ポン、ポポン!
花火が上がったのを機に、校門にいた生徒たちが一斉にビラを撒き、歓声を上げる。
白亜の校舎に、一定の制服姿だけでなく、色とりどりの服を纏った人の群れが押し寄せた。
政宗くんが言うには・・・この辺りじゃ評判の名門校なので、受験生からOBまで、唯一の開放日でもある
文化祭を目当てにやって来る人も多いらしい。
そんな名門校に、私を通わせてくれるお館様への感謝の気持ちを、新たにかみ締めていると、殿、と呼ばれた。
「 幸村くん! 」
「 舞台のことだが・・・15時ぴったりに行けばよいのか? 」
「 うん。手伝ってもらうのは、最後のシーンだけだから 」
私たちの『 ロミオとジュリエット 』は、講堂で15時から始まる。
これはトリの時間なんだけど・・・そこは、政宗くんのコネを使ったらしい( 担任の先生にお願いしたらしい )
かすがあたりが怒りそうだけど、今回は何も言わなかった。
やっぱり一番ヒトが集まる時間帯だし・・・と思っていたら、そこには思惑があったみたい。
「 謙信様が・・・その時間なら見に行ける、と仰ったのだ 」
「 そうなの? 」
「 ああ。今日、私は謙信様のために、ジュリエットを演じる・・・ 」
恍惚な表情をして、天井を仰いだ親友に苦笑する。
教室での最後のリハーサルを終えると、しばらく自由時間だ。この間に、幸村くんのクラスを見に行かなくちゃ。
部活の方を見てくる、というかすがと別れて。
作業用に着替えていたジャージから、制服に着替えて教室を出ると、政宗くんが立っていた。
「 Hey,Honey!俺と一緒に、校内を歩いて回ろうぜ 」
「 あ、政宗くん。でも、文化祭前に色んな女の子から誘われてなかったっけ? 」
「 I don't know.さて、どこから見るんだ?それとも何か食うか? 」
「 7組に・・・幸村くんのクラスに、行きたいんだけど 」
「 Noだ。この前は譲ってやったが、肩も治ったし、もうアイツの傍にはいかせねえ 」
「 そ・・・ 」
「 傍ったって、一緒に住んでるんだから、その時点で無意味でしょーが 」
後ろから聞こえた声に、2人で振り返る。ヒラヒラと手を振る佐助さん( もちろん片手にはビデオカメラ )と、
お館様が立っていた。お館様!と駆け寄ると、おお、、と破顔一笑する。
「 佐助さんたちは、もう幸村くんに逢いました? 」
「 いいや、これから。どうせならちゃん誘って行こうかねって。ね、大将 」
「 うむ。先程、部活動の出し物とかで、演舞は見てきたぞ 」
「 そうですか・・・私、リハーサルで見れなくて。でもクラスは見に行きます 」
「 それなら、一緒に行こうよ!ちゃんが案内してくれると嬉しいなぁ! 」
「 もちろんです。ほら・・・政宗くんも、行こうよ? 」
「 俺もかっ!?コイツラと!?Ha!冗談じゃ・・・ 」
「 ね? 」
「 ・・・・・・う、 」
腕組みして、その場から動きそうにない政宗くんの右手をとる。すると、あっさり政宗くんの足が動いて、
幸村くんのいる7組へと一緒に歩き出す。くくく・・・と喉を鳴らした佐助さんと、微笑んだままのお館様が、
その後ろについて来た。
「 竜の旦那も、ちゃんには弱いねえ 」
「 Shut up!黙れ、猿!! 」
「 猿って・・・ 」
後ろで佐助さんと政宗くんが何か喋っていたが、周囲の音に掻き消されてよく聞こえない。
首を傾げていると、真っ赤になった政宗くんが隣に並んで、スピードを上げた。
「 さっさと幸村んとこに行って、早く2人きりになるぞ! 」
「 ええ!? 」
何?聞こえないよ、政宗くん!
呟きと共に、ますます加速して。半ば引きずられるような形で、廊下を進む。
その後ろで、佐助さんとお館様が肩を震わせて笑っているのだけが、気になった・・・。