すすす・・・と上がった幕の内に、彼女は座っていた。






 某が中に入ると、今までついてきた者が、足音もなく去っていった。
 気配が完全に消えたのを見計らって・・・の前に、膝をつく。


「 ・・・面を上げよ 」


 降ろしていた髪が、彼女の背中に流れる。丁寧に梳かされたそれは、まるで漣のようだった。
 顔を上げたの表情は、緊張したように強張っている。
 ・・・まあ、無理もないのでござろう。








 これから・・・某に、抱かれるというのだから。








 結婚の意志が固まってからは、目まぐるしく事が運んだ。
 武士である某と、女中だったの、身分違いの恋であったが、
 小さい頃から面倒を見て下さった某たちの決意を、お館様は諸手を挙げて喜んで下さった。


 一度は説得できたと思ったは、やはり某の予想通り、屋敷を離れようとしたのだが、
 ようやく覚悟を決め、無事・・・誰の反論も受けることなく、祝言を迎えることが出来た。






「 気丈なそなたが、そこまで緊張しているのを見るのは、珍しいでござるな 」
「 そそ、っ、そうでしょうか・・・っ! 」


 上擦った声に、溜まらず吹き出した。
 笑い出した某を見て、は憤慨したように、もーっっ!!と拳を振り上げて、胸を叩いた。


「 ばかばか、幸村様のばかーっ!せっかくの雰囲気が台無しじゃないですか!! 」
「 す、すまぬ・・・!あまりに、そなたの様子がおかしくて、つい・・・ 」
「 つい、じゃありません!お、女の子にとっては、いち、一大事なんですからね・・・! 」


 握り拳を、ぱしん、と受け止めて、そのまま包み込む。
 悪かったと謝れば、はもう一度、馬鹿・・・と呟いて、真っ赤な顔で俯く。
 その愛らしい少女の顎を、つ、と持ち上げる。
 零れそうなほどの大きな瞳に映った自分は・・・『 獲物 』を前にして、満足げに微笑んでいた。




 ・・・いつぞやの雨の日、あの山小屋では堪えたが。
 もう堪えぬ。と某は、今夜・・・結ばれ、夫婦となるのだから。




 あの時見た、白く美しい肌が・・・瞼の裏に蘇って。
 もう一度触れられるのかと思うと、歓喜に身体が震えそうになるのを、必死に耐えた。
 平静を装って、の頬に手を伸ばした。


「 ・・・某の名を、呼んでくれ 」
「 ・・・幸村様 」
「 違う、もう夫婦になったのだから・・・幸村、と 」
「 ・・・・・・幸、村 」
「 そう、もう一度だ・・・ 」


 自分から強請ったのに、もう彼女の答えを聞くことはなかった。
 我慢できずに貪った唇は、とても甘い。絡まる唾液は、砂糖水のようだ。
 一滴たりとも飲み干すまい、と口の端から滴るものも、すべて舐め取った。
 夜着を着ているのも、もどかしい。
 舌を絡めている間に脱ぎ捨てると、必死にしがみついていたの胸に手を伸ばした。


「 ん、ふッ・・・!! 」


 の眉間に、大きく皺が寄った。
 素肌が擦れるだけで、心臓が飛び上がるほど興奮する。
 この前の、雨の日もそうだった・・・女子の肌が、これほどまでに心地良い感覚とは・・・。
 唇を開放して、舌で首筋から鎖骨まで辿る。はぁ、と彼女の荒い呼吸が、耳を突いた。
 開いた胸元に吸い付くと、大きく仰け反る。


「 あ!ああっ・・・ひ、はぁん、っ! 」


 突端をきつく吸い上げる。桃色の肌が、一段と赤く染まる中で、更に赤くなる果実。
 優しく舐めれまわしてやれば、の身体が震え、またきつく吸えば身体を強張らせる。
 柔らかなその胸の感触に、顔をうずめると、あまりの心地よさに某も震えた。
 両手で胸を揉み解す某の手を退けようと、が抵抗する。


 ・・・女中として仕え出してから、彼女はあまり、我侭を言わなくなった。
 だから、こうして某の要望に抵抗されることすら、新鮮で。
 その抵抗をすべてねじ伏せれば・・・は、どんな表情をするのであろう・・・。
 ( 見て、みたい・・・と思えば、自然と唇が持ち上がった )


「 こら・・・暴れていては、抱けぬ 」
「 だ、だって、あ、あンっ!・・・はず、はずか、し・・・ 」
「 無理矢理に抱かれるのが、そなたの望みか? 」
「 そ・・・そんな、わ、け、あるはずな、いっ、で・・・ 」
「 ならば、某に見せてくれまいか・・・、そなたの全て、を 」


 あぁ・・・っ!と嬌声が一層高まった。
 右手が、ももの足の付け根に触ったからだ。硬く閉じようとしている両足も、某なら片手で開ける。
 一瞬の間に滑り込ませた指を、そっと秘部に宛がう。


「 や、ァっ!んあっ、はああぁ、んっっ!! 」
「 ・・・すごいぞ・・・・・・そなた・・・ 」


 じと、と濡れている・・・なんてものじゃない。
 洪水のように溢れているのに、掻き出しても掻き出しても、枯れることのない泉。
 蜜壷に抜き差しした指に、が身体をよがる。その指が増えるごとに、反応が激しくなった。
 中指を入れたまま、親指で茂みに隠れていた蕾を弾く。
 途端、の腰が浮き上がり、熱に染まった眼で某を射抜いた。


「 ここか、ここが気持ちいいのだな・・・ 」
「 ああ、は・・・ん、ふ、っ、ゆ・・・ゆき、む・・・ら・・・ぁ、っ!! 」
「 もっと・・・もっと、感じてくれ、・・・っ! 」
「 んああ、や、ふあ、らめぇ・・・らめらって、ば、ぁ、ああんッ、ッ・・・! 」


 はち切れんばかりに熟れたその蕾に、唇を寄せると、悲鳴じみた嬌声が上がる。
 の身体が、びく、びくん・・・!と大きく震え、淹れていた指をきつく締め上げた。
 ああ・・・この締め付けが某のを締め付けたら、どんなに気持ちよいだろうか・・・。
 そう想像するだけで、背筋がぶるりと震えて、思わず舌なめずりをした。


 どっと蜜壷から、愛液が溢れる。
 褥を濡らし、彼女の膝裏まで垂れていたのを・・・指ですくって、舐めた。
 舌の音に気づいてか、の瞳が開かれる。
 某の口元を濡らしているのが、自分の愛液だと気づいたのか、恥ずかしそうに顔を背けた。


「 幸村、は・・・意地悪だ・・・ 」
「 何故そう思うのだ? 」
「 昔は・・・もっと、素直で、可愛くて・・・ん、っ 」
「 素直で、可愛くて・・・? 」
「 こ、んな・・・は、ァ・・・い、いじ、わるな、コトはしなかっ・・・ああ、ん! 」


 一度快感を体験した身体は、どこを触っても、撫でても、過敏に反応する。
 長い時間をかけて、その反応を何処までも見ていたいが・・・某の『 我慢 』がもう限界だ。
 先程までの抵抗はなかったが、蜜壷に舌を入れ、充分に濡れていることを確認すると。
 2本の脚を、自分の下に引き寄せて、持ち上げた。


「 ・・・・・・っ! 」


 の顔が、羞恥に染まる。
 や、やだ・・・っ!と手を伸ばして隠そうとするが、それはもう無駄だ。
 のしかかるように、彼女の股の間から身体を降ろすと・・・その耳元に囁いた。








「 、愛してる・・・某のものに、なってくれるか 」








 痙攣している秘部に・・・某の『 熱 』を当てた。
 それがどのような行為なのか、次に何をするのか・・・彼女は、もうわかっているはずだ。
 は、どう答えればよいか、混乱しているようだ。涙を浮かべて、目を泳がせている。
 身体を起こして、微笑んで見せれば、少し安心したのか・・・こくり、と頷いた。




「 私、も・・・好き、です 」




 ・・・その答えが、聞きたかったのだ。




 眉間の皺が、更にきつくなる。堪えきれない、とばかりに、悲鳴を上げる。
 痛みに、反射的に逃げようとする彼女の腰を引き寄せた。
 メリ・・・ッと、肉の裂ける音が聞こえるようだった。この分だと、彼女は初めてなのだろう。
 ・・・いつ何時、女が襲われても可笑しくない時代なのに。
 大切に育てられた姫でもなく、女中である彼女の『 初めて 』を味わえるとは・・・何と、有難い。
 奇跡に感謝しながら、男根をの中に推し進めていく。


「 はぁ、はぁ、は・・・! 」


 一番奥まで到達すると、某の背にが爪を立てた。
 見下ろした裸体の彼女を、自分が征服しているという感覚だけで・・・イッてしまいそうだ・・・。
 、と出来る限り優しく名前を呼んでやる( この先は・・・もう、優しくできそうにないから )


「 は・・・は・・・ゆ、ゆき、む・・・ら・・・ 」
「 すまぬ・・・辛いか? 」
「 い、いえ・・・大丈夫、です・・・ 」


 そう言って、笑おうとしたが、それは笑いにならなかった。
 指先で涙を拭う。には悪いが・・・好きな女の裸を目にして、これ以上某の方が、耐えられぬ。
 もう一度、すまぬ、と断ってから、腰を動かした。


「 あっ・・・イタ、っ!ああ、は、ァっ!ひゃっ、やああぁん!! 」


 固く閉じた瞳から、涙が零れ、雫が踊った。
 彼女の身体が、跳ねる。少しでも安定させてやりたくて、腰を持てば、逆に某が眩暈を起こす。
 ・・・少しでも気を緩めれば、こちらが呑まれてしまいそうだ・・・。
 何と温かい・・・包まれているのは、ほんの一部分なのに、心まで包まれているようだ。
 腰を動かすたびに、の胸が、ひと呼吸遅れて上下に揺れる。


「 は、あ・・・・・・う、ううッ! 」
「 んあっ、ひゃ、ぅッ・・・ゆ、ゆきっ!幸村っ・・・も、もォ!ダメっ!! 」
「 く、ッ・・・もう、持たぬ。悪い・・・ッ!! 」


 ぐちゅ、ぐちゅ・・・という水音と、肉と肉のぶつかりあう音。卑猥な音と、嬌声が交じり合う。
 もっと・・・もっと、を感じていたかったが、某の理性が限界を迎える。
 彼女の辛さを思いやることも出来ずに、腰を打ち付ける速さを上げた。
 速さに取り残されないように、しがみついていたが、先に快楽を受け入れた。


「 やあ!やあァ、あッ・・・は、あああァァ・・・・・・っっ!! 」
「 うく、っ・・・は、はァ、ッ・・・あ・・・あァっ!!! 」


 真っ白な波に、二人で飲み混まれるように・・・。
 背に立てた爪が剥がれて、褥の上にぱたりと落ちる、彼女の手。


 混濁した意識の中で・・・自分の手が、彼女のものと重なったのが・・・見えた・・・。




















 ・・・・・・情けない。


 どうやら、某も・・・あまりの快楽に、一瞬意識を手放してしまったようでござる。


 柔らかな肌から、身体を起こす。
 まだ繋がっていた部分から、自分のを引き抜くと、の身体が痙攣する。
 どろり・・・と伝った白い液が、互いの太腿を汚す。
 ( 少しだけ赤いものが混じっているのを見て・・・やはり、と胸が熱くなった )
 その彼女は・・・某よりも、深い眠りについている。
 汗で張り付いた髪を撫でてやれば、眉間の皺が少しだけ緩和された。


「 すまぬ・・・辛い想いを、させたな 」


 そっと抱き締めてやる。行為の最中は、気遣う余裕もなかった。
 口には出さなかったが、初めて抱かれる『 恐怖 』もあっただろうに・・・。
 は、某の胸の中で小さな寝息を立てていた・・・このまま、もうしばらく寝かせてやろう。








 子供の頃も、こうやって一緒に寝た。
 そして・・・いつしか、の隣で寝ることが『 苦しく 』なったのだ・・・。
 ( それは、某が『 男 』として目覚めた証拠でもあった )
 手を、握っていた。だけど、もっと触れたくなった。
 もっと触れたい、口付けたい、嫌われるかもしれない、でも触れたい、壊したい。




 を・・・自分のモノだけに、したい・・・・・・!




 そう思った時、某はから離れるべきだと思った。
 距離を置くために、女中として働きだしたいと言っていたの願いを、受け入れた。
 そうでなければ・・・いつか、彼女を本当に『 食べて 』しまっただろう。








「 これで・・・願いは、叶った・・・ 」


 お館様にも、屋敷の者にも受け入れられて、祝言を挙げた。
 小さい頃からの『 願い 』と『 欲望 』通り、を手に入れた。
 もう離さぬ・・・彼女の身体も、心も・・・欲しくて止まなかった、このてのひらも。


「 ずっとずっと・・・某の、ものだ・・・ 」


 との初夜を、これだけで済まそうなどとは思わぬ。
 もうしばらくしたら起こして・・・少し、昔語りにでも付き合ってもらおうか。




 実は某が・・・すごく、卑怯な奴だと知ったら、彼女は怒るかもしれぬ・・・。


















 ・・・それもまた、一興。夜はまだ、始まったばかりだ


 某たち、二人の人生も・・・まだ『 始まったばかり 』なのだから・・・・・・
 










( 互いをまだまだ知らぬというのなら、これから知っていけば良い。新たな面を知って、また、恋に堕ちるのだ )



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Title:"確かに恋だった"