8.
にちゃ、と粘着質な音がすぐ近くから聞こえる。
他でもない、自分こそが発しているそのいやらしい音に、士郎の頭の中は次第に感覚を失いつつあった。
「……………っ………」
身体の中心を上下する手。
濡らついたその感触は、ただひたすら士郎を責め立てていく。けれど、士郎を追いつめていくのは慈悲を与える神父の手だけではない。
「あ………ぁ、っ…………ん、っ……っ…………!!」
淡い淡い紅をその白い肌に纏い、鎖に拘束される身体。
くぐもってはいても、喜悦を滲ませた喘ぎを漏らす声と、それにからみつく金属音。
手が届きそうなほど近くに在るそれがまた、士郎を追いつめて、追い立てていく。
ぎしぎしと軋む寝台に快感を受け止める身体を預け、男を受け入れる身体は、あまりにもリアル。
そう―――まるで。
自分こそが、彼の高貴な獣を犯しているかのよう。
自らの雄に掛けられた手が、先端から根元まで一気に動く。
すると、青い獣はびくんと身体を震わせる。まるで、その内に受け入れた肉の槍が悦い部分を刺し貫いたかのように。
自らの先端を軽く摘まれるように圧迫される。
すると、寝台の上では鎖が細やかな音を立てる。しゃらしゃらというその音は、無骨な拘束具としての鎖ではなく、貴婦人が身に付ける飾り鎖を振るうような涼やかな音色だ。それは、小刻みに震わせる白い身体に引きずられての音に他ならない。
「は………っ…………ぁ、ぁ…………」
初めての経験に、士郎は熱に浮かされるような声を上げ始めた。
他人の手で嬲られ、他人の性交を見せ付けられる。
しかも、その両方ともが男。
男の手で嬲られ、男同士の性交を見せ付けられる。
自分の気が狂ったのかと思わされるほど非現実なのに、音も感触も臭いもすべてが現実。そして、その現実は士郎を絶頂近くにまで導こうとしていた。
「ぁ…ん………っ………っん、んんっ…………んぁ、っっっっ……!!」
途切れ途切れだった男の喘ぎは、既に止まる事はない。言葉にならない声をただ上げ続け、自ら身体を揺らし、背を仰け反らす。
髪が揺れる。
鎖が揺れる。
耳飾りが揺れる。
もっと欲しい、と。
まだ足りない、と。
早く早く早く、と。
既に理性を失ったかのように、身体の全てで訴えている。そんな槍騎士の狂態に満足したのか、快感を与えていた金髪の男はランサーの引き締まった腰を掴むと、これ以上は入らないだろう自らの楔を深く深く穿つようにして、一層激しく動き始めた。
「あ………あ……………」
「……ようやく先が見えてきたか、衛宮士郎」
神父の大きな手は容赦なく快楽だけを士郎に与え続ける。
「あ……も、もぅ………、ぁぁ………っ…………」
「全く、最初から素直に受け取っておればよかろうに」
絶対的な王の威厳を込めた声で、金髪の男はランサーを犯し続ける。
重なる二つの声。
快感を与えられて、さらに快感を求めて発せられる声。
暗い闇に覆われた部屋でその音は、ただひたすらに淫らに響いている。
そして。
「あ……ぁぁ……っぁあ…………―――――――――!!」
青い獣の断末魔のような咆哮が響く。
快感に押し流され、最上まで上り詰めさせられ、感極まった叫びにも似た声。
瞬間、雷に打たれたかのように、神託を受け取った巫覡(ふげき)のように白い身体は硬直し、直後にがっくりと身体を寝台へと預けた。
なのに。
「…………………………」
身体の震えが止まらない。内に留まる熱も一向に引く気配を見せない。
どうして、と自らの足の間に視線を落としてみれば、
「……………………え…?」
士郎の雄芯は未だに力を失う事なく、天を衝くかのようにその威容を誇示していた。
「……衛宮の息子。お前は『正義の味方』になりたいのだろう……?
―――お前にとっての正義の味方だった、衛宮切嗣のように」
慈悲深き声。
けれど、その声の主は士郎から快感を取り上げた男に他ならない。
鈴口を塞ぎ、根元をきゅっと締め付ける手の持ち主に他ならない。
「ならば、与えてやれ『正義の味方』。
―――我らの穢れた精を拒みつくす、我らの穢れた魔力を受け付けない。あの、」
―――光の御子へ。
神父の言葉に、ただ士郎は眼前にある白い身体を見つめていた。
鎖で繋がれる男。
後ろから犯されていた男。
―――自らの愚かな誓いを、ただ黙って肯定した男を。
>続く
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