好きの理由6

宿屋の前に着くと、そこはもうすでにその場は存在的におかしかった。
普通の人ならもうすでに気絶しているところだろう。
僕は紋章を持っていたから、そういう気配に慣れていたからなんとか持ちこたえた。
「どこだっ…!!」
僕は外から宿屋の一室の窓を見た。
そこからヤバイ気配がビンビン感じられた。
中が真っ暗で、人がいるのかさえわからない。
僕は窓を無理やり開けて、中に入ろうと窓の縁に足をかけ、乗り上げて中を覗いた。
そこには。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
クゥさんが手を…右手を押さえて、床に座り込んでいた。
部屋の中は、ソウルイーターの作り出す闇に包まれ、すでに何があるのかわからないほどだ。
「クゥさん…!!」
僕が呼びかけても反応は無く、クゥさんはただ叫び続けていた。
―やるしかないっっ!!!
僕は意を決して中に入った。
「クゥさん!!!!」
ソウルイーターの闇が僕にまとわりついてくる。
底冷えするほどの恐怖が僕を支配しかけるが、根性で振り払って僕はクゥさんに、さっきよりも大きな声で呼びかける。
それでもクゥさんが叫ぶのを止めないので、僕はクゥさんの肩をつかみ、揺さぶって必死に呼びかけた。
「クゥさん!!クゥさんクゥさんクゥさん……………!!!!」
やっとクゥさんが叫ぶのを止める。
「あ……………」
意識がもどったのか、ゆっくりと僕の方を向く。
クゥさんの身体の力が抜けて、そのまま後ろに倒れそうになるのを慌てて腕で身体を抱きこんで支える。
「ト、キ……………?」
その目が光を取り戻していく。
闇が、薄らいでいく。
僕の恐怖もだんだん緩んできた。
「クゥ…さん……………?」
僕がもう一度呼びかけると、クゥさんの顔が驚愕に変わる。
「トキ!?どうしてここに………!?」
「僕は……」
「―――――駄目だ」
クゥさんがふいに僕の胸を押し返す。
……………え…?
どうして……?
僕の胸がまた痛み出す。
どうしてそんなことを………!?
「いけない。…僕に近づいては駄目だよ」
どんッ!!
クゥさんが僕を突き放す。
棍を僕に向かって構える。
「………っどうしてですか!!??」
わけがわからなくなってクゥさんの顔を見つめる。
武器を向けられても、僕にはどうすることもできない。
やっぱりホントに嫌われちゃったのかな……………
そう思うと胸の痛みがどんどん増す。
でも、それでもクゥさんの返事を聞こうと僕はクゥさんの顔を見つめていた。
「……………ぅ」
その途端、クゥさんの表情が大きくくずれる。
ほへ!?
一体何がなんなんですか!?
心なしかクゥさんの構える棍の先が震えている気がする。
「ク、クゥさん……………?」
「駄目だよ……………僕のそばにいてはトキまでこの紋章に…」
はへ?
紋章…?
もしかして、近づくなって言ったのはそのせい…?
なんだ、そっか。
僕は一気に気が晴れるのを感じた。
「クゥさん」
僕は一歩一歩クゥさんに近づいていく。
「だ、駄目っ!!駄目だよトキ!!」
クゥさんが棍をしっかりと構えなおす前に棍をつかむ。
「クゥさん」
僕が一歩一歩近づくたびに後ろに下がっていくクゥさんの背中が壁にあたり、
「クゥさん…」
僕はクゥさんのまじかに迫る。
「ト、トキ……………?」
クゥさんが僕を穴が開きそうなほど凝視している。
僕はそのまま勢いに任せてクゥさんを抱きしめた。
「トっトトトトトトキ!?」
クゥさんの小さな身体から体温が伝わってくる。
カランカラン
持つ者を失って、棍が床に落ちる。
その音を聞きながら、僕は…クゥさんの温もりになんだか気持ちが素直になっていくのがわかった。
僕は思ったことをそのまま口にしてみた。
「男同士って……………おかしいハズなのに」
「……………は?」
クゥさんが、意味を捉えきれず間の抜けた返事をする。
僕はかまわず続ける。
「なのに……………なのにどうして僕はこんなに貴方のことが気になるんだ!?」
「……………え……?」
「クゥさんの一挙一動が気になって気になって………………僕はクゥさんの顔が見れなかったし、話を聞けなかった……………!!」
「……………!」
クゥさんがまたびっくりした顔をする。
僕はまだ話を続ける。
「……………クゥさんがルックと恋人同士なのは知っています」
「え?はぁ!?ちっ…」
なにか反論しようとしたクゥさんをさえぎって続けだす。
「でも僕は…」
「あの、ちょっ…」
「クゥさんのことを…」
「いえあのだから」
「ずっと…」
「だからちょっとまてーーーーーーー!!!!」
どかっ
いきなり飛んできた強烈パンチに僕は除ける間も無く顔面に当たった。
「いったーーーっ!!!!何すんですか、クゥさん!?」
その衝撃に思わずクゥさんを抱く手を外してしまったらしく、クゥさんはいつの間にか僕と壁の間から抜け出し、僕の後ろに立っていた。
だから僕は後ろを振り向き、そして今度は逆に僕が壁側になってしまった。
「僕が折角誤解を解こうとしてるのに、トキが全く話させてくれないからだよ!!」
…え?
誤解???
「一体いつから僕とルックは恋人同士ってことになったワケ!?
違うよ、僕らはそんな仲じゃないよ!」
「え…?ええ〜〜〜〜〜〜〜!!??」
じゃ、じゃぁあのルックが言ってたのって…………?
クゥさんはその綺麗な顔を怒りの色に染め、ぼくに問い詰めてくる。
「誰から聞いたの、ソレ?」
「だ、だれって……………ルック」
その途端、クゥさんの顔がめちゃめちゃ「はぁ!?」という顔になる。
「なにそれ!?ありえないよ」
「そんなこと言われましても〜〜〜〜〜!!」
「……………まぁいいや。(後でルックに聞いとこ…(怒))」
そうして空く微妙な間。
……………そういえば僕、大嫌い言われたままなんだっけ…
しかもなんだか僕、さっき見たのってクゥさんがソウルイーター発動させてたとこ…だよね。
そういえばなんで発動させてたんだ……………?
「クゥさん」
「…なに?」
「さっきはどうしてソウルイーターが…?」
そう問うと、クゥさんはさっと顔を赤らめた。
「あ、あれは………!!そうだ、トキを離そうとしていたんだった!!トキ!!」
「はへ?」
僕はさっきからコロコロ変わるクゥさんの表情になんだかしみじみ見とれてしまっていた。
やっぱ僕、なんだか気になるどころじゃないよ…
そのため、いきなり呼びかけられてついホケッとした顔で返事をしてしまった。
「ト……………っく…」
クゥさんが妙な声を出し、急に顔を背けた。
手で口を押さえている。
え…?
なんですか…?
なんか…クゥさんの肩が震えている…?
「クゥさん?」
またしてもの急激なクゥさんの変化に心配になり、呼びかける。
すると。