本当は、相当身体が気だるいのだろう。






青褪めたが逃げようと腰を浮かそうとしているのはわかるが、びくとも動かない。
動かせずに唇を噛んだ彼女の腰を、引き寄せる。媚薬の醒めないは、その腕の感触だけで 感じてしまったのか、悲鳴とも嬌声とも思える声を上げた。


「 伯言ッ!!はな、し、て・・・きゃあぅ! 」


必死な懇願とは裏腹に、の身体がどんどん熱くなっていく。
その熱を更に広げて、内部から彼女を焼き尽くすように、秘部に指をひっかけて弄ぶ。
抗えない快感に、雫となった涙があとからあとから、頬を伝っていった。
脅えも混じって、更に乱れていく彼女の様子に、ぞくぞくする。
同時に良心も痛むが・・・これはきっと今だけだから。


後々、きっと彼女は私に感謝することになる。趙雲殿ではなく、この私に嫁いで。
陸家の長たる私の嫁として・・・永遠に、寵愛されることを。


「 ダメ・・・ダメ、だよぉ、ッん!いやぁっ、はく、・・・ふあぅぅ!! 」


かき回した蜜壷が、ほぐれてきた。よだれを垂らすように、褥を濡らす。
頃合いを見計らって、私はの両足首を掴んだ。
制止の声は上がるが、抵抗はない。の身体が、幾度無く襲った快感に討ち果たされて 動かないのをいいことに、私は自分の熱を秘所の入り口に当てる。瞬間、彼女が凍った。


「 わかりますか、・・・私がいかに、貴女を欲しているか 」
「 は、伯言・・・ 」
「 安心してください。責任は、私がとります 」






もう・・・誰にも、邪魔はさせない!!






ぐ、と腰を沈めようとすると、の瞳が見開く。いくらほぐしても、苦痛には変わりないのだろう。
まだ先の方しか入れてないのに、苦痛に顔を歪め、大粒の涙が溢れさせた。
これも少しの辛抱だから、と腰を押し進めようとした私の手に・・・優しく、彼女の手が重なった。


「 ・・・? 」
「 だめ、よ・・・伯言、それ以上は、だめ 」
「 ・・・いいえ、いいえ、お願いです!このまま抱かせてください、私は・・・ 」


先ほどまで、あれだけ熱を含んだ口調だったからこそ・・・今の温度差がより心にしみる。
涙に濡れた顔を、静かに振る。悲しみにも、絶望にも似たものを含ませて、は・・・。


「 私の身体を抱いて良いのは、趙雲さま、ただ一人 」


動きが自然と止まり、彼女を見下ろす。
白い胸を呼吸で上下させ、涙を流しながら・・・は、まっすぐと私を見つめていた。
真摯で揺るがない眼差しに・・・思わず、たじろぐ。
の理性が、媚薬を凌駕したのだと悟った瞬間だった。


「 趙雲さまに嫁ぐ。そう定めたのは貴方で、決意したのは私じゃない 」


忘れたの・・・?と言いたげに、瞳が問う。苦しそうな、熱い吐息が空気に溶けた。
・・・彼女の言うことは尤もだった。
呉の政治の、歯車に彼女を巻き込んだのは『 私 』。
選択の余地のない中で覚悟を決め、運命を自分のものにしたのは、『  』・・・だけど!


「 だけど・・・最初の頃とは、状況が違うじゃないですかッ! 」
「 違わない。決意した時から、私たち何も変わっていないじゃない 」


こんな言い訳、通用しないのはわかっている。だって、彼女は何も変わっていないし、変えていない。
夫になる相手は趙雲殿で、私はただの友達でしか、なくて・・・。


その立ち位置に不満を持って変わってしまったのは、私の、心だ。
愛してしまった・・・を、愛してしまったから。
貴女の前でだけ、安らげる。私は、貴女の前でだけ普通の、年齢相応の自分に戻れる。
もう手放せない。貴女の代わりは・・・私の周りに、いないのだ。


「 違います・・・違うんですッ・・・! 」




この想い・・・どうして、届かないのか。何故貴女は、私の思いを否定するのか。
・・・これじゃあ、まるで子供だ。わがままで、欲しい物に手が届かなくて、泣く子供。










「 私は・・・私は、貴女を、愛しています・・・!! 」











涙など流すのは、どれくらいぶりだろう。
未だ覚めやらぬ熱の混濁の中にありながらも、驚いたような表情を浮かべる
涙はとめどなく落ちた。雫は彼女の腹部へと落ち、肌を滑り落ちるようにして牀榻へと零れていった。
入れようとしていたものを引き抜いて、私はそのまま泣き崩れる。
両手を顔に当てて泣く私の手に、そっと触れる・・・の、温かい掌。
身体を起こしたが、慰めるように私の頭を抱いた。細い肩に額を当てた私の鼻腔に、 自分の放った精と、消えることの無い彼女の香りが入り混じった匂いがした。


・・・先程までの行為が、清められるかのように。
は、そっと・・・心を込めて、私の頭を撫でる。何度も何度も、丁寧に。


「 ・・・好き、です・・・本当に、貴女を愛しているんです・・・ 」
「 ・・・うん 」
「 ずっとずっと、私は貴女に振り向いて欲しくて、貴女に、私自身を見つめて欲しくて・・・ 」
「 ・・・うん 」
「 『 友達 』だと言って距離を詰めたけれど・・・やっぱり私は、貴女が欲しくて 」
「 ・・・うん 」
「 貴女の身も心も、魂までも、自分のものにしたいと思ってしまったのです。
  ただの『 友達 』なんかじゃ嫌です。趙雲殿に貴女を捧げたいとは、もう思えない。
  国を裏切っても、傍に居て欲しかった。いえ・・・私が、貴女の傍に居たいのです。
  私は、軍師なのに・・・ただの『 伯言 』として見てくれるを・・・、を 」
「 伯言、大丈夫だよ。きっと貴方を『 貴方 』として見てくれる人は、他にもいる。
  私が伯言を、そうして見つめているように。私の代わりなんか、すぐに見つかるわ 」
「 嫌です、!貴女じゃなきゃ、嫌だ!・・・どうして、どうしてそんな悲しいことを・・・ 」


自分が何を言っているか、わかっている。彼女に、如何に無責任な要求をしているか、ということを。
けれど、そんな愚かな問いも受け止めるかのように、はただ微笑んでいるだけ。
微笑んで・・・私を抱き締めて、頭を撫でている。その穏やかな心地が、止まる気配は無かった。
肩から顔を上げ、彼女の頬に両手を当てて目と鼻の先まで、近づける。
その瞳に、迷いや同情はなく・・・慈愛だけが、そこには在った。






「 愛しています・・・愛しています、 」
「 ・・・・・・ありがとう、伯言 」










私も、とは言わなかった・・・それが、彼女の『 答え 』・・・。










( 本当は、わかっていた。彼女に期待してしまったんだ、私は )










そっと首を傾げて、彼女の頬に口付ける。乾いた涙の筋は、少しだけ塩辛かった。
の身体をそのまま抱き締めて、牀榻に横たわる。
冷たくなった夜具が、燻っていた炎の熱まで静かに冷ましていくようだった。
腕の中の気配が、動かなくなるまで・・・私は、彼女を抱き締めていた。


醒めない夢など、無いことはわかっている・・・だけど、願わずにはいられなくて。






滲んだ視界が晴れるまで、今まで祈ったことも無い神に、初めて祈りを捧げた。






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