06.Nothing venture nothing win.

【 彼を喜ばせるバレンタイン・チョコの法則 】

本命の彼に渡すチョコはこれで決まり☆
有名パティシエがオススメする、流行のチョコレートが盛り沢山!
愛しいアノ人のハートを射止めるのはどれ??



派手なピンク色の文字。こ、こーいうの、見慣れないなあ・・・。
意外だったのは、これを貸してくれたのが市ちゃんだってこと。
バレンタイン・デーまでは、まだ時間があるし、プレゼントはまつさんのお店で作るから・・・ なんて考えていたら、参考までに、と貸してくれたのだ。



「 だって、かすがちゃんから、初めてのバレンタインだって聞いたから、市・・・ 」



ちゃんの、力になりたくて・・・と俯かれて、受け取った雑誌を抱いた 私は市ちゃんにコクコクと何度も頷いてみせる( な、泣いちゃやだ! )
読んでみれば、確かに今までの私にはない知識ばかりで、本当に感謝してる。
だ、だって・・・私、バレンタイン・デーって、ただ好きな男の人にチョコレートを あげて告白する日だって思ってた。だけど『 感謝の気持ちを伝える 』という意味合いが 強いことだったり、男の子から女の子に送る逆チョコというのもあったり・・・。



「 ( うーん・・・深い ) 」



と、たまらず思ってしまう。今までイベント事に縁がなかったからなぁ・・・。
幸村くんにだけ用意すればよいと思っていたけど、折角だからお館様や佐助さんにも用意したいな。 あとお世話になっているヒト・・・隣の政宗くんだったり、竹中くんや、あ、毛利くんにもあげた 方がいいのかな。慶次さんやチカさんにも、って考えるなら、クリスマスプレゼントをもらった松永 さんにも・・・家康先輩には、郵送??

んんー、考えれば考えるほど、どうしたらいいかわからなくなっちゃうっ!!



「 ちゃーん、デザート持ってきたけど、食べるかい? 」
「 は、はい!今、開けます 」



寝転がっていたベッドに突っ伏していると、部屋のドアがノックされた。
そのドアを開けると、両手に硝子製の器を持った佐助さんが、するりと部屋に入ってきた。 中には真っ赤なイチゴが入った器を、ひとつ私へと手渡す。



「 スーパーで特売やっててね、つい買ってきちゃった。ちゃん、好き? 」
「 はい、大好きです!いただきます 」
「 んふ、よかった・・・・・・あれ? 」



微笑んだ佐助さんの視線が、ふいに私から逸れる。そして、ベッドの上に広げられた 色彩鮮やかな雑誌をまじまじと覗き込むので、私は器を慌てて机の上に器を置いて、彼の 背中を追いかけた。



「 きゃーきゃーっ!!さ、佐助さん見ちゃダメーッ!! 」
「 【 バレンタイン・チョコの法則 】・・・って、やっぱり女の子なんだなあ。
  こーいう雑誌に興味があるとは。これ、どうしたの?自分で買ったの?? 」
「 ちっ、違います!と、とも、友達に借り、て・・・ 」
「 そーんなに恥ずかしがることないじゃん。女の子らしくていいなって思っただけ。
  あ、でもこのチョコ、ホント美味しそう!ねえねえ、リクエストしていい?
  俺様ね、ここのページのトリュフなんかがいいなあ・・・あ、でもさ 」



真っ赤になったまま、あうあう、と地団太を踏んでいる私に、意地の悪そう( 見える ) な笑みを浮かべる。



「 ・・・ちゃんはさ、一番好きなヒトに、どーいうのあげるの? 」



佐助さんの言葉に、背筋がピン!と伸びる。
苦笑した彼は、たたみかけるように立ち竦んだ私の顔をそっと覗き込んだ。



「 俺様の予想だと、さ・・・それって、旦那でしょ 」
「 だ・・・だだだ、んなって、もしかし・・・ 」
「 真田の旦那。真田幸村に、だよ 」









『 某、好きな女子が、おるのだ 』









あの日、あの朝、あの場所、で・・・。
幸村くんが呟いた、何とももどかしそうな声音を、私、忘れない・・・ううん、忘れられないんだ。 彼も、あんな声を出してヒトを想うんだって、そう気づかされたから。
女の子からも人気のある幸村くんでも、辛く苦しむような恋なのだろうか。






想われている『 ヒト 』は、どんな子なんだろう・・・。

幸村くんに・・・そこまで、一心に想われているなんて・・・。






「 ・・・ちッ・・・違い、ます・・・!幸村くん、じゃ、ないです 」
「 ちゃん? 」
「 いち、一番・・・好き、なヒトは、他にいるん、です・・・ 」



佐助さんは、鋭い。
私と幸村くんの兄貴分だけあって、びっくりするほど何でもお見通し。

・・・だから、だからこそ、知られたくない。
かすがや市ちゃんたちにバレるのとは、ワケが違う。
幸村くんのことが『 好き 』だってわかってしまえば、きっと私たちを繋ぐ『 家族 』という 絆の一部が、崩れてしまうような気がするの。それが怖い。
この感情が『 恋 』なんだって気づいた時よりも、何倍も、何倍も・・・!

じ、と見つめていた瞳の力が緩んで、そっか・・・と彼は微笑む。
少しだけ寂しそうに見えるのは、私の気のせい、なんだろうか・・・。



「 からかってゴメンね、ちゃん。アクマで予想だからさ。許してよ 」
「 佐助、さん・・・いえ、許すだなんて 」
「 いや、ホント。ちゃんに嫌われたら、俺様、死んじゃうもん 」



大袈裟に肩を竦めた佐助さんは、わしわしと私の頭をかき回す。
きゃあ!と悲鳴を上げて、ボサボサの頭を撫で付けて直している間に、 いつの間にか移動していて。扉の向こうからじゃーねーという声に合わせて、 覗かせた手がひらひらと舞っていた。 ぱたん、と閉まって・・・部屋の中が、静かになる。
元いたベッド上に、腰を下ろす。そしてそのまま崩れ落ちるように、寝転がった。



「 ( 嘘・・・吐いちゃった ) 」



幸村くんが、一番好き。
でも、彼の一番は、私じゃない。



・・・羨ましい、彼の愛を独り占めできる『 誰か 』が。



佐助さんがくれたイチゴが、じわりと滲んだ視界の端でも真っ赤な輝きを放っていた。
それはまるで・・・胸の奥で燻る、涙に濡れた私の『 恋心 』のようだった。