05.It's like a dream come true.

「 おやっ、かたっ、さばああああぁぁぁああああッッ!!! 」



とぅッ!!と掛け声が、耳を劈く。
驚いた私の前に、音もなく着地したその姿を見て、口がぱくぱくと 動くが・・・声が、出ない。立ち上がった彼は、紛れ・・・も、な、く!!



「 ゆ・・・・・・っ、幸村くんっ!! 」
「 明けましておめでとうございまする!お館様・・・殿 」
「 ・・・どうして、此処に 」



実家に帰っていたはずだよね!?それも年末年始のご挨拶のため、でしょ!?
い、今、日の出が昇ってきたところなんだけど・・・いや、そうじゃない。 どうして此処がわかったの!?此処は、お館様の秘密の場所だって聞い・・・ って違う違う、そうじゃなーいっ!訊きたいのはそーいうことじゃなーいっ!!
グルグルと巡らせた頭を抱えそうになっていると、あーあ・・・という声が降る。
岩壁を仰げば、別れ際に見た深緑色のマフラーがぺろーんと垂れ下がっていた。



「 ほら旦那ぁ、俺様の言った通りでしょうが。ちゃん、混乱してるよ。
  だから突然帰ると驚かしちゃうから、連絡してからってアドバイスしたじゃーん 」
「 佐助さん・・・! 」
「 いや、だから某は殿の携帯にメールを送信したのだが・・・ 」
「 え、本当!?・・・ごめん、鳴らないだろうと思って、携帯置いてきちゃった・・・ 」



・・と言うと、なんとッ!という幸村くんの愕然とした顔と、佐助さんの忍び笑い。 そして、ついにお館様の大笑いが響き( っていうか・・・あの、秘密の場所、 なんじゃなかったっけ、ココ )膝に乗せていた私を立たせると、幸村くんと対峙する。 そして・・・。



「 ふっふっふ・・・ゆきむるぁぁああッッ!! 」
「 おやかたさむぁぁあああッッ!! 」
「 ゆきむるぁぁぁぁぁあああああッッッ!!!! 」
「 おやかたさむぁぁぁぁぁぁあああああああッッッ!!!! 」



水平線から離れた日の出を中心に、額をくっつけんばかりに雄たけびを上げる2人。
唖然、というよりもう何だか、呆然としてしまって。 立ち尽くしていると、ぽんと肩を叩かれる。隣に立った佐助さんは、苦笑を浮かべていた。



「 暑苦しい風景でも、見ているとやっと『 日常 』に戻った気がするねえ 」
「 佐助さん、どうして・・・幸村くんの、実家は? 」
「 うん、挨拶も済ませたし、一応、義理は通してきたから平気でしょ 」
「 ・・・それで、大丈夫なんですか・・・? 」
「 旦那も帰りだがってたしね・・・もちろん、俺様も。ちゃんが恋しくてさー 」
「 ふふっ、私も佐助さんたちに、逢いたかったです・・・本当に 」



お館様と2人だったことに、不満があるわけじゃない。
でも、幸村くんと佐助さんが欠けていることが、とっても寂しかった。

両親が亡くなってからは、私はずっと一人でいた。
それでいいと思ってた。寂しくない、大丈夫だって、そう言い聞かせてきたけど・・・。
武田道場に来てから、すごく我侭になってしまったみたい。 孤独な気持ちを、奮い立たせなくてもいいんだってことに。 みんなで囲む食卓の方が、はるかに楽しいんだってことに・・・気づいてしまったのだ。

佐助さんが、はにかみながら自分の鼻の下を、得意げに擦る。



「 ふふン、俺様の料理の腕も、まだまだ捨てたモンじゃないってことだな 」
「 佐助さんのお料理、毎日、食べられないのは辛かったです・・・ 」
「 よしよし、帰ったら美味しいもの、またいっぱい作ってあげるからね 」



手が伸びてきて、潮風に揺れる髪を撫でてくれる。
心地よい凪に俯いた時、彼はそっと私の頭を引き寄せて、小さな声で囁いた。



「 ・・・旦那ってば、ヤキモチだったみたいだよ 」



ぱっと上げた顔が、赤く染まっているであろうことは、自分でも良くわかっている。
なんて顔しているんだい・・・と佐助さんがくつくつと笑った。



「 ヤ・・・ヤキモチ、ですか? 」
「 そ。まーったく、そーいうとこは一人前なんだから 」
「 えっと、あの、その・・・どっ、どうして・・・ 」



ヤキモチ、なんか・・・。
熱くなった頬を両手で包んで隠そうとしたが、一向に隠れないし、冷めない。
そんな慌てた様子の私を見ていた、彼の瞳がふっと優しくなった。



「 ・・・それはいつか、旦那が『 答え 』をくれるよ・・・きっと、ね 」



ぱちん、とウィンクをひとつ。
そのまま海へと向けられた視線に促されるように、私も向き直る。 お館様と散々打ち合った幸村くんが、踝までを海に付けて、肩で息をしていた。 ようやく落ち着いた頃、奮い立たせるように身体を起こすと、こちらへと歩いてきた。 じゃぶ、じゃぶ、と波をかき分けて、佐助さんの隣にいた・・・私の、ところまで。
佐助さんもおやかたさまも、私たちの間がぎくしゃくしていたのを知っているから、 何も言わずに見守っている。



・・・今度こそ私も、自分の気持ち、ちゃんと伝えなきゃ。



手袋をした拳を握り締める。
浜辺に上がった幸村くんに向かって、私も一歩・・・踏み出した。