5.

「ん………………?」
 
 気づけば、この荒野に存在する人影は一つ。
 それも自らのみ。
 横たわったまま首を巡らして周囲を検分したランサーは、ふう、と一つ息を吐くと空を見上げた。赤い空の彼方に瞬いているかもしれない、星を探すように。けれど、空の赤色は星より先にランサーに現実を突きつける。
 赤い―――陵辱の記憶を。



 切り裂かれた背中から入り込んだ手は容赦なくランサーの身体を弄っていった。弓を引く者が持つ独特の指の硬さ。それは熱さを伴って、皮膚の上からランサーの身体を冒していった。熱に浮かされるように呼吸は荒くなり、身体の震えが少しずつ大きくなっていくのを感じ取れるまではよかった。いうなれば、それは理性が残っている証のようなものなのだから。
 だが途中から―――その独特の質感を持った指が身体の中心を愛撫し始めると、反射的に腰が跳ね上がった。そんな体勢は嫌だ、と理性の残る部分から叱咤され両の腕に力を込める。が、結局のところそれはアーチャーの巧みな誘導に引っかかっただけの話だった。

「狗の名に相応しい受け入れ方だな、クー・フーリン」

 幾度となく真名を呼ばれてはいたが、この時の言葉ほど激しくランサーの逆鱗に触れたものはなかった。羞恥と怒りで頬に朱を散らし、精一杯首を巡らして無礼な弓騎士を睨み付けようとした。けれど、激昂したために血の巡りがよくなったことで、感覚が敏感になってしまった。
 冷徹な弓騎士はここまで計算していたのである。
 一度目の解放はあっけなく、アーチャーの手に吐き出した。

 一度目の名残で秘部を慣らされ、親指の根元までを受け入れさせられた。身体を無理やり開かれる激痛の後には、最奥まで届かないもどかしさがランサーの身体を絶えず襲い続けた。それでも倒れることを拒む獣のように、両腕に力を込めて抗った。
 そんな抵抗が挫かれたのは、今までとは比べ物にならない質量をその狭い空洞に受け入れた瞬間。
 元より、魔力を喪い消失寸前の身体だった。それを支えていたのは強靭な意志の力。しかし、そんなランサーの精神力を易々と打ち砕くように、アーチャーの肉の楔はランサーを貫く。がくがくと震える両腕は自身の身体を支えることができず、崩れ落ちた。
 漏れる喘ぎは少しずつ大きくなっていく。快感を逃がすためのものであったそれは、次第に相手を誘うような甘さを含んで激しい呼吸と共に繰り返した。幾度となく最奥を突かれ、身体の中心がいとも簡単に熱と力を帯びてくるのを感じながら、ランサーは二度目の絶頂を迎えた。それは同時にランサーの内に自身を突き立てているアーチャーをも道連れにはずのものだった。
 だが、

「………………………くっ…!」

 ランサーの秘部が収縮するその瞬間、アーチャーは自らのモノを引き抜くとその余韻で解放した。当然、ランサーが欲しがっていた魔力―――を含んだ精―――は彼の中に与えられない。達した後の疲労感だけが残った身体で、それでも抗議の言葉を発しようと口を開きかけたランサーだったが、抗弁する間もなく身体を仰向けにされる。
 まだ身体の前面は青の衣で覆われていて、その白い身体が淡く色づく情景は見られない。唯一、快感の色を浮かべている顔を眺めると、アーチャーは正面から覆い被さる形でランサーの耳元に口唇を寄せた。

「欲しかったら―――私を離すな」
 
 足でも絡めて、私の身体に縋れ―――そう言うや否や、アーチャーは再びランサーの身体に挑みかかった。膝裏を持ち上げるようにして肩に担ぎ上げる。視界の中心に赤く爛れた秘部を映すと、口唇の端に笑みを浮かべ、再び肉の槍を突きたてた。
 快感の余韻が再び煽られる。直ぐに最奥を突き上げる先端と、狭い秘部を支配する剛直。短い間に直接的な刺激を受けること三度。当然のことながら、三度目の絶頂はすぐにやってきた―――。




 その後、中で締め上げて精を得たのか、実はいまいち確証が持てないランサーだった。何しろ、三度目の絶頂の後の記憶がないのだ。気づけば、剣の墓標が立ち並ぶこの荒野に放置されていたのだから。
「……………早いとこ、出口を見つけねえと、な」
 多少掠れてはいたが自分の声だ。どうして掠れているか、ということを思考の外に追い出すと、起き上がろうと腕に力を込める。が、鉛のように重い身体は少しも持ち上がらない。結局のところいいように犯されただけか、と踏ん切りをつけると身体の痛みを堪えて右足を動かす。右手が届く位置までは、と足を動かすたびに走る電流のような痛みに顔を顰めつつ、それでもようやく右足の踵に右手が触れる位置まで移動させた。
「こっち、だったよな………」
 踵の装甲部分。人体の急所である腱を守るためだけに重厚になっているのではなかった。ぱち、と軽い音を立ててその部分の金具を外し、中に隠し持っていた小石を取り出す。小石には一つ文字が刻まれていた。
 アルファベットの「B」に似たその文字は、16番目のルーン「ベルカナ」。
「探索」を意味するそのルーンを解放すると、ぽいと投げ出した。瞬間、その小石は鈍い色の軌跡を描いてランサーの視界から消えた。

 ベルカナのルーンが何かを見つけるまでには時間がかかるだろう。そう踏んだランサーはため息にも似た呼吸を一つすると、両の瞼を落とした。


 脱出するためにランサーが今できること。それは体力を回復すること以外なかった。




>続く
>戻る

>裏・小説部屋へ戻る
>小説部屋へ戻る