109話「潮端の子」より

「岸」。

ひさびさにタカヒロはアルファとここへ来ている。
以前にもここへふたりで来たことがあった。
あれはもう3年……、いや、もっと前になるだろうか。
あの時は、アルファの店が台風で全壊し、それを機に彼女は旅に出ることにしたのだった。
アルファはタカヒロに自分のスクーターを預け、自分が帰ってくるまでの間、乗ってくれるように頼んでいた。

ふたりはあの時と同じく、岸壁に腰掛けて缶コーヒーを啜っている。
しゃがみ込んだアルファは海を眺めながら言った。

「何か、あっという間だなあ。タカヒロ、アクセル開けるのもあんなに怖がってたのに」
「うん」

タカヒロは苦笑してそれを受けた。
あの頃はまだ13か14歳くらいだったか。
当然、バイクに乗るのも初めてで、アルファに教えてもらったのをよく憶えている。
少年だったタカヒロは、それをきっかけに乗り物一般──特に発動機に興味を持つようになり、成長した今ではエンジン開発関係の仕事に就いていた。
アルファは、そんなタカヒロの横顔をを好ましそうに眺めている。

「……それがもうドライブに誘ってくれる」
「うん……」

この日は、あの時とは逆にタカヒロがアルファを誘い、おじさんの軽トラでここまでドライブしてきたのである。
今のタカヒロは、スクーターどころか、もうクルマの運転までこなすようになっていた。
アルファが出稼ぎの旅に出る前は、タカヒロの身長はほぼ彼女と同じくらいだった。
それが今では逆転し、正面から見ればタカヒロの方がアルファをやや見下ろす程度にまで大きくなっている。
少年は青年に成長していたのである。
アルファが隣に座り込むと、それに合わせてタカヒロが言った。

「アルファ……」
「ん?」
「おれさあ、今度、西の方の国に研修受けに行くんだ」
「ありゃま」

突然の宣言にロボット娘は驚いたように少年を見つめた。

「この辺じゃ仕事の知識って言うか……、限界あるでしょ。いい機会だと思って」
「そっか! ……すごいねー、おとなだねー。そっかー」

かつて少年だった彼に向き直ったアルファは嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。
タカヒロはアルファの方へ向き直り、少し照れくさそうに口を開く。

「一応少し悩んだんだけど、決めちゃったよ」
「うん、いいと思う」

アルファは小さく頷き、成長した少年に対して即座にそう答えた。
未来へ進もうとする「弟」を褒め称えるように言う。

「そっか……。じゃあ帰ってきた時は一人前だ」
「……うん」

タカヒロはそう返事したものの、またアルファから視線を外し、海を見ながらつぶやくように言った。

「でも、帰って来ないと思う」
「え?」
「多分……、向こうの人間になっちゃうと思う」
「……」

アルファにとっては意外な回答だったのか、二の句が継げずタカヒロの方を見た。
タカヒロもそれ以上言えず、黙ってアルファを見ている。
生ぬるい風が吹き、周囲からは蝉の鳴き声しか聞こえない。
しばらくの間、言葉もなく見つめ合っていたふたりだが、一呼吸置いてからアルファが姿勢を崩した。
タカヒロの隣に座って少し顔を伏せ、岸壁に脚をぶらつかせながら聞いた。

「……西の方って、どこ?」
「富士山よか向こうだよ」
「遠いね」
「うん」

タカヒロも同じように岸壁に腰掛け、海を見つめる。

「いつ行くの?」
「あさって。きぬがさにあっちのバスが来るんだ」
「急だね……」
「決めたらすぐ動かないと、多分ずっと動かないと思うから……」
「うん……。私もそう思う」

またふたりの会話がしばらく途切れる。
蝉の声がうるさい。
沈黙を破るように、アルファは吹っ切ったような声で言った。

「そっか!」

身体を揺すり、脚を大きくぶらつかせる。

「さびしくなるなあ」
「出来るだけ……ヒマ見つけて来るようにするよ」
「うん」

そこでアルファがまた顔を背ける。
それを追うようにタカヒロの視線がアルファへ向いた。
ほんの少しだけ肩が震えている気がする。

突然にタカヒロの方に振り向いたアルファの顔は、もしや泣いているのだろうかと思ったタカヒロの予想を裏切るかのように笑顔だった。
そして、突然に彼に抱きつく。
アルファはタカヒロをしっかりと抱きしめ、顔をくっつけたまま囁くように言った。

「何て言うかさ……、待つことだけは得意技だから、ねえちゃん」
「……」
「本気で待っちゃうよ」
「うん……」

辺りをまた蝉の声が支配する。

アルファはタカヒロを抱きしめたが、タカヒロはそのままだった。
腕が一瞬ピクリと動いたから、そうしようと思ったのかも知れないが自重したようだ。
そのまま彫像のように固まっていたふたりだが、すっとアルファが身を離した。
そして俯き、顔を上げると意を決したように言う。

「あ、あのっ、タカヒロさ……」
「アルファ……」

ほぼ同時にタカヒロも言葉を発したため、びっくりしたように双方とも口を噤んだ。
そして相手の様子を見ながらまた口を開いたが、これも見事なくらい言葉が重なってしまう。

「あのっ」
「オレっ」

ふたりは苦笑して見つめ合い、声を出して笑った。
アルファが笑い声を抑えつつ言う。

「なんかもう……」

くっくっくっと喉の奥で笑いつつ、タカヒロを促した。

「いいよ、先に」
「あ、いい。アルファの方が先で」
「ん……」

アルファは少しだけテレテレした表情になり、頬を赤らめて言った。

「あのさ、今日……」
「うん」
「も、もう帰る?」
「え?」
「そろそろ暗くなるしさ、あさって出発じゃ色々準備とかもあるんでしょ」
「うん……」
「でも」
「?」

すっとアルファは立ち上がって、夕陽が沈みつつある海を眺めている。
少し眩しそうに目を瞬かせた。
生ぬるかった風に、ほんの少しだけ涼しさを感じた。
少し気温が下がってきたようだ。

「今日は……、うちに泊まらない?」
「……」
「だめ? それともやっぱ何か用事ある?」
「なっ、ないよ」

タカヒロも思わず立ち上がっていた。
口調がややどもりがちになり、夕陽のせいかわからないが、やはり頬が赤く染まっている。

「オレもさ、今、今日、アルファんとこに行ってもいい?って聞きたかったんだ」
「そ、そうなの?」
「うん……」
「家の方は平気? マッキちゃんとも話とかあるでしょ?」
「それは明日でもいいよ。どうせマッキとは明日会うことにしてるし。家を出る前、じいちゃんには「帰らなくても心配いらない、その時はアルファんとこにいるから」って言っておいた」
「そうなんだ……。じゃ、行く?」
「うん」

タカヒロはアルファの肩を抱くようなことはなかった。
アルファもタカヒロにしなだれかかるような真似はしない。
ふたりはいつものように並んで歩いて、原っぱに青空駐車していた軽トラに向かった。

────────────────

「……」

アルファの家……というか部屋に来たのは久しぶりだ。
無意識のうちに周囲を見回してみるが、以前と変わっていないような、それでいて初めて気づくものもあったりする。
ベッドに腰掛けようとしたが、何となくいけないような気がして、椅子に座ってみる。

壁には時計があり、すぐ隣に楽器──確か月琴と言ったか──が掛かっていた。
そう言えば、前にアルファが弾いてくれたことがあったな、と思い出した。

作業机は割と乱雑だ。
店の方は割ときっちり整理整頓され、掃除も行き届いているが、私生活の方はがさつな面もあるということか。
アルファにとっては店も私生活のようなものだが、他人の目がなく完全にひとりの場所では案外ルーズなのかも知れない。

新たに気づかされるアルファの為人に、改めてタカヒロは彼女との距離感を痛感する。
親しいようでいて、実は何もアルファのことなどわかっていなかったのかも知れない。
それとも、人と人との関係などというものは、例え肉親や夫婦、恋人であってもこんなものなのかも知れないな、とも思う。

机の上には、魚貝の図鑑だの絵本だのが開きっぱなしで何冊か置いてある。
小さな本棚らしいものもあるが、そこに収まっている書籍もほとんどが海の生物や魚の本だ。
アルファはなぜか魚が好きらしく、魚をデザインした絵を描いたり小物を作ったりするのが趣味のひとつだ。
今も何か木片で作りかけているらしく、彫刻刀や小刀、棒ヤスリが何本か出しっぱなしになっていて、削りカスも残っていた。
これからの展開を思い、緊張していたタカヒロだが、アルファの「だらしなさ」にちょっと苦笑し、少しだけリラックスしてくる。

浴室の戸が開き、身体にバスタオルを巻いたアルファが少し照れくさそうな顔で出てきた。
バスタオルの下には、恐らく下着は着けていまい。
タカヒロの方も、先に風呂に入っており、パンツを履いただけで肩からバスタオルを羽織っている。

タカヒロは息も出来ず、アルファの姿を見つめている。
アルファはタカヒロに「うちで泊まって」とは言ったが「抱いて」とは言っていない。
そもそもアルファはタカヒロを可愛がってはいたが、男性として見てはいなかっただろうし、親しく手を握ったり身体をくっつけてくることはあったが、あくまで親愛の情を示した「スキンシップ」であって、それ以上の意味合いはなかったはずだ。

それはタカヒロも同じで「近所の綺麗で優しいお姉さん」という憧れはあったものの、「女」として意識することはほとんどなかった。
だが、さすがに年齢を重ねて思春期を迎えるにつれ、どうしてもアルファを「性的」な目で見てしまうことはあった。
そのことを恥ずかしく、またアルファに対して申し訳ないとも思うのだが、身近にこんな魅力的な異性がいたら、健康な男子ならそうした気持ちにならない方がおかしい。
タカヒロが成長するにつれ、徐々にアルファの元を訪れなくなったのも、もしかするとそのせいもあるかも知れない。
同じようにすくすく育っていったマッキのことが気になってきていたこともあるだろうが、あのアルファに邪な気持ちを持ってはいけない、という生真面目なところもあったのだろう。

アルファに対して、はっきりとした「異性」を感じたのはいつのことだったろうか。
初めて一緒に風呂に入った時か。
あれは7歳、いや8歳の頃だったろうか。
井戸水に塩が混じるようになり、アルファが慌てて水道栓を開けに行った時だ。
場所を忘れてしまい、雨の中、ようやく見つけたものの、今度は栓が堅く締まっていてなかなか開けられない。
困っているとタカヒロが来てくれて、何とかふたりで協力してコックを開くことが出来た。
当然ふたりともずぶ濡れで、身体も冷えてきてしまったため、朝だったがアルファが風呂を炊ててくれたのである。

タカヒロは順番に入るものだと思っていたが、先に入っていたタカヒロを追うように、なんとアルファも入ってきたのである。
びっくりしたタカヒロは真っ赤な顔でなるべくアルファの方を見ないようにしていた記憶がある。
「見てはいけない」気がしたのだ。

アルファの方は、タカヒロはまだまだ子供だから一緒に入浴しても問題はないと思ったようだが、もうその頃の彼はそろそろ異性を意識する年齢だった。
アルファがそのことに気づいて反省したのはタカヒロが帰ってからである。
他にも、アルファが身体を寄せてきたり抱きしめてくれることはたびたびあり、その都度タカヒロはアルファの体温や身体の柔らかさを実感し、彼女が女性であることを強く認識したのだった。

あれは2年前のことになるだろうか。
アルファがタカヒロを台の原お社に呼び出したことがある。
その時「タカヒロに見せたいものがある。来て欲しいな」と誘ったのだ。
「見せたいものって何だろう」と思った彼だが、その時「もしや」と若干期待もしたのである。
何を「期待」したのか、と聞くのは野暮というものだ。

その頃の彼はもう職に就き、仕事をしていた。
職場には同僚も先輩もおり、彼らが純情なタカヒロに、面白がって「おとなの世界」について滔々と話して聞かせることも多い。
何かの弾みでタカヒロがアルファのことについて話すと、仲間は大いに関心を持ったようだった。
当然のように猥談となってしまう。

「ロボットの人も人間の男とセックスできるらしいぞ」
「大きな町の風俗店にはロボットの人もいるって聞いた」
「おまえ、そのロボットの子とやったのか?」

聞きようによってはアルファを侮辱しているとも受け取れるのだが、恐らくは軽い気持ちでからかっているだけのようだし、これで腹を立てるのも大人げないと思ったのか、タカヒロは笑って受け流していた。
同時に少しショックも受けていたのだ。
そうか、アルファは女性なのだから自分と──タカヒロに限らず男性相手に──性行為が出来るかも知れないのだ。
アルファは天真爛漫ではあるが女性らしいところもあり、仕草やポーズに「女」を感じさせることも多いのだが、それが「性」に直結することはあまりなかった。
アルファ自身がそうしたことをまったく意識していないこともあるし、噎せ返るような色気ではなく、何となく頬を赤らめるような「爽やかなセクシーさ」だったからである。

でもアルファだって「女」だ。
そこで根本的な疑問もあった。
アルファは「ロボットの人」なのだ。
そもそも性行為が出来るのだろうか──という疑問である。

タカヒロが子供だった頃はともかく、女体の「構造」を知った今は、ロボットの人の「そこ」がどうなっているのだろう、という関心はある。
ロボットの人は人間と性交が可能だとしても、構造上、絶対に妊娠はしないだろうし、受精することだって不可能なはずだ。

では、いわゆる「女性器」なんて「ない」のじゃないかと考えたりもした。
しかし、今こうした状況を迎えるに至って、どうやらそれは思い違いだったらしいことがわかる。
だからアルファは、もしかすると自分にそれを……。
まあ、すぐに「まさかアルファがそんなことはしないだろう」とすぐに打ち消したし、実際そんなことはなかった。
少しだけ失望したが、アルファがタカヒロに見せたかったもの──浜松から飛来してきたナイの飛行機を見て興奮し、そんな気持ちは雲散霧消した。

だが、今日の誘いだけはそうではないと感じていた。
タカヒロの方も、この地を離れることになる前にアルファとの関係にけじめをつけたいという気持ちだった。
もっとも、それは言い訳で、純粋にアルファを女性として「抱きたい」と思っただけかも知れない。
その辺がはっきりとせず、ちょっともやもやした気分にもなっていたが、もう覚悟が決まった。

部屋にはアルファ用の大きなセミダブルのベッドがあるだけで、タカヒロが寝るところは用意されていない。
普通、アルファが友人を部屋に招き、泊まらせる時は、ココネの場合もタカヒロの場合も、ベッドの脇に来客用の布団を敷くのである。

今日はそれがない。

しかも、今のタカヒロに入浴を誘ったのである。
タカヒロがまだ8歳の頃、アルファと一緒に湯船に浸かったことはあったが、あれからもう10年近く経っている。
今のタカヒロは充分に育った青年だ。
さすがにタカヒロの方がそれを断り、先に入浴したわけだが、このことから見ても、もう疑いの余地はない気がした。
アルファはタカヒロの期待通りのことを誘ってきているのだ。
彼女が何を考えているのかはわからない。
タカヒロと同じ気持ちなのかも知れない。
アルファの真意は不明だが、彼女が「本気」らしいことはわかった。

じっとアルファを見つめる。
何となくだが、少しいつもと雰囲気が違っていた。
いつもはリボンでまとめている緑の髪を解いて垂らしているからだろうか。
ジャギーになったミディアム・ロングのアルファは、少しだけおとなっぽく見えた。

ふたりとも覚悟は決めているものの、やはり面と向かうと恥ずかしいらしく、しばらく見つめ合ってからぎこちなく笑った。
先にこの雰囲気を打ち破ったのはアルファの方だった。

「あーあ」

アルファは軽くそう言うと、身体をポンと跳ねさせてベッドに座った。
そしてはにかんだような笑みを浮かべると、少し照れくさそうに

「やっぱり緊張しちゃうね」

と小声で言った。
そして少し俯いて「弟」に話しかける。

「タカヒロさ……」
「うん」
「こ、これから、その……何するのかって、わかる、よね……」
「ま、まあ……」

アルファにとっては、タカヒロは同居していないし肉親でもないが、「家族」であり「弟」だ。
過去にも、寝ているタカヒロを優しく見つめながら「もし弟がいたら、こんな感じかな」と思ったものだ。

ただ違っていたのは、アルファはロボットだがタカヒロは生身の人間だということだ。
アルファは肉体的な成長はないが、育ち盛りタカヒロは心身共にぐんぐんと大きくなっていく。
まだ「弟」という認識はあるが、マッキと一緒に成長していくタカヒロを見ていると「やっぱり違うんだ」という気持ちにもなる。
寂しいし、切ないが、逆に吹っ切れるところもあった。
離れて行く「弟」に対して、何か鮮烈な記憶──「思い出」というものだろう──を残しておきたい。
そういう思いが強くなっていったのだった。
それは別に身体を重ねることじゃなくてもいいのだが、アルファはタカヒロを「感じたかった」のだ。
いつまでもいつまでも憶えておきたかったのである。

タカヒロの方の思いはアルファとは微妙に違っていたものの、そのほとんどは重なっている。
違和感はなかった。
タカヒロにとっては、アルファとの精神的な訣別、あるいは卒業ということなのだ。
無論、今後一切会わないなどということではなく、帰ってくれば真っ先にアルファを訪ねることだろう。
ただ、アルファを異性として、女性として見るということなく、懐かしい家族、お隣さん──そういう見方になっていくのだ。
そして、きっとアルファもそう望んでいるに違いなかった。

「アルファ」
「ん?」
「その……、ちょっと立ってみて……」
「うん……」

何を言われるのかわかった気がして、アルファは頬を赤らめながら従った。
案の定、タカヒロは次にこう言った。

「……タオル、外して……。身体を見せて」
「……」

一瞬だけ躊躇したものの、アルファは言われた通り、身体を巻いていたバスタオルを外した。
ふさり、と、白い大きな布が絨毯の上に蟠る。

「……」

タカヒロは思わず息を飲んだ。

こんなに色白だったのか。

日本で造られたせいか、色白と言っても大理石というよりは象牙色なのだが、透けるように色合いが薄いのだ。
皮膚自体が薄いのか、それとも色素が少ないのかわからない。
そして、随分と肌理が細かく見える。
見ただけですべすべしているのがわかる感じだ。

アルファはやはり恥ずかしいのか、胸を隠すように腕をクロスさせ、股間も見せないように腰を捻っている。
だが、そのお陰でふっくらとした二の腕や、滑らかな両肩がはっきりと視認できた。もちろん、ぷりんと丸い綺麗なお尻もよく見える。

「綺麗だよ、アルファ……」

アルファの恥ずかしそうな、少し困ったような表情がタカヒロを昂ぶらせる。
なおも、もと少年の目は彼女の裸身を突き刺していく。
身体を捻っているからお尻はこっちに向いており、さらに官能的なカーブを描く太腿も、男の目を愉しませている。
すらっと伸びた美脚は、くるぶし、引き締まったふくらはぎ、きゅっと窄まった膝小僧まで愛らしく見える。
さらに、女性らしいふくよかさを見せるものの、その実、まったく贅肉がついていない少し固そうな太腿。
これほどまでに「脚線美」という言葉を痛感できたことはなかった。

そしてお尻。
少しも垂れておらず、グッと上に持ち上がっている。
必要以上に大きく張り出した感はないが、ウェストが思い切り引き締まっているせいで、かなりのサイズに見えた。

アルファは、年齢的には22〜23歳くらいに見える。
18歳を主張するのは苦しいが、25歳を越えているようにも見えない。
タカヒロが17歳だから、5歳くらい年上の女性というイメージだ。

「ア、アルファ……、前、向いて」
「でも……」
「お願い……」
「……」

「弟」に懇願され、アルファは顔を真っ赤にしながら彼の方を向いた。
これからすることを思えば、隠してもあまり意味はない。
恥ずかしいけど仕方がない。
それに、これは自分が望んだこともであるのだ。

アルファは組んだ腕を外して胸を晒したが、右脚を「く」の字に曲げて、何とか股間だけは守っていた。
アルファは顔を背けていたが、タカヒロの目がどこを見ているか痛いほどにわかる。乳房に脚に、そしてお尻に物理的な感触に近いものを感じていた。

(ああ……。見てる……タカヒロが私を……私の身体を……見てるんだ……)

タカヒロの目はアルファの胸──乳房に吸い寄せられていた。
想像していたよりも、ずっとまろやかに張っている。
タカヒロはやんちゃで元気な子ではあったが、常識はあったし根も真面目だった。
だから、アルファをネタに自慰をする、ということもなかった。
頭のどこかで「いけないことだ」という思いがあったからだ。

それでもやはり、彼女の着ている服を見ながら、その下に隠されているしなやかな肢体を夢想したことは何度もある。
白く瑞々しい胸肉は、巨乳というほど大きくはないが、充分に標準サイズはあるだろう。
しかも形が良い。
見ているだけで股間が硬くなっていくのがわかる。

ヒップもだが、バストも決して大きい方ではなく、といって小さいわけでもない。
そう言ってしまうと大したことはないように思えるが、アルファの裸身の魅力はそのバランスの良さであった。
腰がかなり括れているため、サイズがそれほどでなくてもふくよかさを感じさせてくれる。
脚も引き締まっているから、全身がすらりとして見え、グラマラスと言うよりはスリムな体型だ。
妖美な色気というよりは健康的且つ清潔なエロティシズムを漂わせる肉体であった。
贅肉もほとんどないが、筋肉質なわけでもない。
臀部や腿にあまり脂肪が乗っておらず、きゅっと締まった感じになっているのは、アルファがあまり運動するタイプではないからかも知れない。

しかし、よくよく考えればアルファはロボット──作り物なのだ。

人形がいかに均整の取れたなボディラインを持っていようとも、美人画に描かれた女性がどれだけ美しい顔立ちをしていようとも、それは「そういう風に造った(あるいは描いた)」のだから、言ってみれば「当たり前」である。
感動もへったくれもないのだが、周囲の人たちが、アルファをロボットだと意識することはほとんどなく、普通の人間としてつき合っている。
それだけにタカヒロの感動は大きかった。
彼は思わず立ち上がってしまい、そんな美しい女体をうっとりと見つめていた。

「タ、タカヒロ、恥ずかしいからあんまり見ないで……」

アルファは困ったような表情でそう言い、思わず手を伸ばしてタカヒロを止める。

「本当に綺麗だ……綺麗だよ、アルファ」
「……」
「やだ、もうっ……」

食い入るように見つめられる視線に耐えられなくなったのか、アルファは思わず座り込んでしまう。
それでも、もう胸や股間を隠すようなこともなくなった。
そして、顔を真っ赤にしたまま、膝をずるようにしてタカヒロの側ににじり寄る。
見られる羞恥を紛らわすかのように、仕返しとばかりに「私も見る!」と叫んでタカヒロのパンツに手を掛けた。

「あっ……」

もちろんタカヒロは驚いたが、避けるヒマもなく、あっさりと下着を引き下ろされてしまった。
もう勃起していたペニスが下ろされるパンツに引っかかり、ぶるんと大きく弾んで姿を現した。
そこで初めて気づいたが、もうカウパーが漏れ出ていたらしく、パンツの前が少し汚れていた。
かなり恥ずかしかったが、アルファは気づいていないようで(あるいは気にもならなかったのかも知れない)、剥き出しになったタカヒロの股間を観察した。

「へーー、なんかすごーい」

アルファは、それこそ興味津々といった感じでそこをじーっと見つめている。
あまりに近づき過ぎて、ペニスが顔にくっつかないかとタカヒロが心配したほどだ。

アルファはあまり性的なことに関心がある方ではない。
だが色々なことに興味を示したし、特に「知らないもの」に関しては強い興味を抱く性質だ。
男性器もそのひとつだったのだろう。
何しろ自分にはないものだし、良い意味でも悪い意味でも男っ気のない彼女にとっては珍しいものではあったのだ。
事典や専門書で教わったことはあるかも知れないが、まさかオーナーが自分のものをさらけ出して見せたということもなさそうだ。

タカヒロのそこは、もうすっかりおとなの性器であり、ぐうっと大きくそして太く勃起していた。
上へ大きく反り返り、今にもお腹にくっつきそうである。
その上、やや左曲がりになっていた。
亀頭部はわずかに包皮を被っていたが、手で扱けばすぐに剥ける程度のものだ。
ただ、形状と大きさだけは立派だったが、まだ色は薄く、ほとんど肌色っぽいピンク色である。
まだ女性経験はほどんどないのだろう。
もしかすると童貞なのかも知れない。
なぜかわからないが、口の中に少し唾液が湧いてきてしまい、アルファは小さく「ごくり」とそれを飲み込んだ。

「すっごいね、これ……、硬そうだけど……痛くないの?」
「……今はまだ、そんなに……。でも、硬くなりすぎて痛いこともあったよ……」
「へー。どんな時?」
「……」

さすがに答えられなかったが、アルファの方も回答を期待していたわけではないらしい。
アルファはますます顔を近づけて、じっくり観察する。
そう言えば、ずっと昔にタカヒロと入浴した時も見た気がする。
アルファもタカヒロと同じく「見ちゃいけない」と思っていて、何となく目を逸らしていたのだが好奇心には勝てず、ちらっと見た記憶がある。
そんなに明確に憶えてはいないのだけれど、こんなたくましいものではなくって、なんというか、いかにも子供の「おちんちん」という印象だった。

でも、今のタカヒロのそれは「おちんちん」などという可愛らしいものではなく、立派な……というか、貪欲なほどの男性器だった。
顔を近づけたせいか、何となく生臭いような匂いもする。
アルファの顔が側に来たからなのか、タカヒロのそこはさらにぐぐっと大きく反り返っていく。

タカヒロの方は、ほのかな期待を抱いている。
もしかしたら、アルファが「口でしてくれる」のかも知れない。
会社の先輩から色々と入れ知恵されたタカヒロも最近になって知ったことだからアルファが知っているとも思えないのだが、ついそのことを期待してしまう。
ますます雄々しく屹立していく「それ」にすっかり感動したようで、アルファはそこへ手を伸ばした。

「うわーー……、ね、ちょっと触ってもいい?」
「え? い、いや、アルファ、ちょっ……あっ!」

タカヒロが止める間もなく、アルファの白くてしなやかな指がタカヒロのものに触れる。
しかし、すぐにびっくりしたようにその指を離した。

「わ、熱……! ……すごい熱いんだね……それに……本当に硬いんだ……人の身体の一部じゃないみたい……」
「……」

恥ずかしくて返答できないタカヒロを置いてけぼりにして、アルファはまたそこに触れた。
恐る恐る、慎重に指先でちょんと突いたり、指の腹で撫でてみる。
アルファの柔らかい指の腹がサオを優しく撫でると、タカヒロは引き攣ったような声を上げて呻き、思わず腰を引く。
そして指先が軽く、ごく軽く亀頭に触れると、今度は驚いたように後ろへ跳ねて逃げた。

「あ、ごめん、痛かったの?」

アルファは慌てて謝ったが、タカヒロは苦笑して首を振った。

「痛くはないよ……。でも……」

アルファの指が触れられただけで「出てしまいそう」になっただけだ。
そうも言えず、タカヒロは少しバツが悪そうにまた前に出て来る。そ
んな仕草や反応が、なんだかとても可愛く感じられて、アルファは優しく微笑んだ。



      戻る   第二話へ  作品トップへ