03.It can fly, if it is with you.

『 執事・メイド喫茶 』と書かれた看板の前で、立ち止まる。
あ、あれ・・・ここって7組だよね?ここで合っているよね?幸村くんのクラスだよね?
幸村くん・・・クラスの出し物にも参加するって・・・言ってた、よね??



「 『 執事・メイド喫茶 』かあ、旦那がねえ・・・ 」



佐助さんが看板を覗き込みながら、のんびり言って、ビデオカメラの録画ボタンを押す ( 幸村くんを撮る気満々だ・・・! )のう、執事・メイド喫茶とは一体どんな催し物なのだろうか?と 首を傾げるお館様に、An?知らねえのか、おっさん、この趣向はだな・・・と説明を始める政宗くん ( ど、どんな説明をする気なの!? )
教室の中を伺おうと、首だけ入り口から覗かせると・・・。



「 きゃ! 」
「 そっ・・・そなた、4組の文化祭実行委員の・・・! 」
「 あ、浅井くん 」
「 ・・・あ、もしや真田を探しているのか?仲が良いんだったな、そなたたちは 」



そっか、幸村くんのクラスの実行委員は浅井くんだっけ。
いつも真面目で、ヒトをまとめるのが上手い浅井くんは、補佐役を引き受けた私にも協力的だった。 よく話すようになって、幸村くんと一緒に住んでいることも知っている。
今呼んでやるから待っていろ、と。 白い燕尾服に身を包んだ浅井くんは、執事というより・・・まるで王子様のような出で立ちだった。



「 ・・・何者だ、ありゃ 」
「 政宗くん。7組の実行委員だよ、浅井長政くん 」
「 熱い、の域を超えて、うざったいっつーか・・・ 」
「 ・・・お話中、すみません・・・ 」
「 ひ、っ!! 」



突然、教室の入り口から姿を現した影に、悲鳴も上げられず固まった。 そこには濃紺のメイド服を着た女の子が、俯いたまま立っている。 もじもじ・・・としているけれど、す、すっごい美少女・・・! 佐助さんが、口笛を吹いてカメラを向けていた。



「 あの、長政くんから伺いました・・・真田くんは、こちら、です 」



すすす・・・と教室に入っていくのを、見失わないように突入する。 教室は仕切りによって、いくつかのブースに分けられていた。 ひとつのテーブルに、執事やメイドがひとり付くようだ。女の子の黄色い声や、囃し立てる声も聞こえる。 どうやら盛況のようだ。
幸村くんもそうだけど・・・浅井くんも、もてるタイプのヒトだと思うし ( 政宗くんの言うように熱くて、正義感の強いヒトだもんね )メイドさんも可愛いし、 7組は企画勝ちかも。
私たちは、案内された最奥の席に座る。 今、呼んで参りますので・・・と、現れた時同様、音もなく彼女は消えた。 そして、しばらくすると・・・。



「 殿っ!? 」
「 幸村くん!約束どおり、遊びに来たよ 」
「 浅井殿とお市殿に、殿たちが来たと聞いて来たのだが・・・ 」
「 へえ、案外似合ってんじゃねぇか 」
「 政宗殿、佐助まで・・・お、」
「 幸村ァァァァ!!! 」
「 お館様ァァァァ!!! 」
「 だ、駄目だよ旦那!拳振るったら、燕尾服が破けちゃうでしょーが! 」



吼える2人に挟まれるその光景が面白くて、私と政宗くんは笑った。
ホラ旦那、今は執事なんだからリードしてよ、という佐助さんのアドバイスに、 幸村くんはひとつ咳払いをして、テーブルの上に用意されていたメニューを広げた。 各自が指差す飲み物を、頷きながら記憶すると。



「 殿はアイスティーで、政宗殿と佐助がアイスコーヒー、お館様が緑茶・・・
  以上のメニューでよろしいか? 」
「 Hey,幸村・・・お前は執事なんだろ。もう少し気の利いた口調はねえのか? 」
「 むぅ・・・ そ、それでは・・・ 」



からかう政宗くんに、なぜか顔を赤くして視線を泳がせる幸村くん。
ちらり・・・と私へと視線を投げかけると( え )徐に手を取って、唇を寄せた。



「 ・・・かしこまりました、お嬢様。しばし、お待ちを 」



それは多分、決められた台詞なのだろう。棒読みすると、幸村くんはさっと退出する。
茹でタコのように真っ赤になった私を見て、面白くないのか政宗くんが、気に入らねぇ・・・と呟く。 幸村くんはそれ以後現れず、飲み物はさっきのメイドさん( お市殿、と呼ばれていたっけ )が運んできてくれた。 市さんが言うには、指名量が多い幸村くんはどこのテーブルでもひっぱりだこらしい ( ふ、ふーん・・・そう、なん、だ・・・ )



「 今度、家でも旦那にあの姿で、給仕してもらおうかな。
  逆に・・・ちゃんにメイド服着てもらえると、俺様、やる気出るんだけどなぁ 」



ビデオカメラを回しながら呟く佐助さんの独り言は、聞こえないフリをした・・・。
( だな!と騒ぐ政宗くんと、無言で頷くお館様の姿も、見ないフリ見ないフリ! )









結局、その後も幸村くんには逢えず終いだった。浅井くんたちに見送られて教室を出る時に、 ポケットに入れていた携帯電話が震える。
メール・・・幸村くんから、だ。



『 来てくれて感謝する。3時に、講堂に行きます故 』



忙しい中、私たちが去ることに気づいて、慌ててメールしてくれたんだろうな・・・と思うと、 彼の気遣いが、すごく嬉しかった。
メールの返事を簡単に済ませると、政宗くんに呼ばれる。

お館様と佐助さんと別れ、私も演劇の準備に取り掛かるため、教室へと戻った。