05.It's like a dream come true.

豪快な鼾は、お館様のものだ。
小十郎さんと小太郎さんと、3人で空けたお調子の数は、我が家のものを2周した上に、 政宗くんちから持ってきたという一升瓶を3本空けて・・・それは大規模な宴会となった ( もちろん未成年である私と政宗くんは、一口も飲まなかったけれど・・・ )
お館様から少し離れたところで、小十郎さんも眠りについている。小太郎さんも、いつもと 変らないように見えたけれど、時々彼の頭がこくり、と数度揺れることがあった。



「 、毛布はこれでいいのか? 」
「 うん、ありがとう!政宗くん 」



別室から毛布を運んできてきれた政宗くんが、入り口近くの畳に置いた。
私はそれを、畳に寝そべっていたお館様にかける。気配に気づいたのか、片目だけで 私を見上げると、おお、すまぬのう・・・と呟いて、また眠ってしまった。
残りの2人にも毛布をかけると、こたつに戻る。テレビではちょうど、除夜の鐘が鳴り始めたところだ。 政宗くんは私の向かいに座り、みかんをひとつ、私に渡した。
それを受け取って、私たちは、テレビが映し出す静かな風景を眺めていた。

( 政宗くん・・・何も、聞かないんだな・・・ )

お館様も、何も聞かなかった。政宗くんも、こうして目の前にいても、聞いてこない。
この心遣いがとても嬉しくて・・・ついつい、私の方から甘えてしまう。



「 あのね・・・政宗、くん 」



みかんを食べ終わって、ごろり、と横になった政宗くんに、私は声をかけた。
尋ねたいことがあるんだけど・・・と言うと、薄い唇を三日月形に持ち上げる。
そして立ち上がると、向かいから隣へと移動して、頬杖をついた。
まるで今からワクワクするようなことが起こるかのように、その瞳が輝いている。



「 ま・・・政、宗くんっ!? 」



と・・・突然ち、ちか、近づかれると!その!あの!
どうしても・・・過去の経験から、ビクビクせずにはいられないんだけど!!



「 やーっと喋る気になったってワケだな?待ってたんだぜ 」
「 ・・・そ・・・そうなの? 」
「 無理矢理聞いたところで、本当のこと、聞けるわけないと思ってな。
  優しいお前のことだ・・・気にするなって、誤魔化そうとするだろ? 」



ぽっと顔が赤くなるのがわかった( だ、だって、考えを読まれたみたいで・・・ )
俯いた私の頬を、とん、と突いて、政宗くんが話を促した。
少しだけ笑って、私は隣に座る彼に聞いてみることにした。



「 政宗くんは、さ・・・過去に、女の子と、つ、付き合ってたこと、ある? 」
「 ・・・・・・・・・ま・・・まあ、な 」
「 その人と、もう一度付き合うって、出来ると、思う? 」
「 それは・・・相手にも寄るんじゃないのか? 」
「 ・・・そ・・・そうだよ、ね・・・ 」
「 何だよ、。過去に付き合った男に、何か言われたのかよ 」



うぐ!!と詰まると、政宗くんが、図星か・・・と呟いて溜め息を吐く。



「 ・・・どこのどいつだ!?この俺が、直々に引導を渡してやるぜ!!
  は、俺の女だ!手出しすんじゃねェってな!! 」
「 ままままま、政宗くんっ!あの、その、違う・・・! 」
「 I see,とにかく断りてェんだろ?だったら、手ぇ貸してやるぜ・・・っぐ 」
「 ち、違う、違うんだってば! 」



熱り立つ政宗くんの口を押さえると、そのまま勢い良く二人で絨毯の上に転がった。
悲鳴を上げそうになったけれど、それも飲み込む( だって、折角みんな寝付いたところなのに! ) ・・・耳を澄ませば、変わらずどこからか聞こえてくる寝息。
ほっとすると、押さえていた手に彼の唇がそっと口づける。小さなリップ音に、はたと気がついて、 身体を起こそうとしたが・・・政宗くんにがっちりと捕らえられていて、身動きが出来ない。 溜め息混じりに観念して、重くない?と尋ねれば、少しも、と笑った。
自分の身体の上に乗った私に、温かい眼差しを向けてくる。



「 そいつのこと・・・お前は、好きなのか? 」
「 ・・・好きだよ。でも『 付き合う 』っていうのとは、なんか違う気がするの・・・ 」
「 違和感があるなら、やめとけ。同情で恋愛するっつーのは、相手にも失礼だろ 」
「 ・・・同情・・・ 」



口になじませるようにして、呟いた言葉・・・ああ、そうか。
ずっと、その『 感情 』をカタチにすることができなかったけれど、これ、だったんだ。

家康先輩のことは、今も昔も好きだし、尊敬している。
ずっと続いていけばいい『 縁 』だと思っている。

だけど・・・私は、幸村くんを通して知ってしまったのだ。

本当に『 恋をする 』って、こと。
この気持ちが、以前付き合っていた先輩との『 関係 』の中にあるかと聞かれれば、答えはNOなのだ。 恋を知った今、あれが恋じゃなかったんだって、わかる。
だからこそ、先輩とは付き合うことができないと思うのだ・・・。
そうやって考えると・・・私は、先輩に今までなんて酷いことをしたのだろう・・・。

胸元に顔を埋めるように俯いた私の頭を、そっと撫でる手があった。



「 ・・・俺はあの日から今でもずっと、お前を愛してる 」
「 ・・・ま、さむね、くん・・・ 」
「 けれど、まだお前の心の中に、俺はまだ入りきれていない。
  受け入れてくれたとしても、それは恋じゃない。受け入れた『 だけ 』だ。
  そうして付き合ったところで、互いに悲しくなるだけだろ・・・you see? 」



・・・政宗くんの言うことは、尤もだった。
想っている人がいるのに、それをいつか諦めて先輩を、心の底から受け入れられるかなんて・・・ わからない。その間、先輩を苦しめるだけだ。 嫌われたくない、という理由だけで、苦しませていい理由にはならない。

自然と唇をかみ締めていたようで、気づいた政宗くんは、 やめろ、というように顎に指の腹を当ててこすった。


「 お前の中で答えが出ているのなら、尚更だ。伝えないと、苦しむことになるぜ 」



家康先輩とは、付き合うことが出来ない。



そう告げれば、先輩は悲しそうな顔をするだろう・・・それでも。
それ以上に大切な存在の『 笑顔 』を思い出して、私はこく、と頷いた。