こどもの浅知恵 3〜すべてこの世はこともなし





「何でこんなことになったのかなあ………」
「まったくだ。あと少しでトヨエツのタイムサービスが始まるというのに………」
 褐色の肌の男がぽつりと漏らした言葉を、赤茶の髪の少年は聞き逃さない。
 聞き逃さないがゆえに、表情を引きつらせる―――同じ目的だったことに。


「お待たせしました!」
 僅かに息を切らせてやってきた金髪の子供は、その大きいとは言えない手に3本のコーンを抱えるようにして持ってきた。
「はいどうぞー。サクランボのジェラートだそうです」
 間抜けとしかいいようのない風体でベンチに腰掛けていた二人にアイスクリームを手渡すと、少年は微妙に距離を保つ二人の男の間に滑り込んだ。
「しかし、お兄さん方ってホント仲悪いですね」
 同属嫌悪ってヤツですかねー、と少年は明るい調子で言いながらぱく、とアイスクリームを口にし始める。
 そんな少年王の発言に、



『お前が言うなーーーーー!!』
 期せずして、英雄以前と英霊後の声が唱和した。



「・・・で、どうして君は私をここに誘ったのかね」
「それは俺も聞きたい」
 左右の男二人の問いに、少年はただ手にしたアイスクリームにかぶりつく。
 大人の発言を右から左、左から右へ流す少年。その光景はどこにでも転がっていそうなホームドラマのワンシーンのよう。
 ついでに。
 返答のない少年に対して、ヤケになったかのように大人までアイスクリームにかぶりつく様もまた、昨今のホームドラマのワンシーンそのものだった。しかも二人同時。

 三人並んでアイスクリームにかぶりついている様は、異様。なのに、どこか微笑ましい。
 これぞ、ニホン古来より存在するホームドラマのあり方。


 三人のうち、二人はどーみても外人にしかみえないというのはおいといて。



「なんかもう、ことごとく上手くいかないって、どんな気持ちですか?」
 アーチャーさん、と金髪子供は名指しで左側に座った男に話しかける。思わず返答に詰まった男だったが、子供を挟んで反対側の少年が「ぷ」と漏らしたのを聞き逃さない。
「そりゃもう、自分を殺したくなる」
 そんな風にいけしゃあしゃあと口にする。男のその発言を耳にした少年がげんなりとした表情をするのを横目で見遣りつつ。
「じゃあ、お兄さんはどんな気持ちです?」
 今度は士郎に話の矛先が向けられる。可愛らしく小首を傾げて問うてくる子供の視線を受けながら、士郎は十秒ほど考えるときっぱりとした口調で断言した。
「とりあえず、諦めないで続けてみる」
 微かに俯いた顔を上げると、青い空を仰ぎながらそう口にする。
 
 エミヤシロウの名に縛られる二人の言葉は、全く違うもの。
 同じ名をもっていようとも、同じ魔術を行使しようとも、その在り方が違うのだから仕方がない。

 この金髪王子と、全身に黄金を纏う暴君(タイラント)が同じでありながら違うように。


「お兄さんのご意見ももっともだと思うんですけど………」
 士郎の言を肯定しつつも項垂れる子供。先を促すように、あえて口を開かない二人のエミヤシロウだったが、キッと顔を上げすっくと立ち上がった子供が、


「ランサーさんのばか〜〜〜〜〜!!」


 と叫ぶ様子には二人同時に目を丸くした。
 けれど、少年の爆弾発言はそれだけに留まらない。
「アイスキャンディーをいやらしく舐めてくれないしー! カル●スの原液を飲んでいるところを後から叩いてもげほげほしないしー!! あーもう! 口の端から零してるのを見たかっただけなのにーー!!」
 ・・・・・。
 子供の口から飛び出す邪悪な言葉に、士郎もアーチャーも二の句の告げようがない。
 ところが、
「バナナらって一飲みにひちゃうひー! アイスクリームらってらめらいでらえちゃうひ〜〜!! えっと……んっと………」
 子供の口調は次第におかしくなっていく。日本語としての体裁が整わないというか、呂律が回っていないというか。この状況は………。


「そういえば、このジェラート、何か濃厚なコクがあったというか……」
「キルシュだ」


 そんなコトもわからないのかこのたわけ、言外にそんなセリフを滲ませながら士郎の問いに答えるアーチャー。けれど、肝心の士郎はというと小姑の説教など馬耳東風。

 今でこそ善良な、子供たちのヒーローなキング。
 もし、酔っ払って、本性が現れたりしたら……!! それは………!!!

「やばいことになるんじゃ……」
「大丈夫だろ」

 ぽつ、と漏らした士郎の言葉に応えたのは、もう一人のシロウにあらず。
 いつの間にか現れた蒼髪・紅眼の槍の英雄・・・子供の罵倒の対象となっていた男だった。

「ランサー……?」
「…………………」
「よう、ボウズも黒んぼもガキのお守ごくろーさん」
 それだけ言うとランサーは、役立たずー、とか、ましょー、とか、おんなったらしー、とか酔っ払い特有の呂律の回っていない口調で、無茶苦茶なことを口走り続ける小さな英雄王を背後から抱き上げた。


「誰が不能で魔性のゲイでスケコマシだって?」
「………今、ボクを子ども扱いして抱っこしてる男の人のコトです」


 うー、と恨めしげな声で背後を振り向く小ギルガメッシュ。八つ当たりにも近い子供の暴言に対するランサーの答えは―――そりゃ、という気合声にも似た一言。同時に、軽く持ち上げられていた子供の身体は更に高く持ち上げられてしまっていた。


「反則っっ! こんなの反則ですよう!! ランサーさんっ!!」
「ばーか、子供を運ぶのに反則も何もあるか」


 身体と身体を向き合わせられ、細いながらもがっしりとしたランサーの左腕に腰掛けさせられ、背中をぎゅっと抱きしめられるそれは………子供を抱くためのもの。
 おーぼーです! とか、ボクを子供扱いしないで下さい!! とか抱き上げられてすぐにはばたばたと手足を動かしつつ罵声を浴びせていた小さい英雄王だったが、時間がたつにつれてその抵抗は小さくなっていき、遂にその手は抱き上げる男の首に縋るように巻きつけられた。



「よし、捕獲終了」
 すっかり大人しくなったギルガメッシュの背をぽんぽんと二度叩くと、ランサーは呆気に取られたままのエミヤ×2に、邪魔したな、との一声を残しすたすたと歩き去っていった。
 呆然とその後姿を眺めつつ、士郎は呟く。


「何、アレ」
「痴話ゲンカ以外の何に見えるというのだ」



 悟りきったアーチャーの一言。
 それがこの状況を表すのに唯一絶対な言葉であるのは、言うまでもなかった。



>続く

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