竹に雀。
まるで家紋のような校章を象った門をくぐる。真っ白な校舎。私と同じ紺色の制服に身を包んだ生徒たち。
あまりに美しいコントラストに呆けていたら、前を歩いていた幸村くんが声をかけてきた。
「 殿?いかがした 」
「 う、ううん・・・綺麗だな、って 」
「 綺麗? 」
「 ・・・うん 」
首を傾げた幸村くんの後ろ髪が揺れた。何でもないの、と断って、もう一度2人で歩き出す。
幸村くんは自分のクラスに行く前に、私を職員室まで案内してくれるという。同じクラスになれたらいいな、
とは思うけれど・・・ううん、そこまで贅沢は言わない。同じ家に住んでいる人が、ここまで親切にしてくれる
のは、初めてだから。学校の友達は、自分から作らなきゃ。
よく陽の射す廊下を歩きながら、周囲の景色に目を奪われていた私。幸村くんが止まったのに気づかず、
彼の背中にどん、と当たった。
「 きゃ! 」
「 あ、す、すまない・・・その、大丈夫か? 」
「 う、うん。どうした、の? 」
「 ・・・・・・これを、そなたに 」
おず・・・と差し出されたそれは、オレンジ色の携帯電話。受け取って開いてみると、優しい柄の画像の上に
今日の日付と時刻表示があった。いかにも、な女の子仕様。もしかして、これ、私に・・・?
「 お館様から、そなたに、だ 」
「 ・・・お館様が? 」
「 左様。某と登下校するのに、必要になるだろうと、昨日の夜お預かりしたのだ。
某と佐助と、道場の連絡先を登録してある。何かあれば連絡されよ 」
「 え・・・いいの?れ、連絡して、迷惑にならない?? 」
「 迷惑? 」
「 だって、その・・・私と 」
私と『 友達 』なんだって知れれば、幸村くんが嫌な思いをすることもあるかもしれない。
例えば『 彼女 』・・・がいるとして。不必要に女の子と連絡取ってたら、嫌な気分にさせる
かもしれない。
すると幸村くんは、ふっと微笑んだ( あ、柔らかい笑顔 )
「 殿は『 かもしれない 』ばかりだ 」
「 え・・・っ 」
「 嫌な思いなど、するものか。お、女子は苦手だから・・・『 彼女 』などおらぬ。
そなたはお館様同然。ならばこの幸村、どこにいても、そなたを護る 」
「 幸村くん・・・ 」
「 それに・・・昨日、携帯電話を預かってから、某、ひ、必死に入力したのだ!
機械相手は苦手で・・・深夜まで、かかってしまった・・・ 」
幸村くんが朝寝坊したのは、私の携帯に電話番号やアドレスを入力してくれたから?
一生懸命、不器用な彼なりに頑張ってくれた姿がありありと想像できて・・・思わず、笑ってしまった。
「 ・・・ふふっ、あははは! 」
「 、殿? 」
「 ありがとう・・・ありがとうね、幸村くん。必要な時、連絡するから 」
「 う・・・うむ!! 」
頬を赤くした彼は、大げさに何度も頷く。そして、しばらく歩いた先に見えた職員室の看板を、指差した。
もう一度お礼を言って頭を下げると、幸村くんは踵を返して、自分のクラスへと向かった。
走り去っていく姿を見ながら、自然と口元が緩んでいく。
幸村くんは、私のこと、嫌いなわけじゃなかったんだ。
それを知ったら、すごく前向きに思えてきたんだ。クラスが違っても、幸村くんのいる学校で頑張っていける
ような・・・勇気を、お館様と幸村くんにもらったような気がする。
私は、意を決して・・・職員室の扉を叩いた。