするってのも犯り
甲斐があって楽しそうだ。うん、悪くねえ」

さらに携帯を覗き込んだ阿倍野・都島・住吉も大きくうなずいた。

「いいじゃないですか。新旧マネージャーの味比べってのも面白い趣向だと思いますよ」
「うんうん、いいよ、いいっ! 野球部美人マネージャーのダブルレイプなんて最高じゃん!」
「ついでだったらこの前の女子大生をもう一回拉致してトリプルレイプってのも面白いよなあ」

一斉に盛り上がる男達。天王寺が断を下した。

「わかった。じゃあこいつのことはお前にまかせる。その代わり、この新田って女は真っ先に
犯らせてやるぜ」

目を輝かす敏和。対照的に阿倍野が不服そうに鼻を鳴らした。

「天王寺さん、何もそこまでこいつにサービスすることはねえでしょう」
「いいんだよ。こいつはもう完全に俺達の仲間なんだ。仲間同士は差別はなしさ。
だいいち、お前にだって同じ条件であの女を真っ先に犯らせてやったろうが」
「・・・・」
黙り込む阿倍野。住吉と都島も顔を見合わせ、やや鼻白んだ様子で小さくため息をついた。

                   ※

あの朝、達也から事情を聞いて急遽帰宅した南の父親・浅倉俊夫からの連絡を受けて
現場の小部屋を検証した警察は、南がそこでレイプされ、さらに拉致されたことを
確認して捜査を進めていた。
聞き込みによって、当日昼間、10代後半と思しき若い男が『南風』の臨時休業について
色々と聞き回っていたこと、また見慣れぬ白のワゴン車が夜11時過ぎから明け方近くまで
近所の路地に停まっていたことが確認できたが、ナンバーなどは分からず、その方面からの
捜査は行き詰っていた。
また、性犯罪の累犯性から元性犯罪者などの線も洗っていたが、そちらもはかばかしい成果は
得られぬまま、南が拉致されてからすでに3日が経っていた。
犯罪の性質上、まだ公開捜査に踏み切りはしていないが、いずれそうせざる得ないかもしれない。
そうなればマスコミは大騒ぎになるだろう。何しろ拉致誘拐されたのはただの女子高生ではない、
今や日本でもっとも有名な女子高生の一人と言っていい浅倉南なのだ。

「被害者はまだ・・・・ 生きているんでしょうか」

若手刑事の福島が思わずつぶやいた。

「ばかっ、めったなことを言うんじゃない」

それを聞きとがめたベテラン刑事・鶴見が一喝した。だが、福島の危惧はもっともなものだ。
現場に残されたゲソ痕や精液から最低でも5人以上の男達にあの場で南が輪姦されたことが
分かっていた。そして彼らが己のさらなる狂った欲望を満たす餌食として彼女を拉致したのは
明らかだ。そうした場合、誘拐されてから時間が経てば経つほど被害者が生きて戻れる可能性は
低くなる。

「それで、不良(わる)どもの間で何か噂になっていないか?」

この種の性犯罪、特に集団レイプの場合はたいてい仲間内で噂になり、そこから犯行が
発覚するケースが多い。彼らが南を監禁し凌辱の餌食としているのだとしたら、絶対に
そのことを自慢げに話すやつが出てくるはずだ。

「今、色々と当たっていますが、特にまだそういう話は・・・・」
「そうか・・・・ よっぽど口の堅い連中なのかもしれないな」

唇を噛む鶴見。一月近く前に集団レイプされた女子大生の自殺未遂事件があったが、
その彼女の体内に残されていた精液と今回の現場で発見されたそれとが一致したことから
同一の犯人グループと断定されていた。こうした性犯罪者は同様の犯行を繰り返す性向が
多分にある。
彼ら、いやこのケダモノ達をこのまま放っておいたらさらなる事件を引き起こし、
また罪もない若い女性が凌辱の餌食とされる可能性が高い。
鶴見にも南と同じ年頃の娘がおり、次は自分の愛娘が被害者にならないとは言いきれないのだ。
この犯人達は一刻も早く捕まえなければならない。
鶴見は部下たちを叱咤した。
「絶対に奴らをこのまま放置しておくわけにはいかないっ! 警察のメンツにかけても何としても
逮捕するんだっ!」
「はいっ!」



それから2日後。突然の降り出した雨の中、新田由加は小走りで帰途についていた。

「ああっ、もうっ! 天気予報じゃ降らないって言ってたのにっ! 何なのよこの雨は!」

自宅のある住宅街の路地に入ったところで背後から声がかかった。

「新田さん」
「えっ?」

振り向くとそこに立っていたのは平野敏和。

「あんたは・・・・ 何か用?」
「別に・・・・」

敏和はにやにやといやらしい笑みを浮かべている。由加はそれに苛立ったように言った。

「そういえば、ここんとこあんたが私のこと色々を聞き回っているって友達から聞いたわ。
いったいどういうつもり? 安心してよ、あんなこと言いふらすつもりはないから」
「そうかい。それは助かるよ。だが別にそんなことは関係ないさ」
「それならどういうつもり? ははあん、もしかして私に惚れたの? 生憎だけど私、
あんたのことなんかまるっきり眼中にないから。だれがあんたみたいなキモイ男を
相手にするもんですか」
「なるほど、噂通りに自信過剰な女だな。俺は仮にも上級生なんだ。もう少し口のきき方に
気を付けろよ。それに俺だって知ってるんだぜ」
「知ってるって、何をよ」
「確かにお前は可愛くて男子に人気があるようだけど、それを鼻にかけてるからって
女子からはずいぶんと嫌われているってことをな。その辺は浅倉とは大違いだな」

痛いところをつかれて由加が激昂した。

「ふんっ! そんなの知らないわよっ! 第一そんなことアンタに言われる筋合いじゃ
ないわっ!」
「確かにな。それに俺達にとっちゃあお前が女から人気があろうがなかろうがそんなことは
関係ないさ」

ずいっと一歩前に進んだ敏和の尋常ならざる様子に気圧された由加が逆に一歩下がった。

「ど、どういう意味よっ! それはっ! それに俺達ってどういう・・・・」
「こういうことさっ!」

突然背後からの男の声。由加が振り向く暇もなく首筋に当てられたスタンガンが青白い閃光を
放った。

「ぐうっ!」

その場に崩れ落ちた由加を、敏和・阿倍野・住吉が抱え上げるようにしてワゴン車の中に
運び込むと、待ち構えていた都島がすぐさま車を発進させた。

「よっしゃー、拉致成功!」
「へえ・・・・ 写真で見るより実物の方がずっと可愛いじゃん。それになかなか
いい身体してやがる。これはまたたっぷりと楽しめそうだな」
「へっへっへっ・・・・ 今度はどんな形でマワしてやっかな」

車内で盛り上がる男達。だが・・・・ 彼らは由加を拉致する現場を目撃していた一人の少年の
存在に全く気付いていなかった。

                   ※

「まだ、情報はないのか!」
突然強くなった外の雨脚にすら苛立ったように捜査本部で鶴見が大声を上げて部下を叱責した時、
部屋の電話が鳴った。
福島がすぐに応対したが、やがて緊張した面持ちになり、メモ書きしながら確認している。

「そ、それは本当なんだね? 場所はどこなんだ?」

電話をしながらメモを鶴見に突き出した。そこには
――〇〇区□□町で女子高生拉致事件発生・目撃者あり・拉致犯達は白のワゴン車で逃走――
と書かれていた。
捜査本部が一斉に色めきたった。もちろん南を拉致した男達と同一グループかは断定できないが、
アジをしめた犯人達が同様の犯行に走った可能性は否定できない。それに白いワゴン車も犯行
当日に浅倉家の近くで目撃されているものと一致する。

「ようし、至急その目撃者に事情聴取だ。急げっ!」

事態は急激に動き出した。

                       ※

すでに由加を拉致してから3時間近く経っていたが、阿倍野・都島・住吉・敏和の4人は
例の音楽スタジオでまさしく餌を前にしたお預けを食った犬のような表情でいらだちを
隠せずにいた。
都外に出ていた天王寺の到着が遅れ、それまではこの新たな獲物に手を出すことを一切
禁じられていたからだ。

「ああっ、早く犯りてぇな」

真っ先に由加を犯ることを確約されている敏和が思わずそう漏らした時、部屋のドアが開いて
ようやく天王寺が顔を出した。

「よお、悪かったな。それで新しい女はどこにいるんだ」

阿倍野がサーチライトのスイッチを入れると、まだ意識を失ったまま床に転がされた由加の姿が
光の中に照らし出された。
おもむろに由加に近づき顔を覗き込む天王寺。

「おおっ、こりゃたいした上玉だな。ホント、明青学園の野球部のマネージャーってのは
美人揃いなんだな。それに思った通りちゃんと女の身体になってるな。こりゃまたたっぷりと
輪姦(まわし)甲斐がありそうだ」

そのその劣情に駆られた視線に気づいた敏和が念を押した。

「俺が最初に犯っちゃっていいんですよね。約束しましたよね」

天王寺が苦笑し、敏和を振り返った。

「ああ、分かってるさ。それじゃあ始める前に南ちゃんもつれてこいよ。新旧マネージャーの
ダブルレイプ、味比べといこうか」

頷いた都島と住吉が別の部屋に監禁している南を連れに出ていったちょうどその時、

「うっ・・・・ ううんっ・・・・」

由加が小さく呻いた。


自らを強烈に照らし出すサーチライトの光の刺激と周囲のざわめきで由加は意識を取り戻した。

「あっ、あれ・・・・」

眩しい光を手をかざして防ぐ由加、その光の中から3つの人影が現れた。

「ようこそ、新田由加さん」
「なっ、何なのよっ、アンタ達はっ!」

ふらつく足元で立ち上がってとっさに身構える由加。一人の男が前に進み出た。

「あっ・・・・ アンタは・・・・」

平野敏和の顔を見て由加は激昂した。

「アンタのしわざなのねっ! いったいどういうつもりなのっ! それにこんなことをして
ただで済むと思っているのっ!」

敏和は平然と答えた。

「おいおいそれは相手が違う。ただじゃすまないのは俺達じゃなくてお前の方なんだぜ」
「何ですって! どういうことよっ!」
「そうぎゃんぎゃん騒ぐなよ。すぐにわかる。おっ、来たようだな」

ギギッ―とドアが軋む音の方向に由加が目をやると、開いたドアから男2人が間に誰か一人を
挟むようにして現れた。

「先輩とのご対面だ」
「先輩ですって?」

男2人に真ん中に挟まれている人間が女性で、かつ全裸であることに気づいた由加が言葉を失った。

「なっ・・・・」

さらにそれが恋敵である浅倉南のあまりに変わり果てた姿だと気づくまでには一瞬の間があった。

「えっ! ど、どうして・・・・」

それに答えたのは敏和ではなく、天王寺だった。
「見て分かんないか? お前の先輩様は俺達にレイプされたんだよ。輪姦だよ、り・ん・か・ん。
この5日間で犯りまくってやったんだ。いやあ、よかったぜこの女は。いい身体してやがったし、
あっちの方も熱々トロトロで最高だった」
「嘘っ・・・・」

あまりの事実の衝撃に絶句してしまた由加。さらに天王寺が言葉を継いだ。

「それにこの女の前にも西尾佐知子っていう野球部の元マネージャーをマワしたんだよ。
それで次は誰かってことになってな」

いったんそこで言葉を切り、天王寺が敏和に目をやった。

「そしたらそいつが今度は現役のマネージャーがいいんじゃないかって言いだしてな。
それでオマエをご招待したってわけさ、新田由加ちゃん」

「なっ・・・・ 何を馬鹿なことを言ってるのよっ! ふ、ふざけないでっ!」

そこで再び敏和が言葉を引き取った。

「ふざけてなんかいないさ。これでよくわかったろ。ただで済まないのは俺達じゃなくて、
お前の方だっていう意味が。今からお前は俺達に輪姦(まわ)されるんだよ」

敏和が一歩前に出ると、それに気圧されたように由加が後じさりした。

「よくも俺のことを『キモイ』とか言ってくれたな。それが上級生に対する口のきき方かよ」

都島と住吉がはやし立てる。

「そうか、そんな失礼な下級生はちゃんとしつけてやるのが上級生の役目ってやつだよな。
それに男勝りの由加ちゃんには自分が女だっていうことと、俺達が男だっていうことを
実体験で教えてやるぜ。その身体にたっぷりとよお。くっくっくっ・・・・」

まるで悪鬼のような表情で由加に歩み寄った敏和の手が彼女の身体に触れた瞬間、

「えっ?」

彼の視界が一回転し、直後にしたたかに床に腰を打ち付けていた。

「痛ぇ!」

由加が得意の合気道で投げ飛ばしたのだ。

「何だよおい、自分でその女は合気道をやっているって言っておきながらそのざまかよ。
やっぱりデカマラ君は情けないなあ」

哄笑する天王寺。由加はキッと天王寺を睨み付けた。

「こいつみたいになりたくなかったら、そこをどきなさいっ!」

だが、天王寺は一向に焦るでもなく咥えタバコに火をつけた。

「おいおい、状況が分かってないようだな。あの女がどうなってもいいのかよ?」
「えっ?」

天王寺の指差した先で都島がナイフの切っ先を南の首筋に当てていた。

「さすがにちょっと犯り飽きたし、代わりも来てくれたんだ。殺(や)ちゃっても
いいんだぜ」
「くっ・・・・」

いくら恋敵だとはいえ南を見殺しにはできない。

「さあ、どうする? 俺達も投げ飛ばすかい?」
「そんな・・・・ ひ、卑怯者っ!」
「うるせえよっ! この女(あま)っ!」

いつの間にか立ち上がっていた敏和が由加の背中を思いきり蹴り飛ばした。

「きゃっ!」

由加がたたらを踏んで天王寺の前に膝まづき、その鳩尾に阿倍野の前蹴りが突き刺さった。

「ううっ!」

思わず腹を抱えてうずくまった由加の両手を都島が背後から掴んで左右に広げて仰向けに
ひっくり返し、さらに両脚の上に住吉がまたがって床に十字に張り付ける。

「あっ、何するのっ! 離してっ! いやっ!」

天王寺が由加を見おろしせせら笑う。

「何するのじゃないだろう。さっき言ったじゃねえか、お前は俺達にマワされるんだ。
そんじゃあデカマラ君、さっさと犯っちまいな」


住吉に場所を譲られた敏和はぐっと由加に覆いかぶさり、わざとゆっくりと彼女のブレザーの
ボタンを一つ一つをはずしていく。

「いやっ! 何するのよっ! やめなさいっ! この変態っ!」

そして露わになったカッターシャツの襟首に手をかけるや、一転して今度は荒々しく左右に
引き裂いた。

――ぶちぶちぶちっ!

四方にはじけ飛ぶボタン。一瞬にしてカッターシャツは引き裂かれてぼろきれと化し、
タンクトップが露わになる。さらにそれをストラップレスのブラジャーごと一気に
胸元までたくし上げれば、零れるように白い乳房がプルンと剥き出しになった。

「いやぁぁっぁぁ!」

由加の絶叫がスタジオ内に響き渡る。
さらに敏和は間、髪を入れずにスカートのサイドを探ってホックを外し、ファスナーを緩め、
それをショーツごと鷲掴んで一気に膝頭あたりまで引き下ろし、下半身を剥き出しにする。

「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁ! たっ、助けてっ、上杉先輩っ!」

由加の脳裏に浮かぶ恋しい達也の顔。
敏和はやや小ぶりだが形のいい白い乳房を両手でわしわしと揉みしだきながら、
むしゃぶりついて舐め回し、舌を乳首に這わせて舐め転がす。

「いやぁぁっぁぁぁ!」

そして左手で乳房を弄びながら右手を由加の身体のラインに沿って下半身へと滑らせ、
彼女のまだ薄い花園を探って乱暴に秘裂へと指を挿し入れる。

「ひっ!」

今まで感じたことのない突然の淫らな刺激に、由加の身体がびくんと跳ねた。
その反応に満足した敏和はいったん立ち上がってもどかしげにベルト緩めて制服の
ズボンを下ろして漲り立った怒張を露わにして再び由加に覆いかぶさり、その凶悪な
肉の凶器を彼女の秘裂へとあてがった。
自らの亀裂にあてがわれたそのおぞましい感触が由加に絶望を突きつけた。
犯される──その時、由加の脳裏に浮かんだのは愛しい達也ではなく、その野球のライバルで
頼れる兄の明男でもなく、以前自分を通り魔から身を張って助け、名誉の負傷を負ったクラスの
委員長の顔。

「たっ、助けてっ! 佐々木君っ!」

だが、その悲痛な叫びは届かなかった。
由加の乾ききって受け付けない交接器に、敏和の強靭な肉刃が一気に押し入ってきたのだ。

「ぎゃああああっ!」

気を失いそうなほどの激痛に由加がこの世のものとは思えない絶望の絶叫を上げた。
それは破瓜の衝撃──彼女もまたまぎれもない処女であった。
敏和はすべてを由加の中に埋め込むと、性急に力任せのグラインドで彼女に打ち込み、
情け容赦なく貫き抉っていく。
天王寺がその様子を眺めながら呆れたように言った。

「相変わらず乱暴な奴だ。どうやらあの女も処女みたいだが、あんなバズーカをいきなり
ぶち込まれたら女はあっという間に壊れちまう。やっぱり俺が先に犯っときゃよかったかな」

その時、天王寺の携帯が音を立てた。開いてみると今日はまだ来ていない旭からの連絡だった。

――すみません、遅れちゃって。あと10分くらいで行けると思うんですけど、
もう始まっちゃってますか?
――ああ。いまちょうどデカマラ君が、新しい女を派手に犯してるところさ。
そうだ、今から動画で送ってやるよ

そう言って、天王寺が敏和と由加の肉の交わりに携帯電話の撮影レンズを向けたその時、
突然ガンガンという凄まじい打撃音とともに音楽スタジオのドアが蹴破られ、一斉に男達が
乱入してきた。

「警察だっ! オマエら、動くんじゃないっ!」


                 ※

さかのぼること3時間前。
明星学園野球部1年の佐々木は帰途についた新田由加の姿を見つけ、今日こそ己の真剣な想いを
伝えようと彼女を後を追いかけ、告白のタイミングを計っていた。
だが、突然の雨にカバンに入れていた折り畳み傘を取り出してさしかけている隙に彼女の姿を
見失ってしまい、その姿を探して右往左往していると、偶然由加が4人の男にワゴン車に
押し込まれる現場を目撃して、警察に連絡したのだ。
警察の事情聴取で、福島と名乗る若手刑事に見たことの全てを話した。それも終わりに近づいたころ、
もう一度念を押された。

「それで、他に何か気づいたことはあるかい?」
「いえ、特に・・・・」

そこで佐々木はあることに気づいて、思わず口に漏らした。

「まさか・・・・ でも・・・・」

福島がぐっと身を乗り出して重ねて訊いてきた。

「何か気づいたことがあるんだね」
「いえ・・・・」

逡巡する佐々木。だが・・・・

「本当かい。どんな些細なことでもいいから教えてくれ。彼女の命にかかわることかもしれないんだ」

そう言われて思い切って口を開いた。

「あの・・・・ 犯人達の中に一人見覚えがある顔が・・・・ も、もしかしたら見間違いかも
しれませんけど」
「何だってっ! それは本当なのかっ! いったい誰だ、誰なんだっ!」

それでも佐々木は今自分がしようとしている証言の重さに逡巡し、何度も促されても躊躇した。
だが、記憶は徐々に鮮明さをもって思い出されてきた。あれは間違いなく・・・・

「話してくれないか。彼女の命にかかわることなんだよ」

刑事がもう一度繰り返した言葉でついに佐々木は決心した。

「あの・・・・ うちの学校の3年生でクラス委員を務めている平野先輩・・・・
だったと思います」

先週、各学年のクラス委員だけが集まるホームルーム会議で佐々木は平野敏和と隣席になり、
色々と話していたのだ。さらに、その平野が最近、由加のことを色々と聞き回っていることも
知っていたので、そのことも刑事に話した。
そこで刑事は改めて慎重な言い回しで訊いた。

「その平野という先輩は3年生だと言ったね」
「えっ、はい」
「じゃあ、もしかして・・・・ 浅倉南さんとも顔見知りなのかな?」
「ええ。だって同じクラスのはずですから。だけどそれがどうかしたんですか?
今度のこととまるで関係ないじゃないですか?」
「いや、何でもない。君の証言は非常に役に立ったよ、ありがとう」

もともと南の事件はその計画性と、現場の状況から顔見知りによる犯行の線も有力視されて
いたのだ。

「(これは・・・・ 当たり、かもしれない)」

福島は拳を握りしめ、改めて鶴見に事情聴取の詳細を伝えた。
そこからの警察の動きは早かった。
佐々木の証言を得てからわずか3時間程の間に敏和と阿倍野達の関係を掴み、
あの日に目撃された10代の若い男が住吉輝樹であること、さらに都島の父親が
所有している車が現場で目撃された白のワゴン車であることまで掴んで彼らを手配し、
またたく間に居所を掴んでその現場へと急行したのだ。


郊外の人気のない音楽スタジオの周囲を囲む刑事達。

「こんなところであいつらは・・・・」

鶴見が唇を噛んだ。そこへ福島が戻ってきて近くの目立たない空き地に例のワゴン車が
停められていることを報告した。

「間違いない、行くぞ」

鶴見の号令とともに施錠されていたドアをぶち破って中に侵入した刑事達は、その場にいた
5人の男達を一網打尽にするとともに由加と南の救出に成功し、さらにその1時間後には
逃げていた旭勝義の身柄も確保して、ここにこの淫惨極まる犯行を起こしたケダモノ達は
全員逮捕されたの
だ。


      戻る   作品トップへ  第九章  第十一章へ