『 争いごと 』は嫌い。
傷つけあうことも、傷つけられるのも。
どんな理由があろうと、傷つけられて痛みを感じない人間なんて、この世にいないんだから。
それはきっと・・・私が、必要以上に『 臆病 』だから、なんだろうか・・・。
「 ・・・・・・・・・ 」
「 、殿?気がつかれたか 」
ゆっくりと開いた視界に、幸村くんの茶色い髪が映った。ちょっとほっとしたような表情を浮かべている。
彼の瞳に映った私は、額に大きなガーゼを貼っていた。
・・・ああ、そうか・・・屋上で。
「 気分は悪くないでござるか?怪我は手当てしてあるが・・・ 」
「 ゆき、むら、くん・・・ 」
「 何でござるか? 」
「 ごめんね・・・ 」
「 ・・・え? 」
『 臆病 』にならざる過去があったとしても、それを言い訳にしちゃ、いけない。
わかってるのに、足が竦んで動かない時がある。
幸村くんと、かすがさんが対峙した時だって。私が最初からお館様の元へ引き取られた理由を話していれば、
2人が睨みあうことなんて、なかったのに・・・。
何故私が謝り出したのかわからない、というように、彼はきょとんとしている。
そこへ、かすがさんが入ってきた。
「 ・・・気がついたんだな 」
「 ・・・かすが、さん 」
「 本当にすまないことをした。全て、真田から聞いた 」
ぺこ・・・と下げた頭を見て、慌てて身体を起こそうとする。
殿、いきなり起きると
危ないですぞ!と、幸村くんがよろめいた私の背中に手を当て・・・ようとして、おろおろと躊躇っていた。
( あ・・・そう言えば、幸村くん、女の人苦手だって言ってたっけ )
その時、すっと襖が動く。細い身体に、顔立ちが非常に整った・・・それは、美しい人が現れた。
起き上がろうとしている私を見て、優しく微笑む。
「 めがさめましたね。どこかぐあいのわるいところはありませんか 」
「 あ・・・あの・・・ 」
「 わたしは、うえすぎです。かすがが、おせわになりましたね 」
「 上杉・・・道場の? 」
「 はい。ここは、そのうえすぎどうじょう、なのですよ 」
「 学校の医務室だと問い質されるからな。その点、謙信様なら医学の心得もある。
転入早々で悪いが、今日は3人とも早退扱いだ 」
道理で・・・見たことない景色だと思った。純和風な造りは、武田道場と同じだけれど。
きょろきょろと物珍しいそうに辺りを見渡す私に、上杉道場の主は、くすくすと笑う。
その隣にいたかすがさんが、、と私の名を呼んだ。
「 武田道場の者だというだけで、仕掛けてすまなかった。
見境なく突っ走るのは、私の悪い癖だな・・・この通り、許してくれ 」
「 あの、や、やだ、頭、上げて、下さい! 」
「 厚かましい頼みかもしれないが、私と・・・と、友達になってもらえないだろうか 」
「 ・・・かすが、さん・・・ 」
「 かすが、でいい。同じ、クラスメイトなんだから・・・ 」
、と呼んでくれた時の、かすが、の、顔が少し赤かった。嬉しくて・・・頬が緩む。
謙信さんも頷いて、このとおりまっすぐなこですが、よろしくおねがいしいますね、
と私に笑いかけた。ふと、背中を支えるように、そっと置かれた手に気づいて振り返ると。
隣の幸村くんも、とても穏やかな顔をしていた。
「 ・・・よかったですな、殿 」
私も・・・みんなの笑顔に包まれて、きっと最高に幸せな顔をしていたと、思う。