双影記 /第6章 -1
時は、遡る。
ソルスを伴ったリファンが、ハソルシャの森を後にした朝より六日前――
リファンに先立つこと一日、通常三日の行程を二日で駆け抜けたドワルは、その夕刻、ハソルシャの館に到着した。
五十騎の配下を率いたドワルの前に、何の抵抗も見せずに門は開かれる。門内に入ったドワルは、取り次ぐ暇を与えず、十騎の手勢を引き連れ、ルデスの寝室まで押し通った。
闇の下りた室内は一基だけ灯された燭台の鈍い光に照らし出されていた。扉の開け放たれる音、乱れ立つ足音に、寝台の上で部屋の主が上体を起こした。
この時、しばらく前にロッカから戻ったルデスは泥のような眠りを貪っていた。
いずれ訪れるであろう王の使者の手前、病いをよそおい床についたルデスだったが、連日、ソルスを看取り続けてきた疲労と、そのソルスをオダンに委ねた安堵、そして思わぬ虚脱感からいつか眠りに落ちたものだった。
威圧するように寝台を囲み立つ武装した男たちの正面で傲然と立つドワルに、冷ややかな視線を向ける。燭台の明かりのなかに白く浮かび上がる端正な顔を睨み据えて、ドワルは一歩を踏み出した。
「王命により、御身をオーコールにお連れする。お起きいただこう」
ルデスに狼狽や動揺を期待していたのであればドワルは完全に裏切られた。全ての感情を殺ぎ落したような無表情さでルデスは頷いた。
「着替えたい。退室してもらおう」
その声音に、ドワルの顔が歪む。
「いや。御身からは目を離すなと言われている。このまま、着替えいただく」
それは、罪人に対すると同じ扱いだった。仮にも、王統に連なるラデール家の当主に対する対しようではない。だが、この屈辱的な扱いにも、ルデスは顔色ひとつ変えようとはしなかった。
「ワルベク。いるか」
静かな声に部屋の外から応えが返る。
「ここに――」
居並ぶものたちをかき分けるようにドワルの後方に立ったワルベクに頷いてみせる。
「オーコールでは王に拝謁しよう。そのように――」
一度退室したワルベクが両腕に衣服を捧げ持ち寝台の足元に立つ。ルデスは夜具を除け床に降り立った。
「後ろを向いても、王命には背くまい」
冷ややかな言葉の皮肉にドワルの顔に怒気が凝る。相対して改めてその威圧感に気圧されるものを感じながら、ドワルは片手を上げた。だが。応じて他のものが背を向ける中でドワル一人はルデスを凝視し続ける。
ルデスは。それ以上ドワルに関らおうとはしなかった。あっさり黙殺し胸元を寛げ足首までを被う白絹の夜着を脱ぎ落した。ドワルの前に晧と輝くばかりの裸身が露になる。
その裸身に、不意に胸奥に騒めくものを覚えドワルは狼狽した。その狼狽を押し隠すように目を細める。
手早く、ワルベクの差し出す衣類をまとったルデスは、最後に佩剣を手に取る。その時素早く前に出たドワルが剣を押えた。
「これはお預かりする」
ルデスは無言で手を放した。
前後を囲まれ廊下に出る。そこに、壁に貼りつくように、青褪めたオキルの顔があった。
「殿‥‥」
擦れ、震えを帯びた声に視線を向ける。
「案ずるには及ばぬ――」
この夜、初めて表情を緩めたルデスが、力づけるように微かに頷いた。
「騒ぐなと――皆に、伝えよ」
この夜、夜道を押してキシュマまで戻ったドワルとその一行は、翌早朝、オリュドを渡河した。
ニルデアの中央を西流してハルト海に注ぐオリュド河は、キシュマより騎行二日程の下流で王都オーコールの東を北流してきたウェーラ河と合流する。
この、オリュドとウェーラの両河、そしてその東をキシュマの南から南西に向って走るエサリア山地に囲まれた南北に長い三角地帯をメルネーの野という。
ニルデア屈指の穀倉地帯として知られるメルネーの緩やかに起伏する沃野は今、実りの季節を迎えて一面に色付いていた。
その、メルネーの野の北辺を東西に走る街道を、往来する人々を驚かせて道を急ぐ一団はこの日のうちにメルネーの半ばを踏破してロセムの宿駅に入った。
明日朝、ロセムを発てば夜にはオーコールに帰着する。後一日の旅程で、だが、ドワルの表情は硬かった。
宿駅で一番上等の宿を占拠したドワルは、最上階の一室にルデスを入れた。これでルデスが逃走を企ててもドワル等に気付かれずにはすむまい。だからといって、ルデスがそれを考えているとはドワルも思ってはいない。だが。ロセムはルデスの所領リクセルへの街道の分岐点でもある。リクセルはロセムから騎行一日。知らせは当然もたらされているはずである。当主が王の手の者に拘引されたと知れば、リクセルの者はどう動くか。
まさか――武器を以て取り返そうとはすまいが――
ハソルシャの館を出て以来、ルデスは沈黙の中に篭もり続けていた。唯々としてドワルの指示に従いはしながら、その淡い双眸はドワルを黙殺する。そんなルデスに、ドワルは苛立ちをつのらせる。自室に引き上げる前に様子を見に訪ったルデスはだが、既に寝台に寝息を立てていた。
王の勘気をこうむった身でありながら、こ奴は、何故こうも落着き払っていられるのか――室内には不測の事態に備えて、終夜、燭台が灯し続けてある。その明かりのなかに浮き上がる青白い顔を睨み据えた。
確かに、今の王は尋常ではない。かつては。あの若さでありながら、その不羈の心は何者の容喙をも許さなかった。それがラデール侯ルデスであってもだ。だがまた、それが誰のどのような意見でも良きものは入れる寛闊さ明敏さを合わせ持っていた。
それ故こその王の信望であったのだ。
だが。今は違う。
ハソルシャより戻ってからの王は、人の意を汲む以前に、人に、それを言わせぬ何かがあった。
それでいて、その視線は常に、ルデスを追い、その、意を求めている――
だから、なのか――
それ程に、与し易しと見たか――初めて見せた、王のルデスに対するあからさまな反目――それを意に介さぬ、他に何か目算を持つのか――
いっそ――と、ドワルは思う。リクセルの者が当主を気遣って武力に訴えさえすれば、それを口実に、一挙にその命、奪えようものを――ドワルは夢想する。今なら――逃走を企てたとして殺害するも可能ではないか――
ドワルがそれをなし得なかったのは、ルデスの武勇が容易にそれを許さぬだろうとの懸念によったが、より以上に、王本来の明敏さを恐れてのことだった。
ラデール侯の屍を前に、王がドワルの言をただ、鵜呑みにするか――今はこじれたといえ、かつてあれほどの信頼に結ばれた二人なのだ。
ともかくも、ドワルには寝苦しい一夜が何事もなく明けた。早々と朝食をすませ宿を発った一行は、だが、すぐにその脚を止めることになった。
長い影を地に這わせ、行く手の街道に一個の騎影が佇んでいた。そして、その騎影の背後にはさらに、街道を横切って長く、百に近い騎影が弓の射程に展開していた。
「何者だ――」
ドワルの隊の先頭で、怒気を孕んだ声が誰何する。
「わたしはダルディ・ラデール。当主と話がしたい。お出しいただこう」
さらに威嚇を含んだ声が応える。
これより三日前。ルデスの妻エディックとの密会にオーコールの公邸を訪れていたダルディは、ハソルシャより戻ったリファンがエディックに復するを聞き、兄ルデスと王の確執を知った。
その夜ついに、リファンは戻らず、代わりに城から通ずるものがあった。
――早暁、ドワル・ヴォルドと手下五十の騎兵がハソルシャに向った、と。
容易ならざる事態に驚き、エディックの制止を振り切ってリクセルに戻ったダルディは手勢を引き連れてハソルシャに向った。
リクセルからハソルシャまでは騎行一日、その途上、前夜既に連れ去られたことを知らせる使者と行き合った。
急遽、隊を返しオーコールへの道を取ったダルディはロセムの手前で野営し、街道にドワルの一行を待ち受けたのだ。
この時、ドワルは隊の中ほどにルデスと並び馬を進めていたが、麾下に命じ前に出た。
「愚かなまねはやめろ。己れらが、少しでも手向かいすれば、己れ等の当主は弓の的になるだけだ。ただちに手の者を退き、道を空けろ!」
毒々しいまでの嘲嗤をこめたドワルの言葉だった。ダルディの位置からも数騎の者が隊を離れ一点に向け弓を絞るのが見えた。その射手を守るように、隊列が動き横に張り出す。
「手向かいはせぬ。話がしたいと申し上げた。それも許さぬというか」
ダルディの声が憤怒に歪む。
「話だと。話したいだけなら何故、手勢を率いた――」
嘲ら笑うように言い放つドワルは顕らかにダルディを挑発していた。それと知りながら、思わず前に出る、そのダルディを制して声が奔った。
「よい。ダルディ。ドワルに従え。この身を案ずるには及ばぬ」
ルデスだった。
ルデスの声はよく通る。通るだけではなく、戦場の響動の中にあって軍を従えるだけの威圧感をそなえていた。平素の低く擦れた声からは予想もできぬ、声に、ダルディが弾かれたように顔を向けた。ドワルの頬が強ばる。
「兄上――しかし――」
騎兵の隊列の中に包み込まれて姿の見えぬルデスに向って声を張る。
「陛下が何を誤解されておいでか知らぬが。話せば、お分りいただけよう」
「しかし。兄上。陛下は兄上のスオミルドへの通謀をお疑いだ。万一――」
「よい。――もし、万一のことになったとして、お前が当主となればすむこと。決して。陛下に背いてはならぬ」
「――馬鹿な――」
「これは――当主としての命令であると同時に、兄としての、願いだ。――ダルディ。リクセルに引き上げよ」
ダルディは凝然と佇む。その、僅かに青褪めた顔を見据える、ドワルもまた、失意に押し黙る。これ以上の挑発は、無益だった。
そこは無人の野ではない。ドワル等に前後してロセムの宿駅を発ったものたちが、ダルディとその一党に行く手を阻まれ、難を逃れて街道を離れ野面のあちこちに佇んでいた。
やがて。ダルディは緩慢に右手を上げる。リクセルに向う街道へと移動を開始した隊が道を明渡すのを見定めて自らも馬首を回らせた。だが、そのまま去ろうとはせず、一人、街道を外れた草地に佇む。その眼前を、再び動きだしたドワルの麾下が隊列を整え通り過ぎていく。隊列の中程に兄の姿を見付けたダルディの視線がその上に釘づけられる。通り過ぎる直前、ルデスは視線を合わせ、微かに笑み、頷いた。
兄上――
力付けるように笑みかけた双眸はいつに変らぬ兄のものだった。だが。青褪め削げ立った頬は――僅かに一月にすぎぬ。最後にリクセルを訪れたときも、ルデスは手傷を負い憔悴していたが、これほどではなかった。
衝撃に、身を凍らせる。ダルディは、喪然と、大地のうねりのなかに遠ざかる後姿を見送った。
何が――
兄上と、王の間に起こっているのか――先に進む麾下のものと合流し、リクセルへと道を急ぎながらダルディは思い沈む。
ルデスがかねてより、数多の者を諜者として他国に送り出してきたことを、ダルディは知っている。それらの者がなしてきたことが、ただ、動静を探るだけではなかったであろうことも。このスオミルドの一件も、おそらくはその一端に違いあるまい。それは、王も承知のことではなかったのか‥‥
いや、ニルデアにあって王こそが、唯一、ルデスがなしているそのような諜報や謀略の全てに通じているはずの存在であるはずだった。だが――
不意にダルディは一月前、ルデスがリクセルに戻ったときのことを思い起す。
果して‥‥そう言い切れるのか‥‥
警護といいながら監視するように随従してきた王の親衛の一隊、その隊士等の目を掠めてリクセルを抜け出したルデス――
もっとも、兄上があの者のもとへ行くときは常に、極秘裡に行動される‥‥
あの時も、リクセルのものですらダルディと腹心たる二、三のものを除いては、当主が密かに姿を消したことを、知らされることはなかった。
いつ習い覚えたか、ルデスは衆目のなかに己れを埋み隠す術を心得ていた。
あれほど目に立つ容姿を持ちながら、僅かに肌の色を染め髪を隠し、衣服を変えるだけで、一介の野人として衆人のなかにまぎれこんでしまう。身をやつしたルデスを初めて目のあたりにしたとき、ダルディですらそれが兄とは気付かなかった。真っ向から視線を合わせ、あの淡い双眸に見据えられて、ようやくに、目の前に立つうらぶれた傭兵が、己が兄と知り驚愕に身を凍らせたことを覚えている。その時、他に人はいなかった。
ラデール家の世子たる身が――
何の座興かと怒り質すダルディに、二十歳になったからには、もう知ってもよかろう、と明かされたその手の駒たる存在――それを知らされることの意味に、ダルディは肌に粟を生じさせたものだ。
病がちであることから当主としての務めをルデスに任せきりであったとはいえ、当時はまだ存命だった父カラフでさえ、それは関わり知らぬことであった。
その身に何かあれば次なる者としてそれを引き継がねばならぬ、そのこと以上に、僅か二才しか違わぬこの兄の、己れとの何という違いか――
思わず喘ぎを漏らしたダルディに、ルデスはやわらかに笑む。
同じようにせよとは言わぬ。人には向き不向きというものがある。ただ、それ等の者のことを、この身がなくなったからといって、置き捨てにする訳にはいかぬ。その労苦には報いねばならぬ。それを――
托したいと告げるルデスに、それ程の信頼を寄せられたことに、半ば呆然と頷いたダルディだった。
あれから、もう十年近く経つ。
あの時、
何故、ラデール家が、兄上が、自ら身をやつしてまでそれをせねばならぬか――問い重ねた、ダルディには諜者を使うことさえが卑劣な、武人にあるまじきことだった。それを、騎士として、将として既に並ぶなき兄が――理解しがたかった。
ニルデアには他に、このようなことなそうというものがいない。だが。それによって戦いを避け得るなら――易いものよ――
応えるルデスには何の気負いもない。ダルディはただ、唖然とする。諜者を他国に放つはニルデアばかりではない――その言葉に。
そのような者等に、ラデール家とのつながりを知られてはならぬ者もある。事の成否ばかりか、その死命をも制する。ルデスは醒めた目を向ける。人任せにはできぬ。故に、自ら、身をやつして出向く。それだけのことよ――と。
だが‥‥あの者の場合はそればかりでは、ない‥‥
ダルディはその姿を脳裏に思い描く。
一時期、傭兵としてリクセルの館に入り込みルデスに見出され側近く仕え、いつのまにか姿を消した、一人の男を――
灰褐色の髪、灰色の双眸、長身とはいえルデスほどではない、その痩躯は、どこといって目立つところのない、全身が土埃にまみれたといった印象の残るだけの、変哲もない男だった。
エリ・フリギル・エリ‥‥あの男の、何があそこまで、兄上をとらえ得たか‥‥
諜者としては最も重用され、ルデスをして得難い者とまで言わせたその男を、再び、オーコールの公邸に兄の情人として見出したときの衝撃は軽いものではなかった。
六年前。ルデスが王都に居を移しエディックを妻に迎えて半年程が過ぎた頃だった。
ダルディの知るかぎりルデスはかつて男はおろか女にさえ興味を示したことがなかった。その身分の上からも、もし望めば情を交わす相手に不自由はすまいルデスに浮いた話しひとつない、それは、ダルディを訝しがらせるに足る、禁欲的とさえいえる、過ぎた淡泊さだった。
リクセルにおいてさえその関心を引こうと密かにはたらきかけていたものは一、二に止まらなかったのだ。それが――
迎えたばかりの奥方には見向きもせず、日々、男と情を交わしておられる――
リクセルまで聞こえてきたその噂だった。
オーコールとリクセルにと居所を分かち、身近く接することのなくなった半年ばかりの間に何があったか。己が知る兄の行いとは思えなかった。そのあまりの信じ難さに、
もし真なら、諌めねばならぬ――
オーコールに駆付けた。その脚で家士の取次を待たず訪った寝室に、同衾する二人を目のあたりにし身を凍らせた、ダルディが辛うじて声を絞った。
何故‥‥その者が‥‥
その言葉に、ルデスは陶然と目を閉ざし己が胸に男の頭を抱き寄せた。
人の思いとは――度し難いものよ――と。甘やかな吐息のうちに呟くルデスに、それ以上はいたたまれず、ダルディは床を蹴って退室した。
あのことがなければ‥‥
今になってダルディは思う。わたしは、義姉上とは何事も、なさなかったであろう、と。
婚礼の席で初めて目にして以来、エディックに向う密かな思いを抱き続けていたダルディだった。そのダルディにとってルデスのなしようは許せぬものだった。
どのような思いで、義姉上は‥‥
お慰めせねばならぬ――という、それはだが口実にすぎなかった。心の堰は切られてしまった。止めようのない思いに押し流されるままにいつか密会をかさねていったダルディの心に、だが、微かな疑念が兆したのはいつのことか。
義姉といいながら、エディックはダルディより二才年下だった。義姉上と呼ばれることを嫌うエディックをいつかエデュと呼ぶまでに互いの仲が深まった頃、ルデスの傍らから男の姿が消えた。二人の噂を耳にしたときより僅かに三月目のことだった。それを、密会の床に聞かされたダルディの血が、凍った、その時だったか――
「あの者は‥‥どうされた‥‥」
ダルディは質さずにはおれなかった。
オーコールに移ってからも月に一度は訪れるルデスと、リクセルの野に馬を駆っているときのことだった。
激しく起伏する丘陵地帯は昔から野生馬の棲息地として知られていた。この地に広大な牧場を開き多くの名馬を生み出し、産地としての名を高めたのはルデス等の祖父セイカーだったが、それは今なお引き継がれラデール家の富の一端を担っている。
その、無類の馬好きで知られたセイカーの血を受けたゆえでもなかろうが、ルデスもまた、こよなく馬を愛した。
強い風の吹き渡る丘に馬を並べ息を入れながら、視線は野に放たれた馬群の動きを追う、ルデスは半ばうわの空で応える。
「もとより、諜者として有為のもの。いつまで身近く縛り付けておく訳にはいかぬ。これからは、必要とあれば自ら出向くよりあるまいな――」
吹きなぶる風に薄く上気した横顔を凝視する、ダルディは執拗だった。
「兄上は‥‥それでよろしいのか‥‥あれほどに寵したものを‥‥」
人の思いとは度し難い――かつてルデスが言ったそれを、今、身をもって知るダルディのその語調に、視線を向けたルデスがからかうような笑みを含む。
「お前から、そのように言われようとはな。苦々しく思っていたのであろう。何故喜ばぬ――」
その言葉にダルディの頬が強ばった。ルデスが笑みを消す。
「すまぬ。下らぬ言い草だ。他のものはどうあれ、お前がこの身を案じていること、疑ってはおらぬ。だが、あれには働いてもらわねばならぬ。止むを得ぬ――」