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の意識が、すとんと堕ちたのが解った。
握って・・・とうとう最後まで離さなかった手のひらの力が、完全に抜けている。
意識を失っても、高潮した頬の色は赤いままだった。
それが可愛らしくて、右の頬にひとつ口付ける。
『 キス 』とは・・・きっと、この行為のことなのだろう。
最初は解らなかったが『 唇にも 』と言ったことに気づいて、自分の行動を振り返ったまでだ。
真っ赤になりながらも懇願してきた彼女を思い出して、自然と笑いが零れた。
「 ( それにしても・・・ ) 」
それにしても・・・何て、幸せな気分なのだろう・・・。
さようなら、と、ありがとう。
どちらも『 別れ際 』に彼女にもらった言葉なのに、こうも自分の心持ちが違うとは。
誰に祈ればよいか・・・わからない。
けれど、感謝で一杯だった。俺も、その誰かに『 ありがとう 』と伝えたかった。
この時代に送ってくれて・・・に、逢わせてくれて。
彼女との出逢いがなければ、俺は、変れなかった。
『 姫 』との思い出に、髪の一本一本まで浸かって生きていく・・・それでもいいと思ったのに。
人を愛することを教えてくれた『 姫 』
愛することを知れば、また別の誰かを愛することも出来ると、教えてくれたのは『 』
忍には必要ないといわれていた心・・・だが、或るのと無いのでは、違う。
生きていく、理由が違う・・・。
「 ・・・・・・・・・っ! 」
・・・ああ、とうとう・・・外れていた時間軸へと、戻っていくのか。
の手を取っていた、自分の手が透けていることに気づいた。
次第に、光を纏うように徐々に輪郭が薄れていき、周囲の空気に溶けていくようだ。
握っていたはずのの手の感覚がなくなっていく前に、布団の中にその手を入れてやる。
窓から差し込む午後の光が、優しく彼女を照らし、窓から入る風が頬を撫でた。
どうか・・・が、これからも生きていけますように。
俺は、元居た時代へと戻るけれど、彼女を照らす光が、これからも優しいものでありますように。
自分のことも、想いも、何一つ彼女に告げることは出来なかったけれど・・・。
・・・かつて、この身体に刃を立てた。
あれほど愛しんだ『 姫 』に。だからこそ、に自分のことを話すことが出来なかった。
俺は・・・彼女に嫌われること、恐れられるが、心底怖かったのだ。
が俺へと注いでくれる信用を、愛情を、失うことが・・・。
けれど、今の俺は信じられる。は、どんな俺も嫌いになりはしないだろう。
彼女の愛を得て、過ごした時間を経て俺は・・・ヒトとして、強くなった気がする。
溶けていく速さが、増した。
最後の感覚を頼りに、立って、眠り姫にもう一度口付ける。
「 ( ありがとう・・・ ) 」
お礼を言いたいのは、俺の方だ。
ありがとう・・・愛してくれて、ありがとう。限りない愛情で包んでくれて、ありがとう。
ここでの日々が、長かったのか、短かったのかはわからないが・・・。
きっと一人で過ごせば暗い夜も、君という光がいたから、自分を失わずに済んだのは確かだ。
風が頬を撫でるように、自分の輪郭が流されていく。
この時代へと飛んできたときと同じように、身体を突然の浮遊感が襲う。
と自分の間に、逆らいようのない距離が開いていくのを感じた。
「 ( ・・・ ) 」
手術中も見守っていて欲しい、という約束を叶えてやることは出来なかったけれど・・・。
全身全霊をもって、祈る。手術が成功して、真の『 寿命 』を迎えるまで光に包まれんことを。
「 ( 心からの、愛情を込めて ) 」
愛してる、愛してる、・・・・・・
意識が、光の中に溶けた。