02.Do you believe in MAGIC?

だんだん近づいてくる足音に、胸がパンクしそうなくらい、ドキドキしてる。

幸村くんにちゃんと謝りたいって思ってたけど、いきなり謝るのはまずいよね・・・とか。 だけど、喧嘩したままなのに顔を合わせ辛い・・・とか。
そんな考えも頭の中にあったけれど、幸村くんの『 声 』を聞いた時に・・・反転してしまった。 小さな『 こだわり 』なんて、本当の気持ちの前じゃ、ちっぽけな問題。

私・・・幸村くんに、逢いたい・・・・・・そう、逢いたかったんだ!



けれど、足音はひとつじゃなかった。



「 殿・・・殿ーっ! 」
「 Hey、幸村!今のお前の相手は、この俺だぜ! 」
「 ・・・伊達くん、っ!! 」



小太郎さんは、声のする方向へ駆け寄ろうとした私の腰を引き寄せて、自分の傍に置く。 それを見た佐助さんの気配が、また引き締まった。 手裏剣を握る拳に、力が入る。緊迫したままの庭に、2人の声の主が飛び込んできた。



「 ・・・殿! 」



建物の影から、剣道着を着た幸村くんが現れた。
私の姿を見つけて、彼は心底安心したように・・・頬を、緩めた。
彼のほっとした表情を見て、幸村くんが私と『 同じこと 』を思ってくれてたんだとわかった。 ( それは、とても嬉しい事実だった )
お互いの無事な姿を確認して・・・一瞬だけれど、穏やかな気持ちになった。



「 風魔、そのままの傍を離れるなよ! 」
「 伊達くん!待って、あの、何か大きな行き違いがあるみたいなの!! 」
「 『 は、伊達家におり、このままこちらで貰い受ける。
    未来の、俺の花嫁を取り返したくば、殺られる覚悟でかかってこい 』 」
「 ・・・・・・!! 」
「 そう連絡しろと、俺が小十郎に伝えたのさ 」



幸村くんを追ってきた伊達くんが、小太郎さんの前に立つと、そう私に説明した。

み・・・未来の、は、花嫁・・・って私が、伊達くん、の!?
え、だって、私たち、まだ2回しか逢ってないし、わかり合えるほど喋ってないし。
お互いのことなんか、全くわかってないのに・・・何で・・・どうして?

ショートした思考回路を必死に動かそうとしている間に、伊達くんが佐助さんと幸村くんに 向けて、刀を構える。幸村くんの手にも、かすがを止めてくれた時のような2本の槍が 握られている。でも、切っ先に刃がある槍なんて・・・今まで、見たことがない。
・・・『 喧嘩 』なんていう、レベルじゃないんだ。ふいに、背筋が震えた。



「 一度、お前とは本気で戦ってみたいと思ってたぜ・・・幸村ァ! 」
「 政宗殿・・・殿は、返してもらうぞ 」
「 そうそう。竜の旦那には、あんないい子、もったいないからね 」
「 ダメ!どうして・・・お願い、小太郎さん!みんなを止めて!! 」
「 ・・・・・・ 」



首を横に振る小太郎さんを見限って、私は対峙する3人に顔を向ける。



どうしよう、私の『 言葉 』は、まるで通じない。
諦めたら・・・ダメ!ちゃんと考えて、考えて、動かないと( 私は、また! )
かすがだって、わかってくれた。ちゃんと説明すれば、伊達くんだって、佐助さんだって・・・ 幸村くんだって理解してくれて、引いてくれるはずだもの!!

そう、よ・・・『 言葉 』で通じないなら・・・!



突如駆け出した私は、小太郎さんの腕をすり抜ける。
伊達くんと、武田道場の2人の間に身体を滑り込ませて・・・伊達くんの構える刀の切っ先を、自らの胸に当てた。 3人の息を呑む音が、聞こえた気がした。



「 皆さん、やめてください。武器を、収めてください 」



情けないけれど・・・声が震えてるのが、自分でもわかる。
・・・怖い。少しでも動いたら、伊達くんの真剣に貫かれるかもしれない。
だけど・・・3人が傷つけあう前に、説得しなきゃ。 『 争い 』が嫌だと主張するなら、主張するだけの勇気と行動を見せなきゃ。 私自身も、もう・・・後悔、したくない!!



「 ・・・お願い・・・ 」



私の視線は、伊達くんの左目から離れない。 身体が震えるくらい、怖がっている私とは対象的な・・・余裕の表情。 でも刃先から、彼の『 緊張 』が伝わる。
綱渡りなのは、彼だって同じ。その『 事実 』だけが、私を奮い起たせている。



・・・最後の勇気が、弾けた。



「 引くのも勇気、でしょ!!どうしても出来ないというのなら、私を貫きなさい!」
「 ・・・・・・ッ!! 」
「 よくぞ申したァっ! 」



頭上を見上げる間もなく、地響きが起こる。どおお・・・んっ!という音と振動が、庭を襲う。 対峙した時からフラフラだった私は、あっさり地面にひれ伏した。
何が起こったのかわからず・・・そっと瞳を開ければ。 伊達くんは苦悶の表情を浮かべて、左手で右手首を押さえている。転んだ私の目の前に、彼の刀が落ちていた。

その真横に、ざっと砂を踏む、厚みのある足音がひとつ。
大きな影を見上げて・・・無意識に、涙が零れ落ちた・・・。