クリスマスぐらいからだけど、やっぱり幸村くんの顔、少し変わったと思うの・・・。
顔つきが、オトナになったというか・・・凛々しくなった瞳で見つめられると、ドキドキする
( もちろん、彼を見つめる私の眼差しが、変わったせいもあるのかもしれない )
それでも、今は逸らしちゃいけない。真っ直ぐ見つめなきゃ、と思えば思うほど、
顔が強張ってくる。ほ、本当は・・・こ、こんな酷い顔、幸村くんに見せたくないな、って
思うのだけれど・・・。
「 ・・・殿 」
どき、と心臓が高鳴る。
ごちゃごちゃしていた頭の中が真っ白になり、目の前の彼にだけ集中する。
背筋を伸ばした私を見て、彼もしゃきっと背中を伸ばした。
「 某・・・申し訳ご「 ごめんなさい・・・ッ!! 」 」
え、と幸村くんが固まり、吹き出すような音が聞こえたのは佐助さんだろう・・・。
下げた頭を勢い良く上げて、私は彼にまた一歩近づく。
「 ごめんなさい、幸村くん・・・つまらない意地を張って、避けちゃって・・・ 」
「 ・・・い・・・いや、某の方こそ・・・その、 」
「 あんな態度とったら、誰だって傷つくってわかってるのに、ごめんなさい! 」
「 ・・・殿が、謝ることはな・・・ 」
「 私のことなんか、許してもらえないかもしれないけど、でも 」
「 殿っ!!! 」
「 ・・・・・・・・・は・・・はい・・・・・・・・・ 」
突然の声に、大きく肩が震えた。
だ・・・だめ、だ、やっぱり怒ってる・・・!!そう思った瞬間に、ぶわりと視界が霞む。
頬を伝い始めた大粒の涙を拭っていると、その両手を・・・幸村くんが握った。
逆光の中で、彼は辛いそうに顔を歪めていた。
「 某にも、謝罪させてもらないだろうか・・・申し訳なかった。
要らぬ感情で、殿を傷つけてしまった。心から反省している 」
「 ・・・ううん、そんな、こと・・・ッ! 」
「 それからもうひとつ。私のことなんか、などと言わないで欲しいのでござる 」
「 ・・・え・・・ 」
「 自分で貶めるのは、良くないことでござる。某にとって、殿は・・・大事な方 」
そこでようやく・・・彼は照れたような笑顔を見せる。
幸村くんの中に『 ランキング 』があったとして、私がお館様と佐助さんの次・・・ううん、
もっと下だったとしても。幸村くんの『 大事 』の括りに、自分が入っていると思うだけで、
また涙が零れた。両手は、未だに幸村くんに掴まっていたから、流したままで、だったけれど・・・。
心から浮かんだ笑顔を、彼に向けた。
「 ・・・ありがとう、幸村くん 」
と言えば、後ろから拍手が聞こえた。す、すっかり忘れたけど・・・。
いやー、青春ですな、という佐助さんの声に、お館様が相槌を打っている。
身体の中から燃え上がるほど恥ずかしかったけれど、ちらりと幸村くんを見上げれば、
彼も熟れたトマト以上に真っ赤になっている。気づいたように、わたわたと私の手を離し、
すすすすすまぬぅぅッ!!と叫んで・・・。
「 え、あ、そっちは・・・幸村くんッ!? 」
「 うおおおおおおおォォ!!! 」
海に向かって飛び込んでいった幸村くんは、そのまま遠泳に出てしまった・・・ようだ
( あの、普通に・・・ダウン着ていたと思うんだけど )
悲鳴を上げんばかりに、
お腹を抱えた佐助さんが、狭い浜辺でのたうちまわり、お館様まで行こうとするので、
私は必死にそれを押し留める。小さく見える、幸村くんの水飛沫・・・あの様子では、当分戻って
こないような気がするんだけど・・・うーん、それにしても洋服着たまま、冬の海に飛び込む人がいる
だなんて・・・( 驚くっていうより・・・何だかなぁ )
「 さーて帰りますか。旦那がすぐ着替えられるように、お風呂沸かさなきゃ 」
「 そうだの。昨夜から眠っていないのだから、もひと眠りせんと、辛かろう 」
「 い、いえ、私は・・・大丈夫です 」
「 ダメだよ、ちゃん。よく眠って、起きたら俺様の雑煮、いっぱい食べてよ 」
「 ・・・はい! 」
お館様の腕に掴まって、元来た道を歩いて戻る。
途中から、修行代わりに・・・と佐助さんが背負ってくれたので、ほとんど私は歩くことがなかった。
規則正しく揺れる広い背中は、温かい。ここ最近・・・気を張っていたのが緩んだせいもあって、
次第に瞼が重くなってきた。
「 ちゃん、いいよ。そのまま寝ちゃいな 」
「 ・・・・・・ふえ、あ、いえ・・・! 」
「 よいよい。重い方が、佐助の修行になるからのう 」
「 ・・・大将・・・ 」
溜め息交じりの佐助さんの声を最後に、私はお言葉に甘えるように目を瞑る。
・・・帰ったら、ちゃんと起きて。佐助さんの言うとおり、お風呂だけは沸かしておかなきゃ。
それから、忘れてきちゃった幸村くんのメールをチェックして・・・
どんなメッセージを送ってくれたんだろう。そこにあるのは素っ気無いものでも構わないのだ。
彼からもらう、ということが、すごく嬉しいと思う。
そしてきっと・・・佐助さんのお雑煮が出来る頃には、みんなでいつものように食卓を囲むのだろう。
「 ( ホント・・・お館様の元に来てから、随分我侭になっちゃったなあ、私・・・ ) 」
その『 幸せ 』をかみ締めて、私は束の間の休息を取ることにした。