04.A little prayer for you

幸村くんは、どうして自分を『 頼りにならない男 』だなんて思ったんだろう。



『 強くなるでござる。殿が頼ってくれるような、お、男に成るべく・・・ 』



・・・どうして?私は、今でも幸村くんほど、頼りにしているヒトはいないのに。
そして、なぜそこで私の名前が出てきたんだろう。

いつもなら、ここまで彼の発言を気にすることはないのに。 ただ、どうしてもあの朝の言葉だけが耳から離れない ( 私、気がつかないうちに幸村くんに何か言ってしまったんだろうか・・・ ) そんなに気になるなら、もう一度聞いてみればいいと思うのに・・・何故か躊躇って、聞けずにいる。

ポン、と肩に手を置かれるまで、私の思考はグルグルと空回りしていた。



「 どうしたんだ、。さっきから何度も呼んでいるのに 」
「 ・・・かすが・・・ごめん 」
「 何かあったのか? 」



かすがは神妙な顔つきになって、隣の席に腰を下ろす。彼女に・・・話してみようか。
( 大した話じゃないかもしれないけど、私一人の思考回路じゃ、限界みたいだから )
口を開きかけた時、鞄に入れてあった携帯が震えている音がした。
メールの新着が一件・・・幸村くんからだ。



『 From:真田源次郎幸村
  Sub:本日の迎えについて

  本文:火急の用事が入り、迎えに行けなくなった。すまぬ 』



「 ・・・幸村くん、一緒に帰れなくなったって 」
「 好都合じゃないか。の方から、断りのメールを送るはずだったんだろう 」



さ、行くか・・・と、かすがは立ち上がる。私も頷いて、鞄に携帯をしまった。
終業式を終えて、明日から冬休みに入る。念入りに忘れ物がないか、確かめて。
近くにいた友達にも『 よいお年を! 』と告げて、かすがと教室を後にする。
今日は2人で、みんなへのクリスマスプレゼントを買いに行く約束だ。

話す機会はいくらでもあるから、そのことはまた後でにしよう・・・。









クリスマスを数日後に控えた街は、かつてないほど盛況を迎えていた。
どこを見ても、赤と緑に彩られている。大きなリースに目を奪われていると、かすがに !行くぞ!!と呼ばれた。
ショッピングするお店は、予めかすがと決めていたから。買い忘れのないように・・・と プレゼントをメモしてきたのを見て、彼女は苦笑する。



「 随分と、また念入りなんだな 」
「 その為にバイトしてたんだもん!いっぱい買うんだ!! 」
「 の心意気に負けぬよう・・・私も、謙信様へのプレゼントを選ばねば! 」



まるで戦にでも臨むかのように( ・・・あながち間違ってはいないんだけど )私とかすがは、 人込みの中に飛び込んだ。同じような制服姿の女の子たちや、仲の良さそうなカップルが街中にひしめいている。
かすがに手を引かれて、次から次へと売り場を移動する。目移りする商品に悩んで悩んで悩みまくって・・・ やっと決めたプレゼント。どんなに迷ったか、渡した後に説明したら・・・あのヒトはどんな表情するのだろうか。



・・・クリスマスなんて、ずっと縁のないイベントだと思っていた。でも、ワクワクする。
誰かのために、プレゼントを選ぶということが。
喜んでくれる顔を想像するだけで、今の私は何でも出来る気がする。



ひと通り買い物が済んで、手近なファーストフード店に入る。
注文したジュースはかすがが受け取りに行ってくれて・・・私は、テーブルの上に突っ伏していた。 そんな私を、可笑しそうに彼女が見つめていた。



「 ・・・お疲れ様。全部買えたな 」
「 かずがもね。良かったね、謙信さんへのプレゼント、無事に決まって 」
「 そうだな・・・喜んでくださると、いいけれど・・・ 」



謙信さんを想う時のかすがの顔は、恋をしている乙女だ。
頬を染めて、うっとりと謙信さんを思い浮かべている。頬づいて、そっと溜め息を零した私に、かすがが尋ねる。



「 そういえば、教室で何か言おうとしたことがあったんじゃないか? 」
「 え・・・ああ、うん・・・大したことじゃ、ないんだけど・・・ 」
「 何だ、言ってみろ 」
「 ・・・幸村くん、がね。この前、私に頼られるような男になるって、言ったの 」
「 真田が? 」
「 どうして、そんなこと思うのかな。どうして、私の名前がそこで出るのかな、って。
  私、いつも頼ってばかりなのに・・・逆に、頼りすぎちゃった、とか? 」
「 ・・・、 」
「 気がつかないうちに、何かしちゃったのかな。もしくは言っちゃった、とか。
  聞きたくても聞けないの。どうしよう、かすが・・・私、私・・・ 」
「 落ち着け、 」
「 私、幸村くんに・・・・・・嫌われたく、ない・・・ 」
「 それだろう 」



・・・・・・え・・・・・・、



顔を上げた私の瞳に、少しだけ唇の端を持ち上げたかすがが映っている。
何を情けない顔をしているんだ、と彼女の手が眉間の皺に伸びた。






「 、お前・・・真田のことが、好きなんだな 」