階下まで、割れたガラスの細かい破片が降ってくる。
小太郎さんが、私に当たらないように避けてくれていたけど。彼の肩にひとつ乗っているのを見て、
慌ててそっと摘んで床に落とした。ありがとう、というように彼が視線を交える。私も少し微笑み返して・・・
飛び込んできた黒い影の声に、視線を上げた。
「 いったた・・・久々で加減を間違えるとは、俺様ってば大失敗・・・・ 」
「 ・・・佐助、さんっ!? 」
むくっと起きた長身は・・・佐助さんだった!
普段はわからない隆々とした筋骨。身体にフィットした黒装束を纏って、赤毛の頭を掻いている・・・
まさか、今飛び込んできたのって。
「 だ、大丈夫ですか!?佐助さん!! 」
「 おーっ、ちゃん!ちゃんこそ、大丈夫?助けに来たから、もう安心しな 」
「 助、け・・・・・・え? 」
助けに来たって、一体・・・どういうこと?
私は、まあ、半分自分の意思じゃないとはいえ、此処にいるんだし。
殺気丸出しの佐助さんに、応えるように小太郎さんの身体に力が入っているのがわかる。
ま、待って・・・!話が、全く見えないよ!!( どうしたら・・・! )
佐助さんに話を聞きたいけれど、小太郎さんの腕にどんどん力が集中していて、どんなにもがいても抜け出せない。
それが逆効果だったのか。佐助さんの瞳が、細くなる。
「 我が家のお姫さんを攫うとは・・・竜の旦那も、相手が悪い。
武田道場を敵に回して、傷ひとつなく事が済むと思うなよ・・・風魔ァ!! 」
「 ・・・・・・ 」
「 さ・・・す、けさ・・・っ! 」
「 待ってな、ちゃん。コイツを片付けて、すぐに開放してやるからなっ!! 」
佐助さんは、両手に持っていた大きな手裏剣らしきモノを、交差させて投げた。
小太郎さんは飛んで避ける。狭い蔵の中だというのに壁にぶつからず、綺麗に弧を描いて主の手の中に納まった。
続いて小太郎さんが、私を抱いたまま蔵の外へと出ようとするのを、追ってきた。
2階からジャンプして、華麗に着地する様は、まるで猫のようにしなやかっだった。
「 逃がすと思うかっ!? 」
「 ・・・・・・ 」
「 や・・・やめ、て!佐助さん!! 」
やめて、やめて!!これじゃ、かすがの時と同じだよ!!
どうして争うの?佐助さんも小太郎さんも、私にとっては大切なヒトなのに。
小太郎さんが庭へ走るのを追いかけて、佐助さんも陽の下に出た。
急に射した光に顔を逸らしていたら、頭上からの衝撃が、私たちを襲った。
薄目を開いてみれば、佐助さんの手裏剣を、小太郎さんが篭手で受け止めている。両者共、一歩も引かぬ力比べ。
銀に光った篭手と刃に、光が疾る( これ・・・ホンモノ!? )
「 ・・・さっさとちゃんを置いて、退散しろよっ!
これ以上相手をすると、軽い怪我じゃ済まなくなるぜ。手加減する気ねえし 」
「 ・・・・・・ 」
「 佐助、さんっ!やめて!!こ、たろ、さんも!! 」
「 ちゃん!? 」
「 ふ、たりが!争う、ことな、んてないんです!私、自分の意思、で!此処に!! 」
様子が違うことに気づいたのか、佐助さんは跳躍して攻防を解くと、距離を置いてこちらを見ている。
小太郎さんも、私の必死にもがく様を見て、慌てたように腕の力を緩める。ようやく地面に脚を下ろし、
私は、小太郎さんをかばうように両手を広げた。
「 佐助さん、私、攫われてなんかいません。自分の意思で、此処にいるんです 」
「 ちゃん・・・それじゃ、本当に伊達家に嫁入りするってのかい!? 」
「 ・・・よ・・・め、いり?? 」
「 だって、竜の旦那から『 俺の花嫁を取り返したきゃ、かかってこい 』って・・・
脅迫状まがいの書状が隣家から届いて、俺様たち、慌てて来たんだ 」
か・・・片倉さんは、道場に私がお邪魔していることを伝えてもらうと約束してくれたけれど。
どこをどうひっくり返したら、そんな書状を送ってしまったというんだろう・・・。
途方も無い話に、頭を抱えて蹲りたくなった時・・・だった。
「 殿ーっ!!どこでござるかーっ!!! 」
・・・私を必死に呼ぶ『 彼 』の声に、心臓が、跳ね上がった。