05.It's like a dream come true.

迷いを振り払い、確かに頷いた私を見て、彼はふっと笑った。
でも私・・・今、先輩のことで頭がいっぱいだったけれど。

政宗くんに対しても、同じことを言わなきゃいけないんじゃないのかな・・・。

今さっき、さらりと口した言葉は、まさしく私への愛の台詞だ・・・よ、ね?
( あまりにナチュラルで、スルーしそうになったし、確かめる勇気はないけれど )

私は、そのまま口を開こうとする。
・・・けれど、彼が当てた人差し指のせいで、音にはならなかった。



「 今は言わなくていい。お前が誰を見ているかだなんて、知りたいと想わない。
  俺が勝手に、お前を想っているだけだからな 」
「 政宗くん・・・あの、でも、 」
「 想うことくらい、許してくれ。俺にも・・・その、男にも 」



切なげにそう呟く政宗くんに・・・私は、それ以上何も言うことが出来なかった。
ただ、もう一度頷けば、Thanks・・・と彼が私の頭を撫でた。 そのまま耳元で、いつか振り向かせて見せるぜ、と囁かれ、火照った顔を政宗くんから離れそうとした。
・・・とそこでようやく、未だに彼の腕の中にいたことを思い出して、再びじたばたと暴れる。 政宗くんは面白がって、腕の力を強める。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、羞恥と混乱で 頭の中が真っ白になった時、その腕をべりりりっと離す別の腕が伸びてきた。



「 こ・・・小太郎さん・・・・・・起き、ちゃった・・・? 」



すると、寝てない!というようにぷるる、と首を横に振って、抱きしめられる。
気がつけば、もう最後の除夜の鐘が鳴っていた。ごーん・・・と静かな音が、響き渡る。
やれやれ・・・と溜め息をついた政宗くんが、立ち上がった。



「 明けちまいそうだが・・・年越し蕎麦、食うだろ?台所借りるぜ 」
「 あ、うん・・・ 」



振り返らずに、そのまま廊下に消えていく政宗くんの背が、寒そうだった。
だけど・・・私が追いかけてはいけない。彼を、それこそ傷つけてしまうだろう。
曇りガラスの向こうに消えていくのを、じ、と見ていると、小太郎さんが覗き込んだ。
大丈夫です、と弱々しく笑うけれど・・・小太郎さんは、まだ心配そうだ。 彼を安心させるような言い訳を頭の中で考えていると、お館様が重そうに身体を起こした。



「 お館様・・・大丈夫、ですか? 」
「 うむ・・・のう、や 」



はい、と答えると、顎のあたりを撫でながら唸る。



「 年越し蕎麦を食うたら、浜辺まで出てみようか 」



日の出には少々早いが、まあ良かろう、と微笑まれたが・・・。
私は、その笑みにちゃんと答えられただろうか。

抱きしめられていた小太郎さんの腕に、少しだけ力が篭められた。









政宗くん特製・年越し&年明け蕎麦は、即席で作ったようには思えないほど美味しくて、 すき焼きを食べたのを忘れて、おかわりまでしてしまった。
は細ぇからな、もっといっぱい食え、と・・・さっきまでのこと、これも全て忘れた かのように、政宗くんは私にお蕎麦を勧めた。身体も心も、ほかほかに温まって・・・ 明け方が近づいてくると、3人は一度自分の家に戻るという。



「 昼になったら、本家に顔を出さなきゃいけないもんでな 」
「 そ・・・なんだ・・・ 」



政宗くんは、本家にいらっしゃるお母さんと、難しい関係にあるらしいから・・・ きっと複雑なんだろうな( でなきゃ、彼がこんな・・・陰りのある顔をするはずがないもの )
足元ばかり見ていた私の顎を捕まえて、素早く彼が頬にキスする。
おお、と隣でお館様の声がして、小十郎さんの驚いた顔が見えて、小太郎さんの 背景に、ゆらりと昇るどす黒いオーラが見えた( ような気がした! )


「 Ha、お前まで落ち込むな。これは俺の問題だ。
  まあ・・・が嫁に来たら、お前にも背負ってもらう問題かもしれねえがな 」
「 ・・・っ、もう!政宗くんったら、人をからかって!! 」
「 はは、お前はいつでもそうやって『 笑って 』ろ・・・じゃあな 」



片手をひらひらと振って去っていく政宗さんの後に続いて、2人もぺこりと頭を下げた。
扉が閉まると同時に、なぜか溜め息が出て。
ほう・・・と肩の力を抜いて一息吐いた私に、お館様の声が降る。



「 眠かろう。やはり・・・ひと眠りしてくるか 」
「 いえ、何だかお腹が重くって・・・やっぱり食べ過ぎちゃったたみたいです。
  運動がてら、浜辺を散歩しましょう!お館様!! 」



元気だとアピールするように力瘤を作って見せれば、彼の瞳が優しく細まる。
上着を取りに2階の自室へと駆け上がった。寒くないように紺のダッフルコートを着込んで マフラーを巻いて、準備万端!と玄関へと降りた、その時。

ポケットに入れ忘れた携帯電話が震えて、誰もいない部屋で点滅を繰り返していた。