「 」
達する瞬間に、彼女の唇が何か『 呼んだ 』ような気がした・・・。
直後に、彼女の内側の収縮に、快感を覚えて。呻き声と一緒に放たれる、自身の精。
がくがく、と数度腰を動かして、ようやく訪れた静寂に・・・息を吐いた。
「 ・・・・・・? 」
前髪をかきあげて、そのまま彼女の額へと手を伸ばした。
耳のすぐ横を零れ落ちていた涙と、自分と同じように汗で張り付いた髪を取り除いてやる。
は事切れたように動かなかった。息を確かめれば、小さな寝息が聞こえた。
露になった胸も、規則正しく動いているのがわかって・・・私も力を抜く。
横たわった彼女の身体をそっと抱えて、眠りやすい体勢を作ってやる。
「 ・・・・・・ん・・・ 」
むにゃ、と口元を歪ませるが、夢からは醒めていないようだった。
体勢を変えてやった時に、彼女の身体から零れた液体にぐずついたのだろう。
牀榻に敷いた寝具には、2人分の体液と・・・初めて肢内に受け入れた『 証 』が色付いていた。
「 ( 生娘であったか・・・が、しかし・・・ ) 」
呉では、人々には知られずにいた名門陸家の深窓の令嬢だった。
将来有望な若き軍師・陸伯言の従妹。蜀への花嫁候補として白羽の矢が当たり、初めてその存在が明らかになったという。
そんな彼女が、男を知らずに育ったのは当然のことだろう。
・・・けれど『 反応 』が、想像とは僅かに違っているように思えたのだ。
誰かが・・・一度、彼女に『 触れて 』いる。それは勘でしかなかった。
自分だって、女を知らないわけじゃない。ある程度年はとっているし、蜀の武将として名声を上げる前は、
各地を放浪していた者に過ぎなかったのだ。情を通わせた女性もいた。
誰もが同じ反応をするわけではない。が、の反応は、どれにも当てはまらなかった。
まるで快楽を拒否するように。声も出さずに、ぎゅっと目を瞑って行為に耐えているように見えた。
「 ・・・やはり、また日を改めて 」
辛そうな表情を見て、心が痛まないわけがない。
ましてや、彼女は自分の妻。これからはずっと、自分の傍にいる女性だ。大切にしたいと思う。
初夜だからといって、必ず抱かなければいけないことなどないのだ。
けれど、自分の身体から離れていこうとする手を捕まえて、彼女は首を振る。
「 ・・・いいえ、お願いです・・・ 」
抱かれなければ、死んでしまうのだと言わんばかりの、懇願だった。
それでも彼女は、始終苦しそうな表情をしていた。嵐が過ぎるのを、ひたすら待つように。
抱いても、抱かなくても・・・彼女は『 死んで 』しまうのだろう。
今日の、婚儀の宴でもそうだった。
彼女の『 作り笑い 』に気がついたのは、ちょうど宴の盛期を過ぎた頃だった。
仲間に紹介をして、彼女が一人一人に挨拶を兼ねて頭を下げる。
隣で見ていた私は・・・頭を上げる前の、ほんの一瞬の表情に気づいてしまった。
無表情、というより、淡白。悲しみ、というより、虚無感。
吹っ切ったというよりも諦めたようなその表情に、自分の心が静かにざわつくのを感じた。
「 ・・・どうした、 」
「 え・・・?何がですか?? 」
「 いや、その・・・どこか、疲れているように、見えたので 」
さすがに・・・唐突な問いは、彼女を困らせるだろうと思い、回り道を選んだ。
すると彼女は、色褪せたような笑顔を貼り付けて『 笑う 』。
「 大丈夫です・・・子龍さま 」
お気遣いありがとうございます、と軽く会釈し、また輪の中に戻っていく。
談笑している馬超や、関羽殿たちの話に頷いて、口元を押さえて微笑むのだ。
その袖の下に、言い知れぬほどの『 感情 』を、ひたすらに隠して・・・。
酒に酔っている皆には、その違いはわからないかもしれない。
自分だって散々飲まされたのだから、これは酔いが見せる幻かもしれないと思った程だ。
けれど・・・私は、の『 本当の笑顔 』を知っている。
傷口を丁寧に洗って、薬草を一生懸命すり潰して治療してくれた。
これでよし、と自分の着物を裂いた布で手当てしてくれた時の笑顔・・・あれが、本物。
「 貴女は一体・・・私に、何を隠しているのか・・・ 」
眠ったままの彼女は、答えない。
さすがに眠っている時まで、眉間の皺は浮かんでいないようだ。
・・・ずっと、ここに力を入れているようだったから。苦笑交じりに、撫でてやる。
あの森で貴女の笑顔を真正面から見つめて・・・この人なら、と思ったのに。
『 素 』の貴女に、好感を持ったからこそ受けた話だったのに。
蜀に来ることは、彼女から笑顔を奪うような行為だったのだろうか・・・。
陸家で過ごしていれば、永遠に咲いていたであろう彼女の笑顔を思えば、酷なことをしたのか。
「 それでも・・・ 」
・・・これは『 愛 』ではない。
呉の策略なんかにひっかかってたまるか、と思う私は、彼女に心底溺れないようにと心のどこかで
それとなく制御している。だからこれは『 愛 』ではなく『 敬慕 』に近い。
何も解らない子供に、手を差し伸べるような・・・そんな、感覚。
寄り添うきっかけが何であれ、は、妻だ。
時間がかかってもよい。真の笑顔を見せてくれるまで、私は力を尽くそう。
いつか、蜀にきてよかった、と言わせたい。彼女が心から笑える場所を、この屋敷に作ってやりたい。
吸い付くような彼女の柔肌が、じわりと体温を伝えてきて・・・心地良い眠気を誘う。
小さな身体をそっと抱き寄せて、そのまま朝まで眠りについた。
よく眠っている今夜は・・・せめて、よい夢が見れていますように・・・。
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