7.

「……流石に、それくらいではうろたえることはないか」
「ふん……未通娘であるまいに」
 これから何をされるか、想像などとうについているだろうに、ランサーは表情一つ動かすことなくアーチャーの瞳と対峙した。
「本当に君は……恐いものなどないのだろうな」
 自嘲の色を深く漂わせるアーチャーの科白に、ランサーは奇妙な苛立ちを募らせる。
 恐いものがない、というならばむしろ眼前の男だろう。自分を監禁して強姦したとか、主との契約を真正面から裏切ってみせるとか、そういうことではない。
 
 自己の完全否定。

 自己を完全肯定することが恐いもの知らずならば、そのまた逆も然り。アーチャーとの短いやり取りからランサーが感じ取ったことは少ない。けれど、その少ない情報からはアーチャーの思考の道筋が浮かび上がってきていた。
 眼前の男は魔術師として大きな力を得た。そして、その結果多くの人間を死に至らしめた。
 そして―――力そのものだけではなく、力を得た自分、力を欲した自分を否定している。
 これは既に自己嫌悪、自己憎悪といったレベルではない。おそらく、聖杯を得たこの男が望むことは―――自己の完全な、永久なる消滅。その一点のみだろうということはランサーにも予想がついた。

 ここまで真逆の性質だとは―――どうりで、初対面から気に食わねえワケだ、とランサーは思わず口の端に苦笑を浮かべた。
「何が可笑しい?」
 咎めるアーチャーの声に、本当に注意して聞いていなければ分からないくらい微かに苛立ちが含まれていたのを感じ取ると、ランサーは自分が置かれている状況を理解しつつもまた笑いがこみあげきてしまった。無論、そんなランサーの様子を見逃すアーチャーではない。
「……君は自分の立場がわかっているのか」
「わかってるさ」
 完全に押し殺した表情の下から、普段より腹の底に響きそうな声で問うアーチャーに即答するランサー。これだけでもアーチャーの癇に触れるというのに、わざわざ、

「今のオレは貴様の慰み者だ―――アーチャー」

 などとわざとアーチャーの神経を逆撫でするように返す。すると、今まで余裕ありげに振舞っていたアーチャーの態度が一変した。その余裕が失われたわけではない。ただ今まで被っていた形ばかりの丁重さを脱ぎ捨てて言い放った。

「ならば、慰み者として相応しい扱いを受けるがいい、クー・フーリン」

 その言葉と同時にランサーの周囲を銀色の閃光が走った。軌跡を目で追おうとしたランサーだったが、その銀の光跡はランサーの腕に絡みつくと同時に、銀の鎖へと具現化したのである。
「な………!」
 鎖は簡単にランサーの両腕を引き、その頭上へと導くと一つに纏まった。それだけではなく、上半身しか起き上がる力のないランサーの身体を持ち上げ、無理やり立たせる体勢へと運ぶ。
「これは……!?」
 ランサーの視線に合わせるように自らも立ち上がったアーチャーは、驚きの表情を浮かべているランサーの顔を楽しげに眺めると説明し始める。
「英雄王ギルガメッシュの持つ『天の鎖』……君のような半神には効果的な……」
「ちょ、ちょっと待てよ。オマエ…今何て……」
 アーチャーの言葉を遮ると、更に驚愕の色を濃くしたランサーが噛み付くようにして問う。
「だから、君のように神の血をその身に宿すものを捕らえるための……」
「違う! オマエが何故……!?」
 そう、アーチャーは自らその宝具を使用しつつも言った。
 英雄王ギルガメッシュの持つ、と。
 つまり、この宝具の本来の持ち主は彼の原初の英雄王。その英雄王の持ち物を何故、縁も所縁もないであろうこの男が使用しているのか。
 ランサーの問いの意味など察しているだろうに、アーチャーははぐらかすと真っ向から無視することを示すかのようにランサーの身体に手を触れた。


 ランサーの背後に回ったアーチャーの褐色の手は、後ろから容赦なくその白い身体を這った。
 手だけではない。耳朶から耳の後ろへ、首筋を背中の方へと口唇もまたその線を辿る。身体を固くしていたランサーに最初の波を与えたのは、背後のアーチャーが自らの歯型を残した傷痕を吸い上げた感触だった。ぞく、と身体を這い上がるおぞましさにも似た感触に震えたランサーを逃さぬと、アーチャーはすかさず右手をランサーの身体の中心へと這わせる。その熱い手に呼応するようにして、引きずられるようにして、ランサーは熱い吐息を漏らした。

「罪作りな身体だ……一体、何人の男を虜にした?」

 戦場に独り立つ雄雄しい姿もこの槍の英雄の姿であれば、ここに弓騎士の手で淫らな態を晒す姿もまたこの男のもの。その差異があるからこそ、白い身体が淡く色づくこの姿が尚のこと一層映える。
「…………………………」
 アーチャーの挑発の科白にだんまりを決め込むランサー。そんな対応にも別段気を悪くすることもなく、ただある一種のひたむきさを込めるかのような手つきで、アーチャーはその身体を暴いていく。
 ―――慰み者に相応しい扱いを、とそう自らが放った言葉とはまるで対照的に。
 それは嬲られるランサーとて頭の片隅に疑念を抱くくらいに。だが、そうしたランサーの余計な思考を剥ぎ取るかのように、アーチャーの手は彼の身体と思考に快感だけを教え込んでいった。
 丁寧な手淫と同時に、後ろからは指が内部へと入り込む。
 前後を同時に責め立てられて、性感を教え込まれた身体は呆気なく流された。
 慣らされたランサーの身体を次に支配したのは、あの剛直だった。
 後ろから大腿を抱え上げられ、腕は鎖が支える。そんな不安定な身体はまるでよすがを求めるようにして繋がった箇所に力を込めた。当然、その大きさと質量だけがランサーを支える。
 離さない、とでも言うかのように締め上げるそこに、思わずアーチャーも声を漏らす。それでも、この弓騎士は忘れてはいなかった。
 槍の英雄を留め置くためには、自らが内部で放ってはならないということを。

 二度も快感の渦へと突き落とされ……あまつさえ無理な体勢で受け入れたために体力の消耗が甚だしいランサーは、首をがくりと落とすとやっとのことで身体全体で呼吸している。鎖で身体を持ち上げられているため、呼吸するにも一々身体全体を使わなくてはならない。そうなると、唯でさえ疲労の極地に来ている肉体にとっては大きすぎる負荷を伴った。
 それでも。
 この槍の英雄は一言たりとも哀願の言葉を口にすることは無かった。
 それは、既に言葉を口にする力がなかったということだけではない。
 アーチャーは、そんな荒い呼吸を繰り返すランサーを複雑な色の瞳でただ見つめ続ける。
 もし、この場に人が―――アーチャーの元の主である少女がいたならば、もし、ランサーが顔を上げてアーチャーの瞳を見つめ返すことができたのならば、おそらく彼の肌の色にも似た瞳の中に相反する二つの感情が宿されていたことに気づいたかもしれない。
 けれど、少女は此処に入る術は持たず、槍の英雄もまた何もできる状態ではなかった。

「ふむ……身体は指一本動かすことはできずとも………」
 自分の感情に蓋をするように一度瞑目したアーチャーは、何かを断ち切るようにしてランサーの身体へ歩み寄る。
 ここはどうだ、と細い腰を抱くようにして腕を伸ばしたのもつかの間、臀部を辿った手は、幾度となくアーチャー自身を呑み込んだ秘部へと指を差し込んだ。ずぷり、と慣らされた其処は簡単に指を受け入れる。既にその程度では身体は反射しない。が、指の先が最奥を突くと、びくんとランサーの身体は痙攣した。
「まだ感じるのか……」
 それだけを言うと、力を失っている大腿を今度は前から抱え上げるアーチャー。自分の先端を濡れる秘部へあてがうと、一気に貫いた。
「は……あ、ん…………」
 反射的に漏れた声と、反射的に締め付ける内部。そして、これだけ責め立てられたにも関わらずランサーの身体の中心は再び頭を擡げていた。
 二三度突いて解放してやると、身体が揺れる拍子で俯いていたランサーの顔が表を上げる。

 濡れた口唇、虚空を映す紅い双眸。
 恍惚に塗れた―――壮絶な色香。

 ぞくり、と自らの背中を駆け上がってくる快感に目を瞑ると、アーチャーは自らのものを引き抜き、完全に力を失ったランサーの身体を戒めていた鎖を解く。汗と精液に濡れる白い身体を抱きとめると、一度だけその身体を抱きしめた。



 震える手で。




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