最後の一枚を取り払われ、一糸纏わぬ姿で牀榻に横たわっていると視線を感じた。
羞恥に閉じていた瞳を開けると、子龍さまが口をぽかんと開けて私を見つめていた。
かっと頬を・・・頬だけじゃなくて、身体も染まったのだろう。
穴が開くほど見つめられることに耐え切れず、身体を丸めようとすると、彼の手で遮られる。
「 し、子龍さま、もう無理!もう見ないで下さいーっ 」
「 何故?芸術品かと見紛うほど・・・の肢体は美しいな 」
必死に捻った身体を、つ、と子龍さまの指先が走る。背中に筋を刻むようなその仕草に、悪寒にも似た快感がぞくぞくと這い上がった。
はっ、と声無き吐息に背筋を逸らすと、今度は子龍さまが唇を押し当てる。
往復したら今度は舌先で。耳の裏側まで戻ってくると、そのまま食んだ。
「 んっ、や・・・ぁ!うあ、は、っ! 」
身体から力が抜けたところを、仰向けにひっくり返される。
胸の突起に吸い付かれ、腰が浮いた。身体のほんの一部分を攻められている
だけなのに、こんなに恥ずかしい気持ちになるのに・・・どうして、
こんなにも気持ちよいと感じられるのだろう。絶えず上がる嬌声に、私は自分の手で口元を押さえた。
「 駄目だ、それでは聞こえない。もっと聴かせて、貴女が私を『 感じている 』声を 」
「 ああっ、ふ、あああんッ・・・し、りゅ、んんッ!! 」
こんな時、手の置き場に困る。いっそ押さえられていた方が楽だ、と思っているとその手を自分の頭へと
導く子龍さま。私は半狂乱のまま、掻き抱いた彼の髪に指を絡める。
「 ああ、いいな。そのまま抱いていてくれ、に求められている気がして・・・興奮、する 」
彼はくすりと笑って、愛撫を続けた。胸を弄り、下腹部まで手を伸ばして秘部を擦る。
並々ならぬ快感に閉じていた瞳が開いた。いや、と反射的に脚が閉じる前に、何かが侵入する。
「 んあああッ!あう、はっ、やあぁ、んやあッ!子龍、さ、まぁあ、はぁう・・・ 」
「 指を挿れただけで、こんなにもぎゅうぎゅうと締め付けてくるのか。少し、力を抜いて 」
「 ふあ、あああ・・・や、ううんッ! 」
力の抜き方なんて知りません、と言おうと思うけれど、言葉は形を成さない。
ふるふると首を振って伝えようとするが、子龍さまはわかってて無視したのか・・・今度はその指を
抜き差しし始める。一層高い嬌声に混じって、ぐちょぐちょと水音が響いた。かっと頬が染まる。
だけど羞恥もその一瞬で潰える。指が増えて、水音が当たり前になる頃には声も枯れ果てていた。
「 言ってごらん、どこが気持ち良いのか。ここ?それとも・・・この辺りかな 」
「 はっ、はあ、んんッ・・・あ・・・ひゃ、あはッ、あああん 」
「 じゃあここは・・・? 」
「 あッ!あああん、そ、それは、ぁああっ!だ、駄目ですううッ!!いやぁ、やああああッ!! 」
どこ、も、そこ、もわからないけれど、確実に他とは『 違う 』場所。
その内壁の一点を触られた時、本能が弾ける。過剰に反応した私を、子龍さまの指が攻めた。
逃げようと浮かした腰を捕まえられて、そのまま果てる。頭が真っ白になり、身体が震えるのも
この時ばかりは止められない。びくっ、びくり、と数度痙攣して・・・寝具へと腰が落下した。
開けるのも億劫だったが、、と優しく名前を呼ばれて、遅ればせながら睫を持ち上げた。
高潮した頬を撫でられ、子龍さまが熱く潤んだ瞳で私を見下ろしていた。
「 す、すみません・・・あの、はしたないところを・・・お見せ、し、て・・・ 」
「 どうして謝るの?は乱れた自分をはしたないと、悪いと思っている・・・そうなのか? 」
「 ・・・そ、れは・・・ 」
もちろん、と頷くと、躊躇いがなかったな、と子龍さまは苦笑する。
「 なら、もっと私の乱れたところも見せようか。それならお互い様かな 」
「 ・・・子龍、さま・・・? 」
「 それから・・・謝るよりも、気持ち良い時はそう言って欲しい。与えた快感を共有したいから 」
彼の顔が近づく。濃厚な口づけには慣れてきた。すう、と鼻で息を吸い込んで応える。歯列をなぞられたり、喉の奥まで
舌で犯され、身体が無意識に反応し始める。足の指先まで熱が広がり、時々攣ったように身体が震える。
白い陽の下で、彼の身体を抱え込んだ時に見えた紅痣。それが子龍さまの唇の仕業だったなんて・・・
実際につけて見せられるまで、気づきもしなかった。
「 これはが私のものだという証拠。男の傲慢かと思うかもしれないが・・・ 」
「 そ、んなこと・・・んんっ、ありません。嬉しい、です、子龍さま、あっ 」
「 ・・・・・・ 」
「 だ・・・だって、私ッ!子龍さまの、ものに・・・なりたかった、から 」
口づけられていく度に、私が彼の『 色 』に染まっていくというなら・・・こんな嬉しいことはない。
少しだけ微笑んだ私の唇に、彼が強く吸い付いた。ちゅ、と離れた唇を追い、間近に見上げると
子龍さまは照れたような表情を浮かべて、私を抱き締めた。
「 ありがとう、・・・私のものに、なってくれるか 」
頷いた私を見て、彼はもう一度ありがとう、と言った。
そしてふっと腰を沈める。何をしようとしているのかは、入り口に宛てた・・・熱で解った。
・・・大丈夫、怖くない。子龍さまを受け止めたい。だから・・・と彼の肩を引き寄せた。
と、同時に凄まじい圧迫感に喘ぐ。肉の入り込む感触。随分解されたはずなのに、息も出来ない。
「 も、少し・・・くぅ、ッ・・・は、 」
「 ひぅ!んんあ、んやああッ!ひゃ、あッ、し・・・子龍、さま・・・あ! 」
ほんの一部が繋がっただけなのに、全身が支配されていく感覚に息も絶え絶えに喘いだ。
肺に入る空気は、いつもの半分以下だろう。苦しい、圧迫感に発狂しそうだった。
けれど、薄く開いた視界に映る彼にも一切の余裕がないように見てとれた。
こんな・・・子龍さまを見るの初めて。身体を天に向かって逸らし、ぶるりと背筋を震わせている。
最奥まで届いたのだろうか・・・動きが一度止まる。
長い、溜め息にも似た感嘆の吐息を漏らし、子龍さまは微笑んだ。
「 ・・・動くぞ 」
「 え、あ・・・あはんッ、ああっ!ああ、は、ひゃぅ、んはぁッ!! 」
舌を噛んでしまいそうな律動が始まると、正気の欠片も無くなる。
揺れる胸元も、あれほど頑なに隠していた身体も開いて、子龍さまの動きに精一杯ついていく。
時折脚を肩に担がれ、体勢を変える。その度に押し込まれては抜かれる快感に、思考が追いつかなかった。
飛びそうな意識の端っこをかろうじて掴んでいるけれど、いつ手放してもおかしくない。
「 はんっ、あ、ああ・・・し、子龍っ、さまぁん!ああ、もう駄目っ、激し・・・いやあぁんっ!! 」
狂ったような自分の声。もう、もう何を喋りたいのかわからない。
「 頭が・・・あたま、がっ!おかしく、なっちゃい、ますッ!!あはッ、ふぁああん!! 」
「 それでいい、頭の中を・・・私のことでいっぱいにするんだ。今、を抱いているのは私だ 」
「 んんっ、子龍・・・子龍っ、さ、まッ!!子龍さま、ああああ! 」
繰り返される肌と肌のぶつかり合う音に、淫らな水音。部屋の熱気が上がり、私の卑猥な嬌声が木霊する。
子龍さまの短い吐息にも熱が篭り、その度に挿入が加速する。
お互い限界が近い。一段とその熱が膨らんだ時、、と吐息混じりに彼が呟いた。
「 愛している、。これからも、ずっと、未来の行く末まで 」
「 私も、子龍さまを・・・子龍さまだけを、愛してま、す・・・! 」
「 ああ・・・ああ、好きだ、・・・、っく、は、ぁッ!! 」
「 んぁあッ!!気持ちいいっ、気持ちよくな、っちゃぁあ!んあんッ!はあっぁぁああんッッ!! 」
快楽という白い波に呑み込まれる。
掴んでいた意識を引っ掛けていた指が外れる。波の果てへと飛ばされていくのを、ただ呆然と見つめていた。
身体も意識も沈んでいく。力の抜けた私の腰を自分の方へ引き寄せて、数度がくがくと揺さぶった。
子龍さまの額から零れた汗が筋を作っていく。顎の下からぽたり、と落ちた雫が私の頬を濡らして・・・
温いそれに瞼を持ち上げた。
「 ・・・子龍、さ、ま・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
私の両頬に手を当てた子龍さまが、はっ、はっ・・・と短く上がる吐息ごとそっと抱き締める。
本当は抱き締め返したいのに指先にすら力が入らない。身体を預けるようにもたれかかると、
子龍さまは幸せだ、と呟いた。
「 幸せだ、。戦火の中を今まで生きてきて、貴女に逢えて、よかった 」
熱の覚めやらぬ中、気だるい身体を寄せ合って口づけた。
「 子龍さまに逢えて、幸せです。子龍さまがいるから、私、これからもここで生きていける 」
私が花なら、貴方という水がなければ生きていけない。
だから傍に居て、絶えず私の傍に居て。死が私たち夫婦の縁を分かつ、その刻まで・・・。
差し込む陽光の中で微笑んだ彼は、今までのどの彼よりも輝いて見えた。
私も、笑った・・・どうかこの『 絆 』が永遠でありますようにと、そう願いながら・・・。
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