15.
「足りねえよ」
身を引いたアーチャーを詰るようにして、すでに雫のカケラも残さない自らの指に舌を這わせ続けるランサー。何を求められているか、そんなことを十分承知しながらも戸惑いを隠そうとしないアーチャーに対してランサーは遠慮なく言い切った。
「しゃぶられるのと、上に乗っかられるのと……どちらがいい?」
ニヤリと優越を滲ませたそんな表情すら婀娜めいたものがある。
誘うようでいて、自らが主導権を握ろうとするランサーのそんな姿に吹っ切れたのか、アーチャーもまた同じような表情を浮かべて言い放った。
「どちらもお断りだ」と。
言うや否や、武装を解除したその黒い鋼の肉体は、幾分筋肉で劣る白い肉体を組み敷いていた。
傍目にはスローモーションのようで、そして本人たちからすれば刹那の出来事。
「ん…………………」
ちゅ、ちゅという柔い肉と唾液の擦れる音が微かに響く。
それ以上何も言わせない、とアーチャーは自らの口唇をもってランサーの口唇を封印するかのように塞ぐ。口唇そのものだけではなく、結局のところ身体を重ねながらの口付けであるそんな行為に、いつしか2人の吐息は乱れていった。
「……………っ………」
「は…あ……………」
どちらが先に口唇を離したか、そんなことを考える暇もなく互いに互いの身体を貪る如く重ねられた身体は蠢動を繰り返す。
けれど、主導権を握ったのは与える側の褐色の肌の身体だった。
「んあ……っ………!」
幾度となく高みまで強引に昇らされ続けたランサーの身体にとって、探り当てられた敏感な部分に触れられるだけで身体が跳ねる。もはや条件反射とでもいうべきものだった。
おかげで褐色の手が愛撫を施そうと動く以前……体格が似通った身体が重ねられて、胸の飾り同士だけでなく性器が擦られることにも激しく反応を示す。
「…………随分と感じやすい身体だな」
「テメエ……張本人が何、をっ………んっっ!!」
笑い含みに耳元に囁くアーチャーに思わず憎まれ口を叩くランサー。けれど、僅かばかりのそんな抵抗も次から次へと与えられる快感に覆い尽くされてしまう。
片方の手は指を絡められるようにして重ねられ、あの独特の質感の指で指の股を擦られる。けれども……自分で誘いをかけておきながら、簡単に流されたくはないと半ば意地で執拗に抵抗を続けるランサーは、やり場の無い片方の手で大地を掻く。まるで快感を痛みにすり替えるかのように。
そんなランサーを多少の余裕をもって眺めながら、アーチャーは少しばかり虐めてみたくもなった。何しろ自分から魔力をよこせ、と誘いを掛けておいて抱こうとすると快感に溺れるのを拒もうとするのだ。だからこそ―――何も考えられなくなるくらい乱してやりたいとさえ思う。
「君が私を欲したのだろう、ランサー」
快楽を共有していた肌を離すと、アーチャーは身体を起こしてランサーを見下ろす。
上気した頬が微かに色を帯び、白い肌に華を添えているかのような顔。その微かな色みは白い身体の全身に拡がり始めていた。
「…………………そうだ」
瞳は潤み始め、吐息にも艶と色を帯びて……それでもランサーは、どこか自らの優位を抱いたような口調でアーチャーの言に頷く。
「ならば―――与えてやろう。君が要らないというまで……いや、君が要らないといっても」
溢れるほど、その身体に。
そう宣言すると、アーチャーはランサーの膝裏を抱えあげるようにして持ち上げた。
「あ―――……ぁ―――っ…………!」
猛る剛直が狭い空洞を掻き分けるようにして貫く感覚―――それは幾度味合わされても慣れることができない。その証拠に身体は硬直し、せめて呼吸をと思って口を開くと、飲み込むことができない唾液がだらしなくも口の端から零れる。
「…………ん………んんっ………ぁ……」
「…………………ん………っ」
けれど、挿入する方もまたいつまでたっても慣れない秘部に、拒絶されているかのような気分すら感じてしまう。殊に、これまでの行為が無理強い…いわゆる強姦のようなものだったのだから余計に。
腰斬される方ではなく、縦に真っ二つに裂かれる感覚―――目の前にはそんな情景しか考えられないランサーは、無意識のうちに少しでも楽な姿勢を、と腰を浮かせ背を反らす。仰け反るような体勢にされながら、自らの内を進んでくるアーチャーの肉の楔の感覚を辿る。みし、という音さえ聞こえそうなほど無理な挿入。けれど、内側から説得するかのように少しずつ進んでくる様子は、これまでのアーチャーの行為とは大分異なっていた。
―――ああ、これが…………。
抱かれるという感覚だろうか。今までの犯されるという行為に比べるとよくわかる。していることは同じだというのに。
ずぷ、といやらしい水音が最後だったのか、それきり身体を裂く感覚は息を潜めた。それでも、内側に異物が息づく感覚はまだどこかランサーの思考を淫らに導いていく。
「………………ぁ………ん…」
と、いきなり内側の猛りがずる、とランサーの中から引き抜かれるように動いた。思わず発してしまった嬌声に、動きを止めた楔だったが今度は反対方向…再びランサーの内を侵食するように突き進む。
「ひ………ゃ……………っ……」
再び漏れるあられもない嬌声。
ランサーのそんな声に手ごたえのようなものを感じ取ったのか、アーチャーは執拗にその行為を繰り返した。その度にランサーの喉の奥からは、普段の彼からは想像もできないほど乱れきった声が漏れた。
「……………………」
繰り返すごとに、アーチャーもまた自らの身体を沈めるようにして身体を再び密着させていく。と、縋ろうとしたランサーの手がアーチャーの背に回された。しがみ付くというよりは自分の方へ引き寄せるために回したのだろうランサーの手に応えるべく、アーチャーはその白い身体を覆うように身体を寄せていった。
「…………っ……は…………っっ………」
その度に中の楔の角度がずれ、新しい快感を生むのだろう。ランサーは尚も一層鋭い声で啼く。時々口唇が戦慄くのは何かを言いたいのだろうか……そう思ったアーチャーは、まだ少しだけ余裕のある顔をしてみせると、続きを促すようにランサーの顔に自らの顔を近づけた。
紅い瞳に自分の肌が、髪が映る。それだけでもどこか性感を高められてしまうというのに、追い討ちをかけるようにランサーの口唇が動く。
「……エ…………ミ、ヤ……………ぁんんっっ!!」
その時感じた戦慄は言葉で表せるものではない。
身体だけでなく、魂までが打ち震えるのではないかというくらいの慄き。それは確実に性感となってアーチャーの身体の変化へとたどり着いた。
「な、なん…で………いきなり、大きく…………」
内側を無理やり拡げられたことに抗議するランサー。
けれど、いつもなら皮肉気に返そうはずのアーチャーが神妙な表情をして言ったのは、
「…………すまない」
との一言だった。
>続く
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