01.Song of start ending

私のクラスは4組。幸村くんは、3つ隣の7組。

自己紹介を終えて、用意された席について、無事に午前中の授業を終える。
そして、昼休みの鐘が鳴り・・・さて、どうしよう・・・。
ポケットにしまっていた携帯を、思わずスカートの上から握り締めた。

幸村くんに・・・一緒にお昼食べて、とは連絡できない、よね。

最初のお昼休み、というのが一番居心地が悪い。季節外れの転入生に、一緒に食べようよと 声をかけてくれる女の子グループがあるだろうか・・・ううん、せっかく勇気、もらったばかりじゃない。 私から声をかけて、友達、作ろう!
佐助さんの作ってくれたお弁当を抱きかかえて、動こうとしたその瞬間だった。
後ろから衝撃を受けて、お弁当の上に乗せていたお箸セットが音を立てて転がった。



「 すまない、怪我はないか? 」
「 う・・・うん、大丈夫 」
「 そうか・・・あ、拾おう 」
「 え、いいよ!私のお箸だし・・・ 」



こがね色の髪。さっき、教室の端にちらりと見えた人だ( あまりに目を引く容姿だったので、覚えてる ) 落ちた箸を拾おうと、彼女がしゃがみこんだので、私も慌てて手を伸ばす。 ところが、箸袋に触れようとした彼女の手が・・・びくりと震えて、止まった。



「 ・・・、と言ったか 」
「 あ・・・うん、、です 」
「 お前、武田道場の者か!? 」



静かだったけれど、明らかに怒気を含んだ声音。え、私、何か怒らすようなコト、し・・・ちゃったの? た、武田道場の者・・・それはお館様の身内という意味だろうか。
金髪の彼女は、素早くお箸セットを拾うと机の上に置いた。そして、抱きかかえていたお弁当もひったくると、 その隣にとん、と置いた。私は、彼女の行動理由がわからなくて、立ち尽くす。



「 この箸袋にある家紋、間違いなく、武田家のもの 」
「 あ、の・・・っ! 」
「 ・・・ついてこい、転入生 」



逃がさないように、彼女は私の手を強い力で握り締めると、教室の外へと連れ出した。 他のクラスメイトは、私と彼女がそんな険悪なムードになっているなんて気づかないだろう。 彼女は、その怒気を私にしか見せていないのだから。肝心の私は、動揺と恐怖で声も出ない。
彼女に連れ出されるまま、クラスの喧騒を抜け出した・・・。






連れて行かれたのは、屋上だった。
視界いっぱいに広がる青さに、一瞬だけ心が癒されたけれど。 次の瞬間、掴まれた腕を軸に地面に転がされた。



「 あぁ・・・ッ!! 」



突然の痛みに、短い悲鳴を上げる。ごん、と鈍い音がして側頭部を何かにぶつけた。
どうして・・・私、一体、何を・・・!
自分の行動を振り返る間もなく、彼女はスカートが覆っていた腿から苦無を取り出すと、 切っ先を私に向けた。



「 私は上杉道場のかすが。相手になってやる、来いッ! 」



上杉、道場、の・・・かすが・・・?
視点が定まらず、頭が働かない。転んだ拍子にどこか打ったのだろうか・・・。
かすがと名乗った彼女が、柔らかな肢体を捻って、地を蹴る。 瞬きをしている間に、光っていた切っ先が目の前に迫っていた。刃に映った、自分の顔が歪んでいた。

・・・ギィ、ン・・・!!

聞き慣れない、つんざくような音がして。二度目の瞬きをしている間に・・・大きな背中が、 刃と私の間を遮った。



「 殿っ!!大事無いか!? 」
「 ・・・ゆき・・・むら、くん? 」



ふわりと目の前を舞ったのは、今朝も追っていた後ろ髪のひと房だ。
幸村くんは2本の鉄棒のようなモノで、かすがさんの攻撃を凌いでいる。 くっ・・・と諦めたように、武器の上から幸村くんの身体を押した反動で、元いた位置に戻って距離をとる。 私は、痛む身体をゆっくり起こす。心配そうに振り返った顔・・・ああ、やっぱり幸村くんだ ( ・・・ほっとして、涙が出そうだった )



「 どうして・・・ここ、に? 」
「 殺気が満ちたのを感じた 」
「 クラス、離れてる、のに・・・ 」
「 今日は殿の転入初日だった故、特に気を張っておった。だから、わかった 」
「 ・・・初日?それが、何かかん・・・ 」
「 関係あるのだ。道場の者と知れただけで、奴のように挑んでくる輩がいたり、な 」
「 真田幸村か。今はお前に構っている暇はない、そこをどけ! 」
「 殿は、お館様の遠戚。武人ではないことくらい、お主にもわかろう!! 」
「 何を・・・! 」
「 幸村くん・・・やめて・・・ 」



もしかして・・・お館様が、幸村くんに私を任せたのは、こういう理由だったの?
でも、だめ。かすがさんは女の子だよ、幸村くん、怒鳴らない、で。

2人を止めたいのに、身体が動かない。 つ・・・と何かが額を伝う感覚があって、それが片目を覆うと同時に、かばうように瞼が落ちた。



「 ・・・殿!?殿!! 」



幸村くんが、私を呼んでいるのに。

応えることなく、私の『 意識 』も暗闇に沈んでいった・・・。