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掌が重なった瞬間、視界がキラキラと光り出す。
光を浴びた水面のように、見えていたものが光の中に解けていくのだ。
それは・・・目覚める、合図。
いつもなら受け入れる目覚めだけど、今はこの『 夢 』に縋りつきたくて、声を上げた。
「 小太郎さんっ!! 」
やっぱり、小太郎さんだった!やっぱり『 此処 』の世界のヒトだった!
私・・・小太郎さんに『 逢った 』ことがあったんだ!!
小太郎さんの表情も、唇の動きを読めるのも、何故だか傍に居て欲しいと思ったことも。
その手を・・・離したくないと、思ったのも・・・全部・・・私・・・私っ!!
欠けていたパズルのピースを見つけたように、過去の『 不思議 』が繋がっていく。
悲しいわけでもないのに、涙の雫が次々と頬を流れた。
「 ( 『 私 』も・・・小太郎さんのこと、 ) 」
黒装束が少しずつ光に溶けていく。繋いでいる彼の手も、あと数秒で消えるだろう。
足元が浮く。『 私 』の身体から、次第に意識が離れていくのがわかった。
嫌・・・嫌!別れたくないっ!( だって、やっと逢えたのに・・・!! )
「 こ・・・っ、た、ろさ・・・!! 」
小太郎さん、小太郎さん・・・!
悲痛な叫びは天へと届かず、私は強制的に・・・『 目覚め 』ていく・・・。
「 ・・・・・・・・・ 」
指を、伝うものがある。それはさっきまで私が流していたものだと思ったのに。
「 ・・・・・・・・・こ・・・、 」
こた、ろ、さん・・・。
酷く口の中が乾いていて、かすれた声しか出なかった。彼の頭が、持ち上がる。
私を信じられないモノを見るような瞳で見つめて・・・またひとしずく、零れ落ちる。
「 もしかして・・・泣いて、いるんですか・・・? 」
自分の涙だと思ったのに。貴方との別れが辛くて、泣いている私の涙だと思ったのに。
今も昔も・・・感情の起伏に乏しい彼が、泣いているだなんて・・・( それも、私のために )
泣いていない、と首を振るのが可愛くて、力の入らない腕を伸ばした。
指先が、涙に触れる。この雫は・・・彼が私を『 想って 』流した涙。
こんな・・・こんな、私のために・・・・・・。
・・・ねえ、小太郎さん、貴方の中に少しでも私は『 居る 』の・・・?
『 姫様 』ではなく、この『 私 』が。
「 泣かないで、小太郎さん・・・どうか、泣かないで、下さい・・・ 」
折角、こうしてもう一度逢えたのに、泣いている顔なんて寂しいじゃないですか。
笑って、というのは無理難題かもしれないけれど、もう、泣き止んでください。
私は・・・小太郎さんが、傍に居てくれさえすれば・・・それでいいんです。
その心が私のものにならなくても、貴方が誰を想っていたとしても。
小太郎さん、小太郎さん・・・好き、です・・・・・・
「 もう・・・黙って、消えないで、下さい・・・私を、置いていかないで、ね・・・ 」
こくり、と彼は頷く。腕に縋りつくように、ベッドの縁へと身体を丸めた。
その彼の背中を、抱き締めるように・・・私も、身体を折り重ねる。
腕に刺さった点滴が、少しだけ揺れた。
「 ・・・・・・おかえりなさい 」
小さい声で呟いたけれど、無事に届いたようだ。彼の右手がごそごそと動く。
動きやすいように、と少し上体を起こした私の掌を捕まえて。指先を走らせた。
残った指先の軌道を読んで・・・嬉しさに、もう一度小太郎さんの背中を抱き締めた。
『 ただいま、 』