「 よォ、・・・よく来てくれたな 」
真っ青な着物を着こなして、部屋の入り口に立った長身の男性。
その顔に浮かんだ不適な笑みには・・・見覚えがあった。
「 ・・・とっ、図書室、の・・・! 」
「 Yes。覚えてくれたんだな、Honey 」
「 は、はにー!? 」
まったく動じないていないように、彼は私の前に立つと身体を屈めた。
あの日と同じように、真っ赤になった顔にそっと手を伸ばす。指先が触れるか触れないか、という
ところで、彼の手を横から掴む別の手があった・・・小太郎さんだった。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・小太郎、さん?? 」
「 風魔・・・俺は、今、お前のMasterだぜ 」
触るな、とでも言いたげに首を振った小太郎さんを、諌めるように彼は睨んだ。マスクをした小太郎さんの表情は読めない。
けれど、しばらく迷った末・・・小太郎さんは手を放した。隻眼の彼の指先が伸びて、愛しそうに私の頬を撫でる。
見つめ合ったまま、私は彼の為すがままになっていた。
「 手荒な真似をしちまって悪かった。けれどあの日”See you”って、言ったろ? 」
「 は・・・はい・・・そういえば、確かに 」
「 どうしても逢いたかった。まさか、隣家に住んでるとは思わなかったが 」
「 伊達・・・さん、というお名前だったんですね 」
「 そういや名乗ってなかったな・・・俺は伊達家の、政宗だ 」
「 ・・・もしかして、同じクラス、の?? 」
「 ああ、それもお前のことを調べて知った・・・奇縁だな 」
ああ、かすがの言ってた『 伊達 』というのは、この人のことだったんだ。
なるほど・・・かすがとは合わない人種かも、と思ったら、吹き出しそうになった。
私の表情が柔らかくなったのを見てか、伊達くんの顔も綻ぶ。
そこへ片倉さんが、お茶を持って入ってきた。伊達くんがいるのを知っていたんだろうか、
2人分のお茶を配り、私の前にだけ小さな花形のお饅頭を置いてくれた。お礼を言うと、
彼はは小さく頭を下げる。そして伊達くんの耳に、何やらそっと耳打ちをしていた。
伊達くんの眉間に・・・小さく皺が寄る。
「 Hum...さすがに、行動力だけは早いな・・・おい、! 」
「 はっ、はいっ!! 」
「 これからちょっと屋敷が騒がしくなる。お前は、風魔と一緒に隠れてろ 」
「 ・・・隠れる?? 」
どこに、誰から?
そもそも、他人様の家にいて、隠れなきゃいけない理由って・・・??
「 あの、そろそろお暇しようか、な・・・と 」
「 いや、その必要はねえ。とにかく、風魔といろ。いいな? 」
伊達くんの強い口調には、緊迫感が含まれいてる。
きっと、彼にとって何かしら好まないことが起ころうとしているのかも・・・。
うう、私まで緊張してきたっ!
無意識に握り締めていた拳に、温かいものが触れる。隣にいた小太郎さんが、さっきと同じように、宥めるように
掌を重ねている。泣きそうな私の瞳を見て、ひとつ頷く。
・・・うん、よくわからないけれど。しばらく、小太郎とさんと一緒に隠れています。
( 落ち着いたら、きっと伊達くんか片倉さんが説明してくれる・・・よね )
「 小十郎!野郎どもを集めろッ!! 」
「 はッ!! 」
「 派手に騒ぐぞ、Partyの始まりだァ!!! 」
血気盛んに、伊達くんが開戦宣言をするのを見て。
私は小太郎さんに連れられて、伊達家の・・・さらに奥へと続く、廊下を渡った。