02.Do you believe in MAGIC?

どこをどう歩いてきたのかわからない。
ただ、小太郎さんに手を引かれて、無我夢中で歩いて、階段を上ったり降りたりした。 初めて入るお屋敷だから、道がわかっていないから・・・って、だけじゃない。 見た目よりも随分広くて、いろんなところに仕掛けやら分岐点があった ような気がする・・・( まるで忍者屋敷みたい ) 知らない場所をグルグルと連れ回されて、あっという間に疲労してしまった。



「 はあ、はあ・・・っ 」



息の上がってきた私の手を、小太郎さんが放す。あ・・・迷惑に思われたかな。
と思ったら、彼の腕が私の背中に回され、足元が宙に浮いた。横抱きしたまま、小太郎さんは廊下を走る。 こ・・・これは、世間で言う、おおおお姫様抱っこ、というヤツ、では・・・っ!!( きゃー! )



「 こ・・・小太郎さんっ、は、恥ずかしいです!離して下さい!! 」
「 ・・・・・・ 」



横に首を振ると、彼は身体をぐっと屈めて高くジャンプする。2人分の身体は、重力にしたがって落下する。 悲鳴は上げなかったけれど、口があんぐり大きく開いた( 私、ちょっとマヌケだ・・・ ) 降り立ったのは、どうやら蔵の屋根らしい。小太郎さんが手で押すと、あっさり窓は開く。 私を抱いたまま、狭い窓から器用に侵入して、窓を元のように閉めた。

少しだけ、埃のにおいがする。収納されている木箱やダンボールには、大きな白い布が掛けられていて 中身はわからない。小太郎さんは、隅に空いているスペースを見つけると、私を床には下ろさず、 座った自身の膝に下ろされた。
もしかして、洋服が汚れたりしないように・・・とか、気を遣わせちゃったのかな。 そんなの大丈夫ですよ( だって庭掃除していたくらいだし )そう言いたかったのに、小太郎さんは 自分の唇に人差し指を立てて、私に見せた。

喋るな・・・ってコト、なのかな?

私は( 申し訳ないけれど )小太郎さんの膝に乗ったまま、辺りを見回す。 一体・・・このお屋敷で、何が起こっているんだろう。伊達くんも片倉さんも、私には何も教えてくれなかったけれど。 小太郎さんに聞きたいけれど・・・喉元の傷を目の前にしてると、勝手な憶測だけれど・・・ 声が、出せないのかもしれないし( それを問うような神経も、持ち合わせていない )



「 ・・・っ! 」



膝が揺れて、バランスを崩す。そのまま小太郎さんの胸元にダイブする形で、抱き締められた。 ずいぶん・・・力を込めて、抱き締められたので・・・。顔を上げて、彼の表情を確認することはできなかった ( その前に・・・マスクで伺えないのだけれど )



「 ・・・・・・ 」



・・・不思議。小太郎さんに抱き締められてるのに、私、すごく安心してる。
今日初めて逢ったヒトなのに、ずっと・・・護られていた、ような気分。






幸村くんに抱き締められた時は・・・もう、信じられないくらいの熱で、頭も身体もいっぱいになったのに・・・。 そうだ、私、幸村くんに謝らなきゃ。あの時・・・叫んだ幸村くんの顔、ずっと目に焼きついて離れない。

『 殿! 』

置いて行かれた子供のような瞳。すごく寂しそうだった。なのに・・・私は、そんな彼を突き放してしまったんだ。 ヒトとヒトの距離を縮めるのは難しい、けれど離れるのはこんなに簡単なのだ。






思い出して泣きそうになっていると、小太郎さんの両手が私の顔を掬い上げて 『 どうした? 』と尋ねているようだった。 小さい声なら大丈夫かと思い・・・小太郎さんに話してみることにした。 聞いてくれるか尋ねてみると、彼は無表情のまま小さく頷いた。私は小太郎さんの胸に甘えたまま、語りかける。



「 大切なヒトと、喧嘩をしてしまったんです。それも、私の、すごく身勝手な理由で 」
「 ・・・・・・ 」
「 酷く傷つけてしまった。謝りたいのに、なかなか、きっかけが見つから、なくて 」
「 ・・・・・・ 」
「 ごめんって・・・っ、ちゃんと仲、直りして、うっ、また一緒に・・・っ!! 」



海辺の道を、たくさんお喋りしたり笑ったりしながら・・・彼と、歩きたいんです。

溜まらず泣き出す私の背を、子供をあやすようにそっと撫でる手。声出したらダメなのに、泣いたりしたら いけないのに。小太郎さんは、またぎゅっと抱き締めてくれて、どこからか綺麗に折りたたんだハンカチを取り出す。 ハンカチで拭いていると、彼は私の手に指で言葉をくれた。



『 の想いは、きっと伝わる。俺が保障する 』



・・・そうかな。幸村くんに伝わるかな。
顔を上げると、小太郎さんの口元が、少しだけ持ち上がっていた( ・・・あ、っ )
うん・・・小太郎さんの言葉を信じよう。今日帰ったら、幸村くんにちゃんと謝る。それで、また一緒に 登下校してねって言うんだ。



背中に回っていた小太郎さんの腕に、突然、力が入る。
びっくりしている間に彼は私を抱えたまま、侵入した窓から離れるように、跳躍した。

瞬間、窓が音を立てて割れ・・・さっきまで私たちのいた場所に、黒い影が転がった。