15.


「ぁ……………は、っぁ…………」
 自分の腹に手をついて身体を支える男が漏らす、吐息という名の喘ぎ。
 触れる手の硬さからも解る。一人の男として完成された戦士のものなのに、そこからどこをどうしたらこんな艶かしい声が出てくるのだろうか………?
 ぼんやりとそんなコトを思いながら、士郎は自らの身体の上であられもない声をあげる槍騎士の姿をただ見つめていた。
きゅ、と眉根を寄せた端正な顔立ちも、何かに耐えるように震える睫毛が揺れるさまも、激しく上下する胸板も―――現実(リアル)なのにどこか虚実(ホロウ)。それを確かめたくて、

「……ランサー…………?」

 士郎は男の名を呼ぶ。すると、固く閉じられていた男の瞼が微かに持ち上がった。
 聖杯に与えられた仮初めの名であろうとも、それは男の名に他ならなかったから。

「………………………」

 その口唇は喘ぎを押し殺そうと閉じられたままに、それでも士郎の声に応えるようにランサーは口唇の端を持ち上げて笑みの形を作る。僅かに覗かせる紅い瞳に笑みの色を浮かべる。
 すると、ランサーの顔の動きにつられて額から伝う汗が、ぽつ、と士郎の腹に落ちた。

「………………………」

 快感を得てはいても、本来あるべき交わりではないこの形。
 その苦しさを、更に男を受け入れるという屈辱を自分の内側に隠して笑う彼が―――たまらなく愛おしいと思ってしまうのはいけないことだろうか………?
 どうしようもなく、ただもう一度名前を呼びたくなって口を開きかけた士郎だったが、


「ラ―――」
「これだけ、だろ……………」


 震える口唇から先んじて漏れ出てきたのは男の声だった。更に、
「今の、オマエが………オレにできる、こと、は…………」
 笑んだ顔のまま、男は苦しげな吐息とともに言葉を続ける。
「……………………」
 返す言葉など見つかるはずもない。

 どうすることもできない現実と、曲げることのできない心の中の聖域。

 互いが互いに両方とも抱え込む2人にとって、この肉の繋がりこそが唯一であり絶対のもの。―――最大限の歩み寄りなのだ。




 そんなことは、わかっていた。
 自らの中の『正義の味方』は、矛盾を抱えたままの存在であるということも。
 自のの中に「欲」がある以上、その欲はセイギノミカタであろうとする自身を喰らい尽くすだろうことも。

 それでも―――助けたいと思ってしまったのだ。

 だって、彼が自分をあっさりと肯定したのは、彼が自分と同じような生き方をしていると分かってしまったから。
 内側に抱えているものが明らかに違っていても、それに対して自らを擲(なげう)つのは彼も自分も変わりなかったから。

 彼が何を目的としているかなんて知らない。
 彼が自らの内に何を誓っているかなんて知らない。
 ………自分は彼のマスターではないのだから。

 けれど、これだけは断言できた。
 彼は―――衛宮士郎が抱える矛盾までも肯定しようしている。
 自らを犠牲にするでもなく、むしろ自分の益すら見出して。
 鮮やかな逆転劇のように。


 恐怖に近い予感はこれ。
 自らの身体で矛盾を抱く存在を受け入れるランサー………クーフーリンという男に対して、矛盾を抱えたままの衛宮士郎は抱かずにはいられない。
 羨望を、
 愛情を、
 畏敬を、
 嫉妬を、
 それだけにとどまらない、数々の感情を。
 そして、繋がってしまえばその感情は全て性欲という一つの枠に凝縮されてしまう。確かめきれない程の様々な感情を抱え、それを吐露したいという気分に駆られる。

 言葉として吐き出すことのできないそれを、吐き出す方法は一つ。
 それが―――繋がった箇所から紡がれる、果てない快楽(エピキュリア)。



 けれど、それだけでは収まらないと言わんばかりに、士郎は一度ゴクリと唾を飲み込むと、
「な…………!!」
 自分の腹に手をついていたランサーの腕を引き寄せ、その反動と腹筋を利用して身体を起こす。そして、
「……………………」
 支え手を失ったランサーの身体を抱きしめると、その胸に頬を寄せた。
「おい………………」
 急な士郎の行動に、ランサーは宙ぶらりんになった自らの腕を士郎の背に回すと、とんとんといなすように軽く叩く。士郎が一体何をしたいかもわからなかったし、自らの力で身体を支えるよりは楽になったとはいえ、急に動かれたおかげで自らの身体もいい具合に昂ぶってしまったのを気づかれるのが少しばかり恥ずかしかった。
 けれど、それを無視するかのようにランサーを抱きしめる士郎の腕は変わらない。それどころか、
「っ……………!!」
 士郎自身を受け入れるランサーの狭間にかかる肉を鷲掴みにすると、繋がった箇所を晒す様にゆさゆさと揺らす。あまりに急なその行為に、余裕なぞないランサーは士郎の背にしがみ付くと、喉の奥で必死に喘ぎを押し殺す。

「……………………」
「………っ………っっ…………ん、っっ…………!!」

 胸元に士郎の頭を抱きこむ形で、漏れ出る嬌声を押し止めるランサーだったが、
「んぁ…………ん、っ…………」
 腰を引き寄せられ、
「…………っ………ぁ、っっ…………」
 少年の雄を受け入れる秘部の淵を指で辿られ、
「……ぅ………んぅ、ん………っ…………」
 するり、と大腿を撫でられ、
「ひ、ぁ………ん………!!」
 屹立する自身に触れられては、どうしようもない。
 少年の背に爪を立てて快感をやり過ごそうとも、縋るように少年の頭を抱きこんでも、唾液とともに溢れる快楽を滲ませた声を止めることはできようもない。
 いつ果てるとも知れない快楽にがくがくと打ち震えながら、それでも士郎を受け止めるようにしてランサーはその身体に縋り続けた。



 顔は見えない。
 声も必死に押し殺している。
 けれど―――なんでこんなにこの男が欲しくて堪らないのだろう………?
 いつから―――自分はこの男に引き寄せられていたのだろう………?


 夜の校舎で、衛宮邸で殺されかけた時か?
 二度目の出会いの時か?
 公園で仔犬がらみのやり取りをした時か………?

 どれも思い当たるフシがあるのがおかしい。
 多分、心のどこかで何かがひっかかったのだろう。
 ―――この男もまた、その内側に抱えきれないほど大きなものを抱えているのだということに。


 犯される男を目にした時か?
 それでも屈しない男を目にした時か?
 ………男が最初に、自分を受け入れた時か………?

 どれも思い当たるフシがあるのがおかしい。
 ここで明確に気づかされたのだ。
 ―――衛宮士郎は自らの内に大きな矛盾を抱える存在なのだということに。


 つまりは、最初からだったのだ。 
 サーヴァントである彼と、マスターである自分―――それぞれ別々の主従の繋がりを持っていたというのに。
 あまりにも、似すぎていたから。
 似ていて、なのに決定的に違う一点があって。
 それが何だか知りたくて―――引き寄せられたキモチが、こんな形になった。


 ならば―――彼が望む「助け」とやらを、与えてやろうじゃないか。
 彼が望んでいることなのだから。「正義の味方」の成り損ないの自分ができる―――唯一のことなのだから。

 などと格好つけて言ってみたところで。

 ただ中に放たれる精が目的だろうと、それに含まれる魔力が目当てだろうと。
 背中に回した手は強く自分を抱き寄せ、喘ぎと吐息の隙間に声にならない快感を滲ませている。

 こんなにも全身で自分を欲しがってくる彼が、ただ―――愛おしい。




 そんな士郎の気持ちを伝えるかのように、突き上げてくる肉の楔の勢いは止まるところを知らない。その度ごとに大きくなっていく自らのはしたない声を、ランサー自身どうすることもできないでいた。もう受け止めることしかできない、と縋る手は一層の力がこもるばかり。
 揺らされるごとに、受け入れている箇所は尚も力強く少年を苛んでいく。

 早く、欲しい―――ただ、この少年が、与える、………………が、欲しい―――!!





 そうして、一際強く士郎が突き上げた瞬間、ランサーの秘部もまたそれを受け止めた。
 熱い迸りを互いに放ち―――ここに魔力補給という儀式は終了した。




 そう『正義の味方』に成るための、衛宮士郎の行為は―――終わりを告げたのだ




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った。