10.


 一度目は学校の廊下。避けることも叶わず、ただその朱色の槍が自分の心臓を貫く感触が全て―――けれど、身体の中に宿る『何か』と、一人の父親が愛する娘のために蓄えた魔力を得て自分は覚醒した。
 二度目は自宅。学校の時と比べたら格段の進歩だった。もっとも、サーヴァントから見れば人間の格段の進歩なぞ、蟻に噛まれる程度のもの。一瞬驚いて手を離すにしろ、すぐに踏み潰す事など造作もない―――けれど、逃げ込んだ蔵の中で月光に織り成されたかのような、美々しい鎧姿の少女の手によって自分は助けられた。


 そして、
 二度も自分を死の淵へと追いやろうとした男を、今の自分は―――犯そうとしている。





「んっ……っ………!!」
 濡れて滑りが良くなっていたとしても、その部分はもともと何かを受け入れるような構造にはなっていない。なのに容赦なくそこに熱くて硬い歪なカタチのものを挿入されたのだ。苦痛を耐える呻き声が漏れるのも仕方がない。けれど、

「――――――っく………!!」
「んぁ―――………ぁうっっん!!」

 少年の先端が強引に男の身体へと衝き立てられた瞬間に男の口から漏れたのは、喜色を滲ませた素直な嬌声だった。


 キモチよい、と。


 言葉にならない声が、その喜悦を物語る。
 何かに耐えるように、一度閉じられた瞼がぴりぴり痙攣すると、長い睫毛もまた擦りあわされるように震える。
 快感を逃さぬと、飲み込むような素振りを見せる口唇もまたぎゅっと閉じられたかと思えば、瞬時に身体に収め切れなかったそれを吐き出すように、喘ぎが漏れる。
 瞼も、口唇も、そして少年の雄を受け入れている秘部も……全身の筋肉という筋肉を一挙に収縮させると、ランサーは強張った身体をゆっくりと弛緩させる。別に、それは彼自身の意思ではなく、単なる身体の反射だった。
 

「フ……浅ましいというか、素直というか。内に放たれる度に達していては、身体が持つまいに」
「この狗を躾たのは貴様だろう、言峰」


 背後でランサーの身体を抱き支えるギルガメッシュは、ランサーがだらしなく開いた口から溢す唾液を掬い取ると、そのまま指を捻じ込む。
「ん…………」
 何も映さない紅い瞳を半分だけ見せるように瞼を開くと、ランサーは素直にその指に舌を絡めた。ちゅ、ちゅく、と微かな音を立てながら執拗に英雄王の親指を舐めしゃぶる。が、ギルガメッシュは飽きたとばかり、即座に指を離して見せた。
「まだ足りぬらしい。ああ、確かに……こんな雑種の魔力程度では身体が保たないのだろうよ」
「………なるほど」
 と、正気を半ば失っているかのような槍騎士の様子に頷いた神父は、その白い身体に自らの雄を衝きたてたまま動けないでいる少年の傍らへと足を向ける。


「…………!!」
「ぁぐ、っ………!!」


 そして、何も言わずに少年の背……ちょうど背骨と坐骨の境目あたりをぐい、と押し出した。中途半端にランサーの身体の中に入っていた士郎の先端は、その拍子で一直線にランサーの奥深くを抉る。狭い……敏感な内側を熱い肉で串刺しにされ、たまらずランサーは反射的に士郎を締め上げる。
「……っく………」
「……………ん………………んっ…………」
 そんなランサーの身体の反応に、士郎は筒の中に残った飛沫の残滓のみならず、新たな欲望が逸るのを頭の片隅で感じてしまった。




 外側も内側も全身が感覚神経の末端になってしまっている青の槍騎士。
 触れれば触れるだけ、内を突き進めば突き進むだけ、彼は自分の雄の部分を煽り立てる。


 それだけではない。


 あの日―――力の片鱗すら持たぬ自分の前に、英雄として……英霊として圧倒的な力を見せ付けた男。その男が今―――自分の下で、自分に犯されて喜悦の声を上げている………!

そんな気の遠くなる背徳とも言うべき快感こそ、士郎をただの獣にさせるタチの悪い媚薬。

 朱色の魔槍に心臓を貫かれたお返しとばかりに、肉の槍で感じやすい部分を抉る。
 痛みと恐怖で殺されかけたお返しとばかりに、快感と官能で滅茶苦茶に縛り付ける。

「ぁ……ぅ、ん…………ぁ、っ………んぁ、っ…………!!」

 彼の言葉にならない喘ぎは、あの日の自分が漏らした苦悶の呻き。
 彼の快楽を滲ませた瞳は、あの日の自分が浮かべた生への渇望。



 ―――相反するように見えて、それは実は……………!!






 大量に注ぎ込まれる白濁。
 そしてそれに含まれる―――魔力。
 受け入れたそれは、あまりにも馴染みやすく……あまりにも少なすぎた。

 澱んだ魔力をその身に宿す偽の主と、その主本来のサーヴァント。
 根源の欲望の権化『この世全ての悪(アンリマユ)』は、人がヒトとして抱く純粋な欲望そのものだ。人間である以上、ヒトである以上、決して絶えることのない―――純粋無垢な欲望、そして……憎悪。
 無論、ランサーとて欲望のない存在であるはずもない。そもそも、欲望がなければ、"世界"との契約によって自らを差し出したりはしない。ただの伝説上の英雄の一人としてそれなりに崇められ奉られ、いつしかその存在が消え行くのを漫然と待つのみだっただろう。

 けれど、彼はあまりにも純粋でありすぎた。
 彼の故郷では、彼に勝る英雄など存在しなかった―――それは彼のその純粋さ故に。
 だからこそ、彼はその身を持って"世界"との契約に応じたのだ。

 ―――叶えることのできない『望み』のために。

 
 けれど、望みのためとは言え、自らの内に「憎悪」という因子を住まわせることに大きな抵抗を感じた。愛も憎しみも……激しい感情は一瞬のもの。それを全て内に呑みこんで沈めることが、彼の生の規範。

 だが結局のところ―――彼は主の澱んだ魔力を受け入れるしかなかった。
 望み……欲望を叶えるために必要なのは、憎悪の念を含んでいようとも「魔力」なのだから。
 だから………彼は、アイルランドの光の御子と謳われた英雄は、最も屈辱的な方法でそれを与えられながらも、受け入れたのだ。

 自らの望みに殉じるように。


 けれど、ここにきて自らの内に注ぎ込まれた魔力の、なんと馴染みのよいことか。
 もちろん、屈辱的な……女のような扱いを受けることに違いはない。けれど、澱んだ内に染み入るそれは、何の抵抗もなく彼の糧となった。
 そう。一欠片の違和感もなく、僅かな拒絶もなく。


 だから―――ただ切実にもっと欲しい、と思った。


 幾度となく男に組み敷かれた身体は知っていた。
 どうすれば、雄に刺激を与えられるかというコトを。精を得られるかというコトを。

 そして、身体は動いた。
 誘い込んで、貪って……それでも足りない、と更に奥へと…自分の方へと引き込む。
 彼にとって馴染みのよい魔力を持つ少年は、まだ年若いせいもあるのだろう。彼がつむぎ出す刺激に応えるように、素直に雄を昂ぶらせていく。

 まだ足りない。
 もっと欲しい―――!!

 いつの間にか自由になってしまっている手を伸ばすと、少年の腕を掴んで引き寄せる。すると、自らの内に穿たれているソレは開かれた自分の中を抉る。当然、きゅうと締まる自分の秘肛に、相手は散々絞られる。


 望みを叶える為に男を受け入れる苦悶を喘ぎに隠して。
 現界するために…生への飽くなき欲求を快楽に潜ませて。


 けれどいつしか、快感を得ることと魔力を得ることが同一化されていって。
 さらに、魔力を得るための快感を受け入れていたことが―――魔力を得るためという大義名分の殻を被った快楽への欲求へと変じていっているような気がして………!!! 
 そんな自分が、酷く醜い生き物になったみたいで、どこか哀しい、と思った。

 そして自分自身を哀れむ自分に、どうしようもない怒りと羞恥を覚えた―――。









 そんな行為をどれだけ続けたのだろうか。
 幾度となく絶頂を繰り返し、吐精を繰り返し、もう身動き一つとれない疲労が士郎の理性を呼び覚ます。自分は一体何でこんなことをしているのか、そもそもここは何処なのか……そんなことを思う暇もなく士郎は自分を埋め込んでいる身体を見下ろした。


「え…………!?」
 いつもは軽甲冑に覆われている身体の白さに目を奪われた。
 けれど、その肌はより白い液体によって散々汚され、所々には紅い斑のような痕跡すらある。
 投げ出された手足は、大地を力強く踏みしめる獣の雰囲気を感じさせない。
「………………」
 薄く開いた口元と、塗れたような光沢をまとう口唇。
 濡れて紅味を増したそれは、女にすら持ち得ないほどの吸引力。


 そして、

「………………うそ、だろ………」 




 その男の閉じられた瞳からは、長い睫毛を伝って―――ただ一筋の涙が流れていた。




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