9.


 与えてやれ、というその言葉は犯してやれ、と同義だと解っていた。
 あの白い身体を組み敷いて、あの白い身体に自分の雄を挿し込んで、あの白い身体の中に精液をぶちまけろ、ということだと解っていた。

 快感を与え、パスを繋ぎ、魔力を補給するということは、そういうことだ。

 ぐったりとうつ伏せになった男の身体を、戒めていた鎖が誘導する。人の手のように、いや人の手より鮮やかに手際よく仰向けにさせると、その拍子に、汗を吸って重くなっただろう髪もまた揺れる。
 艶めきを増した青い髪が、手招きして誘いかけるように揺れる。


 いつの間にか、そんな色の判別がつくほど室内は明るくなっていた。
 別に、灯りをともしたわけではない。雲の隙間から月の光が差し込んできただけ。
 なのに、いや、だからこそ―――


 彼の身体は、例えようもなく淫猥だった。


 ごくり、と唾を飲み込む。
 狂ったように自身の内で荒れ狂う熱。解放する場所を、時を求めて荒れ狂う熱。

「…………………………」

 楽になりたいと訴える身体と本能なのに、足は前に進もうとしない。
 むしろ、できることならこの場から立ち去りたいとさえ思う。これ以上この場に居たら、



 ―――自分は彼を犯してしまう………。







「さて、どうする衛宮士郎」
 ここまできても、神父の声は慈悲深い。威圧的であろうとも、その中には確かに慈悲と呼ぶに相応しい声色が存在していた。
「光の御子が欲するのは、穢れのない純粋な魔力―――お前のような『正義の味方』が持つ魔力だろう」
 固まったまま動けない士郎の耳元で囁く言峰。そして、寝台の上からは、
「―――雑種」
 明らかな蔑みの瞳で、金髪の男の宣旨が下る。
「この姿を見て、何も感じぬような不能ではあるまいに」
 気がつけば、

 槍兵は金色の王に背を抱き起こすように支えられ、体液に塗れた身体を、官能に溺れた顔を士郎の眼前に晒していた。

「………………………あ……」

 瞳は虚ろ。ただ紅いだけ。
 口唇は半開き。唾液の跡も生々しい。
 頬は淡い紅。まだ快感の余韻を残して。


 ―――……そうだな、お前なら……―――


 あの時の、男の面影は―――ない。
 それが余計に、士郎を躊躇わせる。
 何を躊躇う必要があるのかわからないのに。
 あの時の男の面影がないのだから、余計な罪悪感なぞ抱かずに済むというのに。

 何故、なのか。
 解らないまま、ただ士郎は縫いとめられたような足を震わせていた。






「………………………………」

 顎を掴まれ、顔を上げさせられているが、何も感じない。
 むしろ、冷たい手が熱い身体に触れるのが心地よい。
 熱い、泥にも似た澱が一方的に溜まっていくのが気持ち悪い。
 なのに、
 魔力だ、と思うと身体がそれを啜り上げる。

 浅ましきかな、使い魔(サーヴァント)の身体。
 これではまるで―――死に瀕した自分の血を啜り上げていたカワウソと変わりないではないか……!
 
 昔の事を思い出した瞬間、ふ、と急激に意識が鮮明になってくる。
 ぼやけていた視界がくっきりとしてくる。神父の装身具が月に照らされているのがわかる。
 そして、その傍らには、

「……………………え……?」

 赤茶けた…仔犬の毛のような髪の少年が此方を凝視していた。

 何故、と思う余裕もない。
 見られた、と思う余裕もない。

 自分を見つめる少年の瞳がどこか熱を孕んでいるかのようだということ。
 何より、少年の股間の一物が、自分を狙いすましていることだけが理解できる全てだった。





 じゃらり、と蛇のようにうねっていた鎖が動く。
「ひ………っ………!!」
 疲労の極地にあるランサーには、抗う術などない。例え、魔力が充分であったとしても、逃れることの叶わない『天の鎖』。けれど、この時の鎖は何時にも増して残酷だった。
「や、やめろ……っ…………!!」
「ふ………貴様も王の一族にあったものだろう? ならば、格下の者を教え導いてやるくらいのことはできぬのか」
 ランサーの背を支える男は、耳朶を食むように口唇を触れると容赦ない言葉とともに鎖に命じた。
「……ぁ…………………」
 槍兵の白い手首……未だ鎖の跡も生々しいそこに再び絡まる天の鎖は、手首を足下へと引きずっていく。さらに、投げ出されていた両の足首や脛にも鎖はその手を伸ばす。

「いい格好ではないか、狗」

 右手首と右膝裏、左手首と左膝裏を天の鎖はそれぞれ戒めていた。
 足は充分に広げられ……まるで、槍兵自らが足を開いているようにも見える。更に、眼前の二人には雄を受け入れる秘部までをも晒す、あられもない体勢。
「………は、放せ………っ………っぁ………ぁあ、っ………!!」
 自分の背後で鎖を操る男を制しようと、必死に首を巡らすランサーだが、自分の身体を支える手によって快感を与えられてしまってはどうしようもない。
 胸の辺りを撫でられ、敏感になってしまっている突起を嬲られる。それどころか、耳元を愛撫していた金髪の男の口唇は、線を辿るようにして首筋にまで移動していた。

「………ぁ……………ん…………」

 喜悦を滲ませた声で啼く獣は、同時に身体を震わせる。
 ひく、とその動きに合わせて二人の男の目に晒されている秘肛から、先程注ぎ込まれた白濁が一筋、零れ落ちた。



 ―――もう、だめ、だ―――



 足下に落とした衣服を邪魔だとばかりに振り払うと、少年は寝台に駆ける。
 ふ、と笑むような声を漏らした神父も、ほう、と愉しげに眺める金髪の男も、視界どころか頭の中からキレイに消し去って。
「…………………………」
 形容しがたい感情を宿した、煌々と光る紅い瞳の男の元へと駆ける。
 そのまま、みし、と音を立てて寝台に上がりこむと、



「ぁ――――――…………」



 自らの雄を男の身体に突き挿れた。



>続く
>戻る



>裏・小説部屋へ戻る
>小説部屋へ戻る