「 いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「 4人なんですが・・・席、空いてます? 」
「 確認いたしますので、少々お待ちください・・・チカ! 」
「 おうよ!奥に4名席、用意するぜ 」
「 あ、私も手伝いますっ! 」
12月24日、クリスマスイブ当日。
街は、この日と待っていたとばかりに、クリスマス一色に染まった。
喫茶店も、買い物やデートの合間の休憩所として、大混雑のピークを迎える。
仕込みの時間から、慶次さんやチカさんと一緒に働いているけれど・・・ホントに
『 目まぐるしい 』という言葉がぴったり。
特に昼過ぎから夕方にかけて、水を一口も飲む暇もないほどの忙しさ、だった。
ピークが、一時期的に去ったのを見計らって・・・
「 ちゃん、一度休憩しておいで 」
「 利さん・・・あの、でも 」
「 いいから。慶次やチカは、君とは体力が違う。休める時に休まないとダメだぞ? 」
利さんはそう言ってにっこり笑うけれど、彼の疲労の色も濃い。
それを見てしまうと、私一人だけ休憩するのは気が引けたけれど・・・強い勧めもあって、頷いた。
淹れてくれたコーヒーを持って、スタッフルームへと伸びた廊下を歩いている時だった。
「 」
声をかけられて、振り向く。そこには・・・意外な人物が、顔を出していた。
「 ・・・松永、さん・・・ 」
「 こちらへおいで。なに、そんなに時間はとらせんよ 」
スタッフルームに背中を向けて、私は松永さんへと駆け寄る。
手の中のコーヒーが零れないように、そっと歩く・・・彼は少し目を細めて、手を伸ばした。
カップを2人の、4つの掌で包んで、裏口にある小さなベンチへと私を導く。
腰を下ろすと、松永さんは自分のポケットから桃色の包みを取り出した。
首を傾げる私に、開けるよう促す。
「 良いの、ですか? 」
「 かまわんよ 」
カップを少し離れたところにおいて、包みを開くと。
ちょうど片手分サイズの箱が現れて・・・中に、美しい華の形をしたコサージュが入っていた。
丸みを帯びたフォルム。シンプルで、使いやすそう・・・でも、それが高級品なのは、子供の私でも分かる。
「 卿にプレゼントしよう。使ってくれたまえ 」
「 わっ、私にですか!?こんな高そうなもの・・・いただけません! 」
「 気にする必要はない。私が贈りたいと思っただけなのだから 」
箱からそっと華を摘むと、私の胸元にとん、と当てた。そして、松永さんは満足そうに頷く。
身体に触れている、指先部分が・・・熱い。自分の頬が赤くなっていくのが分かるけれど、見つめられている
視線を外せなくて。
・・・しばらくすると、松長さんの肩が震えだした。
「 くっくっく・・・ははっ、ははは! 」
「 ま・・・松永さん・・・?」
「 ふふ・・・失敬。卿の様子が、余りに愉快なのでな。やはり、面白い娘だな 」
戸惑う私に、手を伸ばす。指先の熱は、さっきより柔らかい炎となって、頬に赤みを灯した。
「 卿は・・・覚えているかね?私と出逢った時も、触れれば真っ赤になっていた。
火傷をして、水浸しの床に座ったままでも『 女 』であることを忘れなかったな 」
「 あ、あれは、あの、本当にすみません、でした。折角、助けてもらったのに。
私、脚が太いし・・・まっ、松永さんにじっと見つめられてるの、恥ずかしくて・・・ 」
「 そんなことはなかろう。もっと肉付きがいいほうが、私好みなのだがね 」
「 だ・・・ダメです!太らないように、気をつけているんです!! 」
ムキになって下から見上げれば、彼は( 珍しく )ちょっと驚いたような顔をして、また肩を震わせるほど
大きく笑った。そうだ・・・最初、松永さんに逢った時は、怖い顔のヒトだと思っていたのに。
それが今ではこんな風に笑いあうことが出来るんだから、すごく不思議・・・。
ひとしきり2人で笑った後に、ふ、と優しく唇を歪めて・・・呟いた。
「 ・・・私の手で花開かせてみたかったが、な。咲き誇る姿を愉しむのも、また一興 」
そう言って、松永さんは指先を引っ込める。言葉の意味が分からずに呆けていたら、
休憩時間はあとどのくらいあるのかね?と聞かれて、時計を見た。あと10分くらいです、と言うと、
ならもう少し共にいようか・・・と、松永さんがそっと私の腰を引き寄せた。
思ったよりあっさりと私の身体は、松永さんに抱きすくめられる。
自然な、その『 オトナの仕草 』に、すごく、ドキドキ・・・した。
お店に戻る頃には、コーヒーは冷めていたけれど。
短い逢瀬で得た、温かい気持ちに・・・身体の疲労は、すっかり吹き飛んでいた。