11.
「………………………」
自らの掌をじっと見つめる男の横顔を視界に捉えたその瞬間―――
ランサーには頭の中で燻ぶっていた疑問が氷解するのを感じた。
未だかつて無いほどの数々の陵辱。受け入れるたびに自身そのものが剥き出しにさせられていくような感覚を味合わされたランサーだったが、ふと気づけば自らを犯す男もまた分厚い皮で包まれて隠された自身を露わにしていくように見えた。
決して言葉では語ろうとしない赤の弓騎士。
けれど、彼は言葉にならない言葉……その行動で全てを物語っていた。
―――結局……そういうワケ、か………―――
辿り着いた結論に、苦笑を禁じえないランサー。すると、何だか余計に可笑しい。急にこみ上げてきた感情を抑えることなくランサーは笑い始めた。とはいっても大声で笑い飛ばせる程の体力が残っているわけでもなかったので、くっくっと、しゃくり上げるようにして。
「……………!」
そんなランサーの控えめな笑い声に、驚いたように振り向くアーチャー。思わず素直な驚愕を面にしていたアーチャーだったが、ランサーの笑いが意識を回復したことからくるものと理解すると、瞬時に無表情の面を着ける。
「…………何が可笑しい」
わざわざ鉄面皮で尋ねるアーチャーがまた可笑しくて、ランサーは笑いを止めることができない。すると、アーチャーは気分を害したのかくっきりと形のある眉を顰める。そんな動作すら、ランサーには可笑しい、としか思えなかった。
いや、可笑しいというよりはむしろ別の感情だったが。
けれど、そんなランサーの胸中など知る由もないアーチャーはその表情にはっきりと「不快」の二文字を貼り付けて、身動きひとつ取ることのできない男の元へと近づいた。
「……目覚めた途端に人の顔を見て笑い出すとはな」
「仕方、ねえ…だろう……が…」
答えるランサーの声は掠れてはいたが、その口調はどこか軽い。笑い含みのそんな科白は、親しみさえ感じさせるようなものだ。そんなランサーの余裕が、この時程アーチャーを苛立たせたことはなかった。
「……………意識が回復したのなら、ちょうどいい」
半ば苛立ちからくる八つ当たりだろう、無抵抗のランサーの首に手をかけるような真似をしながら、アーチャーは自らの内側で燻ぶっていた疑問をぶつける。
「何故、君は私が『衛宮士郎』だということが分かった?」
「………………………」
思わず言葉を失うランサーだったが、アーチャーの方はというと至って真剣だった。そう、仕草や声だけでなく、存在そのものがランサーの命を両断することのできる刃のような雰囲気を漂わせていて。
つまりは―――。
「やはり、な………」
「それでは答えになっていない」
尚も執拗に答えを迫るアーチャー。余裕のない、そんなアーチャーの姿を自らの視界に収めると、ニヤリと…まるで悪戯が成功したかのような悪童の顔をしたランサーが口を開いた。
「そっくりじゃねえか」
「……どこがだ」
「そりゃあ………」
全部、と言おうとしたランサーだったが、おそらく自分自身の変貌…というより被っていた皮が破れたのを分かっていないこの男に説明するためには、どうにも体力が足りない。
「…………………」
思わず口を噤んでしまったランサーの態度に、いつもならば皮肉気に時間をかけて言葉で責めてくるだろう弓兵は、余裕が無いことを示すかのようにランサーの面に自らの顔を寄せた。
「…………………」
そのままランサーの下唇を噛み切るようにして、アーチャーは強引に口唇を合わせる。そのまま舌を差し込むと、わざと唾液が落ちる……口移しで魔力を分け与える体勢へと動いた。
「………ん……っ……ぁっ………」
息継ぐ隙間も与えられずに一方的に魔力を流し込まれたランサーの、彼の喉の動きを注視していたアーチャーはごく、と喉が鳴る音を耳に入れると、すっと身を引く。
急激に流れ込んできた魔力を身体に馴染ませながら呼吸を整えたランサーが身体を起こすと、ランサーと視線の高さを合わせるようにしてアーチャーは膝をつく。そして、最後通牒を突きつけた。
「……では、答えてもらおうか」
>続く
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